※この作品はR-18です。

タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。   作:Marchhatter

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 6/12 若干加筆しました。


74 衣装と演技(4)(志)

  

 「どう思った?あの話。」

 

 「どうって、ーーまだよくわからないわ。催眠術にしては変に思えるけど。薬物でも撒いたのかしら。」

 

 僕は固太り男とナギさんから話を聞き、ホテルをチェックアウトした後、大急ぎで調布を送っている。元さんには、ホテルに入ることが決まった時点で一度電話していて、その日は事務所に戻らないことについて了承してもらっていたし、スクールバッグと僕の服も借りた大きめのトートバッグに丸ごと入れて持ってきてあるので、次の日の授業に不都合はない。

 

 調布の髪はホテルで洗ってあり、色は落としてある。髪は乾かして髪ゴムで器用にお団子にまとめられているが、シャンプーやボディーソープの匂いが違うからそのままだとばれるかもしれない。多分まだ両親は戻ってないし、すぐ入浴するから大丈夫、と調布本人は言っているが。

 

 それ以外は、途中の商業施設のトイレでスカートの長さを戻し、なんちゃってルーソを止め、学校のスカーフを付けて普通の服装に復帰している。

 

 

 そうそう、固太り男とナギさんからの情報。

 ごく短時間の立ち話だけでしか、事情は聞けなかったが。

 固太り男とナギさんによると、背の高い逞しい男に、店を荒らされたことがあったらしい。

 乱暴な扱いをされた嬢たち(実はナギさんもその一人)も、そいつと戦った用心棒も、なぜかこの男の顔や詳細な特徴を覚えていない。ただ、背が高く筋肉質で、肩から背中に特徴的な刺青があったことだけは覚えていた。

 

 太極図に似ているが違う、Sを横に倒したような模様。

 そして、月と十字を組み合わせた意匠。

 

 その男、最初は客として来たらしい。

 2人プレイで、1人目の相手がナギさん。腹を殴られたり首を絞められたりはしたらしいが、命に別状があるほどではなかった。ナギさんの印象では、なんというか、気に入られて、後でもう一度じっくり楽しもうという感じだったらしい。

 次の2人目の嬢が殺されかねない様子だったが、気を失ってたふりをしていたナギさんが隙をみて非常ボタンを押し、用心棒を呼んで難を逃れた。ただこのとき応戦した用心棒は、相当腕の立つ男だったらしいが、かなり重傷でまだ入院してる。

 

 多分、あいつだ。あの人殺しの筋肉男。また似たようなことをしようとしたのだろう。

 あいつが、全く無警戒に振る舞い、出歩いてた理由が、ちょっと推測できた。

 どういう技術か正確にはわからないが、ある種の催眠術が使えるのではないだろうか。見たものに顔や特徴を覚えさせない、という。

 しかし、監視カメラまではごまかせないはず。そこはちょっと変だ、警察もそのくらいはチェックしてるはずなんだが。そうすれば目撃者の証言がおかしいってのもわかるだろう。ただこの時代、監視カメラは高価で設置数も少なく、機能も相当低い。街角ではキャッシュコーナーくらいにしかなく、捜査に使えるようなものが得られなかったのかもしれない。

 また男が使うのが催眠術だ、ってのも憶測だ。疑問がなくはない。いきなり戦いになった相手にも、そんな催眠術が使えるのか?そういった点、確かに調布の言うとおり違和感がある。それに、僕も紫藤も男を覚えてるのは、術をかけられなかったせいなのか?僕たちと似た目撃者はいたはずなのだが、それはどうなってるんだ?とか。

 ただ、大筋は分かった気がする。

 あの筋肉男の仕業だ。

 

 

 そして冤罪ではあるが、僕も疑われた、と。まあ背が高くて筋肉質ってことか?喜んでいいのかな、これ。

 体型、相当違うと思うんだけどな。あいつはマジ、重戦車みたいな感じだったぞ。

 それで、2人プレイってことも店の警戒センサーに引っかかったらしい。そういえば殺された事件の方も、2人プレイだったのかもしれない。よく詳細はわからないが。

 

 あとそこからすると、調布まで背中チェックはいらなかったのか。確かに思い返せば、固太りも、チェックしようとしてたのは僕に対してだけだったようでもある。

 まあ調布が動いて、それで男たちの気勢を削げたってのはあるから、結果オーライだが。

 

