タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
進んでないです。すこし後で修正するかもしれません。
(志野視点、ウリーンランド事務棟、土曜日昼すぎ)
僕は「エントリー」なるものが何なのかよくわかっていなかったが、僕以外にもそういう奴はいるらしい。
僕の直前にエントリーに入っていた、癇症な感じの見かけの男がねちねちと受付役の男にからんでいて。
これはなんなんだ、それは要るのか、いったいどういう基準なんだ、それでいいのか、と上から目線で物言いをつけていて
みるからに、受付役(?)の男はうんざりしている模様。
「──じゃあ、7時だな。連れていく」
そんな言葉を吐いて、クレーマー男が出ていこうとしている。連れのもっさりした感じの男も、その後を追う。
僕はそのもっさりした感じの方の男をみて、──顔をそらして気づかれないようにした。知り人だったからだ。
──あいつだ!
そう、カエルみたいな顔のあいつ。
紫藤のろくでなしの継父から、紫藤の初夜権を買った奴だ。
幸いにも彼らは僕に気づかず、なにやらニヤニヤねちねち話しながら、僕が入ってきたのとは違う扉から。
つまり、ウリーンランドの施設側の扉から出ていく。
「──Next!」
僕は進み出て、エントリーしたいのだが、と申し出る。
不機嫌そうだったのでひやひやしたが、意外にも彼は僕には丁寧に応対してくれた。
僕の拙い英語にも不快そうな顔をしない。
彼も日本人ではないが、英語を母語とする人ではなさそうだ。どちらかというと組織の下っ端?で、僕みたいないかにもな若造に親近感を感じてくれてる気配がある。
──名前は?ああ、本名でなくていい。そうか、初めてなんだな。
商品の「
そうか、まだ決まってないんだな。まあ、
ん?決めるのはいつか、何人までOKか、って?
トライアルのときまでだな。トライアルに出すなら、商品は別に今ここで決めなくていい。
トライアルに出るなら、そこでチェックする。トライアルに出さずにいきなり本番なら、今ここでチェックを済ませろ。
言葉はスラング多くて訛ってるしぶっきらぼうだが、親切だ。
あんまり自分の無知をひけらかすとバレてしまいそうだから、もっと情報を聞き出したいが聞けない。
場所とか、注意すべきこととか、教えてくれないかな?
──場所はわかるか?わからない?じゃあ、このビジネスカードを持っていくといい。
ただ、必ず後で焼き捨てろ。必ずだぞ。
入るためのカードはあるんな?──そうだよな。そうでなきゃ、ここに来れないものな。
それで入れる。
注意すること?
お前は日本人か?そうか、そうだったら商品や自分の素性が分からないようにするといいかもな。
だってほら、商品は基本、「
「帰ってこない」というのが気になったが、僕は礼を言う。
──初めてなら、勝手わからねえかもな。
女優たちの「振り付け」は、──あまり気にすんな。
日本会場だと「お題」がそのとき出されて、それに合わせる形式。最初ってことはねえだろう。
うまくいけば、「ラピエスタ」で大金が掴める。上手くいくといいな!
彼の言葉、そして「女優」などの用語から、概ね僕はトライアルの趣旨が分かった気がした。
これ、いわばオーディションだ。なんかしらのパフォーマンスが必要なのだろう。
トライアルって、どんな感じ?結構、その、──
──トライアルは、まあ、本番とは違うからな。
そこまで気合入れなくてもな、結構通るもんだ。
だいたいベテランはそのままパスだし、新入りでも素材がよけりゃそれだけで通されることだってあるんだ。
軽くかわいがって、かわいいところを見せてやればいい。
トライアルで気合入れて女優をダメにして、本番を辞退ってパターンもあるからな。
なるほど、当日お題が出されて、それに臨機応変に応えて踊ったりするってことか、と僕は納得する。
かわいいところを見せる、かー。踊りとかもあるんだったら、調布より国領が本当なら適任かもな?
