※この作品はR-18です。

タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。   作:Marchhatter

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70 新しい分岐線(6)(志)

 

 わけのわからないままに調布のストリップを鑑賞して興奮し、紫藤の理不尽なパワーに押し流されて二人への愛を語ってしまった。どうかしている。

 ちなみに最後に抱き合ったときの接触の刺激で、その、射精(で)てしまった。

 いや、生のそれって、見るのははじめてだったし、すごく勃ってて。ほんとすみません。

 人気のない男子トイレで、とりあえず拭き取って脱いで洗った。

 抱き合うよう促した紫藤に罪はないが、やっぱり一瞬だけ恨んだよ。紫藤は気づかなかったみたいだけど、調布は気づいたかもな。

 ちなみにその後その下着を履く気にならなくて、その後制服のズボンの下は、(略)。汚れた下着は、家に帰った後、そっとゆすいで洗ってから洗い物に忍び込ませた。

 

 そのときは興奮していて気にならなかったが、家に帰るとどっと疲れが噴出して。

 夕食を取った後、僕はへとへとに疲弊して自室の床に転がって、天井や壁を眺めていた。

 約20年後には日に焼けて茶色く色褪せ、ところどころの折り目が裂けて隅が巻いてた世界地図も、まだ今は青く新しい状態で壁に貼られている。

 

 僕は紫藤を愛している。これは確かだ。神に誓える。

 そして、ああいう形で気付かされるまで、うかつにも自分では気づかなかったけど、おそらく調布のことも好き、なのだろう。

 その二人から好きだと言われて、また、無理に選ぶ必要はない、愛してほしいと言われて。

 うれしくないはずがない。そりゃうれしいよ。

 

 二人のことは好きなのか?YES、好きに決まってる。

 あの紫藤の表裏のないふにゃっとした笑顔を思い出すだけで、癒されるんだ。幸せにしてあげよう、頑張ろう、って気になる。

 あの調布の勝気な、でもときどき見せる不安そうな横顔を思い出すだけで、任せとけ、何とかしてやる、って気になる。

 紫藤の、あの抱きしめた時に身を任せてくれる、頼りなく柔らかい細い体。うん、したい。どうしようもなく。

 調布の、あの抱き着かれ、そして抱き返したときに感じた、起伏のある、健康的な魅力にあふれた体。うん、したい。どうしようもなく。

 二人が好きだ。二人が欲しい。

 

 でも。

 率直にいうと、怖いんだ。不安で押しつぶされそうだ。

 僕には他の高校生にはない、今の生体年齢に加えて約20年くらいの無意味に長い経験がある。ただ、無味乾燥に長いというだけ。有益な経験、特に女性経験はないに等しい。

 

 紫藤一人ですら、頼りない僕には幸せにできるかわからない。いや、幸せにしたい、それも一緒に、と願っているけど。

 だけどもし僕で無理なら、最悪、どこか遠くに逃がしてでも、あの運命だけは避けさせよう、そう思っている。

 紫藤に以前、言った言葉は嘘じゃない。紫藤が幸せでない世界、幸せになれない世界なんて、クソくらえだ。

 僕がたとえ紫藤の隣で幸せになれなくてもいい、あの子があんな運命をたどることだけは許さない。

 魂を悪魔に売ってでも、それだけは阻止する。

 

 そして調布。

 正直、1回目の世界では、僕がもう少し勇気を出してたら。調布は僕に寄り添ってくれて、二人で幸せになれたんじゃないか、という甘ったれた空想をしたことがあった。

 そう、僕の心の奥底、あえて直視しないように、触らないようにしてた小さな片隅には、調布への思い入れと果たされない悔恨があったのだろう。

 あの子は、ーー調布は、まあ賢いからな。約20年後のこの残酷な世界でも、無事に生き延びてた。

 でも、本当に幸せだったんだろうか。

 僕と同じで、砂浜に打ち上げられた魚のように、乾いた世界に違和感を覚えて、干からびていく疎外感を抱え込んでたんじゃないだろうか。

 あの約20年後の喫茶店で、明るく振舞おうとしてた彼女の姿が目に浮かぶ。

 

