※この作品はR-18です。

タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。   作:Marchhatter

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 志野視点です。



267 少し汚れて、でも染まらないまま(33)(志)☆?

(志野視点、金曜日夕刻、多賀島中心街から登良川に向けての道路上)

 

「ごめんね、志野くん。

 ──それでさ、わたしへの罰は決まった?」

 

「うーん、そうだね、──」

 

 僕は紫藤を横目でみる。紫藤もこっちをみあげてる。

 軽く微笑みながらも期待と不安をうかべた彼女の表情に、僕は胸がちくっと痛むのを感じた。

 

 昨日は欲望に身をまかせた結果、大事な紫藤にひどいことをしてしまった、と僕は自責の念を覚える。

(朝はまだ浮かれてたけどさ。よく考えると、やっぱりやりすぎてたよね。叩きすぎて体にも内出血とか残ってるかもしれない。)

 まわりに聞いてる人がいないのを確かめ。僕はずっと気になって聞けないでいたことを、彼女に尋ねた。

 

「それで、さ。お尻とか、足とか。──大丈夫だった?」

 

「え?ああ、叩かれたところだね。

 まだ痕は残ってるけど、さ。だいじょうぶだよ、また叩いてくれても。」

 

 僕が、視線を彼女の夏服のスカートに向けると。

 彼女はすこし顔を赤らめて頬を軽くふくらませながら、恥ずかしそうに後ずさりした。

 紫藤は、今日は長めの白い靴下を履いてる。

 あの白い靴下に隠されたふくらはぎにも、僕は残酷に鞭痕を刻んだ。

 それにあの形のよいお尻なんか、丹念に叩いて赤くないところがないくらいにしたはず。

 今思うと、体育はないとはいえ次の日に学校もあるのに何考えてたんだろう、僕。

 

 ──肉体的な苦痛を紫藤のいう「罰」にするのは、やめとこう。うん、少なくとも今日は。

 今日は、ちょっとだけの意地悪。紫藤が罰を受けたって考えて、気が済んで満足する程度のことがいい。

 でも、すこしだけいちゃつけるような性的要素も欲しい。

 それって何かあるかなー。難しい。

 

「志野くん。

 べつに、そんなにわたしに気を使ってくれなくても、いいんだよ?

 またお尻を叩いたり、脇をぐりぐりしたりするとかでも。」

 

 人目があるけど、物陰で服の上からなら大丈夫じゃないかな、と紫藤はいうけれど。

 僕は僕で、ちょっと別の方面のことを考えはじめていた。

 

 ──昨日みたいに彼女の体に性的なことをするのは、今回はあきらめよう。

 人目についても、見逃してもらえるくらいじゃないといけないし。

 でも体じゃなくて、心のふれあい(?)なら?──それならいいよね。

 そういったものを、今日の僕たちの目的地(goal)として考えるべきではないだろうか。

 つまりめざすべきは「精神的に性的な行為」。たとえば、うーんと、──(黙考)

 

 頭がショートして熱くなるくらい、考え込みはじめた僕の思考は。

 おそらく当初の意図とは盛大にずれた方向性に向かい始めていたのだが。

 焦って空回りしやすい準童貞の悲しさ、それをまったく自覚できていなかった。

 とりあえずは、じっと僕の返事を待ってくれてる紫藤に、この方向性を伝えておこう、と僕は思う。

 

「そうだね。でも、人目につかないようにしなきゃいけないし、あまり痛いのはやめとこう。

 ちょっと恥ずかしいこと、くらいのことでもいいかな?」

 

「恥ずかしいこと、って?いまさらだよ。

 志野くんは、だって、──昨日もわたしのお尻とか、見たよね。

 しかもあんなことまでして、さ?」

 

 あれ以上恥ずかしいことって、そうそうないよ!?と、紫藤が僕をにらむ。

 昨日の屈辱感を思い出したのか、彼女の透けるように白い頬がほんのり赤らむ。

 白い夏服に包まれてはにかむ紫藤の、いかにもかわいい清純な姿をみつめているうちに。

 

