タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
本日2回の投稿のうち、1回目です(1/2)。遅くになりますが、もう1回更新します。
結局、その後は面会時間の終了まで、何事もなく終わった。
多分、明日以降はここまで警戒する必要はないだろうな。
放送が流れたのを機に、調布と目と目を見かわし、頷きあう。
帰ろう。
調布を家に送ることにする。親には、少し遅くなると伝えてある。
午後7時。もっとも日が長い季節ではあるが、梅雨のため曇っていてもう夜の暗さだ。
市街地から少し外れに病院は位置している。幹線道路近くで、道は広いが、調布の自宅に行くには市街地をかすめていくことになる。
繁華街ではない。ただしあまり治安のいい地帯ではない。中高生にとっては。
単車に乗ったヤンキーや暴走族がいるからな、この時代の路上や公園には。
女の子を一人で返すのは心配だ。それがたとえ調布だとはいっても。
「ねえ、志野。」
「なんだ?」
肩と肩を接するくらいに、調布が近い。この前から、こんな感じだ。
こちらを見ずに、調布は続ける。
「来週、時間をもらえるかしら。学校で。みなりも一緒。」
「ああ、いいが、ーーなんでだ?」
「わからない。」
「?」
「あの子が、必要だっていうの。あなたとあたしたちが話し合ったりする時間が。」
「そうか。ーー昼休み?放課後?」
「時間が切られない方がいい、だから放課後で。来週はもう、球技大会と期末試験前ウィークでしょう?」
「そうだったな。月曜日でいいか?」
早い方がいいか。
もう期末試験前なのか。そんな時期か。
期末考査が7月初旬。その前1週間は部活が休みになる。
球技大会もあり、この後も慣例的に大抵の部活は休みになる。クラス対抗の球技大会は試験にはさまれた6月の楽しみの一つだが、雨が降ってるとサッカーは中止かもな。
まあ、優勝は難しいだろう。バスケなんか、ほかのクラスで経験者で全部固めたチームもあるし。
でも結構善戦できそうなんだけどな。
「月曜日の放課後、球技大会の後ね。みなりにも言っとく。」
「なあ、調布。」
「何よ。」
「球技大会、何に出るんだ?それと、紫藤は?」
やっぱり聞いておきたい。
「やっぱり志野も男の子ね。ーーあたしも、みなりもバレーよ。あの子、そんなに運動神経は悪くないの。よく拾うわ。」
「そうか。」
よかったら、見に来てよ。勝つつもりだから。自信ありげに、そう言ってる。
多分同じ2人とも同じチームだろうな。自分の試合と重ならなかったら、応援しに行こう。
ーーーーー
広い幹線道路沿いの歩道を歩く。天気が崩れたな、ざあっと降って来た。
まだ遠いけど、雷も鳴ってる。
「入るか?」
調布は傘を持ってこなかったらしい。
僕は折り畳み傘を広げて、調布を誘った。
「ーー悪いわよ。」
「調布が入らないなら、僕も入らないが。」
何が悲しくて女の子を雨に濡らして、男だけ傘をさして歩かないといけないんだ。
うん、僕は男女差別主義者だな。調布に殴られても仕方ない。でも無理だよ。
「入る!ーーごめんなさいね。」
梅雨の季節だけど、空梅雨気味で、午前には雨は降ってなかった。
調布も油断したんだろうな。
肩が半ば重なるように歩く。
シトラスの匂いが、すぐ鼻先で薫る。
うん、誘ったはいいけど自制心を働かせるので精一杯だ。
シトラスと甘い女の子の匂い、多分汗の匂いがして、頭がくらくらする。
なんか間違いを犯してしまいそうだ。
後ろから抱きついたりしちゃだめだ。抱きつかない、抱きつかない。
目の前の肩口。ときどき振り向く横顔。
それはお前のじゃない、ステイ。ステイだ!
そう自分の、股間で持ち上がりつつあるそれに呼びかける。
すごい接近して歩いてるからな。持ち上がったら、当たりかねない。
当たったら、社会的破滅だ。調布の場合、生物学的破滅もありうる。
「それでさ、志野。この前、話したことだけど、ーー」
別のことを考えなきゃ。
雨は結構大粒だ。風がないのがせめてもの救いだ、吹き込まない。
集中する。調布の向こう側の肩が雨に濡れてるんじゃないか?大丈夫か?