 二人のことを思うと、どちらのときも、どこか胸が、ひきつれるように苦しい。その感覚を、1回目の僕は、まだこの時期には知らなかった。

 今の、2回目の僕は知ってる。

 

 二人を幸せになんて、できるものだろうか。

 僕のたいして良くもない疲弊した頭は、勝手に合理的に分析しようと動き出す。

 

 たとえば二人同時の婚姻は、今の社会常識的には、無理ゲームだろう。いわゆる重婚だが、今の日本社会は、そんな婚姻は正当なものとは認めていない。

 フランスのPACSなどが有名だが、事実婚や同性婚を一般的な異性間の法律婚と同様に保護する制度をもつ国は少なくない。しかしそうした国の多くでも、パートナーは1人だけとしている。宗教的に複数婚が認められている国も、実態としては稀だと聞く。

 ただし、日本でも時間差を置く形でなら一夫多妻や一妻多夫の実態があるとも言われている。要はセレブが短期間に結婚離婚を繰り返す、あれだ。

 また事実婚の形だったら、昔からある話だ。愛人、妾、不倫、浮気もそうかもしれない。ただ、公に認められた話ではない。

 

 それだけ、複数愛(ポリアモリー)は社会に受け入れられにくい。あるいは当事者間でも関係維持が困難なのではないだろうか。

 二人を幸せにしたい。でも、誰もまだ幸せにしたことのない究極の拗らせ準童貞である僕が、それができるか?

 わからない。

 

 ーー煮詰まったな。

 

 今日はもう何も考えずに寝よう。

 

 ーーーーー

 

 夢を見ていた。

 何年後だろうか、何十年後だろうか。

 多分、この悩みを和らげたかった僕の脳が勝手に作り出した、都合よく心地よい夢だ。

 夢の中で夢を見ることはあるのか?

 ないなら、この2回目が現実っていう証拠かもな。

 

 夢の中で、僕は、紫藤と調布と、二人ともに結婚していた。

 いや、いわゆる法律婚ではないのかもしれない。

 でもそこでの生活は、確かに甘い結婚生活だった。

 

 僕は一日働き疲れ、混んだ電車に揺られて、駅からかなり歩いて自宅に帰る。

 駅で電話したからか、門灯の灯った小さな家の扉を開けて、紫藤が僕を迎えてくれた。金木犀の花の香りのする玄関先で、思わず小さな柔らかい体を抱きしめてしまう。

 抱擁と優しいキスの後、料理が火にかかったままだったよ、と慌てて駆け込んでいく、愛おしい後ろ姿を見送る。

 僕と結婚してから定期的に訪れるようになっていた月経が止まったのにこの前気付いて、産婦人科を受診し、懐妊が判明した。

 今ではお腹は少しだけ大きい。紫藤の体格は大きくないけど、無事、産まれるだろうか。

 毎日、できるだけ寄り添ってお散歩に付き合うようにしてる。

 家での紫藤は、幸せそうにタ○ヒヨ系の雑誌を読みながら、お腹をそっと撫でてることが多い。

 

 そして僕の後から帰宅してきたのか、どーんと後ろから抱き着かれる衝撃。

 主人に懐く犬みたいに、頭をぐいぐい肩に擦り付けてくる調布。

 あわてて振り向くと、怒った?と心配そうな目になる調布。そんなわけないじゃん。

 そういうと、じゃあ今日も、その、ーーと目を閉じてキスをねだる唇に、吸い寄せられて。

 調布はまだ妊娠してない。

 できにくくてごめんね、あたし。がんばるから、今日、いい?ーーというささやき。

 どきどきして、抱きしめがいのある体を抱き、キスをする。

 赤くなった調布が家に先に駆け込み、出てきた紫藤と今度はやさしく抱き交わしているのを見る。

 こっちを見て、何か赤らんだ顔を突き合わせ、ささやき交わして、笑ってる。

 都合のいい夢の中の僕は、幸せだった。

 

 ーーーーー

 

 夢からさめて。幸せの余韻に浸りながらも、思う。

 世界から理解をされなくても。

 もしかすると、最も近しい肉親である両親や姉にすら、理解されなくても。

 僕は、あるいは僕たちは幸せでいられるだろうか?

