タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
(志野視点、葉良邸の母屋2階、土曜日夜)
葉良邸の2階の女中部屋。そこに述べられた煎餅布団に僕は横たわり、股間にかがみこむ彼女に奉仕されていた。
彼女は僕の開いた足の間に正座し、前かがみで僕のアレを体のわりに大きめの乳房にはさみ、愛撫している。
結構不自然な前傾姿勢で、きついはずだ。
でも有明は黙々と、上半身全体を上下に動かすようにして僕への奉仕を続ける。額や肩に、わずかに汗が浮いていた。
「(しーくん、気持ちいい?私、しーくんの役に立ってる?)」
「(ああ。──おら、その先を当てろ。そうだ)」
僕の指示を受け。
彼女は従順に自分の片方の乳首の先端を、血管が浮き上がった僕のアレに当てて。
彼女の乳首の突起が、僕のアレの先を撫でた。
「(こう、かな?──ひぅぁっ!──はぁ、はぁ、──
──あっ?しーくん!?)」
彼女の乳首が僕のソレに接触してこすりあげるときに。
小さく、しかし確かに彼女は喘ぎ、ぴくっ、と細い体が震えた。
それが、僕の心の汚れた感情に点火してしまった。──この女を無茶苦茶にしたい、という衝動に。
がばっ、と僕は上半身を起こした。
有明の顔に、月を背にした僕の影がかかった。息をのむ有明。おびえて見上げる視線。
だが彼女の動揺が、僕にはとても心地よく感じられ、──
「(あ、うわっ、しーくん、)」
僕は彼女の細い肩を押し、後ろに押し倒した。
攻守逆転。硬直する彼女の白い脚を乗り越え、あおむけにされた彼女を組み敷いた。
「(あっ、うぐっ!──)」
彼女の、細いお腹にまたがる。もちろん床に着けた膝に体重を逃がしたが、一瞬だけ彼女のお腹に体重がかかってしまった。
でも彼女に気づかいなどできないくらい、僕の2つの頭(頭と亀頭ね)には、血がのぼってしまっていた。
有明はただでさえふとんの端に近い場所にいて、そこを僕が押し倒したので。
彼女の背から肩、頭は畳にはみ出してしまっている。
段差があるし、固い畳も不快だろう。
それに気づいても、僕は敢えてなにもしなかった。彼女に対して、ひどく攻撃的な気分になっていた。
彼女を気づかわない、それどころか。
「(痛いか?ほら、──)」
「(ぐっ、あっ、んんっ!)」
湿布が貼られて包帯が巻いてある上腕を、片手でつかんで力を軽く入れると、彼女は呻いた。
痛み止めは飲ませたが、所詮市販薬で効果は弱い。今のも、相当な激痛があったはず。
でも、彼女は僕の目から、大きな目を逸らさなかった。
僕への恐怖に、開いた瞳孔。しかしどこか不思議な笑みが、彼女の口元に浮いた。
彼女は、やっぱり狂ってる。僕と同じだ。
「(おら、サボんな。やれよ)」
僕は自分のアレが、彼女の乳房の間に来るように姿勢を微調整する。
彼女は奇妙な笑みを浮かべたまま、自分の胸を寄せて僕のソレを挟む。従順に、片方の乳首の先を寄せてアレに当てる。
今度は僕が能動的に、ぬる、ぬるっと動かす。途切れた快感が、戻ってくる。
「(これ、痛いだろう?)」
「(くっ!はぁ、はぁ、──痛い。痛くて──気持ちいい)」
そうして彼女の体で股間の欲望を、満たしながら。
僕は彼女の上半身の打ち身に、包帯越しに指を当てて軽く押したり。
僕に当ててない方のぷりっと尖ったピンク色の乳首の先端を、ぎゅっとつまんでみたりした。
そんな意地悪をするたびに、彼女は僕の股の下で、白い体を苦痛にねじった。
僕に視線を合わせたままの大きな赤い目の端からは、つうっ、と涙が流れた。
衝動的に、僕は彼女を見下ろしていた身をかがめ。それを舐めとった。
好き、とほとんど吐息のように彼女が発した。僕は答えなかった。
「(出すぞ。飲むか、飲めるのか?有明)」
「(あたりき、車力。飲ませて、しーくん)」
もう出る、と思った僕は膝立ちになり、立ち位置を後ろに、彼女の腿のあたりにまで下がる。
彼女はそれにあわせて手を背中側につき、上半身を上げて、僕のアレを口に含んだ。
