タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
せっかくなら。紫藤実父の居所と思しき現場の当てをつけておきたい。
紫藤の目撃した状況、そしてこの場所から推測すると、多分その龍神沢ダム建設関係の飯場とかなのだろう。
この村が水に沈むのなら、この近くだろう。ただ、たまたま通過しただけで違う案件だったら、この近辺じゃないかもしれない。
もし竜神沢ダム関係だとしたら。僕の父が視察に来たというのが本当だったら、その伝手を使うのもありか。
安全策はそちらだろう。
あの臆病な紫藤がここまで頑張ってきたんだ。少しは手伝ってやりたい。
紫藤に、相談する。その工事現場か何かの場所を知りたいのなら、探す、と。
紫藤は遠慮したが、小一時間探して見つからなかったら引き返すという約束にする。
結果論として、飯場は見つかった。集落からは少し離れているが、不便でないのだろうか。
道路の拡幅作業とか周辺整備の段階だからかもしれないし、立ち退きとなる予定の(?)集落との協定とかの関係で、外れたところに設置したのかもしれない。
遠目に確認。
いくつかの特徴から、紫藤を今連れて行くのは下策のように感じる。
作業員たちはいま現場に出ている。その作業中に邪魔するのもいい顔をされないだろうし、終わってから飯場に顔を出すのも、むしろ(もしいるとしたら)紫藤実父への当たりが強くなりかねない。
また確認することを約束して、今日は引き上げよう。
紫藤は俯いてた。
せっかく掴んだ手がかりだ。早く実の父親に会いたいんだろうな。
鈍感な僕ですら、心が痛む。
昔の人は脳じゃなく心臓に感情が宿ると信じてた。まあ、こういう思いをしてた経験則なんだろう。
帰り道。
行きは脳内麻薬で気づかなかったが、結構な距離がある。
上り坂は紫藤と並んで自転車を押して歩く。
昨日の雨が一転して天気が良くなり、暑くなった。
制服の上着を脱いで部活用のバッグに入れる。紫藤も暑そうに胸元を引っ張って隙間をつくり、パタパタ手で扇いでる。
紫藤もさっきまで萎れてたが、やや復活してきているな。
道端の花とかに興味を示している。また瓜坊の出現を期待しているフシもある。
たぶんいないと思うが、クマは出てきてほしくないな。今日は鈴もクマ除けも持ってきてないんだ。
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急坂をどうにか越えると、後の緩い坂は後ろに紫藤を乗せて流す。それを何度か繰り返した。
警察はここにくるまで見かけなかったが、交番は見た。
そこら周辺は歩きにしよう。正確な場所は覚えていないけど。
坂を下っていると、紫藤がまたぴたっと頭を付けてきた。
汗でべたべたしてないかな。気が気でない。
「志野くん、何にも聞かないんだね。」
「さっき聞いたよ。」
「違う。なぜこんな馬鹿な真似してあそこに行っちゃったか、ってこと。」
「ーー。」
「今のお父さん、本当のお父さんじゃないの。」
「ーーそうか。」
「お母さん、離婚して、再婚したの。中学生のとき。」
僕も部分的に知っている事情をぽつぽつと言う。少し幼い口調になっている。
「前のお父さんをみたの。本当のお父さんを。」
紫藤によると、前父は離婚してから、一切の連絡を絶ったという。連絡があると迷惑がかかると恐れたのだろうな。
親の借金のせいで子供が売りとばされたり、親の借金の返済をもとめられたりという話、今も、そして十数年後の未来も、決してなくなったわけでもないし。
「調べてみようとしたけど、わからなくて。生きてるかどうかも。」
だから、似た姿をみて、抑えきれなかったという。
すごい勇気を振り絞ったことだろう。
なんと返していいかわからないが、オウム返しに相槌をうつ。
国道に合流する地点まで戻ってきた。
紫藤も語り終えたのか。僕の背中に顔をつけたまま、じっとしている。
ちらっと後ろをみると、足に力が入っていない。ふらふらと揺れている。
裏道をゆっくり進むつもりだが、眠り込むのだけはやめてほしい。落ちたらシャレにならないから。
そういうと、感傷に水を差されたのか、「むきー」とか言いながら顔を僕の背中から離して、片手は僕につかまったまま、器用に片手だけでぽかぽか背中を叩いてきた。
元気になったようで何よりだ。
戻る途中、一度公園で止まり、休憩する。
小学生低学年くらいの子供たちがが、回転式の丸いジャングルジムを回してぶら下がっている。きゃあきゃあと楽しそうだ。
保護者はいない。この時代、いないのが普通。
紫藤と口裏合わせをする。
仙図里商事の輿抜毛さんは、紫藤が今日は別の担当者について外回りの営業補助をするはずだったのを忘れていた。
紫藤は朝来たらすぐ別の担当者について事務所を出て行ったので、輿抜毛さんは紫藤が来てないと勘違いしたんだ。
その別の担当者からの連絡で、それが判明。
そのうえ、輿抜毛さんはうっかりやさんで、紫藤の実家へもう一回連絡するつもりだったのも、すっかり忘れていた。
帰り際に輿抜毛がようやく思い出して、あれゴメン、家の人によろしく言っといてね!と紫藤が言われた、ということにする。
声も若いし、まだ若造でいろいろ抜けてる人みたいなんだ、輿抜毛さんは。
うん、まあまあじゃないかな。
その後、仙図里商事の社員たちの細かいプロフィールを紫藤を言い合う。口裏合わせを超えて、どんどん具体化されていく。さすが文芸部。サザエさん的なほのぼのとした会社になった。連休中に仕事がすし詰めのブラック企業だけど。
イベントを請けててたまたま人手が必要になった、ってとこかな。
連休が終わった後の土日の計画も立てよう。
紫藤としても、毎日学校があり、土日も休めないのは大変じゃないか?
