※この作品はR-18です。

タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。   作:Marchhatter

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志野視点→場面が変わり、有明視点です。
ちょっと長いので、後で整理するかもしれません。


14 NTRは突然に
270 少し汚れて、でも染まらないまま(36)(志、有)


(志野視点、登良川沿いの公園、金曜日夜)

 

 くしゅ、と僕はくしゃみをした。

 

 結局あの後、紫藤を連れ去る車を見送り。

 なぜか今生の別れのような、寂しい思いを味わいながらも。

 家に帰ろう、と思ったのだが。

 

 まだ紫藤のお迎えの車が視界から消えないうちに雨が降りだし、すぐに滝のような強雨になった。

 10メートル先すらよく見えないくらいの、激しい雨。

 これはまずい。

 

 いつもと違って自転車じゃなかったのは、幸いだったが。

 僕の鞄の中には、傘はなかった。一勝一敗。空を見上げる。

 大粒の雨粒が地面をたたいている。空も暗い、しばらく止みそうにない。

 そんなわけで、僕は心ならずもすこしずつ暮れなずむ公園で雨宿りを余儀なくされていた。

 

 ──どうすっかなー、もう濡れるのを承知で帰ろうか?

 

 そう思い始め。

 離脱準備を整えていた僕は、ふと、妙なものに気がついた。

 

 最初は、子供がわすれた玩具か何かのような印象を受けた。

 僕は『2回目』では眼鏡はかけずにすんでるけど、決して目がいいわけじゃない。

 ふさふさ毛の生えた、瀟洒な短い棒。

 赤ちゃんのおしゃぶりとかかな、と思って目を凝らして、──胸のあたりが急に冷えるような感覚を覚えた。

 

 ──猫の前足。それが、公園のトイレのそばに転がっている。

 

 どこか別の場所で死んだ猫の足を、烏がはこんできたかどうかしたのだろうか。

 一瞬無意識に止めてしまった息を、意識してゆっくり吐きだす。

 不気味だ。早く帰った方がいいか、雨を強行突破しよう。

 

「知ってますか。あれ、Zhalquimadharがやらせたんですよ。」

 

 声がして、僕はそれこそ口から心臓が飛び出そうなくらいにびっくりした。

 

 もともと、僕が雨宿りしてたこの木。

 結構な大木で、実は僕以外にも雨宿りしてた人が数人いた。

(公園にいたお年寄りとか親子連れとか小学生たちとかで、雨が降り出した時にこの大木に集まってきてた。)

 ただ、お迎えが来たり(おじいさんと親子連れ)、ひゃあ、とか言いながら頭にタオルを巻いて走って帰ったり(小学生たち)で、もう残ってる人はいないと思っていたのだが。

 この声をかけてきた彼。気配が薄くて気づかなかったけど、この子が残されていたみたいだ。

 

 僕は彼(たぶん)の方を伺いみる。

 中学生くらいの、背ばかりひょろっと伸びた男の子だ。

 髪がもしゃもしゃと長い。公立だったら生活指導の先生にどやされるはず。

 おそらく、私立中か国立大付属かなにかなのだろう。

 頭は良さそうな話しぶり。顔は良く見えなかったが目が暗く、濃いくまがある。

 顔は女の子のように整ってるみたいに思えたけど、どこか空虚な感じがした。

 

Zhalquimadhar(ざるきまだる)って、言った?何それ?」

 

「こわいものです。最近、この街の近くにいる。」

 

 ぼそぼそとしたしゃべり。

 どう考えても外交的な感じには見えないのだが、僕に話しかけてきたのはどうしてだろう。

 僕も、正直かなり話しかけにくいタイプだって言われるんだけどな。真顔だと怒ってそう、とか。

 

「君のまわりで、ああいうことが多く起きる?」

 

「はい。最初は、小さい生き物でした。

 飼ってた金魚が死んで、逆さになって浮いてました。

 つぎに、つかまえたカブトムシの頭がなくなってて。

 その後で。

 塾の帰りに、道端で蛙が死んでたり、ねずみが潰されてたり、──」

 

 なんだか、不気味なことを彼は言い始めた。

 

「──だんだん大きくなってきたのを、覚えてます。

 最後は、猫くらいの大きさでした。バラバラにされてました。」

 

 僕は、目の隅から淡々と語る彼の姿を見据えながらも。

 一つの仮説を、つくり始めた。

 

 俗説では、あるのだが。

 小動物、たとえば猫殺しは凶悪犯罪の予兆だったりするという。

 要はサディズムを持つものが、そういった小動物の虐待でそれを解消しようとし。

 それで解消しきれず(あるいは、エスカレートして?)、人間、特に子供などの殺人に至ったりするわけだ。

 僕の知るいくつかの事件に共通することで、学術的にはどうかわからないが、僕はこの俗説にある程度の信憑性を認めている。

 あるいは、この子は?

