タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
例によってα版です。後で誤字等を修正します。
今週から来週にかけて、少し投稿間隔があいてしまうかもしれません。
幸いにも、僕の資料も調布の鞄も、あっさりと見つかった。
調布たちが乗ったタクシーは、追跡中に見逃したらどうしようと思って、ナンバーを覚えてたのが役立った。
無線で連絡してもらって、鞄の存在を確認できたので、夕方のシフト交代のときに営業所に届けてもらえるということになった。
つまり帰りがけに、営業所に行けばピックアップできるということだ。
僕の資料も、清掃係さんが駅に届けてくれてたようだ。
なくしたら紫藤が泣く。僕も紫藤に怒られたら泣くと思う。見つかってよかった。
これも帰りに拾おうかな、でも明日でいいか。一応電話では、今日は時間が穏当な時間に間に合ったら行くが、ダメなら明日でお願いしたい、と伝えて了承してもらった。
父にも都合があるだろう。職場の仲間と飲みに出てるかもしれないし、急に迎えに来てもらうのは悪い。
前もって頼んでおくといいだろう。その方が楽だ。
よく考えたら、紫藤が言いかけてたみたいに、少しずつ、毎日数冊ずつ持って帰ればいいかもしれない。
大量に資料があっても、読めるのはせいぜい数冊ずつだろう。
焦りすぎてた。
近くの公園の公衆電話ボックスから出て、ベンチで待っている調布のところに向かう。
もう夕方を通り越して、夜になりかけている。
最後まで公園できゃあきゃあと遊んでいた子供たちも、じゃあねー、とか、またあしたー、とか言い交わしながら帰ってしまった。
公園に残っているのは、僕たちと、あと2、3人でヤンキー座りをして何か声高にしゃべっている、中学校のジャージを着た部活帰りと思しき男の子たちくらいなものだ。
けんもほろろに断られそうで迷ったが、送っていくよ、と調布に声をかける。
「あたし、営業所に寄って行かないといけないんだけど。」
もうそろそろ、鞄が営業所に届いている時間だ。
ただ、営業所は中心市街地にあり、一度戻らないといけない。
「いいよ、そのくらい。街中でしょ?はじめて行く場所だろうし。」
「ーーー、ありがとう。」
一瞬、断りそうな顔をしたが、しかし言いにくそうに礼を言って、調布は向こうを向いた。
かすかに耳が赤い。
眠いのかもしれないな。疲れただろう。
「調布さん、行こうよ。」
「あのさ、志野。」
調布が、僕を真正面から見て、そういった。
「今日はありがとう。そして、その、
ーーもしよかったらだけど。呼び捨てにしてくれない?」
「え?」
「呼び捨て。上でも下でも。」
「あ、ああ。うん。」
はて、どのような心境の変化だろう。
調布はそういうと、身を翻した。そしてこっちを振りむいた。行こうよ、とでも言いたげに。
もちろん、横に並んで歩きだした。
それはもしかすると、傍からはカップルのように見えたかもしれない。
そこから営業所、そして家に送るまでの途中のどこかで、僕たちは誰かに写真を撮られていたのかもしれない。しかし、そのときの僕たちは、全く気づかなかった。
ーーーーー
一度、市街地に引き返す。少し歩くと路面電車の停車場があるので、それを使った。バスより安い。
二人とも何もしゃべらずに、路面電車に揺られた。調布は座席に座らずに、最後部の窓から、暮れていく外を見ていた。
路面電車から降り、少し歩くとタクシーの営業所だ。
タクシーの営業所は、活気づいていた。シフト交代の時間で、仕事から解放された人たちがいるんだろうか、愉快そうに大声で笑い交わしてる声もする。
赤ら顔の太った男性係員に、礼を言って鞄を受け取る。
生徒手帳で本人確認。幸いにも生徒手帳は、ポケットにあったらしい。
さっと紛失したものがないか確認して、調布はほうっと息を吐きだし、改めて係員の人に礼を言った。
いいよいいよ、でも今度から気を付けてね、なくなっちゃうと困るでしょ。
そう人のよさそうな、でもちょっと好色そうな顔で言う。
うん、さっきから調布の胸元に目が行ってるよ、このおじさん。
悪い人じゃないけど、もう行こう。
あんまりガラのいい界隈でもないし、早く戻った方がいい。