 ──このいかにも純真無垢な紫藤を、もっと恥ずかしがらせてみたい。

 

 そんなろくでもない思いが、僕の阿呆の準童貞脳にひろがりはじめていた。

 具体策は思い浮かばないけど、たとえば、さ。

 ほら、幽○白書の「樹」が、ほざいてたみたいなこと。

 「キャベツ畑」や「コウノトリ」を信じてる女の子に、無修正ポルノを見せつける快感が*1、どうのこうの、って。

 紫藤への罰にもなって、僕も満足。完璧じゃないか。

 

「あー、でもさ。

 『ちょっと』じゃなくて『すごく』恥ずかしいことになるかも。やっぱりみなりには無理なんじゃないかな」

 

「志野くん!何を言ってるのかな!

 わたしの辞書に、志野くんとのことで不可能なんていう言葉はないんだよ!

 どんな恥ずかしいことか知らないけど、それ、やってみせるよ。楽勝、楽勝だよ!」

 

 わずかに残ってた僕の正常な思考から出た言葉に対して。

 彼女は、青筋を立てそうないきおいで食い気味に反駁してきて、僕はあわてて謝った。

 

 ひょんなことで、彼女から言質を引き出してしまった僕は。

 行く手にみえてきた登良川の緑を目に、まだぼんやりとしか思いついていない処罰プランを必死で練り上げることにしたのだが。

 そのときには、もう、そもそも紫藤には罰を受けるような罪咎はなにもないのだということなど僕の馬鹿頭から消し飛んでいたのだった。

 

 ──────

 

 そして、十数分後。

 

「──志野くん。さすがにこれは恥ずかしいよ。」

 

 紫藤が、湿ったジト目で僕を横目にみながら抗議する。

 僕たちは、さっきと同じように並んで登良川の土手をゆっくりと歩いてる。

 ボウリングが終わったときから感じていたんだけど、すこしずつ風が出てきていて。

 もうすぐ雨が降るかもしれない。ごろごろごろごろ、とまた、どこか遠くで雷か何かの音。

 

 僕たちの外見は、ぱっと見ではさっきとほとんど違わない。

 しいていえば。

 彼女は背中側に両手を回し、黒い学生鞄の持ち手を持って歩いてる。両手を交差させるような、すこし気取った持ち方をしている。

 そしてなぜかときおり非難するようなジト目で僕をにらむ。彼女の頬は、はっきり赤い。

 それに対して笑みを返す僕の手は、その彼女の腰の横後ろあたり、きゅっとしまったウエストから小さいながらもしっかり張り出した、丸いお尻に移るあたりにいやらしく添えられている。

 ──いや、ときどき、どさくさにまぎれてサワサワと動いて感触を味わっている。

 そのせいで僕の制服のズボンの前がもちあがってる。これは紫藤には、バレてないよね?

 

「でもさ。恥ずかしくないと罰にならないよね。」

 

「そうだけど。──そうなんだけど、さ!」

 

 ううー、恥ずかしいよ。志野くんの変態!──と、口ではいいながらも従順に僕に促されて歩く彼女。

 川の土手の上のほうにある、昔の堤防の名残か何かのコンクリの壁。あそこにならんで腰掛けようかな。

 そう思い、僕は黒い笑みをうかべながら、彼女のエスコートを続ける。

 

 ぱっと見では、僕たちはちょっと距離近めのカップルってだけ。そのくらいなら、多賀島でも珍しくはない。

 でも間近でつぶさに観察すれば、気づかれてしまうかもしれない特徴がある。

 

 たとえば。

 後ろ手に黒い学生鞄を両手持ちしてる、彼女の手首。

 肌の色によく似た茶色で、よほど近くで注意して見ないと気づかないけど、強力な輪ゴムが巻かれている。

 その、輪ゴム。良質なゴムは、彼女の両手首に食い込むように幾重にもきつめに巻かれており。

 きっちりと彼女の両手首を拘束し、彼女の自由を奪っている。

 要するに、彼女は後ろ手で縛られたまま、とことこと僕と土手をお散歩してるわけだ。

 彼女が僕に恥ずかしそうに怨嗟の目を向けるのも、無理はないと言えよう。

 

