タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
(志野、ホテル「ミニマス」、土曜日夜)
一級女体
今日も、熱心に朝から励んでいます。飛び散る汗、立ちのぼる湯気。
あ、終わったみたいですね。お話を伺ってみましょう。
──志◯さん、おはようございます!
昨日も遅くまでお仕事だったみたいですが、早起きは辛くはありませんか?
「ふぁっ!?あー、すみません。おはようございます。
朝早いっていっても、慣れるとどうってことないですよ」
笑みでこぼれる白い歯が、まぶしいですね。
麦わら帽子をとり、Sさんは首にかけたタオルで額の汗をぬぐっています。
──◯野さんが、この道を志されたきっかけは?
「この仕事についたきっかけ、ですか。
いやー、お恥ずかしい話ですが。ほら、今、そこで寝ころがってる女の子。
そのー、ええっと。その子をですね。苦労して掘って、耕して。
──それが、きっかけですかねー」
遠い目をする、Sさん。
きっとこのお仕事を始めたころの甘酸っぱい思い出を、回想していらっしゃるのでしょう。
Sさんが言及したように、ふとんにはSさんが耕していた長身美女が倒れています。ひくひく痙攣してますが、大丈夫でしょうか。それにしても、ピカピカボディですねー。
──処女地を開拓する使命感に目覚めた、のでしょうか。
「うーん、処女では、──いや、はい、そんなところですかね。はは」
──そうなんですね!
それでは、このお仕事の魅力といえば?
「そうですね、──深く、あるいは浅く耕すのが、この仕事の本質です。
そして、棒を丁寧に植える。水が噴き出すこともあります。──そのわくわく感、達成感ですかね。
朝から晩まで大変じゃないか、って?そんなことないですよ。
朝から、楽しみで。今日はどうしようかな、って。
仕事──あ、副業で会社員なんですけど──に出る前の、時計を気にしながらの朝の初摘み、初抜きもいいし。
帰ってきてごはんを食べてお風呂に入り、一日のことを全部終えて、そして時間を気にせず心おきなくじっくり植え付けをするのも、また格別なんです!」
そう、Sさんははにかみながらもこの仕事のやりがいを教えてくれます。すこしうわずった、早口で。
──そんなにお好きだとは。天職なんですねー。
お仕事にあたり心掛けていらっしゃることは?
「いろいろありますが、──たとえば、出し惜しみをしないことでしょうか。
ちゃんと、
あれ?だれか起きてきたようですね。軽い足音、お子さんでしょうか、──?
「○野くん、おはよう!って、──あれ?志○くん、取材の記者さん?
おはようございます!」
おやおや、どうやらSさんが所有されているのは、さきほど耕してたモデル系美女だけではないようです。
そのほかに、なんとこんな○学生のような可愛らしぴぴぴぴぴ!
「──あら、そろそろかしら?」
ぴぴぴぴ、と無粋な音が響き渡りつづけてる。
ホテルの備品のラジオ付きアラーム時計で仕掛けたタイマーだ。
あー、僕、うっかり寝入ってしまってたのかな。
調布も身動きして大きな目を開け、ぐっと伸びをして、そのついでに手を伸ばしてアラームを止めた。
肩まで掛けていた毛布がはだけ、その腋から盛り上がる胸にかけての白い肌に、僕は目を奪われる。
彼女も軽く微睡んでいたみたいだ。変な夢みたわ、とあくびしながら言ってる。
──────
僕が調布と、その、──いろいろした後。
僕と調布は、ぬるめに設定したクーラーが肌寒く思えて。
薄手のクイーンサイズの毛布を、棚から出し。
(ろくでもない設備に金がかかっている反動か、この毛布や付属のアラーム時計は安物だ。)
ふたりで一つの毛布にもぐりこみ。遭難者のように抱き合い、体を暖め合い。
事後の多幸感(事後の自己嫌悪とか賢者タイムとかなかった。もともと愚かだから賢者になっても限度があるのかな)のなか、どうでもいいような話をしていた。
クラスの共通の知人や先生の噂。読んで面白かった本。さっきの感想。
──そんな感じ。
話はふわふわ方向性もなく、流れては止まる。
止まると、お互いにさわさわする。それがそのうち、決まりになる。
だからさわりたくなるとわざと話を止めてさわさわするんだ。
調布は笑う。僕が調布の体をさわりたくてすぐ止めるからだ。ときどき僕が触ろうとした手をパシッて叩かれることも。
でも本気じゃない、ちゃんと触らせてくれる。
いや、だってさ。調布の体って、すごいんだって!