調布をリードして、大通りに向かって歩く。
「なあ、調布。家はどっち方面?」
「大工町の先。面影山に行く途中。だから、ちょっと距離あるけど歩ける。」
調布はぼんやりと、心あらずという様子で、多賀島大学のある方向の、市街地からもほど近い山手の高級住宅街の名前を挙げた。
「志野、遠いんじゃない?いいよ、バスに乗って。」
「いいんだ、僕もちょっと歩きたいし。」
これは本当だった。
あと、毒食らわば(略)。
いまさら30分やそこら早く帰ろうが、遅く帰ろうが同じだろう。
「でも、資料を受け取るって話じゃなかったの?」
「電話しといた。大丈夫。」
電話で明日になるかもと言ってある。それに、明日できることを今日するな、っていうじゃないか。
それに今日は、調布を見ておいた方がいいという気がする。
今日の体験はショックだっただろうしな。今の調布からは、いつもの覇気を感じない。
営業所から大通りに出るには、繁華街を通ることになる。
このころはまだ飲み屋街にも猥雑な活気がある。
特に小さい込み入った通りがある一帯などは、時間を問わず、そう、真夜中でも人がいっぱいでまっすぐ歩けないほどだったと思う。
この頃か、少し前だっただろうか、法事か何かの食事会があってこのあたりの料亭を使ったが、そんな感じだった。
約二十年後?おしゃれになったけど、午後10時すぎには、人影もなく閑散としてたな。
呼び込みの声、けたたましい笑い声、ぶかぶかの変な色のイタリア風スーツを着て、下品な大声で呼びあってる男たち、肌の露わな挑発的な服を着た女たち、遠くから響く、食器やカトラリーのカチャカチャいう音。
そこを場違いにも制服で通りすぎていく僕たち。行き会う男たちの目が、一瞬、一見すると冷たくも見える、調布の整った容貌に止まる。
まだ6月なので、僕の学校ではいわゆる本当の夏服(半袖シャツ)ではなく、長袖シャツを着ていいことになっている(僕もこれだ。)。これを中間服って言ってたかな。調布も夏スカートだが、上は白い長袖ブラウスにスカーフの中間服だ。
調布の白い横顔に、ネオンサインの赤い灯が映えた。
調布は少しぼんやりとしているようだ。信号のない十字路で、人波の途切れを待つ間、建物の上の方のネオンを、ぼうっと見ている。夢の中にいるように、目が虚ろに思える。
そっと手を引くと、はっとしたように再起動して、手を放した僕の長袖シャツの袖をつかんで、ついてきた。
ようやく大通りに出る。突っ切り、また少し小さい繁華街に入る。
そこも通り抜けると、国道に出る。僕や紫藤とは違い、調布の家の方向は、南方向に多賀島大学方面に向かうルートだ。
もう夕焼けもほとんど消え、空は濃い群青色になっている。
「志野。あたし、あなたに謝らないといけない。」
あまり人通りのない、国道の広い歩道を歩きながら、調布が僕に切り出した。
相変わらず、調布らしくもなく鋭さと明晰さを欠いて。
僕の顔を見ずに、まだ少しだけかすれてる声で。
「あなたを見たとき、気に入らなかったの。あなたが悪いんじゃない、あなたが、その、今日のあいつに少し似てたから。」
「ゑ?」
調布さん、いきなりひどいじゃないっすか。ショック。
でもまあ、顔面偏差値高いよな、あいつ。
それに似てるって言われたのか。
ううむ、喜んでいいか、悲しんでいいかわからない。
「それでね。あなたは別人だ、ってわかってるんだけど。頭では。でもね、」
調布が、切れ切れに、言い切らない言葉をつなげる。
要は元カレに似てたから、いやだったってことか。
まあ、気持ちはわかるよな。
別れたってことは、捨てたのか捨てられたのかわからないが、要はビターエンドだったってことだろうし。
でもなあ。
あいつはおそらく経験人数20人超。
イケメン超リア充、非モテの敵じゃないっすか。
そいつのやらかした不始末(?)への悪感情を、非モテの僕に向けられてもなあ。
「僕は、あいつとは違う。」
しかも、20人超ってことは、だよ。
僕みたいに、恋愛期間2か月ってことはありえないだろうし。
ほとんど切れ目なく延々ととっかえひっかえしてたってことだよな。
なんかムカついてきた。
うん?
もしかすると、同時並行で2人、3人と付き合ってたのかもしれない?
