タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
ご感想、頂いていたことに気づきました。ありがとうございます!タグ(少し増えるかもですが)どおり完結させたいです。
七不思議自体については、興味深い話だと思うし、群衆心理というか、ある種の社会学的視点ではすごく面白い分析対象だと思う。
そこで述べられた怪異の存否が興味深いのではない。
そこで述べられた怪異の背景として語られた物語、そしてそこに意味を見出す人の心の在り方が興味深い。
七不思議のような、都市伝説となっている不思議な事象は。
僕の考えでは、おそらく何らかの偶然だったり、今の科学では説明がつかないように見えても、何らかの科学的な理論に従えば説明のつくものなのだ。
しかしその事象に、どのような説明つまり物語が、ストーリーが付けられるのか。そこに僕は人の善意と想像力のかたちを見出して、関心をかき立てられる。
占いも同じだ。その占いに、どのような先行行為との因果関係を見出すのか。
昔話でも、幸福や不幸の訪れた家に、どのような説明が付けられるか、が興味深いのだ。
おそらく昔話の素材になった、幸福が訪れた家に何の先行する善行もなく、不幸が訪れた家に何の咎もなかったことも多いのだろう。
しかし人間は納得しない、人間は本能的に平等を、公正を、つまり納得を求める生き物だから。
だから納得を得るために、たとえば何の咎もない犠牲者に、無理やり咎を見出したりするわけだ。おむすびころりんで、後からおむすびを穴に落としてもぐりこんだおじいさんも、本当はそこまで悪人とはいえないだろう。成功者を模倣するのは当然のことだからだ。その悪行は後世の人間の加筆とみるべきだ。
不幸な強姦や殺人の被害者に、後からヤリマ○だったとか不快な人だったとか、事実無根のこともある誹謗中傷がつくのもそれだ。
被害者からすれば非常に不条理ではあるが、そのような誹謗中傷をする人自身は公正を、自分の心の納得を求めているわけだから、本質的には善人なのだろう。
でもそれが被害者を、被害者家族を地獄に突き落とす。
言い古されて陳腐ではあるが、地獄への道は善意で舗装されているのだ。
その点、この学校の七不思議にも、当然ある程度の説明が付けられていたりもするのだろう。
だが、その多くには説明がなく、むしろ説明がないこと自体が、逆に不思議さのリアリティを高めているようにも思われる。
あるいはこの学校の生徒の冷めっぷり、冷徹さ、リアリストぶりが示されている、というべきか?
「あのさ、志野くん。」
もっとも、紫藤は女の子で、占いとか七不思議とかにそれ自体として興味を持っているのかもしれない。
「どう思う?あの開かずの間。探検してみたいと思わない?」
僕自身は部屋自体については、そこまで興味も関心もない。しかし、それに興味のある女の子には興味がある。
どうしようか。
今日の午後も、僕は僕で一応の計画は持っていた。今日は少し時間が取れる、だからまた紫藤に少し衣類を供給したいし、僕自身はちょっと苦手だけど、年頃の女の子の好きそうな喫茶店とかで美味しいもの、ジェラートとかを食べてもらって、川のほとりを散歩でもしようかと思っていた。
でも。
ちょっと覗いて終わりだろうし、それも悪くないな。
ただ問題は。
開かずの間だったら、鍵があったりするのか?
鍵があって日常的に出入りしてたりするのなら、開かずの間ではないのでは?
