タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
少し時間がさかのぼりますが、二つ前の話で開かずの間で紫藤といちゃついて鼻血を出し、病院を訪れて紫藤を見送って帰宅した後の時点からの、志野視点の話です。
紫藤と病院を訪れ、紫藤を見送り、家に帰って宿題等を済ませて、寝る前の自由研究時間。
僕は東京の姉から来た第2弾のレポートを見ていた。
資料等は結構たくさんついてきたが、目を惹く情報は見当たらない。
姉には、あのヘンテコな切り株タコの依頼もしないといけないかな?
さすがにあれは、ファンタジー世界かスペースオペラの住人だろう。
うん、ファンタジーRPG世界やSF世界。
そこらへんだったら、あんなのもいるだろうな。
けどな。この世界は現実世界だしな。
ーーいや、まてよ?
あんなものがいるということ自体が、この世界がファンタジー世界・SF世界という証拠なのではないか?
だとしたら、あるいは!
僕は炎殺○龍波を発するべく、気を溜めた。
気合とともに、気を放出する。
何も出なかった。
分かってた。一抹の希望は、潰えた。
現実は、みもふたもなく現実的だ。現実は、現実でしかない。
せっかく放出できたときに被害が出ないよう、方角も気を使ったのにな。
ーーいや、現実でいいんだ。
僕は自分の脳の作り出した夢の中で紫藤を救いたいわけじゃない。
現実世界で、現実に生きてる、普通の女の子の紫藤の運命を変えたいんだ。
その試金石が、今週末の作戦だな。
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精神的ダメージを感じつつ、姉の手紙を再読する。
彼氏とか、できたのかな。それをうかがわせる情報は何一つない。
姉もしばらくは期末試験準備などがあって忙しいようだ。
ちょっとひまになった時期に、タコさんの方を依頼しよう。
あと、夏休みには東京に行きたいな。いろいろ調べたいことがある。
今年は、姉は帰省するのかな。
去年は姉も新入生ながら、バイトとか入れて、サークルの行事に出てたりして、お盆前後に数日だけ帰省してたっけ。
もし僕が東京に行けるのなら、母校(将来の母校?もうこの2回目の世界だと、母校にならないかな)も訪れてみたい。
1回目でお世話になった教授とか訪問したり。ーーいきなりだと駄目だろうな。
純朴そうな地方の一学生を装って、アポとって訪ねるか。
この時代、まだメールが普及してない。連絡は大学の事務を経由するしかない。
教授がパソコン通信とかしてくれてたらいいんだが。
期待薄だな。あんまりそういうタイプじゃなかった。
むしろ携帯電話とか、忌避してたタイプだった。
ゼミの仲間とか、サークル仲間とかも会いたいけどな。
今頃元気に高校生やってるだろう、会う口実すら浮かばない。
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翌日。着替えセットとかを持って、泊まると伝えて家を出た。
もちろん、全員が泊まったりするわけない。泊まるのはガチの部くらいだな。
泊まれるって聞いて、最初はみんなやってみたいって思うらしいんだけど。
宿泊場所とかの現実を知ると、まあいいや、となってしまうらしい。
泊まる場所、男だと柔道場で基本は雑魚寝だし。
ただ、文芸部とかの自前の和室持ってる部は、結構毎年泊まってるらしいんだよ。人数は波があるらしいけど。
今回、僕と調布も無理を言ってそっちに混ぜてもらった。
ただ面子は、僕と調布と紫藤と国領。
例の悪だくみメンバーになってしまった。
ある意味、好都合なんだけどね。
学校に着く。靴箱で、紫藤に遭遇する。
紫藤は、いつものスクールバッグにいろいろ詰めこんできたようだ。
「おはよう!志野くん!」
いかにも楽しみにしてる、って気配が伝わってくる顔だ。
僕も思わず笑顔になったよ。
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午前中は普通に授業。ただ、みんなあんまり集中できてない。
