タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
(話の順番とサブタイトルは、後で修正しようと思います。)
(語り手(志野)視点、8/1火曜日午後、多賀島市内の登良川沿い)
公園から、川沿いに上流に伸びる遊歩道。
やっとみつけた公衆電話にテレカを入れ、僕はナンバーを打つ。
(懲りたから、カードは2枚持ちしてるよ。うん)
「はい、鷺沼健太「多賀島中央高の志野です」──おうっ?」
僕が電話を掛けた相手は、鷺沼記者。
ほら、あの文化祭のときに、僕たちのクラスに入ってきたよくわからんセクハラ議員をやり込めてくれた記者さんだ。
その後、その政治家の運営してた共済とかの財務状況の悪化を暴き、スクープをものにした。1回目の世界では大手紙がすっぱ抜いたが、今回は地方紙の記者さんである鷺沼さんがものにしたので、歴史が変わってるということになる。
「いったい、どうしたのかな?
僕もちょうど志野君と話したいと思ってたけど」
「鷺沼さん、ちょっと聞いてほしいっていうか、お願いしたい話があって。
今、いいですか?」
「何か、あったのかい?」
急に声が、真剣になる。
僕は、それほどたいしたことじゃないんだけどな、と思いながら、彼に頼みごとをする。かくかくしかじか。
筋の悪い話だ。十中八九、断られるだろう。
そう思ったのだが、鷺沼さんは、妙なところに噛みついてきた。
「あー、そっちの話は、文化部のやつに話してみようか。
ただ、その子が会ってたのは、親戚と、あの葉良先生だったんだね?
その話を、ちょっと詳しく聞かせてくれ。
その子の連絡先、持ってるかな?」
「はい。もしかすると取材するかもしれないけど、いいか?って聞きました」
「グッジョブだ!詳しく聞きたいね。──そっちに行っていいかな?ホテル」
「それと。もし自動車なら、ちょっとお願いしたいことが」
「ああ、ああ。いいとも」
苦笑している様子だったが、引き受けてくれた。
待ち合わせ場所を伝えて、電話を切る。相手が携帯電話だから、意外にテレカの度数が減ってしまった。でも、まだもう一枚ある。大丈夫大丈夫。
夏の昼下がり、いやもうすぐ夕方の日射しに熱された頬に、海からの風が涼しい。
僕は充実感を覚えながら、ホテルに彼女を送って別れてから、今までのことを思い出していた。
─────
─────
「あの、お客様。さっきご案内した女性の、お連れ様ですよね?」
「はいっ?」
そう、有明りなと名乗る小生意気コギャル風の女を、見送って。
(年齢は聞いてないけど、ロリ風な見かけによらず、たぶん僕とほぼ同年代のはずだ。)
しばらく彼女が出てくるのを待っていた僕が、帰ろうと踵を返し、歩きかけたとき。
ホテルから僕を追いかけてきたと思われるフロントの女性(コンシェルジュっていうのかな?)が、僕に声をかけてきた。
「いえ、お連れ様をお待ちなのかと思いまして。
良かったら、中でお待ちになりませんか?」
あー、僕がうじうじしてたからな。見かねて、親切にも声をかけてくれたんだ!
この当時、待ち合わせは結構難しい。携帯電話がまだ普及してない時代だからね。
僕はお礼を言いながら、コンシェルジュさんを見返す。
にっこりしてくれてる、上品そうな女の人だ。泣きぼくろがいい。気立てもいいんだろうな。
「はい、あー、でも」
別にあの小娘を待ちたいわけじゃない。というかあまり関わらない方がいいかもと思ってる。
どう断ろうか、と僕は思うが。
「いいんですよ?お外は暑いでしょうし」
なんとなく、僕はこういうのに弱いんだ。
断ったらがっかりしちゃうかも、とか、気を悪くしないかなー、とか。
親切な人の思いを、無下にしたくないっていうか。
この人の顔を立てつつ、それとなく流そうか?