 ちなみにナギさんが軟禁されてるのは、店を荒らした筋肉男から守るためかと思ったが、そうではないようだ。外に出してもらいにくくなったのは、店を荒らされる少し前かららしい。やはり売り飛ばし前の身辺クリーン目的なのだろう。ブラックだ。

 先に浴室で聞いた時間的な経過からいえば、筋肉男の店荒らし以降、ほとんど外出が禁止され、常連客もつけられなくなってる。

 ナギさんが精を受けないと眠れなくなったことに気付いたのは、たしかこの前後から。その症状は、軟禁で客を取らない日が生じたから気づいただけで、その前からあったのかもしれないし、筋肉男に脅かされたストレスのためそんな症状が生じたのかもしれないが、そこはよくわからない。

 多分心理的なものだから、救出してから専門家、精神科医とかに相談かな。

 

 ちなみに僕が店荒らしの筋肉男なのではないかという嫌疑とは別に、やっぱり調布のことは、新聞記者とか警察の内偵かもと疑われていたらしい。

 まあ、パッと見はともかく、よくよく見ると身体能力高そうで、顔も頭もよさそう。体はともかく、そうしたところがイカれたファッションとはどうにも違和感がある。それで捜査員ではないかと思わせてしまったようだ。

 

 まあ旦那のアレ嵌めるのみて、誤解だって気づいたっス。アレはないっスよ、と固太りは笑っていた。僕も笑ったが、笑う顔が引きつってたかも。

 そんなに僕のアレはグロいのかな。自信なくなってきた。

 

 話のお礼に、漱石を2人に一枚ずつ追加した。固太りは恐縮して受け取ってた。ナギさんも辞退しそうだったが、あって困るものではないと言って握らせた。

 でも、時間が遅くなってしまった。まずい。

 急いで調布を帰さねば。

 

 ーーーーー

 

 そうして今、こうして調布を送っている。 

 僕も調布を送ったら、どっかの公衆トイレで自分の茶髪頭の色染めを落とそう。

 

 「ちょっと気になるんだ、その男。僕は見たことがあるかもしれない。」

 

 「こだわるわね。『メタルスライム』だったら問題だけど。そんなことってあるの?

 そうだとしても、当面は関わりがないって気もする。飯場にいないんでしょう?ーー当面集中すべきは、王様の救出じゃないかしら。

 それで、『ローラ姫』のお子さんは、ーー」

 

 そっと隠語を交えながら、今日いきなり枠が決まってしまった作戦をあれこれと議論して歩く。

 その怜悧な横顔を見ながら、ごく数時間前の濃密な接触を思い出す。

 この子がさっきは、僕の体の下で、ーー。

 

 「ねえ、志野。」

 

 やがて到着した調布のマンションのエントランス前。調布が立ち止り、僕の妄想は中断された。。

 調布がトーンを変えて、真正面から僕の方を向いて、言う。

 

 「今日は、ありがとう。」

 

 そしてなんかもじもじしてる。うん、それは僕も同じだ。きまり悪い。

 思い出すと、自分がいろいろカッコ悪かった気がして。そう、自分勝手に、ほんと好き勝手にいろいろ調布にやってしまった気がして、うわあああって言いたくなる。

 調布も恥ずかしそうだけど、僕も恥ずかしいんだ。

 そして目の前の調布、顔を赤く染めてる調布のことが、すごく愛おしい。

 ぎゅっと抱いて、本当に力いっぱい抱きしめて、もみくちゃにしたい。どうにかしてしまいたい。

 

 「みなりとは、その、ちゃんとしなよ。ーーでさあ、良かったら、その、ときどきはあたしとも「調布、セ○クスするぞ!」」

 

 割り込む。ジンクス。女の子には言わせない。

 調布はあっけにとられていたが、くすくすと笑いだした。少し目尻にきらっと涙が浮かぶくらいに。

 ありがとう、と呟き、そして、別れの挨拶を告げるため、調布は口を開こうとした。

 