 

 まあ、先のことはわからない。

 

 紫藤も、もしかすると運命の断崖を乗り越え、新しい道に進んでいけば、やがて僕を必要としなくなるかもしれない。

 

 調布も、ハイスペックな彼女に釣り合うようなすごい彼氏や仕事とかに出会い、そこに彼女の運命を見出すかもしれない。

 

 そうなってしまうかもしれない。考えると、とてつもなく寂しい気持ちになる。

 でも、僕は凡人だ。今は、一つの目標を追求するだけだ。

 

 紫藤みなりの運命を変える。それだけだ。

 

 それまでは突っ走る。その間にやらかしたことは、その後でそのつけを払おう。

 負債がどれだけになるか、恐ろしいけど。

 

 ーーーーー

 

 翌日。

 一晩たって頭が冷えたら、やっぱりありえない!と二人ともから愛想をつかれているのでは。

 顔を合わせたらいきなり殴られたりしないかな、などと思っていた。

 

 しかし、調布は一瞬、あいさつしたときに、かあっと顔を赤らめたけど。

 それ以外はいつもどおりで、かつてより柔らかいがツッコミも復活。

 紫藤は平常運転。

 にこにこと挨拶してくれる。

 いつもより血色もいい?元気そうだ。

 

 授業時間が終わり。

 球技大会もフィナーレ。

 バスケットはベスト4。善戦したが及ばず。

 最後に接戦で惜敗。でもその僕たちが負けたチームが優勝。残念。

 調布と紫藤のチームは準優勝。

 負けたときに紫藤はうるうるしてたけど、調布にわしわしされて復活してた。

 伝統的に、表彰式みたいなのはない。翌日、簡単に朝の会で報告されるだけだ。

 クラス単位のポイントの計算結果、どうなるかな。

 

 ーーーーー

 

 そして今、放課後。

 一緒に帰る約束をした紫藤には仮部室で待っていてもらい、僕は、調布を呼び出した。

 あの美術室で、今日は灰色の空から雨が落ちている。

 

 調布は、何か覚悟しているようだった。

 

 「もしかすると、ーーやっぱりかしら。いいのよ、言って。」

 

 すがるような目。心が痛い。

 でも、言わなきゃな。

 

 「僕は今、あることをやらなきゃいけない。絶対に、だ。」

 

 「それは、みなりのお父様のことでしょう?」

 

 「それは、その、やらなきゃいけないことのごく一部なんだ。」

 

 全容などは話さない。話せない。

 調布を信用しないわけじゃない、でも話したら調布を危険にさらしてしまうという直感がある。

 ことが成し遂げられたら、伝えたい。調布も、いつからか僕の心の中の大事な人になってしまっているから。

 

 調布は思ったより平静に、僕の胡乱な、固有名詞も具体的な説明もしない、もちろんタイムリープの説明もしない、漠然とした誇大妄想みたいな説明に耳を傾けていた。

 

 「わかった。志野、」

 

 調布はむしろ胸のつかえがとれたような、すっきりした顔をしている。

 

 「志野は、あたしのことを嫌いになったわけじゃないのね?」

 

 「ああ、嫌いなんかじゃない。調布が好きだ。」

 

 昨日言ったとおりだ。紫藤のことが好きなんだから、最低男だな、と自嘲する。

 調布は、またかあっと一瞬、顔を赤くしたが、落ち着いて答える。

 

 「そんなことはないわよ。志野には、今はやらなきゃいけないことがある、ってことね。

 ーーいいじゃない、あたしはそれでいい。あなたの中でも、答えは出てないんでしょう?

