※この作品はR-18です。

タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。   作:Marchhatter

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81 空を飛ぶ夢(7)(紫)☆

 

 リビングには、お父さんがいた。

 どことなく、いらいらした風情だ。

 何か、うまくいかなかった。そういう感じだ。

 

 まずいな。

 

 こういうときには、八つ当たりされることが多い。

 ただでさえ、ひどいことをしてくるというのに。

 ぎろ、っとこちらに視線をよこした。

 

 「お父様、ただいま戻りました。」

 

 「ーー。」

 

 どうしよう。怒っている?

 買い物をしたし、冷凍しないといけないものもある。

 だけどこのまま、失礼しましたー、と通り抜けると、どんな罰を受けるかわからない。

 

 「お父様、何かあったのでしょうか。」

 

 何かクレームを言ってきたお客さんに対する店員さんのような言葉だな、と思いながら、わたしは近寄った。

 いきなり殴られるかもしれない。いきなり蹴られるかもしれない。

 だから、もし本当にそうなったときのために、腹筋を引き締めて、いざというときちゃんと動くことができるようにして、ーー。

 

 お父さんはぐい、と近づいたわたしの手首を引いた。つんのめって引きずり倒されないようにと足を踏ん張ろうとすると、今度は逆にすうっと押されて。

 足をかけられてた、後ろに倒された。

 上に、重いお父さんの体が乗ったのを感じた。

 岩のように重い。たしか、体重は80キロ近くあったはずだ。馬乗りに、腰のあたりに乗られた。

 

 腕が伸びてきた。

 いつもみたいに、紳士的でない。目が据わってる。

 襟元に両手が伸びてきた。首を絞められるかと思ったけど、手は襟元に入って。

 ばちばちばちっと、音を立ててスナップボタンが引きはがされた。

 

 「お父様!」

 

 「うるさい!」

 

 殴られはしなかった。しかし、びくっとして凍り付いてしまう。

 せっかく買ったばかりのブラが、引きちぎられる。

 ああ、志野くんにつきあってもらって買った、お気に入り候補だったのに!

 乱暴に引っ張ったから、フックが歪んだだけならいいけど。ゴムが伸びちゃったら、取り替えないと。

 違う、そんな悠長なことじゃない。

 乱暴に手が、わたしの胸を掴んで、揉みしだいた。

 体が、硬直してしまった。

 

 そのまま、お父さんは体を少し浮かせてずらした。わたしのチノのボタンが外され、ジッパーが開けられた。

 ああ、その時が来てしまったのか。

 いつか、わたしはこの人に汚されると思ってた。

 まだ時間があると思ってた。だけど甘かった。

 今日でもよかったんだ、頑張って、あのお城の部屋でも。

 志野くんと最後まですればよかった。

 志野くん、ーー。

 

 「あらぁ荒れてるわねぇ、イサム君、どうしたのかしらぁ?」

 

 玄関ドアが空いて、閉まる音がして。

 かけられた言葉に、お父さんの手が止まった。

 じろっと、現れたドラ○もん脂肪女を見つめてる。

 脂肪女、ちゃんと車止めてくれたかな。ときどきこの人は、車庫に入れないでサボって家の前に止める。そうすると苦情を言われるんだ。

 いつもだったら、この女が来るのは呪わしい。

 でも、今日に限っては、ーー喜んでいいものかどうか。

 

 「テメコか。」

 

 「はぁい、そうだけどぉ。どうしたのぉ?」

 

 「ーーうまくいかないことがあってな。気晴らししようと思ってな。」

 

 「あらぁ、そうなのぉ。もちろん、噛ませてくれるんでしょぉ?」

 

 「ーー」

 

 「きょうは、仕上げ編に入ろうかと思ってたのにぃ。」

 

 「仕上げだと?」

 

 お父さんが興味を持ったな。

 ろくでなし。

 連れ子の娘をどうにかしようとするだけで汚らわしいのに!

