タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
比企頃市まではハイエースで移動、高速も使って、なお1時間弱。
12時の啓発は、商店街で行った。
多賀島市よりも、みんな立ち止まってくれる。おじいちゃんおばあちゃんが多い。山間の市なので、過疎化してるのかもしれない。
ここでも笑顔を振りまいてくるくると啓発物品を配り、呼びかけをする。
お昼ごはんだ。
市役所の小さな会議室を借りる。
よく頑張ってくれました、あとは午後ですね、頑張りましょう!と職員さんが言ってくれる。
いっしょに食べてお話をすると、なんだかんだ言ってみんな打ち解けてくる。
わたしは勇気を振り絞って、おどおど女子の西海先輩、きつめ美人の大村先輩に、大学の話とかを聞いてみた。西海先輩は嬉しそう、大村先輩も見た目を裏切って優しく面倒見がいい。
ふたりは、地元の国立大学の理学部2年生と3年生。学科が同じで、顔見知りだそうだ。
つまらない授業もあるが、面白い授業もある。授業は、必修以外、好きなものを選べる。
授業は朝から晩まであるんじゃなくて、ところどころ。すきま時間もある。
ゼミは大変。みっちり研究する(大村先輩が遠い目をしていた)。
でも地元企業から多額の寄付が続いてて、潤沢に基金が使えてる。海外の秘境に海外調査も。
部活みたいにハードじゃなくて、わりと適当に参加できるサークルもある。
アルバイトもできる。ハマってしまって、授業に出なくなる人も多いけど。
ーー楽しそうだなあ。やっぱり大学には行ってみたいよ。
大学生同士だからだろうか、わたしたちが話していると茶髪男子の諫早先輩が茶々を入れて割り込んできたりする。こちらは部活系男子だ。
あまり授業には出てないらしく、所属部がすごく強くて、対抗戦で勝ちまくった、就職も一流企業で確実だとか、女子大生モデルを酔いつぶしてねんごろになったとか、ファンの女子大生たちを合宿に呼んでみんなでよろしくやりまくったとか。
うん、お元気ですね。
でも、わたしには、あまり参考にならないかな。
大学の部活か。すごくハードなんだろうな。
あ、でも一見きつめな美人の大村先輩が、もの言いたげ。
なに、まじめな運動部もちゃんとあるからね、って?
茶髪の諫早先輩だけ、ちょっとタガが外れてるのかな。
茶髪ヤンキー女子の佐世保さんは、茶髪男子の諫早先輩を狙ってたんだと思う。ちょっと恨めし気にこっちを見てる。横取りされた、とか考えてないといいけど。
そんなつもり、皆目ないし。
でも佐世保さんも、冷徹眼鏡の松浦先輩に話しかけられて、まんざらでもなさそう。
うん、うまくまとまるといいな。
お昼ごはんがおわると、いよいよ午後の部だ!
ーーーーー
午後の部、2時の回は同じ比企頃市の観光名所の駐車場とかで啓発を行う。
その後、移動して、対楽市の商店街。そろそろみんな疲れてきてるけど、地元の人が物珍しがって結構うまくいった。啓発物品も、予定終了時刻より早く捌けた。
4時からの回を終わると、もう5時だ。
気が抜けて、よろよろとハイエースに入る。
「おう、大丈夫か、ほら、」
「ひゃあっ、」
女の子にあるまじき声を挙げてしまったよ。
首筋に清涼飲料水の冷たい缶を押し付けられて。
「ははは、ごめんごめん。」
「もう、悪いっておもってないでしょう。」
茶髪の諫早先輩がにやにやしてる。
飲み物はみんなの分、あるらしい。汗も結構かいてたので、ありがたくいただいて飲んだ。
帰りの車中。みな疲れたのか、うとうとと寝てる人が多い。
今回は中央席に座った諫早先輩が、こっちに寄りかかってくる。寝てるのかな。重たい。
そっと抜けようとするが、逃げるとさらにのしかかられる。頭が肩に。左手が、その、脚の間に。
まったく。
「先輩、起きてください。」
しかたなく必死に押し戻し、最後には声をかけて揺り起こす。
ごめんごめん、と言って諫早先輩が元の位置に戻った。
ちょっと前のわたしだったら、がまんしてただろう。なんか少し、強気(?)になった?
