※この作品はR-18です。

タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。   作:Marchhatter

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 α版です。後で修正するかもしれません。


77 空を飛ぶ夢(3)(志)

 

 この部屋は、これまで数回訪れた。そのたびに小さな発見をしたり、小さな試みをしたりしている。

 今回は、窓と水回りだ。

 外側の鎧戸をあけ放つ勇気はないが、内側のガラス窓は開けて換気できることがわかった。鎧戸も、ごく薄くあけても大丈夫かもしれない。

 水回りも、生きているようだ。

 紫藤は優しいから怒らなかったけど、僕は変態プレイをしでかして紫藤の肌を汚してしまった。意味深な意味じゃなくて、物理的にね。

 反省した僕は、タオルをこの部屋の流しの水で濡らし(数秒間ゼロゼロと空気を配管から押し出す音がしたが、無事に水が出た)、紫藤の肌を拭き清めた。

 水がちゃんと出るんだ。

 

 この水を口に含んでみたが、さび臭いにおいも一応しなかった。ただ、用心して少しの間、流してから使った。

 水温は少し低かったかもしれない。拭かれた紫藤はくすぐったそうにしていた。

 

 ちなみに、勇気を出して鉄の扉と部屋の入り口である引き戸の間の左手側にある洗面とトイレも視察して水を流してみた。

 こちらも、問題なく使える。

 もっとも、いつもは使うつもりはない。水音は思ったより響くし、他の人に気付かれやすくなる気がするから。

 使うのは、どうしてもという場合だけだろうな。階段の下に人がいて出られない状態でもよおした場合とか。

 

 水回りが使えると分かったので、あたりの埃を少し掃除してみる。

 あまりきれいに掃除してしまうと、入った人がいると気づかれてしまう。だから、よく使うあたりだけだ。ソファの周辺とか。

 紫藤も平常運転に戻り、るんるんと楽し気に掃除していた。頭の後ろで、2つ結びにして括った髪がぴょこぴょこ跳ねた。かわいい。

 

 ひととおり掃除をして居住空間的に快適になった後、またソファで少しの間だけ抱き合った。

 目を閉じる紫藤の表情。何物にも代えがたく大事に、そして愛おしく思える。心にその残像が焼き付く。

 と同時に、自分の胸に当たる紫藤の胸を意識してしまう。さっき舐めまわした、意外にも膨らんできているその胸を。

 誘惑に勝てず、キスをする。いつもおずおずと応じる紫藤だが、今日は少し積極的に思える。

 体を離し、名残惜しく思いながら離脱準備。

 そう、この部屋からの離脱は本当に気を付けないといけない。上る途中なら見咎められても言い訳が立つが、降りる途中、出てきたところとか、カギをかけてるところとか押さえられたら、言い訳ができない。

 

 ーーーーー

 

 幸いにも無事に脱出。

 まだ日があるうちに、病院に向かう。駅を挟んで学校の向こうにあり、結構な距離はあるが歩けない距離じゃない。30分くらいか。

 歩きながら、いろいろなことを話す。

 そこで気がかりなことを聞いた。

 

 「うなされてるって?」

 

 自律呼吸も、やっとの人が?

 

 「うん、お母さんは他の機能に問題はないらしくて、ーー」

 

 そう。紫藤母のこの状態の理由は不明。ただ、呼吸やいくつかの機能が止まっている。まるで、息をすることを忘れたかのように。

 そして意識が戻らない。深い眠りにあるかのように。

 何かの加減に目覚めるかもしれない。ただ、今までにいくつかの方法、たとえば痛覚の刺激も含め、意識覚醒を試してみたが、成功していない。

 

 そして短時間だが夢を見ているような脳波が記録されたことがあると。たまたま居合わせた看護師によると、悪夢にうなされているような、びくっとする身体的動作、顔の表情の変化もみられたという。

 良くなっている、ーーということなのだろうか?

