タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
国領を手駒(?)にした翌日、土曜日の夕方。
卓球部の練習が終わり、紫藤との待ち合わせ場所に急ぐ。
夕焼けだ。カラスが鳴いて山の巣に戻っていく。
待ち合わせ場所の靴箱に近づくと、軽く口論しているような声が聞こえた。
「ーー。」
「ーー、そんなことないよ!志野くんは、いつもわたしに優しいよ。」
「志野は優しいかもしれない。でもきっと、誰にでも優しいんだぜ?紫藤ちゃんも勘違いしてるんじゃん?」
「そんなことない!」
「あいつ、結構もててるって。この前、渡り廊下で調布とすごい近くで話してたし。今日だって、E組の国領ハルカと、な。」
「ハルカちゃんが、どうして?どこで?」
「いや、紫藤ちゃんが知らないなら、俺からは言わないよ。まるで、チクってるみたいだし。気になるんだったら調べてみろよ。」
「ーーーでも、わたしは、」
「紫藤ちゃんが見てるのは、幻なんだよ。目をそらしちゃだめだ。」
「ーーーちがう。」
「また知りたくなったら、聞きにおいでよ。俺は紫藤ちゃん、結構好きだし。ちゃんと見てるよ。」
「ーーー」
「じゃあな、元気出せよ!」
「ーーありがとう、またね。」
やっと終わった。
紫藤が俯いてる。夕日に照らされて、長い影が靴箱のある渡り廊下に延びてる。
「お待たせ、紫藤さん。」
「!志野くん!」
ばっと抱き着きそうになって、でも自制したな。
大丈夫、あんな奴の言うことなんて気にするなよ。
そう言いたいけど、盗み聞きなんてしてません、と取り繕いたい虚栄心が邪魔をした。
話の相手は、どっかの運動部の結構もてるって言われてるやつだったか。
お前、もてるんだったら紫藤に手を出すなよ。おせっかい焼き野郎。
「何か、気になることがあった?」
「そんなことないよ!帰ろう?」
にこにこしてる紫藤は、もうすっかりいつも通りだった。
でも、もう少し気をつけてあげなきゃだめかもな。
紫藤は、結構強がる。何もないふりをしたがる。
今のだって、よくわからないけど紫藤は僕が声をかける前は、結構辛そうだった。
幻を見てるとか、いろいろ言われてた。話の文脈はわからないけど。
紫藤をけなしてるのなら、失敬この上ない。
いろいろ言いたいことはあったけど、幸せそうにこちらを見上げて寄り添って歩く紫藤に、そんな過ぎ去ったことを、嫉妬深い恋人のように、ねちねちほじくり返したくなかった。
あと紫藤の柔らかい手に夢中だった。それで、聞きそびれてしまった。
思えば、このときちゃんと言っとけばよかった。
楽しい下校の時間はすぐ終わってしまい。
ラッシュ時で人が多い。キスもできないか。ちょっとしょんぼりだ。
ただ、さっきのこと。紫藤には気にしてほしくなくて、ぎゅっとつないだ手に力を入れた。
紫藤は、少し儚げに微笑んで、名残惜しそうにぎゅっと握り返し、そして動き出したバス乗車を待つ列に加わり、そして乗り込んでいった。
どこに座ったか、見えない。探しているうちに、バスは動き出した。
紫藤。
もう少し話したかったな。
ーーーーー
月曜日。
調布の呼び出しはない。
顔を合わせると、相変わらずギロッと睨まれるのだが。
なんか前より、怒ってない気がする。
もっといえば、少し嬉しそうな?
格好の玩具ができた、と思ってるんだろうな。
最近、調布は絶好調って感じだな。周りに人の渦ができてる。
ちょっと前までは男は寄せ付けなかったけど、最近少し軟化してる?