 

 「ええ、ぐっと本格的にしようかとぉ。どお?」

 

 「そうだな、その方が気がまぎれるかもしれん。こいつは、」

 

 わたしを見下ろして言った。

 

 「一応、御前様のものだったな。そして御前様には生娘を送る約束だったし、な。」

 

 「御前様ねぇ、こわいこわい。」

 

 「何か、知ってるのか?」

 

 「すごいお金持ちなんでしょう?ろくでもないことしないとお金持ちになれないわよぉ。」

 

 「ははは、そうだな。」

 

 本当に内面もそうかは分からないが、お父さんの目の血走り具合が元に戻った。

 ナ○シカの○蟲の攻撃色が消えた感じだ。

 大丈夫になったのだろうか。

 

 「それでぇ。きょうは古式ゆかしく責めてみようかとぉ。」

 

 「明日学校だぞ。大丈夫か?」

 

 「ダーリンも、何いってるのぉ?嫌なことあったのなら気晴らししないとぉ。父を喜ばせるのは娘の役割だわよねぇ?ちょっといいとこ見てみたい、わよねぇ?」

 

 「ははっ!そうだな!」

 

 あ、最悪はまぬかれそうだ。

 お父さんが、今、わたしを汚すことはなさそう。

 だけど、お父さんのテンションが上がってきた。あの嗜虐的な光が、目に宿ってきて。

 もちろんドラ○もん女はノリノリ。

 やっぱりわたしが悪魔の手の間にあるのは、間違いない、ーー。

 

 「本格的に吊ってみようよぉ。吊って、いいかなぁ?」

 

 「いいとも!」

 

 そうくるんだ。ろくでもないことになりそうだ。

 知ってた。

 

 ーーーーー

 

 お買い物を冷蔵庫に収めることは、許された。

 服装を変えることも、許された。まあ、登山スタイルだしね。

 そのままだと、色気も何もないってことなんだろう。

 それで、何を着ることが許されたかというと。

 

 「いつもは、制服ばっかりだしねぇ。」

 

 「意外な取り合わせだが、悪くないものだ。」

 

 わたしは死んだ目で、自分が着ろと命じられたその服を見た。

 少しだけサイズが大きい、気もする。

 ただ、わたしは小さい。それを考えると、まずまずぴったりか。

 そして防御力が、低い。

 これはさとみんが着ると似合うんじゃないかな。

 チアガールの衣装だ。

 青と白で、濃紺でかっこよく斜めに線が入ってる短いプリーツスカート(スコート)、青と白の短い、お腹がすぐ出るノースリーブのシェルトップのベスト。

 とてもかわいいんだけど。いつもなら、たとえば運動会とかなら。でも。

 

 「お父さんを、元気づけたいわよねぇ!」

 

 どっから持ってきた、という感じだが、ドラ○もん女が勤め先のお店から持ってきたらしい。

 あと罰当たりにもナース服や巫女服があるとか。どれもサイズが小さくて、お店(「忌目蔵(いめくら)」って言ってたかな。呪われそうだ。)では着れる人がいないのを借りパクして持ってきた、んだそうだ。

 

 「さあて、今日はどういう趣向だ。」

 

 「純粋にぃ、縄でやってみようかとぉ!」

 

 チアガールの衣装を着たわたしの両手首に、別々に縄が縛られた。

 足首にも。

 不吉な予感がする。

 手首の縄が、フックに掛けられ、吊られる。

 やっぱり、つま先立ちしてようやく立てるくらいに。

 ふくらはぎが、明日は筋肉痛かも。

 

 しかし。

 それだけでは、やっぱりおわらない。

 足首の縄が、フックに引っ掛けられ、ずりずりと吊り上げられていく。

 これ、子供のころ、アイススケートで見たことある。

 ビールマンスピンとかいうのに似てる。

 腕を上げて、体をすごく反らして、後ろに持ってきた片足首を持つんだ。

 超絶柔軟でないとできないよ、こんなの。

 幸いにも、というか、わたしは体が柔らかくなってる。

 できなくは、ないけど、ーー。

 

