※この作品はR-18です。

タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。   作:Marchhatter

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 志野視点→第三者視点→志野視点です。
 あまり進んでいません。多少、細部を修正するかもしれません。


288 異形たちの茶会(11)(志)

(志野視点、土曜日夕方、多賀島市アステロイドプラザ近くの裏町)

 

 結局、国領は待ち合わせの時間には来なかった。ちょっと心残りだが、仕方ない。

 あまり時間がない僕と調布は、小走りに混雑した裏町の通りを抜け。

 あやしげな街角の雑居ビルの地下にカードを使ってエレベータで降り、待ち構える体格のよいガードマンたちにエントリーする旨を告げ。

 エントリー時に告げた偽名を名乗ると、サングラスを取れともいわれず、怪しげな厚い扉に招じ入れられた。

 黒服の1人が、僕たちの案内についてくれて、僕たちは丁重に奥に導かれる。

 

 僕は黒服の背を追いながら、そっと周囲のどことなく淫靡で退廃的な空間に注意を向けた。

 ところどころにスポットライトがあるが、基本的に照明は暗め。

 冷房を入れてあるのだが、大勢の人の熱気を感じる。

 強力な排煙設備が稼働しているようだが、特徴的な刺激的な臭いが漂う。煙草やアルコールやお香などではない。あきらかに怪しげな臭いも。

 とろんとした目の中年男とタトゥーを肩にまで入れた若い女が、交互に水煙管を吸っている。横では鼻にピアスを入れた女が白目を剥いてソファに横倒しになっている。どうみても良からぬ成分が混じっていそうだ。

 

 ダンスフロアのようなスペース、ソファの並ぶ区画もある。

 ソファの区画で肩出しの白いサマードレスをまとった細い清楚そうな女が、男たち数人のなかに一人だけ混じっている。

 女は今は、がっちりした男の膝に座らされているが。

 ただ座っているにしては、怪しい挙動。女を膝に乗せた男は得意満面といった風情で女のドレスの裾に手を突っ込んで何かをしている。男が手を動かすと、女はそれに合わせて体を震わせている。開けた口から涎がつうっ、と垂れた。次の順番らしい男がソワソワしてる。

 僕が思わず視線を向けてしまってたら、察知したらしい調布が僕の背中の腎臓のあたりを強めに小突いてきた。

 理不尽な攻撃への、抗議の意思をこめて振り向く僕だが。

 目もとの表情は分からないながらも、彼女の怒気の波動が焚き火の輻射熱のように伝わってきたのを感じ。怖くなって、おとなしく前を向いて黒服の背を追うのに専心する。

 

 ちなみに調布は大きめのサングラスに加え、髪を神社傍の売店で買った手拭でバンダナ風にまとめて隠している。

 下手をすると単なる怪しい人になってしまいそうだが、そこは元がいいせいなのか。

 いつもは冷たい感じだけど、試供品の高級口紅を塗ってすごく艶めかしくみえる唇の印象もあって、お忍びの芸能人風、ミステリアス美女といった風情。

 これに対してサングラスにオールバックの僕は、よくてせいぜいチンピラの若造。はい、多分傍目には単なる怪しい人っす。

 

 僕たちはパイプ椅子を並べた、控室のようなところに案内された。

 かなりの数の男女がいて、僕たちの後からも数人入ってくる。僕たちと同じように、顔を隠している人たちも多い。

 飲み物はサービスらしく、黒服に言いつけるとなんでも作ってくれるみたいだが、何が入ってるかわからないので僕たちは見合わせた。

 中の何人かはグループは違えど旧知の仲みたいな感じだな、ざわざわと話をしてる人たちもいる。

 

 ここにいる人は日本人がほとんどにみえるが、日本人と容姿の近い国の人たちもいるのかもしれない。

 それらの待ち人たちのなかに、僕はあの蛙男を発見して思わず目を逸らす。

 蛙男は、大型トランクを持った、彼の仲間らしい怜悧そうなカマキリを思わせる細長めの男と何か話している。

 僕は前述のようにサングラスを掛けてるし、調布によって、男性化粧品コーナーの試供品の整髪料と香水を塗りたくられて印象を変えられてるから、大丈夫だとは思うが、──。

 