 そう、僕は紫藤への罰として、一種の羞恥プレイにつきあってもらおうと考えたんだ。

 もちろん、彼女が衆目を浴びて本当に傷つくようなことを、させたいわけじゃない。

 でも、恥じらって頬を染める彼女の姿がもっと見たい。できれば、軽い性的な要素つきで。

 だから雨が近づき、人がいなくなってるのもあって、僕はうかうかとこの挙に及んでしまった。

 

 恥ずかしがり、僕を意地悪だと詰る彼女を横目に、僕は充実感を覚えながら。

 ここにいたる経緯を、回想する。

 

 ──────

 

 登良川は、そこまで大きな川じゃない。

 ただ、それなりの広さの河川敷もあるし、2メートル近くの葦やススキの大株も茂ってる。

 その河川敷は、いつもは少年たちの遊び場でもあるし。

 犬を散歩させたり、大学生と思しき恋人たちが仲良さげに歩いてたり。

 ただ、さすがに夕方、曇っていまにも雨が降りそうなこともあって人は少ない。

 

 その登良川の岸辺に、到着すると。

 僕は左右をみすまし、もちろん超感覚もぬからず起動させ。

 僕たちを見ている人がいないのを確認して、彼女を葦の茂る陰にいざなった。

 

「志野くん。わたしはいいんだけど、さ?

 さすがにここはお尻を叩いたりしてたら、バレるんじゃないかな、人も来そうだし、──」

 

 彼女は僕に従い、葦の陰にしゃがみこみ、不安そうに葦を透かし見ながらそう言った。

 

「今日は、叩いたりはしないよ。

 だってさ、昨日叩いたばっかりだし。

 ──まだ、痛いんだったよね?」

 

「うん、──ちょっとぴりっとするところもあるかな。

 痕も、朝みたときはまだのこってたよ。」

 

「じゃあ、そういうのは今日はナシで。

 そのかわり、さ。これをつけてもらっても、いいかな」

 

「あー、これって。もしかすると、──?

 ここで?恥ずかしいよー!

 うわー、大丈夫かな?」

 

「大丈夫大丈夫。ほら、後ろを向いて。そうそう。

 ちょっとの時間だけだから、さ。」

 

「あー、もう、──ちょっとだけだからね?」

 

 賢い彼女は、僕の手に取りだされた、それ。

 結束用の強力な大型輪ゴムをみて、僕が何をしたいか察知したみたいだ。

(この輪ゴム。いつのまにかポケットに入ってたんだけど、入手の経緯は不明だ。

 たぶん昨日、仮部室で新聞雑誌を整理したときに、束ね用のやつを回収してポケットに突っ込んでそのまま忘れてたんだと思う。)

 

 彼女は鞄を置き、後ろを向いてしゃがみこみ。

 そして両手を後ろ手にまわし、僕がその輪ゴムを通しやすいように両手の指を伸ばして細くして、揃えてみせた。

 この強力な大型輪ゴムを、3、4回ループを重ねた輪っかにして両手の先に通し。

 くるくる巻くようにして手首側に移動させ、なんとかぎりぎりで手のひらの部分を通過させる。

(幸いにも輪ゴムは新しくて超強力。よく伸びてくれた。)

 

 輪ゴムの結束は、彼女の細い手首の位置に移った。ほどよく手首に食い込んで拘束してくれてるようだ。

 鬱血が怖いけど、様子をみるにまだ大丈夫かな。痕くらいはついてしまうかもしれないが。

 紫藤は後ろ手に束ねられた手首を引き抜こうとしたり両手首の間を拡げようとしたりしてたようだが、果たせず、独力では抜けられないと悟って。

 僕の顔を、しょんぼりと情けなさそうに上目遣いで見上げた。

 その哀願するような目に、僕の脳のどこかがぴくぴくと快感を覚えはじめる。

 いかにも美少女チックな紫藤の恥じ入る姿がそそる。すごく楽しい。

 

