タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
最近、ハルカちゃんの様子が変だ。
文芸部のわたしの友達。さとみんの次くらいに気が許せるし、親友といってもいいと思うけど。
でもハルカちゃんが最近、顔に斜線が入ってる感じなんだ。
憂鬱、というのとも少し違う気がする。
ため息をついたり、唇を触ってみたり、それほど長くもない髪の毛の先を指に巻き付けて、くるくるとしてみたり、窓から遠くを眺めやっていたり、何か考えてる風情で、急にぽん!と顔が赤くなったり。
あ、あと、お尻を触ってみて、急に青ざめてみたり。
そう、まるで。
だれかに恋しているかのような挙動なんだ。最後のがよくわからないけど。
文芸部に来る。窓にもたれているハルカちゃんがいる。
そっとその後ろに足音を殺して寄って、とん、と肩をたたく。
「みぎゃあっ!」
「あ、ごめん。」
「みなりちゃん!?」
びっくりしたよもう、とちょっと涙目になってるようす。なんかびっくりさせて、得意な気持ち。いままで驚かされるのが普通だったからね。
でも、今の反応。思った以上にマジだったみたいだ。
思うに、ハルカちゃんは養殖系不思議ちゃんなんだ。ちょっとこう、不思議な人を気取りたい、みたいな。
変人っぽいのが、クールでかっこいいと思っているらしい。
だから何かちょっと変わった趣味、オカルトとかちょっと変わったジャンルの本とか音楽とか、そういうのにハマると、それを人に見せびらかしたがる。ときどきほのかにウザい。
で、移り気なんだ。耽溺するのが、一時はロシア音楽だったり、その後フランス映画だったり。最近はブラジル文学だったかな。。
今回もまるでラブストーリー洋画の中の主人公を気取って見せてるのかな、それを突っ込んでほしいのかな、と思ってたけど。
こんなに無防備で、女の子としてあげちゃいけない奇声を発しているのは、ちょっと違う。
ハルカちゃんは、超然としてクールで動じないと思われたい人だからね。
今のも、周りに注意が払えないくらい何かに没入して、ガードが下がりまくってたからだ。
つまり、今回のこれは本物だ。
「ハルカちゃん、最近変だよ。何かあった?」
「何か、って。ああ、その、うん、何もないよ?」
いつもみたいにぺらぺらするすると話が出てこない。顔が赤い。目が泳ぐ。
これは、あれだ。思春期のあれじゃないかな。
「ねえ、ハルカちゃん。好きな人ができたとか?」
ストレートに聞いてみよう。
「す、好きな人!?い、いや、そんなことないよ、ボクはみなりん一筋だよ。」
ハハハ、とわざとらしく笑ってる。
そうだった。
ハルカちゃんは一時期、マリアさまがみてる系のマンガにハマったらしく、なぜか私をその対象に見立ててまるで騎士のようにエスコートしたがったりしてたんだ。今は黒歴史かもしれないけど。
わたしも、ちょっと中性的でかっこいいハルカちゃんがそうしてくれると、そういう気はないけどうれしかった。
ハルカちゃんは、女の子の間では王子様みたいな感じの物腰、風貌と相まってすごく人気があるからね。
「それより、みなりんはどうなのかな。って、あの男ーー。」
「それなんだけど。その、ーー」
志野くんのことは、例の幸せにする宣言のあたりでハルカちゃんにも言ったことがある。
今では、もうつきあってます(でいいんだよね?)、毎日一緒に帰ってるよ、と言いたくて、勝手に動きそうな口を押える。
でも、ちょっとどんな反応が返ってくるか怖いなあ。
ハルカちゃんはときどき突飛だから。
当たり障りなく返そう。
「うん、少し仲良くなったよ。ときどきたまたま部活の上りが一緒になったとき、一緒に帰ったりしてるけど、紳士的でいい人だよ。」
ちょっと控えめすぎただろうか。あれ?ハルカちゃんの様子がーー。
「紳士的ぃ!?」
なんだろう。ちょっと青ざめてる。
「ひどいこと、されてない?」
「うん、優しいよ。」
「そ、そうなのかい?」
「うん。」
志野くんは優しいよ。
でもハルカちゃんは、なんということだ。世を欺く擬態が、ヤツの仮面を剥がねば、とか何かぶつぶつ言ってる。
何か勘違いしてないかなー。
「ハルカちゃんは、志野くんと話したことあるの?」
「え!?」
なんかどぎまぎしてる気配。
なんだろう。悪いことがバレた、って感じに思える。
ちょっとお説教してあげよう。千里を撃破したわたしの説教力は53万です。
「話してもないのに、伝聞で人を判断するのはよくないよ。ハルカちゃんらしくない。一度話してごらんよ!」
「お、おう。そ、そうだねーー。」
なんだろう、黄昏れてる。知らない人の悪口言ってたってことに気づいて、自己嫌悪に陥ってるんだな。
厳しく言い過ぎたかな?
