タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
展開に2案あり、迷ってしまいました。別案はそのうちIFルートとしてでも上げたいと思います。
朝、登校すると、まだ志野くんは来ていなかった。
まあ、いつもそんなに早い方ではない。
でも、昨日はずいぶん疲れて見えた。しかもあんな大荷物。
あれから、大丈夫だっただろうか。心配だ。
そして、さとみんが入ってきた。
おや、さとみんも疲れてるみたいだ。目の下に薄くくまがある。
でも美人さんは得だな。少しやつれていると、いっそう色っぽく見える。
こう、男の人なら放っておけないよね。
今朝がた、その、あの、志野くんとさとみんと三人で何かする、すごくえっちな夢を見たような気がする。
夢の中だから、ことほど左様に都合がよくて。
どこがどうなってるかよくわからなかったけど、志野くんのそれも私にちゃんと入ってた。
そして、とっても気持ちよかった。その、うん、本番もああだといいな。
まあ、初めてはすごく痛いって言ってたから、それはしかたない。
うん、それと。
その夢の中で、まじまじと観察できた、さとみんの乱れた、いや乱れ切った顔。
苦しみを耐えている顔に見えるけど、ちがう。あれは究極の快感を感じて、我慢している顔だった。
わたしも、あんな顔をしてたんだろうか?
都合のよい夢の中では、志野くんがわたしに夢中だった。声をあげると、あそこがどんどん固くなって、ーー。
うわあ、恥ずかしい。
でも、すごく幸せな夢だったな。また見よう。
そんな馬鹿なことを考えていると、さとみんがこっちにやってきた。
どこか、硬質な、張り詰めた気配を感じる。
「おはよう、さとみん!」
「みなり、おはよう。」
さとみんは、わたしが声をかけるとふうっと表情をやわらげたが、その目元のくまのせいか、どこか思いつめた悲壮さを感じさせる顔で、わたしの耳元に口を寄せてきた。
「ごめん、みなり。今日のお昼休み。いや、放課後がいい。時間、借りていい?ーー場所は、そうね、あの部室で。」
「もちろんだよ!」
志野くんもちょっとESSに行くだろうし。
文芸部は、今日は全体の会議とかは入ってない。
志野くんがESSから帰るまで、さとみんのお話を聞く時間はたっぷりある。
「ありがとう。ありがとう、みなり。」
なぜかわからないが、まるでこれが今生の別れだとでもいうように、さとみんが私の頭を抱き寄せた。
うわあ、さとみんの胸って大きい、けど、うぷ、息が、息がぁ。
「うわあ、おれもアレされてみてぇーー、」
「(眼福眼福)」
「ねえ智美。みなり、苦しがってるわよ。」
周りから声がかかって、さとみんもはっと気が付いたみたいだ。腕をゆるめてくれた。
ぷひゅう、酸素が美味しい。
「あれれ、やだ、あたしったら。みなり、ごめんね。」
殺意を隠しきれなかった!ごめん!とわざとらしくごまかして、周りの子たちと冗談を言い合ってる。
でも、わたしには、わかる。
さとみんが、何かに苦しんでいる。悩んでる。
文化祭の方は滞りなく進んでるから、ほかのことかな。
わたしの方も問題山積みなんだけど、すこし悩みを聞いてあげなきゃ。
このときのわたしは、まだそんなふうに思ってた。
「おはよう、紫藤さん。」
あ、志野くんだ。
「おはよう!志野くん!」
現金なことに、顔が輝くのがわかった。
さとみんのことは少し気がかりだったけど。
志野くんに会えた嬉しさにまぎれてしまっていた。
ーーーーー
昼休み。
志野くんは、今日は仲間と一緒に食べるようだ。
近く球技大会があるから、その練習をするのだろう。
さとみんは、ちょっとだけ美術室に用があるといって出ていった。
さとみんグループの人たちと食べようと思っていたら。
「紫藤ちゃん。ちょっと、話があるんだ。」
また来たよ。
もうだんだん、いやになってきた。
根取くんが、日焼けした顔をほころばせている。
うん、こういうタイプが好きな人、多いと思うよ。
でも、わたしは志野くんが好きなんだ。もう決まってるんだ。
放っておいてほしいんだけどな。
「今日の話は、聞いた方がいい。志野と調布のことに関することだ。」
またか。
この前から、根取くんは、志野くんとさとみんが、とか、志野くんとハルカちゃんが、とか、志野くんと謎の上級生の美少女が、とか(これは、たぶんESSの部長さんだと思う。本人に聞いたら、白状した)といった話を聞かせたがる。
