タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
話があまり進んでませんが、投稿しておきます。
(追記)
本日は2回投稿しました。これは、その1回目の投稿です(1/2)。お読みになる際に順番にご注意ください。
「いらっしゃいませ~、お茶、どれにされますか~」
ヴィクトリアンメイド風の衣装を着たクラスの女子が、にこにこと笑みを浮かべながら、生徒の保護者と思われる来客に声を掛けている。服は史実と少し違うのかもしれないが、既製品も自作品も心持ち甘めのテイストのが多く、女の子の受けもいい。
「お茶の種類別に、インドと英国、中国、日本から選べます。それぞれ、ーー」
お茶の種類を淀みなく説明してる。女の子の説明が終わると、ペアになってる男子が説明するのだが。
「それと、その、あー、待ち時間で、心理テストも受けられます。あ、これは受けられるってだけで、別にその、しなくてお茶だけでも、ーー」
英国執事風の衣装を着た男子が続けて説明。だけど女の子の斜め後ろから。しかも噛んでもごもごしてる。胡乱だ。
おい男子、声出せ、前に出ろ。なんでそんなに恥ずかしそうなんだ。お前の方が服装、普通っぽいだろうが。
僕なんてターバン巻いてるんだぞ。メチャ目立ってお客さん引いちゃうけどやってるんだよ。頼むよ。
ーーーーー
ステージ発表、僕たちが参観できたのはチアの後半の演技からになった。その後、演劇(しいて要約すると、女性型アンドロイドと男性主人公の恋愛物語、ーーなのだろうか?)、吹奏楽の演奏があった。
そしていよいよ正午からクラス単位での企画だ。お昼は交替しながら取ることになる。
今のところ、普通にうまくいってる。最初はちょっと、いろいろつっかえたが。
僕と調布はまあ、言ってみれば責任者だからな。
すべり出しは長めにシフト番を買って出て、ぎこちない初動をカバーした。
何しろ最初は、クラスメイトたちは。
顔を見合わせてもじもじ、な感じだった。
声かけや接客なんか、みんな「え、俺(私)やんの?」みたいな感じで譲り合いだったよ。
見かねた調布が、迫力のあるチャイナドレス姿でぐいぐいと率先垂範してみせた。
ただ、席についたお客さんに片膝つく勢いでオーダー取ったり説明してたりしたのはやりすぎだと思うぞ。
生徒のお父さんとおぼしき男性のお客さんなんか、胸元とか開いたスカート部分のスリットとかに目を吸い寄せようとする引力と戦って、すごい目がさまよってたよ。
もちろん僕も似合わないインドの民族衣装、クルタって言ったっけ、あれを身に着けターバンを巻いて苦手な接客をこなしたわけだ。
小さい子供にはウケてた。うん、小さい男の子に限ってね。シンドバッドみたいだってさ。
しばらくすると堅さがほぐれてみんな乗ってきた。
意外に待ち時間の心理テストも好評。僕はこれ、いらないんじゃと思ってたんだけどな。
ただ、これは結構オペレーションが大変で、数組やってみて、希望制にしたうえで混み具合に応じて短時間で済むものに変えたりした。
いや、回転率悪くなって、込み始めると大変だと思ったんだ。でも短時間のテストなら今のところは廻ってる。
逆にガラガラのときとか、お湯やカップとかの準備が時間かかるときは、長めのものに取り組んでもらうことにすればいい。せっかく準備したんだし、お客さんも喜んでるし。
僕は接客を高木に交代して、ティーカップや湯呑みを洗いに走る。
高木は漢服を着てる。うん、カンフーの達人が着てるようなやつ。結構格好いいんだよ。
途中で、楽しそうにおしゃべりしながらペアの女子と流し場からワゴンを押しつつ帰ってくる紫藤とすれ違う。
紫藤はインドの薄い女性用のドレス、パンジャビドレスだったかな、に着替えてる。かわいい。
この衣装は既製品が一着しかなく、作らざるを得なかった。結構手が込んでるので、準備できた数が少ない。豪華版みたいなレヘンガってやつと含めて4セットしかない。
担当する民族衣装はもちろん、できるだけ希望に合わせた。不人気な奴は執行部に振って、それでも都合がつかなかったらちょっと変だけどゆかたでダージリンを出したりしてる。ゆかたはたくさん用意できた。
「志野くん、お疲れ様!」「おつかれ〜、どう?」
紫藤と、紫藤とペアになってる子から声を掛けられる。
ワゴン押してる相方の子はメイド姿だな。烏丸恭子さん、小柄だけどパワフルできりっとした目元が印象的。勉強面でもクラスのトップ層で、優秀な子だ。
