※この作品はR-18です。

タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。   作:Marchhatter

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 志野視点です。


244 少し汚れて、でも染まらないまま(10)

 

「ふーん、またみたのね、例の夢?

 ──あれも、夢なんでしょうけど」

 

 下校の時刻。うちの高校は部活等で残れても、6時半まで。

 ただ、夏なのでまだまだ明るい(この時期、日没は、午後7時すぎくらいなんだ)。

 僕は自転車を押し、調布と歩きながら、さっき僕がうたたねでみた夢のことを伝えてみた。

 仮部室でうとうとしてるときになぜか高い確率でみる、妙な人物(?)との会話みたいな夢。

 

「それで、今度は何を言われたのかしら。

 相変わらず、よくわからなかった?」

 

 そのとおり!

 なんだかいっぱい、言われたんだけどなー。

 嗅覚がどうのって話されたんだけど、何の意味があるかわからなかったよ。

 

「まあ、夢ってそういうものよね。

 ただ、夢といえば。

 昼休みにも話したけど、あたしたちが昨日みた夢、すごかったわよ。

 あれは、もう夢じゃない。いや、本当は夢なんでしょうけどね、もちろん。

 でもあれは、『もう一つの現実』って感じね。」

 

 昼休みでは、細かい話まではする時間がなかったが。

 調布は目的地に歩きながら、彼女たち3人が共有した夢の詳細を、彼女の実感込みで僕に話してくれる。ふむふむ。

 巨虫のうごめく、昭和初期くらい(つまり、紫藤母の子供時代とかだな)の田舎の村を舞台にした、伝奇ロマンの物語の中みたいな世界観なんだな。

 虫が敵キャラで現れてきてるとか、まあ紫藤母の原体験みたいなのが反映してるんだろう。

 心理学的に分析できたりするのかな。本当に人間のみている夢の中に入れるのなら、ちょっと興味がある。

(ただし、このときの僕はまだ半信半疑っていうより、やや否定的で、調布の顔を潰さないよう反論・否定しなかっただけだった。──だって『夢に入り込む』なんて、科学的にみて変じゃん。)

 

「それでね、検証したいことの一つが、向こうでダメージを受けたときのことで、──」

 

「もしかすると僕に、ダメージ要員になってくれって?」

 

「まさか!それくらい、あたしがやるわよ。

 ただ、あの夢を攻略するなら。あなたの助けが必要な気がするの。

 あれもこれもと忙しいと思うけど、お願い。」

 

 ──お昼に部室でも言ったけど、対価は払うつもりよ?

 

 周りを軽く見回し、注目されていないのを確認し。

 調布が、身を寄せてきて僕にそうささやいた。

 彼女の心地よい弾力のあるふくらみが、自転車を押す僕の腕に押し当てられ。

 おそらくは彼女の使ってる制汗剤か何かの匂い、シトラスみたいな爽やかな匂いが、僕の欲望を刺激する。

 

「あ、ああ。もちろん、いいさ」

 

 僕は急に、どきどきしはじめた。

 だってさ。あの、仮部室でみた夢(?)で、謎人物と交わした意味不明なやりとりの意味が、急に分かった気がしてきたからだ。

 僕は、めずらしく甘えるように見上げる調布の意味深な目に、確信を高める。

 要は、調布は僕が紫藤母の潜夢(ダイブ)に協力してくれたら、彼女の体で僕に奉仕してくれるということをほのめかしているわけで、──。

 それに、今週末。そういえば僕、調布とデート(?)の約束があったよな、──

 

