タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
時点は、水曜日朝です。
(第三者(国領ハルカ)視点、水曜日朝、布田家(国領ハルカの伯母の家))
国領ハルカが、2人の友人と、長らく昏睡状態に陥っている友人の母を見舞い。
その横で共寝をして、3人でおかしな夢を共有した、その次の日の朝のこと。
国領ハルカは、唐突に、従兄からその提案を受けた。
「え?今日!?」
「ああ、今日だ。」
なぜか夜遅く外出して、朝まだきに帰ってきた彼女の従兄、茂良男は。
朝、ばたばたと準備をしていた国領ハルカを呼び止め、「ナイトショーの前座に出てみないか」と提案してきたのだった。
──いや、いきなりそんな本格的な?
最初は仲間うちで、ちょっとだけって話だったよね。
そう思っていた彼女だったが。
朝、彼女に時間がないのをちゃんとわかっているらしい、性格は悪いが頭が良いことをうかがわせる、てきぱきと要点を得た従兄の話をきいているうちに。
思わず、前のめりになってしまう。
業態としては、ナイトクラブとでもいうのだろうか。多賀島のナイトスポットとして有名で、彼女もその名前だけは知ってる。
といっても、「マ○ラジャ」や「ヴェルファ○レ」あたりのいわゆるディスコとどう違うのか、彼女はよく知らない。要は、大人の店。すごいケバいお姉さんたちが、扇を振って踊ってたりするイメージくらいしかない。
実際には、その店「アッサンブレ」は、(お客さんが踊るのでなく)お店側がダンサーによるナイトショーを上演するという業態の店らしい。それも大人向けの、ちょっと際どいやつ。
もちろん、まだ高○生である国領ハルカが、そんな舞台に出たりはできない。
しかし、従兄である茂良男によると。
その前座として、本ステージの開演前、夕方18時以降、20時までは練習生のステージがあるのだそうだ。
こちらは健全なもの。バイトでなく発表の場として、夜間制の高校生が出てる実績もある。
(全日制の場合、法律的あるいは校則的にOKなのかどうかまでは、茂良男も彼女もわからなかったが。
バイトなら許可制なのだが、発表については校則上、禁止する決まりは見当たらなかった。)
「
お前なら出演できるだろうし、他の演目をみて目を肥やしてもいいと思う。
そこまで高くないが、チップも期待できる、投票システムでフィードバックもある。──どうだ?」
わお。
国領ハルカとしては、願ったりもない機会だ。
従兄が以前提案していた、15分で単価1万円×人数、なんていう仲間うちだけでの小規模の会なんかより。
そういう、ちゃんとしたところのほうが安全かもしれない。
「それってさ。その、いやらしい感じだったりじゃ、ないんだよね?
衣装とかさ、キラキラしてたり、その、体の線を出したり脚を見せたりしないと、ダメだとか、さ?」
「いや、俺自身は見てないが、もっと健全な感じらしいぞ。
もちろん凝った衣装でもいいが、早い時間だとジャージみたいな練習着、って練習生も多いそうだ。
違和感がないなら、顔出しを避ける衣装でもいいそうだ。マスクとか忍者頭巾とか、な」
「それ、いいね!
でもさ。きょう、水曜日だよね。ボク、部活の練習があるんだけど」
「練習が終わるのは、何時だ?
お前が出るとあらかじめわかってるのなら、枠を取っておける。
午後7時半前までに到着して準備完了なら、出してやれるそうだ。
ちょっと短いかもしれんが、1枠5分、時間厳守」
──下校時刻は、午後6時半。二ツ木通りまで、歩いて30分くらいかな。もっと早く行けるかも。
着替えとかを考えても、7時には間に合う。
うん、いける!