ーーーーー
紫藤がいうには。
文芸部のカギは、特別なんだそうだ。
公式の文芸部の部屋のカギは、他の部室と同様、用務員室と職員室とにそれぞれ設置されたキーステーションに備え付けられている。
しかし、文芸部には文芸部独自の、文芸部がこっそり隠している鍵束があるらしいのだ。この古い机の引き出し、ーーーもちろん、この引き出しにはカギが掛けられているのだが、ーーーの中にある。
これは学校管理のものではない。
だから昨日、浦和先生とかも僕たちの侵入に気づかず、文芸部の和室の部室である501室に入ってきてしまった、ということのようだ。
浦和先生たちも文芸部の裏鍵の存在を知っていただろう、OBOGなのだから。でもおそらく野球部OBの3人目の手前、憚ったのか、隠し場所が変わっていたのか、公式のカギを使った。
この文芸部の裏鍵束のカギは、雑多だ。
部屋のカギもあれば、キャビネットのカギもある。そして実はどこに使うかわからないものも多い。
すでに捨てられたキャビネットのカギや、取り壊した建物のカギもあるかもしれない。
だが捨てるに捨てられず、という状態。
この雑多な鍵束に含まれている鍵の一つが、文芸部の和室の部室である五階の部屋、つまり昨日僕たちが入り込んだ部屋、の鍵だ。旧本部棟501室のカギだ。
これと同タイプのカギがもしあったら、それは現在筝曲部、茶道部が使っている502、503か、もしかすると開かずの間とされている504かもしれない、ということだ。
さて。
規則違反かもしれない、見つかったらこの文芸部の鍵束自体がボッシュートかもしれない。
でも。
誰にも見つからない和室の鍵。いやそれって、ある目的のために使えるよな。
うん、ヤ○部屋とか。
いやいや、それは別として。
ロマンがあるじゃないか。
ハリー・ポ○ターと秘密の部屋だ。
ーーーーー
4階に人気はない。ただ、筝曲部も茶道部も、連休中に使うことがあるって言ってたな。
気をつけねば。
そっと504室の下の階段に移動する。鉄の階段を、音をたてないように慎重に登る。
うん、今回はさすがに何があるかわからない秘密の部屋にいくわけだから、紫藤に先に立ってもらって後ろから視姦するわけにいかない。ちっ。僕が先に立つ。
扉は、ーー同じタイプだ。
鍵束には、同じタイプのカギが5つある。5つ?
一つは、501室。文芸部の和室。
のこり4つのなかに、この部屋、開かずの間の504のカギがあるかどうか。
一つずつ慎重に試す。
3つ目のカギが適合した。軋み音にひやひやしながら、鉄の扉を開く。
階段より少し暖かい空気。締め切った部屋特有の、カビたような不快な臭いはしない。
中に入る。構造は同じだ。
下足脱ぎ場、正面に引き戸、左手に洗面。ーーいや、この504室では、部屋に続く引き戸に、後付けで掛け金が設置され、南京錠がつけてある。
引き戸そのものは合板の安っぽいものではあるが、蹴り破る勇気はない。
それを伝えようとしたが、手元にある鍵束に目を落とした。
つまみの丸い小さなカギがいくつか含まれている。あるいは、ーーー。
半分あきらめていたが、4つ目で南京錠が開くカチリという音がした。
それまで紫藤に支えて開けてもらっていた、後ろの鉄の扉を閉じてもらう。真っ暗になりそうなので、入ってすぐの照明スイッチを入れるが、全く点灯しない。
怖いのだろうか、紫藤がぴったりと寄り添ってきた。甘い匂いがする。
そこで待ってて、いざとなったら鉄の扉を開いて出てね、とそっと耳打ちした。こくん、と頷く気配。
そっと引き戸を開けた。
全くの暗闇ではない。窓の鎧戸の隙間から、外の明るい光が漏れ射している。ただ、相当に暗い。
乾いた匂い。紙、本の匂いか?
目が慣れてくると、ぼんやりとした薄明の中で、部屋の様子が分かった。
倉庫ではない、かなりスペースが空いている。だが、内容としては倉庫に近いな。
一つの壁面、入って右手の壁面は背の高い書棚で埋まっていて、窓も潰れている。書棚の上にもがらくたが積み重なっている。動物の標本のようなものがたくさんある。
向かいの壁面には壁際にソファ。何かの絵が掛かっている。応接室のコーヒーテーブルみたいなものもある。マグカップみたいなものまで、置いてある。
左手にもいろんながらくたが壁際に積んである。
入ってきた側には、おそらく旧本部棟5階の和室に共通するのだろうが、小さい窓、押し入れ、小さな半間の簡易的な流しがある。使われている形跡はないが、蜘蛛が巣を張っている様子もない。
使われてはいないが、一応定期的に掃除はされているのか?