 

「そうなんだ。

 ──ザルキなんとかが、それをやらせたのかな?」

 

「はい。」

 

「それは、ひどいことだね。」

 

「はい。ひどいことです。」

 

「君に命じて、やらせた?」

 

「──はい。いくつかは、兄さんも手伝ってくれました。」

 

「あの猫も、君と兄さんがやったのか?

 それと。──『人』を同じようにしたことは?」

 

 不意に、彼の方向からの圧力が増した。

 得体のしれない巨大ななにかが、こちらに本気で関心を向けてきたような感覚。

 僕は反射的に、顔を上げて身構えたが。

 僕の感じた攻撃的な気配とはまるで裏腹に、彼はこちらを見ずに俯いたまま。

 ──彼自身の気配では、ない?

 

「悪いのは、Zhalquimadarとその使徒です。兄さんは、最近勘違いしてる。止めなきゃ。でももう聞こえてない。

 ──そろそろ戻らないと。」

 

「え?」

 

 突然、彼の姿が消える。奇妙な圧力も、雲散霧消する。

 彼のいたところには、何も見当たらなかった。

 

 たしか、今しがたまで中学生くらいの子がいたはずだ。ぼさぼさの長めの髪、くまのある目つき。

 そして、妙な会話を交わしていたはずだ。ザルキなんとかが、その子に猫を殺せと命令してるとかなんとか。

 しかし僕の目の前には、誰もいない。誰かがいた気配もない。彼がいたはずのところに、足跡すらない。

 

 ──僕、気がおかしくなったのか?

 

 しかし公園の古びた公衆トイレの横には、依然として。

 刃物で切ったと思われる切断面を見せて、猫の足が雨に打たれながら転がっていたのだった。

 

 ──────

 

 不可解な出来事だったが、さしあたり僕にはどうしようもない。家に帰ることにした。

 合皮の黒い学生鞄を頭の上にかざせば、多少は雨を避けられるかと思ったんだ。

 物陰を伝って帰ろう。途中で傘を買ってもいい。もったいないけど。

 

 ただ、雨は僕の想定以上に過酷だった。

 途中で電話ボックスを見つけた僕は、とりあえずそこに避難する。

 中はまだ暑い空気がこもっててむしむしするが、体が冷えた僕はそれすらも有難く感じられた。

 ぽたぽたと水が、半袖の袖先から落ちる。制服のズボンが水を吸って重い。

 今はもうないようなピンクビラっていうかピンクチケットみたいなのが、電話ボックスのガラス壁面、男性の平均身長の少し下くらいにべたべたと貼ってある。

 違法AVの配達とかテレクラの宣伝とかだ。粒子の荒い白黒写真でもわかる豊満な体つきのモデル。なんかイライラする。きっと僕は溜まってる。

 

 電話ボックスにいるのを幸い、電話をかける。くしゃみが出た。

 まず1つは、自宅に。母親が出た。

 もともと打ち上げで遅くなるってことは言ってたけど。

 もっと遅くなるかも、雨に降られてしまってるから、と伝える。

 母親も、この雨しばらくやまないわよどうするの、お父さんも今日は飲みで迎えいけないわよ、とか言っていたが、事情は了解してくれる。これやっとかないと、後でこじれるんだ。

 

 もう1つ、迷ったけれど東京にかける。留守番電話の機械音声のメッセージ。すさまじい勢いで減るテレカの度数。

 ピー、という音の後に、思い悩んで「昨日電話しました。柏原さん、明日の模試はがんばって、気を付けてください」とだけ残す。

 このくらいなら当たりさわりがないし、面倒な父親が聞いてもギリOKだろう。──いや、ダメだったか?残さない方が良かったか?

