クルッポー……クルッポー……
鳩の鳴き声がする。それに混じって波の音。僅かな揺れが体に伝わってくる。太一郎は目を覚ました。
「……あ……ああ……」
声が出ない。眩しい朝日を遮ろうと右手を掲げて、太一郎は愕然とした。まるで老爺のように痩せ衰え、しわくちゃになった腕がそこにあったのだ。
「うっ……」
体を改めると、どこもかしこも痩せて、骨が浮き出てしまっているのが分かった。筋肉はすっかり萎えてしまっていて、力を入れてもびくともしない。自慢だった胸筋や腹筋は見る影もなく、それどころか肋まで浮いてしまっている有様だった。
太一郎の口から嗚咽が漏れる。それは次第に大きくなり、慟哭へと変わっていった。太一郎にとって、鍛え抜いた肉体は誇りであった。父に恥じぬ武士でありたいと願い、武芸に打ち込んできた。だが、今の太一郎はどうだ。老人のように萎び細った腕を目の前にして、太一郎は打ち拉がれたのだった。
「うっ、うっ、うううっ……!」
涙が止まらない。かつて自分が持っていたものの喪失感は凄まじく、太一郎は絶望に身を苛まれた。
そこへ、扉が開く音と共に足音が聞こえてくる。何かを落としたのか、高い音が響く。
「……たいちろー? ……たいちろー……うそ、うそ、うそ、たいちろー……たいちろぉ……」
お英の声だった。涙交じりの声に太一郎は思わず身を固くするが、お英はそのまま彼に駆け寄り、ぎゅっと抱きついた。そして耳元で囁く。
「ああ、良かったっ……もう目が覚めないかって、おいら、おいら……」
お英の声は震えている。よく見れば、お英の目元にはうっすらと炎症の跡があった。きっと泣きはらしたのだろう。お英のこんな顔を見たのは初めてだ。
「お、お英ちゃん、俺は一体……?」
そう訊ねると、お英は涙を拭いながら答えた。
「あの戦いから、ひと月も経つんだよ。ずっと寝たきりで、このまま目を覚まさないんじゃないかって思ったんだ。そしたら、おいら、心配で、不安で、たまらなくなって……ごめんね、ちゃんと治してあげられなくて」
それを聞いて、太一郎は言葉を失った。それだけの間、自分は眠っていたのか。その間、彼女にどれだけ心労をかけたことだろう。
そう思うと、申し訳なく思うと同時に、彼女のことが愛おしくなった。
「いいんだ、そんなこと気にしなくたって。ありがとう、お英ちゃん」
そう言って頭を撫でると、彼女は嬉しそうに目を細めた。
少しやつれただろうか。目の下に隈ができているのを見て、太一郎は胸が痛んだ。彼女をこんなにも苦しめたのは誰だ。俺ではないか。自分の不甲斐なさに腹が立ったが、同時に愛おしさもこみ上げてきた。思わず抱きしめてしまう。
「た、たいちろー?」
戸惑うような声が聞こえたが、構わず抱きしめる腕に力を込める。彼女の体は柔らかく、温かかった。
そんなことを考えていると、再び扉が開いた。そこから、紳士服の男が姿を現す。
「どうも、出楠太一郎さん。まさか目を覚ますとは思いませんでしたよ」
男はにこやかにそう言ったが、その目は笑っていない。太一郎と抱き合うお英を見て、目の奥に暗い光が宿っているのが分かる。
「……どうも、クリストファーさん。貴方が、それがしを匿って下さったので」
太一郎の問いかけに、クリストファーは頷いた。あいも変わらず、見せかけの礼儀は弁えているようである。
「そうです。ですが、礼は娘に言ってやってください。エイミーがいなければ、あなたは死んでいたでしょう」
「左様で……」
エイミーとは、お英の本名である。その名を聞いた途端、太一郎の頭をひと月前の記憶が駆け巡った。
オーレンライト号の戦い。
〈黒いデウス〉の怪人、鬼一。
太一郎を仇と狙う、忠太郎の刃。
胸に突き立った刃の衝撃。
トリカブトの毒。
船上からの跳躍。
自分を救うため、クリストファーに跪くお英。
怒り。
「クリストファー、きさまっ……」
立ち上がろうとした太一郎は、がくんと寝台から落下した。
「たいちろー、だめ! まだ無理しちゃだめだよっ!」
お英の声が遠く聞こえる。それでも、太一郎は這ったまま進み続けた。
