※この作品はR-18です。

タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。   作:Marchhatter

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 不適切で不快感を抱かせる可能性のある表現があります。ご注意ください。


38 四当五落は迷信だ(3)(紫)☆

 そろそろ危ない。そういう気はしていた。

 警戒が足りなかった。いや、警戒の問題じゃない。警戒しても同じだよね。

 覚悟。そう、覚悟の問題だ。覚悟が足りなかった。心の準備不足だった。

 手首にきりきりと食い込む縄に吊り上げられながら、わたしは唇を噛んだ。

 父の、酒に焼けてはいるが無駄に美声なバリトンがうざい。脂肪女のガラスをひっかくような嬌声が耳障りだ。

 あとどのくらい続くんだろう。

 

 ーーーーー

 

 ここ2日ほど、お父さんの機嫌は妙に良かった。

 あのお父さんの愛人なのだろう、脂肪女を引っ掛けられたからだろうか。

 わたしのバイト収入のせいだろうか。

 それとも、わたしの売り先がうまく決まりつつあるせいだろうか。

 千里への当たりも強くない。昨日、千里が「頑張ってるか」って激励されたって不気味がってた。

 

 ただ、お父さんの視線が粘ついてる。気のせいでなければ、ーー性欲を向けられている。

 いままでわたしは、そんなに興味を惹く対象ではなかったんだろう。

 再婚相手の連れ子。やせっぽちの、まだまだ胸も平らな小便臭いガキ。

 そんなとこか。

 高校に入って少ししてからかな。胸を触られたりとか、するようになった。

 半年くらい前から、もっと変態的なことをされるようになった。

 そしてそれは、このまえお尻を叩かれたときくらいからエスカレートしてきている。

 

 「おかえり、みなりちゃん。」

 

 きしみながら開いた家の扉。

 漏れ出す姦しい声に絶望しながら、靴を脱いで家に上がり、リビング入口をくぐった。

 強いアルコールの臭い、そしておかしな芳香のする煙草の白い煙。リビングの蛍光灯が少しかすんでいる。

 お父さんが、へらへらと私を呼ぶ。

 今日は、薄いサングラスをかけてるな。

 

 「ただいま戻りました。お父様、須辺田様。」

 

 「ご挨拶できるようになったのねぇー。下の名前も呼んでもらいたいのだけど。」

 

 「はい、須辺田テメコ様。」

 

 前回、この脂肪女の名前当てをさせられた。外したら3センチずつ足首に縛った縄を引き上げられて、大変な目にあった。

 それにしても、いまでもこの女の名前、音は当てたけど、どんな漢字を書くのかわからない。

 貞芽子かなって思ったけど、違うって言われたよ。

 あと名前の音をたまたま当てたら、不機嫌になって責めが加わった。理不尽だ。

 

 「どれ、どのくらい育ったかな。ーーほう。また少し大きくなったな。」

 

 前は口で胸のことを言っていても、罰とかの口実がなければ触らなかったのに。

 今では、臆面もなく胸をつかむようになった。

 つかめるくらい胸が育ってきたってことでもあるけど、全く喜べない。

 せめて志野くんに(恥ずかしいので以下略)。

 

 「まだまだ、まな板じゃん!」

 

 脂肪女がちょっと不満そうだ。脂肪女の胸は確かに大きい、わたしよりずっと。

 

 「ねぇ、こんどはぁ、何をまなんでもらおうかぁー、イサムくん。」

 

 「そうだな、いろいろ勉強してもらおうか。どんどん賢くなるな、楽しみだな。」

 

 「みなりちゃんったら、ちゅうおう(※多賀島中央高)なんでしょ、お勉強だいすきだろうなー。」

 

 笑いあってる。

 お腹の中に、溶岩のような熱い怒りがこみ上げる。

 人のことを玩具にしやがって。

 でも、わたしの怒りは長続きしない。ぷしゅう、と水を掛けられたように冷めていく。むなしさだけが残る。

 認めよう。わたしはこいつらの玩具なんだ、家を出るまでは。

 そして、この死んだ巨獣の亡骸、つまり家を出ることはできない。

 この亡骸に囚われてるお母さんがいる限り。

 この亡骸の腹の中の寄生虫たちに、弄ばれるだけだ。

 

 「ねぇねぇ、それでさ、イサムくぅん。」

 

 脂肪女の目が輝いている。

 

 「なんだい、てめちゃん。」

 

 「しりたい?」

 

 「ああ、何でも知りたいぞ。」

 