僕は逃げられないように、彼女の髪をつかんだ。
彼女の舌が、僕の亀の頭部分を丸く愛撫するようにぐるっと一周、舐めまわし。
そしてつんつん、と先端を催促するように刺激した。目の前が白くなる快感、どく、どくっという律動。出る。
「(んむっ!)」
小さい口は、やっと僕のアレの先端を含めるくらい。
しかしむぎゅ、ごきゅ、ごきゅと音をたてながら、彼女は僕のそれを飲みくだす。
その濡れた視線は、上目遣いで僕にじっと据えられてる。
あれだけ調布に出した後だというのに、僕のアレは際限もなく液を噴出する。ゾクゾクするような快感。
ようやくひととおり、出し終わる。
零したら罰の口実にしてやろう、などと思ったが、彼女は必死ですべてを飲み下した。
彼女の顔は赤くなっている。怒りや恥辱のためではなく、単純に息が続かなかったからだろう。
「(んはっ、はぁ、はぁ、はぁ、──)」
飲みくだしおわった彼女は、力尽きたのかあおむけに倒れ、背中を床につけた。胸が上下する。
僕は、なんだか少し冷静になって。
なかば畳に出てた彼女を抱き上げて固い煎餅ぶとんに戻し、そのそばに、横になった。
いったん射精して頭も冷えた僕は、かたわらの彼女の荒い息を聞きながら、混乱しはじめていた。
──戦略どおり彼女をビビらせて間を置く策略、すっかりパーだ!どうしてこんなことに、──
どうしよう、僕、バレたら絶対調布に顔の形が変わるくらい、タコ殴りじゃないか!
そして有明も、懲りた気配はないし。ますます僕に執着したりなんかしないか?
いったいどうすれば、──やっぱりう〇こ、洩らしてみせるしかないか?
「(しーくん、好き)」
そんな僕の荒れ狂う内心はさて置いて。
彼女が、また小さな声で言う。僕は答えない、──答えられない。
しかし彼女は、ここまでの僕の蛮行や無礼な無視に対し引いてる気配を欠片もみせない。
目にこもる熱は、高まっているようにすら思える。
「(ねえしーくん、少し落ち着いた?
──そんなことないんだね。しーくんのコレ、すごい)」
僕のアレを、さわさわ、と彼女はうっとりしたように手で撫でる(かけぶとんは、まだ掛けてなかった)。
僕のアレは、彼女の口中に打ち放ったにもかかわらず。
多少はおとなしくなったものの、まだ元気よく勃ち上がったまま。
グロい姿を彼女の前にさらしつづけているのだが。
どうやら、彼女は僕のアレをグロいとは思ってないみたいだ。
しーくん、たくましー!と、上半身をあげてのぞき込んで小さく嘆声を上げてる。
「(さっき言ったよね、今日のことは、2人の秘密。
私、誰にも、絶対言わない。約束する!
だからさ、もっと、──いろいろしよう?
私、どんなことされても平気。しーくんのしたいこと、何だって私にしていい)」
僕の内心を、知ってか知らずか。
彼女が、耳に口をよせてささやきかけてくる。振り向くと、どこか狂信的な瞳孔の開いた目。
「(有明は、──有明は、どうしたい?)」
「(私は、しーくんが気持ちよくなることなら、なんでもいい。
でも、──そうだ、ちょっとしーくんにしてほしいこと、あるかも)」
苦し紛れの問いに、彼女は少し考え込み。
そこで彼女も理性が少し戻ってきたのか。顔を少し横に向け気味にして、流し目で僕をみる。
あざとくも、恥ずかしそうな頬の赤み。
今の僕にはさっきまでの彼女への憤りはなくなっていて、むしろ惹きつけられる感覚を覚えた。
「(しーくんがさっき、痛いところをぎゅっとやってくれた。
あれ、よかった。もっとしてほしい)」
「(これ、か?)」
「(んくうっ!キくっ!──そう、これこれ!)」
彼女の二の腕の、包帯を巻いてあるところを再びつかんで力を籠めると。
彼女は目を閉じて歯を食いしばって苦痛に身を震わせ、顔を赤らめた。
僕はどこか、彼女のその表情に魅せられてしまい。
痛みを耐える彼女の姿から、目を離せなかった。
「(しーくん、大好き。しーくんと、ずっと一緒にいたい、──
──あー、そんな顔、しないでよ!