 黒服がやってきて、待機している者たちの名前を呼ぶ。

 一組、一組と別室に呼ばれていく。呼ばれた人々は、戻ってこない。

 

「何かしら」

 

「説明とかかな?」

 

 僕たちの番が来た。最後から2、3組といった感じ。

 呼び出しがエントリー順だとしたら、やっぱりギリギリだったのかもな。

 

 招じ入れられた別室にはテーブルがあり、その向こうに初老の銀髪まじりの男が座っている。

 紺染めの古びた袴を着た姿は、どこか求道者や道士じみたところがある。

 男の前には、何か泥をぽたぽた落として固まったような、蝋のしずくの塊のようなグロテスクな石塊(?)がある。見ていると、どうやら石像らしいという見当がついた。

 あまり大きなものではない、せいぜい20cmくらいの高さ。見ていると妙に悪酔いしたような気持ちになった。

 僕たちは男の向かい側の席に促されて着席した。片隅でくべてある甘いお香の匂いが流れてきて、どこか頭の芯がぼうっとする。よこにかなり近く座った調布のことが、気になって仕方ない。

 

 道士風の男は、まず調布に目を据えて、「それを外せ」と言い、サングラスを外させた。

 調布は、キッと大きな目で男の目を見返す。

 男は興味深げに調布の整った面立ちを観察し、目をのぞき込む。やがて手首をつかみ(調布は嫌そうな顔をしたが、従った)、「質問に答えろ」と言い。

 2、3、僕には大したことに思えない質問をした。参加するのは自分の意思か、とかだったかな?

 その後彼は、男の目を見たまま、石像に手を置くように調布に求めた。調布は応じたが、手を置いたときにまた顔を顰めた。

 なぜかそうした調布の表情に、僕は妙な嗜虐心をそそられる。

 このお香のせいかな、調布をめちゃくちゃにしたい、っていう不健全な感情が高まってる。もちろん下も勃ちはじめてる。

 

「──『ラピエスタ』へそなた自身が参加し、その決まりに従うこと。

 そして『ラピエスタ』で見るもの、聞くものを、参加した者たち以外に語らぬこと。──それを誓ってくれ。」

 

「はい。『ラピエスタ』に私自身が参加し、その決まりに従います。そこで見るもの、聞くものを、参加した人たち以外の人には話しません。──っ!?」

 

「×××××の名にかけて、そなたは破れぬ誓約を結んだ」

 

 誓いの言葉を発し終えたとき、調布の肩がびくっと揺れた。その横顔を、僕は舐めるようにみつめる。

 

 ──次にそのまま僕も、同様にサングラスを外すよう求められ、目をのぞき込まれ。

 いくつか質問を受ける。

 頭か軽くぼうっとしていたのでそのまま素で答えてしまったが、特に問題となるようなことはなかったみたいだ。だってほら、勃ってしまってて、頭で並行してよくある空想ファンタジーを展開してたんだ。

 これが終わったら調布を送って行って、あの家の傍の公園でちょっとだけ揉ませてもらうとか。

 そのせいかな、頭の中を覗けるはずがないんだけど。

 なんかこの道士風のかっこよさげなおじさん、ちょっと僕を見る目が冷たいっていうか、虫をみるような目っていうか。なんか気に入らなかったのかな。

 ともかくそのまま、誓いを述べさせられる。

 像に手を乗せる。特に妙な感覚はない。

 

「誓いを述べて」

 

 あれ、誓いの言葉って何だっけ。

 おじさんは僕にはあまり関心なさげで(まあ、野郎だからね)、あきらかに調布のときより目を覗き込んでみせる時間も短いし、態度もそっけない。誓いの言葉も、改めて指示してはくれない。

 ほら、女好きかなんなのか、こう興味ない男には態度があきらかに雑になる連中、いるよね。

 

「はい。『ラピエスタ』に参加し、ええっと「先生、ちょっとこの後、いいっすか?」」

 

 僕が内心焦りながら、うろ覚えの誓いを半ばまで述べかけた時に。

 ひょこっと、ちょっと軽薄そうな、生白いつるっとした顔の若い男が、ノックもなしに扉をあけて顔をのぞかせた。

 

「わかった。すぐ終わる。

 ──続けて。」

 

「そこでしたことを、参加者以外には話しません。」

 

