タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
89 前夜祭(1)(紫)
ちょっとミステリアスだと最初は思っていた、クールな志野くん。
その知られざる
ーーなんと、ちょっと女の子の肌を見ただけで鼻血を噴き出す、純情チェリー少年だったのだ!
わたしは、そう頭の中の記憶画像にテロップをつけて、ひそかに思い出し笑いを浮かべた。
もう暗くなりかけたバスの窓の中に映ったわたしも、楽しそうに笑いを浮かべている。
志野くんも、うん、努力してるよ。
ほんの数日前は生足で膝枕しただけで硬直してた純情少年が、今日はがんばって自ら頬を付けられるようになったんだ。大進歩だよ。
でも。
ちょっとそこを見ただけで鼻血ブーなのはやっぱり、鍛え方不足(?)と言わざるを得ないね。
千里にも劣る。よわよわだ。
いや、それが悪いという訳じゃないんだ。どちらかというと、変にスレてなくてうれしい。千里並みになんか、なってくれなくていい。
でもあと学期末まで何回か、志野くんを鍛えないとな。
でないとあのとき、出血多量で救急車を呼ぶはめになる。
うんうん、と頷くと、ガラスに映った私も考えぶかげに頷いた。
窓ガラスに映る、使命感に燃えた瞳と、視線を交わす。
気があうね、鏡の中のわたし。
ーーーーー
ロータリーでバスを降りる。
あ、ゴウジたちがいる。
こんなに暑いのに、よく長時間外でいられるね。
でも。
ゴウジはわたしを見ると、どこかまずいところを見られた、というような表情で立ち上がる。
「オラァ、行くぞ。」
周りの取り巻きを促して、移動しようとしている。
「えー、どこっすか。」
「カツジさんとこ行くなら、女の子連れて行った方がよくないですか。」
「前みたいに、誰かひっかけましょうよ。あ!ちょうど、あの子、ほらゴウジさんが前、言ってた、ーー」
こっちを指差した不潔そうな男子。その頭を、ゴウジがはたく。
男の子がよろけるくらいの、結構な勢いで。
「やめろ馬鹿っ!ーーまた今度にするぞ、おら行けっ!」
あわただしく行ってしまった。
特に最後の男の子、耳引っ張られてたな。
うん、この前からこんな感じなんだよ。
理由は不明なんだけど、わたしにはかかわろうとしなくなった。
志野くんのせいで?わたしがこの前、彼女さんになんか話したせいで?
よくわからない。
まあ、わたしもゴウジがこっちに来たら挨拶だけして逃げるつもりだったから、手間が省けたけどね。
ーーーーー
家に帰る。今日は平日なので、多分悪のドラ○もん女は来ない。
ただ、それで気が楽なわけではないんだ。
しかし。今日に限っては。
「お父様、ただいま帰りました。」
「お帰り、みなりちゃん。また見舞いかな。」
なんだ?不気味だ。
お父さんが、はっきりわかるくらい上機嫌だ。
「はい、お父様。遅くなってしまい申し訳ありません。」
「ああ、いいんだ。毎日大変だな、」
おかしい!
まともな返答が帰ってくる!
「俺はもう、飯は済ませたからいい。風呂だけ頼む。ーーそれと、明日と土曜日が泊りだったか?気を付けることだ。」
「はい、お父様。」
変だよ!
心づかいの言葉なんて!
「俺は金曜夜から日曜まで、羽立毛に行ってくる。家をあける。ーーあいつには何か食べるものでも残しておくといい。」
「はい、お父様。」
じゃあな、と手を振られた。
何か変だ。すごく変だ。
お父さんが上機嫌なんて、こんなに普通っぽいなんて。
しかも、わたしを触ろうともしなかった。何があった?
一礼して退出し、すぐにお風呂を準備してから2階に上がる。
「ねえ千里、なんかあったかわかる?」
家の服に着替えながら、千里に聞く。
あの買ってもらったデニムのワンピース。丈夫だし汚れてもあまり気にならないし、重宝している。
千里はいつものように扇風機に当たりながら転がって本を読むふりをしながらわたしの着替えを見ていたが、本を置いてこちらに顔を向けた。
最近、反抗期っぽさが抜けてきたかな?