 ほら、江戸時代の遊郭では、相手してくれる遊女のことを「敵娼(あいかた)」って言ってたよね。

 そうすると、あの謎人物は、僕の「敵」つまり「敵娼」である調布は匂いに弱い、と言ってたことになる。

 つまり、いい匂いを僕がさせてたら、調布は僕にデロデロになるってことじゃないだろうか。

 これはもう、だね。ア○ミスとかダ○ヒルとか、かっこよさげな香水をつけるしかない。

 そして調布をトロトロにして、美味しくいただいてやるんだ。

 それに、最後の最後に、あの謎人物が言ってた言葉のことも思い出す。

 「──を──しておいたほうが、いいでしょうね」とかって。

 やっぱり、「コ○ドームを、用意しておいたほうが、いいでしょうね」かな? いや、ちょっと違ったような気もするけど、──。

 ただ調布とヤるのなら、もちろん必要だよね。あー、もちろん紫藤とも。

 僕はそれとなく、道端に薬局がないか。

 そしてそこに「明るい家族計画」の自販機がないか目を走らせはじめるのだった。

 

 ──────

 

 僕と調布は、街の中心部から少しはずれた、多賀島大学キャンパスの近くの喫茶店に歩きつく。

 ちなみに薬局も、オレンジの象のキャラの横に自販機もあったけど。

 小心な僕は、さすがに調布の目の前で買うほどの度胸はなかった。

 

「志野。ごめん、こんなことまで。」

 

 しおらしく調布が言う。今更だよ、大丈夫大丈夫。なんならPCをもう一台強請ってみるよ。

 

 ご予約を承ってます、と言われて通された個室に入ると、先客が立ち上がって深々と腰を折って頭を下げていた。

 まるで○くざの親分を迎える、忠実な子分衆のように。

 

「よろしくお願いしますっ」

 

 そう、彼は直立不動で頭をさげたまま、体育会系的なあいさつをしてくる。ビビる僕。

 

「あー、こんにちは?」

 

 あれ、僕はきっと目の敵にされると思ってたんだけどなー。

 顔を上げた彼は、やっぱり二枚目。だけど、あのふてぶてしい、ワルぶったところがきれいに落ちていて。

 妙に清々しい、憑き物が落ちたような表情をしている。

 

 そう、この彼は、彼女の元彼(モトカレ)の医学生。

 調布を誘拐してどうこうしようとしてたところを、僕が本当の偶然で救い出したことがあった。

 そのときは、もちろん敵対してた。なんならどさくさにまぎれて、彼の最新PCを取り上げちゃったりしたんだけどなー。

 だから、今回顔を合わせると、すごい敵愾心をぶつけられると思ってたんだけど、──

 

「本っ当に、その節は申し訳ありませんでしたっ」

 

「ああ、心を入れ替えてるみたいだね。わかってるよ」

 

 いや、本当は分かってないんだけどな。

 つい彼のロールプレイ(?)に乗せられて、そんなことを言ってしまう。

 

「はい。俺が関与して知ってる方については、ほぼ解決が図れました。

 幸いにも、──」

 

 なにか怒涛の勢いで報告をしはじめようとした彼を、幸いにも調布が止めてくれる。

 

「ねえ、松浦さん。その細かいところはあたしも教えてもらったことを、彼にちゃんと伝えます。

 たしか期末で忙しいのよね、だからこれまでのことはごく簡単に。これからのことを中心に、お願いします。」

 

「はいっ」

 

 彼は、腕時計(なんだか高そうなやつだ)をちらり、とみて。

 なぜか妙な尊敬をこめた態度と口ぶりで、僕たち(というか僕)に、報告する。熱のこもった視線は、僕に釘付け。なんだか狂信的、っていうか──。

 

 彼は彼の過去の行いを反省し、調布やその仲間(?)とも連絡して、救出を進めてきているそうだ。

(要は彼が過去にホストみたいなことをして女の人をだまくらかし、嵌めたことがあり、その精算を進めてるってことらしい。)

 

 ただ、その最後の一人。これが、かなりよろしくない素性の組織に囲われている。

 その救出の糸口を求めて、調布が彼にコンタクトした。

 彼も、もちろんひと肌脱ぐつもりだ、と主張するが。

 