 促された僕は、あわてて続けて言葉をつなぐ。あれっ、ちょっと端折りすぎたか。

 

「──×××××の名にかけて、そなたは破れぬ誓約を結んだ」

 

 道士みたいな男も、この乱入してきて戸口で待ってる若い男(僕と調布を、興味津々に眺めてる)に注意を割かれてしまってたみたいだが。

 僕が誓いの言葉を述べおわると、調布の時と同じように定型句らしい言葉を口にした。

 

「では、ゆくがよかろう」

 

 そして問題なくOKが出た。セフセフ。

 

 ──だけどさ、これって結局、何の意味があるんだ?素顔チェック?

 だってさ、茶番じゃん。口で「誓った」って言っても、実際には約束破っても何もおきないわけだし。

 

 僕はそう思いながらも、道士さんにぺこっと頭をさげて。

 戸口のあたりでにやにやしている、その生白い顔の若い男のもとに調布を伴って向かう。

 

「いやすっげー、美人っすね。

 マジこんな子をどうこうできるなんて考えただけで、ガマ○汁でそうっす。

 お兄さんがマスター、こっちの子が商品でいいんすよね?」

 

 扉で待っていた若い男は、調布をみていかにも感に堪えたようで、なれなれしく、僕にそんな言葉をかけてきた。

 はて。ええっと、「マスター」ってのは?

 

「ああ、要はヤる側っすよ。お兄さん、はじめてなん?じゃあ、順番は後の方になるっすよ。他の組をみて勉強するといいっす。

 いろいろあるんだろうけど、頑張ってねー!」

 

 ただこの若い男は、どうやら案内人じゃなく道士のおじさんに用があったみたいで、黒服が僕たちを引き継いでくれた。黒服は、僕たちを別の部屋に連れていく。

 

 小さなミニシアターみたいな感じの場所。座席は照明を落としていて、舞台の上だけにスポットライトが当たってる。

 僕たちはその観客席の一番前の方に座るよう指示された。まわりをそれとなく伺う。

 さっきの待機室にいた、見覚えのある人々もいる。だけど全員じゃなさそう。

 いなくなってる組もいるところをみると、さっきので失格した人もいるのか、あるいはこれと似た別会場もあるってことかな、と僕は思った。

 

 ──────

 ──────

 

(第三者視点)

 

不俱陸斎(ふぐりくさい)先生。大丈夫っすか?今の子たち。」

 

 なんだか高校生カップルのように初々しい若者たちのペアを見送った後。

 部屋に入って扉を閉め、へらへらした風の若い男は道士風の男のもとに歩み寄って、生まれつきであるにやけ顔は変わらないものの、やや真剣そうな声音で確認する。

 たくましい骨相、炯炯とした目の総髪の道士風の男は、重々しくうなずく。

 

 この道士風の男、観相と心術、武術の達人であり。

 とある違法な興行が行われるにあたり、体制側の手先や不穏分子が潜り込まぬようにチェックし、また情報が漏れないように手当する役割の一部を、主宰団体である、へらへらした若い男の属する組織から請け負っていた。

 いかにも怪しく思える様相で、実際に怪しげな、ヤバい所業を行っていることを知っているが。

 若い男はこれまでのつきあいから、この道士風の男が真に超常的な力を持っていることを知っていた。

 

「両人とも、嘘はついていない。

 女は、──騙されているのであろうな、むざんなことに。自分の発意で参加した、と思い込んでおる。

 だがな。顔も体もいいが、まだ実はほんの年端もいかぬ小娘だ。美しく賢く、育ちも良いであろうに。」

 

「ミテコ、ってことっすよね。育ちがいい、──駆け落ちかな?

 やっぱあの男に騙されてるんすね、きっと」

 

「さあて。理由までは読めなんだが、強い使命感に燃えておった。

 おおかた、『初めての男』に借金の肩代わりなど泣きつかれたのではないか?

