タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
「2、3年前」→「1、2年前」
20231206 誤字(修正ミス)のご指摘、ありがとうございました!
5月だけど、まだ朝は寒い。目を覚ますが、布団から出たくない。
だけどそうも言っていられないか。気合を入れて起きる。
必要物資を入れたリュックサックをもう一度点検。
まあ大丈夫だろう。そんなに本格的なものにする気はさらさらない。
あくまでこれは、ハイキング、ピクニック。
保育園の児童でも大丈夫な程度のものにするつもり。
春の野原と遊歩道を歩いて、蝶々を追いかけるだけだ。
母も起きてきた。眠そうだ。すこし低血圧気味なんだよね。
寝てていい、準備はできてるからそろそろ行くよ、と伝える。ちょっと早く出発時間を設定したんだよ。
でも、紫藤も昨日のアルバイトで疲れてるはず。考えなしだったかもしれない。
「朝ごはんはいらんの?」
「駅でサンドイッチでも買うから、大丈夫だよ。」
「なんかあったら連絡しなさいね。晴れてるけど、急に天気が変わるかもしれないからって予報でいってたよ。」
それまで自分で電車に乗って遊びに行くなんてことは一度も言い出したことがなかったので、母も父もびっくりしたようだ。電車に乗る方法は大丈夫か、心配された。
大丈夫さ。たしかこのころの多賀島駅は、まだ有人改札。
駅員さんがチョキチョキ、切符にはさみを入れるやつだったはず。
切符自体もまだ厚紙だっただろうか。ちょっとそこの記憶はない。
「わかった。じゃあ行ってくるね。」
リュックを背負って出発だ。
ーーーーー
多賀島駅までは、バスがある。
ちなみに僕らの高校も駅からほど近い。
電車で少し遠くから通学してきて駅を使う子ももちろんいるが、駅のターミナルを始発・終着としているバス便が多く、そのため駅を使う子も多い。紫藤はこの後のパターン。
僕も基本的にはそうで、駅を終着とするバス便を使うが、駅の手前のバス停の方が高校に近いので、そちらで降りてしまう。だから駅を使うことはあまりない。
今日は終点までバスに乗る。
バスから降りる。乗車予定の電車の出発時間までは、まだ30分近くもある。気合を入れて早く来すぎたか?
いや、そんなことはなかった。僕より早く来てるのがいるじゃないか。駅ビルの売店横で、所在なげに佇んでいる小さな後ろ姿。うん、フルレングスのボトムスがきっとなかったのだな、上は長袖のパーカー、頭には野球帽、下はあの茶色のキュロットスカートに、厚手のタイツか。タイツの上からスクール靴下。背中には赤いリュックサックを背負っているが、あまり中身は入ってないように見える。
本当はジーンズみたいな厚手のボトムスがあればいいが、おそらくそこまでいらないだろう。いざとなれば買ってもいい。
声をかける。
「おはよう、紫藤さん。」
「お、おはよう!」
紫藤はびくっとしたが、すぐ振り向いて笑顔を見せた。
「昨日は大丈夫だった?朝早くでごめんね、毎日疲れてるんじゃないかって後から思ったよ。」
「大丈夫だよ!楽しみですごく早く目がさめたんだよ。」
紫藤はにこにこしてる。大丈夫そうだな?
「1時間弱くらい電車にのるから、そのときにちょっと昼寝できるよ。」
「うん!」
「朝ごはんは?」
「軽く食べてきたよ。」
軽く、か。僕と一緒で、本当は食べてきてないパターンじゃないか?
