タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
「――あんた、死相が浮いてるぜ。」
そうは言われても、というのが正直なところで、僕の顔は困惑に満ちていたと思う。
男もそれがわかったようで、頭をガシガシと掻きながら、部長に向いて言った。
「元さん、いや部長、わかんだろ?ちょっとこの旦那に言ってくんねえか。」
「アキさん、観えたのか?」
「おおよ。百に一つも外すもんか。勘違いじゃなかったら、お兄さんはちょっと困ったことになってるんじゃねえかと思うぜ」
『元さん』は、深々とため息をついて、僕に説明した。
この男、アキさん――秋月という名前らしい――は、かつてその名を知られた腕っこきのボディーガードだったということ。
もはや第一線は引退したが、趣味と実益と腕をなまらせないことを目的に、この会社と契約を結んで、ときどき仕事を受けてくれていること。
決して幽霊が見えるとかの超自然的なものではないが、修羅場を生き抜く中で養われた、ある種の敏感な感覚により、「ヤバい相」「死相」がわかるということ。
百発百中ではないが、――死相と思って忠告したら、結局は妻への浮気バレだったということもあったらしい――、かなりの高い確率で「死相」を看取すること。
そして、僕の顔に、その死相があること。
「なあ、その食事会とか、やめるわけにいかねえのか。どこであるんだ。」
そういえば、同じ場所、同じ時間といっても正確にはわからない。
「9時過ぎくらいに、二木馬場の裏手にある居酒屋で、ということなんですが――」
「なあ、俺を連れていきな。俺を傭っておけ。金なんざ要らねえよ、少しでいいんだ。
8時から3時間、時給1000円ぽっきりでいいぜ。
それで俺の勘違いなら笑ってそれだけくれればいい。もし何かあったら、その場合はちょっとあんたがいいと思う額を足してくれ。
べったり貼り着かれるのが都合が悪けりゃ、テーブル一つ挟んだ向こうで知らん顔して飲んでおくし、店に入るなってんなら、表でタバコでも吸って待っててやるよ。
俺は地回りにも顔は効く、悪い話じゃねえだろ。なあ、どうだ?」
妙に熱心に売り込む。
はっきり言ってこの男の方がよほど強面で、堅気でない感じから要らぬトラブルを引き寄せそうでもあるのだが、どこか職人っぽいような誠実さが感じられ、僕は無下に断ることができなかった。
そして元さんと呼ばれた部長、こちらは温厚で仕事もできそうな、社会人としてまっとうな感じの人だが、目を閉じてため息を深々と再度吐き出した後で、僕に言った。
「志野さん、ちょっとこの方は、その、怖い感じで、実際、怖いこともあるんですが「なんでだよ」、でも腕は立ちます。そして、馬鹿なこととお笑いになるかもしれませんが、この方のちからで命を救われた人もいるんです。
うちの興信所の調査のオプション扱いにしますから、いかがでしょうか。もし何もなければ、請求しません、無料でいい。
でも、さっきアキさんがおっしゃったとおり、何かあれば、その分、ちょっと色を付けてください。その場合でも、5万円以上は請求しません。――いかがでしょうか。」
僕は急展開についていけなかったが、でもどこか高木の急なメールには、何かの危険性を高木が感じたこともあるのかもしれない、と考え、アキさんと呼ばれる男、秋月に同行してもらうことにしたのだった。
ー――――
秋月と僕は、結局連れ立っていくのではなく、秋月が後ろから尾行し、頃合いをみて時間を置いて秋月が後から店に入る、という手を使うことにした。
