※この作品はR-18です。

タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。   作:Marchhatter

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 遅くなってしまいました。
 志野視点→第三者視点です。
 ごくわずかながら不適切な(性的でない)描写があります。


310 鍍金された愛(9)(志・吉)そろばん☆?

(志野視点、日曜日午後、炎天下の国道沿い)

 

 俗に「据え膳食わぬは」なんていうことわざがあるように。

 女の子から()()()()()()()があったら決して断っちゃいけない、と僕は聞いたことがある。

 (ただね、僕の高校時代より前の常識で、僕が死んだ頃には常識じゃなくなってしまってたと思う。)

 

 だから僕は、そういう爆弾発言をなんの臆面もなく投げ込んできた彼女の顔をまじまじと見つめながら。

 この状況下で僕に求められる選択肢を、頭の中で検討していた。

 

①「ひひひ、じゃあそこの藪の中ででも。もちろん全部脱ぐんだぞ、わかってるだろうな、──」

 

②「大丈夫だよ、そんなことしなくても。自分をもっと大事にしなよ。かわいい女の子を助けるのは男の本望さ、見返りなんか求めてないさ」

 

 まず、大きく分けて選択肢はこの2つだよね。申し出を受けるか、辞退するか。

 

 ①の危険性は、言うまでもない。

 調布に知られたら僕は骨を砕かれて血反吐を吐くだけの皮袋になってしまうだろう。

 メリットとしては、明らかに胸の大きい、魅力的な体を楽しめそうってことだけど。

 でもさ、ほら僕には調布もいるし。それに日時場所も、あまり適切じゃない。

 開放的な外気の中で、いろいろするというアイデアには確かに惹かれるものがあるが。

 人に見られやすいし、蚊に刺されるっていう無視できないデメリットもあるよね。

 だからさ、さすがにこの選択肢は選ばない。

 

 ②の選択肢が有力候補になるのだが、──ただ、これもちょっと問題なくないか?

 この選択肢なら調布リスクは大きくないし、彼女、中河原桜さんの好意を稼げるかもしれない。

 でも僕には紫藤と調布がいるし、いまさら中河原さんの好意を稼いでもって気がしないでもない。

 それに、──ほらあれだよ。ごはん一緒に食べた後で女の子が財布を出そうとしたとき、男にかかる、自分が払わねばならぬという妙なプレッシャー。

 「じゃあお会計しましょうか」「いいんですよ、ここは僕が」「あー、やさしー!ありがとー!」みたいなやりとりね。

 あれ、女の子の中にはあきらかに誘い受けっていうか、男が払うことを見込んでて心にもないのに「払いますよー」なんて言ってる子もいるわけだ。

 もちろん目の前の困ったように笑みを浮かべて目をさまよわせてる中河原さんは、そういう子ではないと思うけど(どっちかというと正反対のタイプだと思う)、なんかちょっとモヤる。

 だってさ、やっぱり適正な対価って大事。僕だって、貴重な半日を使ったわけだし。

 無償サービスと低価格ばっかり求めて日本経済はこれから低迷するんだ。デフレを阻止せねば。

 

 僕は、しばらく中河原さんのジャージをぴんと張らせている胸のふくらみをみつめ。

 地味に装ってるけどなかなかに整っている、おそらく暑さですこし赤らみを帯びた白皙の顔を眺め。

 そしてちょっと反らしてるのがデフォルトなのか、強調されてみえる彼女の腰つきに視線を移し。

 慎重に検討して、口を開いた。

 

「中河原さん。ここはちょっと暑いし虫も多いし。それに今は疲れてるよね。

 また後で、中河原さんとゆっくりお話ししたいな。──邪魔の入らないところで」

 

 そう僕が選択したのは第三の選択肢、つまり③保留・延期。

 ①も②も極端なんだ。中間があっていい。

 これこそ、紳士的でありながら柔軟に事態の変化に対応できる、究極の選択。

 え?時間稼ぎじゃないか、「後で」のときになったら、どうするんだ、って?

