タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
(志野視点、多賀島市蛇落浜、午前9時半ごろ)
「ねー、しのりん。泳ぐよね?」
「ああ。そうだな、泳がないとな。」
「ボク、泳ぐのはあんまり自信ないんだ!」
「うん。僕も普通くらいかな。」
「だから、さ!
足がつかないところは、気をつけようね?」
「あー、そうだな。気をつけなきゃな。」
「わかってんのかなー、しのりん!
どんな大きなサメが来ても、ボクを守るんだよ?
そしてボクがおぼれたら、ちゃんと助ける!
だから、人工こきゅ、ゴホッ、ケホッ!なにするのさ、さとみん!」
「落ち着きなさいよハルカ。サメなんて、そうそういないわよ。溺れないよう、自分で気をつけて。
ほら、塩飴。日射病*1予防ね。こっちの方が怖い。」
「わー、ありがとう!」
どこかうわすべりの、国領と僕の会話。
僕は心ここにあらず。とにかく、勃起に気づかれないよう、そして平常運転にみえるようにとりつくろう。
国領は国領で、どうでもいいことばかり話しかけて、絡んでくる。気のせいか目がぐるぐるしてる気がする。
いや、ね?もちろん国領が浮足立ってるようにみえても、それは演技。僕にはお見通し。
だってさ。
国領は、生徒会やってるくらいだしコミュ力半端なく高い。頭もいい。
外見もなかなか整ってて、男子の間でも人気があって、実際、男子とも親しげに話す様子をみかける。
そんな国領が、僕との会話でこんな実のない不毛な会話を繰り広げるのは、あきらかに不自然。
そこから逆算すると。このテンパった様子も、実は意図的なものなのだろう、っていうことが分かる。
問題はそんな演技をする、国領の目的だ。それがいまいち、人間関係の機微に疎い僕にはわからない。
含むところのある僕を、さらに罠(どんな?)に嵌めてやろう、ってこと?
僕は目のすみで、国領の顔を確認しようとする。
うん、ちょっと麦わら帽子の下の顔が赤い。でもこれは、暑さのせいだろう。ほら、汗が一筋。
目が泳ぎまくっていたのは、──まてよ、やっぱり体調不良だろうか?
でも今、調布支給の塩飴を舐めて「わー、なにこれー」と言ってちょっと苦手そうな顔をしている彼女には、それ以外に体調が悪そうな様子はない。
それにしても。いつから、どうして、この状況になってしまったんだろう?
僕は、この蛇落浜に着いてからのことを手がかりを求めて思い返してみる。
──────
プレイバック。十数分前ね。
蛇落浜という、小さな海水浴場に到着し。
僕はタオルを巻き、簡易更衣室(?)でパパッと水着に着替えた。
調布と国領も、用意周到にも水着を着こんできたというが、同様に。
きんきん声で騒ぐ小学生がひしめきあう、女子用の簡易更衣スペースに入っていった。
この更衣室っていうか更衣スペース、今の感覚からすると相当に環境劣悪。
ちなみにこの時代の多賀島だと、有料の浜茶屋(海の家)もかなり簡素っていうかボロい。無料の簡易更衣室なんて、推して知るべしだ。
たとえば海の家は川をはさんだ向こうの
それでも有料のシャワー設備があったりするけど(ワンコイン2~3分くらいが相場)、蛇落浜の無料施設にはもちろんない。普通の手洗い用の水道が、トイレの横に泥落とし用に供されてるだけ。
(それでも、小学生どもが結構好き放題に使ってて怒られたりしてる。)
そういうわけで、この簡易更衣スペース。屋外行事で使うようなパイプを組んだビニールテントがほいっと置いてあるだけに近い(白ビニールの壁があるよ。もちろん)。
床付近で壁が10cmくらいあいてて、覗こうと思えば覗ける(現に、小学生の悪ガキが女子スペース近くにしゃがみ込んで、『ちょっとー!』なんて女子に攻撃されてきゃあきゃあ言ってる)。
