※この作品はR-18です。

タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。   作:Marchhatter

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α版です。あとでも修正します。
展開に2案あり、迷ってしまいました。別案はそのうちIFルートとしてでも上げたいと思います。


59 傾斜に逆らって進む(1)(紫)

 

 朝、登校すると、まだ志野くんは来ていなかった。

 まあ、いつもそんなに早い方ではない。

 でも、昨日はずいぶん疲れて見えた。しかもあんな大荷物。

 あれから、大丈夫だっただろうか。心配だ。

 

 そして、さとみんが入ってきた。

 おや、さとみんも疲れてるみたいだ。目の下に薄くくまがある。

 でも美人さんは得だな。少しやつれていると、いっそう色っぽく見える。

 こう、男の人なら放っておけないよね。

 今朝がた、その、あの、志野くんとさとみんと三人で何かする、すごくえっちな夢を見たような気がする。

 夢の中だから、ことほど左様に都合がよくて。

 どこがどうなってるかよくわからなかったけど、志野くんのそれも私にちゃんと入ってた。

 そして、とっても気持ちよかった。その、うん、本番もああだといいな。

 まあ、初めてはすごく痛いって言ってたから、それはしかたない。

 うん、それと。

 その夢の中で、まじまじと観察できた、さとみんの乱れた、いや乱れ切った顔。

 苦しみを耐えている顔に見えるけど、ちがう。あれは究極の快感を感じて、我慢している顔だった。

 わたしも、あんな顔をしてたんだろうか?

 都合のよい夢の中では、志野くんがわたしに夢中だった。声をあげると、あそこがどんどん固くなって、ーー。

 うわあ、恥ずかしい。

 でも、すごく幸せな夢だったな。また見よう。

 

 そんな馬鹿なことを考えていると、さとみんがこっちにやってきた。

 どこか、硬質な、張り詰めた気配を感じる。

 

 「おはよう、さとみん!」

 

 「みなり、おはよう。」

 

 さとみんは、わたしが声をかけるとふうっと表情をやわらげたが、その目元のくまのせいか、どこか思いつめた悲壮さを感じさせる顔で、わたしの耳元に口を寄せてきた。

 

 「ごめん、みなり。今日のお昼休み。いや、放課後がいい。時間、借りていい?ーー場所は、そうね、あの部室で。」

 

 「もちろんだよ!」

 

 志野くんもちょっとESSに行くだろうし。

 文芸部は、今日は全体の会議とかは入ってない。

 志野くんがESSから帰るまで、さとみんのお話を聞く時間はたっぷりある。

 

 「ありがとう。ありがとう、みなり。」

 

 なぜかわからないが、まるでこれが今生の別れだとでもいうように、さとみんが私の頭を抱き寄せた。

 うわあ、さとみんの胸って大きい、けど、うぷ、息が、息がぁ。

 

 「うわあ、おれもアレされてみてぇーー、」

 

 「(眼福眼福)」

 

 「ねえ智美。みなり、苦しがってるわよ。」

 

 周りから声がかかって、さとみんもはっと気が付いたみたいだ。腕をゆるめてくれた。

 ぷひゅう、酸素が美味しい。

 

 「あれれ、やだ、あたしったら。みなり、ごめんね。」

 

 殺意を隠しきれなかった!ごめん!とわざとらしくごまかして、周りの子たちと冗談を言い合ってる。

 でも、わたしには、わかる。

 さとみんが、何かに苦しんでいる。悩んでる。

 文化祭の方は滞りなく進んでるから、ほかのことかな。

 わたしの方も問題山積みなんだけど、すこし悩みを聞いてあげなきゃ。

 このときのわたしは、まだそんなふうに思ってた。

 

 「おはよう、紫藤さん。」

 

 あ、志野くんだ。

 

 「おはよう!志野くん!」

 

 現金なことに、顔が輝くのがわかった。

 さとみんのことは少し気がかりだったけど。

 志野くんに会えた嬉しさにまぎれてしまっていた。

 

 ーーーーー

 

 昼休み。

 志野くんは、今日は仲間と一緒に食べるようだ。

 近く球技大会があるから、その練習をするのだろう。

 さとみんは、ちょっとだけ美術室に用があるといって出ていった。

 さとみんグループの人たちと食べようと思っていたら。

 

 「紫藤ちゃん。ちょっと、話があるんだ。」

 

 また来たよ。

 もうだんだん、いやになってきた。

 根取くんが、日焼けした顔をほころばせている。

 うん、こういうタイプが好きな人、多いと思うよ。

 でも、わたしは志野くんが好きなんだ。もう決まってるんだ。

 放っておいてほしいんだけどな。

 