 

 ──ギトギトの①にするつもりはないけど、かといって②はどうかなー。

 僕の考えでは。

 彼女は、一度お灸をすえられるべきだと思うんだ。

 そして僕は彼女とお話したい。もっといえばお説教したい。

 学校とかがいいかなー、彼女を机に座らせて、懇々と。

 今までの彼女の非常識さを指摘し、常識を説いて教え導く。

 ちょっと彼女に不安を与えるけど、単にお説教されて正道に導かれるだけ。

 それくらいが、いいんじゃないかな。

 

「──はい」

 

 目がぐるぐるしてる(もともとアドリブの効くタイプじゃない)彼女はあいまいな笑みを浮かべて、従順にうなずいた。

 

「──ほら。今日のことも含めて、いろいろお互い交換しないと」

 

 それに、話をしないといけない、ってのは本当だ。

 角猿という存在についてはもっと知る必要がある。あの場所も、監視できるようにした方がいいかもしれない。

 あとは、占い師のこととかも。

 

「そうですね。じゃあ、明日とか?」

 

「僕、明日は無理なんだ。明後日以降なら。あー、仮置きで明後日にしようか?」

 

「はい、大丈夫です。朝ですよね」

 

 そして僕は、彼女と次回の約束をした。

 その後、彼女に家の近くの安全なところまで同行し、そこで僕たちは別れた。

 

 ふう、うまくやりすごした。僕はそう思った。

 さて、ちょっとだけ時間がある。せっかくここまで来たんだから、ナギさんとこに行って様子見てこよう。

 健康診断の結果も、出ただろうし。

 

 僕はちょっと浮かれてた。──いや、やっぱりナギさん、いうに言われぬ色気があるっていうか、さ。

 もちろん、それが目的じゃない。あくまで、様子見るだけ。でも、もしかすると。

 

 ──中河原さんに言った自分の発言を、痛恨の思いで思い出すことがあろうとは。

 そのときの、頭ピンク色になってた僕には知る由もなかったのだった。

 

 ──────

 ──────

(第三者(篠崎瑞)視点、樋木崎山中の山荘、夜)

 

「それで。

 お前、ここから脱出できると思ってんのかよ。どうやってだよ」

 

「それを一緒に、考えましょう。

 あまり時間が、ないかもしれません」

 

 夜。

 謎の山荘に閉じ込められている彼女、篠崎瑞は。

 相方、同じ房に閉じ込められている吉祥寺美鷹という美少女に苛立った視線を向けた。

 

 この女は、どうにも気に食わない。

 すました顔は、まさしく絶世の美少女。

 まあ篠崎瑞も不細工ではないしそこそこ見られる顔のつもりではあるが、この気取り女とは比べものにならない。一緒にいると、公開処刑されてる気分。

 そのうえこの女、彼女たちを捕えた者らとも如才なくわたりあい、おぞましい所業を見せられても動揺しない。

 一度などはこの女へのモヤモヤを晴らすべく殴りかかろうとしてみたのだが、微妙に機先を制され、逸らされてしまっている。

 

「──私はもうここに来て、半年近く経つけどな」

 

「今のままの暮らしが、居心地良いですか?」

 

「良い訳ねえだろ。そんなこと言ってんじゃねえ」

 

 どちらかというと放置気味だった瑞だが、その当時の彼女への扱いが良かったというわけでは、決してない。 

 一人だけ牢につながれたままの1日は、ひどく長く退屈で苦しいし、時に側用人が外出してるときなどは飯が忘れられて出なかったりした。

 今はそんなこともなく、気に食わない、お高くとまったすまし女であるとはいえ、相方がいることで気が休まる。

 ただ、それでもここでの生活は耐え難い。

 

 看守たちの所業は、こつこつと彼女を痛めつけている。

 特に近知郎は、彼女への嗜虐的な興味を隠そうとしない。事あらば彼女を責め殺すことを考えて口にする。

 単なるいやがらせや冗談でない。この前見せられた人体破壊博覧会みたいな地下の区画を訪れて、この屋敷の住人たちが悪鬼のような奴らだと瑞はあらためて認識した。

 そして、こんな宙ぶらりんの生活が続くわけがない。いつか瑞も、あの人体破壊コレクションに加えられる日が来る。この、美少女も。

 かといって。

 

「どうやって逃げんだよ。っていうか、こんなん話してていいのか?あいつらに聞かれてねえ保障、ねえぞ」

 

「大丈夫です。そこの天井裏が隠し通路になっているようですが、それ以外に盗聴機器のたぐいはありません。」

 