元気づけてあげなきゃ。
志野くんも男の子だ、ハルカちゃんみたいに美人な子と知り合いになると悪い気分はしないだろう。
前立ち読みしたファッション雑誌に出てた、鈴木ラ○ラ○に少し似てる、とわたしは勝手に思ってる。
「よかったら、こんど一緒にお昼でも食べようよ!」
「!」
なんだ、ムンクの絵みたいになってる。
「こんど志野くんにも話しとくね。」
「あ、みなりん、ボクは、「こんにちわ~!」「チャイっす!」」
「あ、ひさしぶりー、」
ほかの部員たちがどやどや来て、わたしたちの話はそこまでになった。
今日はのんびりしてあまり人のいない文芸部には珍しく、たくさんの人がくる。
そう、今日は期末の文化祭の企画の話し合いだったな。各文芸、イラストとかの各部門で話し合って、その後で全体で調整する。
文芸部門はどうしようかな。書評とか○○文学特集とかをやってるけど、あまり盛り上がらない。
ファンタジー系の小説の紹介とかもいいかも?好きな子、多いと思うんだ。
志野くんに紹介してもらった十三国記も面白い。すごく緻密だし、甘ふわでないのがいい。
推理小説特集とかもいいけど、過去にやってそうだな。
3年生のちょっと丸っこい、包容力のかたまりみたいな部長さんがきて、話し合いが始まる。ちなみにバストはわたしの2倍くらいありそうだ、この部長さん。まだいないみたいだけど、彼氏さんになる人は幸せだね。
ーーーーー
1回目の企画会議が終わった。
志野くんとの待ち合わせになってる、渡り廊下の靴箱に向かう。
ハルカちゃんも一緒に来ない?志野くんいるかもよ?と誘ってみたけど、手をすごいバタバタして断られた。目が泳いでた。
きっと私の騎士気取りだったっていう黒歴史があるから、気まずいんだろうな。誰も気にしてないのに。みんな、「またハルカちゃんのあれが始まったよ」程度にしか思ってなかったって。
最初はちょっとぎくしゃくかもしれないけど、そのうち志野くんに紹介してお友達になってもらおう。一緒に動物園とか行くと、きっと楽しいよ。
わたしは他のみんなと階段を降りる。学年やクラスが違うので、靴箱の位置も違うから、だんだんバラけていく。
このまま志野くんに会えるかな、と思ったときに。
「やあ、紫藤ちゃん。きょうもカワイイね。」
あーあ、見つかっちゃった。
最近妙に出くわしやすいんだよね。
「こんにちは。根取くん。」
根取益男くんは、日焼けした丸刈り頭をほころばせて目がなくなるような笑みを浮かべた。
何部だったっけ。聞いたけど興味ないから忘れちゃった。
一般的には、きっとさわやかなスポーツ青少年でモテるんだろうな。
だから、わたしになんか構わなければいいのに。
わたしはそんな良いとは思わない。女の子にはべたべたするし、ちょっと強そうな男の子にはへこへこするのに、おとなしい男の子は無視したり威張ってたりして、なんかヤだ。
「きょうもあいつと帰んの?」
「今日は志野くんと帰るんだ。またね。」
だけどそこで放してはくれないんだなあ。
「志野って、こんど調布と実行委員になったっていうじゃん。」
知ってる。
そして、志野くんは、ときどきさとみんをじいっと見てる。
まあ見ちゃうよね。わたしもさとみんを見てるの、好き。
美人だし、背が高くて、手足も長くて、決して細くはないけど、バランスが良くて肉感的。
ルパン○世の不○子ちゃんほど巨乳じゃないけど、あれに近い感じ。
見ててどきどきする。男の子の思考なのかもしれないけど、乱れさせたい、とか思っちゃったりする。
さとみんは、志野くんのことは、どう思ってるんだろう?
前は怒ってたけど、最近はそうじゃない感じ、むしろ好意的?