 

 「動きが出てきたってことは、良くなってるってことじゃないかな。」

 

 「そう思いたいよね。」

 

 そう思うしかない。専門家でない僕たちには、それがどのような状態なのかよくわからないし。

 

 「あ、それと、みなり。突然で悪いけど、明日、もしかして空いてる?」

 

 「うん。何かあるの?」

 

 「できれば、一度、下見に行こうと思ってる。ー」

 

 あの飯場までのルート、そしてその周辺に。

 紫藤は無理していく必要はない。僕は、少なくとも当日、紫藤が飯場には近寄るのは危険な気がしていた。

 僕と調布は一応バイクが調達できそうだし、そうなれば単独で逃げることができる。

 しかし、紫藤は?僕と調布のどちらかが乗せていくしかない。だが、そうなると紫藤実父とナギさんを合法的に乗せる方法がなくなってしまうおそれがある。いや、免許取り立てで二人乗りしてる時点で合法的でないんだけど、ぱっと見での判断、って意味で。

 また、荒事になったときの戦闘力の面でも不安がある。

 もっとも、飯場のプロの用心棒みたいな人と比べたら、多分僕も調布もたいしたことなくひねられるのかもしれないので、あくまで相対的なものなのだが。

 ただ、紫藤にはできればナギさんの子供の子守をしてもらいながら、連絡を仲介する役割を期待していた。

 その点、もしかすると現地をある程度知っている方が有利かもしれない。そう思ったのだ。

 

 「うん、行くよ。ーーだったら、呼ぼうよ、さとみん。」

 

 そうだ。というか、紫藤より調布の方が必要性が高い。

 ただ、ないんだよな。まだ、足が。

 本当なら、計画実行の前に余裕をもってバイクを使えるようになってるはずだったから、バイクで行くつもりだったが、いろいろあって遅れてしまった。

 それでも僕と紫藤だけだったら、また自転車に二人乗りしていくつもりだった。結構大変だけど、冒険みたいで楽しい。

 忙しそうな調布が、それに付き合ってくれるかな?だいたいあいつ、自転車持ってるのかな。

 3人ならタクシーで行くかな。ちょっと相談しよう。

 

 ーーーーー

 

 紫藤母を見舞う。

 ただ、紫藤母が良くなったことをうかがわせる徴候は、僕たちのお見舞い時には全く見られなかった。

 夕方には引き上げることにする。

 

 これまで梅雨であまり天気は優れず、気温は低かった。しかし、期末考査の次の日あたりから梅雨明けし、最高気温は30度近く。かなり蒸し暑くなってくる。山に分け入るには、あまりいい天候とはいえないが、ーー。

 調布に電話してみる。午前中ならOK。午後少しすぎから所用がある、とのこと。

 調布には今回、下見してもらわないとまずい。来週末は文化祭、計画どおりだとその夜には紫藤実父とナギさんの救出作戦になってしまう。その前に一度、ダメ元でナギさんには再度の接触を試みたい。

 一応文化祭の追い込みもあるかもしれないし、僕も調布も口実を設けて中免の試験を受けねば。調布は

 もう少し余裕のあるスケジュールも組めたはずなのに、いろいろ重なってしまった。僕はやはり無能だ。

 1回目の時も、さんざん言われたっけ。うん、目の前のことに注意が行っちゃって、複数のことが上手く同時並行で進められないんだ。まったくよくなってない。へこむ。

 明日の約束を調布と取り交わして、電話を切る。朝早くから下見だ。

 紫藤とちょっとだけ、お買い物をしよう。

 

 ーーーーー

 

 紫藤とお買い物をする。うん、紫藤の下着を買いたい。

 それとなく聞くと、やはり中学校で買った下着をそのまま使ってる。そりゃ少しは小さくなるよ。

 それに、少し最近大きくなっているらしい。

 僕は胸の大きさにはこだわらない。紫藤は紫藤で、どんな紫藤でもかわいい。

 でもさあ、ちょっとその、ふくらみをみると興奮してしまう自分がいる。

 大きいからいいっていうんじゃないけど、その、脇から胸にかけての盛り上がりが、そそる。

 特に紫藤の肌はきめ細かくて美しいと思う。特に特別な手入れはしてないらしいけど。

 また触りたい。舌でなぞってみたい。

 それはともかく。

 あたらしいブラを買うべきだと思って、下着専門店に連行した。もちろん僕は店の中には入れない。

 店員さんと相談している紫藤をときどきちらちら目をやりながら、時間をつぶした。

 満足できる収穫があったらしい。ちょっと顔を染めながら、紫藤が出てきた。

 始発のバス停留所に送る。ちょっとだけ、自販機の陰でキス。

 明日の再会を約して、見送った。

 

