タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
話の展開が遅いのでもう少し進めたいところですが、進みませんでした。
本日2回更新のうち、1回目です。2回目は少し間があき遅くなりますが出来上がり次第、投稿予定です。
少し描写の矛盾など修正する必要もあって(調布さんの胸の大きさ問題とか多数)、次週、少々更新間隔が開きます。とりあえず明日明後日あたりには更新が間にあわないと思います。
強制力とか、修正力とか。
よく、物語の中に入り込んでしまった主人公が悩むやつだ。
物語では悲劇に終わる人物に成り代わってしまい、その結末を避けようとして行動しても、結局は違う因果をたどって同じ結末に誘導されてしまったりするやつ。
拡がる可能性を持ってるはずの、時間線の収束。
いわば、物事の展開が特定の方向に転がってしまうという、時の傾斜だ。
運命とか、宿命とかいうものに近い。
そういったものが、この世界にもあるのか?
おそらくは、ないと思う。
そう思わないと、やってられない。
これは、単に僕の読み違えなのだろう。甘かったのだ。
もう少し、強力に介入しておくべきだった。
紫藤が早退したと聞いて、そして自分の机に残されていた、少し丸文字の紫藤のメモを読んで、そう思った。
思いこもうとした。
悪いことに、調布も早退している。
見るからに、調子が悪そうだったという。
ズタボロになった根取も目撃されている。
調布が根取を〆たという噂もある。体調不良なのに?何があった?
情報がいろいろ足りない。
紫藤母の入院した病院に行き、病状を聞く。
危惧したほどには、紫藤母の容体は悪くない。過労による脳卒中か心筋梗塞あたりを予想していたのだが、伝聞情報ではあるけれど、どうもそうではなさそうだ。
まだ資金は十分にある。命を持たせて、回復を祈ろう。
紫藤母がいなくなってしまうと、その後の道筋が難しくなる。紫藤実父が救出出来て、しかも頼りにできればいいが、そちらも簡単ではない。
紫藤母が離婚するのはいいが、紫藤を紫藤継父の手にゆだねる形のままで離婚されては、やはり困る。
もう一度巻き直しを、と思っていたのだが。
病院からの帰り。
紫藤と紫藤弟のバスを見送って(どうでもいいが、紫藤弟は僕の顔をガン見してた。覚えてたんだな)、父に電話をし、駅の事務室に立ち寄って荷物を受け取り、自動車を出してくれた父に頼んで資料を乗せてもらい、一緒に帰る。
「大変な重さだな。学校の歴史とかか?」
「そうじゃないけど、調べたいことがあるんだ。」
「そうか。何か力になれることあったら、言ってな?いろいろ俺も教わってるし。」
うん、あれからも少し父にPCのことは教えた。
あの鬼畜眼鏡から取り上げたPCが使えるようになれば、もっと教えられるだろう。
ささやかな恩返しだ。
「飯場のほうだけどな、ーー」
要は、ちょっと力の強い議員さんがらみの案件でもあり、あのダムの、少なくとも基礎工事部分はあの業者に任せることになってしまってる。
ただ、あの飯場はブラックではあるが、まだマシな方らしい。結構、ほかも、というかほかがひどいらしい。あそこ以上に。聞いててブルってしまうような話もある。
まあバブル破裂後は、こんな感じだったかもな。
そのほか、いくつか情報を得ることができた。どうでもいい情報もあるが、後で効いてくるかもしれない。
仮に僕が紫藤実父を救出する際に身元が割れてしまった場合に、後で収めるための取引材料にできたりするかも。大切だ。
飯場の訪問は、やっぱり断られてしまったらしい。
確かにこちらが発注者だし、それなりに立場は強いのだが、無理押しすると議員さんが出てくるかもしれない。
そこまでのリスクは求めないし、かえって問題になったらまずい。
情報が取れれば、それでいいや。
家につくと、勉強をしてからこれからのことを考える。来週から、またテスト前週間で部活が免除だ。文化祭の方もひと段落。
6月の4週目に飯場からの紫藤実父の救出を考えていたが、とても無理だということで先日、話をつけてる。実行は7月2週、あるいは補講期間。
補講はほとんど強制なのだが、うちの先生は割とリベラルで、理由があれば無理には出なくていいとも言ってくれてた。
まあ、それに乗って補講にこなかった子たちって、言っちゃなんだけど一番補講が必要な子たちだったけどな。
でも、今回は僕も、いや僕たちもその言葉に甘えよう。
僕も調布もまだ免許は取れてない。書面等は一応そろえた。
一発試験での中免を狙う。スラロームとか動きがあるのは得意なんだけどな、かえって一本橋が苦手なんだ。いつもならやすやすと通るんだけど、緊張するとミスる。
コース見学ができる日があるはずだ。眺めて、頭にコースを叩き込もう。
予習も復習も終わった。さて、学校から持ち帰った資料を少し目を通して寝るか。
ーーーーー
持ち帰った資料のうち、郷土資料みたいなものを読む。
竜神伝説。ほかの地域の竜神とは、著しく違うところがある。
伝説からうかがわれる、その実像。神性を感じないというか。リアルなんだ。
人身御供を捧げていたらしい。その死体が食い荒らされた描写とかある。恐ろしい。
この人身御供、ごく最近までやってたようでもある。
ただし、最近では儀式的で、生贄たちも生き残って村に帰ってきていたようだ。
時々は戻ってこなかったことがあるというのが恐ろしいな。
コモドオオトカゲみたいなものの生きのこりが、本当にいるのかも?