ちょっと前だったら、無視するか、ビッチ呼ばわりして喧嘩売ってくるか、ろくでもないプロレス技掛けてくるかだっただろうけど。
最近は、鳴りをひそめてる。
ただ、着替えの時は目線を感じるし、お風呂前後はなぜか洗面台付近で頻繁に目撃される。
まあそのくらいは仕方ないよ。弟だしね。
「いや、みなり姉と違って、オレあいつと話さないし。ーーあ、」
「何?」
「そういえば昨日、みなり姉が帰る前に電話受けてた。ーーちょっと廊下に出たとこで、たまたま聞こえた。」
さとみんの電話?それとも、その羽立毛に行くとかいう用事で何か電話を受けた?
「それからかなあ。でもまた別の電話とかあったのかも。オレが帰ってからも何か浮き浮きしてる感じだったよ。さっきも、何か楽しそうに電話してた。何か貸せって言ってた。」
なんだろう。さとみんと志野くんに、明日言っておこう。
不気味だ。まあ、お父さんの出張(?)は、渡りに船ではあるのだけれど。
明日から日曜日まで、わたしも外泊してもいいってことだ。
もちろん明後日の夜は許可がないから、アリバイ工作がいるかもしれないけど。
ーーーーー
お父さんはそれからしばらくして、入浴してから引っ込んだ。
わたしと千里は、下に降りてきて、わたしが準備した夕食を食べている。
ちゃっちゃと適当に作った野菜炒めと魚、ごはん、みそ汁。ごく普通だ。
この前買い物でいろいろ仕入れた。だから冷蔵庫に食料は潤沢。
千里も、牛さんの顔が簡略化された家の窓から出て、こっちに笑いかけてる図柄の牛乳をごくごくと飲んでいる。
うん、たくさんカルシウムを取って背を伸ばすといいよ。
「みなり姉さあ、その後、あののっぽさんと付き合ってるの?」
「のっぽさん、て。」
志野くんだよね。でもそれじゃ○HKの幼児番組のキャラクターみたいだよ。
「まあ、志野くんとは、付き合ってるっていっていいのかな。」
学校はもちろん、お見舞いとかで毎日顔を合わせてる。
偵察も一緒に行ったけれど、あれも後から考えると楽しかったな。神社とか、全部が終わったらお礼詣りにもう一回行ってみたい。
そんなことを考えながら千里に説明する。ちょっと口数が多くなってしまったかもしれない。
あわあわといくつか志野くんのいいところを挙げる。
女の子と付き合うのにt慣れてない、純真な少年であることに話がいくと、なぜか千里の機嫌が良くなった。
なんか、上から目線っていうか。
「そう。まあいいんじゃねー。」
言葉はそっけない感じだが、千里はまあまあ喜んでいるっていう感じだよね。
どんな心境の変化だろうか。
その後わたしは千里の後に入浴した。暑いから汗もかく、やっぱり入っておかないとね。
千里は多分何かポケットに入れたまま服を洗濯機に突っ込んでしまったのか、洗濯機のあたりをごそごそしてた模様だったが。
だけど、なぜかいつもと違い、なにかカエルがつぶされるときのような声(※イメージ。つぶしたことなんてないよ。)を上げ、わたしの風呂上がりを待ちもせずに二階に戻っていった。
なんだろう。何かなくし物でもしちゃったのかな。
ーーーーー
十数分後。
風呂を上がって二階に上がったわたしは、打ちひしがれた千里の姿に衝撃を受けることになる。
ベッドにうつぶせに力なく横たわっている。
つぶされたカエルのよう(※イメージ)。
こちらを見ようともしない。
何があった!?
「千里、千里っ!大丈夫!?」
呼びかけても、顔を埋めたクッションの向こうから「ああ」「うう」という生返事が聞こえるだけ。
熱射病だろうか?食中毒だろうか?
無理やりよいしょよいしょと千里を回転させ、仰向けにする。
クッションを取り上げるが、いつもと違い、千里は顔を反らそうとする。
無理やり両手で千里の顔を挟み、千里の額に自分の額を当ててみる。ちょっと熱いが、そこまで異常に熱い感じはしない。
なぜかいつもはこういうときウザく抱き着いてきたり唇を押し当てようとしたりと余計なことをしてくる千里が、今日に限ってはイヤイヤして泣きそうな顔で額を外そうとする。
ーー変だ。
ーー今日は、わたしの家の人々が、すべて変だ。
しいて言えば少し熱っぽい気がしたので。
念のため、何かのおまけについてた保冷剤を手拭いで包んで千里の背中に放り込んだ。
千里はしばらく、雨上がりに熱いアスファルトの上に出てきてしまったミミズのようにのたうち回っていたが、静かになった。
「負けた、負けたよ!ーー」
あの魔王トコに。
そう、言っているように聞こえたが、やがてすうすうと寝息が聞こえ始めた。
きみは何と勝負してたのかな。魔王?友達とRPGでもしてたのかな?