 どうしてわかるんだよ、という言葉を瑞は飲み込んだ。

 腹は立つが、こいつの言うことは多分正しいのだろう。

 不気味なほどの勘の冴えを、この美少女はこれまで示していた。

 

「考えつく経路は、いくつかあります」

 

「──聞かせろよ」

 

「まず、だめなものから。

 そのトイレ。これは、管の口径が狭すぎます」

 

「馬鹿にしてんのかテメェ。ダメに決まってるだろ」

 

 そうですね、という相手の顔は全く気を悪くした様子を見せない。

 こいつには悪口や凄みが通用しねえんだよな、と瑞は内心苦々しく思った。

 

「そこで、現実的な逃走経路。3つあるうちの、その1。

 天井の秘密通路。これは、実は有望です」

 

「──ちょっと狭すぎんじゃ、ねえのか?」

 

 あの謎の手紙が落ちてきた通風孔。その秘密経路につながっているのだろう。

 謎の手紙を送ってきてくれたペンフレンドは、彼女らに協力してくれそうだが──

 

「通風孔は、小さいですね。しかも鉄格子でふさいである。

 また天井自体も補強してあって、破壊するにもかなり力がいるようです」

 

 ──だからなんでわかんだよ、という言葉を瑞は飲み込んだ。

 

「無理じゃねえかよ」

 

「ただ、絶対に通れないほどでもない。鉄格子も、比較的華奢です。そうじゃないですか?」

 

 瑞は通風孔に目を転じる。

 すごいダイエットすれば、──だがちょっとそれ自体不自然だろう。

 

「せっけんか油を入手する。丹念に肌に塗る。肩さえ通れば、何とかなります」

 

 ──服全部脱ぐのかよ。

 いや、通れるは通れるかもしれないけどよ、後どうすんだ、──

 

「──まあいい。2つ目はなんだ」

 

 いろいろツッコミたい思いもあるが。

 瑞は、先を促した。まず、全部聞いてみよう。

 

「この廊下です。鉄格子を破壊します」

 

「できるわけねえだろ。おめえの蚊トンボみたいな腕でよ」

 

 がっちりとした鉄格子が、廊下との間に張ってある。

 大人の男の力でも、破壊できないだろう。

 ましてこの美少女は均整もとれてて運動神経こそ良さげだが、とても鉄格子を折ったりはできまい。

 

「普通は、無理ですね。

 だからあの、()()()()からもらった(やすり)で傷をつけて。

 塩分を含んだ水──塩水ですね──を、毎日沁み込ませています」

 

「ん?塩水?」

 

 塩分だと?どこから?

 

「ええ。食事のスープ。汗。そして──排泄物」

 

「しょんべんかよっ!」

 

「ちなみに私の鎖にも、同じ細工を施しています」

 

 そうか。こいつがこそこそしてたのは、そういうことか!なんてことしやがるんだ。

 瑞はあらためてこの女、顔と中身が違うじゃねえか、と思った。

 

 アルスラ○ン戦記を参考にしました、と言っているすました表情の美少女を、瑞はにらみつける。

 美少女は、首をすこし傾けて不思議そうに見返す。──男はきっとかわいいと思うんだろうな。このぶりっこ女を。

 

「──私の鎖にも、そうしろ。

 あと、手は洗ってんだろうな?」

 

「紙を浸して使ってますよ。手も、貴重な水を使って洗っています」

 

「けっ」

 

 牢の中には便器はあっても手洗いがない。

 水差しに入れた水を使うしかない。水差しは飲み水用、手洗い用とある。

 美少女は、清潔に保つのは大事ですからね、と瑞の大叔母さんみたいなことを言っている。

 あの人どうしてるかな、子供のころ会うとお年玉くれたけど、と彼女は思い出す。

 

「最後の3つ目。私たちが牢の外に出されたときに、すきをみて逃げます」

 

「近知郎や剣波をどうするんだ」

 

「瑞さん、勝てませんか?