 「今日の話は、聞いた方がいい。志野と調布のことに関することだ。」

 

 またか。

 この前から、根取くんは、志野くんとさとみんが、とか、志野くんとハルカちゃんが、とか、志野くんと謎の上級生の美少女が、とか(これは、たぶんESSの部長さんだと思う。本人に聞いたら、白状した)といった話を聞かせたがる。

 要は、志野くんが女の子たちに目がなくて、浮気性だと刷り込みたいらしい。

 まあ、そうかもしれない。

 わたしはそこまで魅力的な体をしているとは思えない。ほら、さとみんとかと比べるとさ。

 でも、志野くんはわたしを好きだといってくれた。それで十分だよ。

 

 「これは、ガチだ。志野を救うためにも、聞いてた方がいい。」

 

 急にまじめな顔になって言う。

 志野くんに、危険が迫ってるというんだ。

 うん、気は進まないけど。

 たぶん、これまでみたいにどうでもいいことだと思うんだけど。

 ちょっとでいいなら、聞いてみようかな。

 周りの子に断って、仕方なく根取くんについていったのだった。

 

 ーーーーー

 

 「ほら、おれって、○○部にいるじゃん。」

 

 根取くんが、ねちっこくしゃべっている。

 あまり根取くんに興味がないから、ふんふんと聞いていた。○○部というのも、はじめて聞いた。

 いや、たぶん、聞いたことはあるんだ。だけど覚えてないんだよ。

 

 「その先輩がさあ、」

 

 わたしをみかけて、とても気に入ったって。

 だからなんだ。わたしは志野くんのものなんだ。

 そして志野くんも、うん、わたしのもの、ーーで、いいんだよね?

 頬が赤くなったのを、勘違いされたみたい。

 

 「だからさぁ!こんど、いっしょにカラオケいかないか、って!」

 

 いや、行かないよ。

 

 「誘ってくれたのは、うれしいけど、」

 

 行かないよ、ということを婉曲に伝える。

 志野くんが好きだし。

 

 「そう。その志野だけどさあ、」

 

 根取くんの、少しサルに似た顔がいやらしい笑みに染まる。

 いわゆるサル男のタイプだ。これで明るくてさっぱりしてるといいんだけどな。

 根取くんはねちっこいんだ。

 

 「これ、どう思う?ーーんん?」

 

 インスタント写真かな?

 少し暗い中で、フラッシュを使わず撮ったものだ。

 でも、見間違いようがない。

 志野くんの背の高い姿。

 その横に。

 うっ、と息が詰まった。

 その横に、背の高い、均整の取れた女子高生の姿。

 肩幅が広くて、長い髪。横顔が見える。

 粒子が荒いからわからないが、うっとりとみている、ような表情?

 わたしの、良く知っている人。わたしが、一番、信頼してた人。

 

 ああ。

 さとみんだ。

 

 ーーーーー

 

 ーーそこは普通なら、裏切られた!と思って、取り乱したり、さとみんを憎んだりするところかもしれない。

 でもわたしは、いままで気づかなかったパズルの欠落部分のピースが、ちゃんと嵌った感じがしたんだ。

 

 そういえば。

 学年の始まりのとき、さとみんと友達とで、男の子の中でだれがかっこいいか女の子で話してた時(さとみんは自分についてはこの手の話をしないし、男の子に興味ないって言ってはぐらかすけど、話は聞いてくれる。)。

 志野くんの名前を挙げたら、あまりいい顔をしなかった。

 そりゃ、当然だよ。

 自分が心に想ってた人を、自分の親友が挙げたら。

 そう、希望が被ったら、自分も好きなのに!と思って微妙な顔になるだろう。

 特にさとみんの場合、男の子には興味ないと言ってた手前。

 あたしもその子が好きなんだ!とか言い出すこともできないし。

 意地っ張りさんだからね、さとみんは。

 その後で、いや志野はいいやつだと思うよ、とか言ってた。

 断腸の思いで、そう言ったのかもしれない。

 わたしの背を、押すために。

 

 そして。

 志野くんは、もちろん今もだけど、学年当初はとくに、ちらちらとさとみんを見てた。

 さとみんは、それについては嫌がるようなそぶりを見せてたけど。

 よく考えたら、ちがうよ。

 さとみんの性格を考えれば、当然わたしでも気づけたはずだった。

 自分が好きな男の子を、大事な友達、つまり私が好きだったら。

 友達を大事にするさとみんなら、その男の子には気のない態度を無理にでもとるだろう。

 「あたしはそんなの全然いいって思わない!」とか言って。

 あるいは、その男の子が苦手なふりをして「あたしは関心ないよー」ということを示したりして。

 志野くんの視線を感じて、「うっとうしい」とか言ってたけれど。

 友達であるわたしの邪魔をしないように、そう言ったんじゃないだろうか。

 

