※この作品はR-18です。

タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。   作:Marchhatter

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国領ハルカ視点→志野視点です。


282 異形たちの茶会(5)(国・志)

(国領ハルカ視点、多賀島市蛇落浜、午前10時半ごろ)

 

「さとみん、しのりん。そろそろ、交替しよっか?疲れてない?」

 

「なに言ってんの、貴女がいちばん不安なのよ。ねえ、志野?」

 

「あー、そうだな。まだ、深いからな。

 また安全そうなところにきたら、交替しよう。」

 

 ──むー、ボク、ミソッカス扱いされてる!?

 

 そう不満を抱く国領ハルカは、別に泳ぎが下手なわけではない。

 学校の授業とかでは、特に普通くらいには泳げていたし。なんなら同級生平均より速いと思う。

 25メートルくらいなら、クロールだって平泳ぎだって大丈夫。50メートルもなんとか。

 

 ただ、志野とのやり取りでも告白したように。

 すこしやせ気味の体格のせいで浮力や体力が足りないのを補おうとして手足をばたばたさせて体力が尽き、早くバテてしまうのだ。つまり速くは泳げる、でも遠泳はできない。

 

 その点、──武芸十八般の調布智美(さとみん)はまあ、わかる。

 全く足もつかないはずなのに、さっきからずっと、平然と立ち泳ぎしている。

 なにか努力している気配はまるでなく、普通に足がついていると錯覚しそうなほど。

 

 志野(しのりん)は、性別的には国領ハルカより脂肪も少ないはずで。

 事実、水着になった志野は、やっぱり線が細くみえても男の子であり、意外にある筋肉が締まった肌にわずかに浮いていて(頬が熱くなった国領ハルカは、じろじろと直視できなかった)、本当なら水に浮きやすいはずがない体型なのだが。

 強引にその筋力を使ってて、この水域でも平然と立ち泳ぎしている。こちらはさすがに調布智美(さとみん)にくらべて、腕や両足を使ってるようすは明らかで動きに無駄が多く、また浮き輪につかまって楽をする傾向があるけど。

 

 そして。

 この2人に左右を護衛され、浮き輪に嵌ってぷかぷかと浮いているのが国領ハルカの現状。

 大きめの浮き輪なので、胴体に嵌めて浮かぶのではなく、上に乗っている。いかにもレジャー風に。ドーナツ型の浮き輪の穴に腰を嵌める感じで。

 そして、そういう体勢をとると。

 彼女の貧弱な(と自分ではコンプレックスを抱く)脚とかが、志野や調布智美の目にさらされてしまう。水中からみれば、お尻もみえるのかも?

 それが、国領ハルカの羞恥心を高めていた。実際は志野も気もそぞろで、そんな余裕はなかったのだが。

 

 3人は、やや沖合いに出て。

 この浜に接する遺死裂(いしざき)川の河口付近の砂嘴の先にある、小さな島をめざしていた。

 この島、小さいながらもブロッコリーみたいに植物も生えていて、ちょこんと小さな鳥居と祠もみえる。

 

 この島に渡るのは、この地元の小中学生にとって、ひとつの冒険になっていて。

 小学生たちは、岬の先端から、干潮になると頭をあらわす砂嘴や岩づたいにこの島にむかうのが普通らしいが。

(うまく時間帯を見計らえば、足を濡らすことなくこの島に到達できるようだ。)

 国領ハルカたち3人は、海からダイレクトにこの島に上陸することをこころみていた。

 

「そろそろ、いけるか?」

 

「そうね。──ハルカ、そろそろ足がつくし、浮き輪から降りても大丈夫。

 志野、あなたはハルカの補佐について。」

 

 今はやや潮が満ちてきていて砂嘴がとぎれてしまっていることもあり、人の姿はあまりみあたらない。

 島の沖側、十数メートルのあたりから水深が深まっているらしく、遊泳禁止ブイがある。

 しかし湾内(?)や岬の砂嘴につながる側は基本的に砂地であり、岩場もあるがそこまで危ない場所ではない。

 

「ほうっ、あー、地球の重力、(おも)っ!」

 

 水中から陸上に上がるときの体の重さに、古代の肺魚の陸上進出の苦難に思いを馳せつつ。

 浮き輪からおりて、十数メートル、水中を歩き。

 おっかなびっくりの志野にエスコートされながら、国領ハルカは島に上陸する。

 