そう聞くと、紫藤はぶんぶんと頭を振って否定した。
家にいても安らげない。むしろ外、学校がいい、らしい。
紫藤母は今回一息つくことができて休みを入れたらしいが、依然として金欠状態なのだろう。まだまだぎっちりと仕事が入っている、過労状態。
継父が紫藤に体罰を加えてることから推測されるように、家の中もギスギスしてるのだろう。
避難場所が必要か。
文芸部の部室の、あの和室の部屋、あるいはこの前探検した、あの開かずの部屋。
あれを避難場所にしたいな。
いつもは和室の部室を使って、そこがダメなら開かずの間か。あまり足しげく通うとバレるだろうけど。
うん、耳かきを少し期待してるんだ。ああいいよ、ゲスだってことは自分でも分かってる。
医学的には耳かき、あまりやっちゃいけないらしいね。
じゃあマッサージだな。いや、あの、もちろん肩もみとか、背中を踏んでもらうとか。ミテコなんだから、健全に健全に。
裏オプを何か考えるか。
む?何かを察知した紫藤が、ホラー映画を見る子供のような興味と怯えの入り混じった顔をしている。
黒い波動が顔に出てしまってたかな。反省。
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少し途中でゆっくりしてたのもあって、5時近くに。
もう帰宅しても不自然な時間ではないだろう。
明日は土曜日。普通の生徒は授業がある。
僕たちは土日にインターハイの予選試合が入る。土曜日午前は公欠だ。紫藤とは会えないだろう。
その次の週はテスト前週。部活はなくなる。
土日に会えないのは辛い。
紫藤分を補給しておかねば。
家の近くの公園だと目撃される恐れがあるが。
性欲には勝てない。周りの子供の隙を見澄まして、キスをする。
いや、この時代のガキども、そんなところ目撃したらすごい囃したてたりするんだぜ。やってた本人がいうんだから間違いない。
あと諸兄は、公園の植え込みに隠れて、ーーとか考えるかもしれないが、要注意だ。
たいてい、雨や朝露に濡れたエロ本が転がっていて、すごい雰囲気ぶち壊しになる。
だから男はろくでもない!--みたいな目を向けられるのもいいけど、その役は調布さんがいいかな。
うん、あのまなざしで冷ややかに侮蔑されてみたい。早く学校で再会したいな。
紫藤はそんな感じじゃなくて、すごい赤面するんだ。
こっちまでいたたまれなくなってしまう。
と同時に。
この当時人気があった、霊感少年を主人公としたバトル漫画(?)の○水編で出てきた、例の門番の名言を思い出してしまうのだ。※1
そう、純真な女の子に、醜悪な(と僕は思わないのだけど)性の真実を突きつける感覚。
ぞくぞくする快感があるな。
うん、こっちもこっちでとても良い。
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紫藤の家のそばまで送り届ける。
また公園で少しベンチに並んで話した後、慎重にあたりを伺い、人影の有無をチェックして。
しゃべってる紫藤をそっと引き寄せる。紫藤が赤くなって俯く。
少し上を向いてもらって、キスをする。本日2回目、貯金貯金。
柔らかい唇。どうしてだろう、甘い香りが強くなる気がする。
これが、フェロモンとかいうやつなのだろうか?あれって匂いがするものなのか?