 正直、現実的にはこれしかないと思っているのですが」

 

「──あいつらは強えぞ。普通に正面からなら、無理だ。ましててめえみたいな足手まといがいちゃ、な」

 

「この牢獄自体が出にくいのです。そこから出ることができる機会を、生かさねばなりません。

 一人が囮になり、時間を稼ぐ。

 もう一人が外に逃げ、助けを呼ぶ。──いかがですか?」

 

「鉄条網で囲まれてるし、街までは遠い。あいつら、バイクも持ってやがる」

 

 瑞の顔が、ますます苦々しくなる。

 そもそも彼女が、この館での彼らの悪魔のごとき所業を知ったのは。 

 彼ら護衛達が、逃げ出した囚人を犬で追っているのを目撃したのが発端だ。

 カウボーイハットをかぶってオフロードバイクで追跡して囚人を投げ縄でからめとり、地面を引きずって戻ってきた剣波の姿を、彼女は覚えている。

 手足をからめとられたままバイクで引きずられた男の顔の皮が、ずる剥けになっていた。そのうえ、近知郎がやすりのような道具で──

 

「そうですか。厄介ですね」

 

 雲が出て日が翳ったのか、ふわっ、と冷たい空気が流れる。

 夏の蝉の声も、わずかに低まった。

 

「おい、それより「すみません、ここまでです。あと数分であの人たちが来ます」 ──なんでわかんだよ」

 

 瑞の疑問に答えずに美少女は黙り込み、そして瑞も半信半疑ながらそれに倣う。

 そして数分後、確かに彼女たちの房に彼らがやってきた。今回は、近知郎と剣波だ。

 

「およっ、乳繰り合ってんじゃねえのか。期待して損したぜ」

 

 憎々しい口を叩く、近知郎。

 ぎらぎらとした目を美少女に向ける彼の服の前が持ち上がっているのを、瑞は認めた。

 ただ、彼は美鷹に手を出すのを禁止されているらしく、彼女の護送担当は剣波だ。

 

「ほらよ、そっちのブス子もとっとと来い、腕を出せ。そうだ」

 

 近知郎は瑞に目を転じて、鉄格子越しに手首を出させる。

 鉄格子を手首が越した状態で手錠をかけて動きを一度封じ、足枷を外すなどの外に出す準備をするのだ。

 

「ひひ。ここの肉、切り取ったら喰ってやるぜ」

 

 ふくらはぎを、つうっ、と撫でられて、背筋がよだった。

 背後にしゃがみこんで足枷をはずし終ったのに動かない近知郎が気になり、振り向いてみると。

 彼はこちらを、正確にいえば丈の短い布2枚だけの下衣のすそからみえる彼女の腿や内股を、またたきもせず覗き上げていた。

 彼の、ガラスのような目に宿る悪意に。

 彼女自身も、この悪魔のような男の関心から逃れることはできていない、と瑞は悟った。

 

 ──────

 

 吉祥寺美鷹が牢仲間に加わってから、瑞の生活は変わってきている。

 いままでは、食事の提供以外誰もやってこないくらいに放置気味だったのが。

 美鷹が来た以降は、かならず美鷹とセットで豪華な食事に呼び出される。

 

 そしてときには運動か余興ということなのだろうか、拳法の達人である美青年と組み手をさせられたりする。

 初対面のときは、瑞は叩きのめされ、しかも非常な屈辱を舐めさせられたのだが。

 実のところ、彼は普通のときは(悪意を感じるときもあるが)そこそこ丁寧な態度であり。

 組み手のときも一方的に叩きのめされるわけではなく、彼女の良いところを引き出すように、また悪いところを気づかせるように相手をしてくれる。

 正直、彼女より強い彼に稽古をつけてもらっている状態であり。

 自分に恥をかかせた、この美青年を憎んではいることには間違いないのだが。

 稽古の相手をしてくれることについて、この美青年にわずかな感謝の念を抱いていたりもする。

 

 他方で美鷹は、あのベールで顔を隠した謎の大きな男に気に入られたようだ。

 もっともそれが必ずしも、彼女、そして瑞にとって幸せというわけではない。

 なにしろ。

 

「ほう、お嬢さんはもう我慢ができなくなったのかな?」

 

「──はい。放してください」

 

「まだ、全然重くしていないのにな」

 

