タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
試験前ウィークに入った。
病院に3人で紫藤母をお見舞いに行った後、紫藤を駅まで送り、紫藤のバスを調布と二人で見送り、調布を家に送っていく。
調布の家は市街地からはあまり遠くない、3人の中では調布の家が一番、市街地に近い。
相談したいこともある。調布はもう腑抜けてない。勝気そうな眉をきりりと引き上げて、ときどき辛辣な言葉を挟みながら、僕と作戦を共謀している。頼もしい。
「ーーそれで作ったってわけね。呆れた。家を吹き飛ばさないように注意してよ?」
「ああ、切り札の一つのつもりだからな。大丈夫だろうとは思うけど。」
そう、飯場からの救出のための計画を練っている。
陽動班が、注意を引く何かの攻撃、例えば対応の必要な火事と勘違いさせる発煙筒での工作を仕掛けている間、実行班が飯場の一部を破壊、抜け道をつくる。
純然たる犯罪だな。
そして忍び込み、本人と前もって示し合わせている数人とともに脱出する。
もちろん死傷者が出ないようにするつもりだが、途中、陽動のため爆破も起こすことを想定した。
その陽動用爆破のための黒色火薬。恐れ知らずにも理科実験室の使用許可をとって作ってみた。あといくつか、やっぱりちょいと危険なものと一緒に。
もちろん実験室は、ダミーの目的を告げて借りた。本当の目的を知らせたら、絶対許可おりなかったよ。
だが作ったはいいものの、ちゃんと爆発するのか、また用法や用量、保存法やら何やらよくわからん。文系だしな。
どっかで実験しないといけないんだろうが、適当な場所がない。
それに危険だ。下手をすると、調布の言うように家や頭をふっとばしかねない。
いきなり本番って、そんなことはもちろんできない。
ううむ、作ったときは大得意だったけど。
陽動用なんだし、花火を大人買いして混ぜた方がマシな気もしてきた。そっちだと失敗しても子供のいたずらですむが、黒色火薬はそうはいかない。
この長雨で、湿気てるかもしれない。本番でも雨が降ったら、まるで役立たず。
クソッ、僕と一緒だな。
へこむ。
「あと、『お目当てのもの』の運搬手段ね。『
「そこだな。自分たちでどうにかしてもらうしかないと思ってる。」
「しかたないわよ。面倒見切れないわ。それは、お互い様ってことにしましょう。」
「そうなんだよ、たぶんそう言うしかない。」
多人数だと足が付きやすい。その中にスパイが紛れ込んでる可能性もある。
逃げ出すところまでは仲間。それから先は、悪いが三々五々で逃げてもらうしかない。紫藤実父とほかの誰かを一緒にすることはしない、冷たいようだが僕たちには紫藤実父が大事なんだ。
ただ、地図と方位磁石とささやかなお金を渡すくらいの助力はするつもりだ。
手筈としては、紫藤実父をバイクで離れた場所へ送り、そこでタクシーで待機しているもう一人にリレーする、そしてこっちが見繕った隠れ場所にしばらくは隠れていてもらう、そして後で回収する、ということを計画。
隠れ場所は、葉を隠すなら森。町中のどこかがいいだろうか?
うん、わかってるよ。ひどい計画だろ?タクシーだって?プフッ!って感じだろう。
だけど、僕の乏しい脳みそじゃこれ以上無理なんだ。笑いたきゃ笑え。
調布からは警察に駆け込むということも示唆されたが、微妙だ。
警察、信用できるんだろうな?いや、できるんだろうけど。
あれだけ目撃者がいたはずの風俗嬢二人の惨殺事件、全く進展がない。
どっかで変な政治的圧力が働いてるんじゃないだろうか。邪推だけど。
それに今回、救い出すのにそこそこ刑事法に触れるようなことをやらかす。
そして通報するなら、身元も警察には言わねばなるまい。
最終的には法律的には緊急避難的な行為だってことにできるかもしれなくても。
少なくとも高校に連絡行くね。うん、詰むよね。
紫藤実父だけが駆け込むという手もある。でも、絶対警察は関心を持つよ。救うためとはいえ、爆破やらなんやらやらかした人物に。
まあ、紫藤実父を救うためには仕方ない、って考えもあるだろう。調布には、紫藤実父の救出が大きなヤマだって考えてるから、これに近い考えを持っているようだ。これが重要ポイントだと思ってるから、その後は多少信用失ってもいい、って開き直ってるんだな。
でも、僕にとっては、その先が本番なんだ、これがゴールじゃない。これはあくまで準備だ。
幸いにも、紫藤実父はタコ部屋で半強制労働で大変ではあるだろうが、差し迫った命の危険はなさそうだ。
元さん情報によると、2回目の女の人のご利用もあったとか。そのときに少しだけ話をしてもらい、当人と人定ずみ。
うん、それにしても紫藤実父、意外とたくましいじゃないか。実は、適応してる?