それなら、今ちょっと予定を変えたってダチに言ってくるぜ、と秋月は事務所から出ていき、時間も中途半端だったので、僕はそのまま部長の好意で事務所にいさせてもらうことにした。
部長ともなると仕事も多く、今日も9時前までは残るんだそうだ。
部長はそのまま、秋月と呼ばれる男のことを補足して話してくれた。
氏素性はあまりわからないこと、過去のことは語りたがらないが、何か人生観が大きく変わるような事件に出くわしたことがあるらしいこと。
20年ほど前にこの町に流れ着き、ときどき外からの仕事を請けて数か月単位でいなくなることはあるが、基本的にこの町に居所を定め、またこの調査会社から仕事を定期的に請けていること。
部長はまだ駆け出し時代だったが、たまたま彼がこの町に来た当初から、仕事を通じて面識があり、現在ではかなり親しい方であること。
腕はめっぽう立ち、警察にもその取締相手にも有名であること。
性格は、常々はかなり温厚、剽軽でもあり、金もそれなりに持っているらしく、悠々自適に暮らしていること。
だから、今日の売り込みも別に本人が金に困ってのことではなく、本当に僕のことを気に掛けてのことと思われること。意外に化け物とかに弱いらしいこと。
話が一段落すると、僕は僕で追加依頼のことを口にした。
僕は浦和先生から聞いた、紫藤姉弟の父母の死因関係を調べたいと思った。
病死の原因は何か?継父の死因には、果たして不審な点はなかったのか?といったことだ。
部長は了承し、契約書がまた作成された。
ろくにお相手ができなくて申し訳ない、といいながら、部長は自分の机に戻り、僕は応接スペースで報告書をまた再読した。
読むほどに、一つの推測が浮かんでくる。だが、その推測が正しいとすると、この谷津崎勇三とは、いったい何者なのだろうかーー。
バタン、という扉の音に気が付くと午後8時半をすぎていた。
入ってきた秋月は、服装を地味なものに替え、伊達メガネに替えていた。
そうすると、確かによくよく注意して見ると動きのなめらかさが見え隠れするものの、スポーツ好きの壮年のような感じに落ち着いていた。
「旦那、まず入って、ウェイターに名前を言って伝言がないか聞いてみな。
――俺は、そのお友達は場所を変えるんじゃねえかと思うんだ。
そのお友達は、内緒話がしたいんだろ?
内容にもよるかもしれねえが、この居酒屋、そんな話のできる感じじゃねえよ。」
秋月は伝法な口調でそういうと(秋月の口調には、この地方の方言はなく、どうも僕には江戸っ子のそれに近いものが感じられた)、すうっと離れて数歩後ろからぶらぶらとついてくる様子だった。
僕はおそらくここだろう、という、先日の二次会の居酒屋に入った。
ウェイターに聞いてみるが、伝言はないとのことだ。おいおいどうするんだ。
僕は仕方なく、入り口にほど近いテーブル席に座り、ちょっと考えた後ウーロン茶を頼んだ。
9時少し前だろうか、ごく平凡な身なりの男が入ってきた。男はウェイターに一言二言何か訊いて、僕の方を見て、近づいてきた。
「失礼ですが、志野さんでしょうか。あ、自分は高木係長の後輩で、青森といいます。」
「そうです。志野です。どうも。あの、高木は?」
「ちょっと仕事が遅くなってしまったので、申し訳ないがちょっと遅くなるということでした。それで、もしよかったら、個室が取れる別の店を抑えたので、そちらに移ってくれないか、とのことでした。あ、支払いは私が持ちます。」
なれた風に青森は清算伝票を取り上げ、清算した。
店を出ても、秋月の姿は見えない。
すぐそこですから、と案内に立った青森の後をついて裏路地を抜けると、突然首元に冷たいものが押しあてられた、