「僕は食べそこねてお腹がすいてるんだ。よかったら、電車の中で少し食べたすものを買わない?」
「いいよ。」
紫藤はちょっと後ろめたそうな顔をする。お金のことを気にしてるんかな。
貧乏旅行だけど、費用は全部こっちで見るっていったじゃないか。大丈夫だよ。
ーーーーー
駅の売店でサンドイッチとおにぎりを買う。
ちょっと過剰かもしれないが、お昼に食べるものを買う場所がなかった時のため、少しだけ多めに買った。飲み物も。
紫藤は僕がお茶を買ったのに少し興味を惹かれた様子である。
お茶を外で買うって概念、このころの地方の高校生にはあまりないからね。あと数年でその常識も変わるけど。
電車は始発、10分前くらいには入線。
私鉄の準急電車で、特急よりは遅いものの、目的地近くまで行くのに限って言えば、時間はそこまで変わらない。
そこからは歩いてもいいが、路線バスを使ってもいい。
入線してきた電車に乗り込む。ボックスシート。
向かい合わせの4人掛けの片側席に並んで座る。
もちろん紫藤を窓側に。
顔を見合わせる。嬉しそうな紫藤のニコニコ顔。
汽笛が鳴り、旅行が始まる。
僕は抜いてた朝ごはんを食べることにする。紫藤も朝ごはん足りなかったんじゃないかな、ということでお相伴させる。おずおずと卵サンドを選んでいる。卵が好きらしい。
僕はおにぎりを選んで食べる。適当につかんで買ったが、昆布か。悪くない。
食べ終わると、軽く眠気を覚える。
外を熱心に見ながら、なにか言っている紫藤に相槌を打ちながら、地図を見る。
何度も考えた旅程だ。時間は、ーーあと40分か、微妙だが少し寝ても大丈夫だろうな。
少ししゃべりたそうな紫藤に、少しだけねむくなっちゃったから寝るけど、大丈夫だから気にしないでね、と伝えて目を閉じた。
うん、失敗した。
気が付くと紫藤もぼくに寄りかかってすやすやと寝ていた。
紫藤のサラサラした髪の頭が、僕の肩にちょこんと乗っていて(僕は相当浅く腰かけていた)、とても可愛かったのだが。
乗り過ごしてしまった。
計算外アクシデントだ。
ーーーーー
リカバリーには2案ある。
一つは、反対側に行く電車に乗って戻ること。堅実だね。
もう一つは、一つ乗り過ごした駅で降りて、そこから目的地へ向かうこと。乗り越し料金を払うことになるが、これも可能だ。目的地は、当初降りる予定だった駅が最寄りではあるが、1つ乗り越した駅との中間地点にあり、十分に実現可能性がある。
逆方向の電車は、結構時間を空費するおそれもある。僕は乗り越した駅で降りて、目的地に向かうことを選んだ。
ーー一つだけ懸念がある。こっちの駅からのルートは、例の谷津崎老人の隠棲場所に近い。
起こされた紫藤は最初真っ青になっていた。いや、電車にあまり乗らない我々からすると、そういうトラブルはすごく深刻なものに思えるよね。
でも乗り越した駅でも大丈夫なことを聞くと安心したようで、これも冒険のだいご味だよ!みたいなことを言ってて意気軒昂だ。うん、かわいい。
駅で降りる。当初の目的の駅より小さい町で、バスの便が少ない。ちょっと不味ったか?
でも、道は比較的わかりやすい。
ちょっと山道を歩くことになり、1時間半くらいかかるが、もともとここにいかなきゃいけない、みたいな確かな目的のある旅行ではない。
それでいいかな、と聞くと、紫藤も賛成した。
昨日の今日で疲れてない?と聞くが、昨日はちょっと軽い筋肉痛があったが、今は全く大丈夫だそうだ。
本当に疲れたら、僕が背負っていこうかな。うん、役得もあるし、体力づくりみたいなもんだ。
ふたりでひなびた駅の改札に切符を置き、外にでる。
小さなロータリー。続く街路には日に焼けたビニールの庇の商店、品物が少し日焼けしてる金物屋さん、シャッターを閉じている小料理屋。
バス停の時刻表を確認するがあと20分あまり待つことになる。しかも目的地の途中までしか行かない。
止まっているフェンダーミラーの白と黄色のタクシー。運転手さんは外で煙草を吸いながら仲間と談笑してる。乗るほどのことでもない。
天気も良いし、僕らは元気だ。歩きで問題はない。
そういうわけで、顔を見合わせた僕たちは意気揚々と出発した。
15分ほど歩くと、農地に入り、やがて山に入る。まだここはアスファルトの車道だ、あまり道路の幅はないがバスも走るらしい。