 今、わかった。

 本当は、さとみんも志野くんが好きだったんだろう。

 

 そして志野くんも、前はさとみんをよくじいっと見てた。

 っていうか、頻度は低くなったけど、いまでもガン見だ。

 特に、あのスポーツブラで抑えてるのに人より目立つ胸とか、細いウエストから立派なお尻に続くあたりのくびれとか。

 誰も知らない人がみたら、絶対思うよ。

 志野くんは、さとみんが気になってるんだって。

 

 えっ?

 ということは、わたし、さとみんの邪魔をしたのかな?

 なんてことだろう。

 ごめん、さとみん。

 わたしが、お邪魔虫してしまったせいで。

 本当は結ばれるはずの二人を、引き離してしまった?

 

 さとみんは、すごく強いし、頭もいいし、女の子には優しいし。

 だから、女の子の間ではすごく人気がある。

 でも、男の子にはすごくそっけないし、厳しかった。

 今はそれほどでもないけど。

 だから、わたしは自分のことをさておいて、失礼にも、さとみんは一生恋愛も結婚もしないんじゃないかなーとか思ってた。

 わたしは、さとみんの、そのせっかくの機会をつぶしてしまったんじゃないだろうか。

 いや、恋愛や結婚が必ず幸せと結びつくとはかぎらない。そりゃそうだよ。

 悲恋もあるし、失敗結婚もあるだろう。

 だけど、もしさとみんも、わたしが志野くんを求めるのと同じように、志野くんを求めていたんだとしたら。

 

 写真をもう一度見る。

 志野くんは普通に前を向いてる。

 さとみんは、うっとりとその横顔を見てる、気がする。

 志野くんは、嘘をつける人じゃない。

 うん、嘘は時々ついてるけど、微妙に視線が彷徨うんだ。まばたきの回数も少し上がる。すぐわかる。

 嘘をつけないのと、同じだ。

 

 志野くんが、わたしを好きだといってくれたのは、嘘じゃない。

 その後の行動からも、明らかだ。

 だとしたら。たぶん。

 

 さとみんは、もともとは志野くんが好きだったんだろう。

 志野くんもさとみんを気にしてた。ふたりはそのままなら、結ばれてたんだろう。

 それをわたしは、邪魔してしまったんだ。

 ごめん、さとみん。

 でも、どうして償ってあげればいいか、わからないよ。

 今では、わたしには、どうしても志野くんが必要なんだ。好きなんだ。

 

 ふと、朝方にみた、あの夢を思い出す。

 あんなふうに、志野くんを争わず2人で、その、共有できたら。

 そう思う。

 ほかの女の子だったら、絶対いやだ。

 でも、さとみんだったら。

 いやじゃない。

 それどころか。

 なんか、ぞくぞくする。

 さとみんに、わたしが志野くんとして乱れる姿をみられる。

 さとみんが、志野くんに責められて、乱れるのをみる。

 そして二人で、志野くんを気持ちよくする。

 志野くんとふたりで、さとみんにいろいろして追いつめてみる。

 どれも、考えただけで、ぞくぞくするような背徳感とないまぜになった、快感。

 

 あー、でもなー。

 さとみんには、無理だろうなー。

 さとみんにはどこか、超潔癖なところがある。

 たとえばだ。もし万が一、志野くんとさとみんが付き合うことになっても。

 たぶん。いや、絶対!

 さとみんは、結婚前には志野くんに体を許さないよ。この予測、自信がある。

 

 ましてや、志野くんとわたしとさとみんとで、あの夢みたいに、その、うん。

 なんだっけ。私がこっそり盗み読みした、千里の、あの変なエロい本に書いてあった。

 なんだったっけ。そうだ、3P。3Pだ。

 あれやろうよって言ったら、さとみんにぶん殴られかねない。

 命の危機だ。

 

 ーーーーー

 

 そう考えていたのは、ほんの一瞬だったのだと思う。

 

 サル男が近づいて、わたしの肩を抱いていた。

 うわ、いつのまに!?

 そそけだった。

 

 「わかっただろ、あいつらできてやがるって、」

 

 笑みを深めてわたしの背中をなでた。

 ブラの線を探ってるのがわかった。

 

 「できてなんかない。」

 

 さとみんは志野くんのこと、好きかもしれないけどね。

 サルの手を振り払う。3つ願いが叶うわけでもない手を。

 

 「そんな言ってるけどさ、この写真みろよ。」

 

 アウストラロピテクス男が、写真の背景を指差す。

 「ホテル ○○」って看板があるね。だから?