相変わらず塩対応ではあるんだが、前みたいに本気でガツンとやって、相手のプライドをずたずたにする、ってのは、最近みられない気がする。
こんな調布は1回目では見なかった。ちょっと新鮮だ。
1回目では、紫藤がいなくなって、やさぐれてたように思う。
十数年後にはある程度復活して、人当たりも良くなってたけど、正史どおりだとこの後成績も落ちて行ってた。
一浪して首都圏の女子大に入ってたかな。確かそうだ。
暑くなったからかな。男子も女子も、みんな中間服や夏服に変えてる。
白いブラウスは、目を凝らすとブラの線が見える。
うん、健全な男子なら眼光紙背に徹する勢いで見るよね。
もちろん紫藤の背中も。調布の背中も。
まるで背中に目があるように、調布が振り返ってこちらをみる。
睨みつけられるか、と思ったんだが。
なんと微笑まれた。準童貞男子高生なら勘違い必須。
いや、うれしいけど。ちょっと不気味だ。
今は臨時のホームルーム。文化祭について決めようとしてる。
残念ながらうちの高校、クソ真面目なんです。
良くある、食事を出す模擬店とかはない。お茶+既製品のお菓子くらいまでならOK。
それ以外は自由だが、かといってあまりにふざけたものはブレーキがかかる。
たしか1回目では、異性の店員がお話し相手になる同伴喫茶みたいなのが阻止されてた。
ただ女装や男装の同性の店員が相手をする同様の企画は、違う学年だけど通ってたんだよな。よくわからない。
まあ、みんななんか面白いことには参加したい。でも責任は負いたくない。
顔を見合わせるよな。
どうなるかと思ったんだが。
「ほかにやる人いないのなら、あたし委員やります。」
あっさりと手を挙げて。
調布がクラスで2名の実行委員のうち1つを獲ってしまった。
でも部活もあるんじゃないか。大丈夫かな。
「先生、もしもう一人が決まらないようなら、指名してもいいですか。」
ぬう。不吉な予感がする。
なりたい人もいるかもしれないから、一応、ほかの人の希望も聞いてからね、と先生が柔らかく注意。
予定調和的に誰の手も上がらず。
「志野くんがいいと思います。」
やっぱり来たぜ。
調布は多分、これを狙ってたのかな。
僕をもう一人の委員に据え、前に連れ出すと。
鮮やかな弁舌でほかの配役を決めていった。
考え抜かれていたように、調布のライバル的な(ここはよくわからない。当人同士は仲が悪いわけじゃないんだ)烏丸さんも結構重要な会計ポストに配置され。
紫藤は男女2名ずつ必要な、企画委員の一人として指名。これは実行委員を首相とすると国務大臣みたいなものだ。腹心を固めたな。
クラス企画は今この場で、というより、少し時間を開け、投票箱も使って1週間ほどアイデアを集める。
そのうえで、実行委員と企画委員でよさげなアイデアをいくつかに絞り、再度ホームルームを開き決する。
そういうことになった。
あまった時間でグループ分けして、意見交換させ、アイデアを一つ出させる。
そしてまたグループをシャッフルして、再度違うアイデアを出させる。
そこである程度、これはできそうでつまらなくもなさそう、というものが出てくる。
1週間はクラスのみんなにやりたいテーマを推してもらったりして、当事者意識を持ってもらうためなんだろうな。
いろいろとおそろしくスムーズに決まり、ちょっと狐につままれた感じだ。
1回目はたしか自主性を尊重する先生に丸投げされ、誰も音頭を取らず(神奈川が一応進行を担当したが、誰も何も言わずかわいそうだったのを覚えている)、2、3回ほどぐだぐだやってようやく決まったことが、わずか30分足らずで。
これは、どう転ぶんだ?僕の目的にプラスなのか?
ーーーーー
その日の昼に。
たまりかねた僕は調布を呼び出した。
紫藤にメモで伝えると、(;ㇸ;)みたいな顔になった。
罪悪感で、何か埋め合わせするよ、とメモで追加。
間が開いちゃってたけど、また古着下取り活動をしよう。そうしよう。
そして今。
調布は何かハミングしながらゆっくり体を揺らしてる。
お馬さん体勢の僕に腰掛けながら。ご機嫌だね。
僕は中間服になって、上着がなくなり、薄手の開襟長袖シャツ。
調布も、冬服の厚手のスカートでなく薄手のさらさらした合繊のスカート。
背中に意識を集中すれば。メ○スジまでもが感じ取れそうだ!
うん、もちろん感じようとしてるよ。
さっき背中をそらしたときに、恥丘の膨らみくらいはなんとか。
嬉しいけど、不気味だ。怖い。
全注意力の9割を背中に向けながら。
僕はこの歴史の逸脱をどう評価すべきか頭を悩ませていた。
調布曰く。
長らく鬱屈していたが、とあるきっかけで吹っ切れた。
せっかくだから、この機に新しい自分を見つけるために、なにかやってみたいと思ったのだそうだ。
よくわからないが、調布のためには良いことだよな。
しかし、何がテキサスの竜巻を引き起こす蝶の一搏になったんだ。
もしかして、このお馬さんか?