要は、志野くんが女の子たちに目がなくて、浮気性だと刷り込みたいらしい。
まあ、そうかもしれない。
わたしはそこまで魅力的な体をしているとは思えない。ほら、さとみんとかと比べるとさ。
でも、志野くんはわたしを好きだといってくれた。それで十分だよ。
「これは、ガチだ。志野を救うためにも、聞いてた方がいい。」
急にまじめな顔になって言う。
志野くんに、危険が迫ってるというんだ。
うん、気は進まないけど。
たぶん、これまでみたいにどうでもいいことだと思うんだけど。
ちょっとでいいなら、聞いてみようかな。
周りの子に断って、仕方なく根取くんについていったのだった。
ーーーーー
「ほら、おれって、○○部にいるじゃん。」
根取くんが、ねちっこくしゃべっている。
あまり根取くんに興味がないから、ふんふんと聞いていた。○○部というのも、はじめて聞いた。
いや、たぶん、聞いたことはあるんだ。だけど覚えてないんだよ。
「その先輩がさあ、」
わたしをみかけて、とても気に入ったって。
だからなんだ。わたしは志野くんのものなんだ。
そして志野くんも、うん、わたしのもの、ーーで、いいんだよね?
頬が赤くなったのを、勘違いされたみたい。
「だからさぁ!こんど、いっしょにカラオケいかないか、って!」
いや、行かないよ。
「誘ってくれたのは、うれしいけど、」
行かないよ、ということを婉曲に伝える。
志野くんが好きだし。
「そう。その志野だけどさあ、」
根取くんの、少しサルに似た顔がいやらしい笑みに染まる。
いわゆるサル男のタイプだ。これで明るくてさっぱりしてるといいんだけどな。
根取くんはねちっこいんだ。
「これ、どう思う?ーーんん?」
インスタント写真かな?
少し暗い中で、フラッシュを使わず撮ったものだ。
でも、見間違いようがない。
志野くんの背の高い姿。
その横に。
うっ、と息が詰まった。
その横に、背の高い、均整の取れた女子高生の姿。
肩幅が広くて、長い髪。横顔が見える。
粒子が荒いからわからないが、うっとりとみている、ような表情?
わたしの、良く知っている人。わたしが、一番、信頼してた人。
ああ。
さとみんだ。
ーーーーー
ーーそこは普通なら、裏切られた!と思って、取り乱したり、さとみんを憎んだりするところかもしれない。
でもわたしは、いままで気づかなかったパズルの欠落部分のピースが、ちゃんと嵌った感じがしたんだ。
そういえば。
学年の始まりのとき、さとみんと友達とで、男の子の中でだれがかっこいいか女の子で話してた時(さとみんは自分についてはこの手の話をしないし、男の子に興味ないって言ってはぐらかすけど、話は聞いてくれる。)。
志野くんの名前を挙げたら、あまりいい顔をしなかった。
そりゃ、当然だよ。
自分が心に想ってた人を、自分の親友が挙げたら。
そう、希望が被ったら、自分も好きなのに!と思って微妙な顔になるだろう。
特にさとみんの場合、男の子には興味ないと言ってた手前。
あたしもその子が好きなんだ!とか言い出すこともできないし。
意地っ張りさんだからね、さとみんは。
その後で、いや志野はいいやつだと思うよ、とか言ってた。
断腸の思いで、そう言ったのかもしれない。
わたしの背を、押すために。
そして。
志野くんは、もちろん今もだけど、学年当初はとくに、ちらちらとさとみんを見てた。
さとみんは、それについては嫌がるようなそぶりを見せてたけど。
よく考えたら、ちがうよ。
さとみんの性格を考えれば、当然わたしでも気づけたはずだった。
自分が好きな男の子を、大事な友達、つまり私が好きだったら。
友達を大事にするさとみんなら、その男の子には気のない態度を無理にでもとるだろう。
「あたしはそんなの全然いいって思わない!」とか言って。
あるいは、その男の子が苦手なふりをして「あたしは関心ないよー」ということを示したりして。
志野くんの視線を感じて、「うっとうしい」とか言ってたけれど。
友達であるわたしの邪魔をしないように、そう言ったんじゃないだろうか。
今、わかった。
本当は、さとみんも志野くんが好きだったんだろう。
そして志野くんも、前はさとみんをよくじいっと見てた。
っていうか、頻度は低くなったけど、いまでもガン見だ。
特に、あのスポーツブラで抑えてるのに人より目立つ胸とか、細いウエストから立派なお尻に続くあたりのくびれとか。
誰も知らない人がみたら、絶対思うよ。
志野くんは、さとみんが気になってるんだって。
えっ?
