タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
○紫藤みなり視点→志野視点です。
(紫藤みなり視点)
志野くんは、やっぱりときどきいじわるだ。
わたしにはとうてい思いもつかないような、はずかしいことを考えつく。
志野くんのその計画をきいて、わたしは頭のなかがぐらぐらと茹だって。
ぽん、と両耳から蒸気が噴き出そうな感覚をおぼえた。
「志野くん、さすがにそれはちょっと」
「ダメかな、みなり。
でもさ、きっとこれでみなりの頭の中、真っ白にできるよ?」
そう、いわれて。
仔犬のような哀しげな志野くんの視線を受けて、わたしは思わず口を閉じた。
たしかに、志野くんのいうとおりだ。
わたしは頭を白くして、きれいにしなきゃいけない。
そうすると、このわんわんと遠くで蠅の大群が唸っているような、変な思考誘導が止められる。
館のことを言おうとすると頭が痛くなるおかしな現象も、もちろんなくなる。
午後からは、さとみんたちと一緒に行動する。
変な思考誘導なんか、ない方がいい。
「──うーん。
しかたない、かなあ?」
そう、わたしはしぶしぶ答える。
ただ、そう言ったとはいえ。
「そうだよ。ああ、もう、仕方ないよなー。
本当はみなりにはずかしい思いなんて、させたくないのに、──って、痛っ!」
なんとなく、そうまじめくさって言う志野くんのドヤ顔に腹がたったわたしは。
志野くんの膝からとびおり、こぶしをかためて風車のように腕を回転させ、志野くんをポコスコたたく。
(ソファに座ってる志野くんの顔とかには手が届かないから、当たっても腿のあたりとか、だけどさ)
志野くんは、痛い痛いよごめんよみなり、と笑いながら両手を挙げて降参した。
「みなり、やっぱりやめとく?」
「するよ。するしかないよ!」
幸いにして、今日は先生たちも学校にはいない。
それに、──ちょっぴりだけど。
志野くんにこういういじわるをされることも、実はイヤってわけじゃない。
ただ、はずかしいだけなんだ。
ほら、このまえお散歩だって。ものすごくはずかしかったけど。
同時に、くらくらするような快感をわたしはおぼえてしまっていた。
「じゃあ、さ。
今日は、ちょっと趣向を変えてみようか。
前と同じじゃ、みなりも楽しくないよね?」
まるでわたしが、楽しんでるみたいな言い草だよ!
志野くんの満足そうな、ちょっといじわるな笑みをにらみつけながら。
わたしは、やっぱりさっき、もうすこし力をこめて叩いとけばよかったかな、と思った。
──────
──────
(志野視点)
紫藤を説得し、僕のたくらみを承諾させ。
いよいよ僕たちは、難関にさしかかろうとしていた。
「志野くん、大丈夫かな。誰もいない?」
「うん、さっき向こうの鍵をあけるときみたけど、まだ先生は来てない。
用務員さんも外構の掃除かな、さっきグラウンドの方に歩いていってた。大丈夫」
さすがに不安だったので、僕は進路上の扉の鍵を先行して開けるときに、見てきていた。
僕の超感覚も、進路上にはだれもいないと告げている。
「じゃあ、そろそろ」
僕は、渡り廊下に続くすこしすべりの悪いアルミの引き違い戸を開ける。
セミの声とぬるんだ空気が流れこんできた。
立ってる僕としゃがんだ紫藤は、渡り廊下をみわたす。
休業中の学校は、まったくの無人。
ごく、と紫藤が生つばをのんだ。
「いくよ?」
「はわわ、──ほんと?大丈夫かな、」
僕は、渡り廊下に歩みだす。
くい、と首輪を引っ張られて、紫藤が僕に続く。床に手と膝をついて。
そう、紫藤の首には首輪がはまっている。濃い焦茶色の、革の首輪だ。
首輪にはリード代わりに縄が結わえつけられていて、その一端は僕の手に握られている。
紫藤は犬のように、両手と膝をついて僕の後につづく。
焼け始めた渡り廊下の床が、熱いみたいだ。怪我防止に膝には厚くテーピングしてあげたけど、早く渡ろう。
僕は不気味なふくみ笑いを浮かべながら、ここに至るまでの経緯を反芻する。
──────
回想、スタート。
まずは、具体的な方法の説得だった。
よからぬことを思いついた僕は、頬に昏い笑いが浮かぶのを感じながら。
顔を赤らめる、紫藤を説得したんだ。
ほら今日は、学校ってお休み。
僕が来たときは、あの用務員さんしかいなかった。
自転車置き場には僕以外の自転車はなく、裏の職員駐車場も空っぽだった。
紫藤が来たのは、僕より4、50分ほど遅れてのこと。