はっとするような白さにバラ色が透ける、要所が締まった肢体。理想的なふくらみの胸は、触ると紫藤のみたいにふよふよしたやわらかさじゃなくて、手を押し返す確かな弾力が感じられ。
そのピンク色の先端。紫藤の胸の先っぽはあまり尖ってない(いじってると、ちょっと固くなって立ってくる)けど、調布のはしっかりわかるくらいぴょこっと出てる。これが本当の乳首だよね。
そしてこれを触るとだね、勃起不可避なんだ。
彼女は彼女で、僕のアレに関心があるみたいで。
僕が彼女を触って勃つと、興味深げに撫でたり握ったりして確かめてる。
ときどき毛布を持ちあげて、僕のソレを観察したりも。ちょっと恥ずかしい。
「いつも不思議。膨らんだり縮んだりするのよね。
血が海綿体に流入してそうなる、って読んだけど。
あなたくらいの大きさだと、これが膨らんだせいで脳貧血になったりしないの?だって1リットルくらい、必要じゃない」
「いや、ないな」
なにその面白い発想。思わず笑ってしまい、調布も笑った。
あなたの場合はこっちに脳があるから大丈夫なのかもね、なんていいながらいとおしそうに撫でてくれた。
そんなこんなしてるうちに、ほどよく温かいふとんと調布の体の熱でぼんやり気持ちよくなって。
そして軽く寝てしまって、冒頭の夢をみてしまってたみたいだ。
うっかり時間切れにならないよう仕掛けておいたタイマーで起こされたけど、ヘンテコな夢だったな。たしかテレビかラジオかなにかの記者さんのインタビュー取材を受けてる夢だった気がするが、──
「ねえ志野、固くなってるけど抜く?あんまり時間ないけど」
起き抜けで、僕のアレはしっかり固くなってる。
調布の提案はすごく魅力的だけど、たぶん始めたら猿みたいに盛ってしまう自信があった。そしてそれには時間が足りない。
それは調布も思ってたみたいで、僕の様子をみて、また今度にしましょうか、という。
──早めにね、来週中とか。
そして竜神もラピエスタも全部終わったら、志野とあたしで一日中ヤるの。あっちで。生で。
なんてことを言っているんだ、不良娘め。そのうち懲らしめねばなるまい。
そう言うと、お手並み拝見ね、と調布は笑った。
──────
無事、時間内に追加清算料金なしでチェックアウトした僕と彼女は、夜の裏町の細道を歩く。
一時はくたくたになった調布と僕だが、小一時間休んだので元気は回復している。
ホテル前は細い道で人通りが少ないし、例の金網の破れをくぐるルートなら人に会わずに僕たちの自転車を停めてある公園に行けるのだが。
今回の僕たちはなぜか、ちょっとだけ遠回りして。
飲食店や酒場やバーやクラブやいかがわしげな店が並ぶ、人通りもある裏道に寄り道して、公園に向かっている。
向かい側から歩いてくる人とすれ違うために、僕の少し先を歩いている調布の濃紺のジーンズのお尻から腿の曲線や、大柄で広めの背中に、僕は視線を向ける。
むくむくと、僕のアレが存在を主張する。あー、やっぱり抜いてもらえばよかったかな?