午後からは文化祭準備だ。
茶器のセット(贈答品などで余ってる、使っていないものを提供してもらった)を再確認、洗浄。
女の子たちが衣装を着てリハーサル(?)してる。
僕は男子と会場設営。机を半分運び出し、残り半分を使いテーブルもどきをセット。
必要なのはお茶用のお湯と出来合いのお菓子程度だけ。クッキーとかお煎餅とかしかだめなんだ。生菓子禁止。
実際のオペレーションも、教室と流しとの間をワゴンで往復して茶器の洗い物などを済ますことになる。クッキング講座をやる生活部を除いて、調理とかはしないことになってるんだ。
あと、壁にお茶や各地の類似の飲み物の歴史や現在、効用、豆知識など、壁新聞スタイルで貼っていく。
調布を含む絵の上手い数人のイラストつき。
かなりの作業量だが、青山のカリスマもあって、なんとか全部4時前に片がついた。
これでまた役割確認して、記念写真をみんなで撮って、解散。
これからは各文化部の作業だ。
紫藤と調布とは時間を決めて待ち合わせることにして、僕もESSへ。
こちらは教室を借りてスクラブルというボードゲームのデモンストレーションをするグループと、英語劇のグループと。
こちらの会場設営は簡単だ。
部長さん含め、英語劇について打ち合わせをした後、解散した。
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すべてを終わらせて、文芸部の和室の方の部室を訪れる。
ノックをする。いや、いきなり開けて女の子たちの着替え中にハプニング遭遇って、夢はあるんだけどな。
僕はそういうラブコメ主人公補正はないだろう。炎○黒龍波も出せなかったし。この世界は現実なんだ。
調布あたりに折檻を受けるのが落ちだよ。
あ、でもエロい折檻受けるのはいいな。パロスペシャルとか、三角絞めとか。
アホなことを考えつつ、いいよ!という紫藤の元気そうな声を聞いて部屋に入る。
部室の左手奥の一角は、すでに衝立で一部区切られており。
すでに、おそらく紫藤、調布、そして国領の布団が敷いてある。
衝立は一部開いていて、紫藤と調布が寝そべってくつろいでいるのが見える。
紫藤はまだ制服、調布は学校指定のジャージ。
紫藤はうつぶせで、ひじをたてて上半身ちょっと起こした姿勢。あの格好、脚ををぷらぷらさせてたのかな。
調布は横に右脇を下に寝て、曲げた右腕で頭を支えた格好。腰の豊かな起伏に目がいってしまう。
女の子たちの弛緩して横たわる姿に、見てはいけないプライベートに踏み込んだ気がして、どきっとしてしまう。
それにしても、よく同室宿泊認めてくれたな。僕が覗きとかしたらどうするんだろう。
いや、たぶんその場合に怖いのは学校じゃなくて調布だ。
いろいろ丹念につぶされそう。玉とか社会的地位とか。
「お邪魔します。ーーっと、ここは僕でいいのかな。」
入口ちかくの程よいところに、荷物を下す。
あまり接近した場所に自分の場所を定めるとな。
紫藤と調布は僕のことを好きだって言ってくれてるけど、さすがにべたべたくっつくとな。
空気読めてねー、って思われそうだし。
「志野くん!こっちだよ!」「あら志野。遅かったわね。あなたもこっちに来る?」
紫藤は、元気に無邪気に誘ってくれる。
調布は、ーーちょっと含みを持たせて、からかい半分に誘ってくれる。
怖い。
誘いに乗ったら何をされるかわからない。
「い、いや遠慮しとくよ。僕のぶんも、衝立と布団借りていいかな。ここらへんに布団置きたいけど。」
僕には衝立いらないかもしれないけど、でも着替えとか見せつけるのもセクハラだよね。
そう思って、部屋の中心を挟んで対角線にあたる、入り口にほど近い場所を主張しようとしたのだが。
「いいんじゃない?ただ、やっぱりもう少し中の方で、水道から遠い方がいいと思うわ。お手洗いとか行く人で夜中に起こされたくないでしょうし、行く人も気兼ねしちゃうんじゃない?」
調布の言葉に、考え直す。
確かにな。
夜中起きだす予定はないけど、女の子たちのトイレを妨げちゃいけない。
「そうだな。--僕も、その奥の方にしとくよ。」
僕も、入り口から見て右奥の角に居所を定めた。