「ボク、
勇気をふりしぼって、彼女はそう答える。
彼女の従兄が、狙ったように。
「おう。これが、支配人の名刺な。受付で出すか、黒服のスタッフに出せばいい。
衣装は、用意できるんだろうな?」
あるよ、と応える。そう、彼女の親友たちと勝負服を買うときに、いろいろ衣装も買ったんだ。
彼女は希望に、胸がふくらむのを感じていた。
彼女の従兄がほくそ笑んでいたのには、気づかないままに。
──────
昼休みにしのりんをまじえて、昨日のみなりんのママンの夢への
ちょっとだけなんだけど、しのりんとお話しできた!うれしい。
あいかわらず、うっとうしく根取君が話しかけてくるけど、まあ寛大な心で許してやれる。
最近は、助子君も。なれなれしく距離を詰めてくる。これも、ちょっと悩みと言えば悩みだけど、根取君ほど強引でない。こっちが忙しそうにすると引いてくれる。
彼女は、彼らを適当にあしらい、放課後を待ち遠しく思いながら、休み時間にぱんぱんに膨らんだ補助バッグをそっと触る。
この中に、彼女の夢への、ヤコブのはしごがある。
さとみん、みなりんと3人で出かけたときに買った衣装の一つが、入っているのだ。
部活は、すこしセーブ気味にした。でも、かえって体や力のコントロールは、上達した感じ。
顧問の先生にも褒められ、自信を増す。
さとみんを誘うことも考えたけど、今日、さとみんはしのりんと約束があるみたいだ。ちょっとうらやましい。
でも、ボクだって。こうして練習して、いつかしのりんに見てもらうんだ。
治安の悪い場所って聞くけど、走っていったりすればいいよね。
帰りが心配だけど、練習生の誰かと仲良くなっていっしょに帰るとか。なんとかなるよ。
部活が終わると、今日はちょっとお先にねー、と部活の仲間に告げて、風のように走る。
治安のわるい下町に進学校の制服でそのまま行くのは、少し気が引けるが、しかたない。
──この下町から通ってる同級生もいるし、大丈夫大丈夫。
ただ、道、迷いそうだなー。区画整理がされてなくて、ぐねぐねしているし。早く行って見つけよう。
そう思って、勇気を出して踏み入った彼女を、呼び止めるものがある。
「あなた。急がない!」
「?」
片言の日本語。外国人の2人づれ。チャドルみたいな、フード付きで頭と顔の下半分隠すベール。
男と女、だと思う。女の方が、話しかけてきた。急ぐな、と。走ったのを咎められたのかな。
たしかに、まだ7時にかなり余裕があるが、──
「あなた、その服で、今行く。あなた、敵に会う。
あなた、私の部屋に来る、そして行く。」
無視しよう、行かなきゃ、と思ったとき。
女が、言葉を足す。
「大きい、高い男。小さい、筋肉多い男。小さい、細い男」
「えっ?」
国領ハルカは、どきっとする。身に覚えがある。
「あなた、一度彼らに会う、以前。あなた、今回彼らに会う。彼ら、邪魔する。あなた、間に合わない」
「──なんで、知ってるんですか。見たんですか、しのりんに聞いたんですか。」
「見てない、聞いてない。スィノリィーン、違う。○○○○、教える。」
○○○○のところは、聞き取れなかった。神様の名前?
