タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
土曜日は久しぶりの授業だった。
でも、志野くんは、いなかった。
そうだよね。
以前から、総体の予選があると言ってた。
また、その間は自由時間にしていいから、ゆっくり休んでくれるように、と。
会えないのは、分かってはいたが、さみしい。
あとで先生に会場を聞いて、行ってみようか。できたら、試合中の姿を一目みたいな。
そう決心する。
休み時間中に、さとみんとその周辺の女の子と一緒に短い時間ながらわいわいと話す。
ほへー、と旅行に行ってた人たちの話を聞く。
わたしも旅行には行った。日帰り小旅行なんだけどね。でもそれは秘密だ。
ひとしきり情報交換が終わり、授業が始まる。
その日の授業が終わった後、さとみんが来た。
「今日、部活?良かったら(途中の)図書館まで行こうか。」
さとみんからこう来るのは、何か話があるんだな。
普通だったら、グヮシと首根っこをつかんで連行されると思う。
部活じゃない、だけど職員室に行くんだ、と言って、二人でクラスを出る。職員室方向に廊下をゆっくりと歩く。
職員室のある新本部棟につながる渡り廊下に入ったとき、さとみんが鋭い一瞥を前後に投げて、そっとわたしを端に誘う。
あれ、柱の陰に追い詰められた。ーーああ、これはあれだな。今ではわたしもわかるよ?
どきどきしながら目を閉じ、上を向き、少し唇をとがらせてみる。軽く額にデコピンされた。
「何やってんのよあんたは。ーーそれで、」
さとみんは顔を覗き込んできた。
「みなり、あんた休み中に志野と会ったの?どっか行った?」
ほとんど毎日会ってました!
あ、でもそれは言うのが恥ずかしいな。
コクコクと頷いて、さとみんの顔を見上げる。
何か眉が寄ってるな。怒ってる、んじゃなくて、心配してるのか。
「そう。たとえば、ーー動物園とか、ピクニックとか?」
「そうなんだよ!」
うれしくなって、そういう。
ちょっとした日帰り旅行でね。瓜坊が出たんだよ。
いっぱい歩いてね、滝も見たんだ!
うん、温泉地。知ってる?そう、樋木崎渓谷。
それで、疲れたし、ちょっと天気も悪かったから、ホテルで休憩したよ。
うん?ひどいことされなかったか、可愛がってもらったかって?うん、(ホテルで休憩したのは)初めてだったけど、すごく気をつかって、大事に優しくしてもらったんだよ。うれしかった!
そう言うと、さとみんは、ーーうん?怒ってる?恥ずかしがってる?なんか、わなわなしてる。
他の人には言うなって?うん、言わない。今日も言わなかったでしょ?
口は固いんだ。さとみんだけに教えようと思ったんだよ。
よくわからないが、たぶん、さとみんが怒ってるのは、わたしがさとみんに事前に何も言わなかったからかな?
さとみんは優しいな。過保護だけど。そう思って、
ーーわたしだってやるときはやるんだよ。
というと、またデコピンされた。
うん、ちょっと強めに。痛いよ。
そこで何かさとみんは言おうとしてたみたいだけど、後ろからさとみんのグループの女子が二人ばかりやってきたのに気づいて、わたしの肩を両手でぎゅっと押さえて、真剣な口調で、自分のことを大事にしなさいよ、と言ってその話を打ち切った。
大丈夫、志野くんにはすごく優しく、大事にしてもらってるよ。
ーーーーー
さとみんたちと別れた後、わたしは職員室で大会の会場を教えてもらい、少し思案した後、駅まで一度戻って、駅始発のバスに乗った。
知らないバスは、どきどきする。間違った路線に乗ったんじゃないか、とか、料金が思ったより高いんじゃないかとか。
そんなアクシデントもなく、無事に大会のある体育館についた。
中に入り、最初は勝手がわからなかったが、多分観客は2階席で見るんだ、と見て取って。
端っこの席から観戦した。
志野くんは最初いなかったが、そのうち出てきた。わたしは似たような卓球少年たちがひしめくこの場で、すぐに志野くんを発見できたことに、すこしほこらしい気分を覚えた。
志野くんの卓で試合が始まった。
わたしはルールくらいはおぼろげに知っているが、卓球を特にやりこんだこともない。
来たボールを打ち返す競技だというのは知ってる。だいたい、テニスと一緒。
素人目でみると、どちらも上手いように思える。
だけど、少しずつ志野くんの強打が決まり、相手の人が外すことが増えてきた。
これ、勝ってるんだよね。
試合が終わると、プレイヤーの二人はお互いと審判とに礼をして、引き上げていった。
志野くんが、こちらを見た。目が、あった!