 電話を切ってから悩んでしまうが、もう終わったことだ。切り替えよう。

 

 最後に、最近知り合ったメンヘラ女のポケベルにメッセージを送る。

 あたりさわりのないご機嫌伺いのメッセージを一つ。追伸で、彼女が見たという猿について尋ねる内容を数回に分けて送信。

 郷里の言い伝えにある。危険だから近寄らない方がいい。また今度詳しく教えて、と。

 そういえば、鷺沼記者に頼んだ有明りなへの取材の話、どうなってるのかな。浦和先生とよろしくやってるんだよな、鷺沼さん。クソッ、早くメンヘラ女案件は押し付けたいのに。

 

 電話を終えて出ることにする。雷まで近くで鳴り出してる、帰ろう。

 アスファルトの地面はこの集中豪雨で川みたいになってる。

 歩き出すと、通学靴のスニーカーは中までびちゃびちゃになる。

 もう鞄をかざしても無意味だ。僕はときどき稲妻の光に照らされる中、最寄りのバス停を目指して走った。

 

 ──────

 

 幸いにもバス停には屋根があり、バスもわりと空いてた。だけどやけに冷房が効いてて、濡れた服が冷える。

 ずぶ濡れの服を心苦しく思いながらも後部の座席にちょこんと座らせてもらった僕は、覚えずまたくしゃみをする。

 まずいな、また風邪とかひいたら。明日は、調布たちと約束があるんだ。

 

 そういえばここまで調布のメモを読んでなかった。まずいな。

 僕は胸ポケットから、これまたぬれそぼったメモを取り出して広げる。

 

 紫藤の丸文字と違う、急いで書いたのか多少走り書き気味だけど整った読みやすい字。

 なるほど、明日9時、できれば自転車で来いとな。なるほど、どっか行く気なのか。あー、竜神の娘のところか?日蔭谷のナギさんとこも、今週は行けてないな。でもこの雨、止むのかな。

 準備するものは、と。場合によっては野外活動するかも、だって?長袖で、というのはまあいい。

 「武器。隠せるもの」って何だよ。何をする気だ。竜神の娘、サクっとやっちゃうとか?

 それに「水着用意のこと」って。プールなのか海まで行くのか???水泳帽とかゴーグルとかもいるのかな。

 お昼ごはんは用意してくれるらしいが、カロリーメイトくらいは要るんだろうな。

 水性ボールペンで書いたのかよ。一か所、もよもよして読めない。

 僕は首をひねりながら、またくしゃみをする。

 窓に打ち付ける雨で、外の街灯も歪んでみえる。

 夜の住宅地を、バスは走り抜けていく。

 

 ──────

 

 家に帰ったのは遅め。母と二人でごはんを食べる。

 僕に対すると思われる電話がついさっきかかってきたけど、母が出るとごめんなさい、と伝言一つ残さず切れたらしい。おい有明(推定)、そういうとこやぞ。

 くしゅ、くしゅん、とくしゃみが出る。やっぱりちょっと体調をくずしたみたいだ。

 熱いみそ汁を無理やり飲まされ、命じられるままにお風呂に入って僕は体を温めた。

 

 父が帰ってきたのは11時すぎ。終バスだろう。

 もう一度寝て起こされて眠そうな母と何か話していたが、今は二人とも眠ってしまった。

 さて、僕も寝るかな。──熱が出そうだけど、アレが勃ったまま収まらない。抜いてた方がいいかな?

 そう思って、昼間の紫藤の姿をオカズに軽く抜こうかと洗面所に向かい部屋を出たときだった。

 電話のベル。反射的に僕はととっと暗い居間に入り、2コール目が鳴る前に手に取った。

 このはた迷惑な時間帯の電話。おそらくあのメンヘラ女だろう、あいつしかいない。

 

「ねえ、しーくん?」

 

 やっぱりメンヘラ女(有明りな)だ。耳に心地よい、ちょっと媚びた声。

 

「有明か?最初は名前を名乗ってくれ。」

 

 正直、ポケベルにメッセージを送ったときに、かけてくるかもしれないって予測はあった。

 ただなー。やっぱり自己中で敵作りやすいな。一度ガツンと言ってやろう。

 

「しーくん、ごめんなさい。声がききたかったの。」

 

「何かあったのか?」

 

 有明りなの息は少し荒く、背後、遠くの方でがちゃがちゃと音がしている。

 

