タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
○志野視点です。
(志野視点、多賀島中央高校、月曜日午前~昼前)
「あ、あれっ、さとみん!?」
「ん?みなり、それに志野?
何してんのあんたたち、──って、」
入ってきたのは、調布。
大きな切れ長の目を、驚きに一瞬みはった彼女の顔をみて、僕は思い出す。
そうだ、調布って美術部だったよな。
きっと、僕たちの待ち合わせに先んじて、部室においてた荷物とか取りに来た、ってことだったのかもしれない。
調布は荷物を手に持っていない。もしかすると美術室の扉が開いてたのも、調布が先にきて開けてたからなのかも。
荷物は、きっとあの奥の棚の向こうの部室スペースに置いてるんだろうな。
いずれにせよ、彼女は僕たちを、不審げに上から下まで眺めまわしてる。特に、紫藤を。紫藤の猫耳を。そして紫藤の首輪と、そこから延びる縄を──。
まずい。まずいまずいまずい、──
「みなり、何その恰好!──ははーん、志野ね?」
「あ、ああ。その、ちょっと出来心で、さ」
「へー、出来心ね。分かってるわけね、ほぉー」
「ごめんなさい」
「ごめん、さとみん。その、さ。──志野くんだけがわるいんじゃ、ないんだ」
「そうでしょうそうでしょう」
猫耳を着けて、首輪を嵌め。
スカートを短くたくし上げた紫藤が勇敢にも僕の前に出て、あわあわと抗弁してくれる。
だけど調布のギラついた、大きな目は紫藤じゃなくて、それに隠れようとする僕に据えられている!
「まあ、ね。だいたいわかった。
──志野が悪いってことね。そうに決まってる」
「そんな」
オラオラですか?僕は恐怖に震えた。
「まあでも、あんたも悪いのよみなり。反省しなさい」
烈火のごとく怒られるかと思ったが、意外にも調布はそこまで怒らなかった。
紫藤と話しているのをみて気づいたが、調布はかなり機嫌よく思える。
調子がよさそうっていうか、──化粧でもしてるのか?
いつもに増して肌つやがいい感じ、まつげが濡れたような、妖艶な感じの視線。
もしかするとここに来る前に、化粧するような誰かと会ってきたのかもしれない、と僕は思いあたる。
そういえばグレースさんとかの救出活動、一緒にしてる女の子たちがいる、って言ってたな。
「まあいい。まず、志野。
あんた、後で罰ね。厳罰、実験台。いい?」
「いや、調布、これには理由が、──はい」
たん、と軽く足で床を踏んでにっこり笑ってみせる調布。
その恫喝に、僕はすみやかに口を閉じた。情けないけどしょうがない、僕だって命は惜しい。
「次に、みなり。あんたも、流されない!」
「ごめん、でもね、──」
「反省。あんたは今日そのミミと首輪、付けときなさい」
「えっ」
「みんなに見てもらいたいんでしょう?」
「うわー」
紫藤と調布はそこでなんか八百屋さんでの主婦の根切り合戦みたいなのを軽くして。
スカートを元の長さに戻し、首輪を外すことは許されたけど。
猫耳は、外すことを許されなかった。
「まあ、耳は一日、つけときなさい。
ハルカと二人で笑ってあげる」
ふしゅう、と紫藤がしおれてみせる。
調布はちょっとあきれたように笑った。
「はぁ、まったくあんたたちは──まあいい。
ねえ、みなり。ちょっとお話、しない?
それと志野!あんたはあの棚の向こうのあたしのリュック、運んどいてくれる?
もう、開いてるのよね、あっちの部屋?」
「ああ、開いてる」
調布は紫藤とサシで何やら情報交換したい模様で、僕は今は寛大にも見逃された。
調布が家から準備して運んできたらしい、山岳部みたいな巨大なリュックを僕は美術部の使用スペースでみつけて。
えっちらおっちら、と背負って運ぶ。
出ていく僕を横目に、調布は雑に手を振ってくれた。
美術室の扉を閉めて、僕はふう、安堵の息をつく。
歩き出すとキュッキュッと鳴る、リノリウムの青い床パネルを見ながら。
僕は、調布が気づかなかったことに感謝する。
調布は、紫藤の猫耳と首輪とそれにつけた縄、そして短くしたスカートを見とがめた。
しかし幸運にも、調布は気づかなかった。紫藤のお尻に挿しこまれた猫尻尾に。
僕が美術室を出るとき、紫藤と僕が視線をからませたとき。
僕の紫藤への問いかけるような視線に、紫藤は軽くうなずいてくれた(たぶん調布は気づいてないか、単にバイバイって意味だと思ったと思う)。
紫藤は、隠ぺいしてくれるつもりだ。もし調布にバレたら、彼女も僕もこんな叱責じゃ済まないって、わかってるんだ。
幸いにもしっぽは、スカートを長くすればギリ隠せるか隠せないかという長さ。
それに、どの方向にも曲がる関節みたいな骨が入ってて、あのしっぽは曲げたりできる。
うまく巻けば、スカートの中に目立たなく納めることができるはずだ。
隠し通して、そしてどこかの時点でトイレとかで回収、──まてよ。
回収っていったって、どこに隠す?
