タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
「木馬に乗れ。そうだ、普通に乗ればいいんだ。」
有明りなは、回転する車輪に拘束され、ダーツの的にされた後。
太腿に突き立ったダーツの傷に雑に絆創膏を貼られて処置をされ、一時的な船酔い類似の症状がまだ完全には消えていないのに、ふたたびカエル男とカマキリ男により、責め苦の場に引き出されていた。
さすがの彼女も笑顔など維持できず、軽く眉をひそめてしまっているが、カマキリ男たちはそこはさほど重視していないらしい。
門のような形をした巨大木枠の下には、また木馬が設置されている。
つややかに磨き抜かれた、しかしどこか陰惨な印象を与える木馬だ。
彼女は促されるままに、鐙に脚を掛け、木馬にまたがった。
木馬で人がまたがる部分、つまり木馬の背(鞍)の部分のパーツは、目的に応じて取り換えができるようになっており。
たとえばいわゆる三角木馬のような、囚人の股に食い込ませることで苦しみを与えるおぞましいパーツをつけることもできるらしいのだが。
今回彼らがダーツで選んだパーツはウレタン製のクッションが用いられたもので、柔らかく彼女の体を受け止めている。座りごこちはよい。
ただ、彼女はその座りごこちのよさに、むしろ悪い予感を覚えている。
この怪物たちが、あえてこのようなソフトな鞍を使うのは、それ以上にろくでもないことを行おうとしているように思えるからだ。
彼女がまたがっているパーツは、ちょっと変わった形状をしていた。
この木馬の首近くに、またがることを想定しているようだ。
そして背の中央部分に、ラクダのこぶのように、彼女がまたがった位置からちょうど背にそって盛り上がっている(「∩」の字を、高さを低くなだらかにした感じで、上の平らな部分が長めだ)。
その盛り上がり(クッション)に背中を添わせることが想定されていて。
頭が当たるクッション中央部の位置には細く5cm幅くらいの溝穴があいていて、その溝穴によるくぼみに、頭がフィットして安定する。
溝穴は長く穿たれていて、さまざまな身長の人について適合するようになっている。
「そら、手をよこせ。そうだ、手首を揃えろ。」
若社長に言われるままに、有明りなは手首を揃えて前に出して見せる。
若社長は、そのフレンチメイドの衣装の一つである白いカフスを巻いた両手首に、黒革の手錠のベルトを巻き、ぎゅっと締めた。
「膝を折れ。そうだ、そのまましばらく曲げていろ。」
木馬の首ぎりぎりに座り、「ラクダのこぶ」に軽く背を預けた格好の彼女は、後ろに体を倒した姿勢になっている。
あぶみからも足が離れてしまっているが、若社長は彼女にひざをぎゅっとまげさせ、お尻のすぐ下くらいに上げて固定した。感触からすれば、これも革ベルトだろう。
直接見ることはできないが、木馬の側面にその革ベルトを固定できる鉄の輪などの器具があるみたいだ。
「さあ、りなちゃんは寝るんだね。おそらをみるんだね。」
カエル男の厚ぼったい手が、有明りなの胸のふくらみを押し。
彼女の背は、「ラクダのこぶ」すなわち背もたれ状になっている部分に押しつけられた。
ラクダのこぶに彼女の背中の上部も沿わせた。体を軽く反らし、ちょうど天井を見上げる位置に顔が位置する。
彼女の視界には、木の枠の上の部分の横木が映っている。
「りなちゃん、腕を上げるんだね!」
言われるがままに、彼女は革ベルトで拘束された腕を上げる。
カエル男は、彼女の手首の革ベルトに連結された鎖をぐぐっと彼女からみて頭上にあたる後ろ(木馬のお尻のあたり)にひっぱり、そこで固定した。かちゃ、と金具が嵌る音がした。
いわば、彼女は木馬の背の上に、軽くブリッジしたように海老ぞりになった姿勢になって天井を見ているわけだ。
木馬の背の座面は、さほど高いものではない。1メートル2、30cmだろう。
男たち2人が覗き込んでくる。