バチっという音ともに強烈な痛みが体を貫き、すべての力が入らなくなり、僕はなすすべもなく転倒しかけた。
そのまま、どこからともなくいきなり周囲に集まってきた数人に僕が手足を抱えられ、そばにあったフルスモークのハイエースの後部座席に押し込まれようとしたとき。
突然僕の腕を持っていた者ががくりと膝をつき、僕は放り出された。そのまま鈍い打撲音が響き、あっという間に僕を誘拐しようとしていた男たちが制圧された。
「旦那、遅くなってすまねえな。」
青森たちを倒した男は、秋月だった。
秋月はしばらくあたりに油断なく目を飛ばしていたが、やがてこちらに向き直り、僕を助け起こした。
しかし僕は手も足も力が入らず、がくがくと体が震えて全く立ち上がれなかった。
秋月は苦笑し、どうぞこちらに、と肩を貸そうとした。
「こいつらなんなんでしょうかねぇ、ヤの字じゃなさそうですな。聞いてみたいけど、まずは安全なところに、ーーッ!?」
突然、秋月の体がびくっと跳ね、僕をぐいっと押し倒した。湿った咳のような音を立てた。
ぴいんと音がしハイエースの横腹に銃弾が通り、窓ガラスが割れた。
狙撃だ。
また一撃。僕はぐいっと秋月にのしかかられ、ハイエースの床下に押し込まれたが、その直前に半身に熱い衝撃を感じた。
撃たれた!秋月も横になったまま、いざり動こうとしたが、また数発の銃弾が体に当たった。
「けいさつ、よんだ、だんな、かげに」
ゼロゼロという声をはさみながら、秋月はそう言ってうつぶせに倒れた。ゼロゼロという秋月の息が少しずつ遅くなっていく。
「秋月さん、秋月さん!」
しかし答えはなく。
僕はがくがくする体を無理に動かした。
ハイエースの床下は狭く、麻痺が抜けきらない体で通り抜けるのは至難の業だった。
何とか銃弾の来た方向とは逆側に出た。
打たれた右半身は、痛みがあるというよりぼやんと感覚がぼやけていて、思うように動かなかった。
そっと左手をシャツに手を滑らせた。右わき腹を撃ち抜かれている、当たり前だが血がついている。感覚があまりない。止血できるだろうか?
相手は銃を持っている。遠くでサイレンの音がする。
目を閉じるとくらくらする感覚がある。ここで気を失ってはいけない、と目を見開こうとした。
しかし何のためにそんなに頑張らなきゃいけないんだ?
ひどくだるいが、目を閉じて力を抜くと体がプールで泳ぎつかれた後のような安寧に包まれた。
なにもかも面倒くさい、これで終わっても悪くないんじゃないか。
ー――――
気が付くと、素朴なつくりの酒食を供する居酒屋のような場所にいた。
屋根はかなりしっかりと作られているようであり、広さもかなり広い(あちこちに柱があるが、面積自体はかなり広く50畳くらいはあるだろうか)。
夜で室内は暗く、照明は暗く、ところどころに松明のようなものが掛けられている。
わりとにぎわっていて、あちこちに談笑する人影が見えるが、照明が暗く、そしてほとんどの者がローブのフードを被っているせいもあって、それらの容貌はあまり判然としなかった。
僕は、粗末なつくりのテーブルに着席していた。
向かいにはローブのフードを深くかぶった男(と僕は推測した)がいて、どうやら僕はここでこの男と酒を酌み交わしていた、というような風情だ。
僕は混乱した。あまりに脈絡がないのだ。
僕が最後に覚えているのは、誘拐されそうになったこと、秋月に助けられたこと、秋月とともに撃たれたこと。
目を覚ますのが病院ならともかく、こんな場所はなかろう。
あるいは、長期間にわたり健忘症を発症して、全く銃撃以後の記憶がないのか?
