タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
一部修正もれがあったので修正しました。
志野くんと別れて、家の門まで来た。
振り返ると、志野くんは律儀にもまだ公園に行く道の角にいて、わたしを見送っていた。
手を振りあう。目が合ったと感じる。さっきの一瞬の、甘いキスの陶酔がよみがえり、胸の鼓動が高まる。
でも。
名残り惜しさを抑えて、わたしはきっぱりと視線を切り、門を潜る。
もっと、ずっと一緒にいたいけど。
そういうわけにいかない。ここから先は一人だ。
わたしは、わたしの
ーーーーー
今日は、いい日だった。
今日も志野くんと、一日すごすことができた。
こんな日々が、ずっと続けばいいのに。
開かずの間、504室も探検できた。
昔の少年小説にありそうな、お化け屋敷の探検みたいで楽しかった。小林少年だね。
だけど、志野くんは少し動揺してたな。わたしには気づかれてないと思ってるみたいだけど。
たぶん、あの絵だ。
あの壁の下にあったキャンバス。きっと、志野くんが壁から外して、見えないように裏返して置いたんだ。
壁に額縁を外した跡らしい、日焼け残りがあったよ。
問題は、なぜわたしに見られたくなかったかだ。
基本的に志野くんのことは信じてるけど、ある種のことは別だ。
志野くんはわたしを好きといいながら、わたしより発育のいい
もしあの絵が、志野くん好みの豊満な女の人の絵だったとかいう理由なら。
ーーゆるさない。
もしそうなら、志野くんをとにかく困らせてやろうと思う。
何をすればいいか、すぐには思いつかないけど。
わたしがいいって言うまで、おんぶさせるとか。
わたしの胸を大きくするのに協力させるとか。いや、それはわたしが恥ずかしいや。
まあ、今度、わたしもこっそりその絵を見てみよう。
単にグロテスクな絵だったとかの可能性もあるしね。
「星をみる少女」みたいに、一見わからないけど残酷な含みが見てとれたのかもしれない。
だとしたら、志野くんも心配性だ。わたしは確かに臆病だけど、みんなが怖いって言ってたホラー映画を、最後まで見れたこともある。血とかゾンビとかには弱くない、ーーと思う。
まだあの部屋はいろいろなものがあった。あの小さな頭蓋骨も、気になる。本棚の本も。
雑貨屋さんのがらくたみたいで、わくわくするんだ。
掘り出し物があったりしないかな。
ただ、探検の後ですれ違った用務員さん。
ハルカちゃんに紛れて忘れてたけど。
いつもの用務員さんじゃなかった、気がする。
ちらっと七不思議の用務員さんが、頭をよぎった。
まさかね。
帰り道、一緒に歩いた。
途中から、不良みたいに二人乗り。誘惑に負けて広い背中に頬を寄せてしまった。
楽しかった。
こんなふうに一緒に帰るのは、うれしい。
いっしょにお買い物もいい。だけど、志野くんはわたしに甘すぎるよ。
あらゆるものを買ってくれようとする。
でも、それじゃだめなんだ。
わたしは、志野くんの寄生虫にも、手足にぶらさがる重りにもなりたくない。
わたしの心は汚れてる。こんな生活の中で、そのうち体も汚されるだろう。実際、この前はあぶなかったし。
だから、対等でない、釣り合わないのはわかりきってる。
でもそれに安住するのは、違うんだ。
せめて、志野くんと対等であろうとする努力はしたい。お金をもらうんじゃない、借りるってしてるのは、それが1つの理由だ。
わたしのつまらない意地だけど。
関係は
それに。
志野くんに借りてる、ということなら。
返すまで、わたしと志野くんの縁は切れないことになる。
たとえ志野くんがわたしに飽き果てても。
わたしの首に巻きつく、その借金のみえない鎖は志野くんの手に残るだろう。
たとえ志野くんがわたしに興味や関心を失って離れても、わたしは彼との絆、ーー首に食い込む債務の鎖、ーーを感じ続けることができるだろう。
ひどくさもしい、計算高い考えだけど。
彼がわたしの世界からいなくなってしまうことに比べたら、そんな惨めなつながりでも、ある方がましなんだ。
ーーでも、願わくは。
今日のような日が続いてくれたらな。
ぐずぐずしてたわたしは、ようやく頭を上げる。
今日のことを思い出して幸せな気持ちに浸るのは、また後にしよう。
目の前に、陰鬱な壁。わたしの家。
絶望の城。
ここだけ重力が強い。
背中が丸くなる。足取りが重くなる。
意を決して、扉を開ける。
ここからは、わたしの戦場、わたしの地獄だ。
ーーーーー
「ただいま帰りました。」
リビングに入る。
お父さんは赤らんだ顔をこちらに向ける。目は少し眠そうだ。
昼間から飲んでたんだな。
中年ながらハンサムな面影を残していた顔は、今では急速に崩れ始めてる。
我間我氏(カエル男)ほどじゃないけど、頬が垂れ、鼻の先が赤くなってる。
「あらあ、かわいい娘さんねぇ。」
わたしは少し目を見開いた。お父さんの横に女がいる。愛人?