 「これだけでも、なかなか苦しそうだぞ。」

 

 「そそるわねぇ、打ってみるぅ?」

 

 「ーーまあ、その仕上げとやらをみてようか。だが、ちょっとまて。」

 

 目をぎらぎらさせてたお父さんが、わたしの後ろの方に廻っていき。

 しゃがみこむ気配。

 わたしの脚の間を見てるんだろうな。

 そう、チアの衣装のスコートは短い。

 本職のチアと違って、下にはただの下着しか着ていない。

 こう、脚を後ろに上げると、きっと、ーー

 スコートをめくられる感覚が、あった。

 ろくでなしのお父さん。

 

 これだけなら、恥ずかしいけど、まだ耐えられる。

 だけど、ドラ○もん女の、この目は。

 

 「今日は、フルオープンでも?」

 

 「そうだな、ぐっとくるものがある。」

 

 ろくでなしめ!

 私の脚は、いったん下げられた。

 なぜか、いったん手首の縄もフックから外された。

 解放されるわけではない。

 下着を脱がされた。先に取りあげとけばよかった、縄をくぐらせるの面倒くさい、と脂肪女が文句を言う。

 

 「次の趣向、行ってもいいぃ?」

 

 「やれ。次はなんだ。」

 

 こんどは、単純に手首の縄を上に吊るのでなく。

 90度の角度でお辞儀させられて、手首が背中側になるよう、腕を真後ろに伸ばすように、天井に手首を伸ばせって言われた。

 そして、その手首の縄の先が、たぶん天井のフックに掛けられた。

 ふたたび、片脚を後ろに吊り上げられていく。

 こっちのほうが、さっきより体の反りが少ないからまだマシだ。

 でも、もしかすると?

 まだ手首に付くくらい脚が引き上げられる前に、いったん止められた。

 

 「こんどは、こっちだな。」

 

 「ええ、すごいらしいわよぉ?」

 

 悪魔め。

 もう片方の、体重をつま先で支えてた、その脚。

 その支えの脚も、ずりずりと引きずり上げていく。

 これ、江戸時代の拷問にあった。駿河問い、とかいうやつだ。

 痛い痛い痛い!

 手首と足首が引きちぎられるように、縄が食い込む。特に手首。

 わたしは、必死に手首を縛る縄をつかもうとした。

 少しでも、手首のこの痛みをどうにかしようとして。

 掴んで、体重を分散しようとする。

 片側、右手側は、何とかつかんだが、ーー

 

 「あーれぇ、そっちはつかめなかったのぉ?ざんねーん!」

 

 痛い。

 片方、左手側は、縄をつかめなかった。

 ダイレクトに、全ての重さが手首にかかり、縄が食い込む。

 目ざとくわたしの動きを見咎めた脂肪女に、揶揄された。

 そして、じわじわと無理やりそらされた背中に走りはじめた痛み。

 すぐにぎりぎり痛むわけではない。

 だけど、このまま吊り下げられてると、ーー。

 

 「なかなかだな。」

 

 「芸術的だわぁ。ーーまだ毛がないのは、あれかしら。」

 

 「単に、遅れとるんだろう。」

 

 スコートをめくりあげて、わたしのあそこを観察しながら、勝手なことを言ってる。

 それは志野くんのだ。見るな、触るな!

 お父さんは次に、短いチアの衣装のお腹のところをめくり、じろじろと観察してる。

 うん、少し衣装が大きいから隙間があって、胸までよく見えるだろうさ。

 さっき、ブラは引きちぎられちゃったから、外してたんだ。

 

 「さらにぃ、こうするとぉ!」

 

 「ぐぁっ!」

 

 手首、足首も全部別々に吊られてたけど。

 上の方で、縄が括られて絞られ。

 手足がひとまとまりにされた。

 背中がさらにそり返らされて。

 痛みが体を突き抜けて、声が漏れた。

 

 「それでさぁ、ダーリン、」

 