ということは、わたし、さとみんの邪魔をしたのかな?
なんてことだろう。
ごめん、さとみん。
わたしが、お邪魔虫してしまったせいで。
本当は結ばれるはずの二人を、引き離してしまった?
さとみんは、すごく強いし、頭もいいし、女の子には優しいし。
だから、女の子の間ではすごく人気がある。
でも、男の子にはすごくそっけないし、厳しかった。
今はそれほどでもないけど。
だから、わたしは自分のことをさておいて、失礼にも、さとみんは一生恋愛も結婚もしないんじゃないかなーとか思ってた。
わたしは、さとみんの、そのせっかくの機会をつぶしてしまったんじゃないだろうか。
いや、恋愛や結婚が必ず幸せと結びつくとはかぎらない。そりゃそうだよ。
悲恋もあるし、失敗結婚もあるだろう。
だけど、もしさとみんも、わたしが志野くんを求めるのと同じように、志野くんを求めていたんだとしたら。
写真をもう一度見る。
志野くんは普通に前を向いてる。
さとみんは、うっとりとその横顔を見てる、気がする。
志野くんは、嘘をつける人じゃない。
うん、嘘は時々ついてるけど、微妙に視線が彷徨うんだ。まばたきの回数も少し上がる。すぐわかる。
嘘をつけないのと、同じだ。
志野くんが、わたしを好きだといってくれたのは、嘘じゃない。
その後の行動からも、明らかだ。
だとしたら。たぶん。
さとみんは、もともとは志野くんが好きだったんだろう。
志野くんもさとみんを気にしてた。ふたりはそのままなら、結ばれてたんだろう。
それをわたしは、邪魔してしまったんだ。
ごめん、さとみん。
でも、どうして償ってあげればいいか、わからないよ。
今では、わたしには、どうしても志野くんが必要なんだ。好きなんだ。
ふと、朝方にみた、あの夢を思い出す。
あんなふうに、志野くんを争わず2人で、その、共有できたら。
そう思う。
ほかの女の子だったら、絶対いやだ。
でも、さとみんだったら。
いやじゃない。
それどころか。
なんか、ぞくぞくする。
さとみんに、わたしが志野くんとして乱れる姿をみられる。
さとみんが、志野くんに責められて、乱れるのをみる。
そして二人で、志野くんを気持ちよくする。
志野くんとふたりで、さとみんにいろいろして追いつめてみる。
どれも、考えただけで、ぞくぞくするような背徳感とないまぜになった、快感。
あー、でもなー。
さとみんには、無理だろうなー。
さとみんにはどこか、超潔癖なところがある。
たとえばだ。もし万が一、志野くんとさとみんが付き合うことになっても。
たぶん。いや、絶対!
さとみんは、結婚前には志野くんに体を許さないよ。この予測、自信がある。
ましてや、志野くんとわたしとさとみんとで、あの夢みたいに、その、うん。
なんだっけ。私がこっそり盗み読みした、千里の、あの変なエロい本に書いてあった。
なんだったっけ。そうだ、3P。3Pだ。
あれやろうよって言ったら、さとみんにぶん殴られかねない。
命の危機だ。
ーーーーー
そう考えていたのは、ほんの一瞬だったのだと思う。
サル男が近づいて、わたしの肩を抱いていた。
うわ、いつのまに!?
そそけだった。
「わかっただろ、あいつらできてやがるって、」
笑みを深めてわたしの背中をなでた。
ブラの線を探ってるのがわかった。
「できてなんかない。」
さとみんは志野くんのこと、好きかもしれないけどね。
サルの手を振り払う。3つ願いが叶うわけでもない手を。
「そんな言ってるけどさ、この写真みろよ。」
アウストラロピテクス男が、写真の背景を指差す。
「ホテル ○○」って看板があるね。だから?