 そんなに落ち込んだ顔、しないでよ。初めっからクズの最低男だってわかってるわよ、いまさらじゃない。

 それ。そのやらなきゃいけないことが終わったら、答えを教えてよ。答えは、いつでも、どんなものでもいい。あたしに遠慮する必要はない。10年後でも20年後でも。」

 

 やっぱり気の迷いだった、これでおしまい、ってのでも構わないわ。

 そう言った調布は、さすがに少し寂しそうだった。

 

 しかし、調布は、自分の頬を軽くぱん、と叩いて、ぐいっとそこから僕に接近してきた。

 活力に満ちた目が、至近距離から僕を射抜く。思わず少し、のけぞってしまう。

 

 「ただ、その『やらなきゃいけないこと』。あたしがみなりと一緒に手伝っても構わないんでしょう?」

 

 「あ、ああ。特に紫藤実父関係は、頼りにしてる。」

 

 「いいわよ、やってやろうじゃない!みなりはあたしのかわいい妹よ。もっともみなりは、あたしを妹だと思ってるみたいだけど。」

 

 「?」

 

 「あの子、その、ーーどうでもいいけど、あんな言葉、竿なんとかって教えたの、あなたじゃないでしょうね!?あなただったらきつーいお仕置きよ?」

 

 「違うぞ冤罪だ、僕はそんな、ーー」

 

 「まあ、あなたはそんなこと言わないわよね。誰かしら。

 ーーそれでね、みなりはね。狙ってるわよ?自分が先にあなたとゴールインして、私の姉になるのを。」

 

 ううむ。

 そんなことまで女の子は話すのか。

 

 「あたしとみなりの間だからよ。あれだけお互いの気持ちを、言い合ったでしょう?」

 

 だからその後も。話してるとわかるのよ、という。

 

 「あの子、結構暴走すると危ういから。ーーただ、分かってるんでしょうけど、気を付けてね?学生なんだし。」

 

 ヤってるのがわかったら、大人たちが無理やり引きはがしてしまいかねない。

 紫藤の場合、特に危険だろう。

 

 「それもだけど、アレよ。まだ早いから。」

 

 「ああ、避妊か。」

 

 「そう、それ。買ってないんでしょう?必要?良かったら、」

 

 「あるのかよ!」

 

 「あるのよ!ただ、いらないといえばいらないのかもね。」

 

 少し前買ったんだけど、みなりに渡しておきましょうか、とか言ってる。

 不要ってのはどういうことか聞いてみる。あたしから言うのは、とためらっていたが、教えてくれた。どうも紫藤、初潮がまだらしい。

 いくらなんでも、遅すぎないか?

 

 「そうね、そろそろだと思うんだけど、ーー。だから、まあつけてした方がいいわよ。」

 

 「わかった。感謝する。」

 

 そして調布は少し迷ってから、付け加えた。顔を赤くして。

 

 「答えが出る前でもいいわよ、志野。あたしと「待て。」」

 

 僕の中でのジンクス。イザナギとイザナミのあれだ。

 調布の言葉を妨げる。

 

 「調布。クズな最低男のお願いだ。そう思って聞き流してくれ。ーー調布とセ○クスしたい。」

 

 「!」

 

 「叶えなくていい。僕は、最低男だから。」

 

 「いいわよ、その最低男を好きになったんだから。いつでも言ってよ。あたしとしたくなったら。」

 

 そう言って、またかあっと顔を赤くしている。

 でもそのときOKかどうかはわからないわよ?と、多分わざと、すごく上から目線になってみせて、陽気に調布が笑った。

 

 「そろそろ帰る?みなり、待ってるんでしょ?」

 

 「ああ、一緒に帰らないか?駅から帰るんだろう?」

 

 「そうね、みなりがいいなら。帰りましょうか。」

 

 突然シトラスの香りが近づいて、そっと柔らかく抱き着かれた。

 

 「ごめんなさい。でも、今だけでも、こうさせて。」

 

 軽く背中を叩く。それくらいしか、僕にはこんなシチュエーションに対応するすべがない。

 人生経験、長いようで全く役に立たない。

 でも調布はひとしきりそうしていた後、晴れ晴れとした顔で僕を追い立て、一緒に仮部室に向かった。

 

 仮部室に行くと、紫藤が頑張って机を元に戻してくれていた。

 あわてて手伝う。僕と調布とで大きなものを並べ、紫藤が細かい位置調整等をすると、すぐに原状復帰ができた。

 

 帰ろうということで、調布と紫藤と僕とで歩きだす。

 僕と調布が紫藤を挟むと、夫婦が子供を連れているような図に。

 頬が膨らむ紫藤をなだめながら帰った。

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