佐世保さんがまたこっちをにらみつけてるけど、そっちで仲良くしてくれると丸く収まると思うんだ。
ーーーーー
県庁まで戻り、服を元に着替える。
お金の入った封筒を受け取る。領収書を書く。
やったー!ちゃんと稼いだお金だ。
ほんの少しだとはいえ。
わたしはしみじみと喜びをかみしめる。
うん、志野くんのバイトは楽しいし、うれしいんだけど、その、うしろめたいんだ。
これはわたしがちゃんと労働して稼いだお金だ。
借金を返すのに使っていいお金なんだ。
うれしい。
帰り際に、きつめ美人女子の大村先輩がそっと耳打ちしてきた。
「今日は、もう帰るでしょ?気をつけて、人の多いところを通って帰りなさいね。」
「わかりました。ありがとうございます。」
お金のことを心配してるんじゃ、ないんだろうな。
茶髪の佐世保さんが、茶髪の諫早先輩との仲を邪魔された、あるいは横取りされた、と思って怒ってるとしたら。
仲間たちと、帰りに
そういうことかな?
うん、まっすぐ人通りの多いところを通って帰るよ。
お金の封筒をいれたバッグを大事に抱えて、歩く。
ちょっとやんちゃ風な女の子の集団がいないか、注意しながら。
「おう、帰るのか?」
しばらく歩いたころに、かけられた声に振り向く。
茶髪男子の諫早先輩、冷徹眼鏡の松浦先輩だ。
「はい、先輩方もお気をつけて。」
「まあ、そういうなよ。ちょっと付き合え。」
茶髪男子の諫早先輩が、ぐうっと体を押し付けてきた。
よろけると、違う方向から腕をつかまれた。
冷徹眼鏡の松浦先輩。
「なあ、縛られたんだろ?」
小さな声で囁いてくる。
はっ、とする。そういえば。
冷徹眼鏡の松浦先輩は、そうっとわたしの手首をさすった。ぞくっとした。
「ほら、これ。縄のこすれた跡だよな。」
手首、擦れた跡が少しだけ残ってた、かも。
でも、どうしてこんな微かな跡からわかるんだろう。
茶髪の諫早先輩が、ぐぐっと大通りから一本入る、人通りの少ない道にわたしを押そうとする。
「いっけないんだなあ。紫藤さんは、かわいい顔してて。」
「どんなことをさせて、ボーイフレンドを楽しませたのかなー?」
「俺たちにも教えてくれるよねー。学校にチクられたく、ないよねー?」
微妙に大きな声で。
回りの人たちに聞かれることを、わたしがいやがることを見越して。
ついてこい、って恫喝してるんだ。
ーーしまった。
気をつけろって、
どうしよう。
「ええ、僕たち二人で楽しんだんですよ。だからそこまでにしてくれませんかね。」
凛とした声。二人がはっと振り向く。
この隙だ、うまくすり抜ける!唸れ、空蝉の術!
「こっちは僕らで今から楽しみますんで、先輩方もお二人でお楽しみください。それじゃ。」
あっけにとられている二人を置いて、駆けてきたわたしを、志野くんは抱き寄せて。
志野くんは、まるで後ろから攻撃されるかもしれないとは全く考えていなさそうな、あの自信に満ちた堂々とした態度で、わたしの腰に軽く手を当ててエスコートし。
わたしはいつのまにか、志野くんと二人で表通りを歩いてた。
わたしは、信じられずに高い位置にある顔を見上げる。
志野くん。
いったいぜんたいどうしてまたこんなところに。
「暇だったし、せっかくだからちょっと来てみたんだ。その、他意はないんだ。」
きまり悪げな声。
どうして志野くんは、わたしの間の悪い時にピンポイントに現れるかな。
いや、そのおかげでわたしは毎度助かってる、のだけど。
「県庁からつけてたんだけど、声をかける機がなくて。」
どういうわけか、面目なさそうな声でぼそぼそという。
「ずっと待ってたの?」
そんなに待たせてたとか。悪いことをしたよ。
「いや、そうじゃない。終了時刻は聞いてたからさ、もし会えたらなーと思ってたんだ。」
変質者みたいで、いやだったかな?