 大きな男は、美鷹をさまざまに嬲ることを好んでいるからだ。

 どうやら美鷹が洞察したように一定の制約があるらしく、決して永続的な傷を負わせたり、その貞操を脅かしたりすることはしない。

 だが、拷問具につながれて責め抜かれる美鷹(と、ときどきはお付き合いでセットで責められる瑞)の苦痛が、和らぐわけではない。

 

 今日も、美鷹と瑞を呼び出し、美味な食事を共にしたあと。

 大男は美鷹を江戸時代の「そろばん責め」のような器具で拷問することにしたらしい。

 瑞自身も、この美少女と同様に責苦を受けることもあるが、今日は近くの椅子に縛りつけられ、美鷹への拷問を見学することになった。

 

 太めの木の柱(この柱は、汎用的に使えるらしい)にぎざぎざの、洗濯板のような△の形の木の歯のついた板がセットされ。

 その上に正座させられた美鷹は、後ろ手に縛られ、首にも縄を巻かれて木の柱に結わえ付けられる。

 ほどよく膨らんだ胸を強調するように、合わせの浴衣のような囚人衣の上から縄が乳房をくくりだすように掛けられ、ぎゅっと肌に食い入る。

 

「ほら、どういう気持ちかな?何を考えている?」

 

「もし、──」

 

「ん?」

 

「──もし、私の好きな殿方が私を縛ってくださるのでしたら、楽しめたのにな、と思っていました」

 

「ほう。俺や近知郎や剣波では、いかんのか」

 

「はい。貴方様など、絶対イヤです」

 

「はは、振られてしまったな。

 ──その好きな相手とやらのことを、聞いていいか?」

 

「言いません。言っても、仕方のないことではないでしょうか」

 

 減らず口。痛みに苛まれているはずの美少女は、しかし大男との間に軽妙な会話を交わす。

 ときに、その美しい顔に笑みまで浮かべながら。

 

「なに、力づくでその口をこじあけて、白状させてやる。

 侍女、板と重りを持ってこい。そうだ、そっちだ」

 

 美少女の座らされた、△の形の歯の並んだ板。

 その両側には、2本の丸太が固定できるようになっている。

 その2本の棒は、囚人に脚を広げさせて縛りつけて固定する、という用途で設けられたものだが。

 いわばレール、ガイドとしての機能もあるらしい。

 

 この装置は、二通りの方法で囚人の脚に荷重をかけ、痛めつけることができるようになっているようだ。

 

 一つ目は、いわゆる「石抱き」や「そろばん責め」と同じ方法だ。膝の上に重りを乗せていく。

 伝統的な、江戸時代に行われていたこれらの拷問方法では、囚人の膝の上に重りの石板が置かれていく。

 ただ、石板など入手しにくいし、また板が崩れたりしないように。

 美鷹が縛りつけられているこの現代化された装置では、板は1枚、頑丈な木の板を囚人の膝に置くようになっていて。

 その木の板は、重りを乗せられるような構造になっている。

 この木の板自体がずれたりしないように、板には2本の丸太棒の位置にあわせた開口部のきれこみがあり、板がはずれないようになっている。

 そして木の板の、囚人の腿に当たる側にも凶悪な刻み目がつけてあり、上側からも囚人の脚に苦痛を与える仕掛けとなっている。

 囚人の腿に当たらない板の上面側には、ダンベルの重りを嵌めていけるように「ハノイの塔」のような杭を付けられるようになっている。

 

 二つ目の加重方法は、圧搾機と同様の機構によるもの。

 江戸時代では、「搾木(しめき)」と呼ばれていたという。

 ネジとハンドルとで脚を圧し潰すように締め上げていく方式だ。

 この美鷹が乗せられているギザギザの板や腿の上の板に付けるための装置であろうものが、落ち着きない様子の侍女の側に置かれている。

 

 今回、美鷹を痛めつけるのに大男が選んだのは、一つ目の方法、膝の上の木の板に重りを乗せていく方式だ。

 現在、正座した姿勢で縛られた美鷹の腿の上には、ギザギザのついた木の板が置かれているが、重りはまだ置かれていない。

 大男は歩み寄って、その美鷹の膝の上の木の板に片足を乗せ、ぐっと踏み込んだ。

 

「──っ!」

 

 美少女が身を襲った苦痛に体を折ろうとして、首の縄に妨げられて果たせず。

 唇を噛んだのが、傍の椅子に縛り付けられて強制的に見学させられている瑞にはわかった。

 