「ねえ、松浦先生。──じゃなくて、松浦さん。

 あなたには、これから先もお願いしたいこともでてくると思います。

 今、この段階であたしたちとつながりがあるって組織に知られたら、あなたのコネ、使えなくなってしまいますよね。

 だから、今回は情報だけ教えてくれれば。あとは、あたしと彼とでやってみる。」

 

「そうだな、君たちなら、きっとできる、──ます。」

 

 松浦氏と調布。かつての彼氏彼女、誘拐犯と被害者。

 だが意外にも彼と調布は、関係の修復自体はできてるみたいだ。

 もっとも元彼女元彼氏の関係としては、ぎこちなく、やや離れ気味。復縁する感じではない。

 僕はすこし複雑な思いを抱くが、焼けぼっくいに火が点く心配はないようだ。

 

 松浦氏が、僕たちに説明してくれたところによると。

 救出対象は、裏で地下興行を主催する団体に囲われている。

 この団体には、彼は間接的にしかコネがない。金で交渉してみたものの、取り付く島がない。

 額の問題ではなさそうで、解放を交渉できるだけのなんらかの持ちネタ(リソース)が十分でないのだろう。

 しかし、この団体の地下興行にもぐりこむだけのコネなら、まだある。

 

 そこで危険ではあるが、調布は僕と潜り込み、状況を偵察しようと考えているわけだ。

 なんとなく、僕の頭には。

 あの国領を捜索しようとしていたときに、かいまみた未来の断片がよぎる。

 ワンショルダー、スカートの片側にだけ深いスリットが入り、白い脚をちらつかせる挑発的な青いドレスをまとった彼女。

 そして、その横で黒っぽいスーツを着て、ベネチアンマスクっていうんだっけ、目から上だけを隠す仮面を付けてた僕。

 

「なあ、もぐりこむのは、いきなり今日か?それだと、変装が必要じゃないか?」

 

 学生服を着てるだけの僕は、制服のままの調布をみやる。

 あー、あと遅くなるかも、って言わないとな。

 

「ええ、でも今日はただの偵察。入って、潜入の手筈を確認して、すぐ帰る程度でいい。

 着替えについては、あたし、一応持ってきたんだけど。

 ねえ、あなたのサイズ、『L』で大丈夫かしら?」

 

「大丈夫だ。」

 

 本当はLLなのかな。でも、まあ大丈夫だ。

 調布の父のものだというが、かなり背が高く、僕と同じくらいあるらしい。じゃあ、まあ大丈夫だろう。

 

 ──────

 

 調布の用事があるってのは事前に分かってたので、今日もちょっと遅くなるというのは言ってあったが、そんなに遅くなるとまで思ってなかった。だからその旨を伝えるため家に電話したが、母の機嫌は、ビビるほど悪い。

 あー、昨日のバイクの話もあったからな。ちょっと別の形で、信用回復を図らなきゃ。

 

 松浦氏は僕たちのことが心配だったみたいだが、彼も忙しい身の上。早めに帰ってもらうことにする。

 勘定を清算してくれたのは申し訳ないが、どうも彼の実家はそれなりの富豪らしい。ここは甘えておくか。

 ちなみにPCは強請りそこねた。いや、あんなに友好的だったら、さ。良心がとがめるよ。さすがに僕も。

 

 僕と調布は、教えてくれた場末の色街に向かう。もう7時すぎだから時間の節約のため、僕と調布は自転車の二人乗りで街を走る。自転車の泥除けには高校のステッカーが貼ってあるから、本当はちょっとまずいんだけどね。

 

 アステロイドプラザという、目的地にほど近い商業ビルのトイレで僕たちは服を着替える。自転車も、その近くの公園に停める。

 ──ごく最近、僕がESSの先輩に手ひどく(ってほどでもないけどさ)突き放された場所でもある。ずきっと、心臓が痛んだ。

 