 ──────

 

 僕はそこまで思い出して、わずかに含み笑いをする。

 横目で僕をにらんでたらしい紫藤が、むー、と控えめに抗議の声をあげる。

 雨の前兆か、芦原をそよがせてすこし涼しい風が吹き抜ける。

 紫藤がその風に、はわわ、と困った気配。もちろん僕は彼女にぴたっと寄り添ってカバーに入る。

 どんな風からも雨からも紫藤のことを、守らねばならない。

 脳内イメージでは彼女を護る騎士となってる僕は、はためく彼女のスカートをさりげなく押さえながらそう思う。僕の目は澄んでるはずだ。

 紫藤の体温をすぐ横に感じながら、僕はまた回想に戻る。

 

 ──────

 

 ──紫藤の手首を強力輪ゴムで縛めた後、僕は思った。

 

 ──これはこれでいいが、これだけじゃ性的な要素が足りない。

 もう少し、もう一押し、なにかの刺激が欲しい。カレーには福神漬が必要なように。

 たとえば陳腐だけど、──あれをしてみよう。

 

「じゃあ。ほら、みなり。

 ちょっといいかな、立ってみて。」

 

 紫藤はこわごわと、立ち上がった。

 今度は僕が紫藤の横にしゃがみ込み、まず彼女の手首の輪ゴムの様子を検分する。

 ──うんうん、いい感じだ。次の段階に進もう。

 

「それじゃ、これからみなりの下着をおろすけど。──いい?」

 

「え?」

 

「だから、さ。下着。」

 

「えっ?下着、って、志野くん?

 ──わ、あわわっ」

 

 立ちすくんで戸惑う彼女のスカートの裾から手を侵入させる。 

 傍目からみると、どうみても痴漢事案。

 

「ほら、声を立てないで、──いいかな?

 じゃあ、ちょっとごめんね。そうそう、いい子。」

 

 僕は紫藤のスカートの中に手を突っ込み。

 膝のあたりから入れた手のひらを、彼女の太腿に当てて滑らせ、その滑らかな感触を味わいながら上げていき。

 細い腰のあたりにまで、手をぐっと侵入させた。

 腕にかかった紫藤のスカートの裾が、顔に触れ。

 かすかに漂う甘い女の子の匂いに、僕の脳はぐらぐらと攪拌された。

 ショーツにぴっちりと包まれたお尻の感触を両手で味わった後。

 キモくも彼女の細い腰にまで這い上がっていった僕の手の指はその裾に入りこんだ。

 紫藤が、びくっと体を固くするが。

 僕の手は非情にも紫藤の下着を、すりすり、と引き下ろしていく。

 

 彼女は拒まない。いや、後ろ手に彼女を縛める輪ゴムの手錠のせいで拒めない。

 小さいながら、盛り上がったお尻を通過させる。彼女も、僕が本気だと分かったのか声をあげたりはせず、軽く腰をひねってお尻の部分を通過しやすくしてくれた。

 

「それじゃ、みなり。

 ──これ、貰うよ?」

 

「へ?──ええっ!?」

 

「静かに、静かに。ほらまわりに人がいたら気づかれちゃうから、さ。

 ──ほら、右足をすこし上げて。そうそう。そして次に、左も上げてみようか。」

 

 僕は軽く彼女を恫喝して声を押さえさせ(ただ、周りに人はいない。超感覚さんがそう言ってる)。

 さらに下着をずりずりと膝の下、足首にまでおろし。

 軽く片足をあげさせて、足から抜きとる。

(彼女は後ろ手に縛められた手を僕の肩に軽く当ててバランスをとり、その足を浮かせてくれた。)

 反対がわの足も、同様の手順をたどり。

 そして僕の手にその、彼女の体温でまだ暖かいやわらかい布が回収された。

 

「これ、今日は没収。これがみなりへの罰だよ」

 

「──むー、志野くん、これは変態だよ、変態!」

 

「うん、ごめんね。でもこれ、罰だから。

 それで、さ」

 

「もしかして、──?」

 

「そう。僕、みなりとこれからすこしお散歩したいな。

 ──いいでしょ?」

 

「えー、ほんとに?

