タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
あまり進んでないです。
280 異形たちの茶会(3)(志・国)
(志野、8月〇日(土)早朝、自宅)
朝。めざましがちりちりと鳴ると、僕はぱちりと目を開けて起き、顔を洗った。
寝る前は風邪気味だったけど、今はすこし寝不足気味なのを除けば特に体調は悪くない。
まだ早いのに響いてくる、能天気な蝉の声を耳にして。
冷水を乾いたタオルでふきとりながら、僕は思わず顔をほころばせる。
なんかいろいろ惜しい夢をみた気がするけど、もう遠い世界のことみたいだ。
それより。
今日は、デートの日なのだよ諸君。羨ましいかな?
──僕みたいな陰キャに、デートなんてできるのか、だって?
ちっ、ちっ*1。僕だってデートくらい、したことはあるよ。
嘘じゃない。少なくとも紫藤とは、デートしたことがある。なんなら1回目での恋人ともすこし。
紫藤となら、一緒に街を歩いたりお買い物したり、おしゃれに思える喫茶店に入ったり。樋木崎温泉にピクニックに行ったことだって。
その経験値、二桁に達する。これはもう、エキスパートと言っても過言ではない。
ただ、さ。
紫藤とは、──なんていうか、信頼関係ができてるから僕もそこまで挙動不審にはならないし。
それに学校帰りにちょっとお散歩したり、っていうカジュアルな制服デートが多い。難易度は低い。
でも今回は、ほぼ初めての相手としかもダブルデート。相手は相当に目を惹く外見の調布と国領。きっと僕より経験豊富。
つまんない話しかできない奴、って飽きられたりしないかな。ハードルが高い気がしてきた。
ともかく、そういうわけで。
悪夢(?)からいつもより早く目覚めて、早朝の中途半端な時間に空きができた僕は。
服装を整えてみたり、鏡をみて鼻毛が出ていないかチェックしたり、ちょっと気取りすぎに思えて服装を変えてみたり、鏡をみて後頭部の寝癖をチェックしたり、ちょっとカジュアルすぎるように思えて服装を変えてみたり、財布の中に入れた、頑張って購入したゴ〇の包装が劣化して穴が開いていないかをチェックしたり、思い出して爪を切ってみたり、今日履く用の穴の開いてない靴下セットを探したり、みつけたものの毛玉が気になって新しい靴下を開けてみたりしていた。
要は、そわそわと童貞ムーブを繰り返していたわけだ。
それでも、僕はその合間に机に向かい、昨日の夢のことを備忘録ノートに書きつけた。
こういう夢って、早めに書いとかないと忘れちゃうからね。抜かりはない。
ただ、今になって思い返すと、やっぱり夢らしく意味不明なところも多いな。
たとえば、調布や紫藤が最後の僕にかけてた言葉。
たぶん僕が過去からお邪魔してたことに気づいてのことだと思うけど(どうしてそう彼女らがわかったのかは、わからない)、すごい有益そうな一方、文脈無視で放たれてるから理解困難。
時間順に思い出して、書いていく。
まずカスオが仕事で取り掛かってた法案や、部下の持ってきた案件とか。技術的なところはよくわからないが概要くらいは覚えてる。それも一応記録する。
そして、高木との会話。ちょっと気になる情報があったな。これは今の、現実世界の高木と改めて確認しなきゃ。結構、大事なことが含まれてる。
次に、家に帰るまでの間の出来事。ワインを買ったお店でみた、僕が知らない新製品(やっぱり、あの夢は僕が1回目に死んだときより、未来なのではと思う)。
電車の乗り継ぎ、紫藤とカスオの家。
家に戻ってからのこと。これがいちばん重要だ。家の中、カスオの書斎でみたもの、紫藤とのやりとりと尋問、未遂。
(あー、紫藤のことを思い出してたらまたちょっと勃ってきてしまった。)
それと、調布の乱入。うん、ゴールイン寸前だったのによくも蹴り倒してくれたな。
それだけじゃない。調布には、言いたいことがたくさんあるんだ。僕のプライバシーを紫藤に暴露しやがって。
今日は、ね?折をみて調布に、常日頃からのもやもやの責任を取らせてやる。いい機会だ。
そう、僕はひそかに決心を固めた。
煩悩を振り払いながらも、ひととおりノートに書きつけ終えた。
思ったより分量があって、時間が経つのを忘れてしまい。
時計を見ると、そろそろいい時間になっている。そろそろ、出かけないといけない。
ただ、その前に一つ。
昨日、うっかり忘れてしまっていたことを片付けなければならない、と僕は思い出す。
土曜日の朝8時半。正直、ちょっと早いのだが。
僕の住むあたりでは、電話をかけてもギリ非常識とか無礼とかまでは思われない時間だ。
居間に戻って、手元のメモをみながら電話をかける。
初めての相手にかけるのは、いつもながら緊張する。
数コール。ちょっとテンションの低い、あえていえば暗めの女の人の声が出る。
「朝早くにすみません。中河原さんのお宅でしょうか。
高校で同じ学年の、シノと言います。サクラさん、いらっしゃいますか。」
取次ぎを頼む声に、ちょっとひけめというか、申し訳なさが乗ってしまう。
「桜ですか。ほんのちょっと前、出かけてしまったんですが、──」
そう。僕が電話をかけたのは、あのESSの吉祥寺先輩のことで電話するって約束してた、
すっかり家に帰ってから忘れてしまっていた。電話を掛ける、という約束事だったのに!
