※この作品はR-18です。

タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。   作:Marchhatter

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(追記)紫メッシュ少年の名前を変更しました。
 「茂武」→「野伊豆」


46 猫の手も借りたい(5)(志、一部三人称)

 

 土曜日。卓球の総体予選会場の体育館。

 決勝リーグは甘くなかった。すでに僕は2敗。そして3戦目の目の前の相手は、これまでトーナメントも含め1ゲームも落とさず、もちろん決勝リーグでもストレートで全勝。優勝候補筆頭と言われてる。

 まあここまでやれたのだけで十分だ、とちらっと思う。

 でもな。

 遠くを見上げると、あの少し薄い色の髪。多分、パステルカラーの髪ゴム。

 ついさっき、紫藤が来てくれた。

 ちょっといいところ、見せたいじゃないか。

 男の子は、昔からそういう見栄っぱり、虚栄で命まで賭けてきたんだから。

 

 相手選手はともかく、周りのチームは、もう僕に勝ちの芽はないと見切った態度。

 2敗目のとき「大したことないじゃん、」とか、「所詮番狂わせ」とかいう陰口が聞こえたしな。

 そうかもしれないい。でもね。

 この試合も負けるかもしれないけど、僕はなにもせず負けるつもりはない。

 

 お互いに礼をして試合開始。どうしたんだろう、変に体が重い気がする。

 思ったように体が動かないっていうか。

 相手のサーブ。

 音が消えたような感覚。ボールがゆっくりと迫る。

 

 ボールの回転と速さがわかる。いまこの角度で打とうとしていたけど、それだとネットに引っ掛けるってわかる。だけど上手くなったわけじゃない、ただ、今こうして腕を振ってそのまま当てるのはだめだとわかるんだ。

 

 必死の努力で角度を微修正、微修正、微修正、だけどその度に、それもまだだめだとわかる。

 もどかしい。

 でも努力が実を結び、許容範囲の角度と速度でラケットのラバーがボールを撫でる。

 逆回転を上書きされたボールは、緩く相手のバックハンド側に。少し高く浮いたか?

 

 だが、相手は返されると思っていなかったようだ。目を剥いてるな。そんな早い球でもないし、返せるだろうこのくらい。

 打ち返しは来た、だけど甘いんじゃないか。優勝候補だろう?油断したな。

 ほら、こうして、ライジングで思い切りたたきつけると。

 ポイントだね。

 

 これは僕にとってはじめての、ゾーンと呼ばれる体験だったのかもしれない。

 調子が良かったという感じとは少し違う。感覚は冴えているけど、その冴えた感覚に体がついていけない、生かしきれない、自分ののろまさと不器用さ、体力のなさに歯噛みする思い。

 体が重い感覚も、要するに体がついていけてないっていう感じなんだ。

 でも、感覚は超絶に冴えわたっていた。これで体力や腕を、ちゃんと磨ききっていたら!

 変に鋭敏になった感覚で、相手の技巧を読み取り、返す。直感的に、相手の嫌うところに。

 さすがに優勝候補。人格的にも技量的にも僕の上を行く。

 こんな泡沫選手にかき回されてるにも関わらず、ひたむきに、自分の勝てる手を打つ。

 試合は一進一退。多分だれも予想してなかったんじゃないかな。

 だってその前の2試合、紫藤が来てくれるまでの2試合は、僕はほとんどボロ負けだったんだよ。情けないけど。

 それが、僕が負けた2選手より強いと下馬評では言われていた選手に食い下がり。

 第一ゲームはジュースにもつれ込む。

 超絶感覚が続いてる。ああ、こう打てばエッジ(角)に入るな。

 さすがにこれは拾えなかったようだ。悔しいと思うがそぶりは見せない。

 一応、エッジは単なる偶然ということになってる。軽く頭を下げる。

 第一ゲームは、獲った。

 

