タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
47 猫の手も借りたい(6)(志)
月曜日。
今日はいろいろ予定が入ってる。
日曜日のダブルスでは、なんと1チームが準優勝。惜しくも優勝は逃したが。ちょっとしたお祭り騒ぎになった。
僕は出場せず観戦だけだったし、紫藤もその日は来なかったが、試合に出た部員と応援勢とで軽く打ち上げした。これはこれで楽しい。
月曜の全校集会でも報告があって、ちょっと誇らしい。
でも今からはあれだ。いろいろ本腰で進めないと、もう6月なんだ。
「1回目」では、紫藤母が倒れたと推定される時期に入ってきている。
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昼休みの文化祭のクラス企画会議。
図書室のグループ小会議室を借りて、企画を煮詰める。
今回は水面下で、女子たちを中心にこれをやろうよという根回しや運動が起きてた。ある意味、当事者として捉えてるってことで、いいことだ。
そういうわけで、いくつか有望な企画に目星がついてる。
ただ、クソ真面目な校風なので、純然たる楽しみ企画みたいなのはだめで、どんなにわずかでもいいから文化や学問と引っ掛けることになる。
よくある迷路とかの企画も、タイムトライアルで脳の記憶力を試すとかにしないといけないんだぜ。
「いろいろ上がってきたけど、これと、これと、これくらいかしら?」
調布が良くとおる声で、この前のホームルームとアンケートで上がってきた企画案のうち、有望そうなものを黒板に書きつける。
一つは歴史と引っ掛けた。歴史的な服装の変遷を紹介し、好きな衣装も試せるというもの。いってみれば歴史系コスプレをやろうよ、という企画だ。日本に絞るか、古代ローマとかヴィクトリア朝時代とかの外国も含めるか。衣装製作が大変かもな。
一つはゲーム系。ことわざを使って、同じ意味のことわざをたくさん言えたら勝ち、とかのゲームを設定。同じゲームだとタネが割れるので、時間設定をして数個の違うゲームを、エントリーしてくれた参加者にしてもらう。優勝チームには賞を出そう。
もう一つは喫茶系というやつかな。本格的にいろんな種類の紅茶を集めて、東インド会社を含めいろいろと歴史や地理の勉強に引っ掛ける。あと、中国茶とかマテ茶とかの飲料系も集めて飲み比べとか。
あと、ちょっと黒板ではハテナが書いてある、心理ゲーム系。ほんとうに科学的根拠があるのかどうかわからないが、心理テストをやってもらって、性格診断する。でもこれは、文化に引っ掛けにくいかもな。心理学は大学の課程の話だろうし。女の子の好きそうな内容ではあるんだが。サイコパス当てみたいな小話テストじゃなくて、クレペリンみたいなのをやってみるとまた面白そうだ。
モグラたたきとか、ピタゴラスイッチとかも提案があったが、ちょっと勉強系とくっつけるのが難しそうだ(僕たちのクラスは文系で、物理選択者はいない)。
「これでいいんじゃないか。この4つ、あるいは心理ゲームをはずした3つで投票してみよう。」
提案してみる。
「俺はもうちょっと中身やこの会議としてのコメントとかを加えてもいい気がする。たとえばことわざゲームも、もうちょっと具体的な内容を入れると票が違ってくるかもしれないし。」
これは青山。
人望もあるし、元運動部だけどこの手の企画立案とかに興味あって、企画委員に選ばれた。上々だ。
「そうだね、意見はつけよう。でも作り込みは自分たちでやったほうがいいんじゃないかな。わたしだったら、一つ目の歴史系のやつ、どの時代に興味があるか、グループに分けてで調べて作ったりするのは楽しいんじゃないかと思う。」
「喫茶系もそれはいえるね。」
「あくまで例示はつける、でも細かい内容をどうするかってのはグループわけしたりしてもいいかもしれないわね。全体としての統一感は取りにくくなるかもしれないけど、そこはやりようでしょう。」