「ほら、そこが入り口かしら。ちょっと上にのぼって、お参りでもしてみる?」

 

 この島の直径は30メートルくらい。小さな半・陸繋島だ。

 島の中央部には変わった形の大岩がいくつか折りかさなっていて、大きな松が根を張って育ち。

 その周りにも大小の草木が生えて、盆栽みたいなミニジャングルになっている。

 この松の木の根元付近に、ちょこんと小さな祠があるのだ。

 

 3人は、何分にも裸足なので、尖ったものを踏み抜かないように注意しながら上に登り。

(最初、調布智美が先行しようとしたが、石段状に刻まれた巨岩をのぼる彼女の白く肉感的な膝裏に貼りつく志野の視線に国領ハルカが気づいた結果、志野が先行させられることになった。)

 途中、巨大な松の木の根元に設置された、小さな祠の前で柏手を打つ。

 

 ──神様。きょうは、仲直りさせてくれて、ありがとうございます。

 これからもしのりんと、()()()()うまくいきますように、お見守りください。

 

 手を合わせながら、彼女は思う。

 

 ここしばらく、志野と疎遠になったことに悩んでいた国領ハルカだったが。

 乾坤一擲の思いで、親友であり悪友である調布智美の提案に乗り、3人でのデートに参加し。

 前日には、頭のなかで自然な会話のシミュレーションを繰り返して、睡眠時間をすりへらし。

(でも結局、なんだかテンパってしまい全然役に立たなかったが。)

 親友に背中を押されて選んだ勝負水着を着込み、満を持して臨んだ今日。

 彼女の親友の、さりげないアシストもあり。

 彼と二人きりになり、謝罪して仲直りし、また距離を縮めて親しみのある関係を構築することに成功していた。──主観的には。

 

 思った以上に、ここしばらくの彼とのぎくしゃくが心理的に重荷だったのだろう。それがようやく解決されて、彼女は、しみじみと幸福感を味わっていた。

 

 ──でも、まだマイナスがゼロになったくらいかな。

 もうすこし、プラスにしてみたいな。

 

 上陸した小さい島のほこらの神様(彼女は典型的日本人で、神様が本当に存在するとは思っていないが、いたらいいなと思ってる。だから神社仏閣を訪れるのも、好きだ)に、感謝をささげてお祈りしてみる。

 といっても、彼女には現時点でそこまで大きな望みはない。

 仲直りできたことへの感謝と、まあゴールまでは行かなくてもいいけど、もっとしのりんが自分に関心を持ってくれたらいいな、という程度のささやかな願い。

 

 時間、すこし長くかかったかもしれないな、と思いながら目を開けて横をみると。

 信仰心など持たなそうな志野が、目を閉じたまま妙に真摯な表情で祈りを捧げ続けているのを発見し、わずかに奇異な思いを抱いた。

(ちなみに調布智美はさっさと参拝をすませて、好奇心旺盛にあたりを調べ、眺めのいいスポットをみつけて景色に眺めいってたりしていた。

 だから彼のその様子に気づいたのは、国領ハルカだけだったのではないかと思う。)

 

 邪魔をするのも憚られ、彼女はそっと立ち上がって親友に歩みより、合流する。

 まだ祈り続けている志野をおいて、2人は踏み分け道をたどり、島の反対側に到達する。

 

「(どう?なかなか上手くいってるみたいじゃない?)」

 

 声をひそめて、悪友は悪戯っぽくささやきかけてきた。

 彼女は、頬が熱くなるのを覚える。

 

「(ありがとう、仲直りできたよ!

 でもさ、やっぱり恥ずかしいよー)」

 

 わりと大胆なカットですごく無防備感ある水着を身につけている、国領ハルカは。

 お尻とか横乳とかの肉がはみでたり、紐部分が肌に食い込んでみえてないかが、気になり。

 片手で、すこし水着のお尻らへんをひっぱって直してみる。大丈夫だよね?