紫藤がわくわくしている気配。だが、まだちょっと待っててね、と囁き、押しとどめたまま、部屋の中に進む。
関心があったのだ。向かいの壁の絵に。あの七不思議のひとつに数えられてる絵なのかもしれない、と思ったから。
しかし絵を見たとき、僕は全く不意を打たれた。
あまりの驚愕に、心臓が止まりかけた。比喩表現ではあるが、全くそんな感じだった。
絵には、制服の女の子の後ろ姿。窓際から外を見やっている。
窓には、微風にはためくカーテン。
窓の外には、金色の雲がたなびく。上空は紫色に。
沈みかけた夕日は最後の残照を伝えている。
高校生の筆ではあるが、丹念に写実的に描き込まれている。
その筆で描かれていた女子学生の後ろ姿、その風景は。
僕が1回目で紫藤をみた、あの教室の夕焼けの風景、そのものだった。
悲鳴をかろうじて抑えたが、倒れこまないよう、しゃがみこまないようにするために棚にすがった。
棚には書物。小人のものらしい頭骨が本の手前、棚のあまり部分に置かれているのに気が付いた。
ああここにも。
唾を飲み込み、自分を叱咤する。
だからどうした。ただの絵、ただの頭骨標本、ただの偶然。
しっかりしろ、超自然的現象は信じないんだろう?
後ろで、志野くん?と小声。ちょっと心配そうな響き。
来るな、紫藤。見ちゃだめだ。
息を吸い、つばを飲み込み。
ちょっと待ってね、と声を出した。
乾いていたが、平静に聞こえるはず、パニックは気取られまい。
もう一度深呼吸して、絵に近づく。
もう一度見る。
あの風景、に見えた。
だが、少しだけ違う点も。
紫藤はあの教室では、手すりに顎をつけるほど体を折り曲げていた。
この絵では、肘をついて手すりに寄りかかっている程度。
髪の長さも少し違うか。ショートカットだが、紫藤より心持ち、長い気もする。
だが、どちらも誤差といえる程度。酷似している。窓の外の風景まで。
息をつく。
我ながらあり得ないが、ある種の恐怖を感じながらも、僕はさらに近づき。
壁にかかった絵の額をそうっと持ち上げ、外し、下に裏返して置いた。
この絵は、紫藤に見せちゃいけない。そんな直感がする。
少なくとも、今はまだ。
戻って、引き戸を少し開ける。。
紫藤はワクワクの気配から、心配そうな気配になっている。
大丈夫、危険なものはないと思うよ、といいながら招じ入れる。
だけど、ちょっとここは長居しない方がいいかも。ちょっと掃除してからの方が。ほら、色々、虫の死骸とかあるかもしれないし、キモい標本とかあるよ。
キモい、という言葉は流行ってないが、意味は通じたらしい。
だが全く見せないのもおかしい。笑いかけて、見ていいよ、と部屋を見せる。
紫藤は目を慣らし終わっていたのだろう(あるいは少し色素が薄い目なので、僕より暗順応が早いのかもしれない)、うわーすごいねーとささやきながらくるくる部屋の中央で回って周りを見ている。
紫藤は、好奇心をかなり満足できたようだ。今は棚に並ぶ本に興味を惹かれているようだ。
暗いのであまりわからないが、自然科学の本、文芸書、古い百科事典とか雑多だ。
標本があるように、生物系の本や実験ノートらしいものも目につく。
過去の教員の私物とかかもしれない。
ーーこんど、照明を持ってこようか。
ーー照明は切れてるみたいだね。点かないよ。窓をあけるわけにもいかないし。
ーー空気入れ替えたいし、少しだけ開けてみてもいいかもだけど。
そう囁きかわして、僕たちはそっと戻った。
音がしないように気を付けながら、引き戸を閉め、掛け金を掛けて、南京錠をつける。
鉄の扉に耳を当て、誰も来ていなさそうなのを確認して、人が通れる最小限で開き、紫藤に先に出てもらい、続いて僕も出る。
そうっと扉を閉めて(でも軋んだ。蝶番に注油が必要だ)、鍵を掛ける。
ほっとする。
紫藤もこちらを見上げている。きらきらした目。僕も安心して、笑いかけた。少しは自然な笑い方になったかな。
階段をそうっと降りる。いざとなったら紫藤を支えられるよう、僕が先に。でも実はさっきのショックで、僕は結構、精神的に打撃を受けてふらふらだったりする。
下に降りて、さて戻ろうかと引っ込んだ階段ホールから廊下に出る。
角のつきあたり、文芸部の和室、501室への上がり階段ホールにほど近いところで、人影が動いている。窓を拭いている。
用務員さんだ。
こんにちは、と声をかけて通った。はあいこんにちは、と応えが帰ってきたが、窓の汚れを取るのに忙しそうで、こちらはちらりと見やっただけ。
開かずの間、504に行ったのは、気づかれていないよな?