 場所を交替する。

 相手の精神力は大したものだ。妙な確変中のやつを相手に、一歩も引かない。愚直に、自分の技量を出し尽くして粘る。心は折れてない。

 僕よりはるかに経験も長いはず。こういう局面も今までに何度かあったのかもしれない。

 尊敬に値する。

 敬意を抱きつつ、僕は僕の直感で戦う。

 また体を回転させて、ためを作って裏拳でバックハンドを打つ。絶対に普通の選手はしない、軽く打てばともかく、全力で打ったボールがどこに行くか、普通は予測も困難だ。

 そして確変中の超感覚の僕は、無様に見えるがわざとネットインという荒技すら可能にする。

 もちろん、軽く頭を下げる。偶然だもんね、狙ったけど。

 変な幸運が続くやつだ、と思ったかな。

 僕はサーブは上手くない。だから、打ち込まれる。

 でも、大きく離れて打ち返す。

 超感覚を信じて、大きく打ち上げて返す。

 相手のバックハンド側コーナーぎりぎりに。

 さすがだね、返してきたよ。

 

 第二ゲームも、ジュースまで持ち込んだけど取られた。やっぱり当方サーブが苦手だな。

 第三ゲームの勝負までも、ジュースにもつれ込んだ。

 相手の選手もマジかよ、って感じだっただろうな。

 勝った。大物殺しだな。

 相手も疲労困憊気味。ごめんね、こんな訳の分からないやつの相手させて。

 リーグの星取上は2勝1敗が2人、1勝2敗が2人。ゲーム数で僕が勝った相手が2セット先取のストレートで他2人を下していたこともあり、一応、順位1位。ほっとした。確かに実力じゃこいつが飛び抜けてたし、こんなポッと出の変な奴に運命狂わされたら困るよね。

 そしてほかの二人にストレート負けしてた僕は最下位。いいさ、万馬券も獲ったしね。番狂わせが僕の役割なんだろう。

 でも番狂わせでもなんでもいい。紫藤を最終的に救えれば。

 

 その後、負けたけれど、さっぱりとした気分で、紫藤と順位決定戦を観戦。

 頑張ったね、とにこにこと褒めてくれる。うん、頑張ったよ。半分以上運だけど。

 先輩はいい線行ったけど、入賞はならず。でも僕たちの学校にしては、ここ数年はない快挙だったよ。

 優勝したのは?紫藤に夢中で覚えてないよ、そんなの。

 

 試合が終わり、帰宅する。

 また部員たちに冷やかされながら、紫藤と一緒に帰る。

 来ている何人かは、明日のダブルスの試合に出場する。今日は解散だ。

 僕は紫藤と、会場から駅までバスで乗り継ぐ。

 

 良かったら、途中まで歩いて帰ろうよ!という紫藤の言葉を受けて、駅から自宅方面まで、国道沿いを歩くことにした。

 

 「そういえばね、」

 

 夕陽に眩しそうに目を細めながら紫藤が言った。

 

 「中間考査のときの約束なんだけど、」

 

 「それそれ、引き分けだったからなあ。お互い1つずつ、してほしいことを言うってのは?」

 

 「うん、それいいね!」

 

 何でも言ってよ!今すぐのことでなくていいから、と。

 うれしそうに見上げる紫藤。正直たまらん。

 何がいいかな。もう6月、遊んでる時間じゃないんだけど、1日くらいは時間を見つけて一緒にすごしたい。

 ここしばらく、少し隙間が開いてたのも忘れたように、僕たちは手をつないで、寄り添って歩いた。

 試合で汗かいてしまったけどな。大丈夫かな。

 風は結構ある、大丈夫だろう。

 まだゾーンの超感覚が続いてる。握った手から、紫藤の心拍までもわかりそう。

 紫藤は風にかき乱されて、眉にかかった髪を少し鬱陶しそうに払った。

 少し髪が伸びたのかな?