彼女も自分が一番乗りだろうと思い、鍵を取ろうとして最初に本部棟に行こうとしたが。
ほとんどの扉は閉まっていて、裏口からようやく入れたけど職員室にも人がいなくて、途方に暮れながらこの旧本部棟に来たら、1階の扉だけが開いてたそうだ。
僕の時と違い、用務員さんにはまったく遭遇しなかったらしい。
だから僕は、校内散歩を提案したんだ。
ちょっと大胆な味付けで。
「え」
紫藤の白い頬が染まる。
「散歩って、もしかすると、──アレ?」
「そう、それ。せっかく人がいないんだから、学校の中を散歩しようよ。
でも今日は、さ?」
ちょっと違う趣向でやってみよう、と僕は提案する。
僕はこの前の紫藤とのお散歩に味を占めてしまい。
あれ、もっとやりたいって思ってしまった。
──だけど、まったくの二番煎じでは面白くない。
だから今回僕は、紫藤にペットみたいに首輪を嵌めてお散歩することを提案した。
この首輪、本当は首輪じゃないかもしれない(多分、違うと思う。学校に首輪がある意味がわからないし)。
もとの用途は分からないけど、大小さまざまな革のベルトがあった。
(パイプみたいな形状の部品を、まとめるためのものじゃないかな?管楽器の部品や運動会でつかう旗とか?
色違いがあるのが、ちょっと解せないけど)
ただ、さ。
諸兄も思ったよね。なんだ、たかが首輪か、──って。
首輪を嵌めてリードをつけていっしょにお散歩、だけじゃ、いまいち不足。出汁のきかない味噌汁みたいだ。
恥ずかしさのあまり我を忘れる(?)ような思いを、味わってもらわなきゃいけない。
そういう義務感に駆られた僕の頭をよぎったのが、さっき棚にあった、ぬいぐるみの部品なんだ。
猫とかうさぎとか、たしかあったはず。
人に遭遇しないなら、あれもやってしまおう。
「ほら、みなり。これは何かな?」
「耳?そして、しっぽ?」
「よくできました」
ほめてあげると、紫藤はうれしそうだが。
同時に、ちょっと目の中のおそれの色がつよまる。
「志野くん。耳はわかるよ。これ、頭につけるのかな。
──でも、しっぽは?」
僕はにこにこしながら、無言でうなずいてみせる。
「もしかすると、つけるの?わたしが?」
「うん」
没収品なのだろうか、カチューシャみたいなやつがあるので、これに耳を固定する。
そして紫藤に、頭に嵌めてもらうと。
ほら、猫耳紫藤のできあがりなんだ。
たださ、これだけじゃ足りない。
たしかに紫藤の性格からすれば見られたら恥ずかしいかもだけど、まあちょっと奇異の目でみられる、ぐらいでしかない。
さらに紫藤を芯まで恥じ入らせる、そして僕がむふふとなれる、性的な要素が必要。
それが、この尻尾だ。
ウサギ(バニー)をイメージした白いポワポワの球状のもの、猫をイメージした長い黒いもの。
「違うよ紫藤。服の上からじゃない」
制服のスカートの上からあててみていた紫藤は。
穏やかに声をかけた僕を、こわごわと見返した。
──────
この前、紫藤のお尻に嵌めた「Ω」あるいは「♠」みたいな形をしたポリプロピレンか何かの黒いくびれた栓。
これに、ぬいぐるみのしっぽのようなふさふさを取り付けよう。
幸いにも栓の部分に中空になったところがあり、ちょうどいい具合にしっぽが固定できるんだ。
それを紫藤の前に示し。事態を理解した紫藤は僕を激しく非難しはじめた。
「信じられない志野くん」「えっち、変態」「志野くん、じつは志野くんの皮をかぶったステファン卿*1だね?」とか。
でもまあ、時間もないし。今ならだれもいないし、と僕は彼女を説得し。
そのしぶしぶの同意を、取り付けたのだった。
「それじゃ、志野くん。お願いするね」
紫藤には、コーヒーテーブルの上に乗ってもらい。
土下座するような姿勢で、腰をそらし、お尻を上に突き出してもらった。
落ち着きのない様子で、紫藤は後ろを振り返ろうとする。
紫藤のスカートを、どきどきしながらひきあげる。
半ばまでごく普通の白い靴下につつまれたふくらはぎがあらわになる。
そして、小ぶりではあるがしっかりした太腿。
紫藤は小柄で痩せぎみだけど運動神経は悪くない。足も速いし、手足は結構丸くむっちりしてる。
そのまぶしい、白い腿を僕の視線は舐めた。
そして、スカートを背中の方にまで完全にひきあげる。
ぴっちりした、白い清潔なショーツにつつまれた丸いお尻が目に入った。
──あ。まてよ、紫藤のあそこ、みるとヤバいんじゃないかな。
そういう僕の逡巡をみすましたように、紫藤がふん、と息をついた。
「志野くん、心配してるのかな?
