タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
α版です。また修正や手直しを入れたいと思います。
火曜日。
この日私は、自動二輪の免許を取りに多賀島免許センターに来た。
落ち着いてランドルト環を見つめ、マークシートを塗りつぶす。
視力には自信があるし、学科試験も勉強して対策した。落ちる要素はないと言っていい。
11時に合格発表。思ったとおり。受かってる。
後は、免許証の作成手続が午後2時からだ。それまでは、空き時間。
公欠の方の用事をすませよう。街に行って、文化祭の準備としていくつか手続きをするように頼まれている。
役所関係で、平日昼間が望ましいということで顧問の先生に頼んでねじ込んでもらった。
中身は、役所への協力依頼と、文化祭来場者への配布を依頼されたパンフや啓発物品の受領とか、必要物品の買い出しとか。たいしたことじゃない。
役所の用事を済ませよう。この近所だし、一時間くらいで終わるだろう。物品購入とかは、別に今でなくても構わない。
お昼には戻ってこれるだろう。
今日、志野も普通二輪の一発試験を受けてるはず。どうなっただろうか。
その後、志野は講習とかあるだろうが、お昼休みはあるらしいので、お昼に食堂で待ち合わせの約束をしている。
少しでも一緒にいたいけど。
そう思いながら、速足で私は用事を済ませるべく免許センターを歩き去った。
ーーーーー
役所の手続きを我ながらてきぱきを終えて、小走りで免許センターに戻る。
さて、志野はどうだったのだろう。
事前の約束では12時半ということだったが、少し早く、12時少し過ぎに食堂に行ってみる。
いたいた。
志野の背の高い姿が見える。
おもわず駆け寄りたくなるが、ぐっと自分を抑えて、普通そうに見えるよう、余裕を見せながら歩く。
自分でもつくづく思う。見栄っ張りな性格だ。
しかし、近づくと志野の様子が変だ。
顔色が悪い。ぐったりして食堂入り口近くの壁に寄りかかってる。
体調が悪いのだろうか。
「あら志野、元気なさそうね。落ちた?」
「ああ、調布、ーー」
死にそうな顔色。
心配になり、顔を覗き込む。しかし、志野は狼狽したように目を逸らした。
「悪いが、その、お友達にバイク借りれるか。ボロい原付で構わない。」
「どうしたっていうの?ーー食べながらにしましょうか。」
食切れの可能性もある。とりあえずは、何か食べさせようか?
照明の加減か少し汚れたようにみえる、まずそうな食品サンプルを見ながら、候補を決めて、食券を買う。
日ごろはあまり接しない、現場系の人というか、肉体労働に従事しているだろう人も多い。
食券を買って、窓際の席を取り、二人で向かい合わせに座る。
セルフで取りに行くようになっているが、出てきた料理は結構おいしそうだ。
志野はかつ丼みたいだけど、あまり食欲なさそう。項垂れている。
まるでガラスとかを割ってしまって、親に見つかる前の子供のようだ。
「それで、どういうことかしら。」
「間に合わないんだ、週末までに。」
説明を受けた。
志野は、普通二輪の技能試験と学科試験については自信があったらしい。
どこからその自信が湧いてきたのかよくわからないが、とにかく、そうだったらしい。
別の県だと同じ日に技能試験と学科試験を受けられないところも多いらしいが、私たちの県では午前・午後にそれぞれ受けることができるそうだ。
だから、一発試験も即日に免許交付が可能と考えていたようだ。
しかし、一発試験だと取得時講習を受けなければならない、っていう基本的なことを失念していたようだ。
取得時講習は、つい2、3年前に始まった新しい制度で、一発試験の場合にだけ課されるらしい。
そしてこの取得時講習、一発試験を受けてからでないと受けられない。
あわてて電話をかけまくり、来週中に予約できそうなところを見つけることはできた。
しかしそれでも、来週だ。今日一発試験の技能・学科を受かったとしても、今週末には間に合わない。
「どうするの?」
「受付で確認してな。急遽、原付免許にしたんだ。」
それなら、今日、免許が交付できる。
ただ、原付だから、本当なら人を乗せられない。
無免許か、原付に人を乗せるか。どっちもアウトだ、と。
悩んだ挙句、原付を選んだらしい。
それをいうなら、免許を取りたてで1年経ってない私が人を乗せるのも違反だと思うけど。
どのみち違法行為だ、同じじゃない?