でもまあ、気にならないわけではないんだ。ティーラウンジの外から、軽く様子をみてみようか。
あとこのホテル、1回目も2回目も入ったことないからなー。ちょっと見てみたい。
「たしか、あー、ティーラウンジに行ったんですよね?」
「はい、『カサブランカ』です。入って、左手の、あちらの廊下に入り口があります。」
ちょっと観念して、僕は彼女に勧められるままにホテルに入り(涼しい!)。
様子を見てくるということにして、教えてもらったティーラウンジへ進む。
実際に声をかけたりはしない。外からちらっとみて、上手くいってそうならそれでいいし、外からみえるところにいなかったら、そのまま帰ろう。2、3分で済むことだし。そう思ったんだ。
ところが。
「あのスーツケースのお客様のお連れさまですね。こちらにどうぞ。」
「あー、その、──?
そうなんですが。」
なんと。
きっと僕がのろくさと絨毯びきの廊下を歩く間に、フロントからティールームに内線電話が行っていたのだろう。
さっきご案内したお客様のお連れ様がいきます、とかなんとか。なんという親切というかお節介。
「連れではあるんですが、その、ただ、大丈夫だったかな?って。
様子を見たかっただけなんです。会わなくて大丈夫です。」
「そうですか。お連れさまは、個室にお入りになりました。」
大学生のバイトか、20台前半くらい?
ツインテールにして結構僕好みのむちむちした腕をした聡明そうなウェイトレスさんは、瞬時、考える様子。
「中庭からでしたら、様子が分かるかもしれません。
今は中庭は暑いので、今、あまりお客さんがたはいらっしゃいませんけど。」
なんというプライバシー侵害。
いやそれはさすがに、と辞退しようとしたのだが。
「お連れ様は、ちょっと怖そうなお客さまたちのお部屋に入られました。
しばらく呼ぶまで来るな、と言われています。
お連れさまも、怖がっていらっしゃいましたし。私どもも気になってました。
──そしてあの『フロントさん』が、お気になさってたので」
ウェイトレスのお姉さんが、ちょっと眉をひそめ、声をひそめて心配そうに伝えてきてくれる。
有明の親戚は、筋の悪そうな人に見えたようだ。
「フロントさん」って、あの親切そうなコンシェルジェか。有名人なのだろうか。
「──もし警察をお呼びするとか、お手伝いが必要でしたらお声掛けください。」
何か話が、大きくなりかけている。どうしよう。
「様子をみるだけです。それだけで、ほんとに大丈夫ですから。」
事態が燃え広がらないようにと願う、ことなかれ主義者の僕なのに。
ウェイトレスさんの、勧めに応じ。
中庭から、個室をちらっと見てみる、ということにされてしまった。
──────
そうはいっても、じかじかのぞき込んだりはもちろんできない。
なんなら部屋の中は見ずに通りすぎるだけにして、ウェイトレスさんの顔を立てて無難に帰ろうか。
そう、僕は思っていたのだが。
中庭は中々の広さ。植え込みの間に、いくつかテーブルが散在している。
このホテルの建物、「く」みたい(実際はもっと浅い。「〈 」くらい)に、川沿いの緑地に対して屏風が開いたような形で面してる。
その「く」の三角形部分が芝生と植え込みのある中庭になってるんだ。
さすがに真ん中付近の芝生の、日当たりのいい(≒暑い)付近のテーブル席は、着くにしても不自然だろう(結婚式とかで使うのかな、この中央芝生は)。
その有明たちのいるとされる個室にほど近いあたりを通ったとき、偶然、カーテンのすきまから、中が一瞬だけ見えた。
太めの男のかがんだ背中、その向こうに立っている、こわばった笑顔の有明。
何がどうなっている状況なのか、パッと見ではわからなかった。
意識して、超感覚さんを呼びさましてみる。
(ちなみに日蔭谷での紫藤とのイチャコラ暴発ニアミス事件を最近ネタに使ってる。
興奮度が高いせいか、なんだなんだ、とフルスペックで超感覚さんが即時発動する)。
明後日の方向に顔を向けながら、近くのテーブルの席につき。
目の隅で斜めの角度から部屋を凝視し、超感覚さんの補助を得て状況を掴もうとしてみると、──何だ、これ?