30分くらい、実行委員の僕と調布、企画委員の青山、高木、紫藤、中村さんで食事をとりながら意見交換。残り3つで提案することにした。4番目の心理ゲームは独立企画というより、3番目の喫茶系と組み合わせてはどうか、という感じ。
一度今日の議論はここまで、として、企画委員を返す。調布と紫藤と僕が残った。
「ねえ志野。あの話、進めてみるんでしょ?」
「あの話って、なあに?」
ちょっと二人だけで秘密作らないでよ、といわんばかりに紫藤が頬を膨らませる。今日はまた少し動きがぎこちないな。やっぱり土曜日の試合の後に歩かせたからかな。いちゃつきながら帰ったのもあって、1時間半はかかってたし。
そういえば弟さんはどうなったのかな。気になって紫藤を見つめると、頬のふくらみがふしゅっと消えて恥ずかしそうににこにこした。かわいい。
「あーそこ、ピンク色の空間を作らない。ーーみなりには言ってなかったけど、ちょっといろいろ考えてたのよ。文化祭企画とはまた別に、何かやってみないかって。」
「何か、って?」
「たとえば、ね、ーー」
例の紫藤の啓発バイトのとき、多賀島大の学生と知り合いになったと聞いて、考えてたんだ。
大学と結びつきを作ったり、学校の活動と僕の調査を組み合わせられないかって。
進路を考えるための活動だ、っとすれば、進路指導とかの関係でもプラスに見えると思うし。
手始めに、僕と調布は担任の先生に頼んで多賀島大のいくつかの学部にキャンパス訪問ツアーみたいなのを受け入れてもらえないか、打診してみてもらうことにした。
上澄みは東京や京阪神に出ていくが、多賀島大としてもうちの高校はお得意さんっていうか、相当に優秀な人たちが来るところだ。いくつかには受け入れてもらえるだろう。
調布と二人でお願いしに行くと、先生がやる気があるねえ、と感心してた。協力してもらえそうな感じ。
まだまだある。
竜神沢のダム建設関係。これも地域見学の一種として企画できないか?と提案して、役所の人に案内してもらったりできないか聞いている。
こっちは例の修験道関係もあってやや難しそうだろうな。最悪の場合、現地見学でなくてもいいんだ。説明とか聞きたい。もちろん現地見学できて、働いてる人と接したりできればいいんだろうけど、強制労働的タコ部屋だとしたら、さすがに無理だろうな。
谷津崎グループ関係。OBを呼んで講演とか職場見学とかをお願いしてみたい。連休中、あの文芸部の和室で隠れて盗み聞きした浦和先生と山口氏との会話で、職場見学があるのは知ってる。
だけどそれは、多分3年生向け。それに便乗したいんだ。地元の有力企業グループだ、就職先に考えてる人も多いだろうし、新聞部を巻き込んでインタビュー記事とか乗せてもらったりというのも企業広報的にはいいだろうから、提案すれば釣れるかもしれない。
こうした調査活動、サークル活動みたいなのに仕立てて偽装できないかなという気もする。その一環で、会議室や余ってる部室を借りられないかそれとなく聞いてみたい(もっと言えば、例の開かずの部屋、使わせてくれないかな。何も使ってないなら、学校も嫌とは言わないんじゃないか、と思ってる)。
そういったこと、もちろん僕が調査したい真意は隠して紫藤に説明すると、感心したように僕をみつめている。いや、そうキラキラした目で見つめないで。
「志野って、こういうのに興味ない感じだったけど、結構考えてるのね。私からも、ーー」
東京の大学とかに進学したOBからも似たようなことができそうよね、とか。
観光を地域振興に結び付けて、とかいうことで、樋木崎渓谷関係とか、南頃支遺跡関係を調べたり、どう?とか。
やっぱり調布は有能だ。いくつかは僕の目的とも、かすってるし。
紫藤も楽しそうに聞いてて、例の旅館のプロモーションとかどうかな、と言っている。
それ、やってみたいね。たまたま僕の手元にはあぶく銭があるんだぜ。かなり目減りしては来たけど。
もちろん紫藤案も一覧に加える。紫藤もこの一味に加わってもらった。
あ、もちろんちょっと安全そうな表企画だけね?