 

「(すごい可愛いわよハルカ、自信持っていい。

 どうする?海は、ハルカのターンでいいんだけど。もっと攻めるなら、手伝うけど?)」

 

「(え?ええっ!?さとみんっ、それって、──)」

 

 そこで、草を踏む音が聞こえて、二人は口を閉ざす。

 

「あー、悪い。時間かかった。」

 

 頭をかきながら参拝をすませてやってきた志野によって、2人の密談は止められた。

 頬が燃えていて志野の顔を見ることができない国領ハルカとは、対照的に。

 悪だくみの相談などなかったように、悪友はすました顔で平然と彼を島の散策に誘い。

 3人は風に吹かれながらこの小さな島につけられた踏み分け道をたどってみることになった。

 

 島の頂上に登る。大きな自然岩の積み重なりが、不ぞろいながら階段みたいに登っていけるようになっている。

 あまり高い場所ではないが、それでも渺渺(びょうびょう)とした群青色の海原や、小さくみえる人影が動く白い砂浜、人の多い剥皮浜、そしてその向こうの多賀島の街並み、そのさらに南にある港やコンビナート(かなりかすんでいる)をながめることができる。

 かなり日射しは強いが、松の木陰は涼しく、海からの強い風が心地よい。

 

 この島だけでなく、縊死裂川の河口の対岸側(剥皮浜)にも、似たような島が複数ある。

 風光明媚な景色でもあり、訪れる人たちもいつもはそれなりにいるのだろうが。

 国領ハルカたちのいる方の浜(蛇落浜)の島は、潮が上がってきていて陸路が閉ざされたせいでほかの人がいない。3人だけの貸し切り状態だ。

 写真でも撮りたいね、と言い交わすが、3人はカメラを持ってきていなかった。

(3人の貴重品を、密封できる肩掛け式の防水ケースにまとめて調布智美が持ってきていたが、カメラは持ってきていなかった。

 このころは薬局などでも買える1000円ちょっとの使い捨てカメラが流行っていて、それほど高いものでもなかったので、国領ハルカは持ってこなかったことを後悔していた。)

 

 しばらくの間、国領ハルカはお互いの水着姿にすこし気恥しく思いながらも。

 おしゃべりしながら散策したり、よさげな木陰に腰を下ろして休息してみたり。

 海辺の岩や潮だまりの生物を眺めたり追いかけまわしてみたりしたのだった。

 

 ──────

 

「しのりん、ほら、ヤドカリだよ!」

 

「おう、──大きいな?」

 

 落ちついてきた国領ハルカは、捕まえたヤドカリをほこらしげに志野に示してみせながら、彼の様子を観察する。

 やはり、ヤドカリにもちろん視線は向けるのだが。

 でもヤドカリを眺めて彼女とやり取りをしている時間の半分以上のあいだ、彼の視線が、(ヤドカリに向けているふりをしながらも)自分の体に向けられているのを、彼女は確認した。

 

 まだ恥ずかしさが、残ってはいるものの。

 それを上回って、自分が彼の関心をひきつけていること、胸がぺったんこなことなどコンプレックスもある自分の体を魅力的だと思ってくれているらしいことに、胸がふくらむような喜びを覚える。

 

 親友である調布智美は、国領ハルカに向かい、まず志野との仲直りを優先するわよ、と事前の電話では言っていたが。

 その言のとおり、今日はずっと、鈍感な志野が気づかない程度にさりげなく、国領ハルカが志野と接触する機会を優先してつくってくれている。

 露出度の低い水着にしているのも、ちょっと大胆な水着の国領ハルカを引き立てようと思ってのことみたいだ。

 

 ただ、もちろん志野の本性は、性欲に支配されたケダモノであり。

 彼の視線は、国領ハルカに飽き足らず、彼女の背の高い親友の起伏に富んだ曲線にも注がれている。

 

 しかしまあ、仕方がないだろう、──この親友、それはもう隠しても隠し切れない、目を惹く起伏に富む体をしている。浜にいた大学生たちの視線を集めてしまうような。

 でも、この親友と並んでも、今の国領ハルカは見劣りしないらしい。少なくとも志野にとっては。

 そのことに、彼女はどこかほこらしい思いを抱いた。

 

 そしてそういうそれぞれに魅力的なふたりに挟まれた彼、志野の短めのサーフパンツの前は持ち上がっていて。

 彼はどうやらそれを彼女たちの視線から隠そうと、まったく違う方向をみて気を紛らせようとしたり、さりげなくチ○ポジを調整したり、片足を岩に掛けた姿勢をとったり、どうしてもだめなときは軽く腰をねじるようにして腰の前を彼女たちの反対側に向けたりと、涙ぐましい努力を払っているようすだったが。