ふとんを押し入れから取り出し、適当に広げる。
衝立も、適当に取り出して2、3個置いた。
「ハルカちゃんが来たら、食べに行こうよ。それとも、ピザとかデリバリーとか頼む?それともテイクアウト買い出しに行く?」
食事か。
国領もいるからな。今、決めることはできないんだが。
お腹は空いてきてしまった。ピザとかの軽いものじゃなく、ちゃんとしたものが食べたい。
今日の門限。外出からの戻りは9時まで、それ以後の外出はできない。
ただ、外食するには時間不足かもな。国領の合流時刻次第だけど。
デリバリーで取るか、テイクアウトができるお店に電話注文して、取りに行くかな。
出前でもいい。勤めてたときは残業で遅くなることがあると、溜池の洋麺店とか新橋の中華料理店の出前を、隣の係にいた同期のそこそこ仲の良かった男と一緒にとってたっけ。
懐かしい。
文芸部で使ったことのある出前のできるお店のメニューを検分する。
ほほう、お寿司を取ったこともあるのか。
まあ、安めのプラスチックの寿司桶に入って届けられるあれだけど。
ちょっと魅力的だな。
活発な足音がカンカンカン、と鉄の階段を駆け上ってくる。
間違いないな。これは、
「遅くなってごめんね!終わったよ!」
国領だ。思ったよりは早い。
ちょっと汗ばんでる感じ、いろいろ走り回ってチェックしてきたんだろう、調布と同じジャージ姿だ。
制服以外の姿は初めて見るかな。新鮮だ。
「ハルカちゃん、お疲れ!」「お疲れ様、ハルカ。」「おう。」
声を掛ける。
「ハルカちゃん、荷物置いたら?寝るところ、わたしたちと一緒でいいよね?」
「もちろんさ!」
いそいそと国領は荷物を置き、ううんと伸びをした。ほとんどない胸が反らされ、少しジャージのお腹のところが開きそうで、目が吸い寄せられそうになるが、調布の獰猛な視線を感じて、僕は唇を口笛を吹くように尖らせ、明後日の方向を見る。
「ねえ、ハルカ。夕ごはんだけど、ーーそうね、あなた、シャワーはどうする?先に謙心館で浴びていく?」
「そうだ、それもあったね。どうしようか?」
謙心館のシャワー施設が使えることになってる。寝る前に入ってもいいけど、食事の前もありだな。
「近所に銭湯もあるけどな。ぱっと入れるなら、先に入って、テイクアウト買って行ったりするのもありだ。」
提案してみる。
約20年後にはもう銭湯も少なくなってしまってるけど、この時代はちょっと歩くとすぐ見つかる。
風呂なしアパートも、約20年後はともかく、この時代はたくさんある。
「それもいいねー。あったまって、涼しい風に吹かれながらってのも。」
国領が提案を受けてちょっと目を細めている。
まあ女の子には、お風呂好きな子多いよな。シャワーじゃものたりないかも。
「長くならないんだったら、それでもいいんじゃないか?長くなっても、まあ、最悪、門限に間に合えばいい。」
「そうだね。行ってみようよ!」
「商店街、あったかしら。そこで夕食の見当つけるのも悪くないわね。」
そうだよな。
そういうことになった。
ーーーーー
女の子たちがいそいそと用意をしている。
やっぱり3人集まるとかしましい。キャッキャウフフの世界だ。
紫藤とか調布とかは、まあ割と落ち着いてる方なんだと思うけどな。
国領はもともと口が達者だし。非日常的な雰囲気もあって、テンション高めだ。
女の子トークには男は混ざれない。いや、コミュ力高い奴なら余裕なんだろうけど、僕には無理だ。
「ねえ志野くんさ、」
でも紫藤が女の子の輪から離れて、僕の方に来た。
「どうした?バスタオルなら予備があるぞ。」
「いや、大丈夫だよ。そうじゃなくてさ。」
紫藤が言うには。
紫藤の継父が、金曜日の夜から日曜日まで出張というか、泊りがけで不在だそうだ。
非常に上機嫌だったという。
「まあそうだから、今夜と土曜日だけじゃなくて、金曜日も外泊できるかも。」
なるほどな。
直前の準備とか、必要だったらできるってことだ。
「まあ志野くんを、いろいろ鍛えてあげるよ。」
意味深に紫藤は言って、キラキラした感じの笑みを浮かべてまた女の子グループに吸収された。
はて。
鍛える、って?