「調布に違反させることは本当に悪いと思ってる。すまない。ただ、町中でチェックされた時にな、即アウトはまずい。免許は必要だ。」
でも、志野の中ではこれら違反、無免許運転と法定期間経過前の二人乗りとは重みがちがうらしい。
志野の妙に細かい主張によると。
無免許運転は刑が重く、懲役刑すらもあるし、罰金も高い。反則点数も高くて、一発で免許取り消し。
原付2人乗りは反則点数1点、反則金が少々。免許取得後1年未満での2人乗りも、罰金と反則点数2点、反則金が少し。
まったく刑の重さ、つまり罪の重さが違うとか。
まあ、確かにそうなんでしょうけど。
「無免許で捕まると、これはもう全く信用がなくなる。だけど、無免許運転ではなく、人を乗せるだけの違反はそこまで重大な違反ではない。ーーしかも、乗せるのは人目のない場所だからな。」
そこで捕まることはないだろう、という読みだ。
確かに。
計画では、人を乗せるのは、タクシーにつなぐまでのわずかな間だけのことになってるし。
しかも、無免許よりははるかにましだろう、情状的にも。
緊急避難的にしかたなく人を乗せるのと、最初から確信犯での無免許運転とでは違う。
「でも、違反は違反だ、調布にはそんなことをさせてすまないと思っている。いずれ、終わったら埋め合わせさせてくれ。
それでな。僕が引き渡しを受けるはずだったバイク、」
志野が、情けなさそうな顔をする。
そそる。虐めたい!
「ニーハン、じゃない225ccのオフ車なんだ。」
だからな、原付免許じゃ乗れないんだよ。頼むよ、と。
志野の申し訳なさそうな、困った顔に、きゅんとしてしまった。
うん、もっと困らせたい。うずうずする。むらむらする。
自分の衝動を、どうどう、と抑えながら、いいわよ、と請け合う。
志野が落ちる可能性を、私は想定していた。
というより、私は志野が一発試験に落ちる可能性を全く考えていないことに疑問を持っていた。
レディースってほどじゃないけど、不良に片脚突っ込んでて、私がバイクを借りる相手である悪友のカゴちゃんも、一発試験は難しいと言ってた。
だから、カゴちゃんには、念のため予備も確保しといてね、って頼んである。
225っていうと。もしかすると。
「セ○ーかしら。」
「よくわかったな。」
そうじゃないかと思った。
カゴちゃんとその仲間たちから借りれるバイクの中では、一番おとなしいっていうか、今回の目的に合ってるやつ。
「あれならな。いざとなれば山に入れるし、いいと思ってたんだけどな。」
残念そうだ。
「あたし、それ借りるかもしれない。もう一台は、原付ね。スクーターじゃないと思う。」
「どんなんだっていい。ただ、原付については荷台が欲しい。」
人を乗せなきゃいけないからな、と言っている。
まあ、頼んでみよう。
あるいは、バイク3人乗り?
そっちは避けたい。免許取り立ての私のテクニックはたいしたものじゃない、2人乗りですら怪しい。
「さて、行ってくるか。午後は実技講習なんだ。ーー公欠の用事、何かあるのか?」
「あたしは、もう済んだわ。あなた、何時に終わるの?」
「3時半かな。免許はその時もらえるはずだ。」
「あら奇遇ね。あたしもそのくらい。ーー一緒に帰りましょうよ?」
平然とした風を装って、そう誘ってみる。
どきどきする。志野は、ーー。
「ああ、是非頼む。ーーそれに悪いが、実はちょっと付き合ってほしいんだが、いいか?」
「あらいいけど。いいのかしら、あたしに頼んで。高くつくかもよ?」
軽くいじってみる。
情けなさそうに、お願いします調布様、と言っている。
楽しい。
ーーーーー
志野は実技講習。あたしは、空き時間。
午後の空き時間で、部活関係の購入物品の手配をする。
それが終わると、私は、公衆電話で生徒手帳にメモしておいた、
誰も出ない。まあ、今は仕事中なのだろう。夕方以降、また掛けてみよう。
みなりには心配をかけたくないから、気づかれたくない。
志野には、ーー後で相談した方がいいだろうか?
