タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
朝だ。
あちこちに痛みは残ってるけど。
泥のように睡眠をむさぼり、明け方に志野くんと柔らかいおふとんでコロコロ転がる夢をみて心を洗われ。
さらに朝、前日に買った美味しいパンを千里と一緒に食べて、テンションが上がり。
さらに朝登校して、志野くん(とさとみん)の顔を見ると、すっかり元気になった。
それどころか、体の奥底から湧き出す活力!
やっぱり志野くんは、わたしのビタミン剤だね。
志野くんは、わたしの顔をまぶしそうに見て、おはよう、と言ってくれる。
おはよう!と返す。
飛びつきたいけど、みんなの前だから無理。
学校だからなー。
ぴょんと飛びつきたくて伸ばしかけた手を引っ込め、曲げかけた膝を伸ばす。
思わず顔がちょっと情けなくなってしまう。
でもなんだか、その一幕を見ているさとみんをはじめとした周りの人の目が温かい。いや、生温かい。
どうしたのかな。昨日の、見てた人いたとか?
うわああっ。
でももし、致命的なところ見られたのなら、こんな感じじゃないよね。
きっとドン引き、って感じだろうし。
じゃあ、街で二人で手をつないで歩いてるのを見られた、って感じかな?
それくらいなら、まあいいや。
待ちにまったお昼ごはん。
志野くんを誘って、体育館横のベンチに行く。
梅雨あけしたのか、いい天気だ。
さとみんも誘ったが、友達との付き合いがあるらしい。
ふたりでゆっくりしてくるといいわ、と言われた。優しい。
少し前までは、志野くんの話をすると眉間にしわが寄ってたんだけどな。
「すこし朝は眠そうだったけど、大丈夫?」
ふむふむ、心配してくれてるのか。
昨日は疲れ切ってたからね、でも今は補給したから大丈夫だよ!
にこにこして、そう伝える。
見上げると、やっぱり少し眩しそうな表情。少し罪悪感もある?
そんな志野くんに罪悪感持たれるようなこと、ないはずだけどな。
昨日の買い物も、固辞したのにお金を払ってくれたし、荷物持ちまでさせてしまったし。
罪悪感持つのはこっちだよ。
あ、でもな。
あれだけわたし、の胸、を連日味わって、きりきり舞いさせたんだ。
その点で、罪悪感を持ったりしてるのかな?
あ、そうだ。
志野くんに伝えておかないと。昨日得た情報を。
わたしはあの、お父さんと脂肪女が話していた内容を、志野くんに思い出せる限りで伝えた。
志野くんは、じっとわたしの言葉に耳を傾けてる。
「調布とも、話さないとな。」
放課後、すこし時間を取ろうか。
そう、志野くんが言う。
わたしも、もちろん同意した。
その後はお昼ご飯を食べて、志野くんとたわいもない話をして。
ちょっとだけ頭を志野くんの肩に寄せて、どきどきして。
教室に戻ると、女の子の輪に加わった。
それまで女の子同士では、かわいいとか言われていじってくれる人はいたけど。
まあ、わたしなんか、あまり注目されてなかった。
おとなしそうだし、派手じゃないし。
志野くんと付き合うようになって、ちょっと注目されはじめ。
この前のクラス対抗戦で、さとみんとの息の合ったプレーをみせて、なんか一目置かれるようになってるっぽい(ちなみにクラス別の総得点レース、学年で首位だったよ!)。
「みなりちゃん、聞いてもいい?」
「いいよ?」
「志野くんって、ーー、」
さとみんグループの子だ。
気になる男の子がいるらしい。
けど、どうしたら付き合えるかって、いわれてもなー。
わたしもはじめはこわくて、逃げ回ってたし。
そういうと、あーそういえば、みたいな雰囲気に。
「そうだよねー、志野くんはちょっと特殊かも。」
「ちょっぴり変わってるからね。」
そう、変わってるんだよ。でもそれでいい、それがいい。
うれしくてにこにこしてると、かっわいー!みたいに言われたけど。
ちょっとくすぐったかったな。
そうしてお話ししてて休み時間がおわった。
最近、こうしてお話に巻き込まれることが多い。
そのこと自体はうれしいんだけど、うーん、もうちょっと目立たないポジションがいいんだけどな。
最近は、少し目立ってしまってる。
でも女の子あしらいの上手いさとみんが、敵意がわたしに向かないようにリードしてくれてるので、大丈夫。
最近、わたしにとってのクラスでの居心地はとてもいい。
対照的に、家の地獄さがつらい。
まあ、脂肪女が来ていたぶられるのは、週に1回、普通は土曜日。昨日は日曜日来てたけど、例外的だったんだ。
あ、でも今週は土曜日の夜、理由をつけて抜け出さないといけないな。
理由を、なにか考えないと。志野くん、さとみんと相談かな。
文化祭の泊まり込みを理由に、認められたことがあった。
今回は企画委員だから、まあそれを理由に押してみようかな。
どうしてもだめなら、人の命もかかってる。無許可でも抜け出そう。
見つかったら、多少の罰を受けるかもしれないけど。
ーーーーー
放課後の仮部室。
志野くんがソファに座り、わたしはその横にちょこんと座る。
さとみんが、かなりはしたないと思うけど、すこし背もたれの高い会議用机に付属する椅子に、またぐように普通に掛ける向きとは逆に座って、椅子の背に顎を乗せてる。
ヤンキー少年みたいだけど、不思議に似合ってる。
ちなみにスカートの裾はもちろんまくれあがってて、白い脚がかなり大胆に、膝のあたりくらいまで見えてしまっている。
普通に最初からスカート丈が短くて膝上の子もいるけど、それよりこのさとみんの方がなんか挑発的。
志野くんの視線も、もちろんそちらに吸い寄せられてる。
ーー必罰!