ところで、本番辞退ってできるのか?
──できるできる。あ、情報の漏洩を気にしているのか。漏れない漏れない。
なんか、イカレた催眠術みたいなのがあるんだよ、口止め用の。
俺は下っ端だし、おっかねえからわからねえけど。
ヴードゥーかなにかのまじない師がやるんだが、本当に効くらしいんだ。
ありがとう!
その、本番に出て勝ったら大金持ちって本当?
──ああ、だからよ、もちろんたいていはイカレた大金持ちの変態が参加するんだが、借金持ちで追い詰められた奴らとかが聞きつけて飛び入りしたりもするんだぜ。
あんたもその口、──じゃなさそうだな、まだ若いけど、いい女を引っ掛けたから一攫千金狙いとかか?
いや、詮索は無用だったな。
そうそう、礼には及ばねえよ。うまくやんな。本番出ただけで大金だからな。
あ、本番まで、宿は大丈夫か?困ってるなら、ここを格安で貸し出してる。──そうか、大丈夫か。
泊りの奴らが遊んでるからな、プールとかも今、使っていってもいいぜ?宿泊客はそうしてる。
そうだ、旦那の前の、さっきの
見てみるか?
「女優」もいろいろだが、なんでこんなのに出されちまったのかな、って思うような上玉もいるんだぜ。──まあ、借金とか誘拐とか、いろいろなんだろうな。
すげえのもいるぞ!見るだけでおっ勃つような女とか。すごい改造されてるやつとか。
あ、準備があるよな。それじゃ、
彼に礼を言い、僕は事務所を出た。
──────
「それ。プールに入っとけばよかったんじゃない?」
戻って木陰で待っていた彼女たちに報告すると、さっそく調布からのツッコミが入った。
「何かわかるかもしれないよね!
ボク、オーディションなら出てもいいよ?」
「あんたは、間に合ったらでしょう?」
国領は乗り気。それを調布がたしなめる。
どちらにせよ、身元をあまり知られないようにした方がいいんじゃないか、と僕は危惧する。
僕は彼女たちを説得し、彼女たちもそれはそうか、と思ってくれて。
僕たちはとりあえずそこを退散したのだった。
──────
──────
(第三者視点、ウリーンランド、昼)
「ガマガよ。──なかなか、ハイレベルだ。
だが、」
「そうなんだね!りなちゃんに勝てる玉はいなそうなんだね!」
昼下がりの、ウリーンランドとかつては呼ばれていた廃遊園地。
彼らは「トライアル」の受付手続きを終え、情報源の示唆に従って、遊園地施設に入って楽しんでいた。
施設は手入れをしてあったのだろう。いくつかの施設が客を受け入れて操業している。
もっとも、さほど多いものではないが。
多くの人が滞留しているのが、プールだ。
いろいろなデザインの水着の男女が、水中で、あるいは水辺で楽しんでいる。
そして、そもそも水着の着用を許されていない男女も。
「ガマガよ、──あれはすごいな。」
「刺青なんだね!」
一見すると水着をまとっているようにみえる女。しかし、その乳房はあまりに自然。
そう、それは刺青かボディペインティングなのであろう。
女は首輪を巻かれていて、傲岸そうな太った男主人にその首輪の鎖を持たれ、犬のように四肢で這わされていた。
「あれは、痛々しいな」
「でも、興奮するんだね!」
別の方向からは。
犬のように床を這う、筋骨たくましい若い男。両腕の肘から先、両足の膝から先を切除されていて、なにか新種の生き物のようだ。
目隠しまでされた顔は、口に噛まされた轡のせいで見えないが、苦痛と怒りに歪んでいるように思える。
美貌だが嗜虐的な表情を浮かべた、麦わら帽子をかぶった女主人がその鎖をひいている。
「──、──」
さきほどのボディペインティング女を連れた男主人と、談笑しているが。