先輩と関係あるのかもしれない「角猿」の話も詳しく共有しておかないといけないし。
(といっても、僕も知ったばかりで、ほとんど内容を知らないけどさ。)
彼女の優れた記憶で覚えているかぎりで、吉祥財団のことなど教えてもらうべきかもしれない。
これは、紫藤のホストファミリーに悪い奴がいるということから、少し僕の中で重要性を増している。
だが、彼女の母(推定)が曰く。彼女は、つい十数分前に外出した。帰りがいつになるかもわからない。
「志野くん、だったかな?
桜が言っていたかもしれないけど、ちょっと今、親族でいろいろあるんです。
もしそれ関係だったら、教えてもらってもいい?」
やっぱりあのESSの先輩の失踪のことで、中河原さんのお母さんも情報を知りたがってる気配がある。
ただなー、角猿なんていう不確かであいまいな情報をここで伝えるのは、ちょっとどうかな、と僕は思った。
それに説明するには、ESSの先輩を中河原さんがこっそり追跡し、しかも先輩が猿に嬲られてたところを目撃した、とかいう、正気を疑われかねない話から始めないといけない。
(例の猿の話、まだ家族にも言っていない、と昨日、話を聞いたときに中河原さんは言っていた。
まだ秘密にしているのなら、彼女の了解なくバラすことは、僕には正しいことには思えなかった。)
あ、そっちはちょっとわかりません、電話があったとお伝えください、と伝言を頼んで、僕は電話を切った。
どこか喉に痛いほどではないが気になる、魚の小骨が刺さっているような感覚がしばらく残っていたが。
デートのことで頭がいっぱいだったこともあって、やがてその心残りを僕は忘れてしまった。
(このとき、もう少し踏み込んでいたのなら、後の展開は違っていたかもしれない。)
電話の後で、僕は時計を見直す。時間は、約束した時刻の20分前。
僕の中のルールでは待ち合わせには5〜10分前到着がデフォ(携帯電話がない時代だからね)。もう、そろそろ出ないとまずい時間だ。
僕は最後に服装をチェックし、ゴムをシュバッと財布から取り出すシミュレーションをし。
ちょっと寝不足気味で薄くくまのある自分の顔がマシに見える角度を鏡で再確認してから、家を飛び出した。
ちなみに前日のうちに、親たちには「遅くなる」って宣言してある。
母親からは遊び歩いてることに苦言があったものの、父親は多分冗談まじりだとは思うが「おうよ、泊ってきてもいいぞ」と言ってくれた。もしかすると、そんなこともあるかな?