 あの横の男に向ける情は、例をみぬほど真摯であったな。それで男が更生するとは、到底思えぬが。

 ──儂の知ったことではないが、いや、哀れなものよな」

 

 一瞬、娘を待ち受けるあまりに残酷な運命を思って、2人の間に沈黙が落ちる。

 もっとも仕事柄、彼らはそんな悲惨な例には数多く接してきている。

 

「──違法って言っても、いまさらっすよね。逆に今回は、ますます価値が上がるっす。

 あの子、今回の目玉になりそうって思いますけど。体もすげえし」

 

 軽薄そうな男はそう言って、肩をすくめた。

 彼の目からみても、女は抜きんでているように思われた。

 

「それで、あの男の方は?食わせ者なんすか?」

 

「いや、食わせ者というほどもない。あれは単なるクズだな。

 心をちらと覗けたが、女人への欲望にまみれきっておる。およそ、それ以外の雑念がない。

 どんな生活を送ってきたものやら、魂の汚れ具合もまるで中年男のよう。

 ──はて、ただ、金への欲望はなかったな。──つまり」

 

 つまり、純粋にあの娘を汚し貶めたい、と願っているガチクズなのであろう。

 育ちがよいが高飛車な女を逆恨みして、悲惨な境遇に落としてあざ笑いたい、と思っているのかもしれない。

 言葉にはしないが、二人はそれを理解して頷きあう。

 

「あはっ、──まあオレは好きっすよ、ああいうタカビー女がめちゃくちゃにされんの。

 どんなことしてくれるんスかねー。いやー、楽しみっす」

 

「知らんぞ。儂は頼まれたとおり、ただ観ただけだ。

 話は、それだけか?」

 

「へえ。ちょっとあの組、なんかちぐはぐで気になったんで。

 もしどっかの手先なら放り出さなきゃ、って思ったんす。安心したっす。」

 

「あと2組だったか?沈國斎(ちんこくさい)の方は、終わったのか?」

 

「いいえ、まだっす。いっつも、ほんと同時に終わるっす。双子ってすごいっすね。

 エントリー組は、あと2組だけっす。ただ、主催から出す分、またお願いしまっす」

 

「たしか今回は、妙な大男がそちらも運営も噛むと聞いたが。

 ただな、その男。単なる勘でしかないが、どこか禍々しいものがある。公安などより、危険かもしれぬ。気をつけよ」

 

「へいへい。ただ、いろいろあって。おなしゃす」

 

「何も、商売敵だとか思っているわけではないのだぞ?」

 

「へい、先生は本物っすから。みんな、頼りにしてるんすよ。また今後ともよしなに。

 ──じゃあ、オレ用意がありますんで。邪魔してすんませんでした。」

 

「ああ」

 

 そして、若い男は引っ込み。

 道士風の男は次の組を、呼び込ませたのだった。

 

 ──────

 ──────

(志野視点)

 

 エントリーでの審査は、このミニシアターみたいな舞台でパフォーマンスをしてみせることらしい。

 もう既に始まっていて、僕は順番的に終わりの方になるみたいだ。今しも、舞台の上で竹刀を使った剣舞みたいなのが行われている。剣舞と違うのは、女の子が実際に力を込めてボコボコに竹刀でたたかれていることか。

 

 エントリー組はパフォーマンスが終わると引き上げるのもいるし、去ってしまうのもいるようだ。もちろんエントリー組でない、純粋な観客の人たちも多い。

 黒服から、簡単な説明を受ける。

 

 ──出場者の審査を行う。「お題」に従って、各々方の料理の「材料」と「腕」を見せてもらっている。

 時間制限はないが、途中で頃合いをみて司会が切る。不合格とされたら不服を言わず、諦めて帰ること。なおパフォーマンスが終われば、他の会場をみてもいい。

 「お題」は、ここにある指定の道具を使うこと(といって黒服が、舞台すぐ下の机に並べられた道具を指さした)。指定の道具は、30個ほどある。早い者勝ちで、後の順番になればなるほど選べる道具が少なくなる。2個までは組み合わせてもいいが、それより多く使ったらだめ。

 それ以外に、基本的なものなら、会場が提供するものを使っていいし、持ち込んでもいい(縄とかがこれにあたる)。ただ、前述の指定された道具の中から、1つを必ず選んで、中心的に使うことは必須。

 着座している観客のみんなは、入れ替わりの時間を使って、紙で合否を投票することになっている。

 

 そんなところだ。

 