 伸ばしてもかわいいと思う。きっと。

 

 文化祭、調布がなんか張り切ってて不気味だという話とか。

 こんど、また開かずの間を探検しようよ、という話とか。

 また飯場に行ってみよう、という話とか(もっとも、僕は話は合わせたが、ちょっと荒っぽくなりそうなので紫藤を飯場の人間たちに関わらせるつもりはない。様子見ならいいけど。)。

 アルバイトをどうしよう、という話とか

 中間考査後のクラス対抗球技大会が楽しみとか。

 いろいろ話したいことがあるんだ。

 

 結局駅から紫藤の家のそばの公園まで送ってしまった。

 また久しぶりにキスをする。紫藤も、なんかいつもより積極的っていうか、熱が入ってる気がする。

 名残惜しそうに手を振って家に入る紫藤を見送る。

 時間が結構遅くなってしまった。帰りはさすがに歩きは辛い、バスで途中まで帰るか。

 

 ショッピングセンターあたりまで来たとき。

 僕の超感覚(まだ続いていた)が、僕の関心のある名前を拾う。

  

 「みなりと、ーーー、ーーーーー。もちろんヤキいれっからな!」

 

 「ーーー、ーーー。」

 

 「知るかよ。みなりに、絶対来い、男も来させろって言っとけよ?」

 

 「いやだよ。姉ちゃんも嫌がってるよ、」

 

 「知ったことじゃねえ、てめえ。ボコられんとわかんねぇのか?」

 

 鈍い音。

 

 僕は進路を変え、スーパーのバックヤード的な中庭で、ヤンキー数人に囲まれてる男の子を見つけた。

 男の子ライフは大変だね。まあ頑張りな。

 そう思ったんだけど、男の子がこっちを見て。

 驚いたように、目を丸くして口を開けた。

 

 僕を知ってる?

 

 そしてよそ見してた男の子は金髪のヤンキーに膝蹴りを食らう。

 後ろから髪が紫メッシュの細長いのに羽交い絞めにされてるからね、逃げられないし避けられない。

 とりまきの一人がこっちを嫌な目でみて、早く行けやこら、という感じで唾をシュッと吐いてるけど。

 

 たぶんこの子、紫藤の弟?「みなり」っていう名前、そんなにありふれた名前じゃない。

 あと、少し紫藤に似てる。女顔だけど、さらさらした髪に長めの睫毛、まさに美形って感じだな。

 感じとしてはこのころ人気絶頂だったバスケ漫画の、S陽の藤Mというキャラを少し子供にして気弱にした感じ。

 ちょっと邪魔してくるか。大人は多分、役に立たないし。

 

 「おいおい君たちやめなさい。ーーそこの君、大丈夫かい?」

 

 あれ、みんな少年っぽいからおっさんっぽい声かけになってしまった。さっきの一人以外の不良どもも、ざわっとこっちを向く。4人か。 周りのチーマーみたいなやつら、多分僕と同じくらいか少し下。

 

 「なんだよてめえ。」

 

 ヤンキー金髪がにらみつけてくる。

 

 「その子、僕の知り合いでね。放してくれないかな。あと、みなりは僕の女でね。」

 

 違うんだけど、処女と準童貞なんだけど、言ってみる。

 

 「ーー、」

 

 おっと。

 

 いきなり取り巻きの一人がフウッ!と威嚇音みたいな声をあげながら、蹴りかかってきた。

 脅し半分のつもりだとはわかったけど。

 人数差があるからな、減らしておきたい。

 すっと腕で足の勢いに逆らわず反らして、股間に足蹴り。

 

 「!」

 

 チャボみたいな感じのその男、目をいっぱいに見開いて、苦痛と驚愕の表情。

 結構な勢いで当てちゃったけど、まあ潰れてはないよな。死ぬほど痛いと思うけど。

 人に痛みを与えるものは、人から痛みを与えられるとも知っておいた方がいいよ。

 だめ押しで鳩尾あたりに蹴り込む、うん、入った感触あった。しばらく息ができないほど苦しいよね、そこ入ると。

 

 「らあぁっ!」

 

 まだ羽交い絞めの紫メッシュと金髪は来ない。もう一人ののっぽが単独で先にきた。でも戦力の個別投入は愚策だと思うよ?

