※この作品はR-18です。

タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。   作:Marchhatter

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志野視点、調布と志野が「アッサンブレ」に行った、帰りの時点からです。
本日2回目の投稿になります。


247 少し汚れて、でも染まらないまま(13)(志)

(志野視点、水曜日夜、「アッサンブレ」からの帰宅時点)

 

 調布をマンションまで自転車二人乗りで送って、家に帰りつく。

 帰宅は9時すぎ。もちろん、遅くなったことで母親に嫌な顔をされる。でも、仕方ないよね。

 

 ごはんを食べて、予習復習をする。付箋を付けた、バイクのカタログも読む。ほら、僕だって息抜きが必要だし。

 もう、補習もあと2日。まず、バイクかな。整備する時間が必要だから、お店で買うとなるとすぐには乗れない。

 個人売買という手もある。僕の時代には、バイク雑誌にそのコーナーもあったし、近くのDIYショップにその手の掲示板があったりした。

 もっとも、ものはピンキリだろう。

 あと、調布の友人のカゴちゃんなる女の子に頼んでみてもいい。個人売買を仲介してくれるかもしれない。

 調布の顔を立てて、変なものは寄越さないだろうし。

 今日、調布と話しとけばよかった。

 

 あらかた勉強も終わり、またカタログを引っ張り出してそんな風に思っていたところに。

 電話よ、と眠そうな声の母親から声がかかる。遅いから、早めに切り上げて寝るのよ、と小言つきで。あー、これはレッドゲージ(堪忍袋の緒)が近いな。

 反射的に時計を見る。もう、11時じゃないか。調布かな?

 母はそのまま、あくびをしながら寝室に入ってしまった模様だ。

 

 保留中にして掛けてあった、受話器を取る。

 

「もしもし?あー、もう、なんで掛けてくれないの?」

 

 いきなり、女の子の声。ちょっと高めで、涼しげに澄んでる。でも紫藤よりは低い。

 かわいい系ではあるけれど、ちょっとわがままっていうか、気の強そうな、上から目線の声。しかも、拗ねてる。

 ちょっと固まっていると、受話器の向こうの声が、不安そうなおどおどとしたトーンに変わった。

「私、また間違ってました?志野○くん、ですか?私、有明りなと申しますが、──」

 

「あー、有明か。びっくりしたよ。」

 

 いきなり深夜に電話を掛けてきたのは、──あのお騒がせワガママ女の、有明りな。

 僕につながったと分かると、また生意気なトーンに復調した、対人距離近めの(悪く言えば馴れ馴れしい)彼女の声は。

 僕をあれこれと、糾弾しはじめる。

 

「なんで掛けてくれないの?約束したじゃない!」

 

「悪い、僕、ポケベル使ったことがなくてさ。」

 

 これは、本当のことだ。

 僕が携帯電話、っていうかPHSをはじめて買ってもらったのは、大学の合格祝い。たしかASTELか何かだったかな。姉が就職活動を始めて携帯電話を買い、抱き合わせで安く契約できたんだ。

 だから僕は、女子高生なんかが夢中になってやりとりしてたポケベル文化を実のところほとんど知らない。

 

「まあいい。許してあげましょう!」

 

 僕、許されたのかよ。

 深夜だというのにちょっとハイらしい、有明は。

 しーくん、信じらんない!もー、薄情すぎ!多賀島やだ、ポケベル来ない!醤油と味噌が甘い!コンビニがぜんぜんない!どこにも遊びに行けてない!とか。

 勝手なことばかり、言って騒いでる。

 もうそろそろ眠いふりして切ろうか、と思っていたのだが。

 

「ねえ、しーくん。会えないかな?」

 

 そのうち、無理難題を言いはじめた。

 

「明日は、予定があるんだ。」

 

 これは、本当のことだ。

 ほら、僕も忙しいんだよ。紫藤といちゃつきたいし、バイクも見たいし、竜神関係の仕事も進めないといけないし、調布と潜入計画を進めないといけないし、週末に調布と国領とのデートもある!

 

「じゃあ、今日で。お願い!」

 

「時計、見ろって。」

 

「まだ、今日はあと50分あるわよ。」

 

 僕は少々、うんざりし始めた。

 耳を澄ます限り(こういうときに超感覚さんは便利だ)、父母ももう眠ってる。

 こんなふうに、(多賀島の感覚では)非常識な時間に電話かけてきた女の子と、夜遅くまで電話してた、となると。

 たぶん明日の朝ごはんの席で母親から、こいつのことでまた小言を言われるんだろうなー。

 

「もう50分しかないの!もう、寝ようよ。」

 

「『寝よう』なんて、もう、しーくんったら、強引!情熱的!

