隠密同心 心得之条
我が命我が物と思わず
武門之儀 飽くまで陰にて
己の器量を伏し
御下命 如何にても果す可し
尚、死して屍拾う者無し
死して屍拾う者無し
死して屍、拾う者無し
赤坂、延命寺。朝日が境内に差し込んでいる。
生臭坊主の覚念は、朝から寝所で酒を飲んでいた。湯呑に注がれた酒を飲み干す。よく見ればその手は微かに震えていた。
「……ふんっ」
鼻で笑った。何に対してかと言えば、昨夜、自分が抱いていた女たちにである。
一人はさる御旗本の奥方であった。もうひとりは大名家のご側室である。どちらも臈長けた美しい女で、気品があった。最初の内は。
(だが、おりん様にかかれば、皆同じ)
覚念は美しい顔を苦々しげに歪めた。この覚念、実際は僧侶でもなんでもない。ただの無頼浪人であり、生まれ持った顔に任せて女色に溺れるばかりの男だった。
おりんに拾われ、いつの間にか、この延命寺に飼われるようになった。おりんが狂わせた女を操るための、いわば操り糸として。
そう卑下しながらも、覚念はこの生活を受け入れた。なぜならば、それはとても楽な仕事だからだ。女は引きもきらずにやって来る。そして抱かれることを望むのだ。抱けば、いい声で鳴き出す。女の身体を弄びながら、その女が吐き出す銭のことを考えれば、股ぐらがいきり勃つ。
覚念はこのような男であった。
だのに、昨晩侵入してきた賊がために、彼の極楽は狂いつつある。賊が何者かは知らぬが、夜半に侵入し、隠し部屋で女共の手紙を見つけ、これも無頼浪人が化けた番僧を突破して逃走したという。
しかも、
(〈あのお方〉の像を見られるとは……!)
覚念にとって、〈あのお方〉はおりんが奉じる神というだけに過ぎない。だが賊が御公儀の手のものであれば、覚念の破滅はもはや決定的となるであろう。
「ぬう……」
小さくうめいて、また一口飲んだ。その時である。
「誰だお前は!」
番僧の声である。覚念は慌てて立ち上がった。泡を食って草履を突っかけ、本堂へと向かう。そこには案の定、番僧たちが居並んでいた。
「これは……」
番僧の数人が、困惑したような声を上げた。
彼らの視線の先に、一人の美しい娘がいたからだ。砂利を踏みしめ、一歩一歩、本堂へと前進してくる。
さらりと流れる黒髪は、背中の中ほどまで伸びており、それを後ろで束ねている。装束は巫女のそれにも似た赤い袴姿であるが、裾や袖口には豪奢な金糸が入っている。だが、彼女の美しさを最も際立たせているのは、その瞳であろう。鳶色の澄んだ目は獲物を狙う猛禽類のように鋭く、そして明確な殺意を湛えている。
「延命寺に巣食う悪党ども!」
娘は朗々と叫んだ。
「おめえら、〈
娘は、持っていた獲物を天に突き上げた。番僧どもがざわめく。槍だ。それも戦国武将かと思わせるような長さの、十文字槍である。
「てめえらの悪事、たとえ世間が気づかずとも、この十文字槍が黙っちゃいねえ!」
娘の瞳がぎろりと動いた。まるで親の仇を見るかのように、覚念を睨みつける。
「ひっ」
思わず覚念は後じさった。腰が抜けそうになる。
「ち、畜生! みんな、やっちまえ! こんな奴、殺してしまえ!!」
覚念は喚くように言った。番僧たちの動きは鈍くない。一斉に薙刀を構え、娘に襲いかかる。だが。
「ふんっ」
娘は不敵に笑うと、身を翻しながら、手にしていた槍を振り回した。
先頭を走っていた番僧が、自分の首をどこかに忘れたまま二三歩歩いたかと思うと、次の瞬間、どしゃっと音を立てて地面に転がった。覚念は、ただ呆然と眺めていた。