地図を見る。もし僕の読みが正しければ、点線で示してある、車は入れないが人は通れる細い山道があるはずだ。これを通れば近い。
思った通り、道端から細い山道が分岐している。ちょっと紫藤が心細そうな顔をして僕を見る。
「この道で、大丈夫かな。ほかの人の家の道で、通ったら怒られたりしない?」
「大丈夫だよ、この手の道も通ったことがあるよ。あと、地図にもあるし、地元の人にとっては普通の道だと思うな。」
「そうかなーー。」
少し心配そうだが、僕が先に歩き始めると後ろをてくてくとついてきてくれる。
途中で向こうから来たおばさんに挨拶して、この先の道を念のため聞いてみる。
別に怒られることもなく、この先まっすぐなら温泉で有名な樋木崎渓谷につくと教えられる。
このおばさん、もともと話好きらしい。
「多賀崎からね。樋木崎までいくと?ハバキモトだとバスがあるとよ。」
「駅を乗り過ごしてしまいまして。」
「あれまあ、いかんねぇ。」
ははは、とおばさんが笑っている。頭にかぶった手ぬぐいを取って、汗をぬぐう。
もう50代くらいだろうか。肝っ玉お母さんという感じだ。
「電車も急行は1時間待つけんね。ま、若いとこのくらいの山道、たいしたことなかろうもの。まっすぐやけんね。」
「はい、ありがとうございます。」
「脇道もあっけど、道に迷わんようにね。昔は鬼がでとったんよ?」
「鬼、ですか。」
「まあ、昔話よ。昔話で、漁師さんがシシ(猪)を撃ったら、先に鬼がきてミチミチ、脚もいで持ってってしまったとよ。」
「うわぁーー。その、脚って、その、猪のですよね?」
「そうよそうよ。人のやなかよ。ああ、でもね、」
声を潜めていってくれる。
「少し前ね、鬼よりも怖ぁいことがあったと。山菜採りのお爺ちゃんが、クマに襲われて、食べられたとよ?もうおらんおもうけど、気を付けなせ?」
あんたらはクマ避けもあるけ、大丈夫ね、とリュックに取り付けた熊鈴を指さして言う。ちなみにおばさんもつけてた。
「食べられちゃったんですか?」
「そうよ、手足ちぎられて、はらわた食われて、手足もクマもみつからんと。すぐ駐在さんも駆け付けたけど、見て卒倒したと。」
眉をひそめて言う。
「ほんの1、2年前の話よ。いまは大丈夫、ゴゼンサマのところの人も山狩りしてくれて、クマはおらんと。」
「ゴゼンサマ、ですか?」
午前様?
「ああ、ほら羽立毛のとこの、谷津崎屋のご隠居さんよ。この、」
身振りで示す。
「先のとこ、左に行く道ば行くと、谷津崎屋さんとこのご隠居さんのお屋敷があるとよ。」
「そうですか。」
ああ、たぶん「御前様」だ。地元では尊敬されているんだな。
それにしても、色々気になる話がある。
「そこの守衛さんたちが手伝ってくれて山狩りしたと。あれから被害もなかと。」
ただ、と声を潜める。
「ちきっと、気ぃつけなせ。関わらん方がよか。えらい人の考えることは、ようわからんもん。」
狩猟に出るハンターも、あっち側は行かない、と声をひそめ付け加える。
「ありがとうございます。道、間違えないように気を付けます。」
あはは、だいじょうぶね、と陽気に笑った。視線が僕の後ろに半分隠れている紫藤に向かう。
「彼女さんね。かわいかねー。」
紫藤はびくっとして、そんなことありません、ともごもご言っている。
「なぁん、かわいかよ!ほら、たっぱい(恰好)もよか彼氏さんだが。守ってもらいなせ?」
赤くなって、ありがとうございます、と紫藤がいう。
「これ、持っていかんね?」
お土産までもらってしまった。
ーーーーー
丁重にお礼を言って別れる。
「いい人だったねー。」
紫藤が言う。もしかして、かわいいと言われて喜んでいる?
もっと話したかったのかもな。
僕はここで聞いた話に、興味を覚えていた。
人が引き裂かれてはらわたを食われた。
まあ、ありうる話ではある。
ただ、ここは北海道じゃない。クマといっても、いるのはツキノワグマ。
もちろんツキノワグマも人間より強い。生物として強い。
でも山菜を採りにくるような、おそらくは山に慣れた矍鑠とした老人を襲い、手足とはらわたを食い尽くす。駆け付けた駐在さんが卒倒するほどのやり方で。
そこまで狂暴なクマがいたのだろうか。ほんの1、2年前に?その前には、同様の前科もなく?