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そう、裏企画がある。こちらが本命だ。
仮に名付けるとしたら。
①紫藤実父救出プロジェクト。
②紫藤継父追い出しプロジェクト。
③谷津崎プロジェクト。
ちょっと悩んだが、手が足りないのもあって、調布には①だけ明かして協力を頼んでみた。この①は、修験道調査プロジェクトを兼ねてる。
もっとも、本当に紫藤実父が大変な状況にあるかはわからない。本人に接触してみたら、意外に適応してた、みたいなことがあるかもしれない。
ただ、今までの情報からやっぱりあの飯場は、ほぼ確実にヤバい。タコ部屋だよな。
だから接触・救出はかなり危険だと思う、とはっきり言ったが、調布は二つ返事で快諾した。
ほんとに分かってんのか?下手すると飯場の親玉に捕まって18禁、なんて展開もありうるのに。
まあ、調布は将来的に渉外弁護士とかを考えてるみたいなんだ。
この手の監禁されてる労務者の人権擁護とかのネタも、好きなのかもしれない。
調布が手を貸してくれるとしても、やっぱり国領は必要だろう。
国領は国領で確保しといた方がいい。調布が協力してくれるなら、あいつは安全な役回りで。あいつも頭がいいし、足手まといには、ーーならないよな?
前回接触時の、あの腰を抜かしてた様子からは、不安があるが。
②は微妙な問題だが、紫藤母へのサポートをどう行うか。
うまく生存してもらって、お金関係をどうにかして。
あとは、誘導して離婚できればいいが。
紫藤はあまり語りたがらないけど、一度、ゆっくり話を引き出しておかないと。
正史だとそろそろ母がやばい。この2回目の世界だと、かなり負担は減らしてるはずだけど。
もう少し強く介入すべきか?
やることの内容がいまいち不明確なのが歯がゆい。
もう十分かもしれないし、全然足りてない可能性もあるんだ。
だから、まだ進め方が不明確だ。引き続き紫藤母への援助を続けて金銭面での不安を解消し、離婚に向けての状況づくりを進めるくらいか。
そして③。これが難渋している。
①②はまあ、人間界の話だ。だから人間界のもの、たとえば法律とかである程度行けるかも。
だが、③は別だ。僕はしょせんは人間。あのような超自然的存在への手段が思いつかない。
まして相手は、引退したとは言え、隠然たる財力も権力も持ってる。チートだろ。
怪しい修験道と嚙み合わせるってのができればいいかもしれないんだが、ちょっと非現実的だよなあ。
あとは、秋月さんか。でもお金面からいえば、向こうに雇われる可能性すらあるよな。
不明点が多すぎる。1回目の世界でも、谷津崎氏は本当に死んだのだろうか。あまりに長命だと注目されて王冠(仮)がバレるから、死んだふりをしたんじゃないか、と少し疑っている。
しかもこれは、あまり表立って情報を集めるわけにもいかない。
人が深淵を覗き込むとき、深淵もまた人を見つめ返しているのだから。
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とりあえずは、やることの内容が明確な①紫藤実父の救出に目的を定めよう。
そう思って、飯場の調査を少し優先して進めてもらった。
その結果、また少し情報が手に入ってきた。
紫藤がみかけた労務者が紫藤実父かどうか、またその状態がどうかという点については、近いうち確認ができると元さんが言っている。十中八九、紫藤実父だろう、とのこと。
例の飯場に呼ばれてる商売女に話を聞いたらしい。人的特徴等は一致してるし、その女は紫藤実父の名前を直接は聞かなかったらしいが、ほかの仲間から「スドウ」ないし「シドウ」と呼ばれていたことを覚えていた。実際には「シドウ」と呼ばれていたが、女は呼びかけた者の出身地の訛りで「ス」が「シ」と訛っただけで、本当は「スドウ」だろうと思っていたらしい。
