謎の神、〈黒いデウス〉を奉ずる怪人、〈絢爛お燐〉が江戸に現れた。
お雪は一度目の遭遇で記憶を奪われ、二度目の遭遇ではお英を快楽地獄に堕とされかけるものの、隠密同心に伝わる暗示の技により何とか窮地を脱する。
再戦でお燐を再起不能にしたお雪の前に、また別の怪人〈般若面の男〉が現れ、お燐を連れ去ってしまう。
お英の心に触れたお雪は、自らも太一郎への想いを自覚し、彼と結ばれることを心に誓うのだった。
Aパート
梅雨が明け、江戸には本格的な夏が来た。北町奉行所の定町廻り青木源造は、木立の中で水筒の水を飲みながら汗を拭いているところであった。伝馬町牢屋敷から骨ヶ原処刑場へ抜ける道の途中である。
(暑いな)
この暑さでは、骨ヶ原処刑場は腐臭地獄であろう。そして、その近くの獄舎の中では、今ごろ囚人たちが生ける屍のように横たわっているはずである。
だが、そんなことは源造にとってどうでもよかった。彼はただひたすらに、夏の陽射しから逃れたいばかりなのだ。
「おい藤吉、俺ぁもう疲れちまったぜ」
源造は草の上に寝そべりながら呟いた。
囚人を移送する唐丸籠の中から、くぐもった声がした。
「旦那は疲れたで済みましょうが、あっしは首を刎ねられにゆくんですぜ」
「おっと、そうだったな。すまなかった。許してくれ」
源造は起きあがった。
「しかしよ藤吉。俺だってお前には同情ってやつをしてるんだぜ。花火職人が花火の事故で火付け扱いにされて死罪なんざ、酷な話だよ」
「そりゃあまあ……」
「しかしな、実際火は付いて、人が死んだ。事故は事故、同情は同情、法は法だ。お奉行様は
「へえ……わかっておりますとも」
藤吉は小声で返事をした。
この藤吉という男は、元はといえば浅草橋場の花火職人である。それが半年前、隅田川沿いの倉庫街で火薬玉を爆発させてしまったのだ。幸いにも消火は早く済み死者も一名で済んだが、これは花火師として致命的な過失だった。
「女房子供の事は心配するな。しばらく困らねえように、お奉行様が金子を出して下さった。俺たち北町の同心も助けてやるぜ」
源造が言った。
「それは有難いことで……。だけどね、旦那……」
藤吉が、言葉を続けようとした矢先だった。
ピーッ、と呼子の鳴る音。そして、刀と刀が打ち合う音、仲間たちの怒声。
「なんだぁ!?」
源造が振り向くと同時に、大きな黒い影が彼に飛びかかってきた。
「うわっ!!」
源造は仰向けに倒れながら、何者、と思考した。
飛びかかられる寸前に見えた顔は、虎縞の覆面をしていた。体躯は男。武術の心得がある。
「野郎!」
源造の右手が素早く動いた。腰に差していた十手を抜き取りざま、相手の喉元を狙って突き出す。
だが、相手の方が一枚上手であった。源造の腕の動きを読み切っていたかのように身体を転がし、紙一重の差でこれをかわすと、今度は逆に源造の肩口めがけて鋭い蹴りを入れた。
「ぐうっ……」
間の悪いことに、源造は斜面の上にいた。相手がわざわざ蹴ったのは、源造を突き落とすためであったのだ。源造は必死になって受け身を取るが、落下の勢いを止められず、一番下まで転げ落ちてしまう。
その間に、覆面の仲間が集って、唐丸籠から藤吉を引っ張り出している。
「青木様! お助け下せえ!」
「藤吉ィ!……てめえら、唐丸破りか! 天下の御法に楯突いてただで済むと思うのか!!」
源造は叫んだ。
「ハハハ……御法などと、町方の不浄役人が偉そうに。藤吉は頂いていく。我ら『虎の爪』の大花火を楽しみに待っておれ」
馬のいななきと共に、男たちは駆け去って行った。
(畜生!)
源造は再び立ち上がろうとした。しかし、背中と後頭部を強く打ったらしく、思うように体が動かない。
(馬、大花火、虎の爪、不浄役人、武術、藤吉! くそったれ、旗本崩れか何かだろうが……!)