かろうじて男女別に区切ってある程度で、主なユーザーはお金のない小学生。もしかすると、役所じゃなくて地元の自治会か何かが設置してるのかな。
そして少なくとも男子用は床も不快にぬかるんでてゴミもあって汚そうで暑くて、僕は用をすませるとほうほうの態で出てきた。
女子用は、まだしも秩序が保たれててマシだったんじゃないかな。調布たちは少し並んだけど、思ったより早く出てきた。
それで合流したときのなんかぎこちない会話が、冒頭のやりとり。
僕は恥ずかしくて、なんだか水着の2人を直視できなかった。
そして2人、というか特に国領が、なんだかそわそわしてる。
こっちを見ずにまわりを見回して、どうでもいいようなよしなしごとをかたっぱしから口に上せてる感じ。
ちなみに、僕が視野の隅からチェックしたかぎりでは。
国領が着てるのは、この時代の地方の高校生としてはかなり攻めた、セパレート型水着。
鮮やかなレモンイエロー×白のチェックで、白い幅1cmくらいのくっきりした縁取りがあることが、目のすみからかろうじて見えた(なんか国領の白い素肌がまぶしくて、目を向けられないんだ。それに見たら調布に変態って詰られそうだし。まして勃ってしまってるのが調布にバレたら、去勢されそうだよね?)。
ちなみに、水着とおそろいのミニスカートみたいな短いパレオもつけてる。上半身には、水中用のジャージみたいなやつ(ラッシュガードって、言うんだっけ)をふわっと羽織ってる。
これに対して調布のは、フィットネス用水着っていうか。
なんか体育服の半袖シャツ+短パンをそのまま濃紺の水着にしたような、すっごいおとなしい(?)やつ。
これ、ありかよ。なんだか、絶対に僕に素肌を見せまいという信念を感じる。
ただ、ね?やっぱり、そんな調布に対しても、首から下には視線を向けられない。向けたら勃つ。そして怒られる。まちがいない。
だって調布の水着自体は全く色気なくてガードがちがちなんだけどさ。ただ、調布自身の体が。
つまり、発育自体がよくて。なんか腰の曲線とか、その。それだけですごいエ○くて。勃○不可避。
ただもちろん、かろうじて調布のすました顔には視線を向けられる。
そして事実、国領のちょっと変な挙動に困惑して、救いを求めて調布の顔をみるんだけど。
ただ、調布は意味深に微笑んでみせる程度。なぜかちょっと引いてて、国領を強くたしなめるような感じでも、いつもみたいに僕にずけずけ言ってくる感じでもない。──なんか僕、気に障ることしちゃった?
あ、一緒にいると恥ずかしいような服装、僕がしてるんじゃないか、って?
いや、多分違うと思う。ちなみに僕は短めの短パンみたいなやつね。でも、あの膝まであるような長いやつじゃない。あのゾロって長いやつ、好きじゃなくて。もっと短めの、トランクスみたいなやつ。
引かれるかなって思ったけど、今のところ2人からは特に否定的な反応はない。少なくとも国領からは。まあ、男の水着なんてね、興味ないだろうけどさ。
そんな感じ。──プレイバック終了。
そうして、冒頭の状況にある僕たち。
国領が塩飴を舐めさせられてる、現在の状況につながるわけなんだ。
手がかりは、見えない。
百歩譲って、僕が挙動不審にみえてしまうとしたら(大丈夫大丈夫、勃○にも気づかれてない。泰然としてみえてるはずなんだ)、それには、まあ、正当な理由がある。調布たちが水着なのが悪い。
でも、なぜ国領が挙動不審なんだ?
やっぱり、調布に裏切られて(つまり、さ。せーの、で水着見せ合ったら、国領だけすごい露出度高くて、『わー、ボクだけ恥ずかしいよー』ってなって)、動揺してる?
つまりこれもどれも諸悪の根源は、調布なんじゃないか?
