タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
(志野視点、葉良邸、夜)
ほどよいクズっぷり。
それが、僕が直面することになったお題だ。
ここに至る経過を、簡単に思い返してみよう。
まず、顔はいいけど頭おかしい元子役、有明りなの求めに応じて、馬鹿な僕はほいほいと。
彼女の滞在する葉良議員の邸宅に、夜更けにしのびこんだ。──まずここからして、間違っていたのだが。
そのうえに、あろうことか阿呆の僕は間違いを塗り重ね。
うっかりと「彼女の体に関心がある」と誤解を与えかねない受け答えをしてしまった。
その僕の、愚行のむくいとして。
この地雷女は、もともと多少の片鱗をのぞかせていた、僕への妙な執着を強めてしまい。
こうして僕にのしかかり、その小柄だが魅力的な体をべったりと押しつけてきており。
その大きな目、ワインレッドの瞳孔には、まるで本当に恋しているかのような熱があるのだが。
僕は彼女にたいしたことはしていないし、これからも最小限のかかわりしか持つつもりはない。
仮に彼女が僕に対して
それは「なりきる」演技者にありがちと聞く、ある種の勘違いというか気の迷いなのだと思う。
つまり。──ここを切り抜ければ、なんとかなるはず!
ともかくもこれが、僕の置かれた現在地であり。
僕は彼女に恥をかかせて地雷を爆発させないよう、つまり彼女に発端は誤解なんだって悟られないように。
しかし彼女と適度な距離を置く必要性に、せまられている。
これはなかなか、困難なミッションではあるのだが。
──なに、この程度の窮地なんて大丈夫、大丈夫。
僕だって前世(?)と巻き戻った今世、2回分の人生経験を積んでる!
そう、僕は自分に言い聞かせる。
確かに、困難なミッションではある。
たとえば僕はすでに、僕がいかにクズかということを言葉で彼女に示したのだが。
それは、空振りにおわってしまっている。
これから、もう少し行動、言動でクズさを印象づけねばならない。
僕は頭の中に、ちょうど車のカタログを広げるように。
僕の知るクズ男たちを、思い浮かべてみる。
僕自身もおそらくは客観的にはクズ男の一員。しいて名づければ、純粋消極タイプ。
(でもさ、弁解になるけど、これは仕方ない側面もあるよね?
ほら、僕みたいな冴えない男には人権ないってのが世間的なコンセンサスみたいだし。
異性に近づきたいけど、近づくとセクハラだとか言われて通報されたりするんだ。きっと。)
もちろんそれ以外にも、小判鮫的追従ワナビータイプ、広告代理店風モラハラタイプ、土俗的暴力ヤンキータイプなどなど、選択肢は多い。
僕は、僕が観察したクズ男のモデルに思いを馳せる。
トルストイじゃないけど、人格円満なタイプはどれもこれも似通ったものだけど、人格の非円満なクズ男たちってそれぞれに非円満ポイントが違ってるものなんだ。
僕は心を決めて、その一つの
おもむろに、僕の体にのしかかかっている、有明りなの目を見返した。
「(どうしたの?しーくん。真剣な顔して。
──んー、かっこいい)」
「(──おい、有明)」
なにか小さい声で彼女がもごもご言っていたが。
委細構わず、僕はドスを聞かせた低い声を出す。演技は、もう始まっている。
──しかしこのとき、馬鹿頭の僕は。
演技が本職の彼女に演技で僕が勝てるはずもない、ということに、全く思いが至ってなかった。
「(なに、しーくん?)」
僕は有明の形のいい小さい頭をぐいっと引き寄せ、鋭い目をつくって覗き込んだ。
驚いている有明が大きな紅い目を瞠って、見つめ返している。
その目の中に、真剣な、というより、眉をしかめた顔をしているだけの僕が映っている。
「(有明りな。お前を
「(しーくん!──)」
「(口ごたえは、許さない。
僕が選んだのは、「強引系モラハラクズ男」の仮面。
なにかと見下し、モラハラ。軽い暴力と理不尽な拘束。よくいるよね?