「まず一つ。その女の人は、週末、飯場の後に売られるって言ったんだね?」
志野くんが、指を折って確認する。
「そうだよ。だから、ぎりぎりなんだ。」
「是が非でも、土日には実行しないといけない、ってことね。」
「実行委員には後片付けとかがあるんだよね。大丈夫かな?」
文化祭が終わったら、本当は残務整理とかもあるはず。
「それは、大丈夫よ。」
どうにかなると思う、とさとみんが言った。
場合によっては、日曜の午後とか、月曜にやります、ってことで大丈夫そうだと。
実行委員としては、ちゃんと各教室や部活で掃除や後始末ができたか確認する必要はあるけど、少し前まで土曜日午後も文化祭をやってて、月曜日に後始末という部も多かったようだ。
今では申し合わせで文化祭自体は土曜午後はしないようになってるけど、後片付けを延ばすことについては、先生たちも容認しているようだ、とも。
「二つ目で、ーー爆弾?」
「それは、よくわからなかったんだよ。」
さすがに爆弾はないだろう。ーーと思うんだけど。
志野くんも、考え込んでいる。
「爆発、っていうのは比喩かもしれないわよ。何か、やばいことが起きることの。
修験道側がみたら、激怒しそうなもの。それを見て、あの人に怒りを爆発させて、ずたずたにしてしまうようなもの、とか?」
「それは、ありそうだな。」
志野くんも、頷いてる。
そうか。そういう考えもあるのか。
「ただ、変なものを持たされてないか、くっつけられてないか。それは気を付けたほうがいいな。」
爆弾つき首輪とか、バト○ワみたいに、って言ってる。
バ○ロワって、何の名前なんだろう?
「あと、三つ目で。紫藤のお父さんの名前を使えば、ナギさんも呼び出せる?」
「それは、大きいわね。ーー危険だけど。」
二人で目線を交わして、頷いてる。
わたしは、この情報が重要そうだったと知って、ほこらしい気がした。
頑張ったんだ、これを聞き取るのに。
「あと1回、できれば2回は接触したいところだ。」
志野くんは言う。
わたしの本当のお父さんの真意、つまり逃げるかどうか、あとこの機に逃げ出したい仲間がいるかどうか、を確認してもらってるはず。これを聞く。
そして、具体的な逃亡の手筈をすり合わせる。前日か前々日。
一緒に逃げる仲間については、志野くんも迷っているようだ。
「一緒に逃げる仲間がいたら、撹乱の意味でも僕たちには好都合だと思う。でも、裏切り者がいたり、口が軽い奴がいたら、目も当てられない。」
「そこよね。」
さとみんも腕を組む。胸が押し上げられてる。志野くんの目が固定される。
もぐ。えぐる。
そう、心のなかでひそかに決意する。
「あの人と会うんでしょう?
ーーあなた、絶倫で2人必要って設定だったのよね。もう一人、あたしが行った方がいいかしら。」
「わたしも行きたいな!」
「それはダメだ」「それはダメよ」
むう。
疎外感。
「でも、とにかく。誰か付くべきじゃない?」
「さとみんと、わたしで、1回ずつ。どう?」
「まあ、考えさせてくれ。ーーみなりは、見咎められそうなんだよな。」
志野くんが苦笑いしてる。
まあ、今でも小学生に間違われたりするけど。
最近は胸もちょっぴり大きくなったんだけどな。
「その、みなりのお父さんの友達はOKってことだけど、友達の名前とか、把握されてる感じかな?」
「わからないけど、そんな具体的な話してなかった。あと、その話した人は、他の友達とは別みたい。お父さんの他の友達と一緒にいるのは見たことないよ。
でも、もしどうしても名前使うんだったら、我間我さん?」
「あのカエル男か。ーーなんか好みが違う気がするが、しかたないか。」
ただなあ、顔とか知られてないか気になるな、と志野くんが唸ってる。
そうだよね。我間我さんが結構そういったお店で知られてたら、なんか変だ、とか思われたり、別人だって気づかれたりしちゃうかも。
無難に、ただ「友達です」って押し切った方がいいのかもしれない。
「まあ、窓口でいちいちチェックはできないだろうしな。友達です、でだめだったら、別にそれ以上おかしなことにもならないだろうし。やってみるのはいいと思う。」
「ところでそのガマガって、何それ?あたしにも教えなさいよ。」
わたしと志野くんとで、教えてあげた。
たぶんさとみんが激怒する、お父さんがわたしの処女を売り飛ばそうとしたって話は控えて、お父さんの友達がわたしを手籠めにしようとした、って話にぼかしたんだけど。
それだけでも、もちろんさとみんは激怒してる。眉間にしわを寄せている。怖い。
「身の毛もよだつ話ね。それが本当なら、ーーみなり、変なことを言ってごめんなさい。
でも、そんな友達のいるお父様とは、できるだけ距離を置く方がいいんじゃないかしら。」
「そうだな。」
あ!ここで言っとかないと!