 ーーーーー

 

 その足で、街に行く。商業施設のトイレで、持参しておいた服に着替える。

 待ち合わせ場所に赴く。町中の少し山の手に坂を上がった、古い店の立ち並ぶ通り。

 十字路には、かつて噴水だったモニュメント。今は水は流れていない

 基礎が石造りの古い西洋建築の店が多い。再開発すればすごい受けそうだ。実際、たしか約20年後はおしゃれな通りに生まれ変わってた。

 今は?ヤンキーが道端でしゃがみこんでたりするよ。

 やっぱりな。こっちをじろじろ見てる。あまりいざこざにはなりたくないんだよな。

 一人、立ち上がって肩を揺らしながらこっちに来ようとしてる。因縁つける気かな。

 立ち止まった?

 ああ、やっぱり。

 

 「おう、待たせたか?」

 

 秋月さんだ。その少し斜め後ろに、元さんも。

 今日、誘っといた。元さんも、土曜日まで仕事してるし、ちょうどいいかな、と。

 

 「今日は悪いな、でも学生はあまり食わねえようなものも試せるぜ。」

 

 親し気に肩を組まれる。うん、ヤンキーたちが気まずそうにそろそろ帰ってるな。だって、黒っぽいスーツ着てるけど、明らかにデスクワークの人っぽくはないんだよな。商社マンにも見えない。殺し屋、ーー?て感じ。

 いや、僕もヤンキーと同じくちょっとびびってるんですがね。

 

 ーーーーー

 

 ただ、秋月さんは思った以上に紳士的だった。元さんも。

 元さんも、なぜか一介の若造である僕にかなり丁寧に接してくれる。まあいろいろ頼んでるから、まだわかる。

 秋月さんも、タバコは一回も吸うそぶりを見せないし、決して酒を勧めようとしはしない。過去の思い出話もしてくれるし、中高での失敗とか武勇伝も面白く話してくれるし、僕の悩みも聞いてくれる。

 タバコの煙が目を刺す中で酒を強要される体育会系パワハラ飲み会になるかと思っていたが、当てがいい方にはずれた。

 この古い通りにある、古風な西洋風の料理店。ワインが出る。いわゆるタヴァーンだな。

 古い樫の重厚なテーブルと椅子、テーブルクロス、丁寧に火屋が磨かれたペンダントライト。

 家族でやってるのか、ちょっと中年のシェフが腕を振るい、少しだけそれより若い奥さんのような人が給仕してくれる。

 

 一通りコースが半ばまでいったときに、ようやく秋月さんが切り出した。

 

 「それでよ。ーー兄ちゃんは、その変なやつに喧嘩売ってるってことか。そうだな?」

 

 「はい。ただ、今は向こうは僕のことなんか、気にも留めていないし、気づいてすらいないかもしれません。でも、多分そのうち、ぶつかります。」

 

 「その彼女さんだっけな。その子のことで、なんだな?」

 

 「はい。」

 

 「詳しいことは聞かねぇが、その子を守るため。そうなんだな?」

 

 「はい。ーーたぶん、近い将来、あの刺青男がその子を害することになると思うんです。」

 

 恩のある秋月さんだが、詳しいことは話せない、話したら気が違ったと思われるだろう。

 だけど、秋月さんは何か複雑な事情があるということが分かっているようで、そこを詳しく聞こうとはしなかった。

 

 「今までにも何人か殺してるんだしな。ツバつけてる女を狙うってのもありそうなことだ。

 ーー知ってるか?警察、まともに捜査が進んでない。捜査員も困惑してる。」

 

 「いえ、それは知りませんでした。」

 

 というより、あの僕たちが身近に知った2人殺し。あれすらも続報がない。

 