ヤバい、間を置きたい、と思わせよう。
自称も、いつもの「僕」じゃなくて、なんかコワモテそうな「俺」を選ぶ。
「(──うん、いいよ。私はもう、しーくんのもの)」
「(そうだ。
「(わかってる。私、しーくんだけをみる。しーくんの言葉だけを聞く)」
彼女は引かない。結果、なぜか始まるチキンレース。
──演技、なんだよな?
もっと意地悪なことを言って、彼女をドン引きにせねば、と僕は思う。
「(じゃあ、有明。──
「(当然!しーくんが望むなら、よろこんで死ぬ)」
モラハラの好機と見て取って、小学生のいやがらせみたいな逆ねじを有明に食らわせてみたが。
有明りなは、引かない。その目の熱は、まったく褪せる気配もない。
いや、それどころか目の輝きが増してきている気すらする。少女漫画でいえば、星が目に入った感じ。
しかもシャツの上からではあるが、感極まったように。
やたらと熱烈に唇を僕の胸に押しつけ始めたので、僕は悲鳴を噛み殺した。
「(有明。──やめろ。余計なことをするな。
「(はい。しーくんの、どんな命令でも聞きます。命じてください)」
ロリ顔が、僕を見つめ返す。すこし線が細くなった頬が、赤い。
「(そうだな、──)」
うーん、思いつかない。文字どおり「糞喰らえ」って言ってみるか?
だが、この女なら嬉々として実行しそうだ、という悪い予感を僕は覚えた。
熱を湛える有明の紅い目を見返し、決断しきれず絶句していると。
有明が、意味深に笑った。──媚びるように、淫靡に。
僕の視線はこころならずも、その奥に深淵を湛えた瞳に吸い寄せられる。
「(いきなりは、思いつかないなら。
まず私が、しーくんにご奉仕する)」
有明はこの間、あおむけに寝た姿勢の僕に、ぴたっと裸の体をつけて乗ってたわけなんだが。
体をおこし、騎乗位の姿勢になり、部屋の常夜灯を消した。いつの間にかさしこみはじめてた月明かりが、彼女の細いが魅惑的な白い体を照らした。
有明りなは、さらに後ろに移り、僕の足の間に座る位置を変えて。
僕の勃ちあがるアレを、興味津々に服の上から撫でた。
「(こんなにしーくんが、興奮してくれてる、──!
きっと、つらくて苦しい。──だから私が一回抜いてあげる)」
あざやかな手つきで、僕のスラックスのベルトが解かれ、ジッパーが下げられ。
スラックスをまたたくまにはぎ取られ、トランクスに手を掛けられる。ここまで数秒。
あまりのことに脳が活動停止してしまった僕は、カチコチに固まってしまう。
──そしてむろんのこと、僕のアレもカチコチに固まってしまう。
しかしトランクスを下ろして脱がせ、僕のそそりたつ現物を見た有明りなは。
絶句して一瞬、動きを止めた。
ここまで慣れた手つきで進めてきたのが、嘘みたいに。
「な、なにこれ!──こんなの、あり?」
なんだよ!