 折よく出場者が入れ替わったので、僕と調布は目を向ける。

 ちょっと堅気でなさそうな強面のサングラス男と、なんだか泣きはらした感じの目の、口元を大型のマスクで覆った若い女。

 何が始まるのか、妙に不穏な雰囲気。観客席で交わされるささやき声、高まる熱気、さっさと始めろ、という野次。

 男は、ステージのすぐ下の卓の上にある道具をじろじろと見ていたが、やがて三脚つきのアルコールランプとセットになったバケツを選んだ。

 

「ワックスときた!さあ、期待が高まります!」

 

 司会が煽り、観客から口笛や拍手が沸き起こる。

 髭面の口元をゆがめた男が、アルコールランプですでに余熱されているワックスをお玉ですくって観客にみせている。観客のざわめき、哄笑、煽る掛け声。

 これから起きることが分かったのか。突然、調布が僕の腕をぎゅっとつかんできて、僕の思考は逸れた。

 

 ──────

 

「──もー、やめてよ!

 殴ったら言うこと聞くって思ってるんでしょ、でも、──ぐふっ!」

 

 数十分後。

 ステージの上では、これで僕たちが見始めて5組目くらいかな、ちょっと生意気そうなヤンキー風の女の子が殴られてる。目隠しされてるけど、結構美人そう。

 待合室でも反抗的な感じで、腕を背中側で縛られてたからちょっと目立ってたけど。

 どうも攫われたか売られたかで、無理やりここにつれてこられたようなんだ。

 その子を強面の男がこうしてステージの上でボコボコに殴りながらその鼻っ柱をへし折る過程を、みんなが鑑賞してるという状況。

 調布が僕の腕をさっきからずっとつかんでるけど、握力が増してる。キレて爆発しそうで怖い。

 

 同じような境遇の女の子(要は、ステージでこれから嬲られる子たちね)が目に涙を浮かべてるのに対し。

 観客のマジョリティであるろくでなしのサディスト連中は、盛り上がってる。

 「調教不足だ」「素材はいいぞ」「もっとしっかり、シバかんかい!」みたいなささやき声が漏れ聞こえる。

 多少は文句がありつつも、観客の連中は楽しんでやがるのはあきらか。

 ばすっ、とすごいフックが女の子のお腹に決まったときには、指笛が鳴ったりしてたよ。

 

 この、ステージ。

 要は連れてきた犠牲者(女が多いが、男もいる)を嬲って見せて、本選でどれだけ面白いものが見せられるかを判定する、っていう事前審査が行われている。

 これでもまだ、予選(トライアル)だとすると。

 本選(?)って、やっぱり、例のクソろくでもないあの悪夢のやつなんだろうな。マジかよ、ゲロ吐きそう。

 でも、国領もナギさんも今回は参加しない、参加する契機がない。僕と調布だけならなんとかなるかも?

 いや、やっぱり調布にも途中離脱を勧めた方がいいかな。っていうか、ここで不合格でも、いいんじゃないかな?

 

「(──ねえ志野、大丈夫?)」

 

 そう考えていた僕の鼻に、爽やかなシトラス系の香りがふっと漂う。

 調布が身を寄せて、耳元でごく小さい声で囁きかけてきた。

 

「(なあ調布。適当やって落選、ってのが賢いんじゃないか?)」

 

「(なし。絶対にパスする。でないとグレースに接触できない!)」

 

「(でもさ、僕が調布のことを、──ああいう風にするってことになるけど、いいのか?)」

 

 軽く手を振った先では、お腹を打たれた女の子が口からゲロをしたたらせてる。観客は大声援。もちろん殴った男側に。

 ちなみに女の子はとっくに失禁してるけど、止めなくて大丈夫なんだろうか。

 

「(いい。あれくらい、遠慮なくやりなさいよ。あたしも、覚悟してる。

 ──それより、なんかアイデアはあるの?)」

 

「(それなんだよな、──)」

 

 要は、このトライアルの場で、僕が調布をその、ちょっとああいう感じのことをしてみせないといけないってことだよな。それで、本選に進まないといけないらしいんだが。

 やっかいなことに、「お題」というものがある。

 十数組いる出場者のために、アイテムというか道具が置いてあり。

 このステージの上でのプレイで、それを使って見せる、というのがルール。1度使われたら、後の組はその道具はもう使えない。

 