 その調布の目尻の涙を見た瞬間。何かが僕の中で弾けていた。怒りにも悲しみにも似た、たまらない感情。

 なけなしの、勇気を出す。

 乾いた平穏さ、安穏さ。1回目の僕がそれに倦み果ててはいたが、外の冷酷な嵐から僕を守ってくれていたもの。

 それらをぶち抜く、愚かさと呼ばれるだろう勇気。

 

 踏み込む。

 1回目のあの日の2人には超えられなかった1メートルを、超える。

 物理的には存在しない何か。運命と呼ばれる時間の壁を、破り抜ける感覚。

 

 驚きに瞳孔の開いた調布の顔が、すぐ目の前にある。

 もう見失わない。

 

 ぶつかるくらいの勢いで、ぎゅっと正面から、調布を抱きしめた。調布は一瞬、ぶるっと身を震わせて、そして負けじとばかりぎゅうっと抱き返してきた。

 調布だって力は強いけど、純粋な力じゃ僕が上だ。締め殺さんばかりに強く強く抱き合って、どちらともなく笑いが込み上げてきた。

 最初はくすくす。相手の笑いが、薄い服を通してお互いに密着した肋骨や横腹に響いて、くすぐったい。うふふ、あははって、大きくなって。

 息が切れそうになるくらい、笑ってた。

 そして腕をいったんゆるめて。

 そしてまたぎゅっと抱き合ったまま、キスをした。恋人にするように、ちゃんと、口に。

 熱い、弾力のある情熱的な唇。一瞬だけ、舌を入れた、入れ返された。

 唇を離しても、しばらくは体を離せない。

 好きだ、調布、と耳元で告げると、また腕に力がこもった。私も好き。大好きよ、志野。と調布が言う。いつもの「あたし」じゃなかった。

 上半身だけ少し離し、至近距離で目と目を見交わす、そのまま視線は離れない。

 

 名残惜しく、体を離す。だけどお互いの目は、まだ離れない、離せない。熱っぽい調布の目、その中に映ってる僕の目も多分、熱を帯びて。

 見つめあったまま、しばらく時間が止まったかのように、動けなかった。

 

 やがて厚いガラスを通して微かに聞こえる、ロビーの大時計の時報。その音に、ようやく僕たちの時間が動き出す。

 志野、またね!と最高の笑顔で手を振って、調布が身を翻して、エントランスに駆け込んでいく。

 エレベータに無事に乗り込んでいくのを、見送る。

 温かい、いや、熱い調布の体の感覚が、まだ僕の腕に、体に残ってる。

 うん、勃ってる。

 僕の頬の熱も、冷めない。

 

 

 紫藤、怒るかな。

 ごめん。紫藤のことを愛してる。誰よりも。何に代えても、そう、命に代えても紫藤を守る。

 でも、調布のことも好きになってしまった。

 どっかで決着つけないといけないのかな、これ。

 紫藤は、あの竿姉妹発言のとき、3人で愛し合えばいいって言ってたけどさ。

 客観的には、社会的には、どう見ても二股、アウト。

 だから調布には悪いけど思考停止して、ことが終わってから考えよう、決着つけようと思ってた。それが。

 10年20年どころか、わずか数日でこのザマだ。調布もびっくりだろうよ。

 ほんとあらゆる意味でクズ男じゃないか、僕。

 選ばないといけないのに選ばず二股のクズでもあるし、選ばなくていいのに選ぶそぶりで振り回してるクズでもある。

 

 ああ。あと、ナギさんがいる。

 今日はナギさんにも抜いてもらってる。ナギさんは紫藤構想(?)の外の人だ。

 紫藤が知って泣いたらどうしよう。立ち直れないかも。

 

 でもまあ僕はクズ男だ。それは事実だ、仕方ない。

 その客観的な認識から、スタートしてみようか。

 このクズ男は、今日は3回も抜かれたし、いろいろ疲れた。

 頭冷やしがてらに、公園で頭を洗おう。服を替えよう。髪短くしててよかったと思うクズ男である。

 遅くなりすぎた。家ですごい怒られるだろうな。クズ男にふさわしい。

 今、電話だけしとこうかな。閉館午後7時半ぎりぎりまで公立図書館で勉強した、その後送って行って遅くなったってことにするか。でも、もう疲れはてて今は公衆電話を見つける気にすらなれない。無気力なクズ男だ。