僕は、心の奥にある調布征伐の意志をいっそう強めた。
──────
ともかく、そんなふうに水着を着た後で顔をあわせ、そわそわしてた僕たち(というか僕と国領)だが。
塩飴を舐めさせられた国領がわーわー騒ぎながらも、多少は妙な挙動不審がおさまったところで。
3人の中ではもっとも冷静かつ、いちばん大きめなリュックを背負ってきた調布が、そのリュックからごそごそと何かを取り出しながら提案してきた。
「あー、それで。水に入る前に。
タープ、持ってきたのよ。そこの松の木陰にでも張って、荷物置きましょうよ。
あと、あたしは日焼け止め塗る。ハルカは?」
国領も、「ボクも!さとみん、塗りっこしようよ!」と言って。
ちょっと荷物が置けそうな場所をみつけて、そこに調布持参のタープ(日よけの幕だね)を張った。
あー、ちなみに都会の人たちからはちょっと違和感あるかもしれない。そんなスペース、あるんか?って。県庁所在市の近郊の浜なんて、混みこみなんじゃないか、って。
たしかにこの時代の夏の海への人出は、結構多い。
昔の写真とかみたらわかると思う。昭和なんかだと、ビニールシートや人ばっかりで浜がみえない写真、あったりするよね。海は定番の夏の過ごし方だったんだ。夏の海の曲、サ○ンやT○BEとかが人気だったように。
温暖化が進んで夏の日差しが苛烈になり、海に行く人が減った未来からは、想像できないかもしれない。
この時代も、子供の数は体感、僕の死んだ(推測)ときの倍はいた感じだし、多賀島市も県庁所在地でそれなりの人口はある。
けれど、僕たちのいる蛇落浜は離岸流で過去に海難事故があったとか、オバケが出るとかいう噂もあってか、あまり人気がない。人出もそこまで多くない。
そういうわけで、僕たちは防砂林からすこし海側に突き出て生えてた松の木陰(っていっても、盛大に木漏れ日があるけどね)に、タープを張り。
背中に日焼け止めを塗ったり、海に出る準備をする。
(調布は基本、あまり日焼けしないようにしているみたいだ。
国領もそうで、あまり日焼けできないって言ってた。焼けると、赤く腫れることがあるとか。)
国領は、くすぐったいよー、とか、きゃあきゃあ騒ぎながら、調布に組み敷かれてぬりぬりされた後。
「ほらハルカ、志野にも塗る!」って、調布に命じられ。えー!?とか騒いだ後に。
妙に遠慮しいしい、っていうか、こわごわしながらも僕の背中に塗ってくれた。
(あ、僕はいいよって最初は遠慮して言ってみたんだけど、さ。
ただ僕も日焼けするとヒリヒリする方で、日焼け止め塗りたかったし。結局、好意に甘えた。)
そのあたりから、かな?
また国領が、ちょっと挙動不審になり。
「しのりんの背中、広いねー」(※つんつんと指先を感じる)とか「ボクは大丈夫だよ、さとみんにもうぬってもらったからねー。にゃはは。チラッ」とか。
なんか意味不明なことを、なんか心あらずな、浮わついた感じの口調でぺらぺらと口走りはじめていたんだけど。
「ほら、ハルカ!それと、志野も。ちょっと水浴びてきて頭冷やしてきなさいよ。
ラッシュガードつける?泳ぐ間は、いらない?じゃあ、預かる。ほら、その帽子も。そのひらひら(※パレオ)も、要らないでしょう。
あたし?ちょっと、あんたたちの荷物とか貴重品とか整理して後で行くから。先、行っといていいわよ」
おそらくこの場で唯一冷静な調布に、そうたしなめられ。
「そ、そうだねさとみんのいうとおりだよじかんはゆうげんだししのりんボクたちいっしょにいっとこうか」とか、早口で言いながら立ち上がる。僕もあわてて立ち上がった。
その立ち上がった僕の腕に、おずおずと国領が手を伸ばしてきて。
僕は思わず、身を固くしたが。
彼女は、最初は僕の腕のうしろから、脇に伸ばした腕を通そうとするかのような挙動を一瞬みせたものの。
僕の反応でびくっとして、途中でやめて。
すこし手をさまよわせた後、僕の肘のあたりを軽くつかんだ。
ひんやりとした、国領の手。意外と指は細いんだな、と僕はパニックに陥りかけた頭で考えた。