ーーーーー
予定時刻になり、無事に免許が交付された。
写真は思ったより写りはいいのだが、少し目つきの悪い、鋭い顔にみえる。でも、まあ仕方ない。
思った以上に、じわじわと喜びが湧き出てくる。
よかったかも、しれない。
バイクの免許なんて、多分自分ひとりじゃ絶対思いつきもしないし、取らなかっただろうものだ。
うちの県も、「3ない運動」で、免許なんか取らせないって姿勢だし。
だけど、これで日本中どこにでも行ける、誰にも頼らずに行けるって考えると。
自由だ。そう、ふわふわして浮き上がりそうな、全能感と幸福感を感じる。
志野も、原付とはいえ無事免許を手にできたようだ。
まがりなりにも免許を得て、少しはテンションが上がってきたらしい。
お昼の時よりは相当、マシな顔になってきてる。
「それで、どこに行くの?」
「公欠の仕事を頼まれててな、ーー」
結局、普通に下校してもできる時間帯になってしまった。と嘆いている。
なるほど、私の用事と似たようなことね。
この近所にある、親交のある高校のESSへの協力依頼。そんなことか。
早く行きましょう。
ーーーーー
志野がしゃべるよりも、私がでしゃばってたくさんしゃべってしまったかもしれない。
北高のESSの人、きっと私が中央高のESS部員だと思ってるだろうな。モグリなんだけど。
志野が多賀島北高校という、この近所で四天王とか言われたりする名門校の一角のESSに挨拶に行き。
対応で出てきたちょっとかわいい女の子にへどもどしているのを見て、思わず介入してしまった。
でもESSも、悪くない。なんか面白そうだし、勉強になりそう。
入ったら、志野と活動できたりするだろうか。それもいい。
そんな不純な動機を抱きつつも、用事は済ませた。
まだ日は高く、蒸し暑い。
「さあて志野、分かってるでしょうね?」
「はいはい調布様、ありがとうございました。ーーまた、レアチーズケーキセットでいいか?」
「あれ、美味しかったわね。でも今日は、冷たいもの気分なのよね。」
「クレープとか?」
「かき氷でいいわよ。」
クレープ?そんなお洒落なもの、この辺にあったかしら。
道を通るときに目星をつけておいた、かき氷の旗を出していた古びた喫茶店に入る。
さして風情はない。壁際に2台ほどピンボールの台。奥にダーツ、そしてその付近だけテーブルがインベーダーゲームと麻雀のゲーム台になっている、どこにでもある古びた喫茶店。
不良っぽい少年も数人いて、こっちをじろっと見る。
志野は思ったより度胸がある。
敵意のこもった視線をまったく意にも介さずに、堂々と席を決め、私を上席にエスコートする。
かき氷を選ぶ。私はブルーハワイ、志野はいちご練乳を選んだ。
若い時はきれいだったんだろうな、という店主の小母様が愛想よくかき氷を削ってくれて、持ってきてくれる。
結構大きい。すごく暑かったから、テンションが上がってきた。
「いただきます。」
「おう、いただきます。ーー少し、味見するか?」
志野は数口食べたところだ。だけど、まだ口をつけてないところから取ればいい、大丈夫だ、と私に勧めてくれる。
私は思い立って、わざと腕を回り込ませ、志野の食べたところからスプーンで削って、上目遣いに口に含んで見せた。
志野がぽかんという顔をして、瞬きを繰り返し、そして顔がじわじわ赤くなってきた。
いけない。私もだ。
ななめ後ろのヤンキー少年たちの席から、舌打ちが聞こえるが、もうどうでも良かった。
口に含んだ、冷たく、甘い味。
ーー志野の味。
それからは普通に食べた。少しだけ、上の空で。どうでもいいことを言い合いながら。
こめかみが痛くなったが、幸せだった。
かき氷を食べ終わると、少し寒くなる。志野に断ってトイレに行って、少しだけ髪などを整える。
戻ると、なぜかときどきムカついたように「チッ」とか聞こよがしに言っていた不良たちの態度が改まっている。うつむいて、私たちと視線が合わないよう、手をついた膝に神妙に目を落としている
