タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
○遅くなりました。主人公視点です。
(志野視点、日蔭谷、日曜日午後)
「うふ、うふふふ、しの!しの!かたぐる、かたぐる!」
僕はスイカップ中河原さんと別れた後、日蔭谷のナギさんとマコトさんたちのようすをみよう、と思い立ち。
自転車を走らせて、日蔭谷のナギさんたちの家を訪れていた。
自転車を押して道路の路面より高い敷地にあがってきた僕をみて、やや四角いオニギリ型の顔の子供が顔をほころばせ、手を頭上でばちばちとごきげんにたたきあわせながらやってきた。
なにが楽しいのか、僕をみてきゃはきゃはと喜んでいる。最初会ったときは人見知りされて疑念にみちた目を向けられたが、なんというか慣れて調子のると遠慮なくなるタイプ。
これは、たっくん。この家に住んでる、ナギさんの子供だ。たぶん3歳くらい。
前みたときより、肉がついて年相応に近くなった感じを受ける(すこし小柄なんだ)。ランニングを着ているが、けっこうこんがり焼けてきてる。
この彼の屈託のない歓迎の声からみて、ナギさんもマコトさんもうまくやってるみたいだな、と僕は胸をなでおろす。
「えーと、こんにちは。お母さんかマコトさん、いる?」
「まことおじちゃん!あっち!」
自転車を停めた僕を先導するように、となりの靴工場の方に向かって歩き。
ときどき振り向いては、僕が付いてくるのをたしかめるたっくん。
日が山の影に入りかけてて、直射日光はないもののまだ暑い。
「あー、シノ君。よくきたねー」
「ご無沙汰しててすみません」
麦わら帽子をかぶったマコトさんがいた。草刈りをしてたみたいだ。
健康的に日焼けしてて、いつものように気の良さそうな笑顔。元気そうだ。
僕は間が空いてしまったことをわびつつ、生活費とか来る途中で買ったお米に言及する。
「あー、ありがとう!そういえば、そろそろお米買おうか、って思ってたんだよ。
よかったら、上がって。麦茶も冷えてるよ。一部屋、エアコン入れてる」
マコトさんも、仕事の切り上げどきだったみたいだ。刈り払った草を片寄せてる。
ぴょこぴょことびはねるたっくんの手を片側からマコトさん、片側から僕がとって母屋に戻る。せーの、でわずかに宙に浮かせてあげると、たっくんが足を空中歩行のようにバタつかせて喜ぶ。ビーチサンダルが飛ぶのはお約束。
引き戸を開けて中に入る。玄関先の
居間は、クーラーが効いてる。
手を洗ったたっくんが、マコトさんから注いでもらった小さなアニメキャラのプラスチックのコップで麦茶をおいしそうに飲んだ。すこしだけ、口の端からこぼれる。
僕もちょっと昔風の大きめのグラスに2リットル入りのピッチャーから麦茶を注いでもらい、ごくごくと飲んだ。
「あっちの靴工場の周りの草、刈らないと蚊がひどくてねー」
マコトさんは微妙に大人の人としては口下手だけど、話し好き。
(というより、単に退屈してるのかもしれない。まあそうだよね、基本、飯場の人に見つけられたりしないように隠棲して子供の相手してないといけないし。)
「そうだったんですか」
「うん、もうあらかた刈ってね、今は2周目なんだよ」
「ほうほう」
健康診断(人間ドックだね)は、いい気分転換になったそうだ。ここ1週間は裏庭を菜園化したり靴工場まわりをきれいにしたりする意外は、特になにもなかった、とも。
そうだ、裏の水道に西瓜も冷やしてあるんだ、とマコトさんは言って取りに行く。
そこまでしてくれなくていいんだけどなー、と僕は思いつつ。
興奮するたっくんを背中に乗せたり、かたぐるまして欄間のかざりをたっくんに見せたりして相手をつとめる。
「お待たせ」
昔の家にありがちだったよなー、というタイプの大きな平皿に切られて盛られた西瓜。
きゃはっ、とさっそくたっくんが一つとって、胸元を濡らしながら食べ始める。
僕ももらって食べはじめる。あんまり冷えてないけど、甘い。
その話が出てきたのは、ひととおり現況を交換してからだった。
「そうだ、志野君さ、──バイクって詳しかったりする?」
「詳しいというわけじゃないですが、あるんですか?」
「あ、いや、使っていいかわからないんだけどね」
マコトさんが言うには。
納屋を掃除してたら、バイクが出てきたそうだ。
マコトさん自身も原付なら乗れるけど、おそらく排気量はゼロハンでなく110。
貸家に残ってた道具は好きに使っていいとは言われてるが、これが使っていい道具に入るのかどうかも分からない、とも。