ちなみに、国領はいつもは手をつないできたりはしない。だけど、軽いボディタッチみたいなのは、仲が悪くなる前は結構あった。
ほら、ときどき「どーん」とか喪黒○造みたいな効果音を口で発しながら軽く肩をぶつけてきたり、「スキあり!ほわたぁ」とか言いながら脇腹を指で突いてきたり。
だからこれも、脇の経絡秘孔を突こうとしたか、軽いプロレス技みたいなのをかけようとして。
でも調布の視線を受けて、怒られると察して途中キャンセルしたのをごまかしたんだ、と僕は察する。
ただ、キャンセルして手で僕のひじをつかんだ今は。なんだかちょっと雰囲気が違うっていうか。
ほら、なんか恥ずかしそうな風情でそれをしている国領のしぐさが、まるでつきあいたての恋人みたいで、──。
こほん、と発された調布の咳払いの声で、僕は我に返り、国領もびくっとして。
さとみんごめんよ、じゃあ先、いってくるよ!と空元気みたいに聞こえるうわずった声で国領が言って。
僕たちは、傍目には初々しいカップルのような様子で海に向かった。
なんだか僕は足が地に着かない感覚で、不自然に見えないように歩くことだけに注意を向けた。
湿った砂に、めりこむ足の感触。
寄せては返す波で、足にヒヤッとした水がかかった。
準備運動みたいなの、ちゃんとしてくればよかったかな?結構水が冷たいな、と僕は思った。
そのとき国領が少し体を寄せてきて、僕の思考は中断した。
「しのりん、水、冷たいねー!」
「そうだな。ちょっと慣らしながら行こうか。」
そんな会話を交わし。きゃあきゃあと波打ち際で騒ぐ小中学生(推測)たちの声を背景に。
僕と国領は、おそるおそる水の中に入っていった。
──────
なんだかんだいいながら、水は冷たく、海水浴は楽しい。
監視員みたいな人たちもどっかにはいるんだと思うが、ぱっと見には見当たらない。
沖にブイが浮かせてあり、そこから先はいかないように、ということらしい(と調布から聞いた)。
「ねー、しのりん!」
「なんだ、うわっぷっ」
やりやがったな。
もうお腹のあたりまでの深さに入ったとき、国領が水を掛けてきた。
ここはもちろん、仕返しするよね。
「きゃあーっ、冷たい!しのりんのえっちー!」
名前を呼ぶな、名前を。
僕はおそるおそる、海岸の方、──そう、調布のいるあたりを見やる。
そこまで、僕は目が良くない(けど、2回目の世界ではなんとか眼鏡なしで暮らしてる)。でも、僕たちの荷物をおいた基地(?)はまだ、かろうじてみえる。
僕の目には、調布が怒り狂ってるようすは映らない。何か作業してるらしい調布が、国領の声に気づいたのか、片手をあげたようだ。
「ほら、しのりん、いくよーっ」
そして僕が陸上をふりむき、気を逸らしたすきに。
国領がこんどは僕の背中におんぶをねだる子供のように、とびついてきた。
思わずよろめく僕。ちょっとしゃがむと、国領が体勢を直してまたとびついてきて、結局僕は仕方なく国領をおんぶする格好になった。
とはいえ、直立はつらいので海に体を沈める感じになった。僕は肩くらい、背中の国領も腰のあたりくらいまで、水にひたってる。
「わー、しのりん、大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫。それとも、泳ぐか?」
「正直ボク、あまり泳げないんだよね。
しのりん、ボクを背負って泳げる?泳げない?はー、つっかえないなー」
「無茶言うな。──このまま後ろに倒れてもいいんだぞ?」
「ひー、ごめんごめん!」
国領が、ご機嫌と言ってもいいハイテンション状態。
僕に次から次へと無理難題。──背負って泳げ、あの岬の先の小島に行きたい、ナマコかホヤを採ってこい、かたぐるましろ、云々。
「ねえ、しのりん。──その、さ。」
そこから、国領の指示に従い。
さらに沖に進んで、そろそろ肩から首のあたりにまで水が達するくらいに、深くなり。
さすがにおんぶは無理だよね、ということで、いったん国領も背中から降りる。