大丈夫だよ、志野くんは超変態でどすけべだって、わたしは知ってるからね。
さっき、測定に備えてちゃんと用意はしておいたんだよ」
そう、彼女は主張する。
そうか、と僕は勇気を得て、指を紫藤のショーツの上の裾にかけてゆっくりと剥いた。
無垢な、なめらかな白いお尻が目にとびこんできて、僕はなんだか胸が苦しくなる感覚を覚えた。
いったん腿の上まででとどめて鑑賞していると、彼女が焦れて。
背をやわらかく曲げ、頭をこっちに向けようとした。
まずい、僕がすごくいやらしい顔で彼女を見つめてるのがバレてしまう。
僕は彼女の頭をなでて前を向かせて、膝まで彼女のショーツを下げた。
ショーツをそのまま膝を片方ずつくぐらせて抜き取る。
(靴に当たらないように、足首から下着を汚さずぬきとるのは電撃イライラ棒なみに難しい。僕は超感覚さんを総動員した。)
これで、彼女のまだ熟れてない白桃のようなお尻は無防備に僕の目の前にさらされた。
僕はさっき加工した、フランジにジョイントでつなげた、猫の尻尾(シャム猫っぽい)を手に取り、彼女のお尻をのぞき込む。
白い紫藤のお尻(このまえお尻を鞭打った痕だろう、赤い線がところどころに残っている)に、どくっと僕の心臓は不規則に鼓動する。
目を下げていく。紫藤の谷間は、たしかにテープで丁寧にふさがれている。
ただ、今回はこの前のテープより薄手のもののようで、谷間の(|)←この縦線にあたる部分のテープにも、割れ目の線が浮いている。
それを僕は、浮かされた目でみつめた。
「志野くん。ちょっとだけ、その、──お手洗い行ってきてもいいかな。汚れ落としに」
「?」
僕の目には、その谷間にすぐ隣接する、きゅっと閉じた部分(テープはされていない)に、何も汚れを見つけることはできなかった。
透明感のある白い肌にあって、ごくわずかに薄桜色に色づいているそこをみると、胸が軽く締めつけられるような悪い興奮を覚えた。
「だからさ、中。ちょっと水とか入れて、さ?」
ほら、ハルカちゃんのときそうしたって言ってたよね。
そう、紫藤は主張している。
「なるほど。じゃあ、水、入れとこうか」
「──うん」
紫藤は要するに、一度中のものを出しておきたいと言っているんだな、と僕は理解し。
また、こまごめピペットを用意し。流しでぬるい水を吸わせた。
一つじゃ足りないな、国領のときは小さめの容器に一本入れたが、そこまで注がなくていいだろう。3、40mlくらい、4回分くらいか?と僕は適当に見積もる。
気休めにしかならないけど、オリーブオイルの残りをまた指とピペットの先端に付ける。
自分でするよと紫藤は言ったけれど、自分で見えない場所でもあるし、変に無理してケガしたりするといけない、と言って説得した。
「ほら、緩めて。いくよ?」
「うんっ、──んわっ」
軽く押し広げて、先を押し込む。
どのくらいだろう、とふと疑問に思ったが、入り口にだけ入れても仕方ない。
たしか直腸は10cmくらいだったよな、と思いながら、それなりに挿し入れ、スポイト部分をつぶして水を注ぎこんだ。
紫藤の肌に、鳥肌が軽くたったのを僕は見て取った。
「やっぱり、気持ち悪い?」
「う、うん。ちょっとね。でも大丈夫」
紫藤の言葉にうなずき、2度目、3度目と挿しこみ、注いでいく。
そして顔を赤くした紫藤がトイレに行くのを見送った。
紫藤がいない間、僕はそれ以外の工夫ができないかと頭をひねる。
そうだ、──散歩といっても、横に並んで歩くだけじゃないよね?