「ーーだと思うの。だからあたしは、あなたの、ーー」
うん、大丈夫だな。ただ、僕のこっち側が少し濡れてるけど。
あれ?なんで調布、止まった?
「ーーってことで、本当にいいのかしら。」
振り向いて、上目遣いに見上げる感じで調布がそう言った。
何か、結構、本人的には勇気のいることを言ってた気配だ。
ただ、積極的にどうこうするって話じゃなくて、計画での役割の確認みたいだったな。
安心させてやらねば。うん、主犯は僕だ、やり遂げて見せる。
「ああ、大丈夫だ、ちゃんと考えてる。心配するな。」
笑いかける。
ほっとしたように、ありがとう、と言いながら、調布がまた歩き出した。
その後を忠実な下僕のように折り畳み傘を捧げて歩く僕。
自分の肩?そんなものはいくら濡れてもいいんだ。
こういうときに相手の女の子を濡らさないようにしない奴はクズだ。
いや僕もクズだけどさ。こういうところでのクズではありたくない。
「ーーそれでさ、志野。こんども、勝負したいんだけど。」
「期末か。いいぞ。」
だけどな、調布には勝てないだろうな。
でもそうだ、あいつに、国領にも勝負を持ち掛けよう。国領が勝ったらこの前の勝負なし、負けたらもう一回手伝わせる。
紫藤と別れろ、なんてことを賭けなくていいなら、気楽に勝負できる。
紫藤にはどうしよう。もう、思う以上に僕は望みが叶ってるけど、紫藤の側には何かあるかな。
「楽しみね。いろいろと。」
少し調子を取り戻した調布が、にやっとこっちを向いて笑う。
口の端にこぼれる白い歯が、眩しい。
うん、それそれ。その嗜虐的な笑みがいいんだよ。
しおらしくしてるのも、新鮮でいいんだけどな。
「ちなみに、今度は何を命令されるんだ?」
「それは、お・た・の・し・み。1日くらい、もらうわよ?」
「いいさ。いろいろ頼んでることだしな。あれが、終わってからなら大丈夫だ。」
調布には、僕としてはいろいろと借りがある。
紫藤実父の救出プロジェクト。結局、僕には信頼できる仲間が見つからなかった。
金で面を叩くようにすれば、数ならなんとかなるだろう。
ただ金で雇える人間は、金で転ぶ人間でもある。
ヤツザキに転んで、その後で素性を突き止められ、ーーとなるのは目に見えてる。
調布はその点、頭も切れるし戦闘力もある。なぜかわからないが、相当の覚悟も決めている。
親友のためだから、だろうな。
相棒としては申し分ない。
「悪いが、頼りにしてるよ。」
「っ!ーーええ、当り前じゃない。」
なんか赤くなったな。そんな要素あったか。
まあ頼りにされたらうれしいのは当たり前か。
マンションについた。
調布は、豪華マンション(※僕の主観)の長いエントランスの庇に入って僕が傘をたたんでから、僕の右肩のずぶぬれ度に気が付いたらしい。
「悪かったわね。ーー上がってく?タオルで拭けば?大きい傘もあるわよ。」
「いや、いいよ。遅くまですみませんでしたって、ご両親にお伝えしてくれ。」
もう7時半だ。高校生の出歩く時間じゃない。
先導しようと先に一歩踏み出して、ふと、調布がすぐ背後にいることに気付く。
耳元に息がかかる。
「志野、」
振り向こうとしたとき。
突然、こんどは後ろからぎゅっと抱きつかれた。
高まるシトラス、そして多分調布の甘いけど少し刺激的な体臭。
下半身まで密着して、片脚を太腿で挟み込むようにされた。
耳元の頬に、やわらかい唇が。
うわっ、ちょっと、今その、下半身が、急激に。
「勝負、楽しみにしてるわ。」
調布は、硬直した僕に、そう少し笑いを含んだ声でささやいて。
じゃあね、とロビーのドアをくぐった。
振り向かずに、たまたま開いてたエレベータに駆け込んでいく。
どうしてくれる。すごく歩きにくいんだが。
なんとかポジションを直して、帰宅の途につく。
準童貞をさんざん驚かして翻弄しやがって。
病院でのやりとりともあわせて考えると、あいつ、わかってるよな。