「こいつら、きっとこの後ここに入って、よろしくしたんだぜ。調布の顔、見た?」
そういえば、確かにさとみんは寝不足な顔してたな。
でも別に志野くんは充電完了、みたいな顔してたけど。
さとみんはまじめな子だから、勉強か文化祭の準備だよ。
「そんなわけないよ。さとみんがイヤらしいことなんて、するわけないよ。」
「いーや、あれはヤった後の顔だね。あんなおすまし顔してて、絶対好き者だぜ、ありゃ。昨日もオ○ニーしてたりしてな。ひひ。」
うるさいな。
「根取くん、謝って。さとみんは、絶対そんなことしないよ!」
「いーやしてるんだな。志野ともきっと、エロエロだぜ。
だから、俺にしなよ!俺だったら、大丈夫。いつもキミを見ているから、さ、ーーー」
ぐいっと腕を引かれて、足を引っかけられて、いきなり世界が半回転した。
あれ、わたし、机に背中を乗せて、サル男に肩を押さえつけられてる。
サル男の、バナナの臭いのする口が、近づいて、ーーうわぁ、
こんなやつにキスなんてされたくない!
顔を反らして、手で近づいてくるサル男の肩を押しやろうとする。
サル男が舌打ちをして、強い力でわたしの両手首を捕まえたあと、片手でその両手首をまとめるようつかみ直し、わたしの頭の上のほうに押し上げた。
わたしは机の上で押さえつけられて、ばんざいしてる感じになってる。
あ、まずい。口が近づいてくるけど、抵抗できないよ!
そのとき、ドアがばん、と開いた。
「何してるの!あんた!」
「げえっ、調布!」
拘束がはずれた。
サル男が弾き飛ばされ、その後、うがあっ、とか何か声がしてる。
わたしは解放されて、机から転がり降りる。
落ちた、あの写真を拾い上げる。
隣の男の子を、信頼しきった、憧憬の視線でみつめる、とても珍しいさとみんの写真。
こんなときだけど、おもわずまた見てしまう。
「みなり、大丈夫?
って、ああ、みなり、ーー、」
さとみんの、罪悪感と絶望に染まった声。
ばっと音がして、さとみんが入口から走り出していった。
あ、しまった!
わたしが写真を見てるのを、見られたんだ!
「さとみん、さとみん!」
はっとして、声を上げて廊下に出たときには、さとみんの姿はもう見えなかった。
後には、こてんぱんに伸された状態のサルと、私がのこされていた。
ーーーーー
追いかけて、さとみんと話すべきだった。
でも、頭のすみにあったんだ。
さとみんは、放課後に来てくれるはず。部室で、ゆっくり話せるって。
だから、すごく気になったけど、無理にそのときは後を追わなかった。
サルを足先でつついてみて、生きてるみたいだったけど、一応保健室の先生を呼びに行った。
保健室の先生が戻った時には、意識を回復して森に帰ってしまったらしく、部屋はもぬけの殻になってた。
まあ無事ならいいんだ、結果オーライだ。
教室に帰ると、さとみんは、早退していた。
すごく体調が悪いって、言ってたらしい。傍からみて、異状がわかるくらいに顔が白かったとか。
私の机に、さとみんの字で。
”早退するので、お話はまた別の日にお願い。本当にごめんなさい。”と書いたメモがあった。
いつもの筆圧の高い、硬筆習字のお手本みたいなしっかりした字じゃなくて、少し震えた字で。
ごめんね、というのはわたしのほうも、なんだ。
だいたい、さとみんの秘めた思いに全く気付かずに。
そして今も、ちゃんと追いかけて、言わなかったばっかりに。
さとみんはきっと、傷ついただろう。
わたしを傷つけたと思って、自分を責めてるんだ。
さとみんは、潔癖だから。まがったことが許せない、それが自分でも。
放課後に、志野くんに相談しよう。
できれば、いっしょにお見舞いに行こう。
だけど。
「ーー2年C組の紫藤みなりさん。職員室にお越しください。」
校内放送が入って、すべての予定が狂っていった。