「なんでもないの。大丈夫だけど「おい、まだか。準備はできたぞ。早く来い」」

 

 癇ばしった、神経質そうな男の声が遠くでする。高圧的で、あまりいい感じじゃない。

 くぐもってて、別の部屋から呼びかけた感じだ。

 

「今、どこだ?」

 

「ねえ、しーくん。また今度「りなちゃん、早くするんだね。こんどは、木馬なんだね。楽しみなんだね。」──はい、すぐ行きます!ごめんなさい」

 

 また別の男の声がして、有明が謝る声がはさまった。

 

「おい、有明」

 

「しーくん、ありがとう。今日は、大丈夫。明日、夜に来て。お願い!」

 

 ぷつん、と電話が切れる。おい。

 雰囲気的には葉良家からの電話、という感じだったな。あの背後の男たちの声は葉良議員じゃない。ちょっと聞き覚えがありそうな気もするが、思い出せない。

 いったん部屋にもどったが、どうにも妙な胸騒ぎがする。

 それに熱っぽい。軽く風邪ひいたかな、明日までに治るかな。

 

 ただ有明は明日でいい、って言ってたよな。

 明日はデートなんだけど、どうせ高校生デートだ。夜まではかかるまい。

 帰りにちょっとだけ様子を見に行ってやるか、と僕は思った。

 

 ──────

 ──────

(有明りな視点、葉良邸、金曜日夜)

 

「おい。お客様は神様だ。電話なんぞにうつつを抜かすなど、神様に対する態度かそれは。

 奉仕する者としての、真摯さが足りないぞ。」

 

「はい、お許しください。ご主人さま」

 

 金曜日の夜。若社長(カマキリ男)の住居となっているビルに呼びつけられた有明りなは、長時間にわたり彼ら、若社長とカエル男(我間我得男)の玩具にされていじくりまわされていた。

 彼女が地味な文学系三つ編み眼鏡少女を救い、葉良邸まで戻ってすぐ。

 ほとんど間をおかず、若社長とカエル男が帰ってきたのだ。

 どうやら彼らは、この週末を楽しみにしていたらしいのだ──彼女(有明りな)で遊ぶために。

 

 葉良先生と佐渡も彼女を使おうと思っていたらしいが、若社長には甘い(というより、距離を置いている?)らしい葉良先生が、手番を若社長に譲り。

 彼女は食事を取るや否や、若社長たちによってオタクビルに呼びつけられ。

 そこで衣装の着せ替え人形になったり、寸劇を演じさせられたりしていた。

 それはたとえば「兄と妹」や、「ご主人さまとメイド」の設定を演じる、というもの。

 まあ、今のところはまだ、そこまでハードな内容ではなかった。

 ──ただ本番は、今からだ。

 

 わずかな、プレイとプレイの休憩時間。

 彼女は彼女を心配してポケベルにメッセージを送ってきてくれた志野青年(しーくん)に電話をかけた。

 彼だけが、彼女をちゃんと見てくれる。彼のことを考えると、胸の中がじわっと温かくなる。

 きっと彼も、彼女のことを想っていてくれている。──それには応えられないけど。

 でも、彼のためなら、なんだってする。彼に会いたい。せめて声がききたい、聞ければ今日は耐えられる。若社長たちからこれから受ける拷問も。

 

 そうして許しを得て彼女は休憩時間に、彼の家に電話をかけることができ、声を聞けた。

 今日は、満足だ。しーくんゲージを満タンにできた。

 電話を終えて覚悟ができた彼女は、若社長たちがしつらえた責め具を感心したように眺めながら。

 頭の中でこれまでのプレイのことを、回想していた。

 

 ──────

 

 第一ラウンド。

 食事終わったとたんに、若社長たちから出頭命令が来た。まだ夜8時にもなっていない。

 カエル男からの要望は、兄(カエル男)と妹(有明りな)という設定でいちゃつくこと。

 兄を慕う妹が、さまざまに兄にきわどいアプローチをする。兄はその気はないが、まんざらでもなく応じる、といったイメージらしい。あのつっかえながらの口調で説明を受ける。

 おそらくあの地下バーで彼を「お兄さま」と呼んでいい思いをさせてやったことが、成功体験として彼に刻み込まれたのかな、と彼女は思った。

 ──そうだとしたら、彼女としては可愛くセクシーなブラコン妹を演じるだけだ。

 

