タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
夢を見た。
僕自身はあまり夢は見ない。いや、見なかった。
少なくとも1回目の最後のころには。
昼の現実世界は言うまでもなく、夜の夢も。
あのクソ動画を見た後に、悪夢を何回か見てうなされた程度だ。
2回目はまだ体が若いせいか、時々見る。
たいていは他愛のない夢だけど、ときどきクラスの女子が出演してくれたりする。うん、調布とか紫藤とか、それ以外とか。
そしてときどきは性的な関係を持ったり。うん、調布とか紫藤とか、それ以外とか。
うん、今日もそういう夢を見た。紫藤と抱き合ってコロコロ転がってにゃんにゃんしたり、調布とレスリングのように組み伏せあって、巴投げみたいなのをされて押さえつけられてロデオされたり。
うん、
目が覚めると、まだあたりはほのかに暗かった。まだ5時くらいか。
二日酔いは、幸いにしてないようだ。頭はしゃきっとしている。
冷たい水で顔を洗う。今日、ピクニック(?)に行くことは伝えてある。
連日遊び呆けてるのだが、期末考査もいくつか答案が帰ってきて、そこそこいい成績だろうという見込みがあるので、そこまで親の圧は強くない。
ちなみに免許のこともバイクのことも、すごく渋られながらも了承してもらった。まあ、サボりだもんな。
公欠というからには部活には必ず行け、それは絶対条件だと。まあそうなるよね。
建前上は空き時間で免許を取るだけだ。本当は主従逆転だけど。
できるだけコンパクトに、地味なリュックサックに必要そうなものをパッキングした。
虫よけは必須だよな。昔は何も考えずに森に踏み入っていて、それでたいして虫に刺された記憶もないのだが、後から考えると結構ハイリスクだったかもしれないな。
蚊もいるだろうが、山ヒルとかもいたら。女の子たちは騒ぐかもなあ。
自転車で駅まで行く。朝のまだ冷たい空気が坂道を駆け下る耳に当たる。
駅前に自転車を停めてしばらく待つと、自転車に乗って調布が来た。
体の線が出ないようなオリーブグリーンのカーゴパンツ、長袖の白のデニムシャツ。
髪はアップにまとめてキャスケット帽に押し込んでる。
靴はミドルカットの黒のトレッキングシューズ。黄色と黒のリュックサックを背負っている。
自転車は、赤いマウンテンバイク。うん、僕の自転車より山道には強いかもな。
「おはよう、調布。よく似合ってるよ、ーー」
言ってから、しまったと思った。余計なことを言ってしまった。
「おはよう志野。さっそく朝から相手の容姿をあげつらうなんて、さすがだわ。」
うん、調布だったらこうなるよね。癖になるこの微妙なトゲトゲ感。
このチクチクが、グサグサじゃなくてなんかヘアブラシで髪をとかすときの頭の感触みたいで心地いいんだ。
そして最近はなんだか、かわいいっていうか愛おしく思えるんだな。
「そろそろ行く?みなりは途中で拾うのよね?」
「ああ。行くか?」
「ええ。」
自転車をこぎ出す。
道を知ってるのは僕なので、先行する。
駅前の少し交通量の多い道路を抜け、あとは国道をひたすら上がる。
一応僕の自転車の方がオンロードでは速いだろうから、途中まで気になってちょくちょく後ろを振り向いたが、意外にも調布は健闘してよくついてきている。
まあ、あの体だしな。僕はこの前ホテルで見た、調布の脚を思い出す。
決して細くはなかったな。いわゆるガチのボディビルダーみたいな感じではなくて、ちゃんと女性らしくやわらかな脂肪と肌に包まれてるけど、おそらく芯にはしっかり筋肉もついてて、確か入れるふりをしてこすった時には、それが浮き出て、ーー
「志野、志野!」
「ん?なんだ?」
しまった、勃ってしまってた。何食わぬ顔をして返す。
「もうそろそろじゃない?まだ?」
「うん?」
そうか、調布は道を知らないからな。
妄想に耽ってて、周りに注意を払わず進んでるように見えたんだろう。
「ありがとう、大丈夫だ。まだ先だけど、そろそろだな。何か、飲み物でも買っておきたいか?」
一応水と麦茶の用意はしてきた。
ただ、これから先、あまりお店はない。何か買いたしたいなら、行っておいてもいい。
「ああ、そうなの。大丈夫よ、行きましょうか。」
決まり悪そうに調布は言う。いや、調布が言ってくれなきゃもしかすると妄想に耽ったまま行き過ぎてたかもしれないからな、ちょうどよかったんだ。
やがて待ち合わせの公園につく。紫藤の住むざくろが丘団地から国道に降りてくる道、その国道との交差点にほど近い公園だ。
以前紫藤と訪れたときは子供たちがたくさん遊んでいたが、今日は朝早いのでまだほとんどいない。
調布は少し暑かったのか、白いデニムシャツの前を開ける。下にはもちろんタンクトップを着こんでいるが、おもわずどきっとして目を逸らした。
「あれ、志野。なにかあたし、見ちゃいけないくらい失礼なことしたかしら。」