 調布が僕に用意してくれていたのは、ちょっとカッコ良さげなチャコールグレーのジャケットとブルーのシャツ。スラックスは制服の黒いのそのままだけど、まあバレない。

 グレー無地のボウタイをつける(そもそも掴まれにくいけど、掴まれてもボタン式なので外れてくれる)。

 馬子にも衣装ってやつだろう、いつも辛口の調布だけどかっこいいと褒めてくれる。

 調布は靴のサイズが分からないので途中で買うつもりだったらしいけど、幸いにも人に会うってのは覚えてたので、この日はクラリーノの黒いプレーントゥのシューズを履いてきていた。これで十分。

 変装というには心もとないけど、整髪料で髪を気障っぽくまとめ、これも調布が用意してくれたサングラスをかける。

 

 調布が自分が着るために用意してきていたのは、──ブルーのワンショルダードレス。あの未来の断片でみたのと、同じ。

 アシンメトリーのデザイン、細く締まった腰近くまで切れ込む深いスリットから、ひどく魅力的な健康的な太腿がちらちら覗く。力強そうな、白い背中も広く腰まで露出。

 靴は履き替えて、──定石ならハイヒールだろうけど、ヒール低めの、ストラップのパンプス。

(この靴は、あのときの未来の断片と違った。だから、あの未来のシーンが起きるのは、今日じゃない。)

 ドレスをまとい、髪を整えてアクセサリをつけた調布からは、オーラが発しているようにさえ思える。最上級のアクセサリを付けてる感じっていうんだろうか、僕自身までイケてみえてるような、自尊心がみたされて心がふくらむようなうわずった感覚を覚える。

 ちなみに調布はかなり恥ずかしがっていて、この魅惑的なドレス姿をトレンチコート風のサマーコートで覆い、僕と同様、濃い色のサングラスをかけてる。

 残念だけど、たしかに街中を歩くには挑発的すぎるかもしれない。

 ふたりとも、鞄はロッカーに預ける。万が一のことを考えて、別々のロッカーに。

 

 教えられた、日暮れの裏道をたどる。僕が昨日、有明を送るときに分け入ったあたりにほど近い。

 たどりついた、宮殿風っていうのかロココ風っていうのか、ごてごてした装飾過多の建物。

 正面にブチ抜きで、すごく大きく、斜め(右肩あがり)に、「Assemblé(アッサンブレ)」のネオンサイン。

 ギリシャ彫刻風の彫像が、左右に並んでいる。バブリー。

 

 入り口で黒服に声をかけて、案内を頼む。

 この店自体は、まっとうな(?)ショークラブだ。ただ、地下クラブへのつなぎがつけられる、と例の調布の元カレに聞いている。

 その条件が、なんだかいかにも秘密めいているらしく、──。

 

「7時50分から開場、8時10分開演なのですが。

 待ち時間、8時までの間、ジュニアステージの方もご覧いただけます。」

 

 ほうほう。

 時計をちらっとみる。

 まだ練習生の人たちのステージがあり、それだけでも観ることができる。

 本ステージを観る場合は、その料金に含まれてる(追加料金なし)。お得だ。

 

「ものは試しね。観てみましょうか?」

 

「ああ」

 

 調布と僕は、練習生のステージに案内される。

 箱(ステージ)は複数、あるらしいが、その一つを無作為に選んだ。

 

 ──────

 

 さほど大きくない、学校の教室とそれほど変わらない広さの客席。ただ、ステージは近めで臨場感はある。

 本番と違って、悪く言えば学芸会に近い構成というのだろうか、演目を順番に並べているだけで、あまり連続性がない。

 多くは練習生が演じているという。さすがにまだすこし芸が荒かったりもするし、素朴な練習着の子もいる。

 しかしかえって初々しいからだろうか、これ目あてで通ってるファンもいるようだ。

 好々爺にみえるおじいさんが、孫娘をみるような穏やかな目で、ややあぶなっかしい手つきながらも奇術を披露した、魔女風の黒づくめミニスカ娘に拍手を送っている。

 かと思うと、ちょっと挙動不審な痩せた男子大学生みたいな男が、瞳孔をひらいてじいっと気になるらしいダンサーに据えていたりもする。

 意外だけど、女性も結構多い。職場の仲間たちと来ているのだろうか、OLさんの一団が、さざめきながら舞台をみていたりする(常連らしいこの人たちの会話から、この場がどんなものかなんとなくわかってきた)。