 カマキリ男の衣装コレクションから、いくつかの制服を着せ替えさせられる。

 各種タイプのセーラー服。清楚な印象。学園物でも着たことがあり、しっくりくる。これはアリだ。

 ブレザータイプ。スカートはどれも短め。溌剌とした印象。こっちのほうが勝気な彼女には合ってるかもしれない。

 黒のボレロのタイプ。伝統ある女学校なのだろう、落ち着いた優美な雰囲気。だけど彼女は、自分にはちょっと合わないなと思った。ただ、着るならちゃんと演じられる自信はある。

 中学にありがちなジャンパースカート。彼女にはこれもぴったり。ちょっと幼く見える。

 

 彼女は着替えながら、彼らの反応を推し量り。

 最終的に紺のブレザーに軽快な短めのグレーのプリーツスカートの女子制服を選んだ。

 地元の高校のものだろうか、彼らがもっとも反応を示したように思えたのだ。

 ちなみに着替えはすべて、彼らの目の前でやらされた。

 若社長が、舐めるような視線をおくりながら着替えやファッションショーの一部始終を逐一、ビデオカメラに収めている。

 だが彼女はプロだし、きわどい枕営業まがいだってやらされてきた。下着姿を見せるのは恥ずかしいし屈辱的ではあるが、あえて恥じらう姿の演出をしてみせられるくらいにはスレてる。

 

 役柄にあわせて、髪型も少し変えた。

 ロリコンのカエル男にアピールするために、ツインテール。

 完璧主義者の有明りなからすれば、この髪型にするには地毛では短めな気がするが、彼らには違和感がないらしい。

 前のときより、より年齢が離れた兄妹という設定にしよう。タメ口で、活発な感じで。

 

「お兄ちゃん、お帰り!

 最近はお仕事が忙しいの? りなは寂しかった!」

 

「りなちゃん、りなちゃんがぼくには一番なんだね、仕事なんてもうしたくないんだね。」

 

 厚い唇をほころばせて、カエル男が応える。

 ソファに座ったカエル男の前の床に両膝をつき。彼女は頭を彼の脂肪に包まれた足に載せて、うっとりした表情をつくってみせる。

 

「ん、──お兄ちゃんの匂い、素敵。

 ──でもお兄ちゃん、お仕事をしっかりするのが偉い!」

 

 彼の太腿におぶさるようにしなだれかかり、頭をゆらしながらくんくんと嗅いでみせただけなのだが。

 

「りなちゃん、りなちゃん!」

 

 カエル男、チョロすぎやしないか。彼女はぽってりとした彼の手を背中に感じながら、そう思う。

 カエル男の指が、ためらいがちに背中を這い。ブラの線が指でなぞられるのを、彼女は感じる。

 

「きゃっ、──んもう、お兄ちゃん。オイタはダメだぞ!」

 

 また背中からスカートをめくろうとしているのを感じ取り、彼女はぱっと身を起こしてむくれてみせる。

 

「いいんだね、ぼくとりなちゃんは、仲のいいきょうだいなんだね。

 お風呂だって、一緒にはいるんだね。」

 

 ん?なんだ、そっちのシナリオを考えてるのか。私がお風呂で脱がされてサービスする流れ?

 まあ葉良先生たちにもしてるし、別にいいといえばいいんだけど。

 でも、昨日殴られたお腹に内出血が残ってる。裸は見せたくない。一応は代替シナリオを示してみよう。

 

「血をわけたきょうだいだし、もうお風呂は一緒には入らない。

 ──ってお兄ちゃん、言ってたよね?」

 

「ん、そうだったかな、そうかな、──」

 

 ちょっとしょぼんとしている。

 あ、少しは別の餌を与えてやらねば。

 

「そ・れ・よ・り!