ーーーーー
校門を出て右側に歩いていくと、小さな商店街がある。
自動車はあまり入らない、狭い通り。夕方は基本、歩行者天国になる。
コロッケか何かの揚げ物の匂い、八百屋さんの呼び声、魚屋さんに並ぶ主婦たち、フランチャイズの店に並ぶ高校生。
レンタルCD店、和菓子店、古本屋、スーパーマーケット、時計宝飾店、文具店、小学生が雑誌を買いに来る小さな書店、匂いのいいパン屋さん、喫茶店、ゲームセンター、クリーニングのチェーン店、アパートの情報をペタペタ貼ってる不動産屋さん、ラーメン店。
いろいろな店が軒を連ねている。
少しこの繁華な通りを一本入ったところに、銭湯がある。煙突が遠くからも見える。
「どうする?30分じゃ短いよね?」
「ボクは30分でいいけど、髪の長いさとみんはもうちょっと要るんじゃないかな。」
「そうね。ーー45分、もらえるかしら。」
今、午後7時少し前。もうすぐ6時45分くらいか。
「だったら、7時半でどうかな。僕は少し早く出たら、ここらへんぶらぶらしてて、お店でも見とくよ。」
「あ、いいなー。わたしもそうしたい。」
紫藤が羨ましそうだ。
「後で、みんなで歩いてもいいけど?」
「うん!でも、できれば30分くらい、7時15分前には出るから、一緒に行こうよ!」
そういうことになり、銭湯の入り口で二手に分かれる。
さて。
ーーーーー
銭湯は、ごく普通の銭湯。
富士山じゃないんだ。でも、雄大なタイル絵があったりする。
いや、普通じゃなくてちょっと変わってるのかな?熱帯植物の鉢が置いてあったりする。
小さい男の子がはしゃいでるのが、ほほえましい。父親からはどやされてたけど。
うーん、小学生中学年くらいの女の子も父親と入ってるけど、なんだかな。気恥ずかしさを感じて目を逸らす。
体を洗って、浴槽に入る。
昔はこの手の温泉や銭湯は苦手だったな。さっさと洗って、ちゃぽんと5分浸かって出てたものだ。
だから家族で行くと、すごい待たされたな。
あまりこういう無為な時間が苦にならなくなったのは、いつからだろうか。
無意味な残業とかやった後からかな。
20分くらいでほかほかに温まって、外に出る。
うん、お湯につかって温まると外が涼しく思えるよ。
冷たいフルーツ牛乳でも飲むかな?
「志野くん!」
声がして振り返ると、ジャージに着替えた紫藤がいる。髪は少し濡れてて、ほっぺたがつやつやしてる。かわいい。
近くによると、シャンプーだろうか、石鹸だろうか。爽やかな香りが漂う。
なんかその輝きが眩しくて、目をしばたたかせる。
「みなり、早かったね。」
まだ7時10分にもなってないだろう。
「うん、手早く済ませたんだよ。」
だからさ、散歩しようよ散歩。いろいろ、見てみたいよ!と。
紫藤の無邪気なお願いを無下にするわけにもいかない。
僕は紫藤とぶらぶらと商店街を歩きだしたのだった。
ーーーーー
ごく普通の商店街。でも、そろそろ青果店や精肉店とかは、店じまいの時間だろうか。
提灯みたいなのがところどころぶら下がってる。近いうちに祭礼があるみたいだ。
お祭り、また遊びに来ようよ、と紫藤に誘われる。
紫藤実父の件が終わったら、それもいいな。
ところどころで、見知った顔を見かける。
そう、文化部の連中で、泊まり込む人もいるんだろう。
僕と比べるとずっと社交的な紫藤が、手を振ったりしてる。
街灯がともり始めてて、シャッターを閉める音がする。灯ともし時だな。
何時まで営業するのかな。古本屋のおじいさんは端然と店の奥の机で本を読んでいる。
紫藤とふたりで、店先の50円投げ売りのところを見てあれこれ言う。
若川次郎の推理小説、粟本薫のファンタジー長編(新刊が待ち遠しかった、この頃は)や、煤井康隆のSF小説、ハヤカワ文庫のファンタジー小説。
僕の知らない作家も紫藤は知ってる。なかなかやるな。
文化祭の特集で、先輩とかから教えてもらったとか。なるほど。
その先輩たちから推薦あった本は、後で図書館で借りて読むとしよう。
また離れるとCD屋さんの店先を冷やかし、店じまいを始めてる肉屋さんを眺める。
ふと思い立って、かぼちゃ入りのコロッケを買い求める。
店じまいだからね、安くしとくよ、と言われて端数を負けてもらえた。ラッキーだ。
紫藤が心なしかもの欲しそうに油紙とビニール袋に包まれたそれを見てるけど、夕ごはんの後にしようよ、というと納得した風情。
非常食ってやつだ。いや、必要になるかどうかしらないけど。
僕は結構夜が遅いから、今日も今の時間に食べると夜食が必要になる。
女の子たちはもっと健全な生活リズムなんだろうけどな。
ーーーーー
7時30分の少し前に戻ると、すでに調布と国領が出ていてロビーでコーヒー牛乳を飲んでいる。
腰に手を当ててクイッと、という感じじゃないが、なかなか様になってる。
調布はドライヤーで乾かしたのだろうけど、少しまだ湿った髪を気にしながら、手を振ってきた。
「思ったより早かったね!」
「ああ、ボクは見てのとおりの髪の長さだからね。さとみんは、ーー」
「あたしも、まあ大丈夫。でも外食なら、煙っぽい店はちょっとやめましょう?」
「そうだな。ーーそろそろ行けそう?」
「大丈夫!」「オッケー!」「大丈夫よ。」
思ったより時間がある。外食を狙うか?