「でぇえええええええりゃぁああああああ!!!」
裂帛の気合いと共に、十文字槍が繰り出される。一つ、また一つと首が飛んでいく。
「ひぃいい」
覚念は、喉の奥から悲鳴を絞り出した。腰が砕け、その場にへたり込む。
その足元に、番僧たちの血しぶき、手足、生首が次々と飛ばされてくる。にせ和尚は、恐怖のあまり失禁した。
「くそぉおおおっ!」
番僧たちは、もはや破れかぶれだ。我先にと娘に殺到する。だが、娘はそれらを軽々とかわしていった。
「この小娘がぁ!」
一人が斬りかかる。ざくり。
頭頂部から股間にかけて、見事に両断された身体が、ゆっくりと倒れる。同時に、男の身体を中心に真っ赤な水たまりが広がった。
「や、やめて、やめてくれ! 俺は、何も知らないんだ! 見逃してくれ!!」
覚念は震えながら、両手を前に突き出した。娘が最後の番僧を串刺しにして、百舌鳥の早贄のごとく宙吊りにしているところであった。
「よう、和尚様。年貢の納め時だぜ」
娘は、覚念に歩み寄ってきた。覚念は逃げようとしたが、足が動かなかった。
「観念しろよ」
襟元を掴まれ、腕一本で持ち上げられる。必死でもがくが、娘の腕はびくともしない。
「ち、違うんだ! 全部あの〈絢爛お燐〉が悪いんだ!! あいつは人の心を惑わす妖術を使うんだ。俺だって、好きでやったわけじゃ……」
「世迷言はあの世で言いな」
ごきん。覚念の首が、あらぬ方向に曲がる。
「……」
覚念の目がぐるんと裏返る。お雪は死体を投げ捨てると、本堂の扉を開いた。
◆◆◆
「どこだ、〈絢爛お燐〉!」
番僧どもを皆殺しにしたお雪は、地下の隠し部屋に突入し、奥の鉄扉を開く。果たして、〈はりつけ像〉に祈りを捧げるおりんの姿があった。
お雪は、無言で祈りが終わるのを待つ。
「……アーメン。お雪さん、もう大丈夫ですわ」
立ち上がったおりんは、お雪に向かって微笑んだ。
「よう、戻ってきたぜ」
「まあ、見事な血化粧ですこと……勇敢ですが、愚かな行いではありませんか? 一人で来るなど」
「まあな。だけど、それがあたしって奴だからさ」
「そうですか。お雪さんには、お雪さんが何者かはっきりと分かっているのですね」
かぶりを振ったおりんは、私とは違う、と呟いた。
「……お雪さん、あなたは一体何者なのですか? 蕎麦屋に身を潜めた御公儀隠密のお雪? それだけでは、とても納得ができません」
おりんは、お雪の瞳を真っ直ぐに見つめて尋ねた。その様子からは、暗示をかけるための仕草や言葉は一切感じられない。本当に、疑問を抱いているようだ。
「あたしは隠密同心、十文字お雪。同じく隠密同心の母から生まれ、三つの歳から修練を重ねた、生まれついての隠密同心」
お雪は目を細め、腰だめに十文字槍を構えた。踏み込んだ瞬間、目前の敵を絶命させる必殺の構えだ。
「そして、お前が狂わせようとしたお英の友達さ。天下万民のため、大江戸八百八町のため、お前が苦しめた女たちのため。その首をもらうぜ、〈絢爛お燐〉」
「……いいでしょう」
おりんは、両手を広げ、一歩足を引いた。
「私の名は〈絢爛お燐〉。〈黒いデウス〉にお仕えする、永遠の巫女にして、天上の音色を奏でる奏楽家」
お雪は、〈絢爛お燐〉を見据える。その瞳には、恐怖の色はない。
「目的は、金か。〈黒いデウス〉とやらに捧げるための」
「欲に汚れていたとしても、お金に色はございませんからね」
おりんが跳んだ。十文字槍の突きをひと跳びで躱すと、さらに距離を取ろうとする。