 国領ハルカは、なぜか根取や助子やその他の男子生徒たちから、性的な関心を持たれていることに気づいたときとは違って、不快には感じなかった。

 どうやらバレていないと思って胸をなでおろしている彼の様子が、ほほえましいように感じられたからでもある。

 バカねー、と思ってるらしい親友(調布智美)と彼女とは、目が合い。

 彼に知られぬよう、苦笑を交わしあったのだった。

 

 そうして、しばし磯遊びを楽しみ。

 他の人たちも、島に上陸してきたあたりで。

 そろそろ行く? という調布智美の言葉に、「行くー!」と元気よく彼女は答えたのだった。

 

 ──────

 

(志野視点)

 

 ひょうたんから駒、とはよく言ったもので。

 調布と国領と僕は、岬の先にある島に渡ってみることになり。

 国領を、ドーナツの形をした浮き輪の上に載せて僕と調布とでどんぶらこと運んでいき。

 上陸して、探検してみることになった。

 

 多賀島市の面する多賀島湾(寒暖差のある水の流れのため発生する蜃気楼のためについた、昔からの呼び名である『龍燈(りゅうとう)海』と呼ぶ人も多い)は浅い湾状の地形に加えて、島にも囲まれた一種の内海になっていて、波はそれほど高くない。

 

 この島自体は、あの宮崎県の青島の超ミニチュア版みたいな感じだ。

 河口に続く砂嘴の先に、直径3、40メートルほどの小さな島がある。大岩がいくつかつみかさなったところに砂がたまったりして島になったのだろう、盆栽みたいに巨大な太い松が生えててて、この松の木の根元のあたりに小さな祠がある。

 僕たちは、とりあえずそこにしゃがみこんで、ささやかにお祈りする。

 横を見ると、調布も国領も目を閉じて真剣に祈る様子。あー、僕もなんか祈っとくかな。神様って、あんまし信じてないんだけどな。イワシの頭も信心から、だしね。

 彼女たちが元気で幸せでありますように、とか祈っとくか。

 

 目を閉じて、そう念じる。いろいろ上手くいきますように、と祈る。

 そこで、僕はふと、妙な不安に襲われる。

 

 ──「いろいろ上手く」って。

 今の僕は、上手くいってるのか?

 

 史実と違い、今のところ紫藤は無事だ。1回目とはおそらく違う。

 母が意識不明の状態で完全にうまくいってるわけじゃないが、そこも一縷の望みはある。

 学費全額給付付きの奨学金ももらえる予定、だから紫藤弟も、今のところは大丈夫。

 

 竜神関係は、全く史実と違う問題。未来知識で対応のしようがない。ただ、成算はある。

 武器がどうこう、って未来の調布が言ってたな。まあ、それは確かに盲点だ。なんか対策しよう。

 史実と全く違うのは、ナギさんたちのこともだな。難題だけど、法的な社会復帰の処理は可能だと思う。他の町に逃がす線で、それなりに青写真はある。

 

 じゃあ、なんだろう。──国領か?

 あー、国領か。確かにあいつは、本来の世界線では何かおかしな状況になってた。

 正史では生きてたが、幸せじゃなかった。攻撃的ではないが、冷淡というか取りつく島のないメールが来てた。一読してダメと分かって、あまり考えず流してしまったけど。

 いろいろ変わった、この世界線だと死んでたはずだが、それは回避した。

 一応、大丈夫なんじゃないかと思うんだが。

 

 調布は、大丈夫のはず。本来の未来でも変わった世界線の未来でも、ちゃんと生存してる。

 懸念点はある。例の囚われてる女の子のこととかで、危ない橋渡ろうとしてるんじゃないかって気もする。

 ただ、そこは数十年の経験を積んだ思慮深い(?)僕が手綱を握れると思う。今のところ独断専行で危険なことをしでかそうとする気配はない。

 