しかし、すぐにまた床の上に倒れ伏してしまう。力が入らないのだ。体が鉛のように重い。視界も霞んでいる。
そんな彼の肩を、クリストファーがそっと叩いた。
「エイミーが救った命です。大事にされるべきではありませんか」
見下したような物言いに、太一郎は怒りを込めて睨み返すことしかできない。そんな視線など意に介さず、彼は続けた。
「さて、私はこれからあなたの処遇についてお話しなければなりません。まずは謝罪させて下さい。あなたが眠っている間に勝手に決めてしまいました」
そう言って頭を下げるクリストファーに、お英がぴくりと反応した。
「あなたを助けたことは間違いではなかったと思っていますよ。ただ、私にも、娘にも都合がありましてね」
「お父さん、待って、まだ目を覚ましたばかりなの、もう少し時間を……」
「いいや、今でなければ駄目だ」
懇願するお英だったが、クリストファーは有無を言わさぬ口調でそれを拒絶した。そして、そのまま続ける。
「明日にはこの船を降りていただきます。理由は分かりますよね? もう貴方は必要ありませんから」
その言葉に衝撃を受けたのか、お英は目を見開いたまま固まってしまった。そんな彼女を他所に、クリストファーはさらに言葉を続ける。
「ご苦労様でした、隠密同心さん。あなたのおかげで、ある程度〈黒いデウス〉の尻尾は掴めました。あとは我々に任せて、どうぞ陸でゆっくりなさって下さい」
そこまで言うと、クリストファーはにっこりと微笑んだ。しかしその笑顔は、どこか歪んでいるように見える。
「い、いやだ……」
お英は声を絞り出した。その目には涙が浮かんでいる。クリストファーは聞かぬふりをして続けた。
「そうそう、貴方のおかげで、私は娘と和解することが出来ましたよ。感謝しています」
「あ、ち、違うの、たいちろー、おいらはなにも……何もっ……!」
お英の言葉にも耳を貸すことなく、クリストファーは深々とお辞儀をした。太一郎もまた顔を上げる。深々とお辞儀しながら、クリストファーは太一郎を見下していた。
「私としても、娘の将来を考えると、やはり結婚相手を見つけてやらねばと思っていまして。もう黒卍党も必要ありませんから、娘と合衆国に帰ることにしました」
「えっ……」
呆然とするお英に、クリストファーは優しく語りかけた。
「安心しなさい、エイミー。お前の幸せのためなら、何だってしてやるからね」
そう言うと、お英の髪を撫でた。その手つきは、まるで壊れ物を扱うかのように優しい。お英は、されるがままになっていた。
「では、さようなら。エイミー、後で私の部屋に来なさい」
そう言うと、クリストファーは踵を返して去っていった。後には、床に倒れたままの太一郎とお英だけが残される。
「ごめん……ごめんね、たいちろー……! こんなことになって……本当にごめんなさい……!」
お英はそう言って涙を流し始めた。ぽろぽろと大粒の雫が頬を伝う様は、まるで真珠のようだと太一郎は思った。無理が祟ったのか、太一郎は徐々に意識が遠のいていくのを感じた。
◆◆◆
「はい、あーんして、たいちろー」
そう言ってお英は匙を差し出した。口元に運ばれた粥からは湯気が立ち上り、出汁の香りが鼻腔を刺激する。匙を口に含むと、柔らかな米粒が舌の上でとろけて消えた。咀嚼すると、じんわりと旨味が広がっていく。
(美味い……)
お英が作ったのだろうか。寝台に上体を起こした太一郎が彼女を見ると、恥ずかしそうに目を逸らされた。
「お、お口に合いましたか……?」
おずおずと訊ねるお英に、太一郎は笑顔で答える。
「ああ、美味いよ。ありがとう、お英ちゃん」
「そ、そっか、良かったぁ……」
ほっと胸を撫で下ろすお英。その様子を見ていると、なんだか微笑ましくなってくる。自然と頬が緩んでしまうようだ。
日が最も高くなる時刻、太一郎は目覚めた。目覚めた時、お英は傍らに座っていた。彼女は涙を滲ませながら、何度も何度も謝った。自分が悪いのだと。自分のせいでこうなったのだと。太一郎は黙ってお英の頭を撫でた。それでようやく落ち着いたお英は、「お腹空いたでしょ?」と言って昼食を作ってきてくれたのだった。