 ドラ○もん女が何か言ってる。でも、痛みで集中できない。

 何を言ってるかすぐにはわからなかったけど、音は聞こえてきた。

 

 「キムスメでないといけないんでしょお?でも、」

 

 声が少しわざとらしく低くひそめられた。

 その声がねっとりとした悪意を孕んでることだけは、わかった。

 

 「叩くのは、いいのよねぇ?」

 

 ーーーーー

 

 背中を打たれるのなら、まあよかった。

 しかし、これはない。

 

 「ここに縄をかけて、こう引くとぉ、」

 

 「見事なものだな!」

 

 私の両膝の少し上にも縄がかけられた。

 何かの棒みたいな道具もかませて、フックとその膝の縄の掛け方を工夫してる気配。

 やがて縄が絞られ、膝がぐぐぐっと左右に開かされた。

 うん、すごい恰好だ。

 背中の側で手足をひとまとめに吊られて、そして両膝を広く開いてる。

 あそこを、どうぞって大きく突き出した格好、そういう感じだ。

 めまいがするほど恥ずかしい。

 つられてて、頭にも血が上ってきてしまったかな。

 

 「ほら、あの売り飛ばす子。あれでさんざん練習したのよぉ。」

 

 「そうかそうか。M女だったな?」

 

 あの女の人だ!

 志野くんとさとみんが、話したって言ってた。

 痛みに苛まれながら、耳を澄ます。

 

 「本当は違うんだけどねぇ?嫌がるのを、さんざんいたぶるのよぉ、エスなお客さんにも、オオウケ!」

 

 「ハハハ、鬼だな!」

 

 「でも最近は外に出さず干してるからねぇ?うち、売上ないと御飯もないのよぉ?究極のダイエットぉ!」

 

 「もう死ぬ奴には、金も飯もいらんだろ。」

 

 「すごいわよぉ、床にこぼしたご飯でも、泣きながら食べるのよぉ?」

 

 「ハハ、そうかそうか。あさましいな。」

 

 「でもねぇ、子供がいる(コブつき)みたいなのよぉ、ーーやっぱり子供は、事故かしら?」

 

 「交通事故だな。ーーいや、捜査が入るといろいろ面倒か。一緒に連れて行かせて、セット販売か?」

 

 「それも、ありかしらぁ?お金になると思うぅ?」

 

 「こっちで処分するのは、面倒なんだろ?ただでもいいだろう。」

 

 「そうなのよねぇー、来週末までには、処分決めないといけないしぃー。」

 

 来週末、飯場が終わったら処分。そう言ってる。

 来週末。それを頭に刻み付ける。

 来週末までに、助けないと。

 文化祭の直後なら、間に合う。うん、助けてあげられる!

 

 「来週、何も知らずに飯場の荒くれたち相手に腰を振ってるわよ、きっと。ご飯が出るから喜んでるかもぉ?ーーまだ生きていられるって思ってるのかしら。」

 

 おめでたいわぁ、と言ってる口調が冷たく残酷だ。

 わたしに対するのと同じような、理由のない悪意。

 いや、この人的には理由があるのかもしれないけど。

 悪意を向けられた側には、とても理不尽だ。

 

 「ちょっとイタズラ、仕掛けようかとぉ。」

 

 ばーんと爆発、汚い花火、きれいな更地。

 なんのことがわからないけど、記憶する。

 

 「ところでダーリン、ほらぁ、見るだけじゃ満足できないでしょお?これを!」

 

 何か渡したな。

 

 「ほう、これで、か。」

 

 縄がさらに引かれ、膝が強制的に、120度くらいに開かされる。

 ひゅうっという音。

 まさか。

 

 「ああっ!」

 

 灼けるような熱さが一瞬、走った。声が、出てしまった。

 鞭で打たれた。

 その、ーーあそこを。

 柔らかい、その割れ目のちょうど上を打たれた。

 

 「これはすごいな。」

 

 「ダイレクトに打てるでしょお?」

 

 ばし、ばしっという音。

 わたしの地獄は、まだ始まったばかりだった。

 