でも、会いたかったんだ。
そう、拗ねてる声で言う。
「そうなんだ、ありがとう!」
気分が一気に上昇。うれしい。
にこにこ見上げると、眩しいものをみるように志野くんが目をしばたたかせた。
途中まででも、一緒に帰れるよね?
わたしは話したいこと、いっぱいあるんだ。
ーーーーー
改めて、助けてくれたお礼を言う。
今日あったいろんなこと、会った人の話とか、をしていると、ふと志野くんが聞き返した。
「その、女子大生の先輩たちって理学部なんだよな?もしよかったら、話を聞けたりするかな。」
「ごめん、連絡先は聞いてないけど。興味あった?」
「タガ大は受けないと思う。でも理学部の研究、興味がある。話を聞いてみたかった。」
勉強熱心なんだね。
でも、わたしももうちょっと聞いてみたいかも。
連絡とってみようかな。外の人が、アポなしに大学入ってもいいのかな。
「それでさ、聞いてしまったんだが、ーーその、さっきのやつらが言ってた、ーー」
少し重い雰囲気で聞いてくる。
「ああ、それは」
顔が赤くなる。
説明する。いや、足を無理やり引き上げられ、股裂きにされて、ひどいことになったってことは言わないよ。お父さんに折檻された、そのとき手首を縛られた、ってこと。そしてそれを見とがめられたらしい、ってことだけ、伝えた。
でも、志野くんの顔が険しくなる。
「ごめんね志野くん。」
「なんで謝るの。人の家族を悪く言うのは良くないけど、紫藤のお父さんは、度が過ぎてるよ。」
本当は、志野くんの思ってるより、ずっとずっと度が過ぎてるんだけどね。
それは言えない。
でも、志野くんは怒ってるようだ。
怒ってる。そういえば、さっきも拗ねて、怒ってた。
むむ?
なんか、
あ!そういうことか。わかった。
わたしの疲れた頭に、ようやくピコンと豆電球が灯る。
「志野くん、ごめんね。わたしもわかってるんだよ。男の人というのは、自分が一番でありたいんだよね。」
「え?」
ああ、言い方が遠回しすぎだったかな。
要は、千里と同じだ、志野くんは。拗ねてる。
自分が、おいていかれてしまった感じなんだ。わたしが、志野くんの知らないことをされて。
だから、安心させてあげないと。自分がおいていかれないって、志野くんがわたしの一番だって。
わたし、千里でよくわかってるよ。同じこと、したいんだね。
「わたしが、ほかの人に縛られたのがいやだったんでしょ。いいよ、こんどわたしを縛ってね。」
ん?
志野くん、凍ってる。
あれ?わたし、今、何を言った?
ごめん。
恥ずかしい。文脈がわからなければ、変態さんの会話だよ。
周りの人、聞いてないよね? 怖くて周りが見れない。
二人ともトマトのように赤くなり。無口になってしばらく歩いた。
ぎこちないよ、この空気!
話を変えよう。
「それでさ、明日は、」
待ち合わせの時間場所しか決めてなかったんじゃないかな!ほら、まだ、その、持ち物とかさ!決めてなかったよね!