「ガマガよ、今度交配させてみよう、と言っているな。」
「すごいんだね!ぼくもりなちゃんと、交配してみたいんだね!」
さらに知人らしい、乳房や秘唇にピアスを嵌めまくった以外は素肌の女奴隷を連れた男が雑談に加わっている。
こちらは首輪ではなく、乳房のピアスにつけた鎖を引いているらしい。
愛犬家のあつまりのような、和やかな風景である。
目を転じると、プールの滑り台を男女が仲良く滑り降りている。
男がペ〇スを強調するケースを着用し、女がミストレスを連想させるボ〇デージ衣装をまとっていなければ、青春の一コマのようだ。
こちらは、奴隷と主人でなく、変態カップル同士なのだろうな、と彼らは思う。
くるくる回るティーカップでは、服装からしていかにも田舎者みたいなあか抜けないカップルがおそるおそる中心の円盤を回していて、こちらは何も知らなければちょっと昔の青春映画の一コマみたいだ。
別のティーカップには座席に手足を縛られ、目がぐるぐるしている女。サディスティックな表情の若い男2人が、恐るべき速さで回転するように円盤を力の限り回している。
別のところでは人の集まり。わっという歓声もあがる。
覗きみると、身長2メートル近い筋骨たくましい裸の黒人男が、普通の体格の裸の女と取っ組みあっている。
何回か殴りつけ、のど輪を決めて弱らせた女を男は組み敷き、怒張した自分のそれを突き込もうとしている。
賭けも行われているようだ。次は俺がエントリーする、と怒鳴っている男もいる。
全くの無政府状態になりそうなものだが、そうではないらしい。
ガードマンらしい者が、一線を越えた者に注意を与え、あるいは拘束している。
そうした無秩序にみえて、奇妙な秩序のある光景を、彼らは興味深く見学する。
「そうそう、初エントリーでは芸を見せることになっているらしい。
投票でランク付けされ、場合によっては精肉用に回される。」
「りなちゃんは大丈夫だよね!
でも、りなちゃんの肉を食べることを考えると興奮するんだよね!」
「そもそも、肉用に主催者が仕入れている人間もいるからな。精肉になるのは少ないとあの男も言っていた。
ましてや我らの『アリス』なら、そんなものにはなるまい」
「今夜なんだね!
でも、そろそろ帰ってりなちゃんに休んでおいてもらわないと、体力が持たないかもね!」
「あいつはプロだ。プロなれば、ちゃんとしたパフォーマンスができない責任を負うべきだ。」
「それも、楽しみなんだね!きっと精肉する前に、色々するんだよね!」
「まあそうはなるまいが。──さて、こういうものを見ていると」
「ぼくたちも、りなちゃんをかわいがってあげたくなるんだね!」
昨日、有明りなの四肢を木馬に固定し。
その口に革製の漏斗を突き込み、水責めにした彼らは、そのときの悦楽を思い出して黒い笑いを交わす。
その後はろくな手当もせずに解放したが、彼女はプロらしく、しっかり自分で自分の手当をして帰ったらしい。
ただ、今朝はさすがに体調が悪そうだった。
もちろん、そんなことで責めの手を緩める彼らではない。
叩き起こし、とりあえずは抜きを強要し、さらにしばらく「スコルピア」を演じさせ。
そのうえで彼らぬきで彼女を苛み続けるよう装置を仕掛けて、彼女の苦痛の呻きを耳に心地よく聞きながら、エントリーしに出てきたところなのだ。
「でもまあ、最低限の食事と休息を与えておくか。
我らは今回が初回のエントリー。有明りなが食肉になるとは思えぬが、もう少し長く楽しみたい。
本番の『ラピエスタ』で高評価を得れば、報奨金をわが共済立て直しの原資にしてもおつりが出る。」
「そうなんだね!」