「舞わせはしねえ! あたしの本気を見せてやる!」
お雪の体が沈み込む。おりんの着地と同時に、地を這うような低い姿勢からの掬い上げの一閃。
「っ!?」
おりんが後方へ跳躍。しかし、槍の穂先が僅かにその胸元をかすめていた。鮮血が滲む。
「は、速い……!」
言ったおりんの体が、がくりと沈んだ。出血は僅かに見えたが、まるで深手を負ったかのように膝をつく。
お雪は低い声で告げた。
「当ててやろうか。お前には、言葉ではなく体で人を騙すことができる才能があった。暗示の技を使わせれば、天下無敵かもしれない」
お雪は懐から水筒を取り出し、おりんの顔にぶっかけた。流れる水滴が、まるで涙のように見える。
「う……うわあぁあああん! ああー!」
何と、おりんは泣き声を上げた。おりんの老いた顔が、まるで赤子のように歪む。
「だけど、お前さんの体は、自分の心さえも騙してしまう諸刃の剣だ。一滴の血、一滴の水で恐ろしいほどに心が乱れちまう。そうだろう、おりん。いや、〈あい〉って呼んだ方がいいかい?」
「ああっ! うわあーん! ううっ……」
「『好色絢爛女』は、お前が江戸にばらまいたんだな。自分の印象を植え付けて、暗示の伏線とするために」
おりんは、泣きながら手ぬぐいで顔を拭く。
「ぐっ、うぅ……。えぇ、そうです。私があの本を書かせました。……だが私はもう〈あい〉ではない! 〈黒いデウス〉にお仕えする巫女のおりん! あんな女と一緒にするなぁ!」
叫んだおりんは、自分の血で自分の顔に化粧を施した。
「化粧とは、古来戦いのため、自然から身を守るために施されてきたもの!」
おりんの体が、ぐわっと膨らんだように見えた。老いた四肢に力が満ちていく。お雪は槍をしごき、突きの構えをとる。
「自己暗示による肉体強化か!」
「かあぁぁぁぁぁーっ!」
突きを躱したおりんは、先程までに何倍する速さで距離を取った。そして大きく足を踏み鳴らす。
「死の舞踏! これを見て生きて帰ったものはない! 死ねぇ、お雪ぃ!!」
──りん。鈴のなる音。
──だん。足を踏み鳴らす音。
──りん。──だん。──りん。──だん。──りん。──だん。
お雪の腕が一人でに、ばっ、と跳ね上がる。
「なるほど、すげえ技だ。……今あたしは、自分で自分を突き殺したくてしょうがない」
十文字槍の穂先が、ぐるりとお雪の胸を指す。槍を逆手に持ったお雪は、そのまま自分の胸に十文字槍を突き立てた。
「勝った! 私の勝ちだ!」
おりんが叫ぶ。しかし、
「馬鹿言っちゃいけねえよ。お天道様はまだ高いぜ?」
その両腕を、十文字槍が薙払った。
「あ、あぁあ……!」
おりんの両腕から、鮮血が流れ出す。手首から先が無くなっていた。
「あああ! なぜ、なぜいきて」
おりんが言い終わる前に、お雪は言った。
「ここに来る前に、自分に暗示をかけといたのさ。『自分を殺すときは、必ず胸を突いて殺そう』ってな」
お雪は装束の前を開いた。その胸には、黒光りする鉄甲が嵌まっている。
「誰でも騙せるあんたでも、鋼の鎧は騙せなかったようだな」
おりんは遂に崩れ落ちた。お雪はじりじりと近づいていく。
「その腕じゃあ、もう舞も化粧も繰り出せやしねえ。殺しはしねえぜ。お前の背後にいるもの、〈黒いデウス〉のこと、全て喋ってもらう」
おりんが口を開く。それは言葉にならない声だった。
「なにか言いたいことがあるのかい」
「…………な……た…………あなた! 助けて!」
びょう、と刀の一閃がお雪を狙った。咄嗟に護身用の短刀で受け止めるが、勢いのまま短刀が両断される。