 冗談じゃない、──んだ、うあー」

 

 目論見どおり、紫藤は顔を赤く染めて抗議し。

 僕は恥じらう彼女のかわいい顔をほくほくと堪能する。

 さっき言質を取ったのが、ここにきて効いてくる。

 最終的に紫藤は、しぶしぶながらJKお散歩に同意した。

 

 超感覚で誰もいないとわかっていても、一応は様子を窺ってみせて、紫藤を安心させてから茂みから連れ出す。

 輪ゴムで強力に束縛されてるので、彼女の後ろ手にまわした手首は、交差させた形になってる。

 その手に、鞄の取っ手をもたせる。幸いにもプリント教材での授業が多かったので、今日の紫藤の鞄は軽めだ。

 彼女はしっかりと手首をクロスさせ、お尻のあたりで後ろ手で鞄を持つ姿勢。

 そしてちょっと眉を下げた、困ったような顔で僕をみる。

 

「ねえ、志野くん。わたしがもし転んだら、──」

 

「大丈夫、転んでも大丈夫なように、全身全力で僕がエスコートするよ。」

 

「んもー、──じゃあ、お願い。

 わたしを、守ってください。」

 

「任された」

 

 そして僕たちは雨前の涼風が吹く河川敷で、散歩を始めた。

 

 ──────

 ──────

(紫藤みなり視点、金曜日夕方、登良川の河川敷)

 

 わたしと志野くんは、傍目にはいかにもふつうの初々しいカップルのように、ぎこちなく寄り添って歩いてる。

 わたしの頬は、おそらく赤い。志野くんも、少しだけ。

 その志野くんの顔をみあげて、わたしはほおをふくらませる。

 志野くんが、いつもにましていじわるなんだ。

 

 それはさておき、ここからが正念場だ。

 雨が降りだしそうとはいっても、人は多少いるんだ。この川原に。

 こっちから近寄っていくことはしないけど、向こうが歩いてきてしまう。

 その遭遇を、わたしはおそれつつもまちうける。

 

 記念すべき一回目は、小学生高学年か中学生低学年くらいの男の子たちの群れ。

 なんかしゃべりながらわたしたちをみて、同級生くらいかと思われたのかな、一瞬会話が止まった。

 わたしははずかしくて顔を伏せたけど、志野くんがじっと彼らを見返す。

 男の子たちはきまり悪げにまた会話を再開させて、とおりすぎていった。

(もちろん志野くんは、わたしの手首を見られないよう軽くわたしの腰に手をあてて、エスコートしてくれた。

 いじわるだけど、志野くんはこういうところではきっちりとわたしを守ってくれる。)

 

 すこし離れた場所でいま通りすぎた男の子たちが「あれ、どこ中?」「あれ中央高。俺の姉貴と同じ」「マジ、マブい」とか話してるのが聞こえた。わたしはまた頬が熱くなってうつむいた。

 

 わたしを後ろ手に拘束して下着をとりあげ、散歩させるという鬼畜プレイを強要している志野くんも、ほうっと息をつく。緊張してたみたいだ。

 男の子たちがとおりすぎると、志野くんがわたしの腰から手を離した。

 それが心細くて、わたしは志野くんに呼びかける。

 

「志野くん。なんかすごい無防備な感じ、──

 もうちょっと、近くにいてくれるかな?」

 

「大丈夫大丈夫。じゃあこうしてるよ」

 