ふたりはプール横のパラソルの下の席に座り、施設の無料サービスの紅茶をそこそこの美貌のメイド(これも運営側の手配した奴隷であるらしかった)に貰い、少し目に映る風景を楽しんだ後。
自宅に戻って、有明りなの様子をみることにした。
──────
時間はしばし、さかのぼる。
有明りなは、さすがにカエル男とカマキリ男に水責めを受けた翌日である今日、土曜日は。
朝起きて、賄婦である老婆の手伝いをすることはかなわなかった。
農家から手伝いに来ている老婆は、心配して彼女の様子を見に階段を上がる。
物らしい物がほとんどない、狭い部屋。
敷かれた古い布団に寝ている彼女の、まだ幼さを残す顔は悪夢を見ているのか眉が顰められ汗が浮いている。
老婆は、気の毒そうな表情で、乾いたタオルでその汗をぬぐってやる。
すこし、寝ている有明りなの表情が和らぐ。
「可哀想に、きっと尋常中学校を出たばかりくらいなのにねえ──」
老婆が知る限り、このような奉公人の若い娘さんが葉良老人やその変態息子に手籠めされたり、折檻されたりすることはよくあることで。
彼女としては救ってあげたい気がするものの、単なる小作人である身ではいかんともし難かった。
「夜逃げでも、してみればいいのにねえ、──」
ただ、きっといろいろなしがらみがあるのだろう、と老婆は思う。
せめてもの心づくしに、階下で井戸水を浸して絞った冷たいタオルをその額に置き、こまごました家事をすませた後、もう一度その寝顔を確認して、老婆は葉良邸を辞した。
──そうそう、角猿をみたち、いうとったねえ。
竜神さまのところにお参りにいって、お守りを買うてきてあげましょうか。
そう、無知ではあるが基本的に善良な老婆は思った。
──────
有明りなは、少し二日酔いしたような気分の悪さを感じながら目が覚めた。
「起きろ。さもなければ」
「はいはい、起きればいいんでしょう、──きゃっ」
「生意気な口だな。折檻が必要だな」
「なにをするんだろうな、楽しみだね!」
目を開けると、ニヤついているカマキリににた顔。
その横には、しゃべるたびにぐぶぐぶした音を発する、カエルに似た顔。
「有明りな。お前は何のためにここにいるかわかるか。ああ?」
「ご主人さまに、楽しんでいただくためです。
──ご無礼をお許しください。」
もともとは、わがままな性格の彼女なのだが。
厳しい現実に打ちのめされた反動で、今では必要以上に自罰的になっている。
彼女はだるい体に鞭打って起き上がり、正座して手と頭を畳に擦りつけた。
なぜかそういう卑屈な姿勢をとっていることに、不思議な快感を彼女は覚えた。
「許してやろう。その代わり、罰だな。」
「はい。」
まずは朝食をとれ。いや、あのばあさんが用意したものじゃ足りないだろう、たんぱく質を補給してやる、──と無茶苦茶なことを言われ、起き抜けに彼女は口で奉仕させられる。
そしてわずかな食事をとることを許され、また若社長の変態ビルに連行される。
若社長と蛙男は、どこか独占欲のようなものを彼女に抱き始めているようにみえる。
別に彼女自身は逃げようとはしていないのだが、両腕を左右からしっかりと固められて、彼女は拷問室に向かった。
──────
彼女は、また「スコルピア」の衣装を着用することを求められる。
これには彼女は別に異存はない。命令に従うことは当然だし、なんなら演技はやっぱり楽しい。
求められたいくつかのシーンを演じるうちに、彼女ははっきりと確信した。
彼女の、演技力が上がっている。今までと比べ、段違いに。
「はっ、それがどうしたというの?
私は、スコルピア。
残念ね、あなたたちの思うような正義の味方じゃないの!