 あとは、ESSの先輩のこととかかなー。

 実を言うと先輩にトラブルが生じてるって中河原さんから聞いて、心配になる一方で。

 僕は「そらみたことか」なんて思ってしまったんだ。今では、そこまで怒ってないから心配の方が大きくなってきてるけど。

 たしかに、先輩の家出のことは問題だ。でも、今の妙な不安感は、別のこと。

 やっぱり別の何かを、見落としてる気がするんだ。

 

 何か、おい気づけ、と急かされているような焦燥感。

 だが、何に気づけばいいかわからない。

 

 ──一つ一つ、潰していくしかないな。

 まあ今日は大丈夫だろう。幸いにも国領と調布は今ここに、目のとどくところにいる。

 さしあたり、軽挙妄動を慎むよう目を配っておこう。

 何しろ僕は調布たちの2倍以上の人生経験があるからな。僕がしっかりしないと。

 

 目を閉じてそんなことを考えているうちに、かなり時間が経ってしまったのだろう。

 気がつくと、調布も国領もお祈りを終わって祠を離れ、島内の探検をしている模様。

 僕はあわてて立ち上がると、彼女たちの後を追うことにした。

 

 ──────

 

 非常に小さい島なので、踏み分け道をたどるとすぐ彼女たちの姿が目に入った。

 国領の細めの、でも要所は女性らしい柔らかみを帯びた後ろ姿が目に入る。彼女は木陰に立つ調布と熱心に何かささやきかわしている。

 ひも状になってるカナリアイエローの水着のトップの白い背中に、目を吸われる。

 近づくと、すごい地味な水着のくせに体つきだけで僕を魅惑する調布の姿も目に入る。

 そして煩悩に突き動かされて持ち上がり始めた水着の前の隠蔽に汲々とする僕の頭からは、この妙な不安感はきれいに忘れ去られていった。

 

 ──────

 

 しばしこの島をあれこれと楽しんだあと、別の人たちもやってきたので、僕たちもそろそろ切り上げることにして。

 夏の海にふたたび泳ぎ出して、少し沖まで出て遠泳を試みたり。

(国領は泳ぎが苦手ということでこれには参加を許されず、ちょっとむくれていた。

 でも実は僕もそんなに沖まで泳ぎ出たのははじめてで、調布の手前平然としてみせてたけど内心ドキドキした。)

 

 素潜りして、海底に生き物がいないか、観察してみたり。

(これは、足が立つかたたないか、のところで交替でもぐった。

 いや、ナマコもホヤも見つけられなかったよ。

 僕は結構大きいカニやイガグリみたいなウニを見つけたけど、捕まえられず。足のつくところで潜った国領も、いろいろ目撃はしたけど収穫なし。

 調布だけが小さな手のひら程度の大きさの蛸を見つけて水着にへばりつかせて持ってきた。しばらく観察した後、返したよ。ちなみに僕は江戸時代の有名な春画を思い出して脳内で調布をキャストしてた。)

 

 そういう遊びに、うつつを抜かし。

 ふと気がつくと、浜には人が少なくなってきている。ふゅおんふゅおんふゅおんふゅおんー、とサイレンみたいな音の時報がきこえた。正午だ。

 ちょうどお昼時になってお腹もすいてきたしな、そろそろ切り上げどきだろうか。僕は、2人に目を向ける。

(ようやく慣れてきて、直視できるようになった。でもやっぱり勃つからね、そこは巧みに隠してる。)

 

 2人は、何やら密談を交わしているようだ。

 密談といっても、どこか聞こえよがし。浮き輪が流れていかないように(そして、休息を兼ねて)手でつかんでる僕にも、否応なく漏れ聞こえてしまう程度の音量。

 

「ねえ、ハルカ。さっきの話ね。

 抜きたいのはわかるけど、見つかったら、ちょっとシャレにならないわよ?」

 

「さとみん、ボクが抜きたがってるみたいないい方、やめてもらえるかな!?

 さとみんに聞かれたあれ、冗談で言ったんだよ、もちろん!

 なんだかさっきは、ついつい浮かれちゃてさ「だから、気づかれないようにヤるわよ」さとみんっ!」

 

 この海水浴場、ライフガードみたいなのは見当たらない。

(隣の剥皮浜には、いる。でもこっちの蛇落浜は、正式の海水浴場とは思われてないのかもしれない。)

 どうやら、調布はそれを利して何かけしからぬことをしようとしてるらしいのだけど、──

 やっぱり、ここは精神的な最年長者たる僕が一言口をはさみ、このわきまえぬ小娘どもに釘を刺しておかねばなるまい。

 こほん、と咳ばらいをして視線が向いたところで、注意を与える。

 

「おい、まさか本当にナニかするつもりじゃないだろうな?