 志野くんは悪いと思ったのか、わたしの横(少し後ろ気味)にぴったりとくっついてくれた。

 そして手を回して、腰のあたりに当ててくれる。その手から、熱というかエネルギーがうつってくる気がして。

 わたしはほう、とその心地よさにため息をついた。

 志野くんが、さすさすと腰の細いあたりから骨盤の上のあたりをさすってくれる。快感が増大する。

 うれしくて見上げてにこにこすると、志野くんが決まり悪そうに目をそらした。なんでだろう。

 

 そして。

 脳が沸騰するくらい、はずかしいと思っていたけど。

 意外にこれはこれで「あり」だよ。

 

 手首をこうして縛り上げられているのも、わたしの好みに合う。

 志野くんに、きつく情熱的に手首を握りしめられてるみたいだ。

(強力なゴムは、きりきりと手首を締め上げてくる。そこに縄とはまた違った新しい感覚がある。)

 下着を取られて素肌がすーすーするのも、妙にスリリング。

 もしみつかったら、──と思うと、背徳的な陶酔感を覚える。

 そして、だね。

 志野くんのズボンの前が、さっきからはっきりと持ち上がっているんだ!

 これは、さとみんに報告だね、報告。──いや、隠してたほうがいいのかな?

 

「みなり。ちょっと注意してね。ほら。」

 

 2回目の遭遇。柴犬をつれたおじいさんだ。

 犬がかなり近くに寄ってきたので、飼い主も近い。志野くんは、もちろんわたしをガードしてくれるんだけど。

 手首の方のガードと、わたしの正面のガードは両方いっぺんにはむずかしい。

 こともあろうに、正面から犬が寄ってきて、くんくんとわたしの靴のあたりを嗅ぎ。

 軽く鼻をスカートに突っ込んで膝のあたりに鼻づらをあげてきた。

 さすがに見かねた志野くんが割って入り、飼い主さんがリードを引いてくれたのもあって、無事に離れる。

 志野くんが、すごい顔をしている。ちょっとうらやましそうなのはどうしてだろう。

 

 あまりに動転してたのだろう、わたしを悩ませる頭のいたみや、奇妙な思考誘導みたいなものが。

 このどぎまぎして頭の中がゆだってる状態のときは、一時的にとまっていることに。

 わたしがきづいたのは、あとで志野くんと別れてしまってからだった。

 

 ──────

 ──────

(志野視点、金曜日夕方、登良川の河川敷)

 

 このスケベ犬め、あの位置からはスカートの中が見えてもおかしくないぞ。まさか転生した元人間じゃあるまいな。

 

「あー、ごめんね。めずらしいな、タロウがこんなに懐くなんて」

 

 幸いにも飼い主の穏やかそうな老人はすぐにリードを引いて引き離してくれたけど、エロ犬はずりずりと紫藤に向かいたがってる。

 可愛い顔をしてみせてるけど、僕はだまされないぞ。あれは雄犬だろう。

 ピリピリする僕をよそに、のんびりと紫藤と飼い主が会話をかわしてる。

 

「わたし、どうしてか犬に好かれるんです。」

 

「あー、そうなの。いやー、この子がこんなになるなんてねー。

 いつもはもっと人見知りなんだけどね、お嬢さんがよほどいい匂いだったのかもね、はっはっは」

 

 笑いごとじゃないぞ、その可能性大ありだ。

 僕は「フェロモン」という単語を頭に思い浮かべた。

 一般に、フェロモンは動物種ごとに異なる。受容体が異なるからだ。

 でも、たしかごく例外的に、共通の受容体の存在が示唆されていて、──。

 

「ねえ、志野くん。今のはあぶなかったね。」

 

「ああ、柴でよかった。」

 

 大型の犬、たとえば秋田犬とかだったら、紫藤が押し倒されてて大惨事だったかもしれない。

 そろそろ、戻って解放してあげた方がいいだろうか。

 

「志野くん。待ち合わせは次の橋のちかくの公園なんだ。

 そこまで、がんばってみるよ。」

 