この魅力的な、調布の腰からお尻にかけてのなまめかしいジーンズのライン。
ただ、──ごくわずかに線が浮いている部分があるのだ。
そこに僕は目を止め、その下にあるものに思いを馳せる。
行き交う歩行者たち、主に飲み会帰りの酔っ払いたち。特に男は。
調布に目を止め。その怜悧な容貌や、盛り上がった胸や魅力的な肢体に関心を向けてしまう。
だからまだ、気づいた人はいない。いや、いたら困るけど。
仕事をやりとげた、という充実感。
その仕事に気付かれたらどうしよう、という不安感。
でも、僕の仕事に気付いてもらえないことへの不満感。
そんな妙な感情のカクテルを、胸中につくりながら。
僕は頭の中で、この寄り道を決めたいきさつを思い返す。
──────
僕と彼女が寝落ちする前。今日の感想やいろんなどうでもいいことを話してたとき。
調布は、僕が昨日、紫藤にしたことを聞きつけたらしく。
それと同じことを自分にもしてもらいたい、などと漏らした。
つまり、──何らかの精神的な恥辱を与える行為。それを、自分にもしてほしい、って。
地獄耳の調布は、紫藤からあらゆる情報を聞きこんでる。今回も、おそらくそのホットライン経由の情報。
(紫藤はホストファミリーの家からは電話できないが。
送迎担当のドライバーの一人と仲良くなって、ある程度融通を利かせてもらえると聞いた。
昨日も、帰路の途中で公衆電話のある売店に立ち寄らせてもらい、調布への電話をかけさせてもらったようだ。)
ほら、昨日僕って紫藤の両手首を後ろ手に強力輪ゴムで縛めて、ノーパ○散歩させたよね。公衆の面前で、白昼堂々。
それを聞きつけた調布は、紫藤がとてもうれしそうだったので、うらやましいと思ったらしい。
いや、紫藤は嫌がってた気がしたけどなー。信じられないよ志野くん、変態だよ!とか。
それはともかく。
調布の今日の服装や交通手段からは、それと全く同じ行為は難しい。
ほら、普通に帰るなら自転車に乗るわけだし、手首なんて縛れない。──ノーパ○ならまあ、できるけど。
あと、夜だし自転車ですぐ走って帰るなら、見咎められる危険性も小さい。同じくらいの量の精神的な恥辱感を与えるのは、難しい。
そこで、僕は公園まで行く際に少し人目のあるところに回り道し、そして似ているけど別の手段を調布に対して講じることを申し出たんだ。
シャワーを終えた調布が髪を乾かしている間に。
僕はエレベータホールに出て、そこの自販機で追加で用品を購入した。
(今日は興奮していろいろ買いこんでしまったけど、地味に痛い出費だ。
あと、隠し場所には細心の注意を払わねば。今のところ、両袖机の一番下の引き出しのさらに奥、すきまの空間部分に、僕の秘蔵のエ○本と一緒に収納する予定だ。)
調布が出てくると、僕は彼女に僕の計画を伝え。
彼女はクスクス笑いながら、それに同意した。
──────
そして、今僕の作品が僕の前を歩いているというわけだ。
僕の前を行く調布の、ジーンズ。
目を凝らすと、お尻の割れ目から伸びる線があり。
それが腰のかなり高い位置、背中に近いあたりで、「Y」の字型に分岐しているのが分かるかもしれない。
もちろん、調布のお腹側のサイドも同じ。
2本の線が股間から前を走り、おへその近くで分岐している。
いわゆる、股縄というやつだ。
彼女の股間には、自販機でホテルの買った荒縄が食い込んでいる。彼女の「下の唇」を、両側から挟み込むように。
首から縄を掛け、股間を通って背中側を登る、という縄掛けを行い。
魅力的な胸をいっそう絞り出すように、乳房の上と下に縄を巻きつかせ。
そして股に通した縄も、ただ回すだけじゃ面白くないので、調布のぎゅっと絞れたおへその少し下あたりで、縄を掛けて分岐させ。