 ーーーーー

 

 「なあ、その女。具合はいいのか?」

 

 「あらぁダーリン、浮気はいけないのよぉ?」

 

 ろくでなしたちが、何か言ってる。

 わたしはうつろな目で、すべての力を使いつくしてぶら下がっていた。

 執拗に、打ち据えられた。あそこも、背中も、胸も。

 いやらしくも、痕が長時間残らないように手加減。敏感なところだから、痛みもしっかり味わわされた。

 手首の痛みも耐え難いし、鞭の痛みに悶え、無理やり反らされ、捻じ曲げられた体の痛みも限界だ。

 本当はこれでぐるぐる回転させたりして拷問するっていう話だったけど、そっちはしなかった。

 不幸中の幸い、なのだろうか。

 

 「いや、な。今日はアンラッキーでな。」

 

 いろいろ無理矢理、やりたい気分だ。

 殴りまくって泣かしてからヤるとか。

 そう、言ってる。

 残酷すぎる。

 もう聞きたくない、もう限界だよ。

 

 「イサムくんとか、そのお友達ならぁ、連れ出せるように伝言しとくわぁ。」

 

 そしてぇ、たっぷりいたぶれるようにしておくねぇ?と言って。

 脂肪女がケラケラ笑ってる。

 その女の人、きっとわたしよりもずっと、ずっと苛め抜かれてるんだろうな。

 かわいそう。何もできないけど。

 

 明日は月曜日だ。学校、行けるかな。行けるよね。

 また志野くんの顔を見たら、きっと元気になれる。きっと。

 

 「そいつの同級生がイケてたからな。つい、な。」

 

 その言葉に、耳が尖るような感覚を覚えた。

 同級生?

 志野くん、のはずはない。

 さとみん!

 わたし、さとみんに警告するの忘れてた!

 さとみんには、お父さんが会いたいってのは伝えてない。

 そんなの、悪魔にさとみんを売るようなことだから。

 さとみんは、罠だってわかっても、わたしの頼みなら聞くだろうから。

 だけど、気を付けてねっていうべきだった。忘れてた。どうしよう!

 

 「名前は聞いたから、学級名簿を見て電話してみたんだ。ーーけんもほろろ、ってのはあんなことをいうのか?」

 

 「あらぁ。生意気な子ねぇ。この子みたいに責めて生意気な鼻をへし折ってやらなきゃ、ねぇ?」

 

 「ああ。いつか、近いうちに、な。」

 

 ーーあのすました顔を、ぐじゃぐじゃの泣き顔にしてやる。

 土下座させて謝らせて、土足でその頭を踏みつけて、地面の泥でずりずり化粧してやらなきゃ、な?

 みなり、お前、分かってるよな。

 何、お前は何も知らない。ちょっとお友達と一緒にお話しようとしたら、たまたまそこがちょっと危ない店だっただけだ。

 ーーわかるな?

 

 わからない。わからないよ、わかりたくないよ。

 一つのことは、わかってる。

 わたしは、さとみんを売らない!

 

 「わかりません。いやです。」

 

 「ほう。」

 

 「がんこちゃんはねぇ、お仕置きねぇ!」

 

 くるくると、吊られた体を回され、吊った縄に縒りがかかる。

 ああ、やるつもりだ。

 ぐるぐると、手を離された体が回転し始める。

 猛烈な回転感覚、手足首や背中の痛みすら一瞬ふっとぶくらいのひどい頭痛、吐き気。

 

 「ほら、返事は。」

 

 「いや、です。」

 

 でも、協力なんかできないって言うと、わたしはさらに厳しく責められて、ぐるぐると回されて。

 

 「いいんじゃない、直接使わなくてもぉ。その子が呼んでるよぉ、ってダシに使えばぁ?」

 

 そして、顔合わせさせると、楽しいわぁー、きっと。

 どんな顔、するかしらねぇ?