 どういう心境の変化か。紫藤の考えは弱気になりかけた僕とは違っていた。続行だそうだ。

 気がつくと紫藤がいつもよりいっそうみずみずしく、魅力的にみえる。僕の手がまた思わず彼女の腰にのびる。

 僕も、紫藤さえよければ続けることに否はないんだけど、さ。

 これはこれで、僕は生殺しだ。

 さっきから興奮して勃ちっぱなしなのに、なにもできないよ。

 

 かろうじて僕の手は、さっきから紫藤の腰を這いまわっている。

 きゅっと細いところから、それなりに体格のわりにはよく張ったまるいお尻に続く曲線。

 それが、僕を魅惑してやまない。すりすりと撫でる。

 紫藤はたぶん、歩くのに集中力をとられてて、僕の不埒な手指に気づいていないはず。

 

 さて、今度は大学生っぽいカップルとの遭遇戦だな。もう距離は50メートルを切った。

 まだ向こうの視線はこっちに向いてない。ここぞとばかりに、僕は紫藤の腰を撫でさする。

 あー、さすがに露骨で気づかれたかもしれない。紫藤がまた僕をみあげて、くふ、と笑う。

 僕も決まりわるげに、笑い返す。楽しい。

 僕と紫藤はそうして、夕方の河川敷をゆっくり上流に歩いていく。

 

 ──────

 

 どうやら僕たちをほほえましく思っているらしい、温厚そうな大学生風のカップルをやりすごし。

(あの子すっごいかわいくない?とカップルの女の子が相方に言ってる声が背後からかすかに聞こえて、僕は大いに気をよくした。もちろん、下着を脱がせて手首を縛ってることには、運よく気づかれずにすんだ。)

 

 ぷちぷちした赤ちゃんを抱っこ紐で前にかかえた、麦わら帽子の若いお母さんとすれ違い。

(赤ちゃんはダバダバと喃語をもらしながら、ちぎりパンのような手足を動かしている。紫藤はにこにこして僕の顔を見上げた。もちろんお母さんは赤ちゃんに話しかけてて、運よく僕たちのことはあまり気にかけていなかった。)

 

 ヤンキーっぽい、なんかダンスを練習してる他校の高校生女子の横を通過し。

(気のせいか、僕は彼女たちを一度見たことがある気がするが思い出せなかった。

 彼女たちは最初紫藤に目を惹かれて練習を一時止め、そして次に信じられないような顔で僕の顔を二度見していたが、運よく絡んではこなかった。)

 

 岸辺で仲良く水切りしてたみたいだが、撤収しようとしてる小学生とそのお父さんらしき親子を見送り。

(紫藤はここでも彼らの目を惹いたみたいが、運よく雨が降りそうなこともあって彼らは急いで土手を上がっていった。)

 

 そうした数回の遭遇を経て、僕たちは目的地の橋にたどりつく。

 時計をみる。思ったより時間がない。

 軽く周りに視線を飛ばし、超感覚さんでもだれも見ていないのを確認し、僕はおずおずと彼女の唇を奪う。

 やわらかい唇を離すと、紫藤がうれしそうに微笑む。頬が赤い。僕の顔も赤くなってるだろう。

 特に隠れることもなく(みてる人もいない)、彼女の手首の輪ゴムを外す。

 やっぱり、軽く鬱血させてしまったみたいで手首にゴムの痕もついてる。そのうち消えるだろうけど、悪いことをした。

 

「志野くん。そろそろかな、──楽しかった?」

 

「あ、うん。」

 

「わたしも。なんか、すごくどきどきしたよ。」

 

 夕暮れの川面。どどどどーん、と遠くで雷鳴。

 

「志野くん。明日は、さとみんたちなんだよね?」

 

「ああ」

 

 そうそう、あの調布がよこしたメモ書きを見ないとな。

 でも、今はダメだ。僕だってそのくらいはわかる。恋人の前で、他の女のことを話すのは。

 