また気になる点はほかにもある。一帯のクマは駆除されたと言っていたが、犯人のクマが駆除されたとも、手足が見つかったとも言っていなかった。この点は確認不足ではあるが。
ぼくはあの動画の、谷津崎老人と推測される怪老人の人外の膂力を思い出していた。
あれなら人の手足は容易にちぎり取れるだろう。
クマと思われていたなら、山荘の中にまでは捜査も及ぶまい。
1、2年前。
そのころに、あの呪われた王冠(?)が谷津崎老人の手に入ったのだとすればーー?
考えているうちに、分かれ道に来た。
確かにわざわざこちらに行くことはないだろう。
この山道とクロスする形で、1車線だが舗装、整備された道路が走っている。この舗装された道路を、左手の方に行けば、おそらく谷津崎老人の山荘があるのだろう。
立派な道路だ、こちらの方こそが本道に見える。今まで僕たちが歩いてきた方は獣道に近い。
ただし、この舗装された道路は私道だ。
山道とクロスする部分に、上り側も下り側も可動式ゲートが道をふさいでいる。
この先に、谷津崎老人の隠棲している山荘がある。
貴重な情報だ。僕はこの場所を頭に刻んだ。
右手の方は、どこに続くのだろうか。僕は地図を確認したが、山道より広いのにこの私道は記録されていない。
測量等をさせてもらえなかったのかな。あるいはコネか何かで、記載を外す形で便宜を図ってもらったか。
もはや興味を失った紫藤が、早く早く、あなたのかわいい彼女さんがクマに襲われちゃうよ、と言いながら先に立って急き立てる。
僕も紫藤をがおーと言いながら追いかけた。
ーーーーー
山道を歩いていると、紫藤が立ち止まった。なんだか、感動したような顔をしている。
「志野くん、あれ。」
指さす方向を見る。
ちいさな塊が、1個、2個、3個。
「瓜坊だね。」
母親は姿を現さない(あるいは先行して姿を消した?)が、小さな猪の子供が道から林に消えていく。
「ねえ志野くん。カメラってあったりする?」
もちろんさ。
すっかり忘れてたけど、紫藤の写真を撮りまくる気でいたんだった。
忘れてたよ。駅とかでも撮っときたかった。
ポケットに使い捨てカメラを移した。
もちろん、この場でも一枚撮った。
紫藤が強く主張して、カメラを持つ手をいっぱいに伸ばして二人で映るようにした。
でも、紫藤単独の写真も1枚撮らせてもらった。
野球帽の下から、紫藤は、満面の笑みを浮かべてこちらを見ている。ピースサインつきかよ。
リップクリームを使い始めてもらってからほんのちょっとしかたってないのに、唇がつやつやしてる気がするな、と思った。
ーーーーー
約1時間経過、午前10時すぎ。
峠っぽいところで小休憩する。
ずいぶん歩いたね、と言って紫藤が伸びをする。
背中を反らせたカーブが尊い。うん、そろそろばれてると思うけど、背中フェチなんです。
お腹すいてない?と聞くと、大丈夫との答え。
のどは乾いたので、お茶を開ける。どちらが先に飲むかについての論争に5分は使った。
いや、もちろん紫藤に先に口をつけて飲んでもらいたい。
その後でべろべろと、ーーー。
でも紫藤もそれを読み切っている。真っ赤な顔で抵抗する。
仕方ないので、じゃんけんをして勝った側が普通にお茶を飲み、負けた側がキャップに注いで飲むことにした。
負けたよ。キャップで飲んでも飲んだ気にならない。
紫藤が勝ち誇っている。得意そうに「志野くんは、ざこだよ。」「わたしに勝てると思うなんて100年早いね。」「ねえ、キャップで飲むのって流行ってる?」などとマウンティングしてくる。ウザかわいい。
僕の計算ではあともう30分くらいだと思うのだけど、まだ町は見えない。
「ねえ、あれって家?」
紫藤が指さす。紫藤は目がいいな、僕はあまりよくない。
普通に暮らしてる分には眼鏡はいらないが、免許にはもしかすると眼鏡がいるかもしれない。1回目は眼鏡等が条件になってた。
目を凝らすと、こんな山の中に家っぽいものがある。
山作業用の小屋だろうか。それにしては大きい、小屋というよりちゃんとした家に見える。
谷津崎老人の関係の家ではなさそうだが。