化粧は厚めで、ばさばさしたつけまつげをつけてる。眉は、剃って描いてる。服は肩とか脇腹とか出してて挑発的だけど、運動不足でぶよぶよだ。
歳はお母さんより若いかもしれないし、胸も大きいけど、形も悪い。お母さんの方がきれいだと思う。
「ーーいえ、そんな、」
「あぁれぇ、でも、あいさつなし、かしらぁ?ねぇ、イサム?」
ついに愛人を連れ込むようになったんだ!
という衝撃のあまり間が空いて、しかもぼんやりした受け答えしかできなかったら、女がかぶせるように嫌味を言ってきた。
毒をしたたらせるように、ねっとりと。
「ごめんなさい、ーー」
「こっち来て、挨拶しろやぁ!」
お父さんがいきなり切れた。吠えるとリビングの入り口で固まっていたわたしの髪を掴み、ソファの前に引きずる。
わたしは女の前に跪かされ、頭を床にすりつけられた。
足の爪まで派手なマニキュアしてるな、とぼんやり思った。
「あぁら、いいのよう。それでぇ?おじょうさん、言うことなぁい?」
「はじめまして。紫藤みなりです。」
「そう、じゃあアタシの名前はぁ?」
「ーー教えてください。」
「当てろって言ってんだよ!」
とつぜん、お父さんに怒鳴られ、蹴り転がされた。
今日は、そういう趣向か。
「いいじゃないイサムくん。そうねぇ、当ててもらってぇ、はずれたら何かしようかしらぁ。」
お父さんの目が面白がるような、嗜虐的な光を宿し始めた。
ろくでなしどもめ。
「そういえば、連休はまだ3日あったな。」
「ちょっとくらいならぁ、かわいがりすぎてもぉ、だいじょうぶかもねぇ?」
うふふ、ははは、と笑ってる。
お似合いですね、あなたがた。
明日、バイトがあるのに。
でもここでそれを言っても、無意味だ。
却って火に油を注ぐだろう。
「当てられなかったらぁ、おじょうさんの穴に何か突っ込んでいく、ってのはどうかしらぁ?そうねぇ、ボールペンとかを、口、おしりの穴、そしてアソコに、何本も何本も。それが嫌なら鼻、耳、目。それじゃぬるいならぁ、辛ぁいタバ○コ、爆竹、ーー」
「それはよせ、売り先が近いうち決まる。話が進んでる。」
「あらぁ、残念ねぇ。」
また私の処女を売るとか言ってるのか。
カエル男で味を占めたのかな、ろくでなし。
お父さんが、ちらっと部屋の隅に目を走らせる。
竹刀や角材とかが立てかけてある。
竹刀は、それで打ち据えたり、膝に挟んで正座させたりする。角材は、角をたてて並べて、上に座らせたり、跨がらせたり。
それでもいいや。はやくしてよ。
「ねぇイサムくん、」
ねっとりと脂肪の塊が、お父さんにからみつく。
「ちょっとこの子なぁにぃ?無視しちゃってぇ、態度わるーい。」
「ーー申し訳、ありません。お許しください。」
謝ったけれど。
「ああ、罰を与えなければならんな。骨に沁みる罰を。」
「あの縄つかってぇ、こう、大開脚、とか、アイススケートのあぁんな恰好、とかねぇ?ほら、キムスメかどうかも、たしかめないといけないじゃない?最近のコはインランだしぃ?」
「おまえ、天才だな!」
ろくでなしと脂肪女が顔を見合わせて笑ってる。
ああ、こいつらに、ろくでもないわたしの今夜の運命が決められた。
お父さんもこの脂肪の塊も、大嫌いだ。
ーーーーー
喜色を浮かべて、見違えるようにいそいそと動く、お父さん。
けらけらと、怪しい色の酒をすすり、たばこをふかしながら囃し立てる脂肪。
わたしの右足首に縄が括りつけられ。
逆らいませんからやめてください、と言ったのに、後ろ手に両手首を縛られた。
この前、家の中でハンモックを吊るすといって、お父さんの気まぐれな思い付きでリビングの梁に取り付けられたフック。