ちなみに紫藤実父の利用歴も1回あるらしい。これはこれで復縁とかの話になったとき問題になるかもしれない。しかしその行動を責めるのはたやすいが、離婚は有効に成立してるわけだし、さしあたりは紫藤父にそれなりの元気が残ってると積極的に評価すべきかもしれない。生きる気力を失ってたら、そもそもそんなこともできないわけだしな。
ちなみに女の方では、まあ何人もの相手をしなければならないので体力的にはきついが、金払いや安全面の配慮はいいらしく、そこまでの不満はないようだ。この飯場、純然ブラックなのか判断つかねるところがある。
飯場の運営や、警戒態勢もある程度判明した。
食料品や酒、トイレットペーパーみたいな雑貨品等は、週1回運び込まれている。あと例の商売女、これはやや不定期らしいが、隔週。前回はたまたま連続しただけらしい。
飯場の労務者たちは、仕事のときにトラックで建設予定地の伐採や整地作業で連れ出される以外は、外には出られない。
作業で外に出る場合には、このタコ部屋の労務者だけでなく、この運営会社の社員や、地元で雇った作業員(信用雇いとか呼んでるらしい)もやってきて作業する。ただそういった者と労務者たちは、極力接触しないように作業させられている。
飯場には、大型犬が3頭いる。この犬たちが逃げ出す労働者や侵入者等の警戒に当たっているようだ。
管理側は多少のローテーションもあるが、まず監督、現場責任者の男がいる。これは、現場作業の間だけ泊まり込むようで、週末はいないことも多い。自宅が別にあり、そちらに戻っているのかもしれない。
あと、常駐しているのが3人。大柄の男1人、小柄な男が1人、あと年嵩の痩せた男が1人。犬はこの年嵩の男のもののようだ。
それ以外に、不定期で入る男が2,3人。これらの管理側は、基本、飯場にある普通の家に宿泊する。
それ以外の労務者は、納屋や家畜小屋、後は簡易なプレハブ小屋のようなところだ。人数は20人ほどだろうか?
主に飯場関係での任に当たっている3人のうち、大柄の男は口が利けるのか疑われるレベルに無口だ。小柄の男は攻撃的で、どうも気に入らない労務者をいびり倒している気配があり、嫌われているようだ。この男に労務者が竹帚で打ち据えられてたり、木に縛り付けられて放置されてたりというのが目撃されている。犬飼いは犬に餌を与えるとき以外は、あまり出てこない。
小柄な男がタコ部屋運営の中心だ。この小柄な男は牢名主のような労務者のボスとつるんでいて、いろいろ便宜を図っていたりする。そのほかにも便宜を図る代償に労務者にスパイを作っているらしい。犬も、主人以外には攻撃的で、ちょっと離れた位置に行っただけの労務者が吠えられ、追い立てられていたらしい。そういうわけで、脱走させるのはかなり困難だ。
小柄な男は、いつも木刀を持っている。大柄な男は金属バットを持っている。大柄な男が強いらしい、反抗した男をやすやすと取り押さえていたと聞いたし、作業に加わっているところが目撃されているが、力もおそろしく強いらしい。
そのほか、ときどき交替で来る男たちがいる。これはその時々で変わるが、うち一人、中肉中背の男が比較的良く入る。あまり仕事はできる感じではないが、わりと労務者たちへの対応は温厚で、ときどきは冷たいものや菓子などを差し入れたりしていて、世間話などしたりしている。比較的慕われている気配。
修験道との関係は不明だ。1度、伐採作業中に修験道の連中と小競り合いになりそうになった場面が目撃されている。そのときは、修験道の上層部らしい者が駆けつけて沈静化させた。