カエル男が、もよもよとまた胸を揉む。稚拙な手つきだが、彼女は漠然とした快感を感じた。
「ふふふ、りなちゃんにもぼくのお茶を飲んでもらうんだね!」
「焦るなガマガ。まずは、水からだろう。」
「先に抜いてもらえばいいんだね!そしたら、それを使えるんだね!」
「おおガマガよ。それはいいアイデアだ。
有明りな。横を向け。口に含め。舌だけで抜くのだ。」
「はい。」
両腕を頭上の方にぎゅっと引かれているので、かなりの苦労だが、彼女は腹筋に力をいれて首だけを上げ、若社長の方を向く。
木馬の横に高さが調節できる踏み台を置いて、その上に立ったのだろう。
若社長が、ズボンの前を開けて膨れ上がった自分のソレを取り出した。
カエル男とは違い、異臭はしない。先端がとがっててドリルみたいだ、と彼女はまた思った。
ちょっと窮屈な姿勢だが、若社長は身を乗り出して自分のモノを彼女の口に斜めに突き込んでくる。
従順に彼女はそれを口に含み、舌で丹念に転がす。
唇で刺激しようとすると、髪を掴まれて頬を軽く打たれて咎められた。
窮屈な姿勢と舌だけを使うという制限のため、苦労したが。
彼女は舌で先端の孔を刺激したりして、ようやく若社長から抜くことができた。
「これに吐き出せ」
小さいバケツのような、取手のついた容器(たぶん、アイスペールだ)に若社長から抜いた臭い液を唾とともに吐き出すよう求められ、苦労して従う。
「たくさん出たんだね?」
「ああ、十分だ。水を入れてこい、よく混ぜろ。
有明りな、口を拭くぞ。そうだ、それでいい。」
若社長が濡れたタオルで口元を拭ってくれた。頭も元に戻すことを許される。
何をする気だろう、と彼女は思う。
「水、入れてきたんだね!よく混ぜたんだね!」
「ガマガ、ひしゃくがないのでコップかグラスかで代用するぞ。持ってこい。」
有明りなの顔を覗き込む、カマキリのような男の視線に、喜悦がくるめいている。
「さて、有明りな。これが何か分かるか。」
その男、若社長が半球状の革製のカップのようなものから、管とベルトが出ているものを彼女の視界に示してきた。
「じょうご、でしょうか。革でできてますね、──あっ」
「ほう、知っているのか。博識だな。
では、説明はいらないな。」
彼女、有明りなはそれなりに読書家である。
意地悪な親戚に一時的に引き取られたとき、家の中に入れてもらえず、物置に閉じ込められていたこともあった。
その物置にあった、世界文学全集をむさぼり読んで時をすごしていたものだ。そのなかに、「革の漏斗」という話があった。
コナン・ドイルの名作の一つだ。たしか、革製の漏斗を貴族女性の拷問に使うのだ。
そう、こんな風に木馬にまたがらせ、あおむけにして漏斗を口に押し込み、そして──
「ぐむっ」
鼻をつままれ、口を開かされ。
若社長が、革製の漏斗を口に押し込んできた。
抵抗しようとしたが、途中から彼女はふとむなしさを感じて力をぬき、従順に漏斗を口に含んだ。若社長が含み笑いをする。
──彼女は、彼らの玩具だ。壊れるまで遊ばれるだろう。
だったら、早く壊れてしまったらいい。
抵抗を止めたのは、そんな、自暴自棄な思いがふと頭によぎってしまったからだ。
彼女には、明るい未来などない。
昨日より悪い今日、今日より悪い明日。そしてその果てに、おそらくは悲惨な死がある。だったら。
すこしでも早いうちに死んでしまった方がいいのかもしれない。
その思いが、彼女の心に複雑な陰影を投げる。
口に突きこまれた漏斗の管は、彼女の喉元近くにまで達している。
気持ち悪いな、と彼女は思う。
「そうだ。それでいい。
まず漏斗を固定するぞ。そうだ、少し首を上げろ。」
まっすぐに天井に顔を向けた状態で、口におしこんだ漏斗にくっついているゴムベルトで、まず顔に漏斗を固定された。
ボールギャグのように、頭の後ろで固定する方式だ。
ドラマの撮影で、監禁シーンがあってボールギャグを噛まされたこともある。新品じゃなかったから、私はごねて替えさせたっけ。──と、彼女はふと思いだす。