「うん、持ち物は、ーー」
妙に熱心に、わたしたちは明日の打ち合わせをした。それはもう熱心に。
綿密な計画ができた。でも二人とも、上の空だった。
バス停についてしまった。
自販機の物陰で、周りを見回して、こっそり、一瞬だけのキスをする。
バスに乗せてもらって、帰宅の途につく。
窓の外、夕焼けを浴びてる志野くんの姿が小さくなっていく。
うん、疲れた。
いっぱい動いて話して楽しくて恥ずかしくて疲れた。
せっかく作った綿密な明日の持ち物計画。半分も覚えてない。
明日は明日の風が吹く。
早く帰って寝よう。
お母さんも元気になったかな。
わたしは、すごく元気になったよ。なにか大事なものをなくしてしまった気もするけど。
なんだ、信用?評判?乙女の羞恥心?よくわからない。
おふろか、ふとんの中で考えよう。
ーーーーー
バスの中でうとうとしていたらしい。いつのまにか、ざくろが丘入口を過ぎてしまっていた。
「ざくろが丘中央、ざくろが丘中央ーー」
しまった。
でも今日は、連休中。
ざくろが丘中央のバス停近くは、小さなショッピングセンター。いつもは、チーマーや
今日は、変な連中もいないだろう。
そう思っていたのだが。
「みーなりぃー-」
捕まってしまった。
金髪の、わたしの幼馴染の不良野郎。
取り巻きは、今日は少ない。ケバい化粧、たぶんシャドーを入れたミニスカ茶髪プリンの女の子、背の高い、短髪に剃りこみを入れた、硬派ふうの目つきの悪い少年。
「こんにちは。ゴウちゃん。それじゃ、またね。」
すいっと逃げようとしたが、回り込まれた。後ろを見る。ガードレールがある、越せなくはないが、手間取りそうかな。
「おい、そろそろ約束果たせやコラ。」
「約束?そんなのした覚えないけど。」
「お前は、オレのものって決まってんだよ。最近みないうちに、結構みられる面と体になってきたじゃねえか。」
顔に始まって下まで、舐めまわすような視線を向けてくる。
「ほらよ、かわいがってやるぜ。こう、下から突き上げてやると、みんなヒーヒー言って喜ぶんだぜ?おまえも天国に送ってやるよ。」
握りこぶしを作って、卑猥な感じに腕を突き上げて見せてくる。
隣の茶髪プリン女がいやそうな顔をしてる。
ほら、ダーリンが浮気しようとしてるよ。止めてあげなよ。
わたしはそれとなく周囲を見る。うん、走って逃げられなくもないけど。
「わたしは、そんな約束した覚えはないよ。彼女さんもいるんでしょ、もうやめなよ。」
「逃げんじゃねえぞ!」
ゴウジが腕を掴んできた。
「ほらよ、オレんちの2階な。ババアはなんも言わねえから、安心して来い。今夜9時な。」
「いやだよ、なんでそんなことになるの。行かないからね。」
ぎり、っと腕の力が増した。痛い。でも、負けない。
「忘れたか?なんでもするって泣いて約束したろうが。」
「それ小学1年のときじゃん、もう時効だよ。それにそれ、無理やり言わされたやつだよ。」
たしかパロスペシャル(?)とかいう屈辱的な技をかけられて、言わされたやつだ。
「お前の処女、オレがもらってやんだよ、予約済みなんだよ。それにお前のところの、あのろくでなしジジイにヤられるより、マシだろうが。」
「うん、お父さんのことなら、確かにろくでなしだと思うけど。」
そこは疑いのない事実だ。
「それと関係ないよ。わたしの初めては、もう決まってるよ。絶対にあなたのものにはならない。」
そうだ。。わたしはもう、志野くんのものだ。
あの壊れるくらい抱きしめられて受けた、熱く、甘いキス。
体が芯から溶けるような、陶酔。
あの快感を、あなたは与えられないでしょ?
あれは、わたしだけのものだ。
となりの茶髪プリンの彼女も、多分、知らないだろう。
いや、知ってたらいいよね。あの幸せの頂きを。そう祈ろう。
ーーそう考えていて。
なぜか、知らずしらずのうちに。
わたしは、口の端に笑みを浮かべていたらしい。
想像だが、おそらくは、とても淫蕩な、愉悦を湛えた笑みを。
そう。
絶対に絶対に処女は浮かべてはいけない、いや浮かべることなどできない。
そんな笑みを。
「っ、」
わたしの言葉に?それとも、笑うわたしを見て?