おへそのあたり、くびれたウエストのあたりの肌にくいこみ、絞りながら半周し、お腹側と背中側の縄が合わさった掛け目をつくらせている。
当たり前だけどほとんど経験やノウハウがないので、直観的に適当にぐるぐる巻きつけただけのところもある。
だから縄目はきっとその道の人が見たら半笑いして首を振るようなものだと思う。でも、調布の均整がとれた体のおかげでなかなか本格的に、すごくエ○くみえる。
できるだけ外に線が出ないようにしないといけないので、縄はきつめに肌に食い込ませた。
生理等でないから大丈夫、ということで帰宅までは彼女は、ブラもショーツもつけない下着レス。縄が下着替わり。なので、胸はスポブラから解放され、しかも乳房の上下の縄で整えられて、いつもより大きくシャツを押し上げてる(それがまた酔漢どもの視線を集めている)。
胸の乳首が気取られても不味いので、例の前貼りにも使ったテープをニプ○ス代わりに貼り。
僕が彼女に注ぎ込んだアレが流れ出ても困る、ということで股間にも、肛門をふさぐテープが貼られた。
「ねえ、志野。──すごい、どきどきする!」
「そうか」
少し広い道に出ると、肩を揃えて歩く。
調布の背中に手を当てて撫でると、シャツの下に縄が感じ取れた。
調布がちらっとこちらを向いて笑い、手をつないできた。しっかりした大きな手、強めの握力。
その手は、おそらく緊張によってだろう、わずかに汗ばんでいる。
いつもは冷ための凛とした横顔はほのかに色づいてて、目元はそれと分かるくらいに赤い。
あー、これで親にバレないかな?
調布の耳元に、その懸念を伝える。
「そうね、──まああたしも
それでカゴちゃんとあたしがお酒飲んだことある、ってのは親も知ってる。顔が赤いのは、大丈夫」
危ないのはむしろ縄の方だ、と彼女は言う。
「気をつけないといけないのは、お風呂に入るときかなって思ってる。
親が起きてて、私が脱ぎかけのときに踏み込まれて見られたら言い訳のしようがない。
お風呂に入ってる間に、どこに隠すかって問題もある。洗濯してくれるつもりで服を手に取ったら縄が出てきた、って洒落にならないわよね」
──先に、部屋でこそこそ着替えることになるかしら。
でも、最近母親と仲直りしたせいで、母親があたしの部屋に乗り込んで話をしたがったりするの。
あー、考えると緊張する!
と、調布は笑った。
そうして遠回りした僕と彼女は繁華街を抜け、自転車を停めていた公園に着く。
さっき国領を送ったときより、なぜか人が増えてる気がする。
休憩時間で抜けてきたのか、煙草をふかしてる板前風の男や刺青の入った暴走族崩れっぽいバイク野郎。
自分たちではイケてると思ってる風な高校生くらいの若者数人、こっち(っていうか調布)を気にしながらじゃれ合ってる。
その視線の中を僕たちは歩き、停めておいた自転車を回収し。
しばらく、自転車を押しながら無言で寄り添って歩く。
「ねえ、志野。あさってのハルカの予定を押さえた。あさっての月曜日ね、病院。
みなりも、その日はなんとかして行くつもりって言ってた。あなたと話したとき、そういう話になったって言ってたけど」
「ああ、月曜日だな。聞いてる」
たしか、みなりと昨日、会うって約束した候補日だ。
学校の部活って口実で、こっちに来れるよう交渉予定だったはずだ。
「それと、そろそろナギさんとこも様子を見に行きたいし。
あと、竜神のアレって、来週末なんでしょ?大丈夫?」
「そうだな、ナギさんとこは僕、明日見に行ってもいい」
今日は土曜日。今週から来週にかけて、いろいろやることがたまってる。姉もそろそろ、帰省してくる。