わかってるって、ごめんってば!)」
大好き、と言われたときの僕の顔にさした翳り、罪悪感に気づいたのだろう。
有明は、僕に続けてささやきかけてきた。
──しーくんには本当に好きな子が別にいる、って私、知ってる。お邪魔虫なんてしない。
名前、教えて?──ふうん、シドーさんとチョーフさんかー。
え、コクリョーさんってのもいるの?──いいよ、二股三股、ばっち来い、よ!
私、しーくんが好き。だけど別にその子たちにとって代わりたいとか、独占したいとか思わないし。
今、ここでしーくんと一緒にいられれば、それでいい。
しーくんに、いろいろされるのが好き。
いろいろって?いろいろだけど。
たとえば、──さっきみたいに私に、痛いこととかしてほしい。
アレを、無理やり飲ませてほしい。しーくんのは臭くなくてすごく美味しかった。もっと飲める。
私の髪をつかんで引きずったり、体を踏みつけたりとか。
唾を私に吐きつけたり。ひどいこと、言ったりしてほしい。
変?いいの。私、変態だから。
だからさ、割り切った関係、ワンナイトスタンドってやつ、しようよ。
しーくんは私の体を好きに使っていい。私、それを余すことなく楽しめる。黙ってれば、みんな幸せ。
今日が最初で最後でいいから。でも、もうちょっとだけいろいろ、したい。
僕は僕で、自分でもわかるくらい混乱していた。
もう、モラハラクズ男プレイは破綻してて無理。それは明らかで。
彼女が僕に執着するつもりがないというのは本気らしい、とも分かった(演技かもしれないけど)。
そして、ここで嫌だと言ったらかえって面倒なことになりそうなことも。──彼女が騒ぎたてたら、自爆に巻き込まれてしまう。
だから僕は彼女の誘惑に、頷いた。頷いてしまった。
いや、違うな。それだけじゃない。
もちろん面倒を避けたいってのもあったけど、それは後付けの口実みたいなもの。
本当は僕は彼女が苦痛を耐える姿に、どす黒い快感を覚えてしまっていた。──それが、僕の罪だ。
──────
頭じゃいけないってわかっているのに、止められない、悪い夢の中みたいなねじくれた快感。
彼女の要望に応える体裁で、「いろいろなこと」を彼女に対して行う僕はその快感を味わう。
「いろいろなこと」には、まあ普通の範囲の行為もある。たとえば。
「(んー、しーくんの匂い。重さ。最高)」
彼女が好きなことの一つは、僕に上にのしかかられて潰されること。
仰向けに寝た彼女の体の上に、僕がそのまま圧しかかるわけだ。
正直、重くてうざくて痛いんじゃないかと思うんだけど、彼女はこれをせがんだ。
「(もっと、もっとぎゅっとして)」
同じくらい、あるいはそれ以上に抱きしめてもらうのが彼女は好きで。
ふとんで抱きしめたり、お互いにいわゆる対面座位みたいな姿勢になって、抱きしめ合ったりした。適度を超えて、華奢な体がきしむかというくらい、息ができないくらいにきついハグが彼女の好み。正面からでなく、後ろから抱かれる姿勢も、彼女は好んだ。
抱いたすべすべした肌からは、湿布のメントールの匂い。
僕のアレは、性懲りもなくむくむくと起き上がり、彼女のお尻を押した。
──────
「(痛くして。そう、うぐっ、──あ、あんっ、キくっ)」
そんな普通の行為だけじゃなく、彼女に痛みを与えることを僕は求められた。
さっきみたいに彼女の体の随所にある打ち身をぎゅっと握ったり、指で圧迫したり、ってことや。
彼女のピンクの乳首や白い内股を、思い切り指で弾いたり。
こめかみを中指の関節を出した拳でぐりぐりと強く挟み、痛みを与えたり。
そうした一連の責めを彼女はなぜか大層気に入って、僕に何度もやらせた。
彼女の声が大きくなりかけて、僕はひやひやした。
彼女に懸念を伝えると、彼女は奥歯を噛みしめて声を押さえることを選んだ。
そして。
「ごめんね、しーくん。私を叱って?ほら、──」
そして、──役作りなのか、何なのか。
そう声を上げてしまった彼女を咎め、その紅い髪をつかんで乱暴に引きずる、みたいな。