 倒れた一人目の鶏ガラを挟んだ位置にすうっと動いて、鶏ガラを蹴り、それに躓いて手を突こうとしてるところの顎を掠めるように蹴ってみた。

 あ、かわいそうに。ぐるんと白目を剥いた。でもまあ生きてると感覚でわかる。ただ、脳震盪って繰り返すとヤバイって聞いたけどな。まあいいや、ご安静に。

 

 大人が入り口を通りかかってこちらをちらっと見たけど、そのまま通りすぎる。この時代、大人は子供の喧嘩には基本不介入だ。

 あと二人行けるかな。

 そこの少年、羽交い絞めを解かれて突き飛ばされて何もせず見上げるんじゃない。それは女の子の役割だ。何、横ずわりして見てるんだ。君も少しは役に立て。

 

 「お前か!?クソが!」

 

 間を置かず金髪がきた。こいつが親玉?

 いきなりタックルですか。もしかしてラグビーとかやってる?

 顔をけり上げても、効かなそうな首の太さだ。

 今の僕はゾーンの名残りで感覚みたいなのは鋭いけど、ただの一般人だ。体重差のある、本当に強い人に捕まったらボコボコだろう。

 でも感覚は使える。こうして。

 ありえない動きだけど、最後の最後で相手に背中を見せるように体を回転させてかわして、空を切った相手の右手の指の一本だけをつかんで外に折り曲げる。併せて、地面につきそうだった相手の右足先をそっと押す。

 指を折ったらまずいよな。だからこう、背中に腕を折りたたませるように誘導して、っと。

 よし。

 地面にうつぶせにたたきつけられて、背中に腕を取られて制圧された男の一丁あがり。

 結構激しくアスファルトの地面に行っちゃったみたいだけど、大丈夫だよね。男の子だもんね。

 

 でも残りの一人が来たらやばいよな。紫メッシュが。

 

 「来たら折っちゃうけど、大丈夫?後でこの子に恨まれない?」

 

 にこにこ笑って、美少年を突き飛ばした後、こっちにこようとして、でもあっという間に金髪が沈んだのをみて呆然としてる紫メッシュに声をかける。

 

 「ほら、痛そう。こんなに。」

 

 指をねじ上げるだけじゃそんな痛くないかもな、と思って、相手の指を握りなおし、その爪と肉の間に、ちょっと伸びちゃってた自分の親指の爪をねじりこんで痛みを与えてみる。

 

 「放せ、くそが!野伊豆、はよ!」

 

 苦痛に唸りながらも指示してる。不味いな。

 

 「こーんなに!」

 

 「ー-っ!」

 

 ついでに空いてる方の腕で、金髪をつかんでアスファルトに軽く打ち付けてみる。

 

 「このままだとハンサムさんになっちゃうからさあ。その子と交換、どう?」

 

 「野伊豆、聞くんじゃねえ、ぐふっ!こんな、うぐっ、」

 

 めんどくさいし、そろそろ先のやつらが復活するとまずい。

 のしかかるようにして肘を後頭部に落としてみると、金髪が黙った。かなりの危険行為だけどさ、頑丈そうだし大丈夫でしょ。

 紫メッシュは何も言えず凍ってる。アドリブ効かないね、君。金髪の言う通り、とにかくこっちに向かってきてたら、多分あっさり僕はボコボコ祭りになってたよ。

 

 少年の方が再起動が早い、持ち物の学生鞄を拾ってこっちに来た。制服は蹴られた足の跡とかもあって白く汚れてるけど、まあ破れてはいないから大丈夫か。なにこの校章、もしかするとラディスラウス学園か?すごいな。全国レベルの超名門校じゃん。

 

 ほいっとな、と金髪を開放して、後も見ずに少年の背中を押してバックヤードから出るよう促す。

 急がず騒がず、堂々と背中を見せて退場。大丈夫、今の僕なら超感覚で後ろのやつらの変な動きがあったらわかる。

 時間にして5分くらい?制服じゃなくて私服に着替えてたし、大丈夫だよな?