クリストファーめ、という思いはあるが、今は体力を取り戻すことが先決だ。粥には鰹出汁が使われているらしく、非常に美味だった。するすると喉を通っていくので食べやすいのもいい。
「梅干もあるからね、たくさん食べて」
そう言われて差し出された茶碗の中には、白米と共に真っ赤な果肉が沈んでいた。しわの入った梅干しはいかにも酸味が強そうで、思わず顔をしかめてしまう。
「そんな顔しないでさ、ほら、騙されたと思って一口だけでもいいから」
そう言って笑うお英を見て、仕方がないかと口を開く。そこに匙で掬われた梅干しが押し込まれた。酸っぱい汁が口の中に広がるが、不思議と嫌な感じはしない。むしろ心地良さが勝っているように感じるくらいだ。もっと食べたいとさえ思う。
「気に入ってくれたみたいで嬉しいなぁ」
そう言ってお英も自らの口に匙を運ぶ。どうやら彼女も食べるつもりらしい。彼女が咀嚼するのをぼんやりと眺める。
こうして見ると、お英の唇はどこか官能的だ。ふっくらとした唇は桜色でつややかであり、ぷっくりと膨らんでいる。時折ちらりと覗く赤い舌が艶めかしい。
ふと視線を上げると目が合ってしまい、慌てて逸らしてしまった。顔が熱い。きっと真っ赤になっているのだろうと思うと気恥ずかしくなる。そんな様子を見ていたお英はくすくすと笑った後、再び粥をすくい上げた。
こんな時に、と思うが、股間に熱がこもり始めているのが分かる。思えば、このひと月というもの、自慰すらしていないはずだ。性欲は溜まる一方だろう。しかしまさかこんな状況で勃起しているなんて知られたら大変だ。なんとか隠そうと腰を引くのだが、その動きをどう勘違いしたのか、お英は心配そうに声をかけてきた。
「どうしたの? どこか痛むの?」
「ああ、いや……厠に行きたくてな。悪いが肩を貸してくれると……」
適当に誤魔化すと、お英は「分かった」と言いながら立ち上がった。そして、肩の代わりに尿瓶を差し出してきたのである。これにはさすがの太一郎も言葉を失った。
「え……な、なんで……」
震える声で問う太一郎を余所に、お英は布団をめくって尿瓶を太一郎の股ぐらにあてがった。そして、慣れた手付きで陰茎を取り出すと、尿瓶の中に導いていった。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ、お英ちゃ……」
太一郎は制止しようとするが、お英の手際の良さに圧倒されてしまい、まともに言葉が出てこない。その間にも、彼女の手は淀みなく動いていき、あっという間に放尿の準備が出来上がってしまった。
「ほら、しーしーして? たいちろーは、しーしーが上手にできる子だもんね」
そう言いながら、お英は下腹部を軽く押してきた。その刺激が引き金となり、尿道口から小便が迸る。
「あっ……ああっ……」
太一郎は羞恥に顔を赤らめ、俯いた。開放感と羞恥心がない交ぜになり、頭がくらくらした。
眠っている間、ずっとお英が面倒を見てくれていたのだとしたら、さぞ情けない姿を見せてしまっていたことだろう。そんなことを考えているうちに排尿は終わったようで、膀胱に残っていた分を全て出し終えた時にはすっかり脱力していた。
「いっぱい出たね、えらいよ、たいちろー。えらいえらい」
お英はまるで幼児を相手にするように褒め、最後の一滴まで搾り取るかのように膀胱を刺激してくる。排尿を終えた後もしばらく撫で回され続け、その快感から太一郎は腰を浮かせてしまっていた。
「……あ…………たいちろー」
立ち上がる気配を察したのか、お英は慌てて手を離した。だが、すでに手遅れであった。そそり立つ肉棒を前に、お英の顔はみるみる赤くなっていく。それは耳までも赤く染め上げており、今にも顔から火が出そうに見えた。
そんな初々しい反応を見せるお英を前にして、太一郎の欲望はますます高まっていく。血液が集まり、固く張り詰める感覚があった。弱った体には毒だが、あるいは弱っているからこそ、子孫を残さんと本能が働きかけているのかもしれない。
「お、お英ちゃん……」
熱に浮かされたような声で呼びかけると、お英はびくりと肩を震わせた。それから、おずおずと口を開いた。