 「元さんよ、知ってるだろ?」

 

 「はい。春の2件以外に、疑わしい殺人事件が数件あります。同じ手口ではないのですが、一度に複数の女性を非常に残酷な方法で殺すというところが似ています。ーーその捜査ですが、矛盾する情報が寄せられてて、混乱してるようですね。目撃証言が矛盾してたり、肝心なところの情報が誰も証言できなかったりで、具体的な犯人像すら実は絞り切れてないとか。

 ーーもちろん、政治的な何かって線もありうるのですが、どうもそれが主要因ではなさそうです。」

 

 「もっとえげつねえ、おかしな何かがあるみてぇなんだな。そのよ、」

 

 秋月さんがぐいっとワインを傾けた。

 

 「催眠能力な。ありうるかもしれねぇ。ーー病院で見舞った、俺のダチだが、」

 

 空のグラスを置く。元さんが濃い赤い色のワインのボトルを傾けて注いだ。

 

 「そいつも、覚えてねぇ。大まかな印象はわかる、ただ顔を思い浮かべようとすると違う、印象が一定しない。別の知ってるやつの顔にすり替わったりするんだと。そいつじゃない、ってのはわかるらしいんだが、思い出せない。」

 

 こんどは軽く唇を湿す程度に飲んだ。

 

 「ただ、戦ってる間はそいつが敵だ、というのははっきりしてて、見誤らない。ーーだったら、まだマシな方だ。」

 

 後で覚えていようがいまいが、その敵をヤればいいんだからな。という。

 ヤれば、って。殺れば、だよな。怖い。元さんもちょっと引いてる。

 

 「ただそれは、俺の考えることだ。ーー心配するな、いろいろ手はあるし、たとえ殺(ヤ)っても正当防衛なら無罪だ。お前はその、好きな子。好きな子一人のことだけ考えてろ。いいな?」

 

 その!それなんですが。

 好きな子一人っていうか、ーー複数いるんですが。

 紫藤と調布の顔が同時に思い浮かんで。思わず口走ったら大笑いされた。今、この緊迫した雰囲気にそんなことをぶち込んでくるとは思わなかったらしい。

 なんかバシバシ背中を叩かれて、シリアスな雰囲気が雲散霧消。

 元さんも遠慮が取れて笑ってて、この前のこと、調布のことを秋月さんにチクってる。

 仔細を聞いた秋月さん。趣向が違うのを揃えるのかよ!?お前ぇも隅に置けねぇな!複数なら、なおさら頑張んなきゃな!と。

 秋月さんがアキさんになってる。

 

 僕もなんか飲みたくなってきて、様子を見に来たお店の人に、こっそりグラスを頼んだ。お店の人には大迷惑、形式的に法律にも違反してる、駄目なものはダメ。人間やめますか。ーーそれは分かってる。

 でも言い訳させてもらえるなら、この時代。僕たちは大学の新入生コンパで一気飲みしてたんだ。そして僕はダメなクズ男。もう数か月ドライ状態の。

 アキさんたちにも断って、一杯だけ飲ませてもらった。

 うん、その、体はまだ慣れてないんだけど脳は覚えてるんだね。久しぶりの赤ワイン、しびれるくらいに美味しかったよ。

 

 秋月さんは大変ご機嫌だった。カチこむときの相談を少しだけ話して、後は四方山話になった。ただ、カチこみ先のこととか、主な情報は伝えられたと思うし、連絡先ももらった。相談にも乗ってもらえそうだ。

 秋月さんは元さんと二軒目に行くらしい。僕も久々に行きたかったんだけど。やめとけやめとけと帰された。

 タクシーを元さんが呼ぼうとするのは固辞した。少し歩けばまだバスが走ってるし。うん、ちょっと足元揺れたけどね。途中で公園の水道で水がぶ飲みしてごまかした。何とかなるものだ。

 親バレはなんとかまぬかれて、なんとかお風呂に入り、歯磨きして寝た。

 世界がまだ少しぐらぐらしてる。いい夢が見られるといいな。

 明日は紫藤と調布と飯場の下見(ピクニック)だ。

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