 「あたしねぇ、みなりちゃんのことをずうぅっと考えててぇ、ねむれなかったのぉ。」

 

 「ははは、こいつめ。」

 

 「このときめく感情はぁ、もしかするとぉ、恋ぃ?」

 

 「ははっ、俺を差し置いて何を言ってるんだ。」

 

 楽しそうですね。おふたりだけでどうぞ。

 わたしを巻き込まないでよ。

 

 「それでさぁ、こんなこととか、あんなこととか。」

 

 「ほうほう。なんだ、図解か。」

 

 「みなりちゃんを、こんなにしちゃおうかってね。」

 

 稚拙な棒人間の絵を描いた紙を、ひらひらと振って見せる。

 

 ちらっと目に入る。

 

 棒人間がとがった三角形に跨らせられていたり。

 焼けたアイロン(?)を背中に押し付けられていたり。

 びりびりと感電していたり。

 まだまだたくさんあるのが、ちらっと見えた。

 最初のは経験済みだよ。想像力が貧困だね。

 

 「きょうはぁ、前回の続き!大開脚ぅ!ぱちぱちぱちぃ!」

 

 「おお、やるか。」

 

 ああ。

 分かってたら、柔軟体操して対策してきたのに。

 まあ無駄だろう、こいつらが期待するのはわたしが苦しむ様子を見ることだ。

 柔軟体操して体を折りたためるようになったら、こんどは重しまで載せるようにするだろう。

 

 「何を当ててもらおうか。」

 

 「せっかくだからぁ、お勉強になるようにしてあげようよぉ。あ、算数の教科書だぁ。」

 

 女がわたしのバッグを勝手に開けて漁ってる。

 それ算数じゃない。数学だ、幾何だよ。

 

 「このムズかしそうな問題を、暗算でやってもらいましょおぉぉ!」

 

 「おおー、みなり、よかったな!」

 

 暗算でできる問題じゃないよ。幾何だよ、図形を見ずにどうやって解くんだ。

 

 「あれ、みなりちゃん、元気ないぞぉ?お礼の声が聞こえないなぁ?」

 

 「勉強させてやるんだ、礼を言うんだ!」

 

 「ーーありがとうございます。お父様、テメコ様。」

 

 「さあ始めようか。まず、ーー」

 

 「れっつぅ、ちゃれんじぃ!」

 

 お父さんも脂肪女も生き生きしてる。ろくでなし。

 

 -----

 

 「気になってたのよねぇー、前回は体の前に片脚だけ上げてもらったけどぉ。」

 

 脂肪女が、妙な器具を部屋の隅に置いてあった、丈夫そうなキャンバス生地の袋から取り出した。

 袋はサンドバッグほどの大きさで、ガチャガチャといろいろな棒のようなものが入っている。 

 

 「なんだそれ、気になってたけど。ゴルフクラブか?」

 

 「ちがうわよぉ、イサムくん。お道具ぅ、借りてきたのぉ。」

 

 拷問器具。

 そのまがまがしい器具に、わたしが抱いた印象はそうだった。

 それで、おおむね間違いはなかった。

 

 「あたしの行きつけのハプバーでぇ、これ使ってたのみてぇ。ああ、みなりちゃんに、って思ったのぉ。」

 

 ああ。

 余計なことを。

 

 目の前に引き出されたのは、黒光りする鉄パイプに、いくつかの使い込まれた革のベルトがついているものだった。

 黒パイプは、蝶番で連結できるようになっていた。

 まがまがしい。

 脂肪女は、わたしに床に横たわるように言った。

 しぶしぶ、床に横たわる。ゴミが目につく。

 制服、汚れないといいな。

 

 「この前、最終的には伸ばしたけれどぉ、みなりちゃんの膝が曲がってたのねぇ。」

 

 「それにぃ、たいぜんくつだけじゃなくてぇ、かいきゃくもぉ、できるようにならなきゃねぇ。」

 

 体前屈ってのは、あのこの前の片脚上げのことをそう呼んでるんだな。本当は違うと思うけど。

 バレエでは、グラン・バットマンっていうんだっけ?

 今日の大開脚、って?どこが違う?