源造は心中で悪態をついた。だが、今はどうしようもない。彼は悔しさに歯がみしながら、やがて来るであろう助けを待つしかなかった。
◆大江戸捜査網
ハーレム・サムライ◆
第四回 昌平坂の美樹
声をかけてきたのは、美樹の弟である
「ああ、正之助殿か」
「はい! お久しゅうございます」
正之助は、嬉しげに笑った。
夏の日差しを浴びた正之助は、前髪の下から汗を垂らしつつ、太一郎の隣へ腰かけた。
「しばらく見ぬうちに、背が伸びたな」
「はい、今年で十一になりました」
そう言って、正之助は懐から手拭を出して額を拭いた。
「学問所の帰りかい?」
ここでいう学問所とは、幕府が武家の子息向けに設けた
「はい。今日は師範の講義が早く終わったものですから、こうして
「そいつは重畳。冷たい麦湯でもどうだい? この店のはよく冷えてる」
「ありがとうございます。では遠慮なくいただきましょう」
正之助はうれしげに笑って言った。
彼は姉の美樹によく似ていた。色白の顔に細い眉と長いまつげが目立ち、どこか少女めいたところがある。
「義兄上は、お殿様のお屋敷からお帰りですか?」
「うん? よく分かったな」
正之助の言葉に、太一郎は驚いて訊ね返した。
「はい。見たことのない菓子の包みを持っておいでですし、それに何より、義兄上のお香に混じって、
「なるほど。その年で学問所に行くだけの事はあるな」
太一郎は苦笑いを浮かべた。さきほど主・本多左門守忠興に面会した時、与えられた物だった。〈愛香菓〉という加賀から買い求めた菓子だそうで、落雁に似た食感ながら、肉桂と
「姉上への土産としていただいたのですね。羨ましい限りです」
「おいおい、武士の子がそんな顔をするもんじゃないよ。これから家に戻るから、一緒に食おうじゃないか」
太一郎の誘いに、正之助はぱっと顔を輝かせた。
「はい! ……あ、よろしいのでしょうか」
「もちろんだとも。美樹一人に食べさせたら、せっかく細い腹に肉が付いちまう」
おどけて見せた太一郎に、正之助はくすっと笑う。そして二人は連れ立って歩き出した。
「ところで、正之助殿は勉学のほうは捗っているかい?」
「はい。私は武芸よりもこちらのほうが性にあっているようです。いずれは学者になりたいと考えております」
「学者か……」
太一郎はちょっと黙った。
「義兄上はこう仰っしゃりたいのですね。正之助は長男だから、いずれ嫁を取って家を継がなければならぬ、と」
「む……そういうことではないのだが……」
太一郎は口ごもる。しかし正之助は気にした様子もなく、「いえ、良いのです」と言った。
「儒学や算術ばかりが学問ではありません。人の心や、世の中の真実を探究することも立派な学問です。学者と侍は決して相反するものではないと思います」
「そうだといいんだがね」
太一郎はぽつりと言う。その声の弱さを聞きとがめたか、正之助は立ち止まった。
「もしかして義兄上も、お役目以外にやりたい事がお有りなのですか?」
「む」
太一郎も足を止める。そんな簡単に見透かされるとは思わなかったからだ。
「……ああ。詳しくは言えないが、亡くなったおれの父は、おれのやりたい事とお役目が相反しないように、色々と骨を折ってくださった」
そのくせ、その成果を見る前に病で死んでしまった。太一郎は死に目にも会えなかった。
「正之助殿、学者になりたいという事、お父上には伝えたのかい?」
「いいえ。まだ」
「いつでもいいが、お元気な内に伝えておくことだ。きっと力になってくれるだろう」
「はい」
正之助は素直にうなずいた。
「あとは学問だけじゃあないぜ。女遊びも覚えないとな」
「それはまた別の話ですよ」
「ははは。女の秘密を探るのも、立派な学問の一つなんだぜ」
「そうなのですか? 知りませんでした」
「たとえば、だな」