意地悪そうな笑みを浮かべた調布が、回り込んで接近してきた。
ボタンを外したデニムシャツの下、盛り上がった胸が見える。あれってスポブラで締め付けてあれなんだよな、この前見たときは、ーー、
「志野くん、さとみん!おはよう!」
紫藤が来た。見たところは、少し眠そうだけど元気はありそうだ。徒歩でここまで来たらしい。
薄いベージュのチノ、チェック模様のシャツ、つばのあるサファリハットと足元のグリーンのトレッキングシューズは、少し前に二人で買った。本当の山歩きなら少し目立つ服装がいいのだが、今回はあまり見とがめられたくない。
紫藤の家にも自転車はある。だけど、いわゆるママチャリだ。話を聞くと、紫藤にはわずかだが大きいようだ。
ちょっと長時間の運転はきついか?と思ったので、警察の目を盗みながら二人乗りしていくつもりだ。
紫藤は体に比べて大きく見えるリュックサックを背負っている。これは、前かごに入るかな。荷台に固定する用のロープで固定しようか。
出発だ。
ーーーーー
覚悟はしていたが、坂道を二人乗りで上るのはかなりしんどい。
途中で調布の提案で紫藤と僕のリュックを調布の自転車に積み替えた。
紫藤は申し訳なさそうにしていたが、そのうち楽しむことに決めたらしい。並走する調布と何やら話してる。
「それでね、ハルカちゃんが、ーー」
「そう。じゃあ、今度はどうなるかわからないわね。」
期末考査の勝負のことを言っているらしい。
調布はまあまあ、と言っていた。まあクラス1位かどうかはわからないが、それに近い成績を取ってくるだろう。
紫藤はかなり今回は頑張ったと言っている。奨学生を取るために成績を上げねばと思ったらしい。
僕も結構、手ごたえは良かったんだけどな。3人、いや国領を入れた4人の中では、使える時間は少なかったかもしれない。
国領は今回は自信があると言っているらしい。まずいな、下手すると僕が4人の中では最下位かもしれない。
うわあ。何を要求されるだろうか。
一応、国領は手伝うことが僕のためのことというより、紫藤のためのことだと知って、考査での勝負の結果にかかわらず協力してくれると言っているらしい。
国道から離れて、登良川の支流沿いの道に入った。
こちらにくると、森の際を走る道になり、木陰があるので照り付ける日差しはそこまで強くない。
ただ、起伏は若干出てくる。
いくつかのスロープを越えたあたりで、休憩を提案した。
公園らしいものはない。というより、水田はところどころにあるが、もはや人家もまばらだ。
ガードレールに自転車を立てかけ、3人で並んで腰かけて水を飲む。
まだ9時前なのだが、暑くなる予感がする。
「結構遠いのね。バスの路線はないの?」
「途中までならあるんだが。時間があわないのと、バス停からが遠いんだ。」
そう、さっきの国道沿いまでは、市バスはないが私営のバス会社の便がある。それを使うことも考えた。
ただなあ、国道を離れてからが相当長い。特に、僕たちの目的地に行く方向には、バスの便は現在はない。紫藤とあの飯場を見つけたときに紫藤が隠れてた集落にはバス停が残されていたが、すでにバス路線自体は廃止されてる。
だから自転車なんだが、思ったより苦行になってしまった。水筒の水、持つかな。麦茶と水と両方用意してきたが、今は水を飲んでおいて、途中でもし水道があったら、補充しておくべきかもしれない。
ーーーーー
それから約1時間弱。紫藤がいた、あの廃集落に到着する。
自転車をここに置き、まず飯場を視察しようか。
今日は日曜日だ。昨日から今日にかけては女が抱ける日で、深酒も可能。多分、一番見つかりにくい時間帯ではあると思う。
いきなり道で飯場の人に出くわさないように気を使いながら接近し、森の中から飯場を観察する。
「ガード、堅いわね。」
「そう思うか。そうだよな。」
「周りの鉄条網。上部は有刺鉄線ね、しかも結構高い。切らずに乗り越えるのは現実的じゃないわ。その、みなりの小父様が運動がすごくできれば別だけど。」
鉄条網の上部は有刺鉄線になってる。それも2、3条のものじゃなく、5、6条くらいも重ねてあって、逃げにくいように傾斜がついてる本格的なもの。
こんなところにコストかけんなよ。
「向こうのあの崖。鉄条網とあの崖の隙間を通り抜けられれば、ーー」
「回り込んでみてみるか?」
3人でそっと迂回して回り込む。
「足元がすべりそうだよ。」
「ここは、走れないな。」
水が出て、地面がぬかるんでる。
基本的には平らなのだが、一部に起伏のある地形。
飯場のあるあたりは切り開かれて、小学校の200メートルトラックぐらいの空き地になっている。そこに、いくつかの建物が点在している。
その一方の端は小山に接し、崖がある。この崖の部分は鉄条網が張られていない。というか張れない。