そこに、右足首の縄が引っかけられて、ずりずりと足を引き上げられる。首にも緩く縄がかけられ、フックに繋げられて、上半身を逃がせない。
もう片足、床についてる左足には、ご丁寧にお父さんの部屋から持ってきた鉄アレイが縛りつけられた。
わたしは新体操選手でもアイススケート選手でもバレエのダンサーでもないんだ、もう内股の筋が悲鳴を上げはじめてる。
まだ時計でいえば、5時46、7分な感じなのに。
「ほら、わたしの名前はなあに?」
当てさせる気、ないよね。
エリザベート・ルーセ?
でもあの小説に出てくるのを読むと、脂肪の塊にそこまで悪い意味もないんだよね。
「こたえないよ、この子。イサム、やっちゃって!」
考えていたら、答えるのが遅れた。
憎々しげに女が、竹刀で背中を打つ。
力が弱いし、股関節の鈍いけど強い痛みの方が大きいので、たいして痛く感じないが、傷になるかな。
「ほらほら、上がるぞ。」
ぎりぎり、とまた3センチほど上がる。
腕に力こぶができてるね、お父さん。こんなくだらないことにばっかり力を使って。
もっとまじめに働きなよ。
「うぐっ」
押し殺してたのに、口から悲鳴が漏れてしまった。
お父さん、サービスはいらないよ。わたしの顰めた顔を見て、また追加で引き上げたでしょ?にやにやしてる。
「ほら、わたしの名前はなあに?」
「ーーもう、許してください。」
何度も何度も、繰り返された。
苦痛の果てに。
私は右足を頭の上まで上げた。時計でいえば、6時5分前だ。
思ったより私は体が柔らかかったらしい、びっくりだよ。
学校の体育の柔軟運動で目立てるかな。
そんなバカなことを考えて気を紛らわそうとする。
無理な引き伸ばしに抵抗しようとしてか、脚だけでなくて、体中に、強い力が入ってしまう。ぶるぶる震える。
苦痛を堪えての冷や汗で、体が濡れ湿ってるのを感じる。
額を、背中を、そして脚を、汗が伝う。
責苦は長く続いた。
結局、脂肪女の名前は正答できなかった。
名前の音はたまたま当てたのだが、漢字を当てろって。無理だった。
万葉仮名系の名前なのかな。
「肌を濡らしてて、いやらしいわ、この子。感じちゃってるの?」
あられもなく上げたわたしの脚の間。
女が好き勝手にわたしの制服のスカートを捲り、下着のクロッチ部分をずらして、あそこを見てる。
「ぜんぜん色がついてないじゃない?毛もないし、しょんべん臭いガキねぇ。」
「まだ処女だからな。高く売る。」
ブリーダー気取りかよ。わたしはあんたのものなんかじゃない、ならない。
代わって覗きこむお父さんの目が欲情している。股間が膨らんでる。
でも、でかい図体のくせに、志野くんより小さい、気がする。お粗末。
頭の中でそう毒づく。
「ねえ、色を付けてやらない、イサム?ほら、これでさ、ジュッ、ジュッと。」
お父さんがわたしに気をとられてるのが気に入らないのか、脂肪女がそう言って火のついた煙草を振ってる。
この煙草の煙、なんか臭くて、頭がくらくらする。手作りっぽい。なにか入ってるのかも。
「やめとけ、売れなくなる。」
頬は濡れているが、声はもう出さない。
出したらもっと、あいつらを喜ばせることになるから。
そのうち、あそこの色がどうとかいう下品な話で、二人はそのうち口喧嘩をはじめて。
そして仲直りして、飲み直しに、と私をそのままに出ていこうとして、かろうじてお母さんが帰ってくるってことを思い出して私を解放した。
ただ、引き上げた後結んでた足と首の縄をフックから解いただけ、だけど。
しばらくは鈍い痛みで動くこともできず、うずくまってた。