太一郎は正之助に顔を寄せ、ひそひそ声で言った。
「女の乳首の色を知ることは、男にとって何より大切な仕事なのだよ」
「へえぇ! では義兄上は、すでに沢山の女性の色を知っていらっしゃるのですか?」
「まぁ、それなりに、だがな」
「姉上に言いつけなくてはなりませんね。義兄上の悪行の数々を」
太一郎と正之助は、二人して笑った。
◆◆◆
「お帰りなさいませ、太一郎様!」
自宅に戻ると、美樹がいそいそと出迎えた。太一郎は笑顔になり、正之助は軽く頭を下げる。
「あら、正之助。今日は学問所のお休み日だったかしら?」
美樹が言うと正之助は慌てて答えた。
「いえ、師範が早くに帰られて、明神下で義兄上とばったりお会いしまして、それで……」
「あら、そうなの。でもそれなら、小野寺の家に戻って学問の続きをするべきではありませんか。あなたは小野寺の跡取り息子でしょう」
美樹の言葉に、正之助は小さくなってしまった。慌てて太一郎が割って入る。
「いや、おれが誘ったのだ。御前から珍しい菓子をいただいたが、美樹一人では食べ切れぬから付き合ってくれとな」
「まぁ、太一郎様ったら」
美樹は太一郎の腕を取り、ぎゅっと抱きしめた。
「わたくしのことを思って下さるのは嬉しゅうございますが、正之助を甘やかしてはいけませんわ」
「お前はそう言うが、正之助殿は将来、御前と義父上を支えることになるのだ。たまには他の侍と交流を深めるのも悪くはないだろう」
「太一郎様みたいな?」
「そう、おれみたいな洒落者の
美樹はちょっと笑って、正之助を見た。
「正之助、あまり太一郎様に甘えないようになさい。いま桶を出しますから、汗と足を拭って上がるのですよ?」
そう言って美樹は台所に向かう。太一郎は正之助の顔をちらと見て、肩をすくめて見せた。
「ほら、正之助殿。突っ立ってないで、こっちに来い。遠慮なんかするもんじゃない」
「は、はい!」
太一郎は正之助を手招き、縁側に腰掛けた。
「姉弟というのは、どうも難しいものだな。おれは上も下もいないから、見るたびに驚いてしまう」
「はい。私と姉上は年が離れているので、余計……。でも、姉上はいつも私のことを気にかけてくれているのです」
「ああ、わかる。美樹は優しい女だからな。ほら、菓子を食おうぜ」
それから二人は美樹と共に菓子を食べ、茶を飲み、正之助が論語を朗読するのを聴き、少しばかり木剣で打ち合った。
「やあっ!」
(筋は、悪くない)
正之助の動きは機敏ではないが、隙もない。ことに、下段の構えからの切り上げは鋭かった。だが、太一郎は容易く受け止める。
「!?」
動揺した正之助の顔を見て、太一郎は口元だけで微笑み、足払いをかけた。正之助の体が宙に浮き、太一郎の足元に転がる。
「あうっ!」
「目の運び、足さばき、手首の返し。どれもいい線だ。だが自分より身体が大きい相手に使う剣じゃないな」
「いてて……同い年は、あれで全員倒せたのですが」
太一郎は正之助に手を差し伸べた。その手を握り、正之助が起きあがる。
「正之助殿、あまり勝とう勝とうとしないことだ」
「見透かされるからですか?」
「それもあるが、伸びなくなるからだよ。勝つことに凝り固まった頭では、剣術の奥深さは学べない」
太一郎は正之助の頭をぽんと叩いた。
「剣術も学問と同じという事でしょうか。自分の限界を決めず、どこまで伸びるのか挑戦することが大事だと」
「ま、そんなところだ」
太一郎は再び正之助の髪をくしゃくしゃにする。正之助は嫌がる風もなく、にっこりと笑った。
太一郎はちょっと考えて、正之助の耳元に口を寄せた。
「義兄上?」
「実はな、本多様の御役目について、教えておきたいことがあるんだ」
◆◆◆
太一郎が受けた忠興の命は、花火職人の藤吉をさらった謎の集団、〈虎の爪〉の探索であった。
