タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
整理のため、次回更新まで少し間が開きます(明日あさっては、更新できないと思います)。
0530 誤字のご指摘、ありがとうございました。
この前も、さとみんたちと勉強するために来たことのある、さとみんの部屋。
さとみんとお話ししたいといったら、さとみんに自室に招じ入れられた。
ちょっとかわいそうだけど、志野くんは少し待機しててもらう。
落ち着かないだろうな。
さとみんが、両親が戻るのは7時過ぎだから大丈夫、誰も来ない、と言っててなだめてたけど、少し不安そうだった。
わかるよ、いきなり踏み込まれたら、すごい気まずいよね。
さとみんの部屋に入る。
まず、広い。12畳はあるよね、わたしの家ならリビングに近い広さだ。
あまり女の子の部屋っぽくない。本がいっぱいある本棚、それ以外の物は少ない。机とベッドぐらいかな、大きいのは。
あとはたぶん、ぎゅうって時々するんだろう、大きめのテディベアのぬいぐるみがベッドの上にあるくらいかな。
カーテンやじゅうたんの色も、結構落ち着いたトーン。
お部屋に入り、わたしはとりあえずベッドにと言われて、そこに座った。こんにちは、くまさん。
勉強机の椅子以外には、ソファみたいなのはないんだ。それでベッドに、ってことらしい。
前来たことはあるけど、まだ物珍しくて、周りを見回した。
本棚の上の方をみようと、上を向く。ちょっと行儀悪いけど、膝で足を組んで。
そんなわたしに対し、さとみんはどうしたかというと。
そのわたしの足元に、ひざまずいた。
ーーーーー
そして今。
さとみんの頭が、わたしの組んだ足先の下にある。
ほぇっ!
わたしは一瞬に、ぴきっと凍りついてしまった。
さとみんを、まじまじとみる。
そのときになって、ようやく、さとみんの顔が目に入る。
憔悴した、ひどい顔に戻ってしまった、さとみん。
さとみんが。
私の足元に、そう、土下座?
さとみんが、私の足元に膝をついて、頬を床に着け、懇願するように見上げていた。
「みなり、ありがとう。そして、ごめんなさい。」
さとみんが、顔をもう少し横に向けるようにして、私を見上げた。
明らかに無理しているってわかる顔で、微笑んでいる。
「うん!こっちこそ急に来て、ごめんね!」
そういえば、あのサル(名前、ど忘れした)から助けてくれたのも、さとみんだったはず。
お礼を言わなきゃ。
「いいえ、謝るのは、そしてあなたの断罪を受けるのは、あたしの方。」
さとみんが、そう、重い口調で言った。
わたしも、改めて姿勢を正した。
「みなり。志野は、わたしを救ってくれた。」
さとみんは言う。
「あたしが悪いの。一昨日、あたしは油断して、昔、因縁のあった相手に捕まってしまった。」
さとみんは、語る。
窮屈な、罪人の姿勢のままで。
もう、よしなよ、と途中で言葉を挟めない重さが、さとみんの言葉の一つ一つにあった。
そして、わたしは直感した。
さとみんは、今、どんな形でも嘘を言っていない。
すべて、真実なのだと。
そして、その語る内容の重さに震撼する。
うん、ひどい目にあわされそうになってる。
よく生きて帰れたね、というくらいに。
志野くんは、大活躍だったみたいだ。
やっぱりすごい人だよ、志野くんは。
じーん、と心が温かく、そしてほこらしくなる。
「そしてね。」
さとみんは、さらに、語る。
その言うことを、わたしは一言も言葉を差し挟まず聞いて。
正確に、状況を理解した。
大事なポイント。
志野くんは、わたしを裏切ったわけではない。わたしを相変わらず、好きでいてくれている。
志野くんは、肉体的にも、精神的にもさとみんを救った。
救われたさとみんは、志野くんを好きになってしまった。
さとみんを救うのが、だめだって?そんなこと、ないじゃないか!