その崖が長方形の短い辺のあたりなのだが、長い辺の一方は逆に一部落ちくぼんでいる。ここが僕らが今、回り込んできたところで、相当ぬかるんでる。
最近の長雨のせいであればいいのだが、水脈があるような気がする。湿ってるんだ。
調布が僕の持ってきた双眼鏡で観察しながら、いくつかの気づきを述べる。
紫藤は目がいい。双眼鏡は持っていないけど、やはりいくつか有益な指摘をしてくれる。
残念ながら鉄条網と崖の隙間は対策されてる。有刺鉄線がぐるぐる巻き状態で張り巡らせられてる。崖は登れない、ほぼ垂直に近く、法面はコンクリート吹付けみたいになってて手がかりがない。
飯場の中に目を凝らす。
犬がいるはずだが、今はまだ小屋から出てきていないようだ。
人影は外には出ていない。かなり静かだが、時折怒鳴り声や笑い声、くしゃみの音などの生活音が聞こえたりする。
ただし、二十人くらいいるとは思えないくらいの静かさ。昨日大騒ぎして、今日は休んでいるのだろうか。
この時間帯なら、あるいはもう少し早くなら、わざわざ陽動で何か起こさなくても忍び込むことは可能かもしれない。
女の連れ込まれるのはどの家だろうか。ナギさんに聞くのを忘れた。痛恨だ。
ただ、さすがに一番粗末なあの馬小屋みたいな小屋じゃないだろう。プライバシーのかけらもなさそうだしな。
逆に、最もましな、あの家でもないだろう。あれは、おそらく管理側の住居だろう。
だとすれば、あの離れか、プレハブっぽい小屋あたりだろうか。多分離れの方だな。2番目にいい住居だ。
もう一度接触を試みて、もし話を聞けたら、その時に聞いてみよう。
連れ出すとすれば、どこの鉄条網を切り破るかな。
頭の中でシミュレーションを組む。
その後で道路に出て、逃げることまで考えねばならない。たとえばこのくぼ地沿いは、泥濘でオフロードバイクでも苦戦しそうだ。そうなるとやっぱり、入り口を切り破るしかないか?
使い捨てカメラに布を巻いてシャッター音を抑えながら、何枚か写真を撮る。
手元に荒っぽく地図を描き、建物の位置と切り破り箇所候補を記入。
「志野くん、犬。」
声を潜めて紫藤が教えてくれる。
犬小屋はあれだな。鉄条網の柵に近い。
犬は、レトリバーが一匹いる。あれ一匹だけでも相当の戦闘力じゃないだろうか。
あと、これは柴と何かの雑種だろうか。ところどころぶちのある白い犬が2匹もその後から出てきた。
今確認できるのは、これだけか。
これ以上、いないといいが。
餌を放り込むことを考えているが、引っかかって食べてくれるかどうか。
うむ?
一匹がこちらに来た。頭を上げて何か嗅いでいるような風情。
風は向こうからこちらに流れているから、大丈夫とは思うがーー。
ーーーーー
ようやく犬をやり過ごす。
それからしばらくの間、飯場とその周辺を観察し、地形と家の配置等を頭に叩き込んだ。飯場に置いてある自動車やバイクの類いもチェック。
そろそろお昼だ。紫藤実父やナギさんを連れて逃げるときは多分山道の方を使うが、万が一のときのために山林の中を抜けるルートを探りながら帰る。
巨大な青いミミズを発見した調布がすごい嫌そうな顔をし、紫藤が興奮しきった顔をしている。うん、山道にそういうのよくいるから。
多分獣道だろうと思われるルートを通っていく。ハンミョウが時折、道案内をするように飛び交う。
一応周辺に気を配って歩いてはいるが、ピクニックに来たような穏やかさだ。
一般道に出るまで十数分。こちらのルートも逃走に考えておこう。ただし、バイクは通れるか疑問だな。かなり足元の悪いところもあったし、オフ車でないとこの道はつらそうだ。
一般道に戻り、気を使いながら廃集落に戻る。隠してあった自転車も無事だ。
思わず笑みが浮かぶ。紫藤も、そして調布もほっとした風情。
「お昼を食べようか。
「うん!」「ええ。」
川に降りる道をたどり、適当な岩に腰かける。
蚊が多いかと思ったが、さほどでもない。
「こうしてると、本当のピクニックみたいだね!」
紫藤がにこにことおにぎりを頬張っている。今日は紫藤にお弁当を依頼した。調布の分も作ろうかという話があり、調布もお相伴している。3人分だね。
おかずはあまり種類は多くない。甘くない卵巻きとか、ゴボウのきんぴらとかだ。うん、地味と言えば地味だけどこれでいいよ。
「そういえば調布。お昼ご飯っていつもあの手のパンなのか?」
「ええ、そうね。他の家は、いわゆるご飯が多いらしいけど、うちはほとんどそうね。」
聞くと、どうも家のポリシー、ってほどじゃないがそうらしい。調布も当初、自分のお弁当が他と違ってるとはあまり思ってなかったらしい。
ただ、小学校に上がってしばらくすると、どうも他の家とは違うなと思ったとか。
まあ、米飯のお弁当は手間がかかるからな。チーズとか適当にはさんで作れるサンドの方が時間がない共働き家庭としては楽だったのだろう。
調布の背が高かったりするのも、もしかすると食生活の違いだったりするのかな?