向かいの男が何かを言っているようだ。しかし言葉の響きはわかるが、内容は全く分からない。
日本語ではないが、なぜかその言葉自体は聞いたことがあるようにも感じる。
居酒屋をウェイターないしウェイトレスのような者が行き来して料理を運んでいる。
隣のテーブルでも鶏の丸焼きのようなものが供されていて、焦げた脂の良い匂いがする。
男が、手の中でじゃらじゃらと何かを鳴らした。また、僕に問いかけてくる。
ーーー遊戯をしよう。
そう言っているように思えた。
ーーー遊戯をしよう。勝てば望みを一つ叶えよう。負ければーーーを。
隣のテーブルの者がこちらをふと見やって、興味を惹かれたらしくじっとこちらを見た。
その周りの者も、こちらに注目した。
僕はふと、影となっているそのうち一人の容貌が特異なこと、そう、まるで犬のように長い鼻づらをしていることに気が付いた。
ハッとして見渡すと、こちらに視線を投げかけている者の中に、必ずしも人間とは言い難い、獣面をしているように見える者が混ざっていることに気づいた。
全く人間のように見える者もいるが、人間の顔をしつつも奇妙に羊を思わせる巻いた角がフードの中にあるように見える者、鹿のような枝分かれした角をなんのてらいもなく見せている者も遠くに見えた。
僕は恐怖は感じなかったが、何かとても特別な場所にいるのだという、剣の先に立っているような緊張した感覚を抱いた。
その緊張に、乾いたのどを潤そうと、いつのまにか僕が持たされていた杯(素朴な素焼きの、長細い形状のものだった)の中身を僕が飲もうとすると、そっと後ろからウェイトレスの1人が通り過ぎざまに、飲むな、というように僕の手を軽く抑えた。
通りしなに振り向いた顔は、微笑を浮かべた若々しい女の顔だった。
その穏やかな、包み込むような笑みに、僕は、小さいころはよくその家に(いとこたちと遊ぶために)訪れたことのある、僕が中学生に上がるころに死んだ叔母、を連想した。
「死者たちの酒場」?
なんの脈絡もなく、そういう単語が頭に浮かんだ。
しかしそれがなぜか真実であるような直観があった。
ーーー遊戯をしよう。
ーーー乗る、○○○に、▽▽▽。
ーーー○○○に、◇◇◇!
ーー●●●に☆☆☆!
何か賭けの対象とされているような気配、そして周りにわらわらと人影が集まり始めた。
ーー○○○に☆☆☆!
卓にじゃらじゃらと貝殻や小さな陶製の小片、きれいな色の石が2つの山に投げだされ、それを一時的に管理する客代表がついた。
ーー乗るな?
と向かいの男がいったように思えた。
それまでどういうわけか違和感を持たなかったが、男のフードの影から見える顔は骸骨のように見え、指も骨のように見えた。
しかしもう流されるままに僕が頷くと、満足げに男はジャラジャラと手の中に混ぜていたものをテーブルに投げ出し、僕に顎をしゃくって見せた。
4つの四角い断面の獣骨のようなものだった。
拾い上げてみると、長さ、大きさは中指より少し大きい程度。側面に何か模様が刻んであり、それがちょうど鉛筆転がしや骰子と同様に使われるものではないか、という直感を僕は抱いた。
僕がそうして骨をしげしげと見てテーブルに戻すと、骰子改めが済んだ、と言わんばかりに男はまた骨を回収した。
いきなり合図もなく、あたりから調子を揃えて手拍手が起き始めた。
最初はまばらだった手拍子が、大きくなり、調子を揃え、そしてそれが最高潮に達するあたりで、男は慣れた手つきで骨を投げ上げると、テーブルに骨が散らばった。
ーー○○○、□□□!
拍手が止んで、歓声が響いた。
男は、次は僕の順番だというように、僕に顎をしゃくった。手拍子がまた高まり始めた。僕はやむなく、手の中で骰子を転がして投げ上げた。
ーーー●●●、▲▲▲▲!