その女の人に、今週か、遅くとも来週中には直接面会しようと考えている。
紫藤情報によると、この女の人が、危険にさらされてる人である可能性がある。
これまではまだ1/2の確率だったが、その後の追加情報で、ほぼこの人で間違いないのではないかと思う。
元さんに調べてもらった。女の人は確かに2人飯場に行ってるんだ。ただ、1人がレギュラーでもう一人はパートタイムっていうかスポット売りの人らしく、誰が行くか不定らしいんだ。
そしてこのレギュラーの1人は、かなり店で苛められてる。紫藤の話に一致する。
だからその情報、危険な職場に売られるという情報を知らせて、恩を着せる。
あわよくば、紫藤実父の逃走にも事前連絡役で一役買ってもらう。
その代り、足抜けを手伝う。借金全クリアは難しいだろうが、新しい身分と逃走手段、そして当座の生活費くらいは用意するつもりだ。
「ところであなた。また一人で何かしようとしてるわね。」
調布が鼻にしわを寄せて威嚇している。まったく鋭いお嬢様だ。
「ああ、その、な?飯場の女の人に、接触しようと考えてる。」
「今日?」
「いや、今日は、ーーいや、わからないな。相手の都合に合わせるしかないし、早い方がいいから、その可能性もゼロではない。」
説明する。
元さんと今日、接触予定だ。調査の途中経過をもらい、この飯場の女の人との接触に助力してもらう。助力してくれるということは、約束済みだ。
救出作戦は、仮にそれが救出のためであっても、違法な行為を含んでしまう。元さんに真正面からの協力は依頼できない。
ただ、元さんも察している。そして、大口顧客(笑)である僕には、それとなく便宜を申し出てくれている。法に触れないか、触れても知らなかったと後から言える範囲ではあるが。ありがたいことだ。
「それ、あたしも行っといたほうが良くない?」
それは、僕も考えていたことだ。危険を背負うのは僕だけでいいと考えていたが、あまりに脆弱な体制。
いくら秘密を知るのは少人数でいいと言っても、一人で何もかもできるはずがない。
飯場での救出作戦にしても、本当なら紫藤実父に誰が救出に来るか知らせておくべきだろうし、作戦中、僕に何か事故があったときに、引き継げるようにはしておくべきだろう。女の人の足抜けやその後のフォローも、同じだ。
少なくとも、元さんと顔合わせさせておくのは悪くない。元さんは、多分裏切らない。
「今日、行けるか?試験前で遅くなってしまうが。」
「馬鹿にしないで。このくらいのハンディ、たいしたことない、大丈夫よ。」
というか、あなたも同じじゃない。あたしに勝つのをあきらめたのかしら、とチクリと刺された。
調布の家は共働きで、いつも帰宅が遅いらしい。とくに週後半は遅い時間に講義や大学院生の指導などが立て込んでいて、8時なら早い方、9時10時もザラとか。だから大丈夫、信用もされてるし、と言ってる。
帰路を変更して、調布を伴い、繁華街近くの元さんの事務所を訪れる。
ーーーーー
調布を伴うことなどについては、もちろん事前に電話した。快諾された。
あまり問いただされなかったが、まぶしそうな、ほっこりした目で見られる。
元さん、勘違いっすよ。調布は僕が好きだと言ってくれたし、僕も調布が好きだけど、交際はしてない。
ーーしてないよな?