 僕は反対だぞ。」

 

 しかし。

 

「なーにが『僕は反対だ』よ?

 ほらほら、何これ?体は正直よねー?」

 

 たしなめた僕の方に調布が立ち泳ぎしながら回ってきて、水の中に手をのばし、僕のサーフパンツに手を突っ込んできて。

 僕のさっきから元気よく勃ち上がりっぱなしのそれを軽くクイっと握り、思わせぶりに軽く上下に動かしたので。

 僕は驚愕に硬直し、バタ足を忘れて水に沈み込みそうになった。

 

「っ!おい、調布、──」

 

「ほらほら騒がない。騒いだら、みんなが見るわよ?あたしにアレ握らせて喜んでるところを。

 だいたい貴方。このままの状態で、浜に上がるつもり?あのがきんちょたちの前で?」

 

「あー、大丈夫だろ。わからないように隠せるよ。だってさ、今までだって、──えっ」

 

 微妙な顔で、2人が顔を見合わせているのをみて僕は失言を悟った。

 ひょっとして。

 

「貴方、隠してたつもり?」「すごい目立ってたよ、しのりん」

 

 あー、バレてたのかよ。クソッ。

 そうだよなー。悪ガキとかが何か囃し立てそうだよな、この持ち上がり具合。なんか角度が絶妙に隠しにくい。

 でもさ、でも。

 まさか海中で抜くなんて言わないよな。禁止事項だろう。

 

「あら、こっちの浜の禁止事項には、そんなのはなかったわよ?

 でも、海水汚染はいけない。それは、そのとおり。──だから。

 責任をもって、あたしがそれを阻止する。」

 

「?」

 

「全部飲むって言ってんの。言わせないでよ」「えっ」

 

「おいまて、そんな、──」

 

 どうしよう。ちょっと魅力的だ。

 僕がまじまじと調布の顔を見ると、彼女は片方だけ唇を吊り上げて笑って見せた。冗談、だよな?

 

「さとみん、マジ?

 それとしのりん、なんか目がちょっと怖いよ。」

 

「ほら、ハルカも言ってるじゃない。

 自覚あるかどうか知らないけど今の貴方の目、ヤバいのよ。

 ギラギラしてて。性犯罪者っぽい目よね。職質とかされそう。」

 

 ぐはっ。心当たりのある僕は、言い返せない。

 そう、特に1回目の大学生時代なんか、よく職質受けてたなー。ボロ自転車で走ってるだけで呼び止められて車体番号を照合されるんだぜ。

 

「だから、ここは素直にあたしとハルカの好意をうけときなさい。

 そしたら貴方のソレもしぼむし、目のぎらつきもすこしはマシになるでしょう?」

 

「さとみんっ、その、ちょっとさ、──」

 

 国領も、その、嫌だよな?

 

「あー、その、──嫌じゃないんだけど、ほら。

 ここだとちょっと人目が、さ?」

 

 調布との合流前は、痴女的(笑)な行為をしかけようとしてきた国領だが。

 頭が冷えた今は、僕同様に調布の発言にドン引きしてくれてるみたいだ。

  

「まあ、あたしとしては、志野が笑われなければ別にいいのよ。」

 

 国領が戦線から離脱すると、調布はあっさり矛を収め。

 ただ、僕が普通に犯罪者の目を止めて、海パンにテントを張らないように、と釘を刺してきた。

 その後の話し合いで、先に調布たちが陸に上がり、そして僕が煩悩をさまして股のテントと邪な目つきをどうにかした後で合流、という手はずになった。

 

 僕のソレをなだめるために、心を無にして空を眺めながらぷかぷかと10分あまり遊泳。

 煩悩が収まるまでの無為な時間は、なかなかに苦痛だった。

 ようやく勃○を収めた僕は(性犯罪者の視線の方もどうにかなったと思う)、陸にあがりながら。

 心の中の閻魔帳に、調布への膺懲(ようちょう)に値する罪状をまた一つ書きくわえたのだった。

 

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