まあ、くるくるとぐろを巻くように巻けばコンパクトにできるよな?
そんなことを悩みながらも、僕は調布の重いリュックを背負い。
ふらつきながら自分たちの仮部室に、歩いて行ったのだった。
──────
何を入れているのか非常に重たいリュックを、僕はなんとか仮部室に運び込み。
そして大急ぎで、開かずの間の後かたづけをして扉を閉める。
頭骨のことは迷ったけど、次回取りに来ることにしよう。荷物重いし、と僕は思う。
「あれっ、しのりん!?」
「おう、おはよう」
「お、おっはよー」
ひととおり片づけて仮部室に戻ると、なんと国領が到着していた。
ソファに横になってたみたいだけど、僕に気づくとバネじかけみたいに跳ね起きて。
なにやらそわそわと、髪を触っている。
なんかやましいことでもあったのかな、と国領をみつめると、国領は目をそらした。
白い顔に、ぱあっと血の色がのぼってくる。
「な、なにかなしのりん!
ボクになんか、言うことあるんじゃないかな!」
そうだった。
土曜日は国領と調布とで1日遊んで、──なんならホテルで抜いてもらったんだ、と僕は思い出す。
僕も顔がちょっと熱くなるのを感じて、目をそらした。
「あー。その。
土曜日は、ありがとう」
「う、うん」
「すごく、国領が──」
アレしてくれたのが気持ち良かった、と言いそうになった僕は。
なんらかの本能の警告を感じて、口ごもった。
──そうだ、それは言わなくていい。
もっと最初に相手を気づかったり褒めたりするんだよな、こういうとき。
乏しい交際経験しかない僕は、足りない頭でそう考え。
おそるおそる、歯が浮きそうな言葉をならべる。
「きれいだった。水着も、すごい良かった」
「あー、うわー、そうかなー、──えへへ。
あれ、気に入った? 良かったー!
でも、さ。ちょっと浮いてなかったかなー、って。だってさ、みんなじろじろみて──」
「いや、すごく良かった」
──確かに、目立ってた。でもそれ、すごく良すぎて目立ってたんだ。
爽やかなレモンの水着は、白くて透きとおる国領の肌によく映えて。
まるで国領は、妖精みたいにきれいだった。
男連中はもちろん、女の子たちもみんな気を取られてた。モデルなんかより、ずっと、すごくきれい。
僕?もう、目に磁石をしこまれたみたいだった。ついつい、見ちゃって。
「あー、ダウト!
しのりん、ろくに見てなかったじゃんか!」
──違うんだよ。
たしかに僕、目をそらしてた。明後日見てた。
でもそれは、さ。ほら、目がつぶれるかと思って。
うん、すごい白くてきれいで。女神様みたいだった。
「えへへ、そんなことないよ。もう、しのりんはっ!」
──あとさ。
つい、アレがすごく起きてきちゃって。うん、アレ。
まずいなー、て思って。ほら、見続けてたら、目立つし出そうで。
「それ、それそれ!
ボク、よく知らなかったんだけど、さ。
男の子のソレ、大きさが変わったりするんだよね?
どんな感じなの?大きくなると、苦しかったりするの?」
──うん、苦しかったりっていうか。敏感になるよね。
さわさわ、服にかすっただけで、出そうになる。そう、アレが。
寝てる間に、夢をみたりで出たりとか、あるんだよ。
「へー、スゴっ。
ちなみに、その、──ボクが、さ。
しのりんのアレ、触ってあげたのって。
どうだった?気持ちよかったの?」
──すごかった!もう、天国に昇天するかと思った、本当だよ!