うわあ。
僕には絶対無理だよ。うらやまけしからんけど、無理だ。
そんな器用な真似、できっこないな。
僕は紫藤を幸せにしたい、それだけだ。それだけしかできない、いやそれもできないかもしれない凡人だ。だけどせめて、あの残酷な運命だけは。
「ーー幸せにしたい、それだけだ。」
僕も寝不足でぼんやりしてたから、途中から、あるいは一部だけ、考えが不用意に口から洩れてたみたいだ。
いかんいかん。
あれ?調布の足が止まってるぞ。
気を取り直して、きりっと調布の方に振り返る。
調布は、目を見開いて口を抑え、真っ赤になってこっちを凝視している。
どうしたんだろう。どっから思考が口にダダ漏れだったかわからないけど、そんな変なこと言ったっけ。
調布さんも人間っすね。
僕はそう結論付け、前の方に向いた。
調布もまだ顔が赤いが、慌てたように追いついてきた。
心なしか、さっきより少し距離が近い。僕の袖をつかむ力も増した気がする。
「そ、それでさ。志野。その、スーツケースとかだけど。」
そっぽを向いた調布は、話を転じた。
「よかったら、あたしに処分を任せてもらいたいんだけど、ーーいい?」
いい、のところでこっちに向き直って、少し上目遣いに。
調布も背が高いけど、少しだけ僕が高いからね。
うん、こういうお願いモードの調布は新鮮だな。
いつもだったら、「あたしによこしなさいよ!」だと思うから。
「いや、見てみようと思ってたんだが。」
ムカつくことではあるけど。
あの鬼畜眼鏡先輩は、恋愛強者だ。それは間違いない。
20超 vs.1(※2か月)。
数字は嘘をつかない。
僕は恋愛偏差値で言えば、ザコもいいところだろう。
だから、これを分析して、ちょっとはテクニックを学びたいじゃないか。
あの鬼畜眼鏡先輩、いい趣味(反語)してたけど。
まさか交際中の女の子に、ほかの女の子のダイジェストファイルを見せるなんてことはないだろうし、あんなにひくマニアック趣味もひけらかさないだろうから、あの趣味はともかく、その恋愛テクニックには学ぶべきだ。
だって僕はデートプラン立案能力なんて、皆無なんだ。無能。ゴミカス。虫ケラ。
紫藤とのデートも、いつも歩き倒して紫藤を疲れさせてるだけみたいな気がする。
「!ーーええっ、し、志野。あ、あれに興味があるの?」
あれ、軽く調布が引いてる気がする。
いや、引いてるだけじゃないみたいな気もするけど、超感覚がない僕にはよくわからない。
「いや、僕も男だし。興味はある。どんなふうにすればいいか、とか。」
正直に答えてみる。
「あ、あなた。もしかすると、その、そういうの、やってみたいって、ーー?」
調布の様子が変だな。
薄暗がりなのでよくわからないが、僕の方を、怯えるような?いやすがるような目で見つめている。
あ、そうか。調布は、自分が写ったのを僕に見られたくないんだな。
それはそうだよな。
「いや、もちろんいいんだ。参考にしたかっただけだから。
もちろん、調布さんのは、絶対に見たりしないよ。約束だ。当たり前だろ?」
(元カレとのあれこれ、調布さんも)つらいのはわかってる。
そういうと、でも調布が食い下がる。
「その、志野、ごめん。みなりとも?」
うん、まさにそうだよ。
紫藤は僕といると楽しそうに見えるけど、やってることってひたすら歩いたり、自転車二人乗りしたり、公園でちょっといちゃついてハグしたりキスしたり、それくらいしかない。
ときどきお洋服みたり、喫茶店とかに行ったりするけど、それだけだし。
少しは、紫藤をちゃんとしたデートとかで楽しませてあげたい。
そう考えて、答える。
「うん、参考になるんじゃないかな、って。」
「ねえ、志野、」
調布が、ぴっと僕の袖を引っ張った。声が真剣だ。
なんだろう、と調布の方を向く。
調布が何かを決意したような、そう、ちょっと悲愴にすら見える、決然とした表情を浮かべてる。
「そういうの、もししたいんだったら。その、あたしがやってもいいから!