「ちい!」
飛退いたお雪を尻目に、刀を振るった男がおりんを抱き上げた。
「大丈夫か、おりん」
「てめえ、誰だ!」
振り返った男を見て、お雪はうっ、と言った。男の顔には、般若の面が被せられていたのだ。
「名乗るほどの者ではない。〈黒いデウス〉に仕える武士だ」
般若面の男が言う。そして、地面に何かを投げつけた。強烈な閃光と白煙が辺りを包む。
「煙玉!? 兄貴みたいな真似をしやがって!」
「また会うぞ、隠密同心。今度は俺の手でお前を殺してやる」
「待て!」
気配に向けて槍を振るうが、手応えはない。お雪の声も虚しく、男とおりんは姿を消した。
「逃げられた……〈黒いデウス〉だと? なんなんだそいつは……」
お雪は石突を床にどん! と打ち付けた。
◆◆◆
三日後。いつもの「竹むら」の二階で、お雪は太一郎の前に正座させられていた。
「お雪ちゃん、おれの言いたいことが分かるかい」
静かに語りかけられ、お雪は無言で首を横に振った。
太一郎がため息をつく。
「お雪ちゃんの役目は探索だったろう。それを一人で敵陣に突っ込んで、しかも敵は暗示使いだ? 術に嵌っても誰も助けに行けなかったんだぞ! まったく何考えてんだこの馬鹿娘が!! 鉄砲玉か何かのつもりか!!!」
怒鳴りつけられたお雪は、きっと太一郎を見上げた。
「兄貴、言い訳はしない。あたしは指令に背いた。すまねえと思っている」
太一郎が再び大きな溜息をつく。沈黙が場を支配した。やがて太一郎がぽつりと言う。
「それでも行ったのは、隠密同心だからかい?」
「うん。お江戸を守る隠密同心が、逃げちゃあならねえと思ったからさ」
「……そうかい」
太一郎は苦笑した。
「御前からは、お雪ちゃんの報金を召し上げるように言われてる。それでいいな」
「えっ」
「えっ、て何だよ」
お雪は眉をへにょり、と下げた。
「あの、お英に払う五十両……」
太一郎が呆れた顔をする。
「そんなもん、おれに言うんじゃないよ。命を助けてやったんだろう、自分で交渉でもなんでもすりゃあいいじゃねえかよ、全く」
「うう……友達に銭の話はできねえんだよぅ」
太一郎が肩を落とす。
「全くもう、手のかかる……いいから頼んでみな。どうしても駄目だったらおれが貸してやるよ」
「ほんとか兄貴! 恩に着るぜ! 大好き!」
お雪が太一郎に飛びつくと、太一郎は鼻を鳴らして言った。
「現金なやつだあな。はいはい、おれもお雪ちゃんのことが大好きだよ。じゃあお英ちゃんに言ってきな。どうせまだ寝ているだろうけどな」
「おう、行ってくるぜ! ……あと兄貴、大好きだから! 確かに言ったからな!」
「へいへい」
お雪が部屋を出ると同時に、太一郎は文机の前に座った。筆を取り、硯箱を開く。そして、さらりと一筆。
【一筆奏上、お雪の処分、滞りなく。〈黒いデウス〉の起源、天草にありとの証言、追って調査の指令を申し受けたく】
◆◆◆
その日の夜、「竹むら」の二階、お雪の私室。
蝋燭の灯りに照らされて、布団がもぞもぞと動いている。
「んん、ん♡ 太一郎あにきぃ……♡」
掛布の中から艶っぽい吐息が漏れてくる。お雪が、太一郎の名を呼んでいた。
「ああ、気持ちいいよ、好き、好きだあっ♡ んっ、ふぅう~っ♡」
お雪の手の動きが激しくなる。ぐちゅぐちゅという音が大きくなる。
「しゅき、だいすきぃ♡ はぁっ、んくぅうううんっ♡」
お雪の身体が大きく跳ねた。
「ひゃうんっ!?」
布団の中でビクンッと大きく痙攣する。