溺れちゃうから、指の先持ってよ。──と言われ。
僕が感触に胸をどきつかせながら、彼女の白い指先を持ってふよふよさせてあげていると。
国領がちょっとまじめな感じになって、僕に顔を向けた。
(ちなみに彼女は水泳帽はかぶらず、調布に短めのお団子にしてもらってる。)
「しのりん。さっきも言ったけど、さ。
ボク、泳ぐのあんまり自信がないんだ。水に浮かなくて、さ。」
「そうか。脂肪が少ないからかな?」
彼女の方に、視線を向ける。
その白い体は、海水面の下に沈んでいる。でも、顔や首は水上だし、水面下でも、澄んだ水越しに透けてみえる部分もあり。
却って僕の逞しい想像力は、ぶぶぶぶと稼働音と立てて働き始める。
たとえば。
国領の肩や、細い首。セパレートの水着のトップス付近。水で隠されているが、抜けるように白いデコルテの肌。
あのきめこまやかな肌を舐めると、きっと至福の境地に至れるだろう。ましてやあの水着で隠されてる、胸の先なんか。
水面すぐあたりにちらちらみえる、黄色い水着に。
僕のソレが、はりきってアップしはじめた。
かなり海に出てしまったので、近くに他の人はいない。もちろん調布も。
それにすこし勃○しても、水の中だし国領にも気づかれないだろう。
そんな僕の邪視(?)を受けながら、国領は、なぜかほこらしげに胸を張った。
女の子は痩せ願望が強いから、脂肪が少なそうって言われて喜んだのかな?
「ふふーん。そうかもね!
ともかく、さ。
今、もう足がつかなくなってきてる。
キミが意地悪してボクの手を離せば、ボク、溺れちゃうかもね?
完全犯罪、できるよ?」
「──国領は、離さないさ。」
いや、僕のことなんだと思ってるんだ国領。
つまらん男かもしれないけど、自分でもおとなしくて温厚な方だと思うよ。
「うー、あー、──う、うん、そうだよねっ!
ボク、しのりんのこと信じてるよっ!」
国領はそう言って。目をさまよわせた。
安心してくれ、ちゃんと守るから。というと、安心したんだろう。
心なしか、頬に赤みがさして、つないだ指にさらに力がはいった。
「それで、さ。
──その、ごめんね。」
「?」
何に謝ってるんだ。さっきからの意味不明な言動のことだろうか、と僕は思うが。
「ほら、この前、っていうか。しのりんが病気になった後の、補習のとき、さ。
ボク、しのりんにすごい感じ悪く言っちゃったことあったかなー、って?」
ちらっと、上目遣いで国領が僕を見る。今ははっきりわかる、頬が赤い。
あー、仲直りしたいってことだな。と、僕は直感する。
確かに、竜神窟から戻った病み上がりの補習のとき、国領が僕をバチボコクソミソにけなしたことがあったよね。あれ以来、彼女と僕は冷戦状態だった。
その
「いや、大丈夫だ。まあ、その、──僕もいろいろ、あー、気が利かなかったりしたかもしれない。悪かった。」
一応、悪くなくても悪い、って言っといた方がいい。それが、社会人生活をすごしての僕の暫定的結論。
でもそれだけじゃなく。僕にも反省すべきところがあると思ったんだ。
本当はちゃんと彼女の精神的なアフターケアとか、してあげとかないといけなかったのかもしれない。
その必要性、一番わかってるのは僕。命を救うためだとは言いながら、トラウマになりかねないようなことを、僕は彼女にしてしまった。
あのとき、僕は。国領の、このすごい白く細い体を組み敷いて、その、──
あーっ、マジ勃ってきちゃったぞ。ヤバっ、バレないようにしないと。ええと素数素数、3、5、7、──。
「そうだよ!──って、でもさ、しのりんだって大変だったんだよね。ホント、ごめん。」
ボクも、わかってるよ。あれも、さ。ボクの命を救うためだったんだ、って。
でもさ、ボク。すごく恥ずかしくてさ。だって、──ボクだって女の子なんだよ!?
なのにしのりん。あの後あんまり、かまってくれなくて、さ。
ちょっとボク、ムカッてきちゃって。ついつい、それで意地悪なこと言っちゃったんだ。──ごめんなさい。
また変わらずに、トモダチでいてくれるよね?