舌を誘いこんで軽く吸ってみると、ぴくんと肩を揺らして、どうしていいかわからない様子。
突きのけたいのか、抱き着きたいのか、肩の高さに持ち上げた手のひらがさまよっている。
その反応に、また息子が立ち上がってしまう。
家の近所だと、紫藤を知っている人に見られるかもしれない。
それを考えると本当は避けるべきなんだろうが、どうしても性欲に勝てないのだ。
しばしのやり取りの後、紫藤を見送る。
また、とても切なそうな目でこちらを見て、手を振って、家に入っていく。
これでひと安心だ。
忘れてた、自分の家への連絡もしておかねば。
多分、全く心配してないだろうな。
ところでこんなにハードに走ったけど、予選は大丈夫かな。筋肉痛で負けました、なんて展開あったらいやだ。
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うん、軽く筋肉痛が残った。
だけど次の日、土曜日からはインターハイの県予選が始まった。
初日はシングルス、トーナメントだ。
2日目の日曜日はダブルス。たまたま人数が奇数だったのもあって、僕はエントリーしていない。残念がられたけど、協力なんかできる性格じゃないんだよ(恥)。応援にはもちろん出る。
シングルスのベスト16、ダブルスのベスト8は6月初めの土日にある決勝リーグ進出。その翌週の土日には団体戦だ。
県予選初日のシングルス。僕の初戦の相手は僕と同じような進学校の学生。
糸のように細い腕だが、結構負けん気でついてくる。タイプは僕と似ている、ラリーを続けるタイプだ。
でも、相性が良かったのか、カットで粘ると相手の方が先にネットにボールをかけるパターンが続き、勝利を挙げた。
たまたま早く組み合わせが決まり、第2回戦。こちらは小柄で敏捷な動きをする油断のならないペンホルダーだったが、センスはいいものの経験は短いのか、勝つことができた。
午前中の出番はそれで終わり。他の部員の試合を観戦し、対外試合のときくらいしか姿をみない顧問の先生と部員のみんなとでお昼を食べて、午後からの3回戦に進む。
午後の3回戦。相手は僕と同学年だが、いがぐり頭にして、工業高校のいかにも体育会系の男。気合が入ってる。
正統派というのだろうか、ペンホルダーでフォアハンドからは矢のようなスマッシュが来る。台から距離を取り、ラリーに持ち込む。
相手は強い、だが緊張している。僕はそれに対しさすがに緊張する年齢でもない。若いってかわいいなと思う。
変則的なカットで返すと、相手はうち損ねて台を外した。ポイント。
2回そのパターンが続いたところで、今度はラリーから前に出てバックハンドのスマッシュを試す。ペンホルダーもバックハンドは対応できるが、強打は一般的には苦手だ(例外もいる)。カットからいきなりドライブを強めに掛けたせいもあって、相手は上に打ち上げてしまった。
卓球は精神的な安定が重要な競技だと思う。その後、サービスもネットにひっかけてしまった相手を追い詰めて、1セットも取らせず3回戦を突破できた。
この時点でかなりの好成績だ。
ふと観客席を見上げる。
卓球ほど大会場での観戦が合わない競技もないと思う。
近くの台はまだいい、中央付近なんか豆粒で何やってるかもわからないだろうに。
だけど2階席の端っこに、ちょこんと座る少し色の薄い髪を発見する。
今日午後は自由時間ということにして、会場も言っていなかったが、聞きつけて授業が終わってから駆けつけてくれたのか。
手を振ってみると、こわごわと振り返された。
柄にもなく胸が熱くなった。
うん、やっぱり感情の座は心臓にある。古代ギリシャ人は正しいよ。
4回戦、勝てるとは思っていなかった。はっきり言って4回戦進出で十分優秀な成績といえる。
このときまでに4回戦に進出できたのは、3年生の先輩1人と、僕だけ。
この試合はシーソーゲーム。相手は強豪校でも準エース級と言ったらいいのか、相当に強い相手だったらしい(僕は全く事前研究をしていなかったが)。
シェイクハンダー同士、だが強烈なドライブをかけてくるかと思えば、時に小技を織り交ぜてくる。
こちらは初見殺しに徹する。だが第3回戦を見ていたらしく、なかなか嵌ってくれない。
無理をして奇手を試す。