そんな彼女に屈辱を与える行為や処罰を、彼女は熱望した。
横に寝た姿勢の彼女の内腿とか、片乳とかを踏んだり、とか。
謝罪の土下座をして、頭を床につけた姿勢の彼女の形のいい小さい頭を僕が踏む、といった妙なことも。
顔や腹を殴ってほしい、という要望は、さすがに僕は受けられなかった。
でも頬をふくらませる彼女への譲歩として僕が思いついたプロレス技は、狂喜された。
関節技みたいなマジな苦痛も悪くないと思ったみたいだが。
特に彼女が気に入って何度もアンコールしたのは
そして関節技でも、床に顔を押し付けられるような体勢でやるやつ。
苦痛以外のなにものでもないはずなのに、関節技を掛けられ、悲鳴を噛み殺している彼女の繊細な瞼を閉じた頬には、──演技かもしれないけど──本当に快感を得ているかのように、あかあかと血の色がのぼっていた。
そしてそうやって彼女の血行のよくなってピンクに染まってきた体をねじくりまわす僕のアレは、ぎつぎつに固くなっていた。
──────
「(そう、ちょっとだけだから。お願い!
手か紐で絞めて、ちょっとしたら緩めていいから)」
そして、明らかに危険なプレイもせがまれた。
おそらく、好奇心なんだと思う。
有明は、口ではいかにも海千山千、経験豊富で遊びつくしてきた、みたいに言ってるんだけど。
(そして事実、フ〇ラとパ◯ズリはもしかするとやったことがあるのかもしれない。)
でも本当に性的なことには、彼女はあまり慣れてない。
抱きしめて耳を軽く噛むだけで、ビクンビクンってすごい反応をみせる。
僕という都合のいい存在がいることで、いろいろやってみたかったことを試したくなってしまったのだろう。
彼女がせがんだ危険な行為ってのは、彼女の首を絞めること。
仰向けに寝た彼女の首の喉(気管)を、紐や手で締めてほしいらしい。
柔道で締め技をやったから僕も知ってるけど。
首の血管を止められるとスッと落ちるけど、気管をふさがれるとすごい苦しい。
ところが彼女はわざわざ苦しい気管絞めを希望した。
結局、断り切れなくて軽く絞めた。
苦しみ悶えながらも、彼女は僕を見つめたまま。
軽く充血した目から涙を流し、しかし笑みを浮かべてる。
やっぱりこの娘、頭のネジがいろいろ飛んでる。
──────
そうして、僕と彼女は古い四畳間で肌を合わせて絡みあい続けた。
どうしてだろう。いつしか僕も彼女の熱に引き込まれ、気がつくと夢中で彼女の体を貪っていた。
頭の冷静な部分が、麻痺してしまい。いつか華奢な彼女の体を捻じ曲げ、耐える彼女の表情を苦痛で歪ませることに愉悦感を覚えていた。
2時間ほども、経ったころだろうか。
ぎんぎんに勃ってしまって透明な汁を流していた僕のアレに。
彼女が気づいて、再びひざまずいて口に含み、抜いてくれて。
そしてその直後、ぽーん、ぽーんと下の部屋のどこかで柱時計が鳴るのを聞いて。
お互いに、ようやく冷静になった。
気がつくと、僕も彼女も汗まみれになっていた。
枕元にあった枕カバー代わりのタオルで、体を拭きあった。
黙って、見つめ合った。お互い、何を言えばいいかわからなかったんだと思う。
「(なあ、有明──)」
「(もう何も言わなくていいよ。ありがとう。
私、すごく楽しかった!でも、バレるといけないから、今日だけ、だね。
ほら、しーくんの彼女さんたちにもだけど。私も、葉良先生たちにバレると超ヤバい。
だからこれで、終わり。連絡も、もうしなくて大丈夫)」
僕は正直、──彼女になんか引け目というか、罪悪感を覚えていた。
最初こそ、こっちが無理やりに妙なプレイに引き込まれた気がしていたけど。
これだけいろいろと彼女の体をいじくりまわし、舐めまわし、いろいろどこか変態的な快楽を味わった後で。
じゃあさよなら、でいいのか?って。
──それに正直、彼女は地雷系だとは思うけど客観的には魅力的。紫藤みたいな神秘的な美しさとはまた違うけど、外見は映像映りのいいすっきりした目鼻立ちで、あざとく可愛い。幼いけど起伏もある体もそそる。
「(いいのか、有明)」
「(ん、良いってことよ?