「これが、案件の途中報告でして、ーー。」
調布に知られたくない谷津崎関係の調査もあるが、さっきの電話で、今回は報告書だけもらい、次回か電話で疑問点をフィードバックすることにしている。
飯場関係の報告を聞く。疑問点を問いただす。調布は、黙ってやりとりを聞いている。
接触については、かなり難しくなるのでは、との元さん予想。
「紫藤さんという方の確認は、ほぼ取れたのですが、ーー」
その女の人の周りのガードが最近、堅くなってしまったとか。
それまでは呼び出し利用もでき、元さんもそれを使ってお客さんとして会って話を引き出していたらしい(行為をしたかどうかは聞かなかった。本筋に関係ないし。)。
しかし店側のガードが固くなり、その女の人に限り、呼び出しでの利用が渋られるようになった。飯場への派遣以外は、おそらくほとんど店にいる。店の休憩室などに軟禁された状態なのでは?との元さん推測。
調査のため呼び出し利用が多かった元さんについては、店での利用も察知され、断られているとか。
「申し訳ありません、ご連絡についても、お力になれず、ーー」
元さんが悪いのではない。おそらく、その女の人の身辺クリーンだ。
その女の人は、極度に環境の悪いところに送られる可能性があるとか。紫藤が聞きつけた、紫藤継父とつながりがある、売春組織の関係者と思しき者の発言だ。
そうなったときのため、たとえばいなくなって騒がれては困るので、原則、客はつけず、なじみの客などを排除しようとしているのではないか。
そう、元さんに言って反応をみる。
「可能性はありますが、まさか、ーー」
沈痛な顔。悪質な人身売買の可能性を、元さんも考えている。
紫藤の話を聞いたとき、半分は悪ぶってそう言ってただけなんじゃないか、って思ってたけど。現実味がある。
「元さん、例えば。僕が直接接触することは可能?」
「五分五分、でしょうか。」
何もさせずに遊ばせているとは思えない。一見の客なら、かえって会える可能性はあるかもしれない、と。
お客として、か。学校に発覚したらただごとで済むとは思えないな。
「その女の人の写真、もう一度見せてください。」
出してもらった写真を見る。調布にも見せる。
ごく普通の、40くらいの女の人だ。細面で薄幸そう、特に美人でも不美人でもない。
ただ、この業界的には、かなりまともな方なのではないか。ぱっと見だが、服装も奇矯でなく常識的。
「呼び出し、できると思います?」
わからない、難しいかもしれませんね、とのこと。
一度、面識のない元さんのアルバイトに呼び出し利用を試みてもらったが、その時は断られた。もしかすると、名指し指名はすべて断っている可能性も。
「行ってみて、その場で写真をみて選ぶシステムもあるんでしたっけ。」
ただな。店だと、敵の本拠地だ。盗聴とか盗撮とかの危険性もある。ましてや生活指導の先生のレーダーに引っかかったら、目も当てられない。
だが、虎穴に入らずんば虎子を得ず。しかたないか。
できれば連れ出したい。だが備えのため、店を利用する場合の注意事項を聞く。
「ちょっといいでしょうか。あたしが同行、というのはプラスですか、マイナスですか。」
それまで黙っていた調布がカットインしてきた。
「うーん、ーー複数だと警戒されるかもしれませんね。」
調布の同行か。
確かに、顔つなぎはしておきたい気もする。
その女の人の足抜け、連れ出しだけのは僕がやり、その後に逃がす仕事は比較的安全だろうから調布に任せてもいい。何もかもを僕がするのは無理だ。
ガードが堅く、何度も会うことは困難なら、今回、顔つなぎしてしまった方がいい。
だが、調布の身元バレの可能性もある。変なやつらに顔を覚えられたら、危険そうでもある。大丈夫か?
そもそも、調布みたいな上玉を連れといて、他に女を買う理由がないだろう。
「あたしは、あなたの情婦。あたしを呼び出したけどあの期間だったから、ヤるための別の女を探しにきた。たとえばそれで、どう?」
こっちが2人、の説明には一応なるか。
問題は場所だな。
店は避けたい。だが、店側としては逃走の可能性がある以上、外の利用は受け入れない可能性があるな。
業態はソープ、ホテトル、関連店にヘルスやハプニングバーなども。ホテトルは非合法かもしれない。ただ、この組織に限らず、結構うちの県が緩かったのか、やってた業者は多かったと思う。
だがな。やっぱり調布は、避けた方がいいかな?
危険だしな。あと楽しい場所じゃないぞ。特に調布、お前には。
だけど、調布は食い下がる。
「わかってるわよ、足手まといってことは。もし困ったことになった場合は、見捨ててくれていいから。」
「いや、そういうんじゃないんだ。」
先に言った通り、本当はここらへんで一度つなぎをつけておきたい。
それにおそらく調布の戦闘能力は相当高い。多分、普通状態の僕より上。だから、その面では心配してない。
周辺の治安が悪いって言っても、一応は日本だ。そこまで大変なことにはならないだろう。
店の関係者といざこざになるのがちょっと心配だが、まあ逃げるだけなら何とかなるだろうし。
ただ女性のひどい扱いや搾取に、調布がブチ切れたり、ってのが少し怖い。
もっと心配なのは、相手の女にどう思われるかだな。同性だから信用が得やすいといいのだが、逆に、変に感情をこじらせないか。
いわば落ちぶれてしまった人間から、そうでない人間を見て、どういう感情を持つか?