私が求めるのは、──血の審判!」
並みいる正義側の騎士たちを相手に、互角以上に戦うシーン。
彼女ははっきりと、周りの想定する騎士たちの位置、動き、表情まで想定しながら、演技してみせる。
パルクールみたいに壁を蹴ってくるっと1回転できたのには、自分でもびっくりした。
そして自分の演技のすべて、そして心を奪われている観客2人を、「第2の視点」でちょっと離れた空中から観察できている。
ひいき目抜きにいって、これまでも彼女はこの時代でトップレベルの実力の子役、女優であったが。
今見せているパフォーマンスは、そんなレベルではない。
おそらく演劇や映画を知る業界人が今の彼女をみたら、あごを落とすだろう。
ただ残念ながら、ここにいるのは彼女を責め苛むことを無上の愉しみにしている変態どもでしかなく。
彼らは感嘆しつつも、彼女の達した高みを正当には評価できていなかった。
「反省していろって?──面白い冗談ね!
蠍は復讐を忘れない。殺さなかったことを、あんたたち後悔するわよ」
彼女自身はすっかり役に没入しきっている。
原作では取り押さえられたスコルピアは単に手足を拘束されて牢に入れられていただけのはずなのだが。
変態たちは、この場面を改竄し、彼女への罰と称して、拷問具に彼女を拘束し。
そして、「エントリー」をする必要を思い出し、彼女を解放しないままに、自動車で出かけて行ってしまった。
去り際にみせた気持ちの悪い笑みは、きっと彼女が留守中に苦しみ続けることを期待しているのだろう。
(あー、どんなことでもしますから許してください、ってお願いして外してもらえばよかったかも!
やっぱり、──こっちは痛いし、こっちは変な気持ちになってくる。
──あの人たちが帰ってくるまで私、持つかな?)
残された彼女は、そう後悔し。
吊るされた状態で、首をまげて上をみようとする。
汗が、つうっと頬を走った。
彼女はあの「冂」の字に似た拷具に吊るされていた。
今回は、彼女の両手首、両足首に鎖付きの金属の手錠・足錠が取り付けられ。
その鎖は彼女の背面側でまとめられ、そのうえで「冂」の上からつるされていた。
いわゆる「駿河問い」に近い状態である。
駿河問いが凶悪な拷問なのは、手足を不自然な形で拉がれる痛みもさることながら。
揺らしたり、回転させたりすることによる平衡感覚等へのダメージが大きいからだ、と物置に押し込められて暇だったときによみあさった時代小説から彼女は学んだ記憶がある。
彼らは、その点ではそういう仕掛けをしていかなかった。
もちろん、そういう仕掛けこそないものの、こんな姿勢で吊られること自体、一つの拷問として成立はしていて。
手足への感触がソフトな革の手錠と異なり、金属の手錠は容赦なく手足に食い込み、彼女に痛みを与えた。
ちぎれるような痛みは、しかしまだ健全。やがて彼女に手足の先の感覚が、うすれはじめてきた。
血行が止まりきれば、組織が死んで壊疽をおこしてしまう。
それを知る彼女はときおり無理をして四肢の体重のかかりぐあいを変え、手足を1本ずつ緩めて血を通すようにしようとした。
しかし彼らはご丁寧に、別の形でも彼女を苦境に追い込む仕掛けをしていっている。
一つは、彼女の腹に巻かれた鎖だ。
かちり、と、機械が鎖を巻きとる音が響く。
彼女の腹に巻かれた鎖は、「冂」の下の床の別の装置に連結されている。
そしてこの床の装置は、鎖の巻き取り装置、小型のウィンチのようなものなのだ。
これが自動式であるらしく、一定の時間ごとに少しずつ鎖を巻き取る。
当初は長くて地面にとぐろを巻いていた鎖なのだが、そのうちに張って、彼女の腹を床に引き寄せようとするであろう。
彼女の手足は鎖で上に吊られているので、彼女はすこしずつすこしずつ、背中の反りを大きくしていかざるを得ない。
今の時点でまだ鎖はぴんとは張っていない状態なのに、彼女の背中は無理に反らされた痛みを訴えはじめている。
鎖が張って、彼女の背を床に引き始めたら、こんなものではすまないだろう。
それに。──もし、彼らが帰ってこなかったら?