 ──でもね、寂しい。寂しいの」

 

 ちなみに「しーくん」ってのは僕のことらしい。

 紫藤ですら「志野くん」なのに。ほとんど初対面なのに、対人距離バグってる。

 

「私、こっちに誰も知り合いがいない。今は、──他人の家に居候。

 誰も私のことなんか、見てくれない。みんな私じゃなくて、私のから、──いや、私に何かさせたい、だけ。」

 

 さっきのハイテンションから一転して、すごくシリアスな、寂しそうな声。

 でも騙されちゃいけないよな。

 こいつは今は引退(?)してるけど、屈指の名子役の一人なんだ。

 

「さすが、名子役。騙されるところだったよ」

 

 ちょっとおだてるっていうか、まあ褒めるつもりで、そう言ったのだが。

 

「え?違う、違うのよ、──」

 

「おい?」

 

 沈黙。──というか、僕は受話器の向こうに、かすかな啜り泣きの気配を感じ取った。

 あー、クソっ。最悪!

 

「悪い、有明。僕が悪かった。」

 

 僕はときどき、これをやってしまうんだ。

 無神経だからな。つい、言っちゃいけない最悪のことを、しかもピンポイントで。

 

「いいの」

 

「良くない。今のは、僕が悪かった。」

 

 押し殺した、欷歔(ききょ)の声。

 僕はいたたまれなさのあまり、口走ってしまう。

 

「あー、そうだ。今から、ちょっとだけ。ちょっとだけなら、時間作れる。

 ──って、有明は今どこだ?」

 

 いくら僕でも、行けるところと行けないところがある。

 

「いいの。私、いつもそうなの。

 私こそ、わがままばっかり言ってごめんなさい。」

 

 しおらしい、ちょっとうわずった涙声が、いっそう僕の罪悪感を掻き立てる。

 あー、もう!

 

「行けたら行く、行けなかったら行けない。

 だから教えてくれ。」

 

「砦山、──知ってる?」

 

「知ってる。砦山なのか?」

 

 砦山山頂なら、1時間はかかる。

 でも家なんかないぞ、あそこに。

 

「違うの。いいえ、違わないんだけど。

 家は、砦山なの。でもそこはダメ。砦山を、下りた場所。」

 

「どっち方面に下りるんだ?蛇抜(じゃぬけ)街道か、市街地か、それとも登良川か?」

 

「この家の裏を下りたところに、神社があるそうなんだけど。

 ──知ってる?」

 

「もうちょっとヒントをくれ。」

 

 電話の横にバスの時刻表とともに貼ってある、多賀島市内の地図をにらむ。

 小さい神社は、たくさんあるが、──。

 

慕国(ぼこく)神社か?それなら登良(とら)川だ。

 馬頭(ばとう)神社なら、蛇抜(じゃぬけ)街道だ。そっちなら1時間以上はかかる、無理だ。」

 

「ごめんなさい。私は地図もないし、わからないの。

 えーと、日の沈む方向に山をくだる。

 今日は、途中まで降りてみたけど引き返して、ちゃんと確かめてない。」

 

「日の沈む方向、西か。──慕国神社だな。」

 

 砦山の、登良川沿いの方に降りたところだ。

 都合よく、僕の住む鳥兜(とりかぶと)団地の側。

(すごくおおざっぱにいえば、登良川をはさんで北西の丘陵に僕の住む鳥兜(とりかぶと)団地があり、南東の丘陵が砦山だ。)

 僕の住む団地からなら、自転車で坂を猛烈に駆けおりて15分くらいで行けるかな。

 帰りは丘を登ることになるので、30分くらいかかるだろうけど。

 

「でも、いいの。また、別の日で。

 遅い時間に邪魔しちゃって、ごめんなさい。

 しーくんのママにも。しーくんだと思って、間違っちゃって──」

 

「いいんだ。行くよ。でも、ちょっとだけだぞ?

 家には行けないから、その、山を下ったところの神社だな。

 もし道がわかって簡単に神社に降りれたら、明るいところで待っててくれ。」

 

 携帯電話がない時代、待ち合わせ場所をちゃんと確認しないと詰んでしまう。

 ましてや、土地勘のない有明だと。言葉を足そう。

 

「神社に来れたら、社務所の前か、大きな道路に出る鳥居の下にでもいてくれ。明るい場所に。

 もし道がわからなかったら、分かるところまで降りて待っててくれ。

 そうだな、それで今から40分。今から40分経って僕が来なかったら、家に戻って寝てくれ。また、埋め合わせするよ。」

 

「ありがとう、しーくん。ごめんね。

 でももう、無理しないでいいから」

 

 まだ涙声のまま。電話が切れる。

 

 あー!クソクソクソッ!

 なんでこんなことになるんだ!