それ以外は接触がなく、飯場側がかなり気を使っているようで、付け届けみたいなものを一回渡しているのが目撃されてる。
ただ、元さんによると、修験道側の者が、労務者たちの伐採作業とかを監視していることがあるらしい。それに気づかれないようにするのが大変だったと言っていた。
修験道の連中の本拠地は、紫藤と僕が一度行ったあの集落から少し離れた別の集落にある。聖地というほどではないが、竜神伝説のある支流に位置する。
買収した土地はその集落とその周辺だけらしいのだが、どうもその範囲を超えた部分も自分たちの支配領域下と考えているらしく、その勢力範囲(?)に労務者たちが入ろうとしたときに小競り合いが起きかけた。
元さん曰く、この修験道方面は調べるのが難しい。どこから来たのかもよくわからない。支配下の土地は広大で起伏もあり、管理も悪い。野生動物、もしかすると野犬がいる。しかもいくつかある小道は監視があるらしい。
何やってるんでしょうね、こっちも後ろ暗そうです、必要がなければ関わり合いにならない方がいい、と元さん。
もちろん、関わり合いになるつもりはない。ただ、タコ部屋側と修験道側のこの緊張関係を利用することはありうるかもしれない。修験道側からの襲撃だと飯場側に思わせて、混乱させるという手を考えている。
それでは、いつ、どうやって実行するか。
この時期。学校週5日制への過渡期で、今年から公立高校では第2週・第4週の土曜日の授業がなくなった、という建前である。
ただし、うちの高校では第2週目の土曜日は平然と補習と称して、正規授業でなく演習を実施している。出席しない人はほとんどいない(ただし、あくまで補習なので、出欠日数にはカウントされない)。
第4週の土曜日の方は、補習はない。完全フリー。
6月はカレンダー通りだと祝日はない。第2週、つまり今週末の補習を無視して欠席すれば時間が作れる。あとは第4週。
第2週の補習を無視してもよいのだが、フォローが大変だ。学校から欠席の問い合わせが家庭に行く。この時点でまずい。今回一回限りはいいとしても、その後、あまり信用してもらえなくなって行動に制限を受ける。そうすると、その後のもっと重要な計画が滞る。それは避けたい。
それに、紫藤実父であることと、脱出の意思確認がしたい。人違いだったら笑えないし、そうでなくても本人に脱出意思がなかったら、その場になって売られたり、致命的な事態になりかねない。紫藤の話からはまあ好人物っぽいのだが、貧すれば鈍する。人は変わるからね。
その確認に、多少時間が必要だ。あと計画立案や実施準備は当然必要。
だから、勝負をかけるとしたら4週目の金曜日の夜、土曜日の夜のいずれかだ。真昼よりも夜間だろうな。
ーーーーー
という話を調布に伝える。
「それで、具体的な計画や、配役はどうするのかしら。乗り付けて、さあ出てきて、というわけにはいかないわよね。ーー真正面からの強行突破なんて、しないわよね?」
「僕が労務者に化けて潜り込んでもいいんだが、ーー」
「無理ね。」
ばっさりと切られた。
「若すぎるし、いろいろまともすぎる。前歯がアンパンでなくなってるか、せめてヤニで黄色くなってるくらいでないと説得力ないわね。言葉も動作も上品すぎ、荒っぽさが足りない。体も全体に清潔感がありすぎる。ーーあと2、3週間じゃ役づくりは無理よ。それに、」
顔を見せてしまうと、いろいろとまずいんじゃないかしら、と言う。
確かにまずい。向こうに後ろ暗いところがあるから、公的な手段、たとえば訴訟や学校への告発とかはないかもしれないが、非合法的な復讐はありうる。
「ーーだよなあ。」