「たいちろー……もう一月も出してないから……溜まってるよね……?」
上目遣いでこちらを窺うお英に対し、太一郎は無言で顔を背けた。まともに顔を見られる気がしなかったからだ。そのまま沈黙が流れることしばし、不意に男根を掴まれ、思わず声が出た。
「うっ……!」
「すごい……熱くて硬い……」
うっとりと呟くと、お英は亀頭を指先でなぞってきた。その感覚に背筋がぞくりと粟立ち、ますます硬度が増していく。それを目ざとく見つけたお英は、今度は竿を握り、上下に擦り始めた。
「しーしーの時と、全然違うね。ひくひくして、血管も浮き出てて……すごくいやらしいよ……」
そう言うと、お英は自分の手のひらに唾液を吐き出した。そしてそれを塗り広げるようにしながら、さらに強く握りしめて扱き始める。くちゅくちゅという卑猥な音が耳に届き、興奮を煽ってくる。
「そ、それ、ジェニファーが得意なやつだろ……どうして……」
お英はくすりと笑うと、手の動きを止めないまま答えた。
「そうだよ。おいら、ずっと、たいちろーとジェニーが抱き合ってるところを見てたんだ。いつか、自分もこんな風にしてもらえるんじゃないかって思いながら」
自分と女房の交わりを、お英が観察していたことに驚くと同時に興奮した。あの場を見られていたなんて──そう思うと余計に興奮する自分がいた。
「だから、こうやって触るのは初めてだけど、ちゃんとやり方は知ってるよ」
お英はそう言って得意げに微笑んだかと思うと、再び奉仕を再開した。唾液のおかげで摩擦はほとんどなくなり、滑りのよくなった手が巧みに動き回る度に、言いようのない快感が湧き上がってくる。
このままでは射精してしまうと思った太一郎は、慌てて声を上げた。
「もう十分だ! それ以上されたら出ちまう!」
お英は一瞬きょとんとしたが、柔らかく微笑んだ。緑の目と視線が合うとどきりとした。まるで吸い込まれてしまいそうなほど美しい瞳だった。その瞳には慈愛の色が浮かんでいるように思えた。
お英の手つきがいっそう激しくなる。陰茎全体を撫で回すような動きがたまらない快楽を生み出していた。
「……最後だから。最後だから、いいよ。おいら、たいちろーのためなら何でもするから」
お英の手が上下するたびに、先走りが溢れ出すのが分かった。お英は指先ですくうと、鈴口に塗り広げた。ぬらぬらと光る先端を撫で回されると、まるで舐められているような錯覚に陥る。
「んっ……はぁ……ふぅっ……」
我慢しようと思うのに声が漏れてしまう。お英は少し嬉しそうな顔をすると、手の動きを速めた。
「はぁ……はぁっ……」
息が荒くなる。お英の手は、鍛錬により皮が厚くなっているせいか、少しざらついているようだった。そのせいで擦られる度に強烈な快感が生まれ、頭の中が真っ白になるような錯覚に陥る。
気付けば、太一郎はお英の手に自分の手を重ねていた。まるで自慰をしているかのような格好だ。
お英は驚いた様子で顔を上げたが、すぐに笑顔になった。嬉しそうに目を細めるその姿はまるで幼子のような無邪気さを感じさせたが、その手は淫らに動き続けている。
「たいちろー、気持ちいい?」
「ああ……凄く……っ」
「そっか、良かった」
そう言って微笑むお英の表情は、慈愛に満ちているように見えた。そんな彼女に見つめられていると、まるで自分が小さな子供に戻ったような気分になってくる。太一郎の怒張は今やはち切れんばかりに膨れ上がり、天を突いている。
「かわいい声だね、たいちろー。……えい」
「うぁっ……! くっ……ふぅぅっ!」
敏感な箇所を攻められ、思わず声が漏れてしまう。するとお英は少し驚いたように目を見開いた後、悪戯っぽく笑った。
「へぇ、ここが弱いんだね」
そう言ってカリ首の辺りを執拗に攻め立ててくるものだから堪らない。歯を食い縛って耐えようとするのだが、そうすると余計に感覚が鋭敏になってしまう。その結果、快楽の波が何度も押し寄せてきて、その度に腰が浮いてしまうのだった。
「お英ちゃん、裏の筋も、擦ってくれねぇか」
「うん、いいよ。あ、ここ? ここがいいの?」