来週末の8月11日は、竜神の娘と竜神を還す約束だ。あっ、その前にあの頭蓋骨を回収しておかないと学校が閉まってしまうな。
そして角猿や竜神やラピエスタ関係で僕が一番頼りにしてるのは、実務能力の高い調布だ。
彼女に頼んで、月曜日以外にも何日か予定を確保してもらう。
「送るよ」
「遅くなるわよ?──でも、ありがと」
僕と彼女は、人の少ない通りに出ると自転車に乗り。
彼女の家のマンションに向かった。
──────
彼女が無事にエレベータに吸い込まれていくまでしっかり見送り、僕は自転車に乗り、家路に向かう。
ただ、僕は帰り道に向かいながら、妙な責任感というか、強迫観念を感じ始めていた。
お察しのとおり。あのメンヘラ娘、有明りなのことだ。
昨日の夜、一方的に電話かけてきて。
今日の夜来てくれ、みたいなことを言っていた。
きっと有明は僕が今日の夜、来ると思ってる。
別に無視して帰ってもいい。一日遊びまわって、疲れてもいる。
だけどな、約束とはいえないけれど。
今日、ステージの上で蛙どもに責められ、悶えていた彼女の姿を思い出す。
そして電話したときの、うれしそうな声も。
無視して、帰ってしまったら。
あいつ、友達少なそうな性格だしな。疲れ切って意気消沈。しょぼんとして、──
僕は、迷った挙句に電話を掛ける。自分の家に。
父親が出て、おうどうした不良少年、女の子から2回も電話かかってきてるぞ、そうそう母さんは寝たぞ、と陽気に言う。ちびちび酒を飲みながら映画を見てたみたい。
僕は上機嫌な父にもうちょっと遅くなる、と切り出し。
母親が起きる前に家に帰りつければ、父は僕が遅かったことは黙っていてくれる、ということにして話をまとめたのだった。
──────
──────
(第三者視点、金曜日(夏季補習の最終日(金曜日)から、志野たちのデートの当日(土曜日))
時はわずかに、さかのぼる。
吉祥寺美鷹がいなくなったと木曜の夜に知ってから、中河原桜は精力的に捜索活動に協力することにした。
美鷹は親友だし、その家族も知ってる。子どものころは美鷹の家によく遊びに行ってた。優しい小父さん小母さんたちだ。
捜索といっても、たずね人のチラシを撒くわけにもいかない。
だから最初は、美鷹が失踪前に接触した人たち、そして美鷹の家族の話を聞く。
金曜日、補習の最終日。
まず桜は、学校で志野氏の話を聞いた。桜自身も、ちょっといいなと思ってた紳士的な男の子だ。
(ただ、美鷹がこの志野氏に想いを寄せていた気配があったし、同じ美術部の調布智美が彼にひどく執着している。
だからもとより男の子には慣れない桜は、積極的に彼にアプローチする気まではない。
ただ、これを機会にお話することがあるかもな、と思うと少しどきどきして、落ち着かない気持ちになった。)
忙しそうな志野氏だが、美鷹の失踪は彼にも衝撃だったみたいだ。時間をとってくれた。
志野氏は、月曜日の美鷹とのデートでこっぴどく振られたらしい。そのこと自体は、美鷹らしい。
だがあれだけ志野氏に惹かれていた美鷹が、態度を豹変させるのはいぶかしい。
デートで占い師に観てもらったらしいが、あとから考えるとそこから態度が急変したのではないか。
そう志野氏は考えていて。話を聞いた彼女も、そう思った。
人の危険性を超能力的なまでの勘で探り当てる美鷹が、最初好意を寄せていたのに、態度を変えるのは変。
今回の失踪と、行動パターンが同じ。志野氏への別れの宣告は、いわば志野氏との関係での失踪。
多分美鷹は占い師との対話後に、急に何かに気づいたのだ。だから、別れをおしつけた。
たぶん、なんらかの危険が志野氏に及ぶのを避けようとした?家族からの失踪と、同じ原因?