 

 「ひざを曲げられないようにぃ、これでまっすぐにしまぁす。」

 

 わたしの脚、膝の内側の方に一本のパイプが添えられ。

 パイプに合計6か所ついてる、ベルトが絞められた。

 腿の付け根ちかく、腿のまんなか、腿の膝上のところ、ふくらはぎの膝下のところ、ふくらはぎのまんなか、そして足首。

 パイプは一部ねじが切ってあり、伸縮できるようになっていて、わたしの脚の長さより少し短めに調節された。

 革ベルトは、肉に食い込むようにぎりぎりと締め上げられた。

 脂肪女ほどぶよぶよでないつもりなんだけど、これじゃボンレスハムだ。恥ずかしいよ。

 

 そして、蝶番でつながっているもう一本の同じようなパイプも、同じようにわたしのもう一本の脚に固定された。

 二つのパイプをつなぐ蝶番は、股の下にくるが、--その蝶番部分は、棒と棒とがそのまま蝶番で直結されるのでなく、棒の端が細工され、ちょうどコの字型に、空間が開くように連結されるようになっていた。

 おそらくは。

 おぞましい想像だが、脚を広げさせたあとで、股の部分を様々な手段で苛むことができるように。

 わざわざそこに空間が空くように、巧妙に作られていた。

 

 「そしてぇ、みなりちゃんを吊るしますぅ。」

 

 「俺の出番か!」

 

 お父さんが腕をまくって興奮してる。でも。

 

 「じゃじゃじゃーん、べけっと付き滑車ぁ~!」

 

 頑丈そうな滑車を取り出す、この悪のどら○もんをどうにかして。

 

 「これで、みなりちゃんをかんたんに吊るせますぅ。こうして使えば、なんと四分の一の力で!」

 

 手首の擦り傷のことを言って、布を巻いてくれるよう懇願した。

 一笑された。そんな小さなこと、気にできなくなるって。

 

 「みなりちゃんはかわいいですねぇ~、そんなこと気にするなんてぇ。」

 

 ゲラゲラ笑いながら、ドラ○もん脂肪女とお父さんが着々と。

 

 わたしの手首に縄を巻いた。念入りに。

 両足首にも縄が巻かれた。

 そして。

 

 天井のフックに掛けられた滑車が巻きあげられた。

 滑車に手首の縄でつながれた私は、吊るされた。足の親指でようやく床に触れるくらいに引き上げられる。

 縄が食い込んで、手首が痛む。それを避けようと足の親指で体を支えようとするが、親指で支えきれない。

 また筋肉痛だ。腿の、ふくらはぎの筋肉に力を込めてる。いっそう深く革ベルトが食い込む。

 手首の痛みを和らげようと、手のひらで縄をつかんで少しでも荷重を分散しようとする。

 

 「ふつうはぁ、手首に負担がかかりすぎないようにもう少し縄やベルトをかけるけどぉ、」

 

 嗜虐的な笑みを浮かべて。

 

 「みなりちゃんは、ちゅーおー高のゆーとー生だから。がまんできるよね!?ピーピー泣けやコラァ。」

 

 急に低い声でドスを利かせる。

 目が合う。

 冷たい憎悪を湛えた目。

 蛇のような目、というのがもしあるとすれば。

 そういう目をしている。

 わたし、どうしてこの人にこんなに嫌われているのだろうか。

 あいさつしなかっただけじゃないよね。

 

 「そして、みなりちゃんの脚を開きま~すぅ。」

 

 足指での支えが外されて、縄が引かれ、脚が左右に開かれる。ほどよく引かれたところで、足首を縛った縄の両端は結び合わされ、頭上のフックに掛けられた。

 そしてぎりぎりと手首に重さがかかる。でも、それどころでない事態をわたしは予見して、青ざめた。

 

 「そしてゆっくりと滑車を戻していくとぉ、あらぁ不思議ぃ!」

 

 わたしの手首に結わえられた滑車が回転し、わたしは少しずつ降ろされて、地面に近づく。

 先端が頭上に結ばれている、両足首を縛った縄の長さは変わらない。

 当然の帰結ながら。

 自重でわたしが地面に近づくにつれ、両脚に取り付けられた鉄パイプは、すこしずつ引かれて、開いていく。

 おそろしい、対抗しようもない力で、すこしずつすこしずつ、わたしの両脚を裂き開けながら。

 

 「なぁんと!自動的に脚が開いていくぅぅぅ!」

 

 無理やり伸ばされていく筋。ちりちりとした痛みが、脚の根元を襲った。

 

 「ああっ!」

 

 叫んでしまった。もう止まらなかった。

 やめて、やめてください、どうか。

 そう恥も外聞もなく哀願した。

 痛み自体というより、体がやすやすと二つに割り裂かれていく恐怖に。

 わたしの反骨心は、早々と粉砕されてしまっていた。

 

 二人はまだ足が水平になるかなり前に、滑車を止めた。

 脚を裂かれる恐怖が、一応止まった。

 だが、体重を支える手首の痛みは止まない。

 わたしは涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を上げた。

 