有明は部屋の中で立たされてて、しかも背中側に両腕を回してる。拘束されてる?
太めの男が、彼女のすぐ手前でソファに座ってる。
背中をみせてソファから体を折って有明の腰のあたりに頭を寄せてる。いや、寄せてるなんてもんじゃない。有明のスカートの中に頭をつっこんでる?
もしかすると下着を下げて、有明のあそこを見てるか、舐めてる?
必死で観察を続けていると、歩み寄る足音。
さっきのウェイトレスさんが、お茶を持ってきてくれた。
驚いて顔を見上げると「サービスです」と言って微笑んでくれる。
まあ、何かカモフラージュしないと不審だよね。ウェイターとかのバイト仲間たち(?)も事情は分かっているらしく、こっちを見てにこにこしてる。
心づくしのストレートティーをいただきながら、観察を続ける。
太めの男が頭を上げて、テーブルの向かい側に顔を向けた。
(有明は、向かい合った長椅子のソファ席+コーヒーテーブルの席の、端の方にこっちを向いて立たされてる。
太めの男は、それに近い長椅子の端に寄り、座ったまま、有明に向かって、何かしていた。)
テーブルの向かい側の席に座ったもう一人の客に、太めの男が何か言われたようだ。
その横顔を見て、気づいた。
この太めの男、あいつだ、紫藤にイタズラしようとしてた蛙に似た男だ!
そして蛙男に呼びかけた、向かいの客。
少し油っ気の抜けかけた、赤ら顔でエネルギッシュだったであろう爺さん。
これも、見覚えがある!元議員の、
あの、僕たちの文化祭に来てセクハラパワハラしまくってた爺さんだ。
あいつらが、有明の親族なのか?
見えたのがこいつらだけだったら、ちょっと釈然としないながらも僕はそのまま帰ってたと思う。
だが、その時に有明の後ろの男に気がついた。
背は高くないが、横ががっしりしたサングラス、短髪パーマ男。
見るからに堅気じゃない。ウェイトレスさんが警戒したのは、この男を見たからだな。
男は、ちょっとうんざりしたように短いパーマの頭を横に向けてる。
部屋の外を警戒しているが、紗のカーテンに日がかかっていて、男からは木陰にいる僕の姿が見えづらいようだ。
僕?超感覚さんを使った
このサングラス男が、今まで有明を拘束していたようだ。
有明は、この男を怖がってる。
今、有明が老人の指示を受けて、その場で一回転した。ふわあっと、少し短めのワンピースのスカートの裾がふくらむ。蛙男がまた前かがみになる。
また爺さんの指示を受けて、サングラス男が有明を客2人からみて横向きに方向転換させ。
背中に回した有明の腕を、ぐいっと宙に引き上げて何かを促してる。
それに応じて有明が、腰をくいっと反らして突き出した姿勢をとる。いわゆる立ちバックみたいな恰好。
爺さんと蛙男がほうほう、と有明の体の起伏の線をみてる。蛙男の食いつきがひどい。また身をかがめてねじり、有明のワンピースの裾、後方から中を覗きみようとしてる、っていうか見えてるな、あれは。
これに対して爺さん(葉良益三元議員)は、どうやら
視線は、胸のあたりに固定されてる。
有明は、お尻をつきだすように腰を折って頭を下にさげ、ただ腕はサングラス男につかまれて引上げられてる。大げさにいえば「N」みたいな姿勢をとらされてる(縦の棒が、足と腕、それぞれね)、
爺さんも、蛙男と同様、ソファの有明に近い方に移って、その胸をチェックしてる。
下から掌をあてがって、上下に軽くたゆんたゆんさせてる。
(ちなみに、紫藤といい勝負な幼げで華奢な外見の有明だが、胸は紫藤よりすこしあるようだ)
そして、どうやら先端をつまんだ。いや、軽くつまんだっていうもんじゃなさそうだ、かなりの力を込めて、ねじるように腕を引く。
有明は、──困ったような、痛みをこらえるような顔になり、ねじられた方向に体をよじる。爺さんは、次に彼女の顔の表情の変化を間近に観察しながら、下からわしづかみにしてるな。あ、意外に大きい?