きゅん、とうれしくなった。わたしは単純だ。
その後、少し話すこともできた。
後の試合でも、志野くんはすごかった、らしい。
周りの、別の学校の生徒らしい人が、何あれ、ーーと呆れていた。
何かすごいことをやったのだろう。わたしにはわからないけど。
終わったら褒めてあげよう、と思った。
でも試合が終わってこっちに来る志野くんの顔を見たら、全部忘れてしまった。
この後、日曜日も試合の応援で少し顔を出すらしい。
大変だ。
空き時間には、一緒に勉強とかしようね、ということにした。
ーーーーー
ダブルスも空前の好成績だったらしい。シングルスも、実は志野くんが決勝リーグ進出というのはあり得ないほどの偶然と幸運の積み重ねだったと聞いた。今年は当たり年になったんだね。
決勝リーグ、また来て観戦しよう。
そう思った。
土日は、おおむね計画どおりに終わった。
あの悪魔のようなドラ●えもん女は土日は来ず、お父さんも外出してしまい、一日不在だった。
千里がお風呂を覗きにきたり、着替えをじいっとみてたりするのを除けば、すごく平和だ。お母さんも比較的早く帰ってくる。
もちろん千里はしばいた。わたしは強くなったんだ!
でも千里は頭をヘッドロックされて、ギブギブと言いながら、なんか嬉しそうだった。解せぬ。
そして月曜日から、試験前週間が始まる。
ーーーーー
月曜日。
どことなく、みんなの視線を感じる。
なにか好奇心をもたれてるような、羨望するような、同情するような、労わるような、賞賛するような、あ、あと少し妬ましく思われてるような。そういう視線。
どうしたんだろう。何かわたしやったかな。
わたしは先生の話を聞きながら、視線センサーを分析する。
女の子からが圧倒的だね。でも男の子からのもある。
男の子からは、ーーこれはいままでとあまり変わらない。性欲とか?ただ量が多くなってる。
女の子からは、好奇心メイン?なんだろう。
わたしには、あまり連休前と変わったことはないけどな。それとも志野くんが、インターハイ予選の決勝リーグに進出したから、志野くんの好意の対象であるわたしの、そのことに対する反応から、わたしと志野くんの親疎を測られてるのかな。
疑問を感じながら、授業に注意力を移すことにした。
昼休み。今日は志野くんは用事がある、と朝言ってくれてたので、さとみんグループと一緒に食べる。
なぜかさとみんも出て行った。
これはあれですね。浮気ですね。
わたしは心中ひそかに青筋を立てながら、みんなと当たり障りない話をつづけた。
ただ、やっぱりみんな、わたしに何か聞きたいことがあるけど聞けないような風情。
どうしたんだろう。
もしかすると、お肌のお手入れのことかな。たしかに最近、お肌の調子がいい!
ちょっとつやつやしてる。これは多分、樋木崎温泉に入ったからじゃないかな。
よし、温泉に行ったってことくらいは言ってもいいだろう。みんなにもオススメしておこう。
わたしはさりげなく、湯治の効用をアピールしてみるのだった。そう、わたしたちが入ったあの旅館を推奨してね。
ごはんも一段落。皆は歯磨きに行ったりしてばらけはじめてる。
志野くんが戻ってきた。
ふん、たぶんさとみんと話して鼻の下を伸ばしてきたんだろう。浮気者め。
さとみんもさとみんだ。もしかするとさとみんも志野くんを?ーーふぐぅ、あの胸囲には勝てないよ。
さとみんの胸をもぐ方策など、ちょっとダークな考えに陥りかけたとき、志野くんがメモをくれた。
話を伝えたい、って。おお!