この漏斗は、新品だな。交換を求める必要もないし、──と考えて、ふと過去の自分の愚かさと思い上がりに笑いだしたくなった。
「頭を固定するぞ。そうだ。上をまっすぐ見ておけ。」
若社長が頭の横、耳の上あたりの左右の側頭部に何かの固定具を付ける。冷たい金属板の感触。
金属板は、おそらく頭の後ろの溝を通じて木馬のクッション台に固定されている。彼女は、頭を左右に動かせなくなった。
さらに、額上にねじの切られた棒があるのを、彼女は上目遣いに認める。
若社長が軽く、左右の頭を挟む金属板を連結する棒のネジを締めると、頭が締め上げられた。
「これを締め上げても楽しめるそうだ。」
「孫悟空なんだね!」
いつのまにかコップを取りに行ったカエル男が、戻ってきていた。
カエル男からコップを受け取り、足元におかれているらしい容器から水を若社長が汲む。
「この水には、さっきの俺の○液が混ぜてある。よく味わえ。」
ちょろちょろ、と汚された水が漏斗に流し込まれ。
彼女の口に、そして胃に侵入していく。
「んぐ、んぐ、んんっ、」
水を飲みくだす。漏斗の管は喉近くに達しているので、味わう余裕もない。
漏斗の直径はそれなりに大きく、またゴムベルトで顔にしっかりと取り付けられている。
漏斗と口の間には、吐き出せるようなすきまはない。注ぎ込まれた水は、有明りなの喉以外に行く場所はない。
「ぼくは、つばもいれてみたいんだね!唾液プレイなんだね!」
カエル男が、そう言いながらつま先立ちになり、唾液を漏斗の中に垂らす気配。
彼女は無抵抗に、その唾を喉に受け入れる。気持ち悪い。どうせなら、──
「水のお替りもいくらでも出してやる。さっきのお茶の礼だ。たっぷり飲め。」
流し込まれる水のペースが速まる。
飲みくだすのに時間がかかっていると、鼻をつまむ手を感じた。窒息の恐怖。
「すごいな、ガマガ。もう、カップ10杯は流し込んだぞ。」
「りなちゃんは、すごいんだね!まだ、お腹はおおきくならないんだね!」
「こんどはバケツ一杯、いっぺんに入れてみるか。」
有明りなは、近いうちに限界が来ることを感じていた。
──────
「ぐぷっ、げぽっ、」
「おらおらどうした、有明りな。飲むのに時間がかかっているな?
まだまだ、30分も経っていないぞ。
罰として、バケツでもう1杯だ!」
涙が、目からあふれ出ているのを有明りなは感じる。
途中から限界に達し。水が喉に入らなくなって、しかし彼らは彼女を解放してくれない。
首を振ることもできず、彼女の喉にはノルマと称されたアイスペールの水が流し込まれ続けた。
冷房が入っていて快適な気温だったはずだが、さっきからひどく寒く感じる。
胃が、そしておそらくは腸に水がぱんぱんに貯まってきている。内臓が圧迫されているのだろう、ひどい気持ち悪さを感じる。
そして、おそろしいがんがんという頭痛。めまいがする。
苦しさに、彼女はなりふりかまわず身をよじり、手足を動かそうとする。
しかし、しっかりと手足を縛め、彼女の肌に食い込む革ベルトはそれを許さない。かろうじて身を震わせる程度の動きしかできない。
「おお、ガマガよ。有明りなの顔色が悪くなってきたな。」
「さっきは赤かったんだね、あの首に浮いた筋がエロかったんだね!」
「たしか、一度に水を飲むと死ぬというな。
だがな、もうちょっとだけ楽しむか。」
自分の視界にはないが、きっとお腹、下腹部が妊婦のように膨れ上がっているのだろう。
不自然なブリッジ体勢で、お腹をぐっと突き出した姿勢になっている。
そして、フレンチメイドのスカートの下から侵入し、そのぱんぱんに膨らんだお腹を摩る厚ぼったい手が感じられる。
その手が股間に動き、下着の下に侵入してきても。
その手がさらに上に動き、胸を揉みしだいても。
彼女はもう、何も思わなかった。思う余裕は、なかった。
──助けて、助けて!しーくん!