美術室に入ると、当然のように要求されて、従ってしまったが。
「それにしても、良かったのか?僕なんかで。手堅く青山とかあたりで良かったんじゃないか。」
準クラスの中心的な感じで、十分にクラスをまとめる力量がある。顔も悪くないし、脳筋運動部という感じでもなくて、こんな企画とか興味持ちそう。
「あら自信がないのかしら、かわいいわね。あなただから良いのよ。」
僕の髪に指を絡めてくるくる巻き髪を作ろうとしてる。やめろそこにあるラオコーン像の髪型になってしまう。
「できないことに自信があるぞ。」
「何も心配しないで、あたしに任せてなさい。それに、これでみなりと一緒にいられて、自然に受け入れられる下地も作れるわよ。」
なるほどな。それはいいんだが。
「これで、あの中間テストの分の負債は返したってことでいいのか?」
「あら、志野くんは自主的になってくれたものと思ってたけど。」
顔を覗き込んでくる。うん、サド気のある微笑が美しいですね。
「でも、そういうことにしてもいいわよ?おつりで少しお手伝いしてあげましょうか?」
「お手伝いって、その、ひざまずいたり、ぐはっ」
違ったらしい。拍車きたよ。
一瞬冷気も背中をかすめたが、調布は、それ以外で何かないの、と耳を軽く引っ張りながら言っている。
どうやらマジで機嫌がいいらしい。
「それなら、なんだが。もしかすると、ーー」
ちょっと考えていた将来の計画。それについて、協力を求めてみる。
「あら、面白そうじゃない。何か考えがあるのね?わたしもそれに噛ませなさいよ。」
あっさり了承された。
お昼を食べましょう、ということになり、僕の背中は解放された。
しまった、まだスジまで感じ取れてないんだけどな。あと勃ってるから、ちょっとすぐに解放されても困るんだよ。
足がしびれたふりをして、しゃがんだままでスリスリと移動して調布のそばの席に移る。
お弁当を買ってなかったんだが、調布がまたサンドイッチを分けてくれた。
こいつがいわゆる米飯のお弁当を食べてるのを見たことない。なんでそんなに背が伸びたんだ。
ーーーーー
一段落した時、調布がちょっと気になるという感じで僕に警告してきた。
「ねえ志野。あなた最近、みなりと一緒にいれてないでしょう。」
「そうなんだ。さすがに決勝リーグとなると、練習しないとな、ってことに。」
「そっちもあるのね。でも、」
トンビに油揚げをさらわれないよう、注意しなさい、とのこと。
例の根取益男という、紫藤にこの前、なんだかんだ言ってた男。
あいつ、最近紫藤に粉をかけてるらしい。
「さすがにこんなのに引っかかるとは思わないけど。あなたもちょっと気にかけてあげて。」
最近、すこし紫藤が元気ないのにも調布は気づいていて、もしかするとその男に関係しているのかもしれないわよ、と言っている。
いや、あまり交友関係に口出しすると嫉妬深い束縛男と思われそうで、というと。
「それが嫌な子もいるかもしれないけど、あの子は違うわね。多分、軽く嫉妬とか見せてべったりしてあげると、むしろ喜ぶかもしれない。」
そんなものか?
「そんなものよ。それと、あの子は今はあなた一筋みたい。でも人のものが良く見えるやつは、何か仕掛けてくるかもしれないわよ?」
あたしも目は配るけど、志野、あなたもあの子を信じてあげてよ?
そう調布に言われた。もちろんだとも。
その日の密会は、そこで終わりになった。
戻って紫藤を連れ出し、短い時間だがまったりと過ごす。楽しい。
調布も、その、発育もよくてドキドキしてオカズに最適なんだが。
紫藤も、捗るんだ。その、ほっこりと胸が温かくなるような、そんな気持ちはそれはそれで嘘じゃないんだが。
なんかあの動画のせいなのか、中間服になって少し露出が増えた腕とか、脚とか、背徳的な劣情を起こすんだ。
抜いた後に賢者どころか大賢者になるけどね。
その日は少しだけ練習を早く上がり、紫藤を誘って駅の中でお店をみる。
少し紫藤も慣れたのか、おずおずと着てみたい服を持ってきたりするようになった。
紫藤はミニが似合うしかわいいと思う。だけど、その傾向と違う服も新鮮でいいよね。
ここはあえて長めの丈の、フレアのデニムスカートを選んだ。Iラインも見るにはいいんだけど、スカートが下まで細いと歩きにくそうな気がする。
うん、この服もかわいい。再確認。
オフの日にでも、着てくれるといいな。