サングラスに何か言われたのか、がははは、と爺さんが笑う声がかすかに聞こえる。たしなめられたかどうかしたんだろう、有明の胸から手を離す。
有明は、普通に立つことを許された。
すごいな、さすが元天才子役だ。清純そうな顔に恥ずかしそうな微笑みを浮かべてるが、──。
──○○○だから、◇◇□で。それで、──。
距離もあるしガラス戸も閉まってる。超感覚さんを総動員しても、聞きとるのは難しい。
やがて葉良元議員、蛙男とサングラス男が立ち上がる。
潮時かもしれないな。そう思って僕も軽く腰を浮かそうとするが。
有明は、部屋を出る様子がない。
蛙男たちを追うか、有明に付くか?僕は一瞬迷った。
迷う間にも、蛙男たちは出て行ってしまう。
残された有明が、いかにもくたくたな様子で(やっぱり気を張ってたんだ)、ソファに倒れ込むのがみえた。
本人に聞いてみないと、わからないことだが。
まず、有明はセクハラされてたし、あの表情からみて嫌は嫌なのかもと思うんだが、──ただ、拒否する様子はなかった。
後ろ手に拘束されてたみたいだったが、当人同士の高度なプレイの一環かもしれないし。
本人は納得してる様子でもある。だったら、他人がどうこう言う筋合いはない。
僕がしゃしゃり出て、鼻を突っ込むのはお門違いだろうな。
それに、だいたい。
僕が「やあ、見てたよ」なんて言ったら、彼女の顔を潰すことにならないか?
あ、さっきのウェイトレスさんが来た。お茶を替えてあげてる。
幸せそうな顔で、彼女のためにもともとオーダーされていたらしいショートケーキを口に運ぶ有明。
ああいう幸せは、守ってあげなきゃいけないよな。でも僕がそれをやる必要はない。
結局、僕はケーキをぱくつく有明の様子をみていたものの。
心があまり決まらないまま、腰を上げ。
あのウェイトレスさんに、お礼を言い。
「心配だから様子を見に来たけど、本人には言わないでほしい」と伝えて、店を出た。
──────
そのまま帰るつもりだった。いや、歩き疲れたしさ。
ホテルは登良川の近くにある。ワンブロックで川沿いの公園につく。
ちょっとだけ立ち寄っていこうかな、と僕は思った。
僕の家は、多賀島郊外の台地の上の団地にある。
川沿いの道を上がって行って、途中から外れていけばいい。川沿いの道は車が通らないから楽だ。
あの部長さんとデート(?)した、あの道でもある。それに気づいて、ずきっと胸がうずいた。
頭を振って、暗くなりかけた思いを打ち払う。疲れたのかな、ちょっとだけ公園で休もう。
しばらく岸辺から川に石を投げて水切りしていると、暗い思いはだんだん薄れていった。
その代わりに、別の、妙なことが気になり始めた。
そう。彼女、有明りなの親戚について。
彼女はたしか、言ってた。親戚には頼れない。変態の叔父以外は関わり合いを持とうとしない、と。
そして言ってた。彼女は未成年のため、書類にハンコが必要なときに親戚に押してもらってる、と。
結びつけると、だよ。
彼女はおそらく、あの蛙男の姪だという驚愕の事実が浮かびあがるのだ!
どうみても、親戚にはみえない。外見はまさしく月とすっぽんだ。
しかし、ホームズも言ってた。「
たしかになー!頼りたくないよな。あんな変態男あるいはパワハラ男。
僕は深く、彼女に同情した。
きっとハンコを押してもらったりするたびに、こうして会って、セクハラとかを受けたりしないといけないんだろう。
お金をもらってて、それで逆らえないのかもな。
ん?蛙男だけじゃなく、葉良議員も彼女の親族かもしれない、って?
いや、それはないんだ。話聞いてなかったな、君(指を振る)。
葉良議員、蛙男の両方が有明の親戚だとしたら、さ。
「この地での頼れる親戚がいない」とかいってた、彼女の言葉と矛盾するんだ。
とすると、どちらか一方だけだろう。
そして葉良議員は地元の人間で親戚は多い。全員、頼れないってことはないだろう。
とすると、消去法で、蛙男が彼女の親戚なんだ。Q.E.D.