 万が一、少年から後で聞きだすとかして僕の素性が分かったとしても、学校に持ち込まれることはないと思う、この時代はよくあるいざこざだ。それにもう試合は終わった、部に迷惑をかけることもあるまい。試合前だったらともかく。

 

 じゃあ、気を付けて帰るんだよ?ほら、僕はバスが来てるからさあ。

 そう言いすてて、今にも動き出しそうなバスに乗り込む。

 

 窓からちらっとみると、少年が呆然とこっちを見上げてた。指でさっさと行け、と指示すると、びくっとして頭を下げて、あわてたように家の方向に駆け出した。

 

 うん?

 そういや、どうして僕を知ってるのか、聞き忘れたな。

 これはまずい。多分、例の家のそばの公園でいちゃついてるのを見られた?あのデレデレしてんのを?もしかしてキスまで?ぐはっ!

 しかも超感覚でハイになってたとはいえ、なんか全然実力不相応の大物めいた愉悦ムーブなんてしちゃって。うわぁー。まさに小物が気分大きくなっちゃったパターンじゃん。

 今日はたまたま超感覚だった、だけど二度とは望めまい。多分僕がノーマル状態で同じ状況だったら、多勢に無勢でボコボコだろうよ。分不相応なことはやめときゃよかった。

 羞恥と後悔とのないまぜに苛まれながら、僕は素数を数えてバスの中を過ごした。

 

 ーーーーー

 ーーーーー

 

 少年は呆然と、処刑場に入ってきたその青年を見た。

 

 少年はたまたま帰宅中、姉の幼馴染、近所でも眉を顰められる不良少年につかまってしまったのだ。

 しつこく、姉を呼べと言われた。断りもなくヤラせただろう、相手の男も呼ばせろ、と。

 拒否して殴られた。

 ひとしきり殴らせるしかないか、と諦念を覚えた。少年は今でこそ中二にしては背も高くなって運動も少し自信もついたけど、小学校までは痩せててどちらかというとミソッカスだった。まるで喧嘩なんて自信がない。

 

 そう思っていた時、バックヤードに入ってきた、その青年。

 背は高めだし、動きも機敏そうだが、育ちはよさそうで荒っぽいことに向いてる感じじゃない。

 その顔をみて、少年は気づき、発言を聞いて、確信した。

 あ、あいつだ!この前、姉ちゃんにキスしてたやつだ!と。

 とんでもないことに、家のすぐ近所の公園で、みなり姉とイチャイチャして、挙句の果ては濃厚なキスを見せつけてったふざけたやつだ。

 かなり重度のシスコンである少年は、姉のキスを目撃した晩、後世ではNTRとか鬱勃起とかいう語で有名になった状態を経験して、泣きながら抜くことになったのだ。

 その後でその男の呪いの藁人形を作ろうと考えてたのだ、見違えるはずがない。

 

 しかしまるで緊張感なしにふらりと入ってきたその間男(※少年視点)。

 余裕の態度で、少年の目には、あっさりと3人を制圧したように見えた。

 相当に喧嘩が強いと言われてるゴウジたちを相手に、手加減をする余裕まであったようだった。

 

 ーー強い。

 ーー僕より大きいし強いし。ぼくと違ってみなり姉との交際や結婚に障害もないし。ずるいよ!