嘘は言っていなさそうな気がする。何より、心当たりのある内容。的中している。
彼女は迷うが、──
「大丈夫。あなた、信じる。」
どう考えても、怪しい二人連れ。宗教勧誘か、それとも人さらいか、カツアゲかもしれない。
でも相手の声、こちらを見つめる黒い深い瞳にある誠実さに、彼女はほだされてしまった。
だまされちゃうのかもな。でも、怪しいと思ったら逃げ出せばいい。今のボク、スーパーガールだって顧問の先生が言ってた。2階までなら、ひねり回転つきで窓から飛び降りる自信ある。
まだ時間もあるし。7時半に滑り込めばいいはずなんだから。
「わかったよ、行くよ。どっち?」
「あなた、ついてくる」
彼女たち(もう一人は、似たような服装だが屈強な男だ)は、彼女をいざない、ほど近い古い喫茶店の2階の部屋に連れ込む。
男は慎み深く頭を下げ、別室に姿を消す。
ベールを外した外国人の女は、国領ハルカの知らない人種だ。整った精悍な美貌、情熱的な、美しい黒い瞳。
本物には会ったことはないが、ジプシーの乙女という感じかな?、と国領ハルカは思う。
「あなた、行くとき、着る、別の服。上から、これも。
帰るときも、あなた、これ着る、心配ない。」
彼女は、彼女たちの着ているのと同じような、目だけが出るケープコートを与えられる。彼女たちの民族衣装らしい。
よくみると単色でなく、いろいろな色を織り交ぜて織られている。不思議な模様というか文様の意匠が幾重にも織りこまれていて、手が込んでる。本当は、すごく上等なものなんじゃないだろうか。
頭にかぶるフードの額部分に、大きな目のようにみえるマークが来るようになっている。
「え、じゃあ、今日、終わったら返しに来ます。」
「あなたは、返さない、今日。あなた、早く帰る、今日。遅く帰る、悪いこと起こる。」
ただ、あきらかに上等なものだ。返さないわけにいかないだろう。
「じゃあ、明日とか。
でも洗濯して、週末になるかも、ごめんなさい。」
「そう、あなたは選択する。彼も選択する。
終末は来ない、よい。終末は来る、よい。
すべては、○○○○の心のままに。」
なんだか勘違いが発生している気がするなー、と漠然と彼女は思うが、具体的にどこが食い違ってるか指摘できない。
しかたなく、お礼を言って立ち去る。
会場へは、この異邦人のもう一人(夫だろうか?)が、連れてきてくれた。
この強そうな人がいれば、別にあの部屋に立ち寄ってこのケープみたいなの、着なくても大丈夫だったんじゃないかなー、と彼女は思った。
──────
それから先は、言うまでもないだろう。
なんのトラブルもなく、名刺を黒服の従業員に出し、更衣室に案内され。
アラビアンダンサーの衣装に着替え、そして出演した。
ハコは小さい、と従兄が言っていたが、正直客席の方が暗いのと、はじめての出演で心がふわふわしていたのとで、客席をみる余裕はほとんどなかった。
それでも、思った以上にのびのびと演技を終え。礼をして控室に戻る。
控室にもどると、とたんに演技中は大丈夫だったのに、足ががくがくしてきた。笑える。
更衣室に戻る。出演を終えた練習生たちが、着替えてる。
中には、顔見知りなのだろう、きゃぴきゃぴおしゃべりしてる女の子たちもいる。
「あんた、すごいじゃん」
歳が近そうな、大学生みたいにみえる女の子が声をかけてきてくれる。
活発そうなものごし、魅力的な体つき。出演してた、練習生の一人だ。
演技も洗練されていて、ひときわ観客の拍手も大きかったな、と彼女は思い出す。
「ありがとうございます!」
緊張して答える。
「そんなに緊張しなくていいよ。私、タガ大の3年生。
演劇やってて、さ。踊りにも興味あって、出てるんだ。
あなたも、大学生?それとも、──」
「あー、高校生です。」
「すごいねー、現役なんだ!
ねえ、待ってよ。そのかばんと制服、もしかすると中央?ほんと、すごいね!」
フレンドリーだ。周りの子たちも、最初着替えのときに思ってたほど、今はトゲトゲしてない。
(最初来た時は勝手がわからなくて、ちょっと邪魔そうにされた。)
その先輩の顔見知りらしい別の子何人かからも、褒められる。
ほかは、専門学校生とか、フリーターとかが多いようだ。
「ほら、着替えてから、結果、見に行こう?」
「何があるんですか?」
「前半と後半でね、投票を集計して表示しててくれるんだ。それと、チップ。
あ、チップはね、自分で取る形式なんだ。」
制服に着替えを済ませて、上から例のケープを羽織る。
控室を出たところの黒板に、演目の番号と投票得点が並べて書かれている。
20ほどの演目。全体に、若い番号は得点が少なく、番号が大きいと得点が高い傾向がある。
練習生たちが、それをみて帰っていく。
(すごいじゃん、いきなり初登場4位!?)
小さい声で、タガ大の先輩がささやきかけてくる。
(えー、先輩こそすごいじゃないですか!)