もう、疲れたよ。
汚れてる。わたしは一応まだ処女かもしれない、でも、もう汚されきってる。
志野くんには、ふさわしくないんだろうな。
そう思うと、さっきの肉体に加えられた苦痛よりも、ずっと心の痛みが大きくて、悲しくて涙が出た。
志野くん。
何にもなかったように、わたしは仮面をかぶって志野くんと話せるだろうか。
無理だよ。
志野くん。
志野くん、ーー。
志野くん、会いたいよ。
どんな顔して会えるというのか、わからないけど。
ーーーーー
のろのろと起き上がり、アレイに苦労しながら階段下まで移動して、千里を呼んだ。
後ろ手の縄だけでも、ほどいてほしい。
千里は降りてきたが、しばらく無言でわたしを見つめるばかりで。
強く促してようやく、ゆっくりと首、手首と足首の縄を解いてくれた。
不必要にゆっくりと丁寧で、接触が多かった気がしたが、それが何を意味するか、考えないようにした。
解き終わると、千里を急き立てて、追い払う。
手足をもんで血行を回復させる。
お風呂に入ろう。
制服を脱ぐ。
汗で濡れたブラウスと下着を洗濯かごに入れる。
浴槽は昨日洗ってあるから、お湯を張るだけだ。
お湯を浴槽に入れながら、私はシャワーを浴びる。
冷水のシャワーだ。5月の暖かい日だが、歯ががちがち鳴るくらい、体が冷える。
汚れた何かが、流れていくことを期待して。
冷たい水を、禊のように。
ぼんやりと浴び続ける。
冷え切った体を、ようやく六分ていど入った浴槽の温水に浸す。
心臓に負担がかかるかもしれないな。それでもいいや。
半分、心を喪ったようにわたしは機械的に体を洗い、外に出た。
思ったとおり、脱衣場横の洗面に千里がいた。
さらさらした髪の毛、姉のひいき目かもしれないが端正な甘い顔。
すらりと長い脚、中2にしては高い身長。
きゃあきゃあ言われるような、王子様チックな感じなんだ。
でも、目が。さっきのお父さんと似てる。
欲情している目、なんだろうな。
こんな、胸もさほどない貧相な女に。
しかも姉なのに。
悪趣味。
そんなに嫌悪は感じないけど、それも私がおかしいんだ。
姉弟なんだもの、抵抗感を覚えないのは変なんだ。
わたしの心も、汚れきってるんだよ。
千里に無理やりされる夢をみたこともあるし。
もういいや、こいつにわたしを与えて、女を教えてやろうかな。
一瞬頭をよぎる、捨て鉢な考え。
でも。
わたしは目を閉じる。深呼吸する。
志野くん。
昨日の昼下がりの、はじめてのキスを思い出す。
今日も、そっと後ろから抱きしめてもらって、唇を奪われたことを思いだす。
2回とも、その後かくれんぼしたね。
そのときの志野くんの超冷静だったり、超慌ててたりした立ち回りを思い出すと、なんだかくすりと笑えてきた。
そして少しだけ、元気になった。
志野くん。
まだ、頑張れる。
わたしは、頑張るよ。
「千里、」
先制攻撃をかける。
「ごめんね、今日は疲れてるんだ。ごはん、用意するけど、もう寝かせて。」
答えはない。じっと私の体を見つめている。気にしない風を装って、体をふき、下着に足を通す。
「お父さんは出かけてる、お母さんは10時くらいだと思うよ。」
「みなり姉はさ、」
千里は、ちょっと乾いた声で言った。
「最近、誰かとヤッたの?」
「やってないよ!何言ってるの。」
「匂いがする。」
「なんの?タバコ?」
「いいや、ビッチの匂い。」
「あんた、いっつもビッチビッチ言ってるけど、失礼だからね!」
室内着に着替えた。
「発情してる匂いがする。ずるい、みなり姉だけ。オレも、ーー」
「知るか!」
人聞きが悪いよ!