「北町の大失態だ。火付改に先を越されてなるものかと、与力も同心も血眼になって探している。旗本屋敷はもちろん、大名屋敷にまで踏み込みかねん勢いらしい。儂のところにも、各大名家から矢の催促が来ておる。早く下手人の首を刎ねろとな」
「北町の同心は旗本崩れと見たそうですが、あり得ることでしょうか」
太一郎は尋ねた。忠興は、はあーっと溜息を吐き、それから答えた。
「十分あり得ることだ。 旗本と言っても、今では御公儀の御役目を与えられる者の方が少ない。そのくせ配下を食わせ、旗本として折々の交際費が欠かせぬから、知行地が少ない者は火の車よ。
忠興からは肉桂の匂いと、なんとも言えぬ悲しみの気配が漂ってくる。太一郎はほんの僅かに前に出て、それから平伏して言った。
「御前、何なりとご命令を。この太一郎、身命を賭して務めを果たします」
「うむ。お主に頼みたいのは、昌平坂学問所の内偵だ。お主もかつて通っていたのであろう」
忠興が小姓に持ってこさせたのは、学問所の名簿であった。
「学問所? 学問所に集まるのは、優秀な旗本ばかりですが……」
「太一郎、光があれば必ず影ができる。一つ所で優れた者の光を見せ続けられれば、心を歪めてしまう者も出てこよう」
忠興は太一郎に名簿を与え、そしてこう言った。
「お前も例外ではないぞ、太一郎。影を生まぬよう、くれぐれも己の
◆◆◆
夕暮れ時になり正之助が帰ると言うと、美樹は少し寂しそうに微笑んだ。見送りに出て、門扉を開けてやる。
「正之助、お休みの日ならいつでも来てよいのですよ。またいらっしゃい」
「はい姉上! ありがとうございました!」
元気よく返事をして、正之助は帰って行った。太一郎はその後ろ姿を眺めながら、ぽつりと言った。
「あいつが嫁を迎える時は、どんな気持ちになるだろうなぁ」
「……さ、太一郎様。夕食に致しましょう」
膳に並んだ料理は、どれも美味かった。穴子を焼いて出汁で煮たものや、鯛の蒲鉾、なすと油揚げの味噌汁、それに冷やした瓜などだ。
箸を止めずに平らげていく太一郎を見て、美樹は満足そうだった。
「おかわりをお持ちしましょうか?」
「ああいや、もう腹一杯だ。うますぎて困ってしまう」
「まぁ、嬉しいこと。そんな風に言っていただけると、わたくしも作り甲斐があります」
美樹はコロコロと笑い、茶を注ぎ足した。その表情には、夫に対する愛情が溢れている。
「ところで美樹。ちょっと話がある」
太一郎が言った。
「何でしょう? 改まって」
「実はな……御前に言われて、しばらく昌平坂の学問所に通うことになってな」
「まあ。また悪党を懲らしめる御役目ですか? でも学問所に悪党だなんて……」
美樹は首を傾げた。
「悪いが、仔細はいつも通り聞かないでくれ。ただ、おれが昌平坂にいる事はいずれお前にも聞こえよう。だから先に伝えておきたかったのだ」
「分かりましたわ。それが太一郎様のお勤めですものね。わたくしも妻として、陰ながら応援致しますわ」
そう言ってふわりと微笑んだ美樹だったが、不意に不安げな顔になった。
「あの、太一郎様……学問所には正之助もおります。悪党が正之助を害したりせぬでしょうか」
太一郎は苦笑して美樹の手を握った。細い指はひんやりとしている。
「案ずることはないさ。実は正之助殿にも先程話したんだ。賢い子だし、いざとなったら、おれが守ってやるさ」
「ええ……ええ、その通りですね。でも、わたくしは心配性なのです」
美樹はうつむき、唇を引き結んだ。
「美樹、約束だ。おれは正之助殿を守り、悪党を懲らしめて、必ずお前の許に戻って来るよ」
◆◆◆
太一郎は美樹に贈り物をするのが好きだ。出楠家は百俵取りの御家人だから、まあ食えないことはないという程度の家格だが、隠密稼業の報金があるので懐具合は抜群にいい。
「あン……♡ 太一郎様、美樹の中にお湯が入ってしまいます……」