家を出た僕は、再度、昨日調布がよこしたメモの書付事項を思い出しながら、自転車に乗って坂を駆けおりる。
あの雨でにじんだ文字のところは、ついに解読できなかったな。と、ちょっと不安に思いながら。
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(国領ハルカ視点、白髪町の公園、土曜日の午前8時半)
雨上がりの、よく晴れた朝。
爽やかな青空に筋のように白い雲が流れている。
昨日の夜、ちょっと寝付けなくてよふかししてしまったせいで、朝、寝坊してしまった国領ハルカだが。
親友との待ち合わせ場所の公園は、自宅のすぐ近く。1分もしないで着く。
ところどころ、昨日の雨によるぬれ落ち葉も残ってて、すべりやすい。
公園の入り口には、先客のものと思われるマウンテンバイクが止めてある。
はやる気を押えながらその横に自分の自転車を止め、公園への低い階段をかけあがる。
「おはよう、ハルカ。」
「おっはよー、さとみん!」
思ったとおり。彼女の背の高い友人の姿が、ブランコにあった。
すっと自然に伸びた背筋。白い長袖のシャツ、濃紺のジーンズに黒い野球帽子。
全く媚びたところのない、シンプルそのものの服装。それがいかにもマニッシュに格好よく決まっている。
端正な顔に浮かぶ、ちょっと悪そうというか、余裕そうな勝気な笑み。
それを見ただけで、ちょっとナーバスになっていた国領ハルカは。
「あ、さとみんがいるなら大丈夫」という、いわれのない安心感を覚えた。
(ちなみに、志野と2人きりになってしまうことを恐れた国領ハルカは、調布智美と2人で待ち合わせてから、志野との待ち合わせ場所に行くことにしたのだ。)
「ごめん、ちょっと遅くなっちゃった!待った?」
「いいのよ、あたしもついさっき、来たところよ?」
落ち着いた彼女の佇まいに比べて、ちょっと服装をキメキメにして自意識過剰だったかなー、と。
国領ハルカは、少し自分を恥ずかしく思う。
彼女、国領ハルカは、今日のデートに臨むにあたり。
ちょっとイメチェンを図り。ちょっと不良っぽくというか、ストリート系でおしゃれにまとめようと努力してみたのだった。
オリーブ色のカーゴパンツに、ぴちぴちの半袖Tシャツ。おへそを見せるのは恥ずかしいけど、お腹がちょっぴり見える感じ。
彼女としては、最近疎遠な
それに素材からすればチート反則レベルの
だからがんばって相応に露出も多い、そのつもりなら挑発的にできる服装にしたのだ。
(ちなみに男の子とのデートなるものも、公式のものとしては人生ではじめてであり。
その意味でも、いろいろと無駄に力がはいってしまっていた。)
もちろん、おしゃれにしてきたといっても。
今日は「ちょっと冒険する」ことになっているので、野山に入るとき用の上に羽織るパーカーもあるし。
足元の悪いところとかにも踏み込めるように、ちょっとしっかり目に固めてある。
「いいじゃん!ハルカ、すっごいかわいいわよ?
──そろそろ、行きましょうか。」
そういう彼女のいで立ちを、上から下までさらっと眺めた調布智美は。
彼女の思いを過不足なく読み取ったらしく、肯定的な笑みを浮かべて賞賛の言葉を発し。
やったー、合格!といっそうの心強さを覚えた国領ハルカは、すっかりその気になり。
「行こう、行こう!」と親友を急かしたのだった。
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「ねえ、さとみんっ」
「なーにー?」
暑くなり始めた日射し。耳を聾する蝉の声。
広い歩道の自転車走行帯を
赤信号で止まり、一時的に並んだとき、彼女は相棒に呼びかけてみる。
「アレって、さー!ほんとー、必要っ?」
「必要!」
実のところ、国領ハルカはそこまで詳しくデート計画を聞かされていない。
彼女自身は、夕方にアルバイトで抜けないといけない。
それまでの間に、ちゃんと出番を用意するわよ。といろいろ用意周到な親友に言われたのだが。
実のところ、自分の出番や役割(どこまで行くのかな?B?C?)について、ちゃんと打ち合わせてはいない。
志野から搾り取る、と言ってたし。おそらく親友は本番はともかく、
彼女自身は正直、こわくて決心なんてついてない。
流れをみきわめて柔軟に対応するんだ、と思っているが、要はまだ乙女なので具体的なことなんて考えていなかった。
──でも、まあ。さとみんとのおつきあいで、手で抜くことくらいは、してあげてもいいかな?
シたいわけじゃないよ。でも男の子って、そういうのはがまんできない生き物らしいし。
それにほら、ボクとしのりんは、さ?
そう思っている、彼女なのだが。
気になる彼との、そういう行為を正当化する理論武装をしている自分の混乱にまだ無自覚だ。
──でもまあ、仲直りできたら、だけどね?