「それにしても、あなたのその妙に偏った調査力と行動力、なんなのかしら。ーーあ、答えなくていいわよ、聞いちゃったらあたしが捕まって口を割る羽目になったとき、まずいでしょうし。」
「悪いな、確かに、マジ危険なんだ。もし調布さんが、ーー」
「でもあなたは、その危険を、誰に強制されたわけでもなく、みなりのために冒そうとしてる。」
「ーー」
「あーあ、みなりも幸せ者ね?こんなに想ってくれる彼氏がいて。ーーでも誤解のないように言っておくと、あたしもうれしいのよ?」
美術室の窓の外を眺めやりながら言っている。鼻筋の通った横顔が彫刻のように美しいな。
今回も、美術室を調布との密会の場所とした。また紫藤がむくれてる。後でフォローしなきゃ。
「みなりはあたしにとっても妹みたいなものだし。それに、あなたに共犯者と認めてもらえたのも、あたしの虚栄心をくすぐる。」
「ーーいつか、」
埋め合わせをしたい、と言おうとして。
いつのまにかすっと近寄っていた調布の指が、唇に触れて硬直した。
ひんやりとした白い指。次の瞬間には、離れていた。
「あたしは対価は求めない。でも、いつか教えてくれたらと思う。」
あなたが何者なのか。
あなたのことが、もっと知りたい。
そっとささやくように言われて、見抜かれたか?と焦る。
30過ぎのおっさんが、女子高生に詰められて焦っている。
「僕からみたら、調布さんこそ何なの、って思うけどね。高校生とは思えないよ。」
反撃してみる。
「老けてるってことかしら。失礼ね。」
調布はからからと笑った。一瞬の緊迫感は、霧消した。
僕と同じようにタイムリーパーかという思いが一瞬頭をよぎったが、まあそうではないんだろうな。
ハイスペックな高校生女子だってことだろう。
調布はまあいいけど、と言って話を戻した。
「もっと細かい計画が必要。あなたが立案する?あたしも加わる?そして、」
ちょっと迷ったように目をつぶった後。
「直前でもいいから、みなりには言っておいた方がいいと思う。ーー計画に加わってもらってもいいと、あたしは思うけど。」
あの子、ああ見えてかなり芯は強いわよ。
それに、その人、助ける人のことを知ってるのは、この中ではあの子一人。
実働面はともかく、計画に加わってもらって、父親のできること、できないことをチェックすることはしてもらった方がいい。
そう、調布は言う。
もっともだ。だが、やはり迷いがある。
紫藤実父を逃がしたとき、やはりつながりを洗われやすいのじゃないか。
体力面、戦闘能力面でも、荒事はちょっと避けたい。
そうすると何も知らせず、適当にアリバイを作ってもらう感じで別行動。そう考えてた。
ただ、計画面は、確かに調布の言うとおりなんだよな。僕ら実行組は、だれも紫藤実父を知らないことになっちゃう。
つながりを作るときも、知らない人の言葉には乗りにくいだろう。紫藤に手紙を書いてもらうとか、必要かもしれない。
いや、手紙はダメだな。ばれてしまいそうだ。思い出の物とかかな?
元さんは、多分例の商売女に頼んで確認するつもりなんだろう。そのときにどうにか連絡をつけたい。
しかしな、実行計画自体も伝えるのが難しいな。PHSも携帯もポケベルも、足がつきそうだ。
問題山積みだ。
しかし、調布の言うとおりだ。僕一人では穴が多すぎる。危険にさらす以上、調布には計画立案に噛んでもらおう。そして紫藤にも、やっぱり参加してもらったほうがいいよな。
とりあえずそうまとめて、話し合いを終わった。
あたしは少し残ってるから、先に帰りなよ、と言われて僕は先に美術室を出る。
最後に振り返ってみたとき、調布は緑に染まる窓辺で軽く目を閉じ、少し顔を上げて佇んでいた。
何か、昔みたことがある宗教画のようだ、と僕は思った。