「ふううっ、ふううっ……」
しばらく荒い呼吸を繰り返していたお雪だったが、やがて落ち着いたのか、ゆっくりと起き上がった。掛布をめくると、股間の辺りがぐっしょりと濡れている。
「ああ、すごかった……。好きが、こんなに、すごいなんて思わなかった」
お英があんなに乱れるわけだと思いつつ、お雪は自分の指を見つめた。べっとりとした愛液が付いている。
「こんなにいっぱい出るんだ……。太一郎兄貴が見たら、どんな顔するかしら」
お雪はにやりと笑うと、再び掛布を被った。
「えへへ、あにき好き♡ あたしはあにきが好き♡ あにきもあたしが好き♡」
自分の乳房を周辺からゆっくりと揉み込み始める。
「もっと強く、こうやって……んっ、うんっ、やわやわだ……」
健康的な乳房だ。吸いつくような肌触りだ。乳首は少し大きめだが、ピンク色で可愛らしい。
「やわらかい、あったかい、きもちいいっ……」
お雪の表情が蕩けて、ひくんと震える。
「あん、やらかい、おっぱい、やらかいよぉ……♡」
お雪が太腿を擦り合わせ始めた。それだけで、わずかに水音が出る。
「あんっ、やらかい、やらかいよぅ……♡」
胸への刺激もどんどん激しくなっていく。乳頭もピンと勃っている。
「あにき、あにき、あにきぃ♡」
お雪は連呼しながら、夢中で自らの女体をまさぐる。はあはあと湿った息が口から洩れる。
「んんっ、やらかい、やらかいの、あたしのおっぱいっ!」
お雪はぎゅっと目を瞑る。暗闇の中に太一郎が現れる。
「太一郎兄貴、あたしのおっぱい、見てぇ!」
『お雪ちゃんのおっぱい、よく見えるぜ』
「あっ、あっ、太一郎兄貴、太一郎兄貴、太一郎兄貴!」
『お雪ちゃん、可愛いぜ』
「嬉しい! あたしの、あたしのおっぱい! 太一郎兄貴のためにあるんだからね!」
腰のあたりがじんわりと熱くなる。太一郎の顔を思い浮かべるだけで、全身が疼いて、本能で尻を左右に振ってしまう。
「あ、あ、あ、あ、太一郎兄貴、太一郎兄貴!」
太一郎の視線を想像すると、もう止まらない。お雪は寝間着を脱いで手のひらを唾液で濡らし、手のひら全体で乳頭ごと乳房をぐりぐりと押しつぶす。
「おッ! おッ! おッ! おッ! 太一郎兄貴ィイイッ!! 」
お雪の声が高くなった。たらたら汗が滴ってくる。
「兄貴、兄貴、太一郎兄貴!」
『お雪ちゃんのおっぱい、美味そうだぜ』
手の動きがどんどん速くなる。目つきがどこか危うげになり、だらっと唇から唾液が垂れてくる。
「ああ、手が、止められない! あにき、あにき、あにき!」
『俺が楽にしてやるよ、お雪ちゃん』
「だめ、そんなことしたら、あたし、あたし、壊れちゃう!!」
とうとうお雪はひくひくと痙攣し始めた。
「いやぁ、いやなのに、止めらんなあい! 気持ち良すぎて、あたし、死んじゃう! もういく! 太一郎兄貴、太一郎兄貴、太一郎兄貴! いく! イク! イクゥウウッ!!」
お雪は背筋を仰け反らせ、びくんびくんと数度跳ねた。
「はあ、はあ、はあ、あー♡ 好き、太一郎兄貴、大好きぃ……」
力の限り布団を握りしめる。絶頂の幸せな時間が続く。
「……ふわ、幸せぇ……」
お雪は脱力して、しばらくそのまま動けなかった。やがて、呼吸が落ち着いてくるとお雪は顔を笑み崩した。
(兄貴、いつか本当に好きだって言わせてみせるから)
お雪は、太一郎を想って微笑む。
「さて、行水でもしようかな」
飛び上がるように立ち上がる。足取りはとても軽かった。
(第三回 お雪の艶本 了)