気が向いたらポケ番に、──あー、もう大丈夫。バレるとヤバいし、私も番号変えるし)」
あ、まてよ。鷺沼記者さんから頼まれてた、取材の話、──
「(取材?あれ、そんな話あった?あー、あったかしら。
ごめん!断っといて。ごめんね、振り回しちゃって。
新聞記者さん、って言った?じゃあこれ、もしかすると面白いかも。お土産になるかな。──私にはもういらない、無理だから──
ただ、私がこの
彼女はどうも、僕が記者さんと調整中の取材などの話とかも忘れてしまってたらしい*1。
ちなみにこれ、僕も悪い。鷺沼記者さんからはあれからすぐ話が聞きたい、って連絡が入ってたんだけど、彼女に伝えるのを忘れてしまってたんだ。
取材をしたい人が、新聞記者さんだと知ると。
新聞記事の特ダネになるかも、お土産にどう?好きに使って、とか笑いながら。
彼女は僕に、使い捨てカメラを渡した。スキャンダルになりそうな葉良先生のご乱行の場面が激写されたりしてるのかな。
ありがたく受け取る。できるだけ早く、現像しよう。
「それと。しーくんの言ってた、あの角の生えた猿。
『つのざる』、っていうの。うちに来てる、お手伝いのおばあさんに聞いた」
あー、それもあったな。もとはと言えば、その角猿のことを彼女にポケベルで伝えたんだった。
「あれから見てない。それに悪い猿だけど竜神様にお参りすればいいって、そのおばあさんがいってた!*2
それと、思い出したの、あの角猿の角、たぶん動かせる。ナナフシの脚みたいだった」
竜神が角猿の天敵らしいということは、別口で既に僕が知ってた情報だが*3、あらためて確認がとれた。
これ、竜神の娘に話を聞いてみたら、なにか分かるのか──?
──────
服(有明はチェック柄のパジャマ)を着た僕たちは、きしむ階段を慎重に降りる。
見送らなくていいって言ったけど、彼女も下まで見送りに降りてくれた。
台所の常夜灯の橙色の光を横顔に受けながら、見つめ合う。
「有明、──本当に、自分の意志でここに残るのか?
イヤなら、言ってくれ。なんとでもする」
なにも具体策は考えつかないが、きっと調布なら見捨てない。僕は彼女の目をみつめる。
しかし彼女は、苦笑しながら手を振った。
「私、大丈夫だから!本当よ。今度会う頃にはすごい売れっ子女優になってるかもね?
じゃあね、──またいつか。東京ででも、会えたらいいな」
「ああ、──」
──キスしたい。
この赤い髪の勝気なメンヘラ女のことが、急に惜しく思えた。もう完全に、調布たちに言い訳できない浮気にほかならないけど。
衝動的に彼女の頭を抱き寄せたが、唇にキスしようとしたら指を一本挟まれて拒まれた。
「もー、口はだめ!頬なら、ギリセーフ。だから私もしーくんの頬に。ちゅっ。
忘れないでね、これ、二人の秘密。彼女さんたちに、バレないように!
じゃあね、しーくん、──今まで、ありがとう。そして、さよなら──しーくん」
「ああ、有明。──元気で」
そして僕は彼女と別れ、葉良邸を辞した。
──────
夜の空気。甘くて、冷たかった。
ほうほう、というフクロウの鳴き声が遠くで聞こえる。
ざくざく、と落ち葉を踏み分けながら、僕は斜面を下っていく。
もう、真夜中。2時すぎくらいだろう。あの庭師の老人の姿も、もうない。
これでよかったんだろうか。
どこか、何かが間違っている気がする。
今ここで引き返せば、間に合う?