 「さあみなりちゃんにぃ、第一問!」

 

 無理だ。

 無理だよ。

 

 ーーーーー

 

 わたしは、無理な問題を出題され続け、嬲られ続け。

 この日、180度開脚を成し遂げた。

 無理の反面として、かなりの痛みを股関節に残しながら。

 

 ーーーーー

 

 「なあ、」

 

 またも私の下着をずらして、好奇と嗜虐の色を目に浮かべて、あれこれあげつらい。

 ひとしきり私を嬲りつくすと、彼らはわたしの目の前でこれみよがしにいちゃつきはじめた。

 興奮したらしい。

 お父さんが脂肪女を撫でて、耳に何かささやき、時折接吻をくれている。

 ヤろう、と性交に誘ってるんだろう。

 だけどそのお父さんの目は、絶賛大開脚状態でなすすべもなく吊るされているわたし。

 正確にいえば、そのわたしのスカートをまくり上げ、下着をずらされ、露出された性器。

 それにじっと注がれている。

 脂肪女も、それにこたえるように甘い言葉(たぶん)をささやき返しながら。

 その目は、バサバサしたつけまつげの下から、苛酷な拷問で気息奄々としているわたしに注がれている。

 べたべたした、妄執にちかい情欲を浮かばせて。

 

 わたしは気づいた。

 こういう表現を使ってよいか疑問だが。

 この二人、交わろうとしてるんじゃない。

 どこまでいっても平行なんだ、交差じゃない。

 お互いに交わってるようにみえて、実は千里と同じ。

 わたしを材料に。自慰しようとしてるだけなんだ。

 そのことが滑稽で、でもそんなバカげた二人に、なすすべもなく嬲られている自分が、情けなくて。

 涙がまた出て。

 自虐的な笑いが頬に浮かんでしまった。

 

 「あらぁ?余裕たっぷりねぇ?180度以上に挑戦かなぁ?」

 

 どうにでもしてよ。

 

 ーーーーー

 

 結局そのまま、彼らは私を解放せずに出て行った。

 ヤりたくなって、我慢できなくなったんだろう。

 ここでサカり始めるかと思ったけど、やっぱりそこはまだ常識があるのだろうか?

 なにか、クスリがどうのこうのと言っていた。

 男子が下ネタで言ってた、あそこを大きくする薬のことだろうか。

 だからそれを買いに行ったのかな。こんな夜に買える店があるのだろう。よくわからないが。

 でも、縄を解いていってくれないのはどうかと思う。

 滑車は止めてあり、これ以上は股裂きのパイプは広がらず、引き裂かれることはない。

 だが、両手首、両足首の痛みは苛烈で。

 もう我慢できない。我慢できないのに、開放されない。

 地獄の苦しみだ。

 吊るされ、痛みを感じることにわたしの思考のほとんどを奪われながら。

 わたしは思う。残された脳の思考力の隙間で。

 志野くんのことを。

 

 この痛みも、屈辱も。

 わたしが彼に負う負い目、負債。その利息へのわずかな返済として。

 もし志野くんから与えられていたのなら、むしろ甘美だったのではないだろうか。

 

 そう思うと、痛みにしびれる股間のそば、体の芯から。

 異様な快感とともに、どくっと何かが滲むのを感じた。

 これは、わたしの妄執、わたしの狂気。

 それはそっと股間を伝い、滴った。

 

 いつか、わたしの汚れた本性に気づいたとき。

 たぶん、志野くんはわたしを軽蔑して離れていってしまうだろう。

 だが、その前に。

 わたしを存分に苛んでくれないかな。

 痛みを、苦しみを与えてほしい。わたしが泣き叫んでも許さずに。苛酷に、苛烈に、残酷に。

 わたしは、わずかな思考の中で、そう狂った思いを抱いていた。

 

 ーーーーー

 

 そんな狂気に染まった思考に浸っていたのは、ごく数分だったのだろう。

 気が付くと、千里がいた。やつらが出て行ったのを聞きつけて、2階から降りてきたんだな。

 千里は、--この野郎。

 吊るされて責めを受けているわたしをみて。

 アレを取り出してしごいていた。

 こいつ!