 おそらく安いから、気軽に来れたりするのだろう。

 

 ちなみにクラブに入場する際、チップを買うことができ。

 1ゴールド100円のレートで、独自通貨みたいなものをわたされる。

 この後のつなぎをつけるときに必要だと聞かされた僕たちは、これを200ゴールドほど買い入れている(なかなかの出費で、調布は出そうとしたが、僕が自分の財布から出した)。

 これを、このジュニアの演目でもお気に入りに渡したりできるようだ。

 人気投票システムみたいなのがあるらしく、好きな演目にマルをつけて一言コメントをつけて投票箱に入れることもできる。

 さっきのおじいさんも、おそらくはあの女性奇術師にわたすのだろう、近くの黒服にゴールド紙幣の束を渡して言伝てていた。

 

「意外に良心的っていうか、健全ね」

 

「まあ、ここ自体はまともなんだろう。

 あくまで『裏』につなぎをつけられる、ってだけで」

 

 舞台では、ソロでの演技が続いている。ちょっと未熟な子も、もう本ステージも行けそうな子も混じっているようだ。

(僕自身は、まったく善し悪しを見分けるほどの眼がない。だから、けっこう通っているらしい、近くの常連らしいOLさんの会話を聞いてそうわかっただけだ。)

 

 ふと客席の会話が静まった気がする。客が何かに関心を奪われたのだ。

 見上げると、すらりと優美な姿のダンサーが、パフォーマンスを見せているが、──。

 

「──あれ、すごい」「流しのプロかしら」「でも、ほら、歳が」

 

 そんなOLさんの会話が、耳に入る。

 桜色のふんわりした絹地の幻想的な、アラビアンダンサーの衣装。

 下半身はふんわりと足首までを覆う、膨らんだ足通し。情熱的なオレンジのヒップスカーフがアクセントをつける。

 上半身には、胸()()をぴったり覆うまさしくブラみたいな上衣。その間にみえるなめらかなお腹が、まぶしい。

 ただ、まだ若いんだろう。妖艶っていうより爽やか元気って感じがまだ強いな。胸も大きくない(っていうかほとんどない)。でも、ブラみたいな衣装は本当に胸だけを隠してて、両胸の間の白い肌(谷間、といえるほど隆起がない)を大胆に見せてる。

 

 観客が、はっと息をのむ。優美な姿に似合わず、なかなかの大技!

 空中で連続回転。公式の体操選手なみじゃないだろうか?

 体はほっそりしてみえるけど、おそらくすごく鍛えているんだろう。

 今しも、その細い腕に力をこめ。座った姿勢から伸肘倒立、開脚倒立につなげ(観客はそこまで多くないのに、ほぼ全員から大きな拍手が巻き起こった)。

 一度、ほぼ180度にひらいた脚を前、後に振り分けて回して見せた後。

 体をきれいに反らして、女性らしいしなやかさをアピールしながら後ろに海老ぞりに倒して直立。

 お腹をみせるため、下半身のズボンは腰ばき風っていうかすごく下げてて、結構きわどく腰骨の突起よりもまだ下、腿の上部ぎりぎりまでも露出させ、輝くような肌をみせており。

 男性客どものごくり、という唾を飲む音が、しずまりかえった客席に響く。

 

 身元を隠したいのかもしれない、アラビア風の衣装にあわせて、女忍者(くのいち)風に、口元を隠す黒いマスク。目から上も、アラビア風な世界観に合わせてスカーフを巻いている。透けるスカーフで隠した髪は、染めているのか少し茶色い気がする。