僕はようやく驚きのあまりの硬直状態が解けて、再起動を果たそうとしていたのだが。
そこで発された、彼女の心ない言葉に。
頭がくらくらするくらいに、激しい憤りを覚えた。
──ちなみに後で思い返すと、有明はそこまでひどいことを言ったわけじゃない。
単に驚いただけだったんだろう。
だけどもともとよくなかった僕の精神状態は、彼女の言葉を悪く解釈してしまった。
なにしろ調布、国領とのデートでちょっぴり疲れていて。
あまり乗り気でもなく、有明りなの一方的な呼び出しを無視しかねて、無理して来たわけで。
そして、──これは僕も悪いんだけど。
変な受け答えのせいで、窮地に陥ってしまった。その八つ当たりで、有明りなに怒りが溜まってた。
しかも妙手と思ったクズ男プレイが上手くいかず、チキンレースは敗色濃厚。
空気読めよ、と彼女へのもやもやが高まり。
そして(男尊女卑的な古い考えだけど)僕と彼女のあるべき位置や立場は逆だ、という思い。
貞操逆転世界じゃあるまいし、僕の半分も体重なさそうなロリ女に組み敷かれてる、って。
自分の情けなさが、彼女への不快感に転化していた。
だからこの有明発言、言うに事欠いて僕のアレを批判しやがったな、と思ってしまった。
紫藤は僕のこれがいいって、言ってくれたのに!という思いもあって、有明へのヘイトが高まる。
(他方、やっぱり紫藤は天使だなあ、と僕はあらためて実感していた。)
しかしこの(理不尽な)煮えたぎる怒りのるつぼが、臨界点に達する前に。
「(しーくん、大丈夫。私にまかせて)」
有明りなは、僕のアレのグロさのショックから、気を取り直したのか。
僕の足の間に正座するような姿勢を取り。
そして僕に、また闇の深い笑みをみせる。
「(ちょっと待って。──これがいいかな)」
有明は、全くの裸の状態なのだが。
その腿や腕に巻かれた包帯が、僕の脳を変に刺激する。
彼女は、その身をきゅっとねじり。
(細い腰上のくびれが否応なく僕の目を吸引し、アレが硬度を増した。)
ふとんの横に置いてあった、コスメ用品のポーチをさぐり。
なにやらベビーローションのような小瓶を、手に取った。
「(ひやっとするかも。ごめんね)」
彼女は透明な液を小さい手に取り、僕の隆起するソレに甲斐甲斐しくなじませる。
ぬるぬる、という感触は、決して不快ではない。
僕の脳からは怒りが薄れ、戸惑いに置き換わる。
「(やっぱりしーくんのは、──い。みたことがないくらい。
私のは、そこまで──けど、──。訓練で──とおり、──れば、大丈夫!)」
有明は僕にはところどころしか聞き取れない、小さい声でつぶやきながら。
僕の足の間に正座した姿勢から、上体を屈ませてきて。
細い体にしては大きめの、形よくぷりっと先端が軽く上を向いてる乳房の間に。
僕の、直立というか体幹と60度くらいの角度で恥ずかしげもなく屹立している、アレを当てがう。
そして彼女は両手で自分の胸のふくらみを、両側からぎゅっと寄せて、間にある僕のアレをはさみこんだ。
そして、おっかなびっくり、とでもいうべき動きで、上半身を動かす。
しかしその動きとともに、僕のアレには痺れるような快感が走った。
「(──を、──するイメージで、って習った。手だけじゃなく、上半身全体を動かして──)」
何か、有明はつぶやいていたようだったが。
僕はびりびりとソレから足の付け根に、そして背筋に走る快感に。
彼女が仮に何か侮辱的なことを言っていたとしても、まったく気にする余裕なんてなかった。
僕の節操のないアレは、快感にいきり立ち。
その興奮に引きずられて、本体たる僕も、胡乱な視線を窓からの月明かりに白く浮かぶ彼女の体にからみつかせる。
細めの肩(片方には湿布が当たっている)、鎖骨や一部の肋骨が浮く、やせた体。
でもぷりっと出た胸は意外に大きく、運動はしてるのか腿や腰は肉感的(ただ、随所に湿布と包帯)。
顔にかかった前さがりの赤みを帯びた髪をうるさげに頭を振ってはねる様子。
外見にだけは、さすが元芸能人と思わせる魅力がある。
僕の粘着質な視線に気づいた、有明りなは。
どこかほの昏く瞳孔の開いた目で、笑いかけてきた。
汗が、つっと彼女の初対面のときよりも細くなった頬を伝い、顎先から落ちる。
僕はそれを、熱に浮かされた目でみつめた。
後から考えると、このときの僕は。
有明が漂わせていた、その破滅的な熱情。
後先考えてない、刹那的で捨て鉢な。
しかしどこか侵しがたい神聖さが漂う狂気に、感染させられてしまっていたのだと思う。