親戚でない葉良のじいさんが便乗して同席しているのがよくわからないが、おそらく蛙男とは変態同士、お友だちなのだろう。
そう考えているうちに、ふつふつと、僕のお腹には。
怒りというか、やりきれなさで熱いなにかが発生してきていた。
あの、蛙男の野郎の罪を列挙すると、だね。
まず、紫藤に手出ししやがった。──まあ、それはあきらめた(んだよな)から、いいとして。
たしか、調布にも手を出そうとしたよな?裏は取れてないが、間違いない。あの蛙男だ。
──まあこれも、そのおかげで僕がいい思いをしたから結果オーライではあるんだが。
それにあきたらず、こんどはあの有川りなとかいう子役崩れにちょっかい出して、いろいろとお楽しみになろうとしてるわけだ。
この僕は、まだ第2回目は準童貞。紫藤とも、まだヤれてないというのに!
温厚な僕は、ひとまずその怒りを脇において。
あの蛙男の姪であると判明した有明に、何かできないか考えてみる。
──何も思いつかないな。
蛙男、そして葉良老人にはムカつくものもあるが、僕がどうこうできることでもなさそうだった。
僕はどこかもやもやする思いを水面に弾む石に託して、水切りをつづけた。
──────
そのまま何もなければ、僕は何もせず、この話はこれでおしまいだったかもしれない。
だけど僕が川岸から公園に戻って、銅像の前に佇む、スーツケースを横に置いた細い背中をみたときに。
思わず声をかけてしまったのは、そうしたもやもやのせいだったのだろう。
後ろからみた有明の姿は、ひどく幼くて頼りなく。
なんかしてやりたい、と僕におせっかいな思いを抱かせてしまったんだ。
「ん?読めないわね。これは、──一意、でんしん?」
どうやら、銅像の台座の文字を見ているようだ。
「一意專心」か。「專」の字がまた、うにょっとした行書体で読みにくいんだ。
「一意専心。ココロの前の字は、旧字だな。」
声をかけると、彼女がぱっと振り向いた。
「あら、いたの!
いいえ、ごめん、待っててくれたんだ?
そうそう、お礼ね!」
いきなり別れたはずの僕が現れたことに不審の念も抱かず、明るい声を有明はあげた。
屈託のない、喜びの表情にみえる。
しかしな、こいつがあいつらにセクハラされて体をよじってたのを僕は見てるんだ。
なんだか痛々しいものを、僕は勝手に感じてしまう。
「それは、いいんだ。──その。ちゃんと話できたかな、と思って」
僕は念のため、彼女を待ちぶせしたり追跡してきたりしたわけじゃないんだ、と予防線を張る。
(気をつけないと、モテる人たちとはちがって、僕はそういう嫌疑をかけられちゃうタイプなんだ。)
だが彼女は、そこらへんは特に拘泥するつもりはないようだ。
「上手くいったわ。あなたのおかげね、ありがとう!」
さすがは元天才子役だな。影のない笑顔。
だけど、この同じ顔が、葉良の爺さんに胸の先端をひねりつぶされたときに、痛みで歪んだのを僕は知ってる。
「だから。前金も、もう貰えたの!
良かったら、──」
彼女は無邪気に、僕に礼を渡そうとする。もちろん拒否する。
だいたい、親戚からのお小遣いをビジネスみたいに「前金」なんて呼ぶなよ。
「いや、お金はいいんだ。ただ、──そうだ、有明。取材を受けてみないか?」
彼女が叔父にセクハラを受けてるということを、僕は知ってる。
でも、彼女のプライドをつぶしてみじめな思いを味あわせたくない。
だから、彼女が何をされてたかなんて、僕は知らない風を装った。
目のすみで、彼女の体を確認する。うん、ほっそりしてて幼いな。でも、胸は意外にある、と。
気がつくと、彼女も僕のことを真剣な顔でじっと見つめている。
あー、僕が何を言い出すのか、聞き入ってるのか。
上手くいくか、まったく保証のかぎりでない単なる思い付きを僕は口にした。
「有明は、元子役だよな?しかも、それなりに有名な?