占い師からも、話が聞けたりするだろうか。
貴重な情報に対し、桜も、彼女がかいまみた美鷹の秘密、大猿のことを話す。
半信半疑だった志野だが、猿の頭に突起があった、ということを知ると真剣になる。心当たりが、あるみたいだ。
「角猿」なる、まがまがしい言葉を彼は教えてくれる。
しかしそこで、時間切れ。また志野氏の方から電話をくれるということになった。
その後、根取益男と助子マシヤに絡まれて大変窮地に陥ったが、たまたま通りかかったらしい元天才子役、赤坂りな(今は、有明りなと名乗っているみたいだ)に助けてもらった。
その後、桜は気を取り直して吉祥寺美鷹の家を訪れた。
ほど近い、砦山の南側にある大きな古い西洋館は、彼女がこの前訪れたときと同じたたずまい。
美鷹の両親から話を聞き、書き置きと部屋もみせてもうことにする。
美鷹の失踪前の言動や、家に起きていた異変(小動物の死体を置く嫌がらせなどがあったという)を、やつれている彼女の母から聞き取る。
美鷹の部屋を見せてもらい、この前、彼女の家を訪れたときの記憶とも照らし合わせる。
部屋は、きちんと掃除されている。
書き置きも、まぎれもなく彼女の字。
美鷹の失踪は、文通相手の家への家出などではないと桜は思っているが、すくなくと美鷹は計画的に失踪したのだろう。
文通相手についても、桜は知っている。一度見たものを非常に正確に、長期間覚えている彼女の特技。
一度見せられた封筒の宛先など、記憶するのはたやすい。
美鷹の母に感謝されながら、さらさらと記憶から復号してメモにする。こちらは、美鷹の母の方であたってくれるそうだ。
美鷹の部屋を調べていて、桜は複数のごくささいな、しかし気になることに気づく。
まず、学習机の棚に加わっていた、最近複写したらしい資料。近所の公立図書館で複写したのだろう。
大型類人猿に関する資料だ。学校の図書館の貸し出し記録も、調べてみる必要があるかもしれない。
桜は複写物をぱらぱらとめくって内容を記憶し、完璧に原状回復しておいた。
次に、窓についているわずかな汚れ。
彼女はそれをじっと見つめて分析する。おそらく、これは獣の血。猿の血かもしれないが。
彼女は「嫌がらせ」が、家族にわからない形で美鷹に対してなされていたのではないか、という気がした。
この窓に近づくことができる、身の軽い人間か生き物が、何かを美鷹に対して行っていたのではないか。
あの台風の来ていたときに、この窓から中をうかがいみていた、奇妙な大猿の記憶。
念のため家の周囲を見せてもらったが、猿のいた形跡は正確には確認できなかった。その後の風雨で足跡はあらかた流されてしまっているようだ。
ただ、いくつかの地面のくぼみ、枝の折れに、彼女の記憶センサーは反応する。猿のものとも思えるものに加えて、人間の靴の跡らしいものもみつけた。
美鷹の家を辞し、彼女は考え込む。友人たちにも当たってみるべきだろうか。
電話を掛けるのには、内向的な桜にはとてつもない勇気が必要。
それに美鷹の母が、パニックになってクラスの女子たちや習い事の先にはすでに電話をかけたと聞く。ほとんど成果はなかった、と聞いた。桜が改めて聞いても、何もみつけられないだろう。
そう自分に言い訳して、桜は自分の優秀な記憶力が使えそうな方面に目を向ける。
美鷹は、猿によって砦山で暴行を受けていた。それを桜は目撃したことがある。
この現場の確認だ。そして、志野氏も言及した「角猿」だ。
これらを調べてみよう。それに、志野氏からは電話もかかってくるはず。
ただ、今日は日もくれてしまった。現場の確認は、明日にしよう。
そう思った桜は、とりあえずその日、金曜日の調査を打ち切る。