ただ、目撃して生き延びた生贄による竜神の描写は、爬虫類とはいいがたい気もするなーー。
触手があるらしいんだ。そう、触手。
僕が想像で抜くときに、調布にまとわりつかせたりするやつ。
翼竜の一種で、触手みたいな細長い手があるものがいるよな。あんな感じ?
蛸とかの一種か?甲羅のある蛸?アンモナイト?
地形面からも、妙なリアルさがある。
コナン・ドイルの「失われた世界」では、ほかの世界と断絶した、テーブルマウンテンのような地に恐竜が生き残っているという設定だった。
この竜神伝説のある地域は、その逆なんだ。妙な盆地状、くぼ地のような地形になってる。
一部は、人為的に。
あたかも、中にいる何かを逃がさないように、と見えなくもない。
研究ノートの方は、簡単にいえばアレルギーと寄生虫だな。
花粉症か何かだったのだろうか、筆者はアレルギーの治療から出発して、寄生虫に魅了されたという感じか。
寄生虫は、アレルギーなどの拒絶反応を宿主に起こさせないようにしてるわけだからな。
最後は、異種の動物の器官移植なんか調べてるな。自分での調査実験も少しあるが、他の研究の情報も多い。
犬の頭部移植、ねぇーー。
ソ連の実験だが、グロい。
そういえば、1度目の世界では、サルの頭部移植が成功したっていう報道をちらっと見たな。人間にもやろうとして、批判されてたっけ。
うん、気持ち悪くなってきた。
今日は寝よう。
ーーーーー
翌日、紫藤は病院に先にいくことにしたらしい。学校には遅れてくる、あるいは来れないかもしれないと先生が朝のHRで言っていた。
調布は欠席だ。一度お見舞いに行くか。
元気を取り戻してもらわないと。いったい何があったのか、それも聞かねば。
紫藤も行きたいようなことを言ってたな。まず病院に行って、そして調布の家かな。
午前は平穏に過ぎた。お昼休みも、高木や神奈川たちと体育館で遊ぶ。
球技大会はバスケットボールやバレーボール、あとサッカーがある。クラスで男女別にチームを出すのだが、たとえば男子についてこの3種目を各1チーム構成してもいいし、バスケットに4チームとかも可能だ。そこも戦略の一つ。それぞれでの優勝・準優勝について点をもらえる。その点数は、その種目の参加人数で決まる(優勝が2倍、準優勝が1倍、ベスト4が0.5倍。たとえばバスケで10チーム参加なら優勝は100点、準優勝50点、ベスト4で25点。サッカー10チーム参加なら優勝220点、準優勝110点とか。サッカー有利そうだけどね)。
僕たちのクラスはごくスタンダードに、男子はバスケットとサッカーで各1チーム、バレー2チームを考えている。僕はバスケットに出たいと思ってる。
女子はバレー3にバスケット1みたいだな。
女子サッカーも面白いんだが、敷居が高いのか。11人制じゃなくてフットサルにすればいいのかもしれない。次の学期では提案してみよう。
高木と僕との連携プレーも様になってきた。うん、気心が知れてきたって感じか。
終わると、水道でものも言わずにじゃぶじゃぶ水を飲む。
「うまくなったじゃん、高木。」
「ありがとうな、でもまだまだだよ。」
ちょっと眩しそうな顔をして高木が言う。
親交を深めると、かなり面白い奴なんだ。
スルメと同じで噛むと味が出る。
「その後、その、紫藤さんとか調布さんとはうまくいってる?」
「 」
ブフっと吹いた。
「急にぶっこんで来たな、ーー」
「いや、邪魔しちゃわるいってさ、みんなとこっそり決めたんだよ。だからさ、」
高木もきまり悪そうに言う。
そういう高木も、今は、鶴見さんという胸の豊かな女の子に夢中なんだな。知ってるぞ。
高木の話によると。
どうも、クラスの仲間どもが結託していて、僕は生暖かく観察日記をつけられてたらしい。
紫藤と調布とどっちを落とすか。あるいは両方か。あるいは両方に振られるか。
レートができているらしい。うん、お菓子を賭けてるとか。賭けてるのはじ○がりこらしい。
うわぁ。顔から火が。
次行くぞ次!、と声を張り上げて恥ずかしさをごまかし、みんなに笑われながらコートに戻った。
ーーーーー
授業が終わると、病院に行くことにする。
調布グループの子を中心に、紫藤母へのお見舞いのお手紙などをもらう。こんなところの結束、男子にはありえないよな。