ちょっぴりあの水着でサービスして、ボクに、──ボクたちにどきどきするように仕向けて。
じらして、じらして、そしてがまんできなくして、そして抜いてあげるんだ。
そして彼女は、親友に指示されて用意してきた、かわいいデザインですこし露出度高めの水着のことを思い浮かべたのだった。
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(志野視点、土曜日朝、学校の側の神社)
待ち合わせは、学校の傍にある神社。
自転車をかなり飛ばしてきた僕は、思ったよりわずかに早く着いた。まだ調布たち、来てない。
ここは一度、参拝しておこうかな。
僕は殊勝にもそう考えて、本殿と思われる建物の賽銭箱の前に赴き、じゃらんじゃらん、と鈴を鳴らし、柏手を打って礼拝する。
(恥をさらすようだけど、僕は2礼してどうこうとか、そういう正式な作法がよくわかってない。なんとなく見様見真似で、小銭を投げて鳴らして柏手して祈ってお礼してる。)
待ち合わせ場所である鳥居まで戻ってくると、2人の人影。調布と国領だ。
「あら、おはよう、志野。」「しのりん、──おはよう」「おうっす」
アウトドア系の活動がある、と言われたとおりで。
調布はシンプルで、飾り気のない服装。ジーンズにシャツ、野球帽。
でもきゅっと締まった腰や大きめの胸やお尻の輪郭に、僕は心臓をどきつかせる。
国領は国領で、なんだかこの時代でいうコギャルっぽいっていうか、ヒップホップ系だな。でもなんだかおとなしいっていうか、おどおどしたような感じでこっちみてる。
国領の小さめのライムグリーンのシャツの裾とカーゴパンツの間のすきまからみえる素肌に、僕は視線を思わず吸い取られてしまい。
ふと視線を上げると、調布が意味深に微笑んでいた。怖い。
「あー、二人とも、すごい良く似合ってる。
──それで、どこに行こうか?」
実のところ、この時代の常識としては女の子の服装を褒めちぎるのが正しい。
でも、僕の死んだ(推定)時代には、もう異性の外見をどうこう言うことはセクハラだとかルッキズムだとか言われ始めてて。
僕も社内研修で絶対言うなよ、分かってるだろうな、みたいにマナー講師の人に言われてた。
だから僕はこの時代の常識に配慮して二人の服装を褒めつつ、でも過剰すぎない程度にとどめる。
さすがデートの熟達者。我ながら絶妙のバランスといえよう。
「しのりん、ありがとー!しのりんも、カッコいいよ?
それで、さ。行き先、ボクも知らないんだ。
──ねえ、さとみん、サイコロでも振るの?*2」
そんな僕の自己評価を知る由もない国領は、なんだかほっとしたように答えてくれる。
行き先、国領も知らないのか。僕も、調布の方に視線を投げる。
「そうね。ざっとした計画だけなんだけど。
午前中、
蛇落浜というのは、多賀島市内からみて北東の方向にあたる海岸だ。
海水浴場といえなくもないが、海難事故があったりしてイメージがあまり良くなく、さほど人気がない。
市内からもっと近い、その手前の
ただ、あまり混んでなくて、砂浜と海はきれい。穴場といえば穴場だ。
「ねえ貴方、水着、ちゃんと持って来たでしょうね?
ハルカなんて、気合い入れてすごいのを買ってるのよ?」
「さとみん、ひどいよ!たまたま、かわいかったから買っただけだって!」
「あ、ああ。楽しみだな。持ってきたよ。」
空気を吸って吐くようにいじってきた調布に、国領が頬を染めて反論してる。
そうか、午前中は海水浴か。泳ぎにも自分の体にも自信はないけど、ちょっと楽しみだな。
「お昼ごはん、近くのお店で食べましょうよ。
それで、午後、ちょっとしたハイキングっていうか、サイクリング。」
「どこ方面だ?」
「蛇抜街道をちょっと上がって「あー!ウリーンランド!?」そう、そことか。」
ウリーンランドというのは、昔の遊園地だな。
あまり市内からの交通の便が良くなかったから廃業してしまい、今は営業してないと思う。廃墟探検でもやるつもりか?
「そこらへんでね、調べたいこともある。
時間が余れば、ぐるっと砦山の北の方に入ってもいい。きれいな谷川があるみたいなのよ。
それかそのまま西に通じる道をたどって、日蔭谷のナギさんたちのところ行ってもいい。」
「わー、最近行ってないよねー」
そうだな、ナギさんたちの家には、ここ1週間行けてない。
電話もないので音信がない。近所の買い出しは出られるようになったから大丈夫だとは思うけど、足りないものがなかったりしないか確認しなきゃ。
「それでね、ハルカが、──5時だっけ?