 でもまあ、約束を破ってすぐ電話しなかったのは、僕にも悪いところがあった。

 そこは、反省すべきポイントかもしれない。1回目では女の子に親切にされたことなんてあまりないからなー、つい、「僕のことなんて覚えていない」という前提で都合よく忘れてたんだ。

 

 それにしても、なー。

 相手は、客観的にはそこそこ、いやかなり美人な女の子で。

 それにもう落ち目ではあるが、元天才子役の有名人で。

 そんな相手に、しかもすごく情熱的に(?)会いたいと求められて。

 でも、こんなに会うのが気の進まない約束。

 

 頭の中のメロドラマでは、良さげなシチュエーションなんだけど。

 実体験になると、とたんにすごい、罰ゲーム状態。

 見てくれしかよくない、メンヘラちゃんのお守りじゃないか。

 

 ──はあ。

 でも、しかたないな。泣かせちゃったしな。僕が悪い。

 不良息子の所業だが、ちょっとだけ家を抜けてこよう。

 それにしても、有明りなはトラブルメーカーだ。

 全く、なんで親切心で道案内してあげただけの僕が、こんなことにつきあわないといけないんだ。

 

 ──────

 

 慕国神社の境内は、けっこう広いはずだ。

 その裏手は、確かに砦山、というより砦山から連なる丘陵の急勾配の斜面になってる。

 この砦山に続く丘陵部分は起伏が激しいので、市街地に近いのに大規模開発はされていない。多少、古い家が点在しているが、基本は山林だ。そこの家の一つが有明が滞在してる家なのだろう。

 有明りなは、降りるのに時間がかかるようなことを言っていたが。

 夜の山道、しかも道を知らないだと?下手すると遭難するぞ。

 僕は着替えて細心の注意を払って音を立てないように家を抜け出し、自転車を走らせながら、だんだん心配になってきた。

 

 国道沿いから少し入ったあたりにある慕国神社のあたりは、道も少し広め。

 もちろん住宅地でもあるのだが、公園や高専とかの学校の緑地があったりして人目が少ない。

 つまり暴走族や、賽銭泥棒をしたりするヤンキーどもが悪さをする条件がそろってる。

 そんなところに、少々ロリっちいが、人目を惹くオーラのある有明が一人でポツンといたら。

 そりゃ、ちょっかいかけられるよな。

 

 ちょっと危ないくらいに自転車を飛ばして、神社の鳥居にたどり着く。

 ものさびしい。まばらな蛍光灯に、カナブンとか蛾とかが集ってる。

 ヤンキーたちでさえ、いない。

 

 とりあえず家を出てきてしまったから、地理もあまり確認してない。

 境内の道路側の鳥居近くの街灯下で、自転車を止めて数分待つ間。

 僕は家からもってきた地図を広げて、このあたりの地形を確認しようとする。

 ゼ○リンの、一軒家なら一つ一つ苗字まで載ってる、すごく縮尺の大きいやつ。

 

「ん?」

 

 慕国神社の上、崖を意味する「爪」みたいなつらなり。

 その上に、僕は「葉良」の字を認めた。かなり広い邸宅だ。

 

 ──驚いたな。有明は、あの蛙男じゃなくて、葉良先生の親族なのか。

 

 そして、地図をみたかぎりで思うこと。

 ここに、女の子の足で簡単に(くだ)ったりできるような道はない。崖地なんだ。

 僕は、地図をにらみつける。点線で、山道の所在が少しだけ示唆されている。

 崖で切れてることになってはいるが、ここに抜け道があるのかもしれない。だが、いずれにせよ、かなり急峻な山道だろう。

 

 有明りなの、華奢な体つきを思い出す。

 あいつがこんなハードなコース、来れるだろうか?

 

 すれ違いの危険はあるが、僕は山道を上がることにする。

 幸いにして、懐中電灯は持ってきた。だが、使わなくてもいい。

 月は、半月。そして僕の超感覚を喚起すれば、闇でも赤外線アイで見通せる。

 

 慕国神社の裏手にまわり、小さな社につながる、参道ともいえないような細道を歩き。

 その道から分岐する、とても細いけもの道を行く。

 深い起伏。しかも夜。正気の沙汰じゃない。

 道は谷筋を進み、やがて崖にへばりつくような、ちょっと正気の沙汰でない道を頑張って登攀し。

 切通しをとおり、野犬の遠吠えに怯え。

 僕は、ちょっと人の手の入ったことがわかるあたりにまで、試行錯誤しながら登ってきた。

 距離はさほどでもないが、藪道に迷い込んでしまったりして、時間を食った。

 

 それでも多分、下の神社と上の家との中間地点くらいには来たと思うのだが。

 ここに来て、僕の前に絶壁がそびえている。

 高さは10メートル近くありそう。コンクリートブロック、いわゆる間知(けんち)ブロックを斜めに組んだ土留めの壁。

 それが、行く手を阻んでいる。

 壁沿いに進んでいけば、どこかで道があるかもしれない。突き当りとか。

 だが見えてる限りでは、そんな道はなさそう。絶壁が多少の起伏をつけながら連なってるだけ。有明も、ここを降りれたとは思えない。

 

 有明りなには、40分と伝えてたな。

 ちらっと腕時計をみる。夜光塗料の分針は、家を出て40分がすでにすぎたことを教える。

 もう、有明はいないだろうな。でも、ここまで来たんだし。ワンチャン、引き返してるところを追いつけるかも。

 

 手や足をすべらせなければ、この手の斜めブロックは意外に上りやすい。

 そして僕の超感覚があれば、僕はそんなへまはしない、──はず。

 僕は、ほとんど自棄(やけ)に近い精神状態で。

 コンクリートブロックのへこみに足をかけ、目地のすきまに指をかけて登り始めた。

 

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