調布が噂を聞きつけてた、中華料理屋さんを覗いてみる。
いわゆる点心料理店!という感じではないが、いわゆる町中華よりもお洒落な感じだ。
いや、僕の好みとしては小汚い町中華大好きなんだけどね。レバニラ炒めが好きだ。
「試してみる?」
振り向いて聞くと、そこはかとなく緊張を浮かべて3つの顔が頷く。
まあ、こんな田舎では自分たちだけで外食って、あまりないものな。
入ってメニューを眺め、決めていく。代金は立て替えるからお金は気にしないで頼んでいい、と宣言しておく。
いわゆるパパ活だな(?)。
いわゆる町中華じゃない。その分、少しお値段高めだけど本格的な高級店に比べると大したことはない、高校生には高く見えるんだろうけど。
清潔そうな丸い回転装置つきテーブル、壁に貼られてる、転がった「福」の字。
調度も落ち着いてて、中華っぽい青銅器みたいなのとか、水墨画みたいなのを調布と国領が興味津々に眺めてる。丸々太った豚の小さな翡翠っぽい彫刻を紫藤は気に入ったみたいだ。
女の子の好きそうな(偏見)、小籠包とかの点心もあるので、積極的に取る。
青梗菜のクリーム煮とか、みんなきっと好きだよね。酸辣湯、海老のチリソース、定番だけど青椒肉絲と四川風の麻婆豆腐。あと、五目チャーハンと海鮮焼きそばをシェアしようか。
ビールを頼みかけたけど、すんでのところで自分を押しとどめ、ウーロン茶やオレンジジュースとかのソフトドリンクを希望を聞いて取っていく。
デザートもよさそうだけど、これは時間があったらね、ということに。
飲み物が先に来たので、みんなで乾杯する。
暑い一日だったし、お風呂上がりだ。水分がしみ渡る感覚。
先に来た料理から箸をつける。
「わー、家のマーボーと違うよ!」
「辛い!びりびり来るぅ!水、水ぅ!」
結構な騒ぎだ。いや、楽しそうでいいよ。店の人も頬を緩めてる。
「志野は食べないの?」
「いや、食べるけどさ。」
見てるのが楽しくて、というとおっさんくさいよな。
でも、いかにも生きる喜びにあふれてて。
絶対に紫藤を、いや紫藤たちを死なせやしない、と改めて思う。
「調布も食べないのか?」
「あら、あたしは頂いてるわよ?」
調布はうっすらと微笑んで、きれいな箸づかいで取り分けてあった海老チリを食べて見せる。
調布はこういうところはさすが(?)、大人っぽく上品に振舞うことができる。
だけどな。調布もな。
さっき小籠包の汁の熱さに、口を押えて目を回してたのを知ってる。
息をついたあとは、すごく美味しそうに食べてたけど。
僕もそれを思い出し、少し頬を緩めて。
自分でも何か食べようとして、食卓の上を見て一瞬凝固する。
そして女の子たちの手により瞬時に蒸発してしまった青梗菜のクリーム煮の皿を恨みがましく見つめながら、かろうじて残っている五目焼きそばの皿に手を伸ばすのだった。