そして今、お前何言おうとしてたんだ。お姉ちゃんとヤりたいとか言わせる気はない。
私はキッチンに移動して、適当に野菜を切って、お母さんがこの前持って帰ってくれた賞味期限切れの冷凍海老を使って、野菜炒めを作った。タイマー炊飯してあるご飯とともに、お椀によそって、ふたりの分を準備して、ーー今日はキッチンの小さなテーブルにしよう。
みそ汁は面倒くさいから、もういいや。
千里も私が調理してるのを見ていたが、私が席に着くと、千里の分の食事を置いた、向かいの席に座った。
一緒に食べる。
ぽつぽつ話をして、今日何をしたか、とか、千里から話を聞き出す。
ふーん、友達に会って遊んだのか。そこそこ楽しそうじゃない。
その健全な、陽のあたる生活を大事にしたらいいよ。
食べ終わるころに、わたしは、ちょっと悩んでから言った。
「あんたはもてるんだから、ちゃんと外で女の子と交際しなさい。お姉ちゃんなんかに執着せずに。」
「いやだ、お姉がいい。」
とほほ。
志野くんから言われたら最高にうれしい言葉が、弟から言われると、ーーー。
このシスコン野郎め。
「千里、ごめん。」
どんな顔をしているのだろう。千里の顔が見れない。
でも、見なきゃ、そして目を見て言わなきゃ。
このあいまいな、不健全な関係はやっぱりおかしいよ。
ちょっと妙な悲壮感を漂わせている千里の顔をみて、目を合わせて、はっきりという。
「わたしはその心に応えられないよ。千里、ありがとう。でも、本当にごめん。わたしには、無理だよ。」
ごはんはもう、二人とも、食べ終わってる。
千里の顔を見ずに、食べ終わった皿を、流しに持っていく。
お母さんには悪いが、今日は歯磨きして寝てしまおう。
野菜炒めの残りとか、お母さんが食べるものはあるし。
心の中が、ぐちゃぐちゃなんだ。
体も、節々が痛む。明日は筋肉痛だろう。
少しだけでいい、一人になりたい。
歯磨きして、布団に入る。勉強もやめとく。
今日はカーテンを閉めさせてもらおう。
千里には悪いけど。
ーーーーー
ぼんやりと、ベッドから天井を見ながら考える。
将来を夢想する。
はやく大人になりたい。
本当は大学に行きたいけど、だめなら高卒でどこかの会社か工場に務めてもいい。
何年か働いて、借金を返して、貯金をして、そしてその時に行きたかったら大学に行くのでもいい。
一人立ちしたいんだ。自分で自分の行き先を決めたい。
ここではない、どこかへと。
ろくでなしどもに、玩具にされるのは、もう嫌なんだ。勝手に運命を決められるのは、嫌なんだ。
自分で、自分の道を選びたい、切り開きたいんだ。
そう、好きな人と一緒に、その道を歩いていく。
志野くん。
きみは、こんなどうしようもなくぼろぼろの雑巾みたいなわたしでも、いいのかな。
こんなに面倒くさい女、そのうちいやになるかな。
でも、わたしは決めたよ。
大好きなきみのそばにいるために、走り続けることを。
どんなにぼろぼろに痛めつけられても、力の限り。
道のない荒野でも、道を踏み開いて。
志野くん。
きみが、欲しい。
きみを求めて、今日を、明日を、生きていくよ。