 

 姉を奪っていこうとしてる間男(※少年視点)への敵愾心と、一応は窮地から救ってもらった感謝とがないまぜになり。

 救いだされた後、何も言えないでいると。

 その間男(※少年視点)は、少年を人通りの多い安全なロータリーに連れ出すと、自分はさっさとバスに乗り込み、少年に帰れと指さした。

 ともあれ、自分の窮地は過ぎた。あれだけ実力差をゴウジに刷り込ませた以上、姉もしばらくは大丈夫だろう。

 頭を下げて家路へと走る。

 ゴウジというあの不良は、鶏と同じだ。ボコボコにされたりして、自分より強いと刷り込まれるとおとなしくなる。鳥頭だから、そのうち喉元過ぎれば熱さを忘れるってやつで、また騒ぎ出すかもしれないけど。

 

 少年は家への道をたどりながら、考える。

 今日のことを姉ちゃんに報告しちゃだめだ。ますますあいつに夢中になってしまう。

 ぼくも鍛えれば、あんなふうになるかな。雑誌の広告にあった、あのバネを引き伸ばす道具とかがあればいいのに。もやし少年が牡牛みたいになってた、あれ。

 ああ、服が汚れちゃった。みなり姉に洗ってもらおう。

 みなり姉、もう帰ってるかな?着替えに間に合うように急がなきゃ。下着、朝と変わってないか要チェックだ。

 ああ、でも、そうだ。

 今日は土曜日だ。あの糞な継父がいるだろう。

 最近、ここしばらくなかったけど、姉ちゃんがまた痛めつけられたりしてないかな。

 あれ?というか、あの間男がここにいるってことは。

 かっとなって、少し注意力が逸れて、躓きそうになった。危ない危ない。

 また、みなり姉はあの間男といちゃつきやがったんだ、きっと!

 そんなみなり姉なんて、あの糞おっさんに痛めつけられちゃえ。

 

 少年の慕う姉が、ここ半年以上、継父からいろいろな折檻を受けていることを、少年は知っていた。

 当たり前のことだが、ちょっと前までは、すごく嫌だった。

 なんだかんだいって、少年は姉が性的な意味でも性的でない意味でも好きだったし。

 そのうちエスカレートして、継父が姉をヤってしまうかもしれないと考えると、いてもたってもいられなかった。

 みなり姉は、ぼくのなのに!と。

 だが、最近。

 姉が継父に、性的要素を含む拷問を受けるようになり。

 少年は相変わらずそれを嫌悪しつつも、同時に妙な興奮を感じて。

 心待ちにするようになってすらいた。

 

 ある夜。後手に縛られ、力なく床に崩れ折れていた姉を見て、少年はありえないほど激しい勃起を覚えた。

 もちろん後でしっかり抜いた。

 別の夜。縄に吊るし上げられ、責め具に両脚を拘束されてあられもなく広げられ、それどころか下着まで無防備にずらされている姉を見て。

 再びありえないくらい興奮した。ついでに、間違えたふりをして滑車を滑らせ、姉に苦痛の声を上げさせて陶然とした。直立が難しいほど勃った。

 もちろん、その場でも抜いたし。

 後でも、脳内リピート再生しながら数回抜いた。

 

 少年の理想の女は今も昔もこのロリっぽい姉だった。成長が遅く、バスなんかで再会する同級生より下手すると幼く見える(少年の中学は私立の男子校だった)。

 不健全と分かっていても、その憧れの姉の、少年の性的な欲望に直撃する姿を見ると、興奮して痛いくらいに勃ってしまう。

 

 今日はどうなんだろう。しばらくは、ぬるくセクハラをされてるだけみたいだったけど。

 またあんなことをされてたら?

 助けるふりをしながら、ぼくもみなり姉にいろいろして、声を上げさせてみたいな。

 少なくとも、助けるときに触るのは仕方ないよね。

 少年はその甘い美貌に似つかわしくない、彼の愛する姉が見たらたぶん引いてしまうだろう黒い笑みを浮かべて、家路を急いだ。

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