美樹は浴槽の中で身体を捻りながら甘い声を上げた。蝋燭の灯りに照らされた白い裸身が妖しく揺らめく。
贈り物の中で最も高額だったのは、この湯殿であろう。夫婦で湯に浸かるために、婚礼前に有り金をはたいて建て増したものだ。
贅沢な檜造りの湯船にはたっぷりの湯が張られている。その縁にもたれて、二人は抱き合っていた。
「今日も一日、御苦労であった」
旦那ぶって偉そうに言い、太一郎は妻の首筋を吸った。ちゅっ、ちゅうっと音を立てて唇を押し当てる。
「そんなところばかり吸わないでくださいまし……。恥ずかしゅうございます」
「おれの
耳元で囁くように言うと、美樹はぴくんと肩を動かして頬を染め上げた。そして夫の胸に顔を埋めてしまう。
御家人や裕福な商家の若い妻を〈御新造〉と呼ぶことがあるが、これは妻を迎える時に居所を新造したことからきている。美樹は押しも押されもせぬ太一郎の御新造様だ。
美樹は少しだけ顔をずらすと上目遣いに見つめてきた。潤んだ大きな瞳はどこか幼さを感じさせる。普段は勝ち気なくせに、腕の中では妙に初心になるところがまた可愛らしい。
長い赤毛が湯に浮かんで波打っている。それはまるで血を流したかのようで、ひどく淫靡な雰囲気を醸していた。
濡れそぼつ髪の隙間から覗くうなじに、太一郎は再び口づけをした。今度は強く吸って痕をつける。白い肌の上に赤い花弁のような鬱血ができた。
「あっ……だめです。お許し下さいませ。そこは人目についてしまいます……」
「見せつけてやればいいではないか。美樹が誰のものなのか知れば、他所の男どもも手出しなどできまいよ」
言いながら乳房へと手を這わせる。指先で乳首を摘まんで転がすと、美樹は切なげに身を捩らせた。
「ふぁんッ! ……あぅうっ♡ は、はいぃ……太一郎様のおっしゃるとおりにいたします……美樹は、太一郎様だけのものです……」
太一郎の掌の下で、胸の膨らみが柔らかく形を変える。ぐにゃりと歪む感触が心地よい。そのまま揉んでいると、美樹の息づかいがいやらしくなってきた。
「ああ……は、はやく太一郎様に抱かれたいです。美樹の中へ、太一郎様の子種をお恵みいただきとうございます……」
「そろそろ上がるか?」
「はい……」
こくりと肯いた妻を抱きかかえるようにして立ちあがる。ふわりとした浮遊感に身を震わせた美樹は、夫の首に両腕を巻きつけるとぎゅっと力を込めた。
湯船から出た太一郎は、美樹を脱衣場に運び、麻の浴衣を着せかけてやった。
その美樹を抱えあげると、既に怒張した己の分身で一気に貫いてやる。
「あんッ!! ……太一郎様ァ!!」
美樹は歓喜の声を上げると、夫の首にしがみついた。
「あァ、気持ち良いです……。太一郎様のが奥まで届いていて……」
美樹は夫のたくましい背中に爪を立てながら、涙声で言った。太一郎の身体からは、男の匂いが立ち昇っている。香油と汗と、それから雄々しい精臭だ。美樹は夫の首筋に鼻先を押しつけ、肺いっぱいに空気を取り込む。すうはあと呼吸するたびに、美樹の蜜壺がひくひくと締まる。
「美樹、まだ動いていないぞ」
太一郎は鼻息を荒くしながら声をかけた。妻の痴態にあてられて、すでに限界近くまできているのだ。
「だってぇ……太一郎様の匂いを嗅いだだけで感じてしまいました……あ、ああぁん!」
「まったく困った奴め」
湯殿の戸を開け、寝所に向かって歩き出す。一歩ごとに先端が最奥をこすりあげて、美樹は小刻みに震えていた。
「ふっ、ふうっ、ふぅうんっ♡」
寝室にたどり着く頃には、美樹はもうすっかり出来上がってしまっていた。敷かれっぱなしになっている布団の上に降ろしても、脚を絡ませてくるばかりで離れようとしない。
「太一郎さまぁ……」
甘えた声を出す唇は半開きになっていて、そこから真っ赤な舌が覗いている。