 まあ、いいや。

 汚れ具合では、わたしといい勝負だ。

 

 わたしをおかずにするのを、隠そうともせずに。

 千里はみせつけるようにティッシュにそれを出した後も、恍惚としてわたしを見つめ続けている。

 

 「なに見てんの、早く降ろしてよ。ーーぐぅっ!」

 

 これはわたしの指示が悪かった。千里が滑車を緩めやがったので、ふたたび股裂きが進行しかけた。

 

 脂汗をかきながら。

 口頭でまず脚を解く、そして滑車を降ろす、そして手首を解く、と指示を与える。

 解放された後、へたり込んだ。

 

 制服はもう、汗とその他の分泌物でびちゃびちゃだ。もう明日は着ていけないだろう。

 ちょっと早いが、明日は中間服で行こう。5月中は冬服から半袖の夏服への更衣期間で、いわゆる中間服という長袖ブラウスでの登校が認められているのだ。

 行きつけの、くまさんドライクリーニングに持って行かないとな。

 志野くんからもらった今日の分のバイト代(わたしは固辞したが、押し付けられた。ただ領収書は取られた。そういうところのアンバランスさが謎だ)で払おう。

 かわいい熊がアイロンをかけてる、その店の看板をぼんやりと思い浮かべる。

 割引券、どっか貯めてあったはずだ。どこに仕舞ったっけ。

 

 「みなり姉さぁ、」

 

 千里が言う。目の情欲が隠せてないぞ。

 

 「感じたの?縛られて、吊るされてさ。」

 

 「感じてなんかないよ。」

 

 「濡れてたよ。じゃあ、何あれ。小便?」

 

 「はいはい小便小便。悪かったね。」

 

 「みなり姉、よごれてるよね、きたならしいよね。あんなことされて、漏らしてさ。ビッチだよ。ビッチ以外の何者でもないよ。」

 

 千里が畳みかけてくる。

 

 「みなり姉、もう、どこもお嫁にいけないよ。だから、」

 

 ーーしようよ。

 

 ひどく下劣な、だけどひどく魅力的な言葉。

 このイロガキめ。

 でも、お似合いなのかもしれない。

 わたしは、さんざんに嬲られ、痛めつけられて。

 でも思い人にそれをされることを思ったとたんに、股間を濡らしてしまうようなヨゴレだ。

 自分をとことん貶める。底なし沼であがくのでなく、むしろ身を任せてしまえば。

 待つのは破滅だ、どう転んでも。

 でもそれまでの間、楽しんで何が悪い?

 死までの間、底なし沼の泥に暖かく抱かれる幻想を抱けるだろう。

 

 

 ただそこでも、わたしを引き留めたのは。

 今日も新緑の陰で視線を交わした、そのときに熱を湛えてわたしをみていた彼の目だった。

 すうっと、自暴自棄の衝動が消えていく。

 その自暴自棄の衝動は、自己憐憫と等価だ、ということをわたしは直感していた。

 こんなにぼろぼろになったよ、わたし。かわいそうなんだよ?っていう。

 それじゃだめなんだ、違うんだ。

 同じ、自分を犠牲にするとしても。

 自己憐憫の自暴自棄つまり自分のためじゃなく。

 彼のためにこの身を使いたい。

 今日だって誓ったじゃないか。

 誰にも気づかれず、誰にも理解されず、誰にも感謝されなくても。

 わたしは彼のために生きて、死ぬだろう。それでもいいって。

 あ、いや、それも正確じゃないな。

 それでもいい、というんじゃない。それこそわたしが望むことだ、って。

 

 -----

 

 そうしてわたしは、当然のように千里の誘惑に耐え抜いた。

 というか、馬鹿言うんじゃない。

 わたしはあんたの姉ちゃんだぞ。ヤんないよ。

 100年早いぞ。いや、100年後もあんたよりわたしの方が3歳年上だ。永遠に追いつけないからね。

 

 急に気炎を上げはじめたわたしに、千里はあっけにとられていた。

 一喝しながら軽く蹴り飛ばしてやると(怪我の功名か体が柔らかくなった。今では簡単に立ったままの千里の頭も蹴とばせそうだ)、泡を食って逃げ出した。

 まだまだガキンチョだ。わたしに勝とうだなんて、100年、いや1000年は早いぞ。

 ふん、とわたしは腕組みをして鼻を鳴らした。

 拷問具のたぐいを含め、リビングをざっと片付けて、入浴した。

 わたしの気炎が恐ろしかったのか、千里は覗きに来なかった。

 ささやかな勝利だ。

 しかし千里の面の皮、スゴく厚い。

 そんなやりとりの後だというのに、平然と夜ごはんをわたしと食べている。

 いや、謝れっていうんじゃないけどさ。

 すこしは気づまりになったりしないの?

 わたしは首をかしげながら、二人でささやかな夜ごはんを食べるのだった。

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