ちょっと気になるけど、ーーでもどのみち、この人に言われる筋合いはない。
「うん、わたしも企画委員になったよ。」
「あっそう。気になんねえの?あのデカ女、志野のこと狙ってんじゃねぇ?」
「だとしても、わたしは志野くんが好きだよ。」
「志野ってそんないい奴なのか?あっちこっちに目移りしてるじゃん。」
それはきみも同じじゃないかな。
心でそう思ったけど、口には出さない。でもいい加減、いやになってきた。
この人、自分が言いたいこと、したいことだけ先行してて、私がどう思うか、どうしたいかってことを考えてないもの。
わたしはさっさとここを通り抜けて、志野くんに会いたいんだ。わかんないかな。
「わたしのことを思っていろいろ言ってくれたんだよね。ありがとう。でも、きょうはもう帰るから。じゃあね。」
「おい、ぉぃ、ーー」
声が遠くに流れていく。
わたしは結構足が速いんだよ。見くびってたでしょ?
わたしは走っていく。景色が流れていく。
志野くんがいるに違いない、渡り廊下へと急ぐ。
あ、志野くんだ。
ーーーーー
毎日、一緒に待ち合わせて帰ってる。
でもすこしだけ、志野くんとわたしの間が開いてしまったような気がしている。
最近、あまりいっしょにいる時間がないんだ。
もうすこし、ふたりだけでいっしょにお話ししたい。いや、お話ししなくてもいい、ぎゅってしてほしい。
この前みたいに、いっしょに寝転ぶだけでもいい。
志野くんにまとわりつきたい。
あのしなやかな筋肉に触れたい。
志野くんの匂い、吸い込みたい。
色々したい、そしてしてもらいたい。
家に帰ると、きついタバコのと酒の匂いをさせたお父さんがぎゅっとしてくるんだよ。
嫌だ。
目に情欲を滾らせて。股間を膨らませて。
それが志野くんだったら、と無理やり思い込んで、最近しのいでる。
最近、胸が少し大きくなった、らしい。
最近、腰回りが少し豊かになった、らしい。
あの狒々じじいは、そう言って、わたしの胸元から手を入れて揉みしだき、スカートの下から手を入れて腰をまさぐってくる。
ちがうんだよ。じじいじゃなくて、志野くんのものなんだよ、わたしは。
志野くんに、触ってほしいんだ、嬲ってほしいんだ、そして抱きしめてほしいんだ。
はじめてを一緒にしたい。そしてそのあとも、ずっと。
だから、中間考査で勝ったら。そうお願いをしようと思ってた。
今すぐ、とは言わない。でも予約したかったんだ。志野くんにわたしのはじめてを、その、味わってもらう(?)ことを。
わたしはさとみんほどではないけど、成績はいい。
志野くんの元クラの人に聞いたら、まあ悪くないけど名前は(優秀者として)成績表に載るか載らないか。
勝てると思ったんだ。
志野くんの元クラがすごかったのか。
志野くんが伸びたのか。
後の方だろうな。志野くんの元クラの子がびっくりしてたみたいだから。
志野くんの成績が伸びたのはうれしいけど、きっかけをなくしちゃったよ。
志野くんの好みを知りたいと思って、この前は、志野くんの提案を受けて、帰りがけにショッピングした。
いろいろ反応を確かめたくて、罪悪感に耐えつつ服を試着してみせてみる。
脚を見せる、ミニとかを喜んでいる気配。
男の子だね、わたしの脚はそんなに細くないし、美脚でもなんでもないと思うんだけどな。
なぜか買ってもらったのは、長めのデニムのワンピース。着回しが効くし、この前のキュロットとあわせて、わたしのお気に入りになった。
でも、もう少し短くて、そう、誘ってる感じなのでもよかったんだけどな。
志野くんを誘いたい。志野くんに、襲ってもらいたい。けど志野くんはなにもしてこない。
大事にしてもらってることは、感じてるんだ。
でも進まない。大事にしてくれてるから?
うれしいけど、もどかしい。
今週末は志野くんは試合がある。
帰りにまた、一緒になれるかな。
この前みたいに、ずうっと国道沿いを一緒に帰るだけでもいい。
志野くんと一緒にいたい。
だから、考えた。
あの謎の開かずの部屋。あの部屋をつかってみようって、思ってる。
埃だらけだって志野くんは言ったけど、私の目にはそこまでとは見えなかった。
だとすると誰か掃除に入ってるのかな?
いちゃついてて、用務員さんとかに踏み込まれるのは避けたい。
でもそこまでの頻度ではないだろうな。階段は結構埃が積もってた。
ソファもあるし。さすがにその、やったりはできないけど、志野くんに抱きついたり、抱っこしてもらったり、その程度のことはできるだろうし。
あとあの本とか絵とか。調べてみたいな。
試合が終わったら、こんど土曜日に、志野くんを誘ってみよう。