調布にお見舞いに行くかもというと、えー、だったら渡しときたかった、と言われる。その場でメモを書いてくれた子も。
彼らも心配していて、もちろん電話した子もいたらしいが、寝込んでいたため、まだ伝言にとどまってるとか。
意外と状態が悪いのか?紫藤と何があったのか。
後で調布グループの女子や根取のクラスの奴とかに聞くと、どうも、根取が紫藤を呼び出したのを聞いた調布がそこに乱入して、根取をとっちめた、ということらしい。
ただ、なぜ調布がその後早退したか、についてはあまりわからなかった。
紫藤と調布の間に何があったのか、も。
女の子の間の話だ、ややこしい事情なのかもしれない。当事者に話をしてもらって、僕はでしゃばらないのが吉か。
それにしても根取の野郎、なんで紫藤を呼び出すんだ。昨日は紫藤に話を聞けなかったけど、ろくでもないことのような気がする。
たぶん僕のことをまた悪しざまに言ってたのを調布が聞いて、切れたのかな。
この前のことで、調布は多分僕には恩義(?)を感じてるんだろう。
まああれは、危なかったしな。
でもなあ、恩義なんて感じなくていいよ。
というか鬼畜先輩じゃなくて、自分が調布にやってみたいと思ってたりしてるんだぜ、このゲス男。誘拐してあれこれ、って。
うん、勃ってきた。僕も立派なろくでなしだ。確認するとなんか安心する。
病院につくと、紫藤母の病室を訪ねる。
枕元で、紫藤は何かゆっくり本を音読してる。
紫藤母の外貌等にはあまり異常は見られない。人工呼吸器や管が走ってるけど。
意識不明でも、話しかけたりするのは有効だということを聞きかじったこともある。
意識がないようにみえても、意外に外界のことは認識してたりするんだとか。
音読とかも有効かもな。
紫藤は僕に気づくと、ぱあっと明るい顔になる。
いろいろ報告を受ける。
紫藤母、先にも言われたように脳に損傷は見当たらないのだ。なぜ昏睡状態になってるのかがわからない。
呼吸器系の機能などいくつかの系統が麻痺してる。その理由も不明。毒物のようなものは検出されていない。
だが、逆に言えばそれ以外は大丈夫なのだ。だから、近いうちに個室からは移すかも。来週あたり?
看護婦たちからは、そばにいてくれると患者本人は心強いだろうが、学校も大事だから、学校の帰りに寄ってくれるくらいで大丈夫、といわれたらしい。
本人も、来週からは学校に来るつもりらしい。
そこで、僕はちょっともやっと気がかりなことを聞いた。
「それ、お父さんも知ってるのかな?」
「お父さんは、ーー」
知っているらしい。まあ当然か。
相変わらず、延命治療中止を主張している。お医者さんが矢面に立って止めててくれてる状態。
そして、個室じゃなく共同病室に移すと知ったのか。
もしかすると?まあ、気のせいかもしれない。でも用心しなければ。
「土日も来るの?」
「そのつもりだけど、」
明日、授業のない第四土曜日は来るつもりらしい。日曜日も。
「僕も来るよ。一緒にいたいんだ。」
「志野くん。その、病院だからね。」
赤くなってる。かわいい。
「うん、わかってるよ。」
うん、そういうこともしたいけど、紫藤母がもし外界を認識してたら。
回復した後、修羅場だ。うん。
わかってる、わきまえた行動をとるよ。
本当の狙いは、もちろん紫藤と一緒にいることもだけど、もう一つあるんだ。
ーーーーー
今日は、もうこっちはいいだろう、ということで二人で今度は調布を訪問することにする。
熟考して、クソ迷惑にも、いきなりアポなし訪問をかますことにする。
途中で、この時点で評判が上がってきてたチーズケーキが売りの喫茶店で、テイクアウトできるレアチーズケーキを買っていく。
約20年後、1回目の世界で、調布から紫藤の話を聞いた時も。
たしかここのイートインで話を聞いた。そしてこのレアチーズケーキのケーキセットを強請られたな。
そのくせ、やっぱり食べきれないだろうからって、二人で分けた。
ティースプーンですくって口に入れたら、思ったより甘味は控えめで、爽やかなレモンの味。
あのとき。口に含んだ瞬間、調布と目があった。裏もなく微笑まれたな。
あの調布は、僕の節穴の目には、まだこの高校生のころの調布と同様、とてもきれいに見えた。
あの高校生のころあった、硬質な尖った態度は、しなやかな柔らかさに変わっていたけれど。