いや、たしかに僕は間違ったことをした。浮気、裏切りだ。
小心者の僕、いつか二人の機嫌のいいときを見計らって紫藤と調布に浮気を告白して謝罪しよう、と思った。
もう調布に顔が陥没するくらい殴られても、いいや。良心の苛責に耐えられない。殴られるだけのことを僕はした。
その観点からすれば、ここで引き返したりすることは大きな間違いだ。このまま帰るのが正しい。
ただ、それとは別の心残りがある。
あのまま、あいつを残してきてしまって本当に良かったのか?
あいつには地雷めいたところがあるから、後くされなく縁切りできるなら良いってことになりそうなんだけど。
今、すぐに引き返さなきゃいけないんじゃないか、っていう後ろ髪を引かれる思い。
ただ、さすがに僕も疲れてた。体を浸す、心地よい疲労感。
あの調布との危ないプレイでも、快感を味わいつくしたうえに。
赤頭メンヘラ女の有明りなとも、行きがかり上とはいいつつ、ねじくれた快楽に存分に浸った。
心残りはあるけど、射精しつくして虚脱した気分もある。ふとんに入れば、1秒もせずに寝られそう。
僕は、道を急いだ。
──────
──────
(有明りな視点)
去っていく彼の後ろ姿を、灯りを消し、細めに開けた勝手口から見送る。
♪夕陽に伸びる校舎と 並木の影のなーかでー
遠くはなれていく あなたの背中~
ふと思い出したジュブナイル向けドラマか何かのテーマ曲。
たしか、彼女も
もう彼女が中学校に上がってからの出演作だったと思う。
たいして名作というわけでもなかったが、曲は悪くなかった。ありそうなメロディではあったけど。
♪本当に あなたが 好きなわけ じゃなーい
あれは夏の日の陽炎、鍍金された愛~
上弦からやや月齢がすぎた月は、すでに地平線に沈んでいる。
星明りと街の照り返しでわずかにしかみえない彼の背中は、やがて木々の間に入って見えなくなる。
別れたくは、なかった。
(でももう、終わりにしなきゃ。
もうしーくんに、迷惑かけるわけにもいかないし)
これは、一夜かぎりのおとぎ話。
そう、彼女は自分に言い聞かせて、扉を閉める。
かちん、と鍵のサムターンを回して閉めたとき、引き返せない何かの岐路を進んでしまった気がした。
あれだけ若社長やら葉良先生やらのクズどもに痛めつけられた、彼女だが。
あの憧れの彼との性的な接触が、最後のなけなしの体力を燃え立たせてくれたのだろうか。
不思議なくらい、今は体が軽い。強い眠気はあるが、体の芯が熱い。体調良好、と言っていいくらい。
いつも難渋する、きしむ階段も軽々と登り切れる。
──ただ、不思議に。
心臓が鋭利な刃物で切り裂かれるように、苦しかった。
四畳半の畳部屋。月はいつしか沈み、窓からの星明かりと街の灯の照り返しに半分照らされたふとんには、彼の体臭がまだわずかに残っている。
伏して、顔をふとんに埋めて胸いっぱいに息を吸い込んだ。
さっきまでの陶酔感が、泣きたいくらいの喪失感で上書きされる。
(最後なのに、変にイイコちゃんでカッコつけちゃった。
泣いて土下座してでも、セ○クスしてもらえばよかった。
もう、しーくんもしーくんだ。唇へのキス、無理やりしてくれてもよかったじゃない、──)
──でも、好き。
つぶやきかけ。急に胸からこみあげるものがあった。
しーくん、と言おうとした声がつまり、裏返ってしまう。
そんなことは、ドラマで泣きシーンを何百と撮られてきた彼女にも初めての経験。
一瞬パニックになりかけて、そして気づく。
──そうだ、──これが、これが失恋なんだ。
そのまま、必死に声を押し殺し。
短くも波乱万丈な人生で初めて覚えた胸の痛みに、彼女はむせび泣いた。
──────
うつ伏せのまま、その愛らしい顔をぐしゃぐしゃに歪め。
彼の残り香がわずかに残る布団に顔を当て、とめどなく流れる涙で濡らしながら。
ひとしきり泣いて疲れ果てた彼女は、いつか夢のない穏やかな眠りに落ちていく。
窓の外には、わずかに夜の風にそよぐ木々の梢。
月のない空を周り続ける、数百光年を離れた星々たちだけが、褥に伏す彼女を見守り続けていた。