ーーだから、みなりには優しく、ね?」
きりっとしているが、顔が赤い。かわいい。
そうだな、そういう立ち入ったプライベート、人のものとはいえ、覗き見るのもいかがなものか。
写ってる子たちにも悪いな。そんなもので小手先のテクニックを学ぶのは、ちょっと違うか。
恋愛作法や心構えみたいなのは、調布が提案してくれたように、調布から教えてもらうのもありだ。
いや、でも調布もこの表情からすれば、詳しい感じには思えないけどな。
でもまあ、恋愛偏差値30から40くらい(推測)の僕にくらべればずっとマシだろう。
「わかった。頼むかもしれない。ごめんな。」
「いや、いいのよ。それくらいしか、あたしにはできないし、ーー。」
急に後ろ側から、調布が僕の左腕と胴の間に手を通し、腕を絡めてきた。
弾力のある胸のふくらみが、腕に当たってる。
なんで急に親密度アップ?よくわからんけど役得だ。
少し胸に当たってる肘を意識してしまう。
横断歩道の段差を超えるはずみで、少し強めに当たった時に、調布がふうっと息をつまらせた。
ごめんごめん。でも少し興奮して勃ってしまった。
準童貞の悲しさだ。ミクロンレベルのネタにも反応してオカズにできてしまう。
もちろん脳内シアターでは、調布さんを裸に剥いて乳首を羽毛で嬲ってたっす。ゴミクズでごめんなさい。
気を取り直して、没収品のことを考える。
まあ、やることはいっぱいあるんだった。
紫藤との交際に参考にしようとか考えてたけど、だいたい僕の主目的はそこじゃない。
他人のいちゃつきを検分してる時間もないか。
「わかった、それだったら、良かったらこれも全部、預かっててもらっていいかな。
処分も、一任するよ。」
今回の没収品の処分を調布に一任する。
捨てても構わないよ、もちろん。
荷物になっちゃって、悪いけど。
そういうと、調布がうなずいた。
なんか、覇気が戻ってきてる。
なんでだ、気合入ってる?
そんなに気にする必要もないのに。
全部、次のゴミの日に燃えるゴミに出してしまっていいよ。
ーーーーー
また少し歩いて、山の手に入りかけの住宅地の、高級そうなマンションにたどり着いた。
鬼畜眼鏡先輩といい、調布と言い、僕の実家のコーポみたいなところより格段にいいところに住んでる。
エレベータあるんだぜ、エレベータ。しかも複数。
プチブルどもめ。
エントランス近くで、荷物になって悪いけど、と言って、スーツケースを手渡す。
「PC、どうすればいいかしら。
ーーあたしが中身確認して、まずいデータは別に移して、本体だけ返すのでもいい?」
調布が聞く。
調布さん、PCもできるんすね。僕の上位互換じゃないか。
僕、存在意義ないじゃん。頑張らなきゃな。
「うん、それでお願いするよ。PCは使いたいんだ。」
計画立案とかいろいろ。インターネットが使えなくても、用途は多い。
PCとかにはあまり強くなさそうな父親の訓練もしないとな。
調布は頷いた。2、3日くらい時間が欲しいそうだ。まあそうだよね。
「じゃあ、またね。」
「え?ええ。あ、志野!」
また物思いに入り込んでしまったようにみえる調布に、呼びかける。
はっとした調布が、荷物を置いて、急に近づいてきて。
二歩くらいの距離で、なんか迷ってるな。どうした?
調布は意を決したように首を振り(長い髪が揺れた)、僕は距離を詰められ、また抱きつかれた。
ぎゅううっと、僕の胸に押し付けられる張りのある胸、美味しいです。何度されても悪くない。
流れる長い髪が僕の首元にもかかり、微かに甘い匂いが香った。
耳元でささやかれる。
声、まだ少しだけ嗄れてるな。けどハスキーな声も、耳にそわそわぞくぞくして、悪くないーー。
「今日は本当にありがとう。約束は、守るわ。
ーーごめん、これだけ、させて。本当にごめんなさい。
みなりには、あたし、謝っとくから。」
腕が少し緩んで、甘いシトラスの匂いが強まり、片頬に柔らかい、湿った何かが押し当てられた。って、ええっ?
身を離し、上気した顔をした調布が、またね!と元気を取り戻した声でいい、慌てたようにスーツケースを引いて、エントランスに駆け込んでいく。
その後ろ姿をあっけにとられて見送る。
エレベータのボタンを親の仇のように連打してるな。
ドアが開くとわき目もふらず、エレベータに乗り込んでいく。
さっきのって、キス、だよな。あれ。
ああ、だから紫藤に謝るって言ったのか。確かに誤解されそうだしな。
感謝のつもりだったんだろう。いいのに、別にそんなの。PCもゲットしたし。
約束って、なにかしたっけ。まあいいや。
勃起を収めるのが大変なんだ。
さて、家に帰るか。バスの最寄り駅まで15分くらいかな。家に電話、先にしとくか。
うまく親父が素面でいれば、迎えに来てもらってもいい。だってやっぱり睡眠不足だし、歩くのダルい。
親父は家にいなかった。残業だそうだ。あと連絡がなくて遅くなったことを母親に怒られた。そして心配された。
バスは本数が少ない。もう8時近くだったしガラガラだった。疲れてたし、本当に助かった。
家に帰ったら、最低限のことだけすませて寝た。睡眠不足なんだ。
夢の中で紫藤と調布を姉妹丼(?)にする夢を見た。
すごい興奮した。もう代わるがわる、二人の体力が尽きるまで責めて。
なぜか僕の体力は無限に湧き続けて。