わたしは心中うきうきと、でもそうは全く見えない完ぺきな演技で、教室を抜け出した。
それにしても、伸ばされた股関節と、無理な緊張を強いられた脚の筋肉が、まだ少し痛む。
今度の体育の授業までには直ってるといいけどな。湿布、残ってたっけ。
ーーーーー
少し遅れてきた志野くんから話を聞く。
何かわたしのことをきれいになったとか言い始めたので阻止する。
恥ずかしいし、それはいわゆる恋人のひいき目だよ。あばたもえくぼってやつだ。志野くんの目は節穴だね。
そう言うと、ようやく本題に入る。要は、わたしたちが付き合いはじめてる、かもしれない、ってのはみんなある程度認識してるけど、急にデレデレするとやっかみがあるってことか。
それならわかる。
いつもと変わらないようにしてたけど、みんな志野くんとわたしが接近したことに気づいたってことだな。あの視線の意味もようやく分かった。
どの段階に進んだかって、知りたいのか。、みんな、恋バナ好きだもんね。中には、自分はなかなか進めないのに、地味なわたしが先に交際を進めてしまってるのが気に食わなかったりする子もいるってことかな。
さとみんがクラスは抑えてくれるけど、部活とかかな。
ハルカちゃんの反応が気になる。
でもまあ、この先中間テストまでは部活もない。それまでにはもしうわさが伝わったとしても、沈静化してるだろう。
中間テストがちょっと憂うつだな。また点数が悪かったら、お父さんが何かしてくるだろう。
柔軟運動でもしておこうか。
その後は、普通の平日モードに戻った。
視線もある程度沈静化した。わたしたちがいない間に、さとみんが戻って何かグループの子に言ったのかもしれない。
まだ視線は感じるが、さとみんがときどき灯台からのサーチライトのように教室に視線を巡らすと、みんながわたしから視線を外して、知らないふりを装う。おもしろい。
ーーーーー
その日の授業終了後、わたしは少し図書館で勉強することにした。志野くんは、街に用事があるらしく、後で迎えに来る、といって風のように去っていった。一緒に行きたかったんだけどな、だけど志野くん曰く、あまり面白いものじゃないと言っていた。まあわたしには自転車もないし、早く動きたいなら足手まといかもしれない。
図書館に行って勉強する。
なぜかここでも視線を感じる。他クラスや他学年とか、知らない人からも多い?
彼らはわたしと志野くんのことは知らないはずなのになー。
まあいい。勉強勉強。
志野くんがくるまで、わたしは勉強をつづけた。
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基本的に、この週はそんなふうに無風状態で過ぎた。
お母さんが少しだけ早く、9時すぎくらいには帰ってくるようになり、そしてお父さんとリビングで話していることが多くなった。
まじめな話のようだ。いよいよ、お金が足りなくなったんだろうか。
前借りでのバイト代として、志野くんからある程度まとまったお金を渡したから、多分足りてると思うんだけど。
ときどきお父さんが声を荒げることもある。お母さんも。
話し合いの後、お母さんが二階に上がってきて、わたしと千里を抱きしめることもある。
子供とは言え、男の子だからかな。お母さんがわたしを抱きしめる方が多い気がする。涙ぐんで。
千里が拗ねるから、千里もやってあげてよ。その後それを言い立てて、足りない分をしろといって、わたしに抱きしめさせようとするんだよ、千里は。
思うに、お母さんたちは、別居に向けた話し合いをしてるんじゃないだろうか。
別居じゃなくて離婚でいいよ、離婚で。
でも、お金のことで揉めてるんだろうな。
家を売ってもほとんど足しにならないことは聞いた。バブルがはじけて、土地も家も価格が下がってるし、住宅ローンはまだ未完済だ。そして抵当(?)がついてるから、売って値段がついてもほとんど借金返済に回ってしまう。
だったら家を売って家賃を払うより、このまま住んで借金を減らしていった方がいい、ということかな。あと、前のお父さんの記憶があって、離れたくないってのもあるんだろうけど。
お父さんとお母さんの話し合いは波乱含みなんだけど、なぜかお父さんの機嫌が妙に良い。
試験前だからだろうか。今まではそんなことはなかったのに、罰も減っている。
そのかわり、スキンシップっていうんだろうか。胸やお尻とかを触られることが多い。やにさがった笑みを浮かべながら触ってくる。服の隙間から手を入れられたりもする。
不吉な予感がする。
その平穏に過ごした分、固めてすごく過酷なことをされてしまうんじゃないだろうか。
あるいは、わたしの初めてを売り飛ばすとかいう話が進んでしまってたり?