紫藤も僕も心持ち、速足になった。
僕はポケットに忍ばせた鍵束がじゃらじゃら音を立てないよう、上からつかみながら通過し、いまでは勝手知ったる文芸部に、バッグが置いてある4階の部屋の方に戻る。
部屋に入り、古い大机の椅子に座って、顔を見かわす。どちらからともなく緊張が崩れ、顔が緩んで、紫藤もくすくすと笑いだし。
僕もつられて笑ってしまった。
万が一にも、廊下に声が漏れないようにささやき交わす。
「大冒険だったよ!」
「ああ、大冒険だったね。」
「わたし、初めて!こんなわくわくしたの!」
「うん、心臓が飛び出すかと思ったよ。」
「あんなになってたんだ。今日はあれだけど、もうちょっとじっくり見てみたかったな。」
「こんど、準備してからね。消毒用スプレーとかももってこよう。ーー用務員さん、気づいたかな?」
最後の問い掛けは、いっそう声を潜めて。
「多分大丈夫と思うよ、ーー」
紫藤はちょっと考え込んだ。
「うん、音はしたけど、多分大丈夫。もし気づいたら、注意とかしてるんじゃないかな。」
用務員さんは相当集中してごりごり鳥の糞みたいなのを取ってた。多分大丈夫だろうな。
「それにしても、ーー」
紫藤は感慨深げだ。
「開かずの間になったのはどうしてかな?悪いことが起きるとかかな?」
「わからない。でも、そこまで本当に閉鎖するつもりなら、あんなもんじゃないだろうし、立ち入り禁止、とか貼るもんじゃないかな。」
「そうだよね!立ち入り禁止じゃないしね!」
紫藤はその後も、いろいろと部屋についての考察を述べていた。僕はうんうん、と相槌をして、そのかわいい小鳥のさえずりを聞いていた。
ただ、頭の片隅では、いくつかの疑問が渦巻いていた。
あの部屋は、そしてあの部屋にあった絵は。
いつ誰が描いたのか。なぜ僕の記憶に酷似しているように見えるのか。
超自然は信じない。いや、もちろんあの獣面の神々や巻き戻りのの記憶を否定するつもりはないので、その点は保留にしている。
だけど。
これは現実だ。僕の夢ではない、と思っている。でも、あの絵は。
調べることばかりが増えていく。でもまあ、僕にはできることをやるだけだ。
にこにことこちらを見ながらお茶を入れてくれている紫藤をみながら、僕も口の端を引き上げ、笑みを形作った。
ーーそれにしても。
浦和先生たちが言っていた迷信。
あの部屋が開かずの間にされた理由、物語とは、いったい何だったのだろうか。
ーーーーー
お茶を頂いて、一服。心が落ち着く。空は少し雲が出てきたかな、でも鳥のさえずりが響き、穏やかな春の午後のひとときだ。
紫藤を見る。紫藤も見つめ返す。ふにゃりと笑う。
僕も笑ってみせるが、なぜかわからない罪悪感に思わず目を逸らしてしまう。
でもまた見つめ返す。
紫藤は目を合わせて、軽く笑んで、目を閉じる。でもその表情は穏やかだ。
お茶を頂いた後、軽く口をゆすいで、急須やお茶碗を流しで洗って、片付けた。
ーーーーー
部屋に戻る。何か、期待してしまっている。それは、紫藤も同じで、そわそわしている、気がする。
所在なげに佇む紫藤の後ろに立つ。紫藤は振り向かない。
細い肩をそっと抱いてみる。紫藤は振り払わない、いや、そっと力を抜いて、軽く寄りかかってくる。
あごにそっと手を添えると、紫藤は上を向いた。
後ろから肩をぎゅっと引き寄せ、肩越しに唇を奪った。
さえずっていた鳥が、さえずりを止めて羽ばたく音。枝を変えたのか、またさえずる声。
柔らかい紫藤の唇に、そして体に興奮して、自分のものが固く張りつめ、そして紫藤の腰に押し付けられていっているのを感じて。
腰を離そうとしたとき、その気配を感じたのか、紫藤が後ろ手に僕の体に手を回して、引きとどめた。
どうしようもなく、紫藤がいとおしく感じた。
でも、もう自制心が持たない。
何かブレーキがなければ、僕は何か賢明でないことをしてしまいそうだ。
まだ、早すぎる。