 ちなみに、メジャーなやつはどんどん先に使われて行ってしまってる。

 さっきの子は蝋だったな、手足を縛られて(その縄はお題に含まれない。会場提供のものを使っていいみたいだ)熱くした蝋を垂らされて、最後はどぱっと掛けられて蝋人形状態。火傷とか、したんじゃないかな?ああ、もちろん予選通過。

 その後、使いやすい、思いつきやすいアイテムは使われてなくなっていきつつある。

 鞭のようなメジャーな拷問道具もここのお題のアイテムに入ってなくて、会場提供のものが使える。吊るしたり拘束台に拘束して打ち据えるが多くて、たいていの組で使われてる。

 

 さて。問題は課題のアイテム。僕たちのところで、何が残ってるかが問題だ。

 剣山とか野球のバットとか釘打ち機とか、使い道が想定できる道具が残っててくれたらいい。

 裁縫セットとか文房具セットとか、さらに小さい道具の種類がいろいろ含まれてるのも、まあセカンドベスト。なんとかできるし。

 でも中には清涼飲料水の瓶とかテニスのラケットとかいかにも強弓そうな弓とか、なんかこれ使ってどうするんだっていう感じの道具もあるんだ。

 僕たちの順番はおそらく最後から2、3番目くらい。ハズレ道具しか残ってなかったら、マジ困る。

 さっきのにやけた若い男の言葉からすると、初めての参加は順番が後の方になってしまうみたいだ。不利だ。

 

 ちなみに今やられてるヤンキー娘の場合、責め役の男が選んだのはボクシンググローブ。

 ヤンキー娘は両手首を拘束されてから軽く吊り下げられ、ボスボス殴られてるわけだ。心得があるのか、かなり本格的に打ち抜いてる気がする。

 お腹だけじゃなく顔にも容赦なく振るわれ、女の子の顔は軽く腫れて目が糸目になってきてる。これ、大丈夫なんだろうか。本番までに引くのかな。

 司会も、ちょっとそこらへんを考慮したのか。

 

「はい、ここらへんでどうでしょうか。判定をどうぞ!」

 

 パフォーマンスが終わったので、後始末に入っている。女の子は拘束から外してもらったが、しゃがみ込んでる。担架は出してもらえなそう。

 

「──よしっ、84点!最高点更新、もちろん合格!」

 

 司会が会場の群衆の投票をもとに、判定をくだす。

 原始的だが手元で点数を書いてもらってすばやく回収し、判定しているみたいだ。観客も慣れた風情。

 合格点が何点かもよくわからないが、感触として、60点を超えれば合格なのかな?80点越えはかなりいい。やっぱり派手だと点数が稼ぎやすいのかもしれない。

 今のところ、場慣れしてなかったせいなのか開始にも手間取り、始まっても椅子に縛り付けて剣山を肌にプスプス押し当てるだけで、女の人の反応も淡泊だった組が、飽きられてブーイング浴びてたな。不合格、食肉用!って判定されてたけど。「食肉用」って、──。

 それ以外は、ほぼほぼ合格。

 体のあちこちにワニ口クリップを挟んで電流を流してた組も準備に手間取ってたけど、反応がよかったせいかやんやの喝采で80点越えしてたからね、開始遅かったから即致命的ってわけじゃないんだろうな。でも早いに越したことはない。

 それにしてもあの電流を流されてた女の人も、最後失神してたけど大丈夫かな。

 

 今までの例を見ている限り、「商品」の女の子の容色はそこまで決定的ではない。

 並程度の容姿の子でも反応がよかったり、いい反応が引きだせたらOKみたいだ。

 もっとも美人だったらそれで合格できるみたいなことをエントリーの受付の男が言っていた。もしそうなら調布にあまり負担を掛けずに済むかもしれない。ただ、そこだけに賭けるのは賢明じゃないよな、「食肉用」は避けたい。

 

 僕は心配になって、残りの指定アイテムをみつめる。

 指定アイテムの数は着実に減ってきている。次の組はなんと2つ、野球のバットと箒を選びやがった。

 あーあ、あれって簡単だから僕もマークしてたやつだったのに!

 

 焦りながら、僕は残った指定アイテムをみつめ。

 派手に見えて、調布にあまり強い苦痛を与えずにやりすごせるような方法の算段をつけようとするのだった。

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