機嫌がいいのがそれが理由だとすると、素直に喜べない。
それもあって、はやく志野くんと、その、うん、初めてをしたい。
志野くんはきっと、優しくしてくれると思う。
そしてお父さんには、わたしを
でも、その、初めてする時間を見つけるのが難しいよね。
その、ホテルのご休憩ってそういう目的で使われることもあるらしいけど、はじめてで慣れてないのに、2時間で終わるかな?
終わったとしても、ゆっくりできず、すぐお外に、ってせわしなくない?流れ作業みたいだ。
そうだ、どうすればいいのかもわからない。
当然のように志野くんがリードしてくれると思ってたけど、志野くんもたぶん初めてだ。
お互いに顔を見合わせて、どうすればいいかわらかない、ってあるかもしれない。
それはそれで楽しいかもしれないけれど。
さとみんに聞いてみようか。ーーなんかすごく怒られそうな気がする。
こっそり図書館で本を?
ただ、あまり役に立つ本はないだろうな。
きっとまた漫画風にデフォルメされたおたまじゃくしの精子と丸い木の実みたいな卵子のイラストが描いてあるだけだろう。そんなの全然、役に立たないのに。
百科事典の人体解剖図の方が、よっぽど参考になる。でもあれじゃ、男の人のあの部分の構造はわかっても、やり方がわからない。
いや、もちろん、わたしだって少しは知識がある。
志野くんのあれを、わたしのここに入れる。それはわかる。
でも、どうやって入れるんだ?その、脚とかがあるじゃないか。
わたしが脚を上げるの?それともわたしの足の上から志野くんが乗るの?ツブされそうだ。足がじゃまだ。
もしかすると、例の都市伝説のダルマ女って、だから手足を切られたとか。うわあ怖すぎる!
あと、されてるときに、余ってる手は、どこに置くんだ。空中であわあわ動かすのはかっこ悪い。志野くんと握手するのかな。
いけないいけない、まあ中間試験終わってからだ。
さとみんからも太い釘を打たれてる。なんでも、わたしの成績が悪かったら厳しく志野くんを罰するんだそうだ。
いつもクールそうに見える志野くんがさとみんに罰されてるのを想像すると、それもなんだかそそるものがあるけど、やっぱりかわいそうだ。頑張らなきゃね。
ただ、夜更かししての勉強は志野くんにやんわり止められた。
四当五落、という言葉がある。
先生曰く、4時間睡眠で頑張った人は現役合格して、5時間寝てしまった人は落ちるってことだ、と。
志野くんに言うと、そんな世迷言は気にしない方がいい、と言われた。
志野くんは、いつもは先生を尊敬しているけど、こんな点については結構シビアな気がする。
もっとも、完全に不合理と思ってるのではないらしく、おそらく安易に流れがちな生徒たちを戒めるために、あえて罪悪感を抱かせようと、高い目標を設定してるんだろうね、と言っていた。
でも十分に睡眠はとらないとだめだ、脳の働きが落ちる、と力説された。
わたしは結構夜の睡眠時間が短いらしい。就寝時間と起床時間を言ったら、怒られた。成長にもお肌にも悪いと。
お昼休みとか放課後とかに、軽く昼寝したら?と言われた。
中間服ではちょっと肌寒いけど、それもいいかな、ということにした。
ちょっとはしたないけど、昼休みの教室とか、放課後の図書館の自習室で、少しだけ机に突っ伏して寝てみたりすることもある。たしかに疲労が癒える、気がする。
そんなこんなで、中間試験に突入した。