「多分、カブだと思うけど。なんか少しごっつい感じ」
「あ、すごく興味あります」
西瓜を縁側で食べ終えると(もちろん、途中からたっくんとマコトさんと種飛ばしを競ったよ)、僕はマコトさんに頼んでバイクを見せてもらう。
納屋は少し離れた位置。結構な広さ。天井は波型のトタンなので暑くて乾燥してる。
赤いカラーリング。オフロード向けのブロックパターンのごつめのスポークタイヤ、銀色のアミアミが印象的なアップマフラー。このマフラーがかなり上がった位置にあるのは、水のあるところも走れるようにという仕様なのだろう。
保存状態は悪くない。わりと最近まで使ってたのかもしれない。
これはいわゆる、ハンターカブだ。昔(っていうか、この当時も)、オーストラリアから逆輸入してたやつだ。
たしか大学の友達が乗ってた。アウトドア仕様に振り切ってるせいでギアが全体に低すぎて、街乗りにはすこし不便だとか言ってたっけ。
カブ系は好きで乗ってたこともあるので、しゃがみこんで軽くいじらせてもらう。
マコトさんはエンジンがかからないんだよ、と言っていたけれど。
僕がひととおり丁寧に掃除してキックスターターを使うとエンジンがかかった。さすがカブ。
ただタイヤはエアーが抜けてる。空気入れが壊れてるから買ってこないといけない。経年年数にもよるけど、もしかするとタイヤあたりや電装関係は替えないとダメかもな。
「おー」
エンジンがかかるとびくっとしたたっくんは、害をなすものでないと分かったのか今は喜んでいる。
しゃがみこんで、目をつやつやした鉄のかたまりに凝らして観察しているもよう。やっぱり興味あるよね。
あまり触りに来ず、僕がバイクを触ってる間は至近距離でしげしげみてるけど、僕が触らないと近寄らない。慎重派なんだ。
「使わせてもらえたらありがたいですね。ちょっと大家さんに聞いてみます」
「うん、それがいいかな。隣の靴工場にも何台かあるみたいだよ」
「そうなんですか!」
夢が膨らむ。できれば格安で譲ってくれないかと交渉してみよう。
ただ靴工場の方はわからないが、こっちは個人の持ち物っぽいから相続がらみが終わってないと手続きが大変かもな。
でもどれか使えるとありがたい、竜神峡に行くのに自転車は結構大変なんだ、バイクをどうにかしたくて最悪なら調布を介してまた頼もうかって思ってた。
この家に住んでた人(半分隠遁生活だったはず)がこんなあまり数の出てないバイクを持ってた理由は、良くわからなかった。
タイヤに残ってた土からすると、もしかすると裏山の道あたりに乗り出してたのかもしれないな、と僕は思った。
──────
ナギさんが帰ってきたのは、それからまもなくだった。
なんだかすっかりすっきり綺麗な感じになってて、ナギさんであると知ってても二度見した。
たっくんに授乳して寝かしつけた後、マコトさんと3人で軽く事務的な話し合い。
まず、健康診断結果。ナギさんもマコトさんも特に問題なし。
マコトさんはすこし脂質が高かったり血圧が高かったりというところがあり、減塩生活を余儀なくされるみたいだけど。
ナギさんは、健康そのものという感じらしい。僕の心配してた性病関係も、オールクリア。ただ、ちょっとナギさんが言いたいことありげにもじもじしてたのが気になった。
もちろんたっくんもOK。健康面は大丈夫みたいだ。こちらに移ってからは同じ子供とあまり遊ぶ機会がないことについてナギさんは気にしてたみたいだけど(公園でやってきたほかの子と遊ぶこともあるらしいが、あまり頻度は高くないとか)、今のところは問題ないらしい。
ナギさんたちがかねて要望してたアルバイト関係についての話もしてみる。
軽いバイトはしてみてもいいかな、と僕はあらかじめ調布とも相談してたので、ゴーサインを出す。
ただし同業種は避けるということと、念のため事前に相談ということで話をまとめる。
できればあまり人と話さない仕事、チラシのポスティングとか工場とかがあればいいんだけどな。そういえば元さんのところが事務員が足りないとか言ってたかな、ちょっと相談してみようか。
あと、やっぱり健康保険証とかを使えるようにしたい。今は健康でも、病院には行くことが考えられるからだ。住民登録関係もたっくんのことを考えると早めに復活させたい。
僕はマコトさんたちが生きてることが、前の会社(飯場とかフロント企業とかね)に健康保険証の切り替えとかで知られるとまずいな、と思ってこれまで二の足を踏んでいたが。