ただ、志野氏からは、その日は電話はなかった。ちょっと寂しい気がするが、電話になるとなおさら挙動不審になる桜はどこかほっとしていた。母には、電話があるかもって伝えておこう。
翌日、土曜日。桜は開館と同時に、自習室目当ての中高生や象のように知識を蓄えるのが好きな老人たちとともに、図書館になだれ込む。
図書館に半日こもって郷土の伝説の関係を調べると、だいたいのことが分かる。
頭は悪くない彼女は、そこから得た情報から推論を組み立てる。
頭に角のある猿は、極めて知能が高い。また狂暴性が高い。
郷土の伝説によれば、この猿は多くの人を殺傷してその脳を喰らい、悪賢さ、邪悪さを増し。
最終的には、「鎮西さん」(鎮西八郎為朝)、あるいは彼のイメージに統合された郷土の武士に征伐された。
猿がどこから来たのか、はっきりはわからない。
ただ桜は、猿が南の海を渡ってきた、という記述があるのに目を止めた。
猿の討伐方法。為朝が強弓で射抜いた、とされている。
古い伝承の中には、村娘を生贄役にして囮にした、と述べているものがある。
また猿の性として、女人を好み、生贄として捧げさせて喰らっていた、とも。
(みーちゃんも、おそらく生贄として目をつけられたんだ)
吉祥寺美鷹は、何かの折にこの猿に目を付けられた。
まあ、あれだけ目立つ美少女だ。きっと、猿神に見初められたのだ。
(やっぱり、猿だ。頭に角のある猿が、みーちゃんに家出をさせた。
家への嫌がらせも、おそらくは猿がやった。家族に危害を加えるぞ、って脅しなんだ。
普通なら、普通の人間相手なら、みーちゃんは対応できただろう。
この猿は、おそらくもっと超自然的なほどに強力な存在だ。)
家族や、自惚れていいなら桜たちごく親しい友人たち以外なら。
美鷹は平然と切り捨てられるだけの冷徹さと実行力を持っているはず。
美鷹の身に起きたことについて、美鷹への解像度の高い彼女の推論は、驚くほどに正確だった。
いくつかの記述の中には、竜神のことが言及されているものがある。
屠良川の上流に祀られている竜神は、悪猿から人々を守った、と。
(これは、真偽不明だし。今は関係なさそうだな)
次は、現場検証だ。
雨も降ってしまっているが、初心に戻って、あの猿が美鷹を嬲っていた枯れ谷を確認してみよう。
──────
お昼時。砦山の立入禁止区域に、こっそり忍び込む桜の姿があった。
金曜日の夜の雨で、枯れ谷にも水が流れたらしい。
桜は、猿の形跡などもう残ってないかも、と半ば諦めかけていたが。
(いや、まだ残ってる)
彼女は、わずかに残る足跡を確認する。そのいくつかは、彼女が昨日見た、美鷹の実家にのこされた足跡に一致するように思える。
そして。
(これって、──あの、天才子役さんと別れたときの!)
有明りなと名乗る、元天才子役。
彼女を慕国神社に送って分かれたが、そのときに警戒モードに引っかかった、玉石のくぼみ。
それとも、一致する。
つまり、──あのとき、あの場に大猿がいた。
ということは、次の犠牲者(?)は、有明りなではないのか。
こんなこと、誰に相談すればいいんだろう。
桜は、まだ大猿のことを両親にも美鷹の家族にも言っていない。
言っても、正気を疑われるだけだ。
でも言わないと、美鷹は失われてしまう。
(志野氏だ。志野氏は、角猿のことを知っていたし。)
桜は、夜まで彼からの電話を待とう、と決心する。
内気な桜は、電話は嫌いだ。電話は怖い。
──でも、どうしても仕方ないならかけるしかない。みーちゃんのためだ。
ぎりぎり、10時かな。10時まで来なかったら、自分から電話しよう。
そう、彼女は決心したのだった。