 必要があれば、悪いけど後でアリバイ証言を調布に頼もうか。誑かした(?)女に無理難題を頼むクズ男でもある。

 ーー笑えないな。早く帰って寝よう。

 

 ーーーーー

 

 家に帰りつく。

 あまり叱り飛ばされず、むしろ心配されつつ褒められた。

 手回しのいいことに、今日は遅くなってしまって志野君に送ってもらいました、ありがとうございました、って電話が調布から僕の家に入ってたみたいだ。

 きちんとしたお嬢様ね、と母が感心してた。でも、この前のかわいい声の子と違うみたいだけどどっちなの、あまり遊びにうつつを抜かしちゃだめよ、期末考査が近いんでしょ?と釘も刺された。

 選べないんです、母上様。でもどうしても紫藤の運命は変えないといけない。

 まずはそれだ。それだけだ。

 

 ーーーーー

 

 その週末は、紫藤母の病室で紫藤と勉強をして過ごした。看護師さんが、余ってる折り畳み式の会議机とパイプ椅子を貸してくれた。また、しばらくは個室で良いそうだ。

 紫藤母は経鼻経管栄養に切り替わった。ただ、医師によると寝たきりになってはいるが、意識が目覚めない、自律呼吸が見られない等の数点を除けば、身体の状態に異常は見つからず、昏睡状態の理由が謎だそうだ。そんな患者を他の患者と同室にはしにくい、というのも個室である理由の一つ。後は差額ベッド料だな。

 

 紫藤継父はあれ以降、一度も姿を見せていない。

 紫藤弟は日曜日に来て、なんか僕と話したそうだったけど姉がいる手前、そうできず心外そうだった。

 「みなり姉、なんか用事ないの。」とか言って遠ざけようとして、怒られてた。

 持ってきた紫藤弟の好みそうなちょっと耽美的な本を貸した。むさぼるように読んでたな。

 

 調布も出没。もちろん仲良く勉強仲間、悪だくみ仲間。

 ちなみに紫藤にはとっくにあのことはバレ済み。あの次の日学校で調布と目と目で見かわしたとたん、かあっと二人とも顔が赤くなったのを紫藤に見咎められた。

 調布が昼休み、しおれた状態で紫藤に連れ出されていったが、密談の後、二人とも元気になって戻ってきた。

 僕も、放課後に洗いざらい吐かされた。思ったほど怒られはしなかったが、むうー、わたしも行きたいのに、したいのに!と拗ねられた。あと、試験終わったらなにか罰を与えるよ!わかってるよね、志野くん!?とも。

 その後、紫藤と調布の悪の枢軸二人で、なんか仲良く悪だくみしている気配。

 二人が僕を見る目が怪しい、怖い。僕は、何をされてしまうんでしょうか。

 

 そして病室には、国領もまた、再びやってきた。

 待ち人来たれり、お話せねば。

 僕は黒い笑みを浮かべた。

 それを向けられた国領が、楳図か○おのホラー漫画の1カットみたいな表情を浮かべていた。

 

 ーーーーー

 

 「それで、国領さん。久しぶりだね。試験前なのに、ありがとう。」

 

 「うっ、ーー志野、くん。どうしたのかな。そのわざとらしい爽やかさは。何か用事かな。」

 

 嫌そうな国領。誘い込んだ病院の待合室のテラスには人影はない。

 一歩、距離を詰める。

 

 「おや、国領さん。お忘れでしょうか。」

 

 「わかってる、わかってるよ!で、いつなの!?」

 

 逃げ腰になってテラスの隅に追い詰められ。脂汗が、国領の額に浮かぶ。

 まあまあかわいい女の子だ。それを追い詰めるようなことをして可哀そうだけど。

 紫藤を救うためだ。心を鬼にして、持ち掛けねば。

 

 「それでさ、国領。期末考査で勝負をしようよ。国領が勝ったら、この前の話はチャラでいい。」

 

 「ーーもし、負けたら?」

 

 疑心暗鬼に満ちた目。

 

 「おや、負けることなんてないんじゃなかったかな。ーーそのときは、頼みをもう一つ。」

 

 「わかった、わかったよ!あのときはマークしてなかった数列の問題をミスっちゃっただけなんだ!今回は、勝つ、勝つんだ!」

 

 「じゃあ、成立ってことで。楽しみだな。」

 