さとみんは、わたしの親友だ。無二の友だ。刎頸の交わりといってもいいだろう。
そのさとみんを救わない志野くんなんて、志野くんじゃない。
当然だよ。それを気に病むことなんてない。
それで、救ってくれた相手を好きになってしまった?
当然じゃないか。わたしだってそうだ。
救ってくれた志野くんを好きにならないさとみんって、さとみんじゃない。
うん、志野くんを好きにならないひとって、人間じゃないよ。
当然でしょ。
うん、さとみんが、こんなに悲愴な、憔悴しきった顔をする必要は、ないよ!
「みなり、あたしは罪を告白する。
あたしは、志野を。あなたの男を、好きになってしまった。
認めてくれとは、言わない。憎んでいい。罰してほしい。
蹴っても、殴ってもいい。ハンマーでも使ってくれていい。
命じたら、熱したフライパンにだって接吻する。
でも志野は、悪くない。わたしが、勝手に好きになって。ーー言えないような、汚いことも持ちかけた。
薄汚れた泥棒猫。色欲に目がくらんだ、雌犬そのもの。
許してくれとは言わない、言えない。
ごめん、みなり。
あたしは、きっと、ーー」
あ、ダメだ。
さとみんが、ぐるぐる回路に入ってる。
わたしがむかし、志野くんに出会い、救ってもらう前に、よく入ってしまってぐるぐる回ってたやつだ。
進んでも進んでも、いや、戻ろうとしても、どんどん絶望という底に向かっていくだけの、恐ろしい迷宮。
そのおそろしさを良くわかってるよ、わたし。
それにしてもさとみんは、わたしをなんだと思ってるんだ。
本気で言ってるのはわかるけど。覚悟の深さはわかるけど。
わたしがそんな残酷なことを命じるような人だと、思われてたなんて。
ふうん。
後で私への認識について、じっくりお話だな。
だけど、この当面の問題の解決は、簡単だ。
それは、わたしの希望に、そう、もしかすると一番の希望に沿ったことでもある。
わたしは、まず、さとみんに目を覚ましてもらわないといけない。
「さとみんは、次にこういう。
『あたしは、きっと生まれてこなかった方がよかったんだ』って。」
「あたしは、きっと生まれてこなかったほうが、ーーええっ!?」
言葉が重なった、さとみんの顔が驚愕に染まった。
あ、びっくりしてる。なんか、おもしろい。
いつもさとみんにびっくりさせられてるわたしが、あのどっしり落ち着いたさとみんを驚かせてる。
「つぎにこういう。『みなり、なんで』。」
「みなり、なんで、ーーあっ、」
口を押えている。
見開かれた目。驚愕の色。
ふふふ。いい気分。
うん、なんか天啓があったような気分なんだ。
未来を閉ざす靄が、すうっと一瞬だけ晴れたような気分。
「さとみん、そんなきゅうくつな格好、よそうよ。」
正直、さとみんのうちしおれた姿は、それはそれでなんかわたしをそそるものがあったけど。
ちょっと元気にしてあげないと。
でもさとみんは、立ち上がらず、上体をまっすぐ起こしたけど、両膝をついたままだ。
胸の前で、手をあわせて、組んで。
祈る修道女、あるいは縛られようとする罪人のように。
そしてあいかわらず、目が罪悪感に満ちている。
わたしの目を見ないといけない、って思って、見上げている。
でも、次の瞬間にも、打ちひしがれて視線を落としてしまいそう。
体が、すこしだけ震えている。
かわいそうに。こんなに怯えている。
わたしは、そっと近づいて。
さとみんの両頬を両手で挟み。上を向かせると。
さとみんは覚悟を決めたように、目をぎゅっとつぶり、歯をくいしばった。
私はその結んだ唇に、ーーおっといけない、まちがうところだった。
さとみんの額に、唇を当てた。
電撃にはじかれたように、さとみんが上体をのけぞらせようとした。
目には、抑えきれない驚愕の色。
だけど、わたしは逃げるのを許さない。
わたしも少しかがみこんで、両腕で、そっとさとみんの頭を逃がさないように抱える。
一昨日の朝のさとみんみたいにね。でも、あんなに窒息死させるほどの胸はないよ?