そう言うと、お英は太一郎の裏筋に指を這わせてきた。指の腹で擦るようにしながら少しずつ位置を下げていき、ついには付け根の辺りに辿り着く。そして、そこを揉むように押しながら、ゆっくりと手を滑らせていった。
「あぁ……いい……」
太一郎は熱い吐息を漏らした。彼女の手は温かく、優しく、心地よい刺激を与えてくれる。そうしてしばらくの間されるがままになっていると、やがて指先が陰嚢へと伸びた。ふにゅっとした柔らかい感触が伝わる。
「ここも触ってほしいの? 痛くない? 大丈夫?」
お英の言葉に頷くと、彼女はそっと揉みほぐすように触れてきた。それだけで痺れるような心地良さが走り、自然と声が漏れてしまう。
溜め込まれた淫汁が金玉から移動していくのが分かる。お英の顔が喜色に染まるのを見て取った太一郎は、無意識のうちに腰を揺らし始めていた。
お英の指が睾丸から離れる。彼女の視線は陰茎へと注がれていた。そこは既に大量の先走りによってぐしょ濡れになっており、亀頭から滴った透明な液体が布団にまで染みを作っていた。
「すごいね、こんなにたくさん出てるんだ。たいちろーの、いやらしい、匂い」
お英は鼻を動かしながら言った。それが妙に淫靡な仕草に見えて、鼓動が早くなるのを感じた。しかしそれも束の間のことで、次の瞬間には止めとばかり激しい愛撫が始まった。
亀頭全体を手のひら全体で包み込むようにして捏ね回される。その衝撃に身悶えしていると、今度は雁首を集中的に責められた。指先で円を描くようになぞられると、くすぐったいような感覚に襲われると同時に鋭い快感に襲われた。
「もう我慢しなくていいんだよ?たいちろー、白いしーしー出そうね。いっぱい出してね。ほら、ほらぁ、しーしー出して、いっぱい出しちゃえ」
お英はまるで幼児に言い聞かせるかのように優しい声音で言いながら、さらに責め立てる速度を上げていく。耳元で囁かれると同時に鈴口を爪で引っ掛かれ、ついに限界が訪れた。
「おっ、おっ、止まらねえ……!」
どぴゅっと勢いよく噴き出した精液は、お英の顔に降り注いだ。 黄色く濁った粘液が彼女の頰を伝い落ちる光景を見て、言いようのない背徳感が胸を満たした。律動が止まらない。次から次へと射精が続く。
「出して、出して……」
「うっ、ううっ……!」
長い時間をかけて、ようやく吐精が終わった。お英は頰についた液体を指で掬い取り、口に含んだ。
「これが、たいちろーの味……」
そう言って恍惚とした表情を浮かべる彼女に、劣情を催さずにはいられなかった。まだ足りない。もっとしたい。彼女を押し倒し、組み伏せて、めちゃくちゃにしたい──そんな欲求が頭をもたげる。
だが同時に、猛烈な疲労感に襲われて何もできなくなってしまった。頭がぼうっとする。意識が朦朧としてくる。
一方で、体の芯では欲望の炎が燃え盛っていた。それは今にも溢れ出さんばかりの勢いであり、自分でも制御できなかった。その時、お英が言った。
「ごめんね、たいちろー。おいらとは、これが最後。続きは、お雪としてあげて」
お雪。そうだ、お雪は一体どうなったのか……確か、自分たちと共にあの船に乗り込み、戦い、そして、そして────
「お雪ちゃんはどうなっ──」
そう口にした瞬間、太一郎は思い出した。お雪はあの時、撤退のために殿を務めていたのだということを。ならば──つまり───
呆然とする太一郎に向かって、お英は言った。
「そんな顔しないで。きっと大丈夫だから」
「……どういうことだ……?」
「心配いらないってことだよ」
そう言う彼女の顔は晴れやかだった。透明な水のように澄みきった眼差し。
「お雪が死ぬわけない。太一郎も目を覚ました。もう何も心配ない。おいら、心置きなくお別れできる」
お英は立ち上がると、そのまま部屋の出口へと向かった。太一郎はとっさに手を伸ばして彼女を呼び止めた。
「待て! 待ってくれお英ちゃん!」
しかしお英は振り返るとにっこりと笑い、首を振った。そしてもう一度だけこちらを見た後、静かに扉を閉めた。後には、一人残された太一郎の荒い呼吸音だけが響いていた。
(続く)