国領ハルカは4位だそうだ。この先輩は、2位につけてる。
(あー、私、そこそこよく出てるし。
あと、完全に実力のままじゃなくて、出演順とかでかなり変わるのよね。遅い時間帯の方が、お客さんの入りが多くて、有利だったり。でも4位は、立派、立派。
それとね、そこのポストに、チップが入ってる。劇場は、関与してないって建前。)
どうしてかわからないが、黒服のスタッフに手渡されたチップは、あくまで黒服個人が言伝てただけで、劇場は知らないという建前らしい。
彼女の演目番号のポストにも、チップが入ってる。もちろん、先輩にも。
彼女はチップを受け取り、別の友人を待つという先輩に礼を言い、別れを告げ。
もちろんあの目出しのチャドル(?コート)を羽織って、クラブを後にした。
──────
商品券みたいな、私製通貨のチップは、懐に入れた。
これは、パチンコ屋さんと同じで換金できるんだよ、と気のいい練習生の先輩は言っていた。
今日は時間がない。次回だな。あの外国人の女の人に、コートを返すときでいいや。
彼女は足早に、すっかり暗くなった街を歩くが。
(うわっ。あいつらだ!)
頑強そうな外国人の男に教えられたとおりに、大通りへの帰路を歩いていると。
狭い通りで、あの3人組に出くわした。
そう、いつか彼女を襲った
彼女の体が、あのときの恐怖を思い出してこわばる。
だが、目元以外を隠す(そのせいで今は、すごく目立つ一方、近寄りがたい雰囲気を彼女は発している)衣装のため、彼女をそれと気づかなかった彼らは。
彼女には一瞥をくれただけで、むしろ気まずそうな顔で足早に通り過ぎていく。
彼女は、ほっと胸をなでおろした。
なおこのときの彼女は、知る由もないが。
一度、彼ら、
このケープをまとった異国人の女、つまり国領ハルカに着替えを勧めた女に、ちょっかいを出し。
連れの屈強な護衛の戦士に、それこそ足腰立たないくらい叩きのめされたことがあるのだ。
そのため、彼らはもはやこのケープを見ただけで自動的に「ヤバい」と判断して、極力関わり合いにならないよう、通り過ぎたのだった。
もし、このケープを羽織っていなかったら。
彼らがまた国領ハルカの可憐な姿を見れば、きっと欲情を掻き立てられ。
逃げ場のない、街灯の少ない細い道という地の利を得て、性懲りもなくちょっかいを出せば。
そのちょっかいが、今回は成功してしまう可能性は高かったのかもしれない。
──────
大急ぎで帰って、食事をとり。
彼女は、予習復習の合間に、今日の出演のことを、飴玉を口の中でころがすように思い出す。
技が決まったときの客席からの感嘆のため息、終わったときの拍手とスポットライト。終わった後の、仲間たちとの暖かいやりとり。
彼女は、次の出演を心待ちにするようになっていた。
(評判は良かった! チップ、いくらもらえたんだろう。
数字を足すと『470』だけど、ほんとにたった470円だったらいやだな。
きっと、4700円だよね?それくらい、いくよね?)
5000円か。だったら、文句ない。だって、30分ちょっとの拘束だし。時給、1万円!?
いつもだったら帰ってきてほしくない従兄の帰宅が、待ち遠しい。まだ帰って来ない。早く報告したい。
とても早く寝る伯母たちに、おやすみをいうときに訊くと、今夜はバイトで遅くなると言っていたようだ。
(しょうがないな。今日はボクも寝よう。)
──それにしても、毎日、楽しいな。いろいろ、つめこみすぎだけど。
今週末も、あるんだよね。うん、さとみんといっしょに、しのりんと。
これは、のがせない好機だ。ずっとそっけない態度をとってるしのりんと、ちゃんと仲直りしないといけない。
ごめんね、ちょっと言いすぎました。──って。ちゃんと、まじめに。
そしたらしのりんとは仲直りできる、よね?
そしたら次は、しのりんの目をどうにかして惹きつけてやるんだ。
あのときかった、あの衣装。張り込んだんだ、役立てないと。
あー、今からだと間に合わないかもしれないけど、さ。
さとみんとも、相談して、一緒に──
そう、いろいろと頭の中で計画を組み立てながら、転がるふとんは。
やわらかく彼女の意識を、夢の国にいざなっていくのだった。