「楽しんできてね。

 いいよ、多少はめ外しても。えーと、その。進展しても。

 でも、さ」

 

「うん?」

 

「もし。志野くんが大丈夫だったら、──あさっては無理かもしれないけど。

 休みの間に、さ?」

 

 次に会う日のことを、僕たちは約束し。

 雨が降り出す前、彼女の迎えがくるまでの束の間、僕たちは未来を語りあう。

 次の約束、夏休みの予定。そしてさらに将来の展望。今日より昨日より、もっとすばらしい日々への里標。

 

 紫藤も僕も、ここしばらくは毎日会えるわけじゃない。

 奨学金の受給条件として、彼女は建前上はホストファミリー住み込みのお手伝いさんみたいな立場になるらしいし。学校のない間は、働かないといけない。

 でもまあ、でも彼女の先輩の巨乳メイドとの関係も悪くないらしい。彼女は可愛がられてるみたいで、それほど心配はないだろう。

 紫藤は転校するかもしれないが、かえって安全かもしれない。すこしのがまんだ。

 ──このときの僕は、危機感が足りてなかった。

 

 僕たちの会話はいつしか、ありがちだけど。

 自分がいかに相手を想っているかを相手に伝えて競いあうものになっていた。冗談まじりからはじまり、悲劇のヒロインのノリになったり。

 

「将来、志野くんがわたしの元からいなくなってしまっても。

 ──わたしは、志野くんがいいな。

 わたしはきっと、ずっと志野くんを待ってるよ。」

 

「大丈夫、どこにもいかないし。

 でもそんなこと言わないでよ、縁起でもない」

 

「えへへ。ごめんね。

 でもさ、いろんなことがあるから、さ。

 もしいつか、離れ離れになることがあったとしても。

 わたしは、志野くんのところに戻るよ。きっと。

 志野くんも、──できたら、戻ってきてほしいな。

 どんなことをしてても、どんな姿になってても、いいから。おこらないから、さ。」

 

「大丈夫だって!──でも、さ?

 すごく時間がたってしまって、僕がその間に『なんしょおじさん』みたいになってたらどうする?」

 

 「なんしょおじさん」ってのは、僕たちの高校の近くに時おり出没するホ○ムレスみたいなおじさんのことなんだ。

 「なんしょる?」って、めちゃフレンドリーに女の子には声をかけてくる。

 男子には声をかけない。男女ペアにも、もちろん。

 1年生女子が被害(?)に遭うことが多い。声を掛けられても、べつに返さなくて大丈夫。それにあいさつし返しても、別に会話が続くわけでもない。

 このおじさん、基本無害だけど服が汚れててかなり臭う。

 

「うん、いいよ。お風呂に入ればいいんだし。

 それに志野くんなら、お風呂にはいらなくてもべつにいいよ。

 おじさんになっても、おじいさんになってても。」

 

「逆もあったりするかもよ?

 もしかすると、すごいお金持ちエリートになってるかもしれないよ、僕。

 そしたらすごく高いお料理のコース、一緒に食べにいこうか。」

 

 エリートになるのは無理だろうけど、お金のほうは調布とはじめた投資がうまくいけば、全くありえなくはない。

 

「ふふっ、それはそれで楽しみだね。

 でも、志野くんと一緒なら。いつものごはんで満足だよ。

 いっしょに、お家でごはんを食べようね。そしてさ、──えへへ」

 

 無邪気な誘いを、僕はもちろん承諾する。

 まあ、僕は彼女から離れないから、意味のない約束なんだけどね、と僕は思った。

 

 そんなじゃれあいを、しばしかさねて。

 約束の時間になると、僕は彼女を待ち合わせの場所までエスコートし。

 物陰から、彼女が黒塗りの外国車に乗りこむのをみて。

 ──そして、彼女を乗せた車が走り去るのを見送った。

 

 ぽつり、と最初の雨の一粒が頬に当たった。

 

*1
主人公による不正確な引用だが、幽遊白書第16巻の樹の台詞のことを言っていると思われる。

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