それに、そうしてくれてた国領のこと、好きで、その、感謝してて。もっと、あー、お返ししたくなって。
「にゃはは、いや、そんなにでも。なんか、照れるなー。
その、さ。お返し、って何?ダイヤの首飾りとか?」
いや、ごめん、僕もお金なくて貧乏で。
そんなものはお返しできないけど。
だけど、なんか。
「なんか。ほらほら、何かなー。気になるなー!」
いや、ごめん馬鹿みたいだけど、国領も気持ちよくなってほしいかな、って。
あ、もちろん。無理になにかしないし。うん、肩もみでも、
え?肢?うん、舐めたいよ!そりゃもちろん、だけど我慢する。
え?いいの?あー、今?違うよね、うん、わかった。
じゃあ、そのうちに。
「まあ、もちろんちょっとだけ、肩もみでお返ししてくれてもいいよー。
ほら、ボク昨日から肩が凝ってるんだ。もみほぐしてくれるかな?」
そういうことになって、僕はソファに座ったままの国領の後ろにまわった。
白い首筋に、僕の目が吸われる。
手を伸ばして、軽くとんとんと叩くことから始める。
「どんな感じ?」
「あー、いいね。その調子で」
国領は凝ってるって言ってたけど、全くそんな感じはしない。
だいたい肩が凝るのって、あのスイカップ中河原さんとか、大きい人なんじゃないかな。
本格的に、肩もみをする。肩の、あのくぼみみたいなところから肩の外の線の部分の肉を丁寧にもみほぐす。
国領もいかにも気持ちよさげに、はー、生き返るー、みたいなことを言って首を傾けてくれたりする。
それはそれで、ほこらしいけれど。
でも国領の肩を手でたたき、撫でまわし、もみほぐしていて。
僕はよからぬことに、ゾクゾクと脳内に快感を覚えはじめていた。
たとえば紫藤の、あの腰を持ったときに感じる感覚に似ている。
「気持ちいいなー。ねえ、腰とかもお願いしていいかな?」
国領はそういうと、今度はソファに寝る姿勢をとった。うつぶせで。
調布や紫藤よりずっと短いスカートからは、白く細めの脚。
(かといって、運動不足の細い脚ってわけじゃない。
締まってて、筋肉もあるんだろうと思う。でも、きれいに白い肌でそれとわからない)
僕はごくり、とつばを飲み込み。
まず、両手の手のひらで腰の上、肋骨のないあたりを押す。
「ん”~、いいね、それ。もっとしてよ」
もちろんだとも。
ねだられるままに、僕は彼女の腰上に体重をかけつづける。
そしてその次に、こんどは拳をつくってぎゅっ、ぎゅっと国領の背中の随所に押しあてて体重をかける。
国領が、はぁ、はぁ、と押されるたびに息を吐く。
「あー、はぁう、あー、気持ちいい!」
「もっと、する?」
「もっとしてよ、あぁ、あぁー、いい、いいよ、しのりん」
僕は夢中だった。
腰の固い骨のあたりを親指の腹で体重をかけて押したときに、国領の体にびくっと何かが走り。
そして国領の白い太腿の内側のあたりに、一瞬、力がはいったのか線が浮いたんだ。
困ったことに、国領のスカートはかなり短いうえに、身じろぎをしたせいなのか、かなりまくれあがってしまってる。
僕の胡乱な視線は、その内股にべったりと貼りついた。もはや、理性が決壊寸前。
あと数十秒、この状態が続いてたら僕はこのまま国領を組み敷いて、両腕を羽交い絞めにしてなにかよからぬことをやらかしていたかもしれない。
もちろんのこと、僕の注意はすべて国領に注がれてて、全くあたりの警戒がおろそかになっていた。
「こらっ、志野!ハルカ!」
「ほら志野くん、神妙にお縄につく!」
いつのまに、扉がひらいてたんだろうか。
調布と紫藤の声に、僕は凍りついた。
「あんたたち、何やってんのよ、──」
なんか
「あー、肩もみ?」
「それが?どうみても志野がハルカを襲おうとしてる図なんだけど」
調布に言われて、僕はあらためて自分の姿勢を意識した。
ソファにぐったりと伏せた国領の横、ちょっと彼女の頭側寄りの方向から腰に申し訳程度に手を当て。
のぞきこむように国領の白い脚をガン見している自分の姿勢を。
「いや、肩もみだよさとみん。少なくとも、途中までは、さ。
途中から腰に移って、なんかボク、すごい見られてるなー、って思ったけど」
国領はなぜか落ち着き払っていて、声に笑いが乗ってる。
「志野!」「志野くん!」「ふふ、しのりん」
──畜生、国領はこの展開を読んでたんだな。謀られた。
そう、僕は国領のチェシャ猫のような笑みを浮かべた顔をみてさとったのだった。