紫藤の成長を促す方策を学んでもいいかもな。
そんなことを考えながら、いろいろと取りとめもなく話をする。
少し前に流行ってた、虎印の大きなステンレスボトルに入れた冷たい麦茶を飲む。飲み物は僕が担当して2つのボトルに麦茶と水とを入れて持ってきた。
調布が少し蓋に入れた麦茶を飲むときに赤くなって目を彷徨わせてた。紫藤がいまさらだよ、と言って膨れてる。よくわからないが、何かあったのだろうか。
「それで、どうする?修験道の方まで見るの?」
「それなんだよな。」
今のところ、直接のかかわりはない。だから、寝た子を起こしたり、藪をつついて蛇を出す必要はないのだが。
ただ、ちょっと気になるんだよな。逃げるときにそっちに逃げるかもしれないし。
「あたしは4時くらいまでに戻らないといけないから、今日は無理。バイク借りたら、また見に来れるかしら。
そろそろ戻るわね。
今日は、ありがとう。ーーあまり無理して深入りするようなことはないように、ね?」
釘を刺された。
調布は少し気掛かりそうに、僕に危険なことをしないよう再度念押ししてから帰って行った。
紫藤と僕が残される。
「神社があるはずって言ってたよね。そこまでなら行けるかな?」
「ああ、修験道の領域はこっちの廃村の方なんだ。神社は、一応大丈夫なはずだ。」
神社の方は、道をずっと川上に行ったところだ。修験道の領域は、その神社と飯場の間にある。
道をたどっていくなら、修験道の領域をかすめることにはなるけど、踏み込むことはない。
もちろん領域をかすめるから、100%というわけじゃない。もしかすると刺激するかもしれない。
行ってみる?
「志野くん、お参りもしとこうよ。」
そういうことになった。
紫藤を乗せて自転車をこげるところはそうしたが、やがて起伏が激しくなった。道も狭い。
登り坂は、紫藤を下して自転車を押して歩く。紫藤も暑そうで、袖をまくり、シャツのボタンも上の方は外している。
虫よけは念のため塗っておいた。
峠に入り、見晴らしがよくなった。もう神社などないんじゃないかと思う頃に、ようやく神社の案内看板。
参道を歩く。山道を切り開いた参道。誰にもすれ違わない。かつてはかなり栄えていたのだろうか。
途中ではかなり狭い、山肌に張り付くような崖道を歩いたりする。
1回目の人生では、鳥取の三徳山の投入堂を訪れたことがあったな。あれのミニ版みたいな感じだ。
ようやく神社につく。結構必死になってた。二人で顔を見合わせ、ほっとして笑う。
冷たい麦茶が美味しい。
お参りをする。神主さんはいないが、思ったより荒れていない。ときどき誰かが掃除したりしているのだろう。
帰りには、行きのときは寄らなかった途中の滝も眺める。記念に、腕を一生懸命伸ばして、紫藤と二人で自撮りした。
うまく入ってるといいな。
まだ日は高いが、そろそろ帰ろう。なんといっても、街からは3時間くらいかかるのだ。
さっきの廃集落までは道は一部悪路もあったが、基本一本道で迷うようなところはない。
「ねえ、志野くん。」
二人で歩いていると、紫藤が言った。
「もちろん、探るつもりだよね?」
うん、迷ってた。紫藤は無理する必要ないんだけどな。
そう言ってみる。
「そんなわけにはいかないよ。わたしも行きたい。」
ちょっと不安だが。修験道関係、少しだけ探ってみようか。