あ、やっぱりさとみんをいじめたくなってきた。
だって、胸が大きいんだもの。当たってて、わかる!
さとみんが、それで注目されるのがいやでスポーツブラで抑えてるのは知ってるけど。
男の人には、そう、志野くんにも、きっと受ける。
ちくしょう。もげろ。
さとみんが、ものを言いたそうだ。
でもまださとみんのターンじゃないんだよ。
わたしのターンだ。
わたしが、さとみんにわからせる。
すばらしい、未来があるってことを。
誰も泣かなくていい、未来があるってことを。
わたしは、さとみんに微笑みかけた。
おかしいな。さとみんの震えが大きくなった。
顔も白くなるのを通り越して、土気色に近い、かもしれない。
さとみんの反応はよくわからないけど。
わたしはわたしのなすべきことが、わかっていた。
それはまるで、神の啓示をうけたようだった。
ちょっといたずら好きの神なのかもしれない。
わたしは、笑みを浮かべて。
そう、自分でも蠱惑的だとわかってしまう、そんな笑みを浮かべて。
さとみんに語り掛けた。
「さとみん、罪を犯したと思ってるんだね。わたしに対して。」
さとみんから答えはなかったけど、その目で明らかだった。
罪に苦しむ目。絶望しかけた目。
それを確認して、わたしは続ける。
「さとみん、その罪を雪ぎたいのかな?
でもね、さとみんに罪は、ないんだよ。ーーあったとしても、私が、許す!」
さとみんの驚愕の表情。
うん、さとみんに罪はない。
世間の法律では、あるのかもしれないけど。
わたしの法律では、ちがうんだ。
愛を裁くことは、できないよ。
さとみんの愛は本物だ。
志野くんの方は、まだわからないけど。
そしてわたしの心には、さとみんへのいとおしさが沸き立っていた。
さとみんは、これほどにも誠実なんだ。こんなときでさえ。
「そのうえで、わたしは提案するよ、」
わたしは、なぜその単語が思い浮かんだのか、今でもよくわからない。
神の啓示だと思う。
「さとみん、わたしと、姉妹になろうよ。」
ーーーーー
それから少しだけ、いくつか約束をして。
さとみんはまだよくわかっていないらしく、狐につままれた感じだったけど。
とにかく、わたしが深刻に傷ついてない、ってわかって、ずいぶん状態が良くなった。
まだ少し遠慮がある、わたしに気遣ってるけど。
でもそれは、わたしが後で下す罰というか試練、ううん、試験を経れば、変わるはずだ!
うん、わくわくする。
学校が、まちどおしい。
今ここでしてもらってもいいんだけど。
やっぱりちゃんと準備して調子を整えた、100%のさとみんでないとフェアじゃない。
応接室っていうか、居間に戻る。
大丈夫かな、って思ったら、全然大丈夫だった。
なんと志野くん、本棚に入ってたらしい、さとみんの小学校と中学校の卒業アルバムを広げてみてたよ。
ロリさとみんを鑑賞してたってわけだ。
志野くん、超強心臓。自由すぎ。
確かにさとみん、本棚にある本なら全部読んでいいって言ってたけど、アルバムは予想外だったんだな。
それアルバムであって本じゃないでしょーって、ぽこんと叩かれて戸惑ってる志野くんが、かわいい。
恥ずかしさで顔を赤らめてるさとみんが、かわいい。
屈託のない笑い声を、たててしまう。
うん、楽しい。
大丈夫。
この仲間なら、どんな困難でも、どんな過酷な運命でも、突破して、乗り越えていける気がする。
わたしは、そう思った。