ちょっとストレートすぎるかもしれないが、そう、調布に僕の懸念を言う。
調布は引き下がらない。きっと目を鋭くしてこっちを見上げる。
「もちろん、そういう服装にするから。あと、一言もしゃべらない。それでもダメかしら。」
まあそういうなら、駄目元でいってみるか。しかし調布、本当にいいのか?
僕も着替える必要があるか。学生服そのままじゃ、まずい。ぱっとそこらへんで買って着替えるか。いや、時間がない。元さんに借りるか。元さんもガタイがいいし、僕の方がちょっと背が高いが腰履きすればなんとかなりそうだ。
元さんに目で問いかける。「服ですね、」と頷いてくれた。
調布の服は、しかし、ないよな。
調布は、それまで座っていた事務所のソファから立ち上がると、スカートを引きずり上げてベルトに挟み始めるという奇行に走った。おい、何をする。
膝上20センチくらいだろうか。決して細くはない肉感的な脚を惜しげもなくむき出しにする。
シャツをアウトして、スカートを折ってベルトで無理やり抑えている不自然さを消す。
もちろん、ボタンは上を外す。下着の黒いタンクトップを見せ、しかしブラが見えないぎりぎりくらいに。
今は、ポーチからグロスを取り出し。唇に厚めに塗っている。校則じゃ禁止のはずだけど、調布も持ってるのかよ。
制服のスカーフは外した。この色町、イメクラがあるのでセーラー服風の衣装もありふれてる。ただ、制服の型とスカーフまで進学校のそれだと、ごまかしにくい。
調布はちょっと考えていたが、むりやりグリーンのリボン、っていうかこれ球技大会のときにクラスで揃えた鉢巻きだろ、を取り出してスカーフ代わりに結ぶ。
外見は、どう譲っても色情狂半歩手前。誰もがイメクラ店員だと思うだろう。
挑発的で今から訪れる場所の雰囲気にはなじむ。ただ、元が良すぎるからな、化粧はしてないしグロスだけなんだけど人目を引くな。姿勢も良すぎる、少し猫背にするよう言わねば。
靴は運動靴でなくローファーだからごまかせる。
靴下はちょっと苦しいが、たまたま厚手のかなり長いものだったので(調布は最近はそうでもないが、肌を見せることを嫌がる)、手でひだをつけて無理やりルーズソックス風にしてみせた。
さらにどこからか髪ゴムを取り出し、セ○ムン風にツインテールに。
調布は事務所のドアの近くの鏡に寄り、まじまじと自分の姿を見て、どうだ、と言わんばかりにこちらを見返す。
元さんと顔を見合わせ、ため息をついて、頷いた。
ああ、僕も制服を着かえないとな。
申し訳ないが、元さんの私服から借りよう。
あ、髪を一時的に染めますか?と元さん。探偵業務があるので、その手のグッズはあるらしい。
僕は、茶髪にでもしとくか。
調布は、そうだな、スカーフ代わりのリボンに合わせて緑にでもして、印象をそっちに向けさせるか。
ーーーーー
店では、思った以上にうまくいった。
そんな時期でもないのに、結構混んでて部屋は埋まってるらしい。むしろそれが良かった。
駄目元で、そっちの指定するホテルでいいから、と言ってホテトル利用を認めさせ、女の子の写真をちらとしか見ずに、年増でいいから、エヌエヌあり、やせ型で、あとエムジオで、と強く主張。それに該当するのはごく少数、この曜日のこの時間帯ならおそらくはその女に限られるはずだとのこと。ちなみに教えてもらった言葉の意味は、あまり僕にはよくわかってない。
最初に対応した店員が、あまり気が利かなそうな者だったため、なんとか引っ張り出せることに。
風俗店の近くにあるホテルの一室を指定される。もしかすると同一グループの経営だろうか。
ラブホテルには一見見えない、ラブホテル用途でも使えるだけとされるホテル。だから、いちおう言い訳はできるかもしれないが、実態はほぼほぼ連れ込みホテルだ。見つかったら退学ものだろう。
ましてや、さっきの店なんかで見つかってたら。
1階の自販機みたいな機械で、料金を入れてカギを取る。
脇のフロントには中年の女性従業員がいたが、何も言わなかった。
そこまでは順調だった。
ーーしかし、好事魔多し。
なんとかうまくいったのは、そこまでだった。