計算係のような男が、テーブルに短刀で何かの記号を刻み込んだ。また手拍子が高まり始めた。
これが繰り返され、テーブルには2列9行の筋目が刻まれた。
僕はその表をじっとみた。
筋目は、単純に棒の数で刻まれているようだ。
それによると、この9回の表裏までで、おそらく先に数字が刻まれた、先攻である対戦相手の骸骨男が勝っているのだろう、線の多さは多かった。
数でいけば、このままでは負けてしまうのではないか。
拍手がひと際高まる。これが最終回のようだ。
最後の回で骸骨男の出した目はかなり良かったのだろう、満足げに頷いて、僕に顎をしゃくった。
僕は最後の骰子棒を振ろうとして、唐突に恐怖を覚えた。
負ければ僕は何を失うのだ?指か、魂か、命か、あるいは自由を失いこの男の下僕になるのか。
震える手を指して一人の客が何か言った、そして周りから嘲笑と思しき笑いが上がった。
他方で、その卓を挟んで向かいの客たちからは、それを咎めるような調子の言葉が投げかけられ、僕に何か励ますような、促すような声が上がった。
僕は最後に骰子棒を放った。
ダメだっただろうか。
ふと僕はこの一角が一瞬、奇妙な静けさに包まれたのに気付いた。
卓を見ると、棒が転がっているが、1つの棒だけが、その場に直立しているのに気付いた。
ーーー、ーーー! ーーー、ーーー!
ーーー!
ーーーーー!
あたりで歓声が爆発した。さっき僕を嘲笑した客が地団駄を踏んでおり、その向かいの客がいかにも大仕事を成し遂げた旧友にするかのように、僕の肩をぎゅっと抱き、そしてばんばんと背中を叩いた。
少し静まると、向かいの骸骨男が何かを僕に問いかけた。答えられないでいると、再度。
ーーー望みを。
そう云われたのだ、ということが何となくわかった。
そして僕は。
戻ることを願おうとした。しかしそのとき、声が詰まった。
現世(どういうわけか、ここが現世ではなく、死者たちの集う場である、あるいはそれに近いものであるという確信が僕にはあった)に戻って、安楽だが単調な日々を願うのか。あるいは、全く違う世界を望むのか。
その時に、僕が思い出したのは、今調査を頼んでいた「あのとき」のことだった。
あのときに何があったのか、老人は誰か、何のために紫藤たちは殺されたのか、そして。
いったい僕はなぜ、覚えていてほしいと、忘れないでほしいと紫藤に頼まれたのか。
ちょうど図書館の棚から取ってパラパラとめくる本のページの、ちょっと気にはなる見出し、しかしとくにもう一度開け直して確認しようというほどのこともない、という程度のわずかな関心でしかないのに、そのときに僕の念頭に浮かんだのは、そのことだった。
ーーーーあの時に。
彼らの言葉とは全く違ったその言葉を、しかし彼らは、ほぅ、というような嘆声で答えた。
骸骨男は、手を挙げて誰かに呼び掛けた。
それに応じてきた人影は、これも容貌は明らかでないが、ローブの中に、人ではない異形が透けて見えるように感じられた。
やってきた人影は、糸巻きのようなものを骸骨男に渡した。
骸骨男は糸巻きを手に弄びながら、僕に何かを申し向けた。
ーー■■■を示せ。
そのように言われた気がした。
その時に僕の脳裏によぎったのは、あの夕日の教室のことだった。
夕日に赤く明るく染め上げられた、あの教室で、窓際に寄りかかっている紫藤の姿だった。
男は僕が何も言っていないのに、何かがわかったような、至極満足そうな頷きをよこした。周りの客たちがどっと喝采したように思えた。
ーー◆◆◆を支払え。
対価?代償?おそらくはそういうことを言いながら、骸骨男は無造作に糸巻きを1尋、2尋、3尋と引き出して、ぶつりと糸を切り、そして糸巻きを投げ渡した。
僕は投げられた糸巻きを受け取ろうとした、そのときに周りすべての光景が色あせて消えていった。
最後に記憶に残っていたのは、骸骨男でもその容貌が影に沈んでいる人影でもなく、遠くの壁に燃えている一さしの松明の炎だった。
最後の瞬間に、ちょうど僕に賭けて勝った(と思われる)客の一人が、僕の肩を抱きながら、僕の手に何か、小さなざらざらしたもの、陶製の塊のようなものを握らせたように感じた。