僕がその、うん、調布をオカズにしてるってこと。
わかってて,揶揄ってるんだろうな。ふざけた話だ。
帰ったらお望みどおり(?)抜いてやろう。復讐だ、下剋上だ。うん、絶対に。
結局、予告はしていたが遅くなって母親に怒られた。帰宅が連日8時過ぎだもんな、仕方ない。
父親は、こういうところは妙に寛大だ。割って入って止めてくれる。
感謝しつつ、予習と復習をやって寝る。もちろん寝る前に、調布で抜くのを忘れない。
脳内で、調子に乗ってた調布に下剋上し、許しを請わせる。
もちろん許すわけない、いろいろとする。うん、いい感じだ。
今日収集できた調布の体の感触データもあったから、順調に捗った。
そういえば、紫藤との前の中間考査での引き分けに終わった勝負での、紫藤の願いはどうなったんだっけ。
そもそも、僕の願いもあるんだよな。何になったんだっけ。
紫藤とやりたい、ってのがあるんだけど、これはお願いで強制するようなものでもないしな。
考えとこう。今日は眠い。
ーーーーー
翌日。
朝、また少しだけ眠そうな顔の紫藤と挨拶を交わす。
今日は茶色のキュロットにしたのか。うん、そっちがわずかにスカート丈が短いんだ。後ろを向いた隙に眺めねば。
昨日から降り続く雨で、昼間なのに夜みたいな感じ。
昨日と同じように、ただ今日はわりとのんびりと待機している。午前中に1人見舞い客があっただけで、あとは動きがない。
紫藤母の容体には、変化がない。医師にもまだ判断がつかないという。
正史ではどうだったのだろうか。同じ感じだったのかな。
ただ、損傷が見当たらないのに治療を止めるとなると、かなり抵抗があるだろう。だから、少し正史と違っているのではないかと僕は考えている。
紫藤継父も治療続行には反対していない、その点は、明確に正史から離れた。
治療方法も、記憶を探って考えてみよう。
意識不明とされていた人も、実は意識があることが多いと、1回目の世界で読んだ気がする。
だから呼びかけとか音読とかを続けることを紫藤に提案した。
ただ。
僕はこの紫藤母の状態が、単純な傷病や中毒によるものではないのではないか?という気がしている。
ただそれが何か、というとさっぱりわからないのだが。
紫藤母を見ていると、何か超感覚が起動しそうにむずむずするのだ。
ただ、こっちに脅威がないせいか、発動してくれないのだが。
合間に、紫藤と話す。
奨学金の面接は、無事に終わったらしい。
ただ、紫藤的には少し気になることがあって逡巡しているらしい。
具体的に言えば、もしかすると転校するかもしれないということ。
寮か何かへの住み込みなので、生活費もすべて面倒見てもらえるらしいが、
「わたし、志野くんと離れるのはいやだよ。」
少し眉を寄せて見上げてくる。
うん、困り顔もかわいい。
そうだな、でもそれが理由でいろんなものをあきらめる必要はない。
本人も可能性を検討しているみたいに、遠くからでも通うという手もある。
ともかくDV野郎の紫藤継父から離れて、全く新しい時間線に入れば、紫藤の危機は一応回避できたと考えるべきなのだろうか。
あと紫藤はまったくその可能性を検討していないみたいだけど、僕も転校するって手もあるんだぜ。
まあ、まだ転校するかどうかもわかってない。もう少し詳細が分かってからだな。
紫藤は弟にも、弟の学校での奨学金がないか調べてもらう予定らしい。
そちらが取れるなら、場合によっては好条件の奨学生は辞退して、ほどほどの奨学金を取るという手もありそうだな。
そうだった。あれ聞いておかないと。
「結局、中間試験のときのお願い、って。あれどうしようか?」
「え?わたしは、きいてもらえたつもりでいたよ?」
そのつもりだったんだけど!と言いながら、急速に頬が赤くなる。
ああ、やっぱりあの、開かずの間のあのときに、最後にした約束。あれでいいんだな。
「うん、僕も同じだよ。あの約束、でいいんだよね?」