そもそも、ちゃんとはみがきしたのかな、千里は。
でもまあ、どうも体調不良ではなかったらしい。精神的な打撃ってところだろうか。
まあいい。千里が変なのは、よく考えたら今日にはじまったことではない。
それにこのくらいの年頃の男の子って、どっかしら変なものだって聞くしな。
わたしは首をひねりながらも、自分もはみがきをして寝る準備をするのだった。
ーーーーー
翌日。
わたしは着替えやアメニティグッズを少々詰め込み、いつもより少しおおきく膨らんだスクールバッグを抱えて学校に向かう。
駅に着いて、人並みに乗って学校に歩く。途中で顔見知りの友達と一緒になって、文化祭の出しものについてしゃべったりしながら歩く。
学校に到着。
午前中は普通の授業。だけど、みんなどこかしら浮足立ってる。
あまり文化祭には興味なさげだった男子も、午後から授業がなく文化祭準備なのはうれしいらしい。
ようやくエンジンがかかってきた気配。
設営とかの力仕事は、志野くんと青山くんが音頭を取って男子に割り振る。
仕事を振られた男の子たちも、えー、とか言いながらも、うれしそうに机を運んだり、天幕みたいに布を張り巡らせたりしている。
きっと、非日常的なのがいいんだよね。
いらない机を片づけて、テーブル代わりの数個を島に配置し、間仕切りを置く。
わたしたちの企画。最終的には、お茶を主テーマに据えて、心理テストやファッション文化紹介を従にしている。
お茶以外の飲み物、たとえば古代ローマのポスカとか、トルコのアイランや古代中国の酪とか、いろいろ種類を増やそうかとも思ったけど、服装とかのフォローが大変だし、文化祭のガイドラインに外れるからやめた。食中毒怖いしね。
結局。緑茶以外には、中国文明にからめて中国茶、英国とインドにからめて紅茶というあたりを紹介。
どれも、文化祭のガイドラインどおり、熱湯で淹れることができるものだけだ。マテ茶とかルイボス茶とかも考えたが、今回は断念。
お茶を出すだけなので、調理等の設備はいらない。しいて言えば、熱湯を入れた電気ポットが数台。あと、お茶うけのクッキーみたいなお菓子とか少々。
女の子は、気が早くも袴とチャイナドレスとサリーと英国風のメイド服に着替えて記念写真撮影。
あ、もちろん男の子も衣装はあるんだ、ノリのいい人が着ていじられてる。
学級の方の文化祭準備は4時前には終了。みんなで、先生を囲んで記念写真をする。
先生によると、異例の早さらしい。しかも内容も充実してそうだ、と他の担任の先生から羨ましがられているらしい。
他のクラスだと、結局、机を使った迷路のタイムトライアル、みたいな定番泥船企画もあるからね。
文化部所属でない子たちは、仲のいい子たちで、三々五々帰っていく。
準備も楽しかった。いつもはしゃべらない子としゃべったりできたし、クラスのまとまりもよくなった気がするな。
さて、クラスの準備が終わると、わたしとかさとみんとか、文化部所属で発表企画がある子たちは、そっちに行くことになる。
わたしは今回は、お母さんのこともあったので、文芸部の方の実働は免除されてる。
ただ、アイデアはいくつか出したし、採用もされたよ。
今日、宿泊許可を取ったのも、形式上は文芸部のためってことになってる。だから、一応は後でお手伝いに行くつもりだ。
宿泊所は、普通の文化部は校内にある謙心館という名前の格技場を使うことができる。
男女別で、ぎちぎち詰め込めばそれぞれ30人くらいは泊まれると思うけど、実際には泊まる部はそこまで多くない。
文化部だと、そこまで力入れないしね。ただ、生徒会は泊ってるとか、ハルカちゃんに聞いたような気がする。
そして文芸部を含めていくつか、例の旧管理棟5階の部室(和室)を持ってる部活は、そこを使うことができる。
それ以外の部も、一応、顧問の先生が認めてくれれば、一応、簡易ベッドを借り出して部室でも泊まれるってしてたらしい。ただ、こっちの実績は近年、ほとんどないとか。