上目づかいにいう、国領が愛おしい。もちろん、と答える。
なんだか、ここしばらく心に沈んでた重いかたまりが、ほわあっとほぐれていくのを感じる。
国領は、やっぱりいいやつだな。しかも、ちょっと癖はあるけどかわいいし、あの脚も、──。
「友達」かー。うん、それでもいいや。ちょっと未練は残ってるけど、──。
国領は、僕の返事を聞いて。
わー、しのりん大好き!と言い、そして僕と軽くつないでた指先に力を入れ。
こっちに寄ってきて。そして両腕の先を僕の首のあたりにかけるようにして(つないだ指を離し)、肩の下、すこし横の方から抱きついてきた。
これは、──いろいろ、まずい!
抱きついてきたせいで。微乳だけど、すごい美乳なのを知ってるその胸が。
水中に没してる、僕の横腹っていうか腋下のあたりに押し付けられてきた。あー、気のせいか、胸の先のぽちが分かる気がする!国領はニ○レス、つけてないのか?っていうか、寒いのか?確かに水はひんやりしてきてるが、──
そして、さらに。
僕が直に舐めたことのある白い足も巻きついてくる。
僕の腰のあたりを、彼女の太腿がはさむ。ふくらはぎから足先が、僕の膝あたりにからむ。
そう。これはまずい。
まず、第一に。
「あー!しのりん、これなーんだっ、うわぷっ!」
そうなるよね。
ほら、水深は、僕も背がそろそろ立たないところにきてて。
軽く立ち泳ぎ(ちゃんとした立ち泳ぎじゃなくて我流だけど、僕は足先がつかない水深でも、足をぱたぱたさせて、肩を出すくらいにはふよふよ浮ける)してたのだけれど。
国領が足をからめてきてしまったから、それが妨げられ。
僕たち二人は一瞬、とぷん、と水中に沈む。
あわてた国領が僕の首にかけた腕と巻きつけた脚に、ぎゅっと力を入れる気配。逆だって!
ただ幸いにも、超感覚さんがなんだなんだ、と作動。
そしてこの付近、足はつかないけれどそこまで深くもない。沈んだはずみで、僕の足先は海底につく。
そして国領も、溺れたときの心得を思い出したのか、僕の体から腕や足を離し。
超感覚さんの力で細分化された時間で冷静になった僕は、ばたばたしてる国領の腕を軽くつかみ。
そして、海底をぐいっと蹴った。
それで二人とも数秒後には浮き上がって、僕はぷはあ、と息を吐く。
もちあげてあげた彼女も、水上に口を出し、ぷふっ、と息をついた。よかった、水は飲んでないみたいだ。
しかしな、水難事故になるところだったぞ。マジ、危ないじゃないか。いきなり、なんてことしてくれるんだ。
国領、厳罰に値するな。と僕は心に刻んだ。
そして、第二に。
抱きついてきた、国領のやわらかい体に反応し。
ただでさえ半勃ちだった、僕のソレがすごい角度でカチカチになってるわけで。
僕に抱き着いたときに、僕の胴体を挟んできた、彼女の柔らかい太腿の内側あたりに熱いそれが押しつけられ、──
かつ、水中の方が、水面上からみるより彼女の姿は視認しやすく。
そこまで透明度が高いわけでもない水の中で、揺らいでもいたけど。
国領のセパレート型の水着姿が、僕の網膜に一瞬で焼きつく。
高校生にしては大胆なカット。そして細めの脚と胴体の織り成す「Y」の字型の関節部分の折れ目のラインが、──。
そして、──深淵を覗くものを、深淵もまた見返す。
もっこりと元気に盛り上がった(というか、尖った先でテントが張られた)僕の海パンの状況を、彼女も視認可能だったはずであり。
一瞬深く沈み、浮き上がった僕たちは、──。
「ふぁっ、はぁ、はぁー、ごめんっ、ごめんってばっ!」
国領はさすがに悪いと思ったのか。
浮き上がった後に息をつきながら、僕に謝ってきた。
しかし、ひとしきりの謝罪のあとで。
「──だけどさ、しのりんっ!