その包容力に、僕もワンチャンあるかもって、もちろん空想だけど、そう思ったっけ、ーー。
ただ、そこまで進もうとする積極性は、1回目の世界のあの日、お互い残っていなかった。
話をした後、角を曲がるまで僕を見送ってくれた調布は、遠ざかっていく僕を見て何を考えてたんだろう。
意外に、僕と同じようなことかもしれない。
生存競争に一応は生き残った勝者のはずなのに、味わっていた痛切な渇きと挫折感、無力感。
結局は、時に押し流されるだけに終わったという諦念。
でも、この2回目は。
存在した正史を、運命を、乗り越えなければならない。
時の傾斜に、逆らって、ーー
「さとみんのマンション、ここだったと思うよ。」
「ああ、ありがとう。」
茫洋と思い出に浸っていたら、声をかけられた。
いつの間にか到着してたらしい、僕も一応は知ってる高級マンション。
さて、どうなることか。
ーーーーー
調布の両親は、見込みどおり仕事のため不在だった。
インターホンでダルそうな声の調布が出て、来訪を告げると恐慌に陥っていた。
断られることはなく通され、応接室みたいなきれいな居間に案内された。
うん、スリッパ越しにも、絨毯の毛足が長い。
調布は、急に知らせたせいか、お気に入りの部屋着らしい、少し毛玉のあるワンピース姿。
お見舞いについて電話して予告しようと最初は思ったんだが、悪い予感がしたんだ。
先に電話したら、拒絶されるだろうって。
だから、紫藤にも言い含めて、いきなり強襲した。
一応、成功、ーーなのだろうか?
調布はあきらかに応戦体制が整ってない。
髪は慌ててとかしたのだろうが、寝ていたときの癖がついてる。
目が赤い。くまが濃い。少しだけ唇も荒れてる。
要は、明らかに体調不良、しかもさっきまで泣いてたという感じだった。
「ありがとう、お見舞いに来てくれて。」
憔悴した顔で微笑んでみせるが、かえって痛々しい。
「いや、急な話で悪かった。ーーその、一緒に食べないか?」
チーズケーキを供してみる。
ちなみに3人家族だと聞いてるので、父母の分も用意した。
調布が、それいいわね、と言い、キッチンにお湯を沸かしに席を立った。カチャカチャという茶器の音。
周囲を見回す。
落ち着いた洋風の広い部屋。あきらかに中~上流階級的な雰囲気。
いろんな本が収められた書架。おそらくは調布本人のために贖われた子供向けの本もあって、ほほえましい。
少しおぼつかない手つきで、調布がポットとカップを持って現れ、サーブしてくれる。
僕たちの向かいに座る。うなだれて。
「さとみん、「ごめんなさい。」」
被った。
なんか、調布の側の空気が張り詰めている。
調布の顔が少し上がり、上目遣いの目線が、僕の視線と交差した。
「##」
少し赤くなって、また伏せられた。
そしておずおずと、いたずらがばれた少女のように、紫藤の方に哀願するようなまなざしを投げる。
なんだ、この反応は。
「さとみん、体調は大丈夫?「チーズケーキ、食べないか?」」
しまった、お見舞いに来た人が当然言うべきことを先にとられた上に、食欲の権化的なことを口走ってしまった。
「ありがとう。体は、大丈夫なの。その、ーー」
「さとみん、今は無理して何か言う必要ないよ。わたしは、さとみんが好きだよ、元気になってほしいな。」
紫藤マジ天使っすね。調布が、ありがとう、となんか泣き出しそうな感じだ。
この空気苦手。うん、空気は読まんぞ。
「その、ケーキを。」
「そうね、」
強引にケーキ押しすると。
調布がようやく少しほっとしたように微笑んだ。
ーーーーー
ケーキを味わい、調布が手ずから入れてくれた紅茶を飲むと、空気が和んだ。
休んでた間の配布物を手渡す。
クラスの人たちの話とか。先生の寒い冗談とか。
どうでもいいようなことを話す。
調布の表情が、かなり落ち着いてきた。
うん、しおらしい調布もレアでいいけど、痛々しいし、かわいそうだ。
紫藤にも調布にも、笑っててほしい、幸せでいてほしい。
しかし、いったい何があったんだ?
聞きづらいな。女の子の深刻な話は、無神経な言葉で相手を傷つけてしまいそうで、どうも苦手だ。
根取と何があったかくらいは、聞いていいものか。
それを聞こうとしたとき。
「ねえ、志野くん。
ちょっとだけ。わたしとさとみん二人だけで、お話ししてもいい?」
紫藤が、そう提案した。