もちろん、彼女の四肢の先はそのうち完全に血行を止められてしまうし。
彼女の背骨は最終的にはへし折られてしまうだろう。
そしてもう一つ、彼女に今回仕掛けられた、別の悪辣な罠がある。
ヴヴヴヴ、と伝わる別の振動に、彼女は顔を歪めた。
「ん、んんっ」
彼らは小さい電池式のローターを、彼女の胸と股間に貼りつけていった。
自分でも当惑したことに、その振動から彼女はじわじわと快感を得るようになっている。
「んあっ、──はあっ、はあっ、」
腰をねじる。振動から逃れたいのに、逃れられない。
──いや、振動をもっと味わいたいのに、味わえないのかもしれない。
そのお尻を振るような動作は、いつしか卑猥な色を帯び始めている。
時に、お尻を突き出すような姿勢を、彼女は取り始める。
不自然な姿勢から腰を突き出して下着と股間の間にあるローターを自分の股間に密着させると、もわっとした快感が増大し、手足の痛みを忘れるのだ。
自分でも卑猥だと思うが、あさましくその快感を求めてしまう。
胸も同じだ。
もわもわした快感が、その小柄な体にくらべて大きめの胸に生じ始めている。
その快感をはっきりさせたくて胸を張るように突き出すが、ローターの出力は微妙に弱い。
鎖が軋み。手足の痛みが脳を刺す。
また汗が、彼女の赤く染まり始めた頬を伝い、滴った。
──────
それでも彼女は、幼いころから厳しい稽古を重ねた、意思の強さで。
生き延びるため、手足の血行を維持し、少しずつ少しずつ食い込み始めたお腹の周りの鎖の痛みにも耐える。
ただ、気が緩むと快感に、意識が遠くなるのを感じる。
そのときどきに、彼女はごく短時間、おそらく数秒から十数秒くらい、まどろむようになる。
おそらくは苦痛に耐える脳が放出した脳内麻薬により生起された、奇妙な悪夢。
──彼女がみたことのある世界レベルの肉体派俳優に全くおとらないほどの、たくましい筋肉を備えた男。
それが、邪悪な喜びを湛えた目で、彼女の目を覗き込んでいる。
体を、苦痛と快感のないまぜになった感覚がつらぬく。
彼女は悟る。この男が、きっと彼女をこの苦痛にみちた生から解放して、──
場面が暗転する。
──彼女は、サファリの探検隊みたいな機能的な服装をしている。
映画かなにかの演技中なのかな。彼女は一団の中心あたりで、ものなれた口調で指示をとばしている。司令塔みたいな役割だろう、と彼女は見当をつけた。
彼女をとりまくのは、同じくらいの年代の女の子たち。
背の高い、しっかりした感じの女の子が前の方にいて、長い六尺棒みたいな棍棒を構えている。
彼女よりも小さいほわほわした感じの子が、すぐ横。これは年下だろうな、小学校高学年くらい?かわいい顔をきりりと引き締めている。
横の方から、いきなりぴょん、と人間業とは思えないような跳躍で飛び出して敵を蹴り飛ばしたスレンダーな子。遊撃みたいなものだろう、おそるべき身のこなしで、相手に反撃の隙を与えず一撃離脱。
この一団の中に、──背の高い男の子。「しーくん」がいる!