 ゆさ、ゆさ、と男は体重を掛け、ついにはほぼ、完全に上がり。

 緩急をつけて膝を使い、美少女を責めた。

 声は、洩らさない。しかし、のけぞった彼女の体のわななきが、その感じる苦痛を瑞にも想像させた。

 

「どうだ、どうだ?痛いか?」

 

「──」

 

 男の呼びかけに、美少女は答えない。

 

「太りすぎと言われたのでな、こうやって運動して体重を落とそうといているのだ」

 

「──たいして効果がないと思います。もっと激しい運動が宜しいのでは、と」

 

「ここで激しく、ジャンプしてみるか。おらっ」

 

「それもさほど、──ぐっ!

 はっ、はぁ、はぁ、──」

 

 大男は美鷹の膝の上の板から軽く跳ぶようにして、床に降り。

 彼女の顎に手をかけ、その顔をむりやり上げさせて、繊細な長めの睫毛にふちどられた目を覗き込んだ。

 美鷹は、ちょっと眉をしかめながらも至近距離にある男の顔を見返した。

 

「相手の、男の名は」

 

「さて、──忘れてしまいました」

 

「言え。気になるだろう」

 

「小父様も思ったより、美男子なんですね。モテると思いますので、私のことはお気になさらず」

 

「──まいら、重りをよこせ。そうだ、20kgを2枚」

 

 直径40cmを超えるバーベル用のプレートを侍女に命じて運ばせ、男はそれを美鷹の膝の上の板に固定した。

 重りを固定する場所は左右2か所あり、それぞれに20kgのプレートが嵌められた。

 美鷹の膝の上には現在、40kgの荷重がかかっている。

 

「どうかな、気持ちがいいかな」

 

「──とてもいいとは、いえません。最低です」

 

「ほう。最低というのは、最も低いという意味だったな。

 最低の記録を、更新してみようか」

 

「辞退します」

 

「そう言うな。まいら、あと2枚、こんどは10kg」

 

 膝に、追加の重りを乗せたとき。

 美少女のいつも軽く笑んでいるように軽く上がっている唇のラインが、崩れた。

 美少女は俯き、白い歯が唇を噛み。すこし眠たげだった目も、ぎゅっと固くつぶられた。

 

「ほら、揺らすとどうかな」

 

「うっ!」

 

 痛みに、ついに美少女の口から声が漏れた。

 悲鳴ですら澄んだ声なのかよ、と瑞は面白くない思いを感じた。

 

「いい声だ。──まいら、それでは5kgを」

 

 すこしずつすこしずつ、足されていく重量。苦痛にあえぐ美少女。

 その表情の移り変わりを大男は、愉しげに見守っていた。

 

 ──────

 

「おい、お前。あいつらは私たちにケガさせない、って話じゃなかったのかよ」

 

「──ちょっと私が、甘かったようです」

 

 美少女はそこから1時間ほども、重りを抱かされ、時に失神しかけて水を掛けられ、ねちねちと責められ。

 ようやく解放されたものの、責め抜かれた脚では、もはや歩くことはもちろん立ち上がることすらできず。

 結局、剣波が米袋のようにかつぎあげて運び戻すことになった。

 足には、見るもおそろしい三角形の木(そろばん板)の歯の痕が赤く残っている。

 

「治るのに、数日かかるかもしれません。

 逆説的にいえば、それくらいに回復する程度の責めは受ける。回復までは安全、ということですね」

 

「何があるんだよ。別にベストコンディションの私たちを殺さないといけない、ってわけでもないだろう」

 

「そうでしょうか。

 おそらく()()()()には、私たちは完全な状態に整えられるのではないかと思います。

 神への供物は、無垢でなくてはなりませんから」

 

「神へのクモツ?」

 

「供物、生贄ですね。

 ──あの、地下にいたお坊様」

 

 美鷹の声に、珍しくもわずかに嫌悪感がにじみ出た。

 

「あの人殺しのお坊様は、おそらく私たちを贄にしようとしているそうです」

 

 どこでそんなの、聞きかじったんだよ。

 そういう思いもあったが、その言葉に潜んでいる圧倒的な真実に。

 瑞は、思わず気圧されたように黙り込んでしまったのだった。

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