ゴウジがわたしの腕から手を放し。
息を呑んで、驚いている。
飛び出しそうに、目を剥いて。
少し、いい気味。
「ねえ、そこの彼女さん。」
「な、なによ。」
呼びかける。
茶髪プリンさんは、気圧されたように一歩下がろうとして、たたらを踏んだ。
丸刈り背高少年も、わたしが何かするとでも思ったのだろうか。
何か言おうとして、でも無様にも、そのまま凍り付いたように何も言えず、動けず。
目を丸くして、息を呑んでやりとりを見守っている。
「ゴウジが好きなんだったら、連れてって、一緒にいてあげなよ。」
「!?」
どうしてだろう。いつもなら目を合わせるのも怖いのに、今日は平静に話せる。
取り巻きが少ないのもあるからだろうけど。
こいつらに殴られても、あの家にいる怪物に痛めつけられるよりずっとましだ、そう思えるからかな。
それもある。でもそれだけじゃない。
志野くんのことを思うと、おなかの中からふわっと熱くなる気がする。
わたしのことを想ってくれてる、たぶん、愛してくれる、と思うと、勇気が湧いてくるんだ。
わたしの初めては、志野くんに捧げたい。
また抑えきれない喜びを感じて、笑いが浮かびそうだ。いや、浮かんでるだろう。
うん、ちょっと恥ずかしくなってきたぞ。
「ーーね、ねえゴウジ、行こうよ。こんな女、ほっとこうよ。」
茶髪プリンさんがゴウジの手を引っ張ってる。
「ーー。あ、ああ。」
「ゴウちゃん、行こうぜ。カツジたち、きっと待ってるし。」
背の高い丸刈り少年が、ゴウジの肩を支える。
「ーーお、おう。そうだな。早く行かなきゃな。」
ゴウジは、なにか衝撃を受けたようにふらふらと、茶髪プリンさんと背高丸刈り少年に挟まれて去っていった。
ふう、と息をつく。
これであきらめてくれるかな。
わからない。まあそんなに簡単にはいかないだろう。
わたしは臆病だ。完全に違う自分になんかなれない。
だけどわたしにできる限りで、誠実に生きたい。
うそとごまかしにまみれてるけど。
志野くんにだけは、いい顔を見せたいんだ。くだらない虚栄、見栄だけど。
好きな人のためなら。命だって懸けてみせよう。
ーーーーー
家に帰る。
ろくでなしのお父さんはいない。ーーーいない?
どういうわけか、ちょっと不吉なものを感じる。
目で見てわかるろくでもないことをしていた方が、安心だ。どこで何をやってるのか、わからないのが不吉だ。
たぶん、お母さんがいたからだな。お母さんとの正面衝突を避けたか。
お母さんが掃除をしたのか、家が少しきれいになってる。
ちょっとだけ、昔みたいな感じだ。
出てきたお母さんも、少し穏やかな顔になってる。
久しぶりにお母さんが作ったごはんだ。千里を呼ぶ。
3人でごはんを食べる。キッチンの狭いテーブルで。
リビングは嫌だ、行きたくない。
アルバイトの話をする。多賀島大学もいいな、と思ったという話とか。
千里はタガ大を馬鹿にするけど、いい大学だと思う。
そりゃ東京の大学に比べると、就職とかは大変かもしれないけど。
今日会った、大村先輩や西海先輩は、結構生き生きして、楽しそうに見えた。
まあ、わたしは高卒で就職かな。さとみんとかにいうと、怒りそうだけど。
お母さんの作った肉じゃがは美味しい。わたしがつくっても同じ味にならない。
こんな夕べが続けばいいのに。
でもきっと、そのうちろくでなしが帰ってくる。
野球トトカルチョに負けてたりしたら、大荒れになったりするだろうな。
でも上機嫌だともっと怖い。絶対、なにかろくでもないことをしてるからだ。
またわたしの処女を売却してるのかなー。
あのときは、志野くんが助けてくれたけど、今度は、わたしで何とかしなきゃ。
お母さんに、朝、言ったように。
すべてを捨てて逃げる、それでいいと思うけど。
何もかもを抱えては逃げられない。わたしは、お母さんと千里がいれば、それでいいよ。
もちろん、志野くんは特別だ。
まあいい。
今日は楽しかった。
わたしは、今を生きるんだ。
食器を洗い、お風呂を準備する。
明日の準備をしよう。
あれ、でも何を用意すればいいんだろう。
電話かけてみようかな?
今日はお父さんが遅い、あるいはいないし。
寝る前に、ちょっとだけ、声が聞きたい。
ひとこと、おやすみ、だけでも。