それもあって、今回、志野くんはESSでさとみんは美術部だけど、特別に文芸部室への宿泊を認めてもらった。文芸部の例の部室、安全上の配慮からも、どうせならたくさんで使った方がいいでしょう?っていうことで。
ちなみにハルカちゃんも参加だ。
ただ、男女同室だけど衝立を使うように、とか、いろいろ釘を刺された。
まあ純情少年の志野くんだし、大丈夫なんだけどね。
楽しみだ。
文芸部の発表は、ボードゲームのデモ、マジック、面白いファンタジー小説の紹介特集とか。相変わらずまとまりないね。
紹介記事は壁新聞スタイルで貼って、机に手に取って読めるように本の実物を置く。それくらい。
前日に慌ててやるようなことは、実はあまりない。
さとみんのところでも覗きに行こうかな。
ーーーーー
さとみんは絵を描いたらしい。ポスターも。
そうか、このトランペットから波動砲が発射されてるようなポスター、さとみんが書いたのか。
なかなかいいと思うよ。
美術部は彫刻とか陶芸とか、いろいろある。さとみんが、簡単に案内してくれる。
もちろん当日も来るつもりだけど、シフトとかを計算するとあまり自由時間なさそうだし、こんな風に解説とかしてくれると興味深い。
よくわからない現代美術みたいな造形もあるけど(さとみんも、よくわからないって言ってた)、油絵とかは相当に写実的で、ちょっと離れてみると写真よりすごい絵もある。
これをわたしとそんなにかわらない年齢の子が描いてるんだ。すごいよ。
さとみんの絵だけ、まだ布をかけてある。恥ずかしいからまだ見せたくないとか。
意外と乙女だね。
ーーーーー
その後、美術室の展示調整を終えたさとみんとわたしは。
旧本部棟4階の文芸部の展示を一緒に見て、5階の文芸部の和室に移動した。
6時過ぎになって、ようやく志野くんが部屋ににやってきた。
ちなみにここに泊まるのはわたし、さとみん、ハルカちゃん、志野くんの4人だけだ。
わたしたちの寝る領域は、衝立で区切ってある。もう布団もしいてあって、わたしとさとみんは適当に横たわってぐだぐだしてた。
ハルカちゃんは生徒会だからかなり遅くなるって言ってた。
展示の確認とか、ポスターの確認とか。大変だ。
でも一緒にごはんを食べに行きたいな。
「お邪魔します。ーーっと、ここは僕でいいのかな。」
志野くんはドアをノックして、少しおっかなびっくりしながら入ってきた。
ESSの英語劇の最後のリハーサルしてたって言ってたな。練習する時間、十分とれたのかな。
「志野くん!こっちだよ!」「あら志野。遅かったわね。あなたもこっちに来る?」
わたしは考えなしにぶんぶんと手を振って誘ってしまったが。
さとみんは、どこか含みのある笑顔を浮かべて志野くんに呼びかける。
「い、いや遠慮しとくよ。僕のぶんも、衝立と布団借りていいかな。ここらへんに布団置きたいけど。」
「いいんじゃない?ただ、やっぱりもう少し中の方で、水道から遠い方がいいと思うわ。お手洗いとか行く人で夜中に起こされたくないでしょうし、行く人も気兼ねしちゃうんじゃない?」
「そうだな。--僕も、その奥の方にしとくよ。」
志野くんはわたしたちの布団のある角(入り口から入って一番遠い左手奥の角だ)を一瞥したあと、その隣の角、入り口から入って右手奥の角あたりに衝立を適当に置き、布団を置いた。
わたしたちの衝立は隙間なく囲んであるけど、志野くんのは適当だ。
「ハルカちゃんが来たら、食べに行こうよ。それとも、ピザとかデリバリーとか頼む?それともテイクアウト買い出しに行く?」
「ピザとかもいいんだけどな、なんか後でお腹すきそうなんだよな。」
「正門右の方に行ったところの中華料理の西福楼、美味しいって聞いたわ。そこでもいいんじゃない?」
わたしとさとみんと志野くんとで、文芸部においてあったいくつかのデリバリー対応の料理屋さんのメニューを見比べてわいわいと候補を出し合う。
ああ、確かに中華の点心とかもいいかもな。
部屋の真ん中にちゃぶ台を出して、わたしたちはいろいろと検討を重ねるのだった。