 おそらくすごく美人だと思われる、生き生きとした印象的な目。

 なによりほっそりとしつつしなやかな体が、とても魅力的。特にあのなめらかな白い肌、いい。紫藤なみ。

 脚は足通しでかくされているが、わずかに透ける素材を通してわかる、優美なふくらはぎの曲線。きっとすごくやわらかくなめらかなはずだ、舐めたら、きっと──。

 

 そのとき。

 ぎっ、と僕は調布に耳をつままれた。痛い。(なんだか既視感(deja vu)を感じる)

 抗議の視線を隣に向けたら、尋常でなく鋭い視線が返ってきて。

 怒っているのか、調布の頬に軽く赤みがさしている。

 僕は自分の下心をみすかされたような気がして、思わず姿勢を正した。

 

「ねえ、志野。そろそろ行きましょう」

 

「あ、そんな時間か?まだあと数演目、ありそうだけど──」

 

「でも、本ステージも開場してるし、打ち合わせもしたいのよ。──まったくハルカ、何してんだか

 

 最後に何か調布が言ったみたいだったが、フィナーレのシンバルの音にかき消されて後半は聞こえなかった。

 名残惜しくステージをみると、ちょうど演技が終わり、腕を上げ、胸をそらせて軽く腰を折って礼をしているダンサーの姿。まだ若いが、堂に入ってる。他のお客さんも彼女のパフォーマンスを気に入ったみたいだ、興奮したささやき声、大きな拍手の音。

 

 ちょっと後ろ髪をひかれる思いが、しながらも。

 僕は調布にせっつかれて、その場を後にした。

 

 ──────

 

 本ステージの会場に入る。

 広くて、内装もゴージャス。ぐっと客席の照明は暗くなり、淫靡な雰囲気。

 かなり豪奢な服を着た、お金のありそうな人たちの姿も目に付く。

 (この時期にはもう閉店してしまっているが)ジ○リアナ風のふわふわした大きい扇子を持ってる女の人たちもみかける。

 

「途中で外に出る。だけど、座席指定はできないのよね。」

 

 僕たちが買ったのは、一番安い席。

 ただ、いかにもなセレブというかお金持ちが多い中央前方の席や、升席みたいなところと違い、却って気安い。さっきのOLさんの一団みたいなのも、近くにいるし。

 

 最初に火吹き男が現れ、猛烈な火炎をあげてみせる。その周りを、華やかな踊り子さんが笑顔をうかべ、ずらっと並んでみせる。すごい。

 続いて、たしかに一流と思えるダンサーたちの踊り。淫靡に、そして華麗に。統率が取れてて、これは確かに見る価値がある。

 

「ねえ、志野。そろそろかしら。」

 

「──ああ」

 

 没入しかけていたところに、また横の調布から肘でつつかれる。

 松浦氏からは、開始後ちょうど20分か、終了のちょうど20分前のどちらかので席を立て、と言われている。

 開演前の打ち合わせで、(僕たちはあまり遅くなれないから)開始後20分で席を立つことにしている。

 心残りに思いながらも、時計を見る。もうそろそろ午後8時半。横の席の人に断りを入れ、席を立つ。

 通路を戻る僕たちに、黒服の一人が追いついてくる。

 

「お帰りですか?」

 

「ええ、『古い友人との約束』があるので。」

 

 教えられたとおりに、キーワードを挟むと、黒服がはっとしたように思えた。

 

「そうですか。『また、お越しいただけるでしょうか。』」

 

「『また来ます。こんどは3人で。』」

 

「『そのときはこちらを、お持ちください。』」

 

 ビジネスカードを渡される。ただの名刺ではない、磁気カードになっている。

 

「ありがとう。これは心づけで」

 

 礼を言い、100ゴールドばかりを渡して会場を出る。

 会場では、露出が高くて魅力的な踊り子さんに観客の関心が集中していたが。

 僕は、出ていく僕たちを見つめる視線を背中に感じていた。

 

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