 りなは、がんばって働いて疲れたお兄ちゃんのお役に立ちたいな。」

 

「え、りなちゃん、──?」

 

「ほら、お兄ちゃん。肩、凝ってるでしょ。任せてよ。」

 

 カエル男が座っているソファは、変形させてソファベッドにもできるものだ。

 先日は見た記憶がないので、おそらくはプレイのために運び込まれたものだろう。

 彼女は配役に合わせてぴょんと立ち上がり、サイドにあるレバーを引いて背もたれを倒す。

 

「お兄ちゃん、寝て、寝て!」

 

 カエル男は、従順にうつぶせに寝る。

 このいきさつを若社長はニヤニヤしながら撮っているが、楽しいのだろうか?と彼女は疑問に思う。

 

「まず、肩です!」

 

 彼女はうつぶせに寝た、背は低いが太って身の厚いカエル男にまたがる。

 意識的に、彼の背中に恥骨を押し当ててみる。カエル男が首をねじってこっちを見ようとした。

 

「ほらほら。患者さんは寝てください!」

 

 サービス、サービス。彼女は背後からカエル男の両頬を手にはさんで、元に戻させて。

 その際におおいかぶさって、頬に唇を押し当てた。

 

「りなちゃん、ぼくは、──」

 

 すこし上に上がって、肩を揉む。

 彼女の所属組織(リトルウィッチ)は護身術や舞踊などに加え、彼女たちに房中術などろくでもない技術も教え込んでいるが。

 マッサージの技能など有用な技術も教えてくれていて、何事も凝り性で完璧主義者の彼女は相当高度の技術を習得するに至っていた。

 

 彼女の若く強い指先が、カエル男の脂肪につつまれた肩を揉みこむ。

 頭を振りながらカエル男が深いため息をついた。快感を感じているようだ。

 

「りなちゃんは、やさしいんだねえ!」

 

「当たり前じゃん。ほら、今度は背中踏み踏みだよ?」

 

 このところの流行りのルーソに包まれた足で、踏む。

 カエル男がまた首をねじって、彼女のスカートの中を窺う気配。これは、彼女は咎めなかった。

 かえって、思わせぶりに彼の背筋を踏んでほぐしながら、プリーツスカートをつうっと引き上げて見せる。

 若社長のカメラが近づいてきて、ベッド面近くから彼女を見上げるように撮影する。きっとスカートの中、かなりの部分まで見えてる。

 ゲスめ、と彼女は思ったが顔には笑顔を絶やさない。

 そのまま、お尻、太腿、ふくらはぎと揉んでいく。

 

「足の裏も。──どう?お兄ちゃん、気持ちいい?」

 

 カエル男は、余韻に浸るようにしばし横たわっていたが。

 がばり、と起き上がって、そして彼女の足をつかんだ。

 

「わっ、お兄ちゃん!何するの?」

 

「こんどは、りなちゃんを僕がマッサージするんだね。しっかり、もみもみしてあげるんだね!」

 

 あー、でも落としどころか。

 彼女はそう計算し、しばらくきゃあきゃあ言いながら軽く抵抗する。もちろん、プロレスだ。

 押さえつけられて、胸を彼の腕に押し当てながらぬるりと逃げたり。

 まくれ上がったスカートを意識しながら、カエル男の胴体を逆V字に挟んでガードポジションをとってみせたり。

 

 そして結局、わざと組み伏せられる。

 荒く息をつく重たい体が、うつぶせになった彼女の上にのしかかる。

 背後に両腕を揃えて伸ばすと、汗ばんだ手が手首をつかんで拘束した。

 別の手が革手錠のようなものを彼女の手首に巻き、拘束する。こっちは、カマキリ男の若社長の仕業かな。

 

「りなちゃん、りなちゃんの重そうな胸、揉んであげるんだね」

 

 やっぱりな。

 彼女は内心渋面になりながらも、口と顔では「やーだー、エロ兄!」と笑って身をよじって、盛り上がってみせる。

 基本的に背は低めだし細いロリ体型の彼女だが、意外に胸は大きい。

 ついでにいえば足もいい感じにエロい、と言われる。

 役者としても鍛えてきたし、彼女は自分の体にそれなりの自信がある。

 まあ、この体が人目を惹き、役に立ってきたのも事実だ。

(ただ枕営業もどきではいやらしいことを要求されたりしやすい。功罪半ばするところがある。)

 

 カエル男の手が背後から伸びてきて、ベッドに押し付けられた彼女の両胸を覆うように差し込まれる。

 もにゅもにゅ、とソフトに揉まれる。不思議な快感。胸の先が立ってきたのを感じて、彼女は意図せず顔が赤くなった。

 

(この前からだ。この前、──しーくんと出会ってから?)