「ーーちょっと違うけど、『賢者の贈り物』みたいだね!お互い、同じ願いになったってことだよね?」
もともと引き分けで、勝ちでも負けでもなかったから、ちょうどいい結末か。
「それでさ、期末なんだけど。」
紫藤がお願いモードに入った。少しもじもじしてて、上目遣いになる。
あざとかわいいけど、狙ってるんじゃないんだろうな。
「期末も、勝負してみる?」
「うん!」
なんかまた赤くなってるな。
いかん、僕も伝染してなんか恥ずかしくなってきた。
僕が勝ったら。
その、無理にとは言わないけど、またイチャイチャコロコロしたいんだ。
別に考査の結果での賭け勝負でなくても、聞いてもらえると思うけど。
もちろん、ずっと先でも構わない。救出関係とか、そっちが優先なのはわかってる。
来週は部活もないし、元さんとも連絡をとっていろいろ準備を進める予定だ。あの女の人との接触についても、相談しないとな。
ーーーーー
昼少し前に調布が来る。
「志野、あなたさ、」
覇気の戻った視線で聞かれる。
「いつ、免許取れる?」
調布と紫藤には、僕が中免を取る予定なのは伝えてある。
紫藤実父の救出の時期。そこなんだよな。
それまでには間に合わせないといけない。
バイクも、必要なら整備に回さないといけないが、父の話だとまだ乗ってたりするから、当事者間で売買して名義変更するだけなら本格的な整備はいらないだろう、とのこと。
「悪いが、試験前は難しい。試験直後、文化祭前になりそうだ。あるいは補習を休んで、ということになる。」
試験前は部活動は禁止だ。だから部活での公欠という手は使えない。
「しかたないよ。」
「いいわよ、こっちもそのつもり。志野、公欠がとれなかったら前夜祭の日でもいい。」
紫藤的には、早く実父を安心な状態にしたいんだろうな。もちろん僕もだ。
救出後に飯場との関係で軟着陸できたら、実父の生活本拠を多賀島市内に置き、紫藤たちと同居できるようにしてもいい。
あと、前夜祭の日は、授業がなく、準備に当てていいことになっている。
ただ、公式の休みの日ではないので、さぼって免許を取りに行ったのがばれると問題だな。
「お昼を交代で取ろうか。」
「そうね。」
今日は食堂を試すか。そう思っていたときだった。
「紫藤さん、お見舞いよー。」
「おじゃまします、って、アレ?」
来たよ、こいつ。
「あ、ハルカちゃん!」
「国領さん?こんにちは。」
「おう、よく来たな。」
「げっ、志野!?なんでここに!」
まあちょうどいい。
勝負を持ち掛けてまた協力ゲットだな。
僕は黒い笑みを浮かべて、やってきたカモ、国領ハルカを見る。
紫藤たちに親し気に取り囲まれ、当たり障りなく応じてはいるものの、抑えきれない汗をかきながらこちらを見やっている国領ハルカを。
ーーーーー
「ふうん、そういう状態なんだね。」
国領は紫藤と調布から紫藤母の情報を得ているらしい。ときどき、ちらちらこちらを見てくるが、少しは落ち着いたようだ。
漏れ聞こえてくる会話からすると、紫藤が来ないのに気付いて、僕たちのクラスメイトから紫藤母が入院したと知ったらしい。国領と紫藤が仲がいいことは先生も知っていたらしく、入院先のことを教えてもらったとか。
約20年後だったら、生徒の個人情報を漏らしたってことで問題になるんだろうかな。
「よかったら、お昼いっしょに行く?あたしたちもこれからなんだけど。」
「うん、いくよ!ーーあ、でも。」
こちらを気まずそうに見る。
「今日は大丈夫だろ、3人で行ってきていいよ。」
懸念していたような紫藤継父の工作はないだろう。一人でも大丈夫だ。
女の子同士の話もあるだろう。特に僕の前ではできないようなことも。
少し眉を八の字にする紫藤に手を振って、食レポを頼んで送り出した。
手元のアレルギー&寄生虫関係の実験ノートと、竜神様の資料ノートを読み進める。
思ったより、これらは役に立つかもしれない。もしかすると。あるいは。