紫藤はペットなんだから、這わせてあげないと。
でもそうだとしたら、地面に触れる膝や手のひらを守らなきゃ。
それと、服も汚れないようにしないとな、と僕は考える。
トイレからそわそわしながら戻ってきた紫藤に、処置をする。
手のひらの体重のかかりそうなあたり、そして膝にテーピングを巻いてもらう。
スカートも上げる。これは適当なベルトを使って、膝上くらいに引き上げた。
(紫藤のスカート裾は決して長くないけど、試しに手と膝を突いてもらうと地面に付く。
つかない程度、膝を出して腿の半ばあたりまで引き上げた。)
膝上丈のスカートの裾からみえる紫藤の太腿に、僕の視線はいやらしくからみつき。
紫藤は、僕の視線と裾の短さに落ち着かなげな風情。
そのうえで、最後の仕上げ。
有無をいわせずまたコーヒーテーブルに紫藤を上がらせ、しっぽを植える。
また突き出させたお尻に、猫の黒いしっぽ(本物じゃないよ)の挿入作業。
フランジのついたプラグ(♠←こんな感じの、返し(鍔)のゴムのついた栓ね)の先端にはオイルをよくなじませる。サックをつけた指でも一度、紫藤の入り口を試す。きゅっと指を締めつける感覚。
「はい、力を抜いてね」
一度目の経験から、僕は焦らない。
ゆっくりと、お尻のその部分にしっぽ付きのフランジ付きのプラグを軽く押し当て、ほぐれる気配を待つ。
先が受け入れ始めると、力を加えて押し込み、軽くフランジ付きのプラグをねじるように回転させながら飲み込ませていく。
栓の膨らんだところが通過すると、力など入れなくてもぬるっと入っていく。
白いお尻に黒い栓が映えるな、と僕は思う。
「入ったよ」
よしよし、と頭をなでる。
「うーん、──なんか、変な感じ、──」
紫藤は首筋まで赤くなった顔で、僕の顔をちらっと見て、すぐ目をそらした。
立ち上がらせ、スカートを直す。しっぽが軽くスカートを持ち上げてるが、めざとい人でないと気付かない。
むしろ気になるのは、スカートの裾からしっぽが見えないか、という点。ギリ見えるな。
「んもう、行くよっ!先生とか、こないうちに」
「そうだね、行こうか」
そして、そういうことになったんだ。
──回想終わり。
──────
階段を降り、3階の渡り廊下をわたる。
明るく陽がさし、風が吹き抜ける。
僕がくいっ、と縄を引くと、紫藤がちょっと苦労しながらわたる。
思ったより丁寧というか、ちゃんと膝をついて一歩一歩すすむ。
本校舎に移る。日蔭になってて涼しい。
渡り廊下は階段の踊り場に接続されてるので、ここでも階段がある。
最初から最後まで、ちゃんと手と膝をついて歩くよ!と、完璧主義者の紫藤は主張したけれど。
僕のみたところ、たとえば階段をその姿勢(四つん這いに這わせた姿勢ね)で降りるのは相当に難しい。
だから僕は彼女を説得して、要所で這ってもらうことにして、階段の下りは歩いてもらうことにしてる。
3階にいったん降りよう。僕たちの教室のある階だ。
その前に踊り場の鏡で、一瞬並んでみる。
恥ずかしそうな、しかしとてもきらきらした笑みを浮かべてる紫藤と比べて。
僕の頬には、なんだか暗い愉悦を湛えた笑み。思わず笑顔が引っ込む。
「大丈夫、志野くんはそれでいいんだよ」
紫藤が僕を見上げてそう言ってくれた。ほらやっぱり天使じゃないか、と僕は思った。
──────
階段を半階降りると長い長い廊下がある。
ここをまた、紫藤にペットの犬のごとく首を引かれて歩いてもらうことにする。
紫藤の頭をなでると、僕の手に頭をこすりつけてきてくれる。
調子に乗って背中をなで、そしてお尻に手がうつり、挿しこまれたしっぽをなでるとガルルル、と怒られた。