 

 おそらくそうではなく、単に彼女の体が成熟してきたということなのだろうが。

 彼女はそんなことを思って、気になる彼のことを思い出す。

 目を閉じてみる。無様に拘束され、胸をまさぐられているが、これがあの彼だとしたら、──悪くない。

 

「あんっ」

 

 快感が高まり。演技でなく、思いのほか甘い声が出てしまう。

 

「りなちゃん、りなちゃあん!」

 

 このカエル声はじゃまだけど。ちょっと意識を変えて、あの青年とちょっといちゃついてると想定する。

 

 胸が、また揉まれる。彼女は逃げるように、しかし誘うように体をねじる。彼の手のひらに、薄めのブラを通して、彼女の胸の突起が感じられただろうか。

 

「お兄ちゃん、ブラが苦しい。はずしてよ」

 

 目をとじたまま要求すると、重たい体重が一瞬はずされ、ブラウスがまくり上げられるのを感じる。

 

 ──この骨ばった手は、若社長だろう。

 でも、しーくんのものかもしれない。しーくんの手も、大きくて指が長かった。丁寧に爪を切ってたな。

 

 手はちょっと苦労しながら背中のフックを外し、肩に回ったストラップをはずしてブラを抜き去る。

 胸が楽になるのを、彼女は感じる。

 腰のあたりにまた重たい体重が乗っかり、解放されたばかりの胸に、ぽってりした手が再び侵入する。

 

「不思議なんだね、やわらかいのにしっかり張ってるんだね、──」

 

 欲望のままに彼女の肌を這いまわり、揉みしだく手。

 だがそれも、女慣れしてない()のものだと思えばいとおしく思える。

 もやもやして、せつないような気持ちが高まる。もっと。

 いつのまにか、声が出ていたかもしれない。

 

「お兄ちゃん、お兄ちゃん。──ねえ、もっと痛くして。」

 

 そう要求すると、手が胸をわしづかみにしてぎゅっとしぼりこみ、彼女はんんっ、と軽く苦痛の声を上げた。

 でも、これがいい。乳首の先に、もっと爪を立てたりしてくれてもいいのに。

 

 上半身をねじりカエル男を見上げると、ぼってりした唇が降りてきて彼女の唇をふさいだ。

 

「ガマガ、下も剥け。」

 

「そうするんだねっ」

 

 また彼女はうつぶせに戻る。

 腰にのしかかっていた重い体重が瞬時消え、そして今度は胸のあたりに下りた。

 体の向きを変えて、彼女の下半身の方を向いてまたがり直したんだ。

 

「りなちゃん、りなちゃんのアソコは、いい匂いがするんだねえ」

 

 下半身を嗅ぎまわられている!彼女は顔が熱くなるのを覚えた。

 

「もう、お兄ちゃんの変態っ!」

 

 精一杯の努力で、彼女は腰を反らしてお尻を少し上げて振ってみせる。

 きっとスカートがきわどくまくれてる。ほら、やっぱり釣れた。

 

「りなちゃあん!すごい、すごい可愛いお尻なんだね!食べたいくらいなんだね!」

 

 女優は、体が資本。落ちぶれても、体のメンテには気を使ってる。

 安くはないけど効果があると思えたコスメ用品をがんばって調達して使ってるし、運動も柔軟体操も欠かさない。食べるのにも事欠いていたときであっても。

 

 彼の汚いぶひぶひという息、そしてこれはスカートをめくってほおずりしてるんだな、と思われるお尻の肌への摩擦。

 下着がまるでTバックのような感じに寄せて剥かれ。そして脂ぎった彼のほおずりの感覚がダイレクトになった。しかし、我慢我慢。

 媚びるように、誘うように腰を振り続ける。

 しかし。

 

「おい、ガマガ。つなぐぞ。これだ。」

 

 ぶいーん、という音がする。あ、これはもしかすると。

 

「ふひひ、りなちゃん。これで、りなちゃんも気持ちよくなるよ」

 

 ぶるぶるという振動、──これは、あれだ。定番のHIT○CHIのマッサージ器か、ローターだな。

 こういう使い方をするということは、知っている。その魔性の快感も。

 彼女はとっさに、腰を強く振って避ける。

 

「もう、お兄ちゃん!りなは、お兄ちゃんに気持ちよくなってほしいのに!」

 

「ぼくは、りなちゃんにも気持ちよくなってほしいんだねっ」

 