よかったら、さ。こっちの地元紙の取材とかインタビューとか受けてみないか?」
有明は、たしかに東京の芸能界では所払いになったんだろう。
だけど、さ。こっちでは芽があるんじゃないだろうか、と思ったんだ。
僕はもちろん、そんな伝手はない。
だけど、さ。サギヌマさん。ほら、あの葉良議員に言い返してくれた記者さんを、知ってる。
鷺沼さんは事件記者だから、守備範囲外かもしれない。だけど、それ担当の記者とか知人につないでくれないかな?
あわよくば、地元テレビ局の人とか。
彼女、改めてこうみても、美少女は美少女で、オーラもあるんだ。相当ロリッちいけど。
レポーターとかの仕事。あるいは、グラビアモデルとかの仕事。あー、それにこの子なら小中学生向けの衣料品のモデルとかもできるだろう。ダメかな?
彼女は、真剣に聞き入ってるようだ。おしゃべりなこの子にしては、じっと沈黙を続けている。
顔をみてみると、軽く眉を寄せている。気が進まないのかな?
「ほら、もちろん上手くいくかわからない。これから連絡とってみるけど、過大な期待もしないほうがいい。
だけどさ、有明も美人だし、演技とかテレビ映りは慣れてるだろ?」
ちらっとまた顔を見る。
少し、顔が赤い。見え見えのお世辞に、怒ったのか?
まずかったかな、と思い息を飲むが。
「わかったわ。サービスしてあげる!
ただ、今ここで、と言われても困るんだけど」
有明は、もじもじしながら取材OKしてくれた。
あー、あまり期待されても困るしな。すぐ取材を取り付けられるかどうかすらわからない。
でも、少なくとも鷺沼さんに聞くだけきいてみよう。筋悪いけど、貸しもあるから協力してくれないだろうか。
「あー、そりゃそうだよ。
あらためて、連絡するよ。会ってほしい人がいるんだ。
連絡先、もらってもいいかな?」
「あー、まー、いいけど。すぐは返せないかも。ほら私、忙しいし。
ベル番、教えとくね。カタカナ表示できるから、ベル打ちしてね?」
──彼女は、OKしてくれた。ただ、あまり期待はしてなさそうかな?
仕事に未練があれば、もっとくらいついてくるかと思ったけど、そんな様子がみられない。
まあ、いい。僕の余計なお節介だ。
「ごめん。僕は携帯電話もポケベルも持ってないんだ。でも、家の電話なら。」
家の電話を教える。だけど、やっぱり携帯電話、だめならPHSが欲しいな。
「ありがとう。覚えとくね。大丈夫、覚えるのは得意。」
彼女はメモはとらなかったが、正確に電話番号を復唱してくれる。
安心。
「じゃあ、頼んだ。またすぐ、連絡するよ。」
ほっとして、別れを告げる。
彼女は、意外にもくいついてきた。
「よかったら、ときどき話、させてよ。
時間あったら、こんど掛ける。貴方も、別に送ってくれていい。
すぐ返せるかどうかは、わからないけど」
やっぱりな、心細いんだろうな。
でもな。なんだか紫藤たちに紹介しない方がいい気がする。よくわからないけど、僕の第六感が警告を発してる。絶対知られちゃいけない、って。
ともかく、これで用は終わった。
あれ。黒塗りの外車が公園横の道に入ってこようとして来てる。
それを見た有明の顔が少し沈んだ。お迎えかな?
あの蛙男、金だけはあったしな。
「迎えが来ちゃった。ごめん。
じゃあね。絶対よ、絶対。連絡して」
「うん。それじゃ。」
僕は控えめに手を振り、その場を離れた。
その後、鷺沼さんに連絡したのは、前述のとおりだ。
彼が食いついてきたのは、意外だったけど、彼はどうやら僕と全然違うところに気がついたらしいんだ。
彼の気づき、そして有明りなへの接触が新たな事態の引き金をひくことになるなんて、このときの僕はまだ知る由もなかったのだった。