彼は背の高い女の子とともに、前衛にいて、厳しい目で敵を見ている。手には、やはり六尺棒。
場面が暗転する。
──あの二つ前の夢の中の筋肉男が、彼女を抱え上げて、犯している。
ちょうど今とおなじように、手足を芋虫のように背面で縛られた彼女を軽々と持ち上げ、開いた状態に固定された彼女の股間に、屹立した彼のそれがあてがわれる。
彼女の体が、彼の強力な腕ですこしずつ引き下げられていく。体が裂けるような激しい痛み、口からほとばしる絶叫。奥にまで当たる。いや、当たっても男は意に介さず執拗に押し下げるが、限界とみてとると、男は彼女の体をふたたびゆっくりとゆっくりと引き上げる。彼の丸太のような腕にとっては、彼女の体重などさほどのこともないのだろう。
もだえ苦しむ彼女を一顧だにせず、暗い愉悦を湛えたまま裸の筋肉男は行為を繰り返す。彼がずっとなにか詠唱していることに、彼女は気づく。
これは、●●●●を召喚する邪法なのだ。周囲に、さまざまな姿で縛られ、吊るされ、血を流し続けている女の子の姿。血を貯めるための、古い古い石の器。
女の子たちの中には、一つ前の夢で出てきた、あの子たちの何人かもいて、──
場面が暗転する。
「しーくん」が、おばあさんと話している。ちょっと汚れた感じの服だが、ごく普通のおばあさんだ。
古い文化住宅みたいな家の前。かたむきかけた陽。視点が遠く引くと、周りの家はもう廃屋になってるみたいだ、テープとかが貼ってあって、取り壊し作業にとりかかる前って感じかな。
二つ前の夢に出てきた、背の高い女の子とすらっとしたショートカットの女の子もいて、ふたりはあまりこのおばあさんの話に興味を持ってないのかな、特にショートカットの子は時計を気にしてる。
でも、このくだりは大事だ、と彼女は直感的に悟る。
この話を聞いておかないといけない、そうしーくんに伝えないといけない。
彼女は精神力のすべてを使って、彼に呼びかける。しーくん、おばあさんの話を聞いて、聞いてあげて、──。
場面が暗転する。
いくつかの、現実のことなのかどうかわからない夢の断片も彼女は夢見る。
中には、悪夢ではない、明らかに現実化しないと思われる夢も。
──秋の美しい紅葉に、折り敷いて座る二人。
「しーくん」の顔を、彼女はうっとりと眺め上げる。
彼は、彼女の視線に気づいているはずなのに恥ずかしいのか目を泳がせてそわそわしてる。それもかわいい。
平凡だけど、それでいい。あっさりとして涼しげな薄めの顔。かっこいい。彼女のヒーローなのだ。
それより、今日はいろいろ楽しみだ。お弁当もがんばって作ってきたんだ。
たまご焼き、食べてくれるかな、──
「うあっ」
背中で、激痛が爆発し。彼女の口から、獣のような叫び声が漏れた。
しまった、眠り込んでしまったのかもしれない。手足の感覚がない。
手足を動かして、血行を回復させようとする。感覚がなくなって砂が詰まってるような手首に、血が流れ込み、痛みが炸裂する。
それより、背中の鎖がいよいよ張ってきた。もう限界かもしれない。
他方で彼女の敏感なスポットを責める、ローターの振動は止まっていない。
彼女は自分の股間がべっしょりとにじみ出たもので濡れ、腹にまで沁みてきているのを感じた。
「あー、助けて!──チヤキさん!ご主人さま!葉良先生!──」
──違う。本当に来てほしいのは、しーくん。
閉じた瞼から、涙が滴る。彼の名前は、口には出さない。
そのとき、足音がして。彼女は濡れた瞼を開けて扉の方をすかしみた。
「ほほう、耐えきったか」
「りなちゃんの体は、やわらかいんだね!こんなに、曲がるんだね!」
「どうだ、有明りな。──処女を渡す決心がついたか。」
「──」
首を振る。それだけは嫌だ。
口を結んで、カマキリ男を見返す。
「強情な奴だ。どのみち同じだというのに。
──もうすこし、苦しんでみるがいい。」
彼らはインスタントコーヒーを淹れ、彼女の苦悶を鑑賞する。
それから、数十分後。
そろそろトライアルの時間が近づいたことに気づいた彼らは、根負けして彼女を解放し。
また気を失いかけている彼女を風呂に放り込み、服を着替えさせ。
日の沈みかけた街に、着替えた彼女を引きつれてふたたび出ていったのだった。