 彼女は器用にお尻を振って、カエル男が押し当てようとするマッサージャーを避け続ける。

 その様子は、カエル男の目にはそそるように、卑猥に映っているはずだ。

 ちょっと乱暴だが、一度、彼のものを抜いてゲームをいったん終えよう。

 

 彼女は苦労しながら膝を使って重いカエル男を押し上げ、胴にすき間を作り。

 そしてくるっと、あおむけに向きを変える。

 両足をあげ、まだ起きたことに対応できてない彼の両脇に自分の両足を突き込み、ひっかける。

 そのまま、背筋をのばし、上に騎乗位のように乗っていた彼を、いったんうつぶせに這わせる。

 腕を背後で縛められているのでちょっと苦労するが、リトルウィッチで学んだ寝技で巧みに彼の下から抜け出す。

 

 彼が彼女を見失い、あたふたしている間が勝負だ。

 教えられたように背中をまるめるようにして後ろ手に両手首を縛められた腕の輪にお尻を通し、膝の裏に両手首をもってくる。そして、足を片方ずつくぐらせる。これで、両手首を体の前に持ってこれた。

 体が柔らかい彼女は、かなりの短時間でこれができる。組織の鬼教官との訓練のたまものだ。

 これで、まだ拘束されているとはいえ、腕を使うことができるようになった。

 

 こっちに気づいて向かってきたカエル男に、反撃。もちろん、痛いことなんかしない。

 革手錠で縛められたままの両手首を、カエル男の首にかけて抱擁する。そしてその頬にキス。凍りつくカエル男。ちょろい。

 そのまま、また唇に。そして、唇からまた頬に。

 手首をまたカエル男の首から外し、そのまま下にくだっていく。

 埋まったような首、汗をかいて臭い胸、そしておへそのあたり、そして。

 

「お兄ちゃんが苦しそう!抜いてあげなきゃ。」

 

 太った彼の蒸れた股間の臭いは、なかなかにげっそりするものではあったが。

 彼女は巧みに口で彼のそれを含み、舌で舐め、唇でしゃぶり、快感を高めて射精に導く。

 第一ラウンドの兄妹プレイは、彼女の思う筋書きで、つまり本番に至ることなくくぐり抜けた。

 

 ──────

 

 第2ラウンドは、カマキリ男の要望。メイドとご主人さま。

 様々な要求に、メイドが応えるのだ。

 ここでも、彼女はいくつかのメイド服に着替えさせられ、撮影される。

 フレンチメイドというのだろうか、スカート丈が短くフリフリな飾りが多い、胴に黒革が使われたメイド服を最終的に受け入れる。

 正統派のヴィクトリアンメイドが彼女は好きだが、自分にはあまり合わないことはわかっている。

 

「おい、そろそろ紅茶を入れろ。」

 

「はい。」

 

 ひととおり、家事をこなしていったあと、お茶を要求された。

(ちなみに膝をついての床磨き、脚立に乗ってのガラス磨きは、もちろん家事プレイの定番。お尻側から、ローアングルで若社長のカメラが彼女を追っていた。)

 お茶の淹れ方も、所属組織で仕込まれた。それなりに美味しく淹れられるようになっている。

 一本抜いた後のカエル男は少し眠そうだが、お茶に興奮剤らしきものを混ぜて飲んでいる。

 そばで、お盆を持って待機しようと思っていたのだが。

 

「おい、こっちにこい。そうだ、膝と手を床に着けろ。お前自身がテーブルになれ。」

 

「はい、──熱っ!」

 

 四つん這いにされた彼女の背中に、ティーセットが乗せられる。

 ティートレイはなく、陶器のカップやポットが乗せられる。

 肌をちりちりと焼く、茶器の熱。

 苦痛から逃れようと反射的に体をよじらせようとして、意思の力で踏みとどまる。

 ティーカップやポットを倒せば、これどころでない熱で焼かれる!

 カチャカチャと、背中に乗った熱い茶器が揺れてぶつかり、音を出す。

 

 体を震わせながらも、顔を若社長に向けると。

 愉悦の笑みを浮かべた、若社長のカマキリに似た顔が目に入った。

 若社長は、カエル男とは違う。

 カエル男は、彼女にどうやら恋情らしいものを抱いていて御しやすいが。

 若社長は、有明りなを壊すことを厭わないだろう。

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