彼女が失神する間際に幻視したのは、二間多マネージャーではなく。
あの地味だが誠実そうな、青年の白皙の横顔だった。
──────
「げぷっ、があっ」
ただ本能のままに、水を吐きだす。
とめどもなく腹からせりあがり、口から抜ける水は透明だ。
ひどく重かった体が、すこし軽くなったように感じられた。
気が付くと彼女は、変態ビルのシャワールームと思われる場所に横向きに寝ていた。
木馬で失神し、ここに運び込まれて、放り出されたのだろう。
シャワーで温水があびせかけられる。
メイド服がびちゃびちゃと体にまとわりつくが、体温が低下していた彼女には、シャワーの温水がたとえようもなく心地よく感じられる。
腹を軽く蹴られ、また、がぷっと水が口から出た。
「そっちはどうだ、ガマガ。出たか。」
「ちょっとしか出ないんだね!口から出すんだね!」
お尻に何かの感覚がある。手を回そうとして、まだ手首の革手錠が嵌っていることに気が付いた。
肛門に、おそらくはカテーテル代わりに何かが挿し込まれているのだろう。
ただ、カエル男の言うとおり、そちらからは水はほとんど出ていないようだ。
むしろ、尿が出そうだ。どうせなら尿道カテーテルの方が効果的かもしれない。
「ごしゅ、ぐ、うえぷっ」
もうある程度水は抜けたか、と思ったが、まだだったらしい。
水の塊がまたこみあげ、ごぽごぽごぽ、と口からとめどなく出ていく。
ひどく気持ち悪い。でも水の塊が口から抜けると、気分が少し改善した。
「おい、這いつくばれ」
蹴られて、体の向きを変えさせられた。うつ伏せに寝た姿勢にされる。
背中に、足を感じる。
「おらっ」
背中をぐいぐいと数回踏まれて腹を潰され、彼女は口から水を吐いた。
もわっ、とすでにびちゃびちゃなメイド服に温かさが広がる。
膀胱を圧迫されて失禁したんだ、と彼女は悟る。恥ずかしいと思う、心の余裕はない。
だが、少なくとも彼女は生きのびることができたようだ。
それが、次の拷問に至るまでのわずかな間であったとしても。
──────
有明りなは、水を飲みすぎると死ぬことがある、と聞いたことがあった。
雑にお湯をかけられ、後片付けはいいからさっさと帰れ、と言われ。
重い体を引きずるようにして、メイド服を脱ぎ、シャワーで体を流し。
裸にバスタオルを巻いただけの恰好で、よたよたと母屋に戻る。
かろうじて洋式のトイレに座り、大量の尿を出す。まだお腹のふくらみは完全に抜けていないが、自己流で水を吐き戻し続け、また尿を再度出すと、少しずつへこんできた。
トイレに座ったまま、膝にひじをつき、頭をかかえる。
──私、きっとこのまま壊されていく。生きて帰れるかわからない、っていうか死ぬよりひどいことになるかも。
でも、逃げたらあれだ。錆びたのこぎりで腕を切られて、アイロンで血止めされてコンクリ漬け。そして東京湾に投げ込まれる。
イヤだ、怖い。怖い、怖い怖い怖い──。
ふと、奇妙な疼きを彼女は下腹部に感じる。
それは、死の恐怖に怯えた彼女の本能の働き、打算だったのかもしれない。
彼女は彼を求め、焦がれた。
今、唯一彼女が頼れそうな異性。ごく平凡な田舎の高校生、朴訥な剣道部員じみた容貌の彼に。
──しーくん。しーくんなら、いい。
しーくんに私の処女を、──いや、違う。
抱いてほしいわけじゃない。いや、もちろん抱いてもらいたいけど。
でも、今感じているこの衝動はそれじゃない。欲しいのは氷や雪みたいに、尖って清冽な痛み、そして白い終わり。
──そうだ。私、しーくんに殺してほしいんだ。
そんな妙な考えが、彼女の脳に忍び込む。
──細く見えるけど、でも男の子。触ると腕とか肩とかに、ワイヤーみたいな筋肉。彼の体はきっと重い。
私に遠慮したりせず、押し潰して抱いてほしい。優しくなんかしてくれなくていい。本能のまま乱暴に、痛くしてくれていい。
そして、殺してほしい。
ナイフなら。
ゆっくり肋骨のすきまに刺し込んで。キスしたまま、幸福の絶頂のまま鼓動を止めてほしい。
首を絞めるなら。
さいごまで私だけを、私の目をみててほしい。苦しいけど笑ってみせる。私が人生の最後に見るのは、私の首を絞めるしーくんの顔がいい。
でも、──
でもそれも違う、彼にそれを求めるのは違う。そんな迷惑をかけちゃだめだ、と彼女の理性が彼女の
彼は、まっとうな人だ。彼が誠実で、優しいことを彼女は知っている。きっとまだ童貞。奥手で、女の子に痛いことなんかできない男の子。
やっぱり彼には、平凡に幸せになってほしい。
そしてせめて彼の記憶の中の有明りなは、普通に可愛い女の子でいたい。
ちょっとした偶然で交錯したひと夏、その体を知った元子役の有名人の女の子。その後は誰も知らない。
同級生に話して羨ましがられる、そんな体験の記憶が彼に残ってくれればいい。
明日、彼が来てくれる、かもしれない。それまでには、どうにか立ち直る。
そのときに、みっともない姿を見せたくない。
彼女は、再度尿を出して立ち上がる。飲みすぎた水、どうしようか。まだ死ぬわけにはいかない。
彼女は、素人ながらに対応を考える。
アイスペールはそれほど大きいものではなかった。一瞬見ただけだったが、1リットルくらい。氷を入れるペールにしては小型だと思う。
それに、5、6杯?もう少し飲まされたかな、7、8杯?