確か、東京の国立大学に行ったような気がするな。
「大繁盛、待ちの行列ができはじめてるよ。」
そう、固かったのはお客さんも同じで。
最初の一組が入るまではみんなのぞき込むだけで、入ってくれなくて心臓痛かった。
ただ、少し入り始めると、意外に受けが良く。
他の教室、まあ単なる展示だけってのも多かったからな。うちも展示あるけど、入って座って休憩できてお茶も出て占い(?)もできてお話相手もついてくる!となるので、保護者系の人にも大好評。
ファミレスとかの受け付けリスト方式にして、基本、待つ間に展示を見てもらおうと思ってたけど。
教室が混んでしまいつつあるので、廊下にも椅子を出しておくことに。
あと、本当は冷たいお茶も出せたらよかったんだけどな。希望はあったけどガイドラインのことを説明して納得してもらうしかない。氷もないしね。
茶器を洗って引き返す。また向こうから次のワゴンが来てる。大回転だな。ちなみに今度はアイドル好きの石川君と無口な茅ヶ崎君のペアだが、不思議によいコンビになってる。
いままで浮いてた茅ヶ崎君も上手いこと溶け込んだようだ。口は重くて雑談には向いてないけど裏方はまじめにこなしてる。
来客人数が予想より多かったので、とっさの判断でバックヤード(スタッフの待機場所とか。カーテンとかで仕切った着替えスペースも男女別に設置してる)を相当小さくして会場を広げたけれど、ほぼ満席に近い。一言アンケートも書いてもらってるけど、大好評。
そんな風に人気が出てるのでスタッフの士気も高い。服かわいいって噂も流れてるみたいで、他のクラスから見物に来る生徒もたくさん、手すきの時間にはきゃあきゃあと話す声がしてる。
なお暗黙の了解なのか、自校生徒は今のところ喫茶まではほとんど希望してこない。まあ自分たちのところで手一杯なのかもしれない。お客さん少ない時間帯だったら、喫茶してくれても大歓迎と思ってるけどね。
男子も乗ってきた感じ。きびきびサーブしてる。おおむね成功だな、今のところは。あ、茶葉は足りてるかな。
「志野くん、そろそろ交代じゃない?」
クラスの女子から話しかけられた。少し糸目で目尻が下がる感じの、よく笑うコミュ力高い子だったな。いわゆるムードメーカーだ。
調布とつるんでる子たちの一人で、今からの時間帯の副責任者になってる。
「大丈夫かな?結構、お客さん多いみたいだけど、ーー」
「大丈夫!この時間帯から、スタッフの子も多くしてるし。引き継ぎもして、入りはじめてるよ。」
上手く回転してるしな、要員の準備ができたら上がろうか。更衣スペースが狭いんだよな。
「志野、上がりなさいよ。あたしもそろそろ上がるわよ?」
調布も来た。でも調布もまだチャイナドレスをまとったままだ。
調布の着てるチャイナドレスの裾は足首近くまである長めのもの。でも、スリットが膝上高め、腿の半ば近くまで入ってる。
そっちの方がかえって短い丈よりなんか妖艶なんだな。発見だ。
なお、さすがに調布も、最初の頃の接客はサービス過剰だったと自分でも思ったらしく、その後はやや控えめに。
しかもお客さんが増えてきて、人員割振りとか指示とかのマネジメントに専念する必要もあって、やがて接客の第一線からは撤退。残念だ。
調布の実演で結構、チャイナもいいかも!、って子が増えて、そっちに変えた子も出た。事前に決めるときも一応試着とかしたんだけどな、動いてみるとまた違うらしい。調布の優美な挙措動作が受けたみたいだ。
希望の変更はいいのかって?まあ遊びだからね、そのくらいの融通は利かせてあげたいよな。
予備で大きさが合うやつがあればOK、友達間で交換でもいい。割り当ての班は変われないから、サーブするお茶とはミスマッチだけど、それはしょうがない。
紫藤は今しも向こうで接客中。子連れのママさんに何かテスト結果を説明してる。平行して小さな子になんか指遊びを仕掛けてる。
あのパンジャビドレスも琴線に触れる人がいるようで、どこで買えるかとか聞かれてたみたいだ。手作りなんだよな、でもいい出来だ。
手間の関係で数は作れなかったけど。もちろん作ってくれた子には展示製作やシフト面で優遇措置を講じたよ。第一希望を通してあげたりね。
ちなみに優遇措置のつもりでシフト減らそうとしたら怒られた。自分の作った服が着られて好評を博してるのを見るのが楽しみなんだそうだ。そういうものかな。
衣装は一応一人一着以上、数を揃えた。