こんなところに住んでいる人もいるんだな。
あのおばさんみたいにこの道を使う人もいることだし、山にも人が住んでいておかしくはないが。
ーーーーー
再出発。
思ったとおりで、起伏が激しかったが30分少しで人家が見えてくる。
温泉街の外れに出たらしい。でもここまでで、かなりの冒険を尽くした気分だ。
小さな川がある。水面からはわずかに湯気が出ている。
ただ、入れるほどには温かくないようだ。
観光案内所で町の地図をもらう。
昼食には微妙な時間だ。まだお腹もすいていない。
温泉街を探検してみる。
風情のある古い木造建築の旅館もある。恋人たちのための派手なネオンのホテルも。
ごちゃごちゃとしていて、人の行き来も多い。活気がある。
道はとても狭く、くねくねと続いている。起伏も激しい。
こぎたないが美味しそうなラーメン店。温泉卵と肉まん(小籠包はまだこの時期、一般的でないのだろうか、見当たらなかった)、たこ焼き屋さん、たい焼きの屋台。いろいろな料理屋さん、飲み屋さん。
場末のスナックみたいなものもたくさん。少数ながら、石鹸の国や脱衣劇場(意訳)と疑われる、入り口に淫猥なネオンがちりばめられた入口もある。二人とも、顔を伏せて通り過ぎる。紫藤も意味がわかってるのかな。
濛々と換気扇から湯気が噴出しているお店で、温泉饅頭を買い求める。
ちょっと高台の見晴らしの良いところに出る。眼下に、迷宮のように温泉街が続いている。
二人で温泉饅頭を食べながら、顔を見合わせた。
「思った以上に大きいんだね!連休中だからかな、人も多いね。」
「お店もいろいろあったね。」
「わたしはあの、途中のお店が気になった。」
「あのネオン?」
「違う!志野くんの変態!」
頬を膨らませる。
「あの蒸し料理のお店だよ。温泉の湯気で蒸し上げるって。美味しいかなあ?」
「蒸し料理か。」
温泉卵くらいしか知らないが、豚のキャベツ重ね蒸しとかは自宅でやっても美味しいよね。
「とり天のお店も気になるけどさ。」
「あー、あれも美味しそうだったね。名物みたいで、列もできてた。」
美味しいんだろうな。でも、並ぶのに時間がかかるのはちょっと避けたいかな。
いくつか見当はつけたが、まだ早いし、先に遊歩道を行こうか?ということになった。
まだ11時少し過ぎ。軽く歩いて戻っても1時くらい、悪くても2時前には十分に戻れるのではないか。
ただ、紫藤は大丈夫だろうか。昨日もかなり頑張っていたようだし、今朝も早かったみたいだし、予定外の歩きも加わっている。
お伺いを立ててみる。
「もちろんだよ!そのために来たんだし。」
大丈夫らしい。
紫藤は運動が得意かどうかわからないが、少なくとも健脚だと思う。太腿とかふくらはぎも決してそんなに細くはない(ただ、僕の好みからするともう少し太くていい。そういうのが好きなんだ。)。
いくつかコースがあるが、川を遡り、滝を見に行くやや短めのコースにしよう、ということになる。
登良川の支流を川沿いに進む遊歩道。遡ると、途中に神社や小さな滝などのスポットがあるらしい。
遊歩道は全体ではかなりの距離があるが、滝までの往復で1時間半から2時間くらいだろうか?疲れたらその手前で引き返そう。
川沿いの遊歩道を歩く。
景色はかなり変化に富んでいて、温泉地の近くの一部では、硫黄が噴き出る地帯も通る。
天候等によっては通行止めになるらしい。
漂う硫黄の成分のせいか、ガードレールなどが錆びている。
いわゆる地獄めぐりとしては、このコースは温い。すぐに普通の山林の景色に移ってしまう。
そのあとは一般的な山道。思ったとおり、紫藤の服装でも基本的に問題ない。
もちろん本格的に夏になると、虫も多くなるだろうし、タイツがあるとはいえ厳しいだろう。
1時間後には滝を仰いでいた。有名な華厳の滝のような堂々としたものではなく小さいものだが、美しい。また紫藤を入れて何枚か写真を撮らせてもらおう。
ただ、ちょっと曇ってきたな。
山の天気は、変わりやすいというがーー。
結論から言うと、僕らは降られた。びしょぬれになった。
方言については、少し記憶違いもあるかもしれません。