フォアハンドでスマッシュを打つとき、普通の面と逆の面を使う。手首を裏返して、その手首のスナップで打つのだ。ロシアンフックの卓球版だな。コントロールに難があってあまり実用性が高くないが、想像以上の強打が出せる。
偶々今日は調子が良かった。相手が対応しきる前に、立て続けに相手に打ち込み、流れを引き寄せることができた。
追いすがってきたが、一進一退に持ち込み、リードを守り切る。
大番狂わせ、だったらしい。
まああの秋月さんと一緒にかった万馬券みたいなもんだな。
ちらっと観客席を見上げる。
少し色の薄い髪が揺れる。
ちょっとでも話がしたい。
ーーーーー
紫藤は目でこちらを追っていたようだった。僕が皆を離れて紫藤の方向に向かうと、ぴょんと席から立ちあがり、逡巡した後で通路をこちらに駆けてくる。
「勝ったんだよね!?すごいよ!」
「うん、ありがとう。紫藤さんが応援してくれたおかげだよ。」
最近、紫藤を「紫藤さん」と呼ぶのが、少しそぐわない気がしている。
「みなりさん」とか「みなり」って、名前呼びさせてくれないだろうか。
でも、まだちょっと早いかな。僕たちの間はともかく、クラスのみんなからは、いきなり数段飛ばしに見えるだろう。
すこしずつ馴染んでいってからにしよう。
「見ててもよくわからないでしょ?ちょっと地味なスポーツでね、ーー。」
「そんなことないよ、わたしはルールとかはあまりわからないけど、ーーすごかったよ。うん、志野くん、」
ちょっと言葉に詰まったが。
「かっこよかったよ!」
満面の笑み。
もし周りに誰もいなかったら、抱きしめていたに違いない。
「だけど、抜けてきて大丈夫?他の試合とかーー」
人間関係を気にしているんだな。いい子だ。大丈夫、もうあきらめられてるみたいだから。
もちろん名誉のために言っておくと、僕が2回目を始める前に、既に。
2回目が始まった後の最近は、他の部員からは付き合いが良くなってきてると思われてるみたいだ。
連休中の練習も時間はともかく、回数はほ毎回だったしね(5日は学校自体が閉鎖してた)。
さて。5回戦だな。
ーーーーー
決勝リーグがかかっているだけあって、これはもう運ではどうしようもない。
じりじりと力負けしている。
相手は中堅の進学校だが、3年生。剣道部みたいな、男前の彫の深い顔立ち。
どうしてあんたみたいなリア充めいた人が卓球やってんですかね。
奇策で対抗してみよう。
3メートル、いや5メートルくらいは離れて相手のスマッシュを拾いまくる。
相手もまさかこの段階でこんなことをしてくるやつがいるとは思ってなかっただろう。だが、さすがだ。冷静にスマッシュを繰り返す。
だが、相手のスマッシュ、すこし疲れたのかわずかに威力が落ちてきている。
いつまで続くんだろう、って思ってるな。わかるよ。
バックハンド側に来たボール、これならなんとかなるか?。
思い切りよく背中を見せて回転。体の回転を乗せて、いわば裏拳側でボールを強く打ち返す。
こんなの冗談とはいえ練習したことがあるの、僕くらいだろう。
そもそもボールから目を離すのだ。正気の沙汰ではない。打ち返すボールのコントロールも困難だ。まともな選手がする技では絶対にない。
だが、実力においてはるかに勝る相手に勝つには、尋常な手段ではもとより無理だ。
思い出づくりでいいよ、何でもやってやる。
予想外の打ち込みに、相手は茫然として、ボールに追いつけず。
ポイントを取る。
唖然とした周囲の雰囲気。
いくつかの正気の沙汰でない小技。いくつかは不発だったが、相手のペースを崩すことに成功。
どんなびっくり箱があるかわからないものな、腰が引けてしまったんだろう。
万馬券、ふたたび。
僕は決勝リーグ進出を決めた。ほんとかよ。
うん、同じ学校のやつらが一番唖然としてたよ。僕のこと評価してくれてたと思ってた、同じく決勝リーグ進出を決めた先輩も。
そして僕も、内心まずいことになったと頭を抱えていた。
歴史のコースから外れすぎだ。しかも斜め上に。
何の心配もなくうれしそうだったのは紫藤くらいだったよ。
もちろん冷やかし半分に讃えられ、また心配されつつ解散した後。
紫藤を捕まえて二人で帰った。
※1→「「キャベツ畑」や「コウノトリ」を信じている可愛い女の子にーーー」。確か、幽遊○書12巻の台詞。
あと卓球関係はガチでないのですごい適当、記憶違いも多いかも。すみません。