半分以上は吐けたと思う。尋常でない量、たぶん1リットル以上おしっこで出した。1、2リットルくらい、飲んで体に入っちゃってる?
そうだ、塩を舐めておこう。
水を飲みすぎたら塩かなにかをとらないといけないはずだ。バラエティの小ネタ対策で読んだ、体のしくみの豆知識本に書いてあった。──
彼女はふらつきながらも、立ち上がり。
台所で、塩を探し始めるのだった。
──────
──────
(志野視点)
ちょっと体が熱っぽい。おそらく軽く熱が出てる。
まずいなあ、明日は大事な日なんだ。
家に帰り、食事とお風呂をすませ、危ういところでメンヘラの有明りなの電話に出て、あとは寝るばかりなのだが。
どうにも、体調がふるわないんだ。
ただ、竜神の洞窟から帰ってきた後みたいな深刻な感じじゃない。
ゆっくり休んでいれば、きっと治る。いや、治す!
お風呂に入った僕は、いつもよりも厚めのパジャマに着替えて。
ふとんにもぐりこみ、目を閉じる。
今日あったことが、脈絡もなくいろいろと頭に思い出される。そのときはあまり注意を払ってなかったことも。
──中河原さんの、スイカップと呼称したい胸。いや、西瓜よりはさすがに小さいよ。大型メロンだな。
もっとちゃんと正視して、目に焼きつけておけばよかった。遠慮して目の隅からしかみてなくて、悔いが残る。
──投げて転がったボウルに当たって飛び散る、ボウリングのピン。
今日はまあまあだった。でもスコアはやっと3桁。なんか1回目より腕が落ちてる。
──中村さんから聞いた、いろいろな情報。阿架原先生の父親。鶴見さんのこととか。
最初はちょっと嫌だったけど、やっぱり人気者だからかコミュ力は高かったな。最後は結構面白い話もしてくれたし。
ただ美人って言われてるけど、中河原さんの方が僕の好みかな。いや、胸が好みなのもあるけど、なんか中河原さんは気になるっていうか。あー、もちろん好みだっていうなら調布だし。それに好みじゃなかったはずなのに僕に焼きついた紫藤。嫌われちゃってるけど、でも気になる国領。あと、思いだすと胸が痛い先輩のこと。
──恥ずかしそうに顔を染めながら、僕の横を歩いてた紫藤の横顔。手で味わった、腰の感触。甘いキス。
あー、またやりたい。っていうかまた抜きたくなってきた。でも今抜いたら風邪ひきそう。がまんだ。
そんなこんなの記憶の中に、僕はふと、異質なものをみつける。
昨日、紫藤といちゃついた後に、まどろみの中で見た夢の欠片だ。まだ、溶けずに残ってたのか。
どこかの郊外(だろうか?)の一戸建ての家。
家事をする、今より成長した紫藤の後ろ姿。
夜の部屋で、ひとりで机に向かい、何かを書いていた紫藤。
僕は、その欠片に手を伸ばす。こんな風に、体調悪いときに夢を見たことあったよな。あのときはたしか虫に憑依しちゃって、散々なものを見せられた。今度は、上手くやる。できれば哺乳類、せめて爬虫類。
──あ、なんか入れそうだ。でも、紫藤のいた家とは違う場所──?
僕はその夢のかけらにとぷん、と自我を溶け込ませながら。
ちゃんと紫藤と会えるのかな、そもそもこんどはまともな生き物に憑依できるのかな、とか。
そんなことを、うすれゆく意識の中で考えていた。