どうやら、二人とも前の会社は保険なんてそもそも使わせてくれてなかったようで(無保険状態。つまり二人が今持ってるのは、前の前の職の保険証)、その心配はなさそう。多賀島市の地域の医療保険(国保だね)に手続きをとれば、未払だった期間の保険料の追納とかは必要みたいだけど、基本、身分を復活できそう。
ただ、問題は住民票。健康保険の手続きで必要なのだが、住民票を動かすと転出記録などで足がついてしまうんだ。貸金がある債権者だって口実で(実際にはそんな債権、ないんじゃないかと思う)、調査される可能性がある。
早めにカタをつけないとな。竜神とか終わらせたら休みあけに手続きをとろう、と僕は思った。
──────
草刈りで汗をかいてるマコトさんが、お風呂に入っている間。
たっくんの寝ている居間(床の間)の隣室、すこし熱気のこもった中で僕はナギさんと寸暇を惜しんでいちゃつく。
「志野さん、来てくださらなかったから心配したんです。──はむ」
「すみません、なかなか時間なくて」
ちょっと責めるような口調ながら、ナギさんは僕のそれをためらいもなく引き出して、幸せそうに奉仕してくれる。
僕は僕で、彼女の薄い水色のノースリーブのワンピースの腋から臆面もなく手を入れて胸を嬲らせてもらう。
紫藤とも調布とも違う、やわらかく指が沈み込むほどよく大きめの胸。触るうちに乳首が立ってくる。しつこくいじったり、両手を入れて先端を同時にぎゅっとつまんで軽く引っ張って意地悪したりもする。
もっといろいろしたいけどできない、そのもどかしさで手に力が入ると、奉仕に手を抜かないナギさんが思わず、という風情で一瞬だけ口を放してあえぎ息を出し、身を震わせた。咎めるように爪を立てると、僕の足(ちなみに僕、壁に寄り掛かって座った姿勢)に許しを請うように抱き着いてくる。
隣の部屋ではたっくんが寝てることを思うと、背徳感がある。『化○の森』みたいだな、と僕は思う。
昼からずっとたまりにたまったものを抜いてもらい、汗ばんだ僕とナギさんは居間にもどる。
たっくんの寝顔を見ながら、ぽつぽつと話す。前の職場で殴られて折れてた歯が、いつのまにか生えてたという話を聞く(これ、珍しいけど例はあるんじゃないかな?)。
借金のこととかにも話が及ぶ。いつか整理しないといけないね、と。
証拠集めが難しいが、昔、沈められる前にもらった通告書らしいものがあるというので見せてもらった。
法的な文書というより脅し文句が並んだ脅迫状じみたものだが、書かれた要求額は思ったより小さい。この文書を手掛かりに整理できたりしないかな?
マコトさんもお風呂から上がってきて、話に加わる。やっぱり人さみしいのか、話がはずんでしまう。
でもそろそろ日没近い、たっくんを起こしてお風呂に入れようということになる。
夕食を誘われたが、今日は辞退した。ほら、明日は紫藤たちと会うからね、ふふ。
──────
家にもどって、日曜日だけどお盆休みをまとめてとるために出勤してたらしい父親と少し話す。
母親はかなり渋っていたが、竜神関係で開けないといけない日程については念押しして認めてもらう。
夏休みの日程どうするんだ、と聞かれる。両親は来週姉が帰ってきたら、旅行を兼ねて父親の実家にあいさつに行こうかと考えていた模様(母親は多賀島市内の出身だけど、父親はそこまで遠くないけど他県出身なんだ)。
父としては、最近亡くなった父の祖父の墓参りとかもしたいし、祖母の様子も見ておきたいということらしい。父の実家に泊まるわけじゃなくて、近くにホテルを取って半分観光もしようということのようだ。ほら、母親はどっちかというと引っ込み思案で父の実家を苦手にしてるからね。
僕はちょっとなー、バイク旅行したいかも。
いや、親や父親の実家がイヤなわけじゃない(やさぐれてた中学生のころより話すようになったし)。
だけどさ、もしバイクが手に入ったらそっちがいいや。県内一周とか○○地方一周とか、してみたい。
父親はそこらへんは僕の意見に理解を示してくれる(母親はいい顔しない。事故とか心配するタイプ。それに自分は苦手だけど親戚づきあい自体は大事だと考えてるようだ)。
ただ一度、実家で祖母に顔を見せて墓参りしてくれといわれる(もう80過ぎてるはず)。まあ、それはもちろんそうしよう。
部屋にひっこむと、僕は宿題を猛烈にすすめていくつかの科目は終わらせて、寝るまで竜神関係のこととか計画を立てたりする。
明日は紫藤たちに会えるな、早く眠らないと、と思っていたが、結局寝たのはFMラジオで「名曲のたのしみ」が終わって放送終了のテーマ曲が流れてから*1だった。