 脂肪女の、悪魔のような、そういう声が最後に聞こえた気がしたけど。

 もう、よくわからなかった。

 

 ーーーーー

 

 すさまじい苦痛と気持ち悪さで、失神したんだと思う。

 気が付くと、悪魔2人はいなくなってた。またお二人でしけこんでるんだろうな。

 

 あれからどのくらい経ったのか、よくわからない。

 わたしは、降ろされて千里に介抱されてた。

 立ち上がる元気もない。

 

 「みなり姉。大丈夫?」

 

 さすがに千里も心配そうだ。

 

 「大丈夫、大丈夫。でも、千里。」

 

 まだ吐き気がある。千里に下ろしてもらったから、トイレで吐いてきたい。

 

 「お姉ちゃん、疲れてきたよ。ーーいつまで続くんだろう、って。」

 

 「ーー」

 

 「千里の言うとおりだったんだ。お母さんと再婚させちゃ、いけなかったんだ。」

 

 「いや、オレ、そう言ったけど、ーーごめん。」

 

 まあ、千里の反対も、ある種のアリバイ作りみたいなものだったんだ。

 千里も、それが分かってる。

 反対しても、結局結婚してた、ってのは千里もわかってた。

 だったら、それから後でぎくしゃくするより、早く受け入れて、家族の一員になるようにした方がいいんじゃないかって、思ったのがわたし。

 手を汚したくないから反対のポーズを取ったのが千里。とそのときは思ってた、というか、今でも少しそう思ってる。

 でもさ。

 本当に、二人で絶対反対してたら、少しは変わってたかな。

 お母さん、わたしと同じで頑固だしな。結局同じだったかな。

 でも、こんな後悔はしなくてよかったかな。

 だけど、きれいごとで本当はできることもないことを言って反対する、そしてそれが受け入れられず失敗したら文句いうだけで、被害者という有利な地位に立とうとするってのは、いやだったんだ。

 じゃあ、わたしがずっと反対してたら?

 その後やっぱりお母さんは再婚しただろう。

 千里一人じゃなく、わたしと千里二人が失敗したお母さんを責めるだけ。

 わたしは人のせいにできるけど、ーー何も変わらない。

 それに、あのときはここまでお父さんの危険性がわからなかったし、仲良くなれるかもって思ってたんだ。

 そして最初はお父さんもフレンドリーだったっけ。じゃあ、どこかでボタンを掛け違えた?

 でも結局、そのうち、こうなってたのかな。

 わからない。

 

 「千里、ごめん、冷蔵庫みて、何か好きなの食べといて。」

 

 きょう、コブタヤで美味しそうなのいろいろ買ってきたから。

 たしか、千里の好きな濃湖津堂のクリームパンも。明日の朝にでも食べたらいいよ。

 そういうと、なぜか千里がうっうっと泣いてることに気が付いた。

 泣くほどうれしいのかな。最近は買い出しに行けてなくて、ストックのそうめんとか、長持ちする根野菜とかばっかりだったからか。

 ごめんよ千里。

 でもきょうはダルいんだ、早く寝よう。

 お風呂も、もう今日はいいや。ゲロが出そうで気持ち悪い口をゆすいで、軽く歯磨きだけしよう。

 昨日みたいに、志野くんの出てくる夢が見られるといいな。

 コロコロして、いっしょにあれをした。痛くなくて、やさしくて、すごく気持ちよかったんだよ。

 さとみんも確かいたな。志野くんを無理やり押さえつけてしてて、下に敷かれた志野くんもうれしそうだった。夢の中でも、さとみんなんだなーって、感心したっけ。

 そして今日も、楽しかったのに。

 同じ日に、天国と地獄だ。

 

 志野くん、会いたいよ。さとみん、お話ししたいよ。

 明日、会えるよね。

 もし会えないと。なんだかさびしくてさびしくて。

 心が、ボキっといってしまいそうだよ、わたし。

 ひからびた、枯れた枝みたいに。

 早く会いたい。ぎゅっとしたい、されたい。

 その瞬間を願って、今日もわたしは生き抜いていく。

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