志野は、この変貌ぶりに無関心で、何も変わったこともないという風情で、窓の外を眺めている。
暑い日だ。道路にゆらゆらと陽炎が立っている。
「お待たせ。志野、行こうよ。」
「ああ。それでだな、その、ーー」
決まり悪そうだ。分かってる。行きたいんでしょう。
「わかってるわよ。あの女の人のところでしょう?」
「よくわかったな。」
ただな、と言って私を見る。
私はさすがに免許を取る必要上、制服は避けて私服にしていた。
ただし役所を訪れる必要上、おとなしめの私服にしていた。見た目は、大学生っぽく見えると思う。
これで色街に行くと、浮くかしら。
「なあ。その、お礼と言っては何だが、服を買わせてくれ。」
「?」
「ただな、その、」
挑発的な服になるよな。
それを聞いた私は、にんまりと笑う。
ああ、悪い予感がするぞ、という戦慄を表情に表している、志野を見つめながら。
ーーーーー
女の子の買い物は、時間がかかる。
でも私は目星をつけていたので、ほとんど時間はかけなかった。試着も入れて、10分少し。
「これにするわ。ーー悪いけど、靴下もお願いできる?」
「あ、ああ。似合ってるよ。」
彼は少し、怯えた目で頷く。
まあ、揃えて1万円程度。ブラウスは買う必要ない。
志野が、渋谷1○9に入ってたシークレ○トハニーや、ブルー○ーグ系だな、と独りごちた。
何それ知らない。
私には合わないだろうけど、少し憧れていた。
アリスっぽいっていうか、お人形さんっぽいっていうの。
清楚系なのだが、スカートは短めで、あざとくかわいい。手首だけのカフがついてる。
そしてそれを身に着けた私は。
鏡の中を確認する。
かわいいと思う。けど、それ以上に。
自分でも凄愴と思うくらいの迫力があった。
あざと清楚な膝上の濃紺のワンピースの、白いレースに縁取られた裾から、艶めかしく脚を見せつける。
ちょっとシャツの胸元を開け、気崩してみる。志野の視線を感じる。
基本的にはかっちりした服装なのだが、微妙に崩すとなんともいえず淫靡にみえる、と思う。
肌を男に見せるのは、好きじゃないのだけれども、それとは別に。
一度は、こういうベタな、そそる服で冒険してみたかった。
それでも会計まではきちっと着こなして。
着替えたまま会計してもらい、トイレに数分入り、ツインテールに髪型を変えて戻る。
志野が、こちらを見たくて、でも直視できないでいる気配。
わざとらしく腕を絡めて、胸を押し付け、媚を含んだ笑みで迫ると。
トマトのように赤くなって目をそらした。
心の中の何かのゲージが、くいくい、と押し上げられる。頬に自然に笑みが浮かぶ。
楽しい。
志野が、店に電話をかけている。
ウィークデイなのに、風俗店にもかなりの引き合いがあるみたいだ。
ちょっと冒険ではあるが、みなりから聞いた情報を使ってみることにした。
志野が、前一度利用したことある、あとイサムから聞いたけど、その子は連れ出して責めプレイができるときいた、とか言っている。
いつも思うが、志野はこういう小芝居が上手い。本当に放蕩者の中年男性みたい。
店からは、あっさりと連れ出しOKが出たようだ。
ホテルは、この前とは違うところにしたらしい。盗聴を警戒してのことだろうか、シティホテル風でグレードが高めのホテル。その中でもかなり高価な部屋を取る。
送迎は、この前とは違う男が来た。わざわざ部屋まで来るのは、やはり警戒されてのことだろう。迎えも部屋まで来る、と言っている。
体つきはがっしりしているが、ちょっと死んだ目の男。あまり人というか、こちらに関心はなさそうだ。
あまり芝居をする必要もないかもしれない。
思う以上にスムーズに、引き渡しを受けた。
この前の女の人、ーー
かちり、と音を立てて。
なぎさんが、身を竦ませ、俯いた。
所在なげに、ショルダーバッグをぎゅっと身に引きよせて。