紫藤は、きっと恥ずかしいのだろうけど。
実は僕も誰かにみられたらどうしようって思って、最初は胃にも穴があきそうな気分がしていた。
しかし誰もいない、とわかり。やがて、クソ度胸が据わり。
さっきと異なり、先に紫藤を進ませることにしてたのもあって。
この散歩を、僕は楽しみはじめる。
床に付いて汚れないように、すこし引き上げてベルトで固定してもらった短いスカートから当社比数倍に覗く、白くやわらかな紫藤の脚の曲線に目を吸われ。
また、歩くたびに(本人にはその気がなくとも)誘うように揺れる、小ぶりだけど丸くて魅力的なお尻に心をかきむしられ。
斜め後ろから眺める、四つん這いになって重力の力も借りて大きく見える紫藤の胸を観察し。
ときどき不安そうに振り向く紫藤に、僕は夢中になってしまっていた。
廊下を半ばくらいもきて、僕たち自身の教室にも入ってみる。
教室を一周し、教壇にも上がらせる。
そしてそのあたりで、僕は本来の目的を思い出した。
「みなり、教えてくれるかな」
「うん?」
顔を上げる紫藤。
歩みが止まったので、くいっ、と縄を引くと、あわててまた進み始める。
「そのまま、歩きながら聞いてくれるかな。
まず、さ。みなりのホストファミリーについて」
教室を出て1階上にあがり(僕たちの教室は3階にある)、廊下をたどる。
また、今度は短い渡り廊下。これを渡り、つきあたりにある美術室を仮の目的地に定めた。
その過程で、僕は紫藤から話を聞き出す。
紫藤は恥ずかしさに上の空のような感じで、会話に集中できていないので、必ずしも話は要領を得ないが。
(たぶん、集中すると話せなくなってしまうのだろう、と僕は直感した)
あわあわとする彼女から、ホストファミリーについて話を引き出す。
いくつかは、すでに知っている話。
待遇は、とてもいいこと。先輩メイドがいること。先輩メイドの胸囲が驚異であること。
そして、知らない話。
正確な、ホストファミリーの家の場所。
ホストファミリーの中に、おかしな人間がいること。その名前。
先輩メイドが、ホストファミリーの主人に手を付けられていること。ときどき、虐待されていること。
離れに、女の子たちが囲われていること、──
「志野くん、どうしたの?」
「いや、なんでもない。あとで言うね。
それでさ、それをやってるのは、──」
長い廊下をたどる間、紫藤から話を聞き出しながら。
もっと早くに何か手を打てたんじゃないか、と自分の愚かさをかみしめていた。
──────
僕たちはやがて、美術室に到達した。
最上階の端。さすがに人はいないだろう。
扉もしまっているはずだが、──試してみると開いた。
僕たちは、中に入ってみる。
明るい、太陽の日差しがふりそそぐ。
誰が描いているのだろう、巨大なまだ未完成の絵が教壇の傍にあった。
迫力のある、リアルな筆致。
僕と彼女は、思わず近寄って絵を眺めた。
「すごいね、志野くん」
「ああ、本当にな」
そういいながら、僕はどこかこの絵に奇妙な既視感を感じていた。
何かが、僕を揺り動かす。僕は、ここを知ってる。いつ、どこでこれを見たんだったか──
「そういえばさ、血鱈毛美術館に行こうって話あったよね」
「そうだった、行こう」
紫藤にも立ち上がることを許し、絵の前で語り合っていて。
僕は、うっかり超感覚さんを解除してしまっていた。
調布たちとの集合時間にはまだ時間があるって思ってたから、油断してしまってたんだ。
でも楽しいときの時間はあっというまに過ぎるってこと、ちゃんと認識してなかった。
カラカラ、と引き戸が開く音に、顔を引きつらせながら振り向く僕たち。
このときの僕たちは、これから襲いくる真の恐怖をまだ知らなかった。