そのくらいまでにはバイトで街に戻らないといけないらしいの。それもアステロイドプラザ周辺。
「ちがうよ!それと、5時半くらいまでなら大丈夫だよ?」
「そうね、でも余裕をみてそのくらいには街に戻ってた方がいいでしょう?
あたしはその後も大丈夫。それで志野にはつきあってほしいところがある。」
「えー、ズルい!」
「あらハルカ、羨ましい?」
ふたりのぽんぽん弾むやり取りを聞きながら、思った以上に健全なデートプランだな、と僕は思う。
いや、学校とかでは「覚悟しときなさいよ」なんて軽く調布に脅されて、何されるんだろうかって戦々恐々としてたんだよ。ちょっぴり期待もしてたけど。
国領も、最初はなんだか借りてきた猫みたいにおとなしくしてたけど。
だんだん元気っていうか、ハイテンションにはしゃいだ様子を見せるようになってきた。
僕に含むところがある彼女だが、今の国領からは、あまり僕への隔意は感じない。
まあ、生徒会やってるくらいだしな。表と裏の使い分けくらいできるんだろう。
それはともかく。内心、自信なかったけど。
僕自身のファッションも、一応及第点だったみたいだな。
シャツのタックアウトが落ち着かないけど、彼女たち的には違和感なかったみたいだ。
僕はひそかに、胸を張りたい気持ちになりながら。
ほら、行こうよしのりん!と騒ぐ国領の背を、くすりと笑って流し目をくれた調布と、追いかけたのだった。
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──────
(国領ハルカ視点)
目の前を走る、ブルーの長袖シャツの背中を視線が追う。
暑いのだろう、わずかに汗が浮き始めてる、思ったより広い背中。
やっぱりボク、しのりんのこと、──
出発した彼女たち3人は、国道沿いから一本入った、川沿いの道を、自転車で海へと走っていた。
先頭を彼女の親友にして好敵手、調布智美が先導していて。
その次を、志野が走る。
最後のしんがりが、彼女。国領ハルカだ。
──体力オバケのさとみんに、細くみえるけど男の子のしのりん。
でもぜんぜん、ついていけてる。やっぱりボクも、体力ついてる。
裏道には車はほとんど走っていない。ただ、横は土手なので惜しみなく陽光もふりそそぐ。
日焼け止めはしっかり塗り込んだけど、やっぱりちょっと気にはなる。
今度停まったときに、荷物から帽子を取り出しとかなきゃ、と彼女は思う。
そうして走ること、十数分。
北へ道を折れてしばらくすると、登良川とともに市街を挟む別の川に到達する。
その河口付近から、海水浴ができそうな遠浅の海が広がっている。
縊死裂川の南、市街地側の方が大きな海水浴場だが、彼女たちが向かうのは川の北側の浜。
蛇落浜という名前は、山の上の大蛇が征伐され、その斬り落とされた頭がこのあたりに流れ落ちたからだという。
(ただ、名前からして土石流が発生してたんだろうな、と国領ハルカは考えている。)
「そろそろ、いいかしら。そこらへんの駐車場に停めときましょう?」
川の南の
(最小限の着替えや泥落としなどができる、トイレ併設のシャワー施設がある程度。
場合によっては、海から上がった後、剥皮浜の海の家を利用するのがいいかもね、と調布智美は言っていた。)
人は比較的少ないのだが、それでも夏休みの子供たちのきゃあきゃあいう声が響いてる。
自転車は盗難されないようにお互いにチェーン鍵でつなぎ合わせ、立木のひとつを囲むように停めた。
麦茶を入れてきた大きめの水筒で、水分を補給する。
荷物は、コンパクトにまとめてある。残念ながらロッカーなどはないが交互に海に入ってもいいし、貴重品は一人が手元に置いておけばいい。それ以外の荷物には金品はない。おそらく盗まれることはないだろう、──下着以外は。
お小づかいをはたいて買った水着は、あらかじめ着こんである。
買い出しのとき、親友に勧められて購入したラッシュガードとあわせて、今日が初のお披露目だ。
──そこらへんで脱げばいいのかもしれないけど。
ちょっと恥ずかしいよね、ちょっと並ぶけどシャワースペース借りようかな。
彼女は、思わず顔が熱くなるのを覚えながら。
自信ありげな物腰ながら、やはり白皙の横顔がすこし赤らんでるように思える背の高い友人にすり寄っていくのだった。