 

 「こいつら、きっとこの後ここに入って、よろしくしたんだぜ。調布の顔、見た?」

 

 そういえば、確かにさとみんは寝不足な顔してたな。

 でも別に志野くんは充電完了、みたいな顔してたけど。

 さとみんはまじめな子だから、勉強か文化祭の準備だよ。

 

 「そんなわけないよ。さとみんがイヤらしいことなんて、するわけないよ。」

 

 「いーや、あれはヤった後の顔だね。あんなおすまし顔してて、絶対好き者だぜ、ありゃ。昨日もオ○ニーしてたりしてな。ひひ。」

 

 うるさいな。

 

 「根取くん、謝って。さとみんは、絶対そんなことしないよ!」

 

 「いーやしてるんだな。志野ともきっと、エロエロだぜ。

 だから、俺にしなよ!俺だったら、大丈夫。いつもキミを見ているから、さ、ーーー」

 

 ぐいっと腕を引かれて、足を引っかけられて、いきなり世界が半回転した。

 あれ、わたし、机に背中を乗せて、サル男に肩を押さえつけられてる。

 サル男の、バナナの臭いのする口が、近づいて、ーーうわぁ、

 こんなやつにキスなんてされたくない!

 顔を反らして、手で近づいてくるサル男の肩を押しやろうとする。

 サル男が舌打ちをして、強い力でわたしの両手首を捕まえたあと、片手でその両手首をまとめるようつかみ直し、わたしの頭の上のほうに押し上げた。

 わたしは机の上で押さえつけられて、ばんざいしてる感じになってる。

 あ、まずい。口が近づいてくるけど、抵抗できないよ!

 

 そのとき、ドアがばん、と開いた。

 

 「何してるの!あんた!」

 

 「げえっ、調布!」

 

 拘束がはずれた。

 サル男が弾き飛ばされ、その後、うがあっ、とか何か声がしてる。

 わたしは解放されて、机から転がり降りる。

 落ちた、あの写真を拾い上げる。

 隣の男の子を、信頼しきった、憧憬の視線でみつめる、とても珍しいさとみんの写真。

 こんなときだけど、おもわずまた見てしまう。

 

 「みなり、大丈夫?

 って、ああ、みなり、ーー、」

 

 さとみんの、罪悪感と絶望に染まった声。

 ばっと音がして、さとみんが入口から走り出していった。

 あ、しまった!

 わたしが写真を見てるのを、見られたんだ!

 

 「さとみん、さとみん!」 

 

 はっとして、声を上げて廊下に出たときには、さとみんの姿はもう見えなかった。

 後には、こてんぱんに伸された状態のサルと、私がのこされていた。

 

 ーーーーー

 

 追いかけて、さとみんと話すべきだった。

 でも、頭のすみにあったんだ。

 さとみんは、放課後に来てくれるはず。部室で、ゆっくり話せるって。

 だから、すごく気になったけど、無理にそのときは後を追わなかった。

 サルを足先でつついてみて、生きてるみたいだったけど、一応保健室の先生を呼びに行った。

 保健室の先生が戻った時には、意識を回復して森に帰ってしまったらしく、部屋はもぬけの殻になってた。

 まあ無事ならいいんだ、結果オーライだ。

 

 教室に帰ると、さとみんは、早退していた。

 すごく体調が悪いって、言ってたらしい。傍からみて、異状がわかるくらいに顔が白かったとか。

 私の机に、さとみんの字で。

 ”早退するので、お話はまた別の日にお願い。本当にごめんなさい。”と書いたメモがあった。

 いつもの筆圧の高い、硬筆習字のお手本みたいなしっかりした字じゃなくて、少し震えた字で。

 ごめんね、というのはわたしのほうも、なんだ。

 だいたい、さとみんの秘めた思いに全く気付かずに。

 そして今も、ちゃんと追いかけて、言わなかったばっかりに。

 さとみんはきっと、傷ついただろう。

 わたしを傷つけたと思って、自分を責めてるんだ。

 さとみんは、潔癖だから。まがったことが許せない、それが自分でも。

 

 放課後に、志野くんに相談しよう。

 できれば、いっしょにお見舞いに行こう。

 

 だけど。

 

 「ーー2年C組の紫藤みなりさん。職員室にお越しください。」

 

 校内放送が入って、すべての予定が狂っていった。

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