違う衣装で2度目のシフトに入ることもできる。もちろん予備がなければ友人間の着回しになるし、大きさが合わなきゃ無理だが、除菌消臭スプレーも用意したし、衣装に空きが出る時間帯に家庭科室の洗濯機を使わせてもらえるよう手配してある。
今日はそこまで暑くないけど、男子の執事服は生地が厚い。ちょっと汗かくかもな。やっぱりゆかた、甚平のほうが良い、と言ってる奴らも多い。ゆかたは数があるからなんとかなる。
あ、ちなみに、このクルタは快適だぞ。お前らもこっちにすればよかったのにな。ちょっと生地透けるけどな。
ーーーーー
紫藤も接客が終わり、上がることになる。
僕は英語劇もあるのでちょっと時間短いけど、3人で回る約束をしてる。
責任者を神奈川に引き継ぐ。最優先はケガとか火傷とかしない、させないこと。それをお互いに再確認して、ハイタッチして交代する。
ごそごそと光を通さない天幕で仕切られた狭い更衣スペースで着替える。男子スペースは特に狭い。
天幕の向こう側は女子スペース、腕が当たって膨らんだりしてる。向こう側では今、多分、紫藤と調布が着替えてる。そう思うと興奮不可避。
なんとかいきり立つ息子を制服のズボンに収め、先に廊下に出て待っていた。
しばらくして、髪を下した紫藤と調布が現れる。うん、髪も衣装に合わせて変えてたんだ。チャイナならやっぱりお団子だよね。
最初の1時間半を担当した僕たちは、まだ昼ごはんを食べてない。学食で食べとこうかな。文化祭期間だけの特別メニューとかがあるんだ。
少し混んでる学食を訪れる。食券の買い方とかに戸惑って少し混乱もしてるみたいだが、ピークは過ぎてて、人は引き始めてる。
3人で端っこに席をとり、食事をする。
あ、向こうに根取がいるな。こっちをまじまじと見てたから目を合わせると、びくっと明後日の方向に視線をそらせた。
締められたっていう話だからな、きっと調布を怖がってるんだろう。
食事をとりながら、見て回る計画を立てる。
「ステージも結構、楽しいのよね。」
「志野くん、3時半から出るんだよね!わたしも見に行くよ。さとみんも行くよね?」
「ええ、3時のお茶っていうくらいだから、いったん教室に戻って様子を見るけど。できたら見たいわね。」
「いや、見るほどの価値があるかどうか、ーー」
一応、台詞は完ぺきに覚えたし、リハーサルもやった。
でもな、大勢の人の前に立つと思うと、プレッシャー半端ない。
まあ、比較的地味な企画だし、短時間だ。何とかなるさ。
「そういえば、紫藤も調布も文化部で展示あるんだよな。行ってみていいか?」
「もちろんだよ!」
「いいけど、ーーあまり自信はないわ。そんなのより、生物部とか見てみたらどうかしら。」
そっちも面白そうだ。多賀島大学の、あの見学の縁で生き物展示で協力してもらったらしい。
「さとみん、わたしまださとみんの絵見てないよ!見せてくれるよね?」
「え、ええ、ーー」
いつも自信ありげな調布も、やっぱり絵を見られたりするのは苦手だったりするのかな。
美術か。よくわからないけど1回目は、美術館に行くのは好きだった。でもここ10年くらい、行ってないな。行ってみたい。
それから文化祭のプログラムの紙を広げていくつか目星をつけ、食堂を離れて巡礼することにしたのだった。
ーーーーー
クラス企画は、まあ言っちゃなんだが「勝ったな」って感じだった、少なくとも学年では、ね。
三年生のクラスはこれが最後だからってのもあるんだろうか、受験勉強もあるだろうにしっかりしたやつが多いな。ある意味ではうちの上位互換っていうか、世界の民族衣装企画とか見ごたえあったよ。何しろ展示用マネキンが生きた人間だ。ただあまり人が滞留しないって言うか。ほら見られる側も見る側も恥ずかしいじゃん。
あと文化部系はこれが晴れ舞台みたいなものだからね、化石を見つける企画とか、超小型プラネタリウムもどきとか。生物部で血液や頬の内側の粘膜細胞と並んで、精子を顕微鏡観察用に展示してるのはどうかと思った。大丈夫なのかな。
多賀島大学からは甲殻類が来てた。スベスベマンジュウガニとかね。
文芸部文芸部門はファンタジー文学特集か。十三国記のコーナーは、紫藤だな。少し丸っこいけど丁寧な書体で紹介文や感想が書かれている。なんだか嬉しい。
ちなみに国領は獣頭の戦士が主人公の超長編シリーズと、かなり古いアメリカの歴史系ファンタジー本の両方の紹介文を書いたとか。忙しいだろうによくやるよ。字はちょっと特徴的だった。