 「うう、ボクはとんでもない悪魔の手に、落ちてしまったのかもしれない、ーー」

 

 時間差をつけて帰ることで話はついている。とぼとぼと先に病室に帰る国領。

 心なしか、後ろ姿が煤けている。

 

 その姿を見送っていて、僕は視界を横切った意外な人物に目を止めた。

 アキさんだ。

 

 ーーーーー

 

 「よぉ、元気か。こんなところにいるってのは、そういうことか?」

 

 秋月さんは、いつものようにフランクな口調。しかし、どういうのだろう、少し上の空だ。そして殺気がある、殺気が漏れ出てる。

 

 「アキさんもお元気そうですが、どうされたんです。ご病気とかーー?」

 

 「ああそうじゃねえんだが、まあ、そうだな。ダチがよ、ーー」

 

 頭を掻きながら、そういう。

 

 「変な奴にぶちのめされちまってな。ーーお見舞いさ。」

 

 僕はつい最近聞いた話を思い出す。

 まさかな。

 でも、もしそうだとしたら。これは、好機。

 

 「アキさん、それって、肩に月と十字のイレズミの、ーー!」

 

 ひいっ!

 凄い殺気!

 いや、声も上げず漏らしもしなかったこと、自分で自分を褒めてあげたい。

 うん、僕、自分がザコだって、今しみじみと感じてるよ。いやそして、感謝してるよ。

 こんな人たちと戦わないといけない戦場とは、縁がなかったことをね。

 

 「そいつだ。ーー知ってるんだな?」

 

 秋月さんは深呼吸して。殺気を収めてる。

 通りかかった看護師さんも、凍り付いてたけど、解凍されてあたふたと逃げ出してる。

 

 「知ってることを、教えてくんねえか。礼はする。」

 

 もちろん、教えてあげたさ。

 僕の知ってること、そして推測したことを。

 

 ーーーーー

 

 「そうか、そんな奴か。ーー」

 

 秋月さんは、タバコでも吸いたげに胸ポケットを探ったが、あきらめてテラスの柵に凭れた。

 

 「はい。結構な強敵と思います。」

 

 「その催眠能力ってやつか。厄介だな。」

 

 「自分で言っててなにって感じですが、本当にあるんですか?そんな都合のいい能力。」

 

 「あるのかもしれねえな。そう思う。」

 

 秋月さんはしみじみと言って、深く息を吐いた。

 

 「俺も、そう、催眠術ってわけじゃねえんだが、普通の人間にはない能力を相手にしたことはあった。」

 

 僕は直感した。これは、秋月さんの過去の、深いところの話だ。

 

 「それでよ兄ちゃん。ーーおめえ、高校生がなんでそんな話を知ってる?」

 

 殺気はない、というか抑えられてる。だが、抜身の剣を前にしたような緊張感。

 腹に力を入れて、答える。

 

 「僕は、そいつらを相手にしないといけないかもしれないから、なんです。」

 

 恋人を助けるために。秋月さん、お願いしたいのはそいつらをぶちのめすこと。助けてくれますか?

 そういわれた秋月さんは、はあっと息を吐き、目の力を緩めて、からからと笑った。

 病院で会って初めて。いや、1回目、2回目を通じても記憶にないほど、本当にうれしそうに。

 びっくりして、その顔を見つめる。

 秋月さんは、笑い声を止めたけど、まだ残る満面の笑みでばぁん、と背中を叩いてきた。痛いっす。

 

 「たりめぇよ!なんだよ深刻なツラしてよ。心配すんな大丈夫、ロハでやってやんよ。そんな荒事は大人に、おっさんに任せな!」

 

 「いえそれは、ーー」

 

 「いいんだ、もとからそのつもりだったんだが、全く情報が取れなくてな。こっちが払いたいくらいだ。ーーでよ、兄ちゃん。」

 

 秋月さんがぐうっと顔を近づけてきた。軽く煙草の匂いが香ったが、不快には感じなかった。

 

 「ここじゃなんだ、また話を聞かせてくれよ。ーーでな、酒は飲めねぇって知ってるんだけどな。悪いが一席、飯だけでも付き合ってくれよ。」

 

 うん、拒否権ないっすね。

 でも、うまくすれば。

 強力な援軍が得られそうだ。

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