「そうだった、さとみん!」
これは絶対に伝えておかないと。
お父さんが、さとみんに執心してるってこと。
妙なトリックで呼び出そうとしてるかもしれない、ってこと。
聞いていくうちにさとみんの目が驚きに見開かれたが、信じてくれたようだ。
「ありがとう、みなり。
そう、この前、あなたのお父様から会って話がしたいってお電話があったわ。忙しかったのもあって、あなたから聞けばいいやって断っちゃって、後から少し気になってたんだけどーー。
やっぱり、断って結果的には正解だったかもしれないわね。ちゃんと気を付けるわ。ちゃんと、ね。」
「おい、変なこと考えてるんじゃないだろうな。君子危うきに近寄らず、だぞ。」
志野くんが心配そうだ。
「ええ。あたしの手に負えなさそうだったら、相談するわ。」
「本当だろうな?手に負えないとかじゃなくて、ちゃんと言うんだぞ?」
志野くんは、やっぱり志野くんだ。
さとみん、危うく見えるもんな。
あ、過保護だと思ってたけど、やっぱりわたしも志野くんの目には危うく見えるのかな。
反省。
明日、さとみんと志野くんはバイクの免許を取りに行くらしい。
こんな時間の余裕がないとは!と、嘆いてた。特に志野くん。落ちたら後がないらしい。
明日はふたりと会えないのか。なんか、さびしいな。
でも、しかたないよね。
部活に行かずに、ちょっと早く上がって、病院とかで志野くんたちに会えないかな。
そう思ったが、口には出さなかった。
「それと、土曜日に抜け出す口実だけど、ーー」
これについても、相談した。これは、さとみんに何か考えがありそうだった。
やっぱり文化祭関係でいくのかな。それが堅実だよね。
ーーーーー
話し合いが一段落して。
文化祭の仕事でさとみんはもう少し残るらしい。志野くんも残ろうか?と言ってたけど、いいわよ任せなさい、とさとみんが送り出してくれた。
さとみん、ありがとう。
病院へと、二人でぷらぷら歩く。
志野くん成分を補充したけど、視覚と聴覚だけなんだよ。
嗅覚と触覚と、味覚でも感じたいな。
そう思って、物欲しげに志野くんを横目で見やる。
志野くんも、こっちを横目で眺めていた。
目線が合って、どっきりした。
志野くんも、もしかして。
いっしょにいたい、ふたりでいろいろしたい、って思ってるのかな?
病院につく。
お母さんに、またいつものように新聞記事で面白そうなのを読んであげる。
あと、今日のニュースを簡単にまとめて話してあげる。
伝わってるのかどうかは、わからない。
でも、もしかすると伝わってるかもしれない。
伝わってたら。
そして、こうやってソファで志野くんを膝枕してたりするのが、バレたらどうなるか、ーー。
うん、もちろんここは病院だ。不謹慎なことはしない。
でも、膝枕ぐらいはしてあげたいよ。
音読を続けていて、ふと思い立った。
膝枕してあげたままで、そっと志野くんの頭の下に敷かれているスカートを、志野くんの頭の重みに逆らいながらずりずりと引いてみる。
恥ずかしいけど、まだ看護師さんは来ないだろう。さっき来たばっかりだし。
ほら、志野くんが硬直したぞ。
スカートを引いて、太腿の半分くらい、いや2/3くらいが出るくらいにまで上げた。
そしてそれは、何を意味しているかというと。
志野くんのほっぺたの半分くらい、いや2/3くらいまで。
わたしの太腿が直接当たってる状態、ってことだ。
生足での膝枕だね。
あ、動かなくなった。
頭の重みがしない。これは、硬直して体重がかけられてないのか、それとも。
ぷしゅう、という蒸気の抜けるような音がした気がするが、気のせいだろう。
そのまま、わたしは新聞記事から教科書へと対象を変えて音読を続け、志野くんは硬直し続けた。
時間がくると、わたしは何食わぬ顔でスカートをずりずりと志野くんの頭の下に強引に戻しいれ、志野くんは無事、解凍された。
ふたりで手をつないで帰る。さっきのことは、お互いに何も触れなかった。
大丈夫、大丈夫。