太一郎は物も言わずにのしかかり、妻を攻め立てた。既に太一郎もぐつぐつに煮えている。美樹の両足を大きく広げ、股間を押し付けるようにして腰を使う。
「あーッ! すごぉいっ♡ すごいぃいいい!」
太一郎の動きに合わせて、美樹は激しく乱れた。
「あっ、あっ、あっ! そこ、もっと突いて、おねがいぃっ!」
「ここか? このあたりが良いのか?」
「はいィっ……そこが、いちばんイイッ! 太一郎さまので、ぐりぐりされるの好きですぅっ……!」
既に射精感を堪えるのも難しい状態になっていた。美樹は夫の背に爪を立て、必死になってしがみついている。
「あァン、だめ、ダメです、もう逝きます、美樹、もう耐えられません……ッ!!」
「おれも、もう……ッ」
「出して下さいまし、太一郎様の子種……たくさん、注いでくださいませっ……!!」
「美樹……ッ!」
どくん、と脈打つ感覚があった。美樹の中で、陰茎が激しく痙攣している。
「あ、あ、あ……出てる、出てる……太一郎様の、子種が……んんっ♡♡♡♡♡」
美樹はぶるりと身を震わせると、その刺激でまた達してしまったようだった。
一滴残らず絞り出そうとでもいうように膣道が収縮を繰り返し、太一郎から最後のひと搾りまで吸い上げようとする。
「うお、おおおっ……」
獣のような声を上げながら、太一郎も射精の快感を味わう。
「抜かないでェ、このまま美樹の中にいて下さいまし……」
美樹の懇願に従い、太一郎はそのままの姿勢を維持した。結合部からは白濁液があふれ出してきて、内股に伝っていく。
やがて美樹は満足したようで、太一郎にしがみついていた両足を布団に降ろした。
「ありがとうございました……美樹、腰が抜けてしまいました……♡」
美樹はそう言って、汗まみれになった太一郎の頬を撫でてくれた。
「それは何よりだ。だが美樹、ひとつだけ問題がある。まだ出し足りない」
「あら……。では、こう致しましょう」
そう言うと、美樹は自分の脚を揃えてぴんと伸ばす。
「うおっ……」
そうすると、美樹の秘所が太一郎の男根をぐっと圧迫する形になった。
「いかがでしょう……ちゅ、ちゅっ♡」
美樹は太一郎の鼻先に口づけしながら言った。
「おお……これはなかなか……」
「ふふふ、気に入っていただけましたか? んっ、へむぅ♡」
美樹はさらに唇を重ねてきた。そのまま舌を差し入れてくる。
「んじゅ、れろぉ♡ れるれる……ぷはぁ♡」
しばらく美樹の好きなようにさせた後、太一郎の方からも攻め返すことにした。美樹の後頭部に手を当てて引き寄せると、今度はこちらから舌を絡めていく。
「ちゅっ、ぢゅぱっ、ちゅううっ……♡」
唾液を交換し合うような濃厚な口づけを交わしているうちに、二人ともすっかり出来上がってしまった。
固く結合したお互いの性器を、腰を左右に揺するようにして刺激する。
「はっ、ハッ……太一郎様、必ず無事に帰って来て……アッ、死んだらイヤ、怪我をするのもイヤ、家から出かけるのもイヤなの、ずっとここにいて欲しいのッ!」
美樹は泣きじゃくりながらも、なお太一郎との性交を続けた。
「ああ、美樹、愛しているぞ!」
「わたくしも、太一郎さまのこと、愛しております……ッ!」
二人は再び絶頂に達した。
「あーッ! あっあっあっ、いく、逝っちゃいますぅ♡」
「おれも、出すぞ……ウッ」
太一郎のたくましい筋肉が、妻の肢体を力強く押さえ込む。
「ああ────ーっ!!!」
「ぐおぉ……ッ」
美樹はひときわ高い声で喘ぎ、夫とともに果てた。どくんどくんと脈打つ陰茎から大量の精液が放たれ、美樹の中を満たしていく。
「はぁ、はぁ……必ず帰って来るよ、美樹」
「はい……太一郎様のお帰りをお待ちしていますね……」
その後、ふたりは身体を寄せ合いながら眠りについた。心音が一つに溶け合って行くようで、太一郎は美樹の、美樹は太一郎の夢を見た。
(続く)