あれ、何かなー?ボクの太腿に、押し付けてきたやつ」
クソっ、やっぱりばっちり気づかれてる!?
僕と彼女とは、またさっきみたいに手を軽くつないで、僕が彼女を支えてる(引き上げてる)状態に戻ってるんだけど、さ。
無理ににやけそうなのに、怒ってみせたような顔で。
国領が僕とつないでる右手と逆の手(左手)で、僕のつないだ手をナデナデする。
さらに。
「ねえ、もしかすると。もしかすると、だけどさー?
──しのりん、今のでボクに興奮してたり、してないかなー」
「──」
どう答えれば、いいんだ?
せっかく国領と「友達」までは改善した。でもここで正直に「そうです」なんて答えると、──。
僕が絶句していると、彼女はまたさっきみたいにつないだ手に力を入れ、僕に近づく。
ただ、今度は抱きついたりはせず。
だが、つないでない方の左手を水に差し入れ。ちょっと水に深めに沈み。
反り返ってテントを張ってる僕のソレを、海パンの上からその手でナデナデと撫でた。
「いけないなー。これ、なんなのさー?」
「あっ、いや、そのだな、国領、──」
国領の手から僕のソレに伝わる、ぴりぴりするような快感。
しかし、僕はちょっと別のものを発見して、気もそぞろになりつつあった。
「ふふふっ、まあ、いいよ!
ボクもさっきは、悪いことしたし、ね」
「いや、だから国領、──」
上機嫌の国領は、ちょっとおろおろしている僕の声に笑みを深め。
身を沈めて、僕のソレを今度はもみもみとしてきた。あっさり反応して硬度を増す僕のそれ。
でも、違うぞ国領、そうじゃないんだ僕が慌ててるのは。ヤバいんだよ。
「──それに、ボクたち友達だし、さ?
ちょっぴり。ちょっぴりだけなら、しのりんの
なお、僕のいきりたつそれに対する愛撫を続けながら。
彼女は水面近くから、おろおろする僕を見上げて言い。
僕のそれから手を離して浮き上がると、んふふー、と鼻歌でも歌いだしそうな風情で。
僕に接近し、肩口のあたりに柔らかい唇を圧しつけて、そして頭を肩に沿わせてきた。
「ほら、例えば、さ?
今だったら、周りに人もいないみたいだし。
そういうことも、できるよ。ためしに、してみようか。」
もうダメだ。僕は衝撃と怒号を予想しつつ目を閉じる。
「──ねえ、しのりん?感動のあまり声も出ないかな?
そうだよ、手でほら、サービスしてあげるからさ、キミのこれ。抜いたり、できるかな「あら、楽しそう。まぜてよ?」──とわっ、あうっ、さとみんっっ!──くぷっ「あらいけない」」
そう。
さっきから、国領の背後にあたる、浜の方から。
ピンク色の何かが、波間を越えてぷかぷかと明らかに意思を持ってこちらに近づいてきていて。
少し目のよくない僕は、それが「浮き輪」だってことがわかる距離となったときから。
それを運びつつある何者かの存在を推知して、気が気でなかったのだが、──。
ほど遠からぬところでその浮き輪が止まり。まるで、僕と国領の会話に耳を澄ませているかのように──。
そして。
笑いを含んだ調布の声が、浮かれる国領の声に割り込んできて。
僕はあわてて、その声に硬直し、ふたたび沈みそうになった国領を支えたのだが。
ほぼ同時に、国領の、僕とつないでいるのと反対側の腕が、くいっ、と強く調布によってひきあげられた。
調布の口元が、笑いをこらえて歪んでる。「チェシャ猫のような」という比喩が、なぜか僕の頭に浮かんだ。
「──面白いわね、そのお話?
あたしのこと、のけものになんかしないわよね。ねー、ハルカ?」
こくこく、と。
国領は口を真一文字に結んで、瞳孔の開いた目で調布を見返しながら、頷いてる。
あー、なんだか、ろくでもないことになるんじゃないかな、と。
僕はそう思いながら、救いを求めて頭上を